育成馬ブログ(日高④)

日高育成牧場よりセール直前注目馬の紹介~牡馬~

 

 まだ蕾のみられる日高育成牧場内の優駿さくらロード(西舎桜並木)の桜。開花はちょうどブリーズアップセールのころでしょうか。桜に負けじと育成馬たちもブリーズアップセールで競走馬としての花を咲かせるために日々調教に励んでいます。

 

今回は、ブリーズアップセールで注目の育成馬(牡馬)4頭をご紹いたします。

 

上場番号13 フェザーレイ2020(父 デクラレーションオブウォー)牡
 新種牡馬デクラレーションオブウォー産駒。3代母ダイナカールまでさかのぼれる活躍馬の多い血統。本馬に限らずデクラレーションオブウォー産駒は勝気な性格の馬が多い印象で、競馬での勝負強さにつながってくれれば面白いでしょう。本馬も前向きとハードワークにも十分耐えるしっかりした馬体を持ち合わせており、トレセンでの調教でどのように成長してくれるか楽しみです。

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写真:調教中のフェザーレイ2020

2022JRAブリーズアップセール #13 フェザーレイ2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

  

上場番号19 ボウルズ2020(父 サトノダイヤモンド)牡

 父は新種牡馬のサトノダイヤモンド。父譲りの均整の取れた伸びのある馬体からはスタミナもありそうな印象があります。調教も順調に消化しており、強い調教負荷をかけても息の入りもよく心肺能力は高そうです。馬体にはまだ成長の余地があることから、しっかり成長させれば活躍が期待できると思います。

 

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2022JRAブリーズアップセール #19 ボウルズ2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 
上場番号38 ワタシダイナマイト2020(父 カレンブラックヒル)牡

 母も祖母も短距離で活躍したスピード豊かな血統。カレンブラックヒル産駒も短距離を得意としている馬が多いようですが、本馬も後躯の筋肉が発達しておりスピードがありそうです。調教でも一瞬にして加速できる動きをみせており、仕上がりも早そうな印象なので早い時期から活躍できそうな馬です。

2022JRAブリーズアップセール #38 ワタシダイナマイト2020 調教及び常歩動画(2022年3月17日撮影)

 
上場番号61 ステージスクール2020(父 ビーチパトロール)牡

 新種牡馬ビーチパトロール産駒。自身もアメリカGⅠを3勝し主に中長距離で活躍しました。本馬も柔らかくバネのきいた動きをしており、騎乗者の乗り味の評価も上々です。調教も一番進んだ組で調整できており、落ち着きのあるいい動きを見せています。母系も筋が通っていることから活躍を期待しています。

2022JRAブリーズアップセール #61 ステージスクール2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 
 今シーズンの日高の育成馬は、坂路調教をメインにトレッドミルなど様々な運動処方を組み合わせて調整してきました。精神面と馬体の成長に気を使いながら、バランスの良い馬に仕上げられたと思っています。今回ご紹介した馬以外にも素質馬が多くいますので、今から競馬場でのデビューが楽しみです。

 

本年もブリーズアップセールに是非ご注目ください。

育成馬ブログ(日高③)

日高育成牧場よりセール直前注目馬の紹介 ~牝馬~

 

 4月に入り日高ではようやく雪解けの季節となりました。冬季に閉鎖されていた1600m馬場もようやく開場し、ブリーズアップセールに向けた調教も佳境を迎えています。この時期は調教だけでなく、インターネット上で公開する動画等の撮影やレポジトリー用のX線検査などセールに向けた準備も進めているところです。馬の下見に訪れる調教師や馬主関係者の数も増えてきており、セールが近づいていることで春を実感しています。

 

今回は、展示会の開催に先立ち、ブリーズアップセールで注目の育成馬(牝馬)5頭をご紹いたします。

 

上場番号7 レディバゴ2020(父 マクフィ)牝
 新規馬主限定セッション上場のJRAホームブレッド。これまでデビューした2頭の兄姉に比べ一回り大きなしっかりした馬体で、筋肉量も豊富。大きなトラブルもなく順調に調教を進められています。当歳より本会職員が入念に手をかけて育てたこともあり素直な性格で操縦性は高いです。

2022JRAブリーズアップセール #7 レディバゴ2020 調教及び常歩動画(2022年3月17日撮影)

 

上場番号11インヴィジブルワン2020(父 ルーラーシップ)牝
 父は芝・ダート問わず活躍馬を出しています。距離ももつ産駒も多い印象で、本馬もバランスの良い馬体と飛びが大きめの柔らかい動きをしていることからある程度の距離はこなしてくれるでしょう。調教も順調に消化しており、期待できる1頭です。
2022JRAブリーズアップセール #11 インヴィジブルワン2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 

上場番号12 テンダーエモーション2020(父 ドレフォン)牝
 本年のブリーズアップセールで唯一のドレフォン産駒。やや細身ながら均整のとれた馬体で軽やかな走行フォームがセンスの良さを感じます。坂路での乗り込みを続けることで日に日に力をつけてきており、スピード能力の片鱗を見せています。馬体の成長を期待するとともに将来楽しみな1頭です。

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2022JRAブリーズアップセール #12 テンダーエモーション2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

  

上場番号29 ラビアンローズ2020(父 デクラレーションオブウォー)牝
 期待の新種牡馬デクラレーションオブウォー産駒。近親にマイネルラヴの名前もあり、闘争心と感受性のある前向きな性格を持っています。坂路VTRでは追うことなく12秒台を出すなど早くもスピードも十分ありそうです。馴致開始当初は幼い性格も見受けられましたが、調教を積み重ねることで精神面でも成長してきています。早い時期からの活躍も期待できそうで、今から競馬場での走りが楽しみな1頭です。

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2022JRAブリーズアップセール #29 ラビアンローズ2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 

上場番号49 エーシンハーバー2020(父 レッドファルクス)牝
 父はスプリンターズSを連覇した新種牡馬レッドファルクス。母も芝の1400やマイルで5勝したスピードのある血統。入厩当初はやや華奢な馬体で繊細な一面も見せていましたが、スピード調教を開始してから筋肉も増えてきて成長が著しいです。普段は温和な性格ですが、調教では前進気勢に富んだピリッとした気性も持ち合わせており、両親の活躍した短距離で活躍してくれるものと期待しています。

2022JRAブリーズアップセール #49 エーシンハーバー2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 

 4月12日(火)には、セール関係者向けに日高育成牧場育成馬展示会を開催します。感染症対策を実施したうえで開催しますので、皆様ぜひお越しください。

 

次回は牡馬の注目馬をご紹介いたします。

育成馬ブログ(生産③)

子馬のロタウイルス感染症の予防について

 

 依然として寒い日々が続く北海道ですが、いよいよ繁殖シーズンが近づいてきました。JRA日高育成牧場でもそろそろ子馬が生まれる予定です。生産牧場の皆様も生まれた子馬を健康に育てるための準備を進めているところかと思います。今回は子馬に下痢症を引き起こすロタウイルスについて、ワクチン接種の重要性や最新動向についてご紹介していきたいと思います。

 

子馬の下痢の主原因
 ロタウイルスは、レオウイルス科に属する二本鎖RNAウイルスです。ヒトを含む多くの動物に感染することが知られており、幼い個体に対して下痢症を引き起こします。ウマにおいては、6か月齢未満の子馬に下痢症を引き起こす病気として知られ(写真1)、日本における子馬の下痢症の約30%がロタウイルスによるものであったという調査結果もあります(Imagawa, 1991)。海外においても、下痢症に占めるロタウイルス感染症の割合は20~77%という報告もあり(Miño, 2017)、世界各国で依然として問題となっている感染症です。発症馬の糞便に含まれるウイルスから容易に感染が広がることから、ロタウイルスを発症させない予防措置を講じることが何よりも重要となります。予防措置として、厩舎内への消毒槽の設置が挙げられますが、軽種馬産業で一般的に使われている逆性石鹸消毒薬(パコマやアストップなど)は効果がない点に注意が必要です。そのため、塩素系消毒薬(アンテックビルコンなど)を使用することが推奨されますが、これらの消毒薬は糞尿などの有機物の混入でも効果が低下しますので、頻繁に交換することが重要となります。

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写真1 ロタウイルス感染症による下痢を発症した子馬

 

妊娠馬に接種するタイプのワクチン
 消毒槽の設置以外の予防措置としては、ワクチン接種が挙げられます(写真2)。ワクチン接種とはある病気に対する抵抗性を獲得するために、その病気の原因となる細菌やウイルスを接種することとして皆様もご存じかと思います。ロタウイルスワクチンが一般的なワクチンと異なる点は、病気を防ぎたい子馬ではなく妊娠馬に接種するということにあります。これは子馬がロタウイルスによる下痢症を発症する時期には、子馬自身が抗体を産生する能力が低いため、母馬に抗体を産生してもらうことを目的に行っています。その結果、母馬が産生した抗体が初乳を通じて子馬に移行し、子馬をロタウイルスの感染から守ることとなります。接種時期は分娩予定日の2か月前に基礎接種(1本目)を、1か月前に補強接種(2本目)を行うと十分な量の抗体が初乳中に産生されると言われています。JRA日高育成牧場では、ロタウイルスワクチンに加えて、馬インフルエンザワクチンと破傷風ワクチンも1か月前に接種することも合わせて行っています。

  

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写真2 ロタウイルスワクチン

  

 ワクチン接種を受けていない妊娠馬から生まれた子馬がロタウイルスに曝露された場合、生後数日の内に症状が出ます。感染した子馬は哺乳をしなくなり、疝痛症状を示したり水様性の激しい下痢を呈したりし、最悪のケースでは死に至ります。一方、ワクチン接種を受けた妊娠馬から生まれた子馬では、母馬からの移行抗体が減少する2~3か月齢の段階で軽度の下痢を示すこともありますが、適切な治療を行うことで回復すると言われています。このように、ワクチン接種によってロタウイルスの感染を完全に防ぐことはできませんが、下痢の期間を短縮したり症状を緩和したりする効果は期待できます。

 

ロタウイルスの最新動向
 現在日本で使用しているロタウイルスワクチンは、A群ロタウイルスのG3P[12]という遺伝子型のウイルス株が使われています。日本を含む世界中で流行しているウイルス株はG3P[12]に加え、G14P[12]というウイルス株もあります。日本におけるロタウイルス感染症と診断された子馬から検出されたウイルス株は、G3P[12]とG14P[12]が交互に流行することが報告されています(Nemoto, 2021)。そのため、今後はG3P[12]に加え、G14P[12]も含むワクチンの開発が待たれます。しかしながら、日本で使用しているワクチンもG14P[12]に対して部分的には効果があることが知られていますので(Nemoto, 2012)、現行のワクチンを接種することは依然として有用であると考えられます。

 世界中で流行しているロタウイルスはA群に属するものですが、2021年にアメリカのケンタッキー州で流行したロタウイルスからはB群ロタウイルスが検出されました(Uprety, 2021)。このB群ロタウイルスは、ヤギやウシに感染するB群ロタウイルス由来と考えられています。また、日本で流行しているロタウイルスはG3の中でもG3Bというウイルス株でしたが、2016年に突如としてG3Aというウイルス株が検出されました。このウイルス株は2017年にアメリカで検出されたウイルス株と非常によく似ていたことから、アメリカから伝播してきたものだと考えられます(Nemoto, 2019)。このように、世界中で新しいウイルス株が出現しており、いつ日本に侵入して流行するか分からない状況です。ワクチン開発には時間を要することを考えると、厩舎内の消毒や子馬の適切な飼養管理の徹底によりロタウイルス感染症を予防していくことが非常に重要と考えられます。下記に示す参考資料を参照して、ロタウイルス感染症の予防に努めていただければ幸いです。

 

参考資料

 
育成馬日誌
気をつけなければならない子馬の病気~ロタウイルスによる下痢症について~(生産)

 

馬学講座ホースアカデミー6
8.子馬の下痢症 ウマロタウイルス病

育成馬ブログ(日高②)

新年の育成牧場

 

○ 休み明けの調教に注意

 
日高育成牧場のスタッフも新しい気持ちで新年を迎えることができましたが、牧場関係者にとってこの時期は育成馬の調教や繁殖牝馬の出産準備といったことに気が抜けない時期でもあります。どの牧場もそうですが、生き物を飼養していることからゆっくりお正月というわけにはいきません。日高育成牧場でも、年末年始はシフトを組んで馬の健康チェックや手入れ、ウォーキングマシンによる運動、パドック放牧に伴う集放牧、馬房清掃といった管理を行いました。歩様が乱れた馬や治療が必要な馬にとっては、調教にスムーズに合流するための馬体のケア期間でもありました。
大みそかも元日も当番業務を行ってくれたスタッフにとっては、いつもと変わらない休日だったかもしれませんが、育成馬たちは「2歳馬」となり少しずつ競走馬になる日が近づいてきています。
 

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写真1)パドックで砂浴びならぬ「雪浴び」をする育成馬

 

ひとつ大人になったはずの育成馬たちですが、休み明けの調教には注意が必要です。休日にウォーキングマシンによる運動や放牧による精神的なリフレッシュを行っていても、馬の走りたい気持ちと体力が有り余っていることから、休み明けの騎乗には気を使います。騎乗者も普段以上に馬の反応に注意を払わなければならないため、新年最初の騎乗は正月気分どころではありません。

年始の北海道各地では除雪が追い付かないほどの積雪があり、交通機関の大きな乱れや一部では停電もあったようです。日高育成牧場のある浦河周辺でもマイナス10度くらいまで気温が下がりましたが、幸いにも積雪は例年より少し多い程度で、年始の調教スケジュールに大きな影響はありませんでした。
一般的に馬は寒さに強いといわれておりますが、極度に寒い環境での調教は下気道など馬体への影響が気になります。しかし、現実的には騎乗者ほうが先に寒さに堪えられなくなるようで、この季節は騎乗者の意見も聞きながら、人は防寒対策を万全に、馬はウォーミングアップをしっかり行ってから調教をするように心がけています。

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写真2)冬の調教は寒さとの戦いでもあります

 

○ 騎馬参拝で安全祈願

 
日高育成牧場では近くの神社に乗馬で参拝する行事「騎馬参拝」に参加しています。毎年1月2日に行われるこの参拝は、10数頭の馬がJRA日高育成牧場を出発して約1時間かけて西舎神社に参拝し、人馬の無病息災を願う地域の恒例行事です。本年は、当場で乗馬指導を受けている日本ハムファイターズのマスコットB☆Bも参加してくれました。
人馬の無事とコロナの収束も祈願してきましたので、育成馬たちのこれからの調教も無事に進んでいってくれることでしょう。

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写真3) 浦河恒例の騎馬参拝

育成馬ブログ(生産②)

牧草分析と結果の活用について(生産②)

 

収穫した乾草を毎年分析
 JRA日高育成牧場のある浦河町でもそろそろ放牧地が雪で覆われる季節が近づいてきました。放牧地の牧草を食べることのできない間は、良質な乾草を給与することが重要となります。本場でも本年収穫した乾草が倉庫内に積みあがっており、厳冬期で使用するための準備が整っています(写真1)。

 

Photo_3写真1 JRA日高育成牧場で本年収穫された乾草

 

 多くの生産者の方が良質な乾草を給与することを望んでいると思います。乾草の見た目でその質をある程度は判断できますが、正確な評価をするためには牧草分析を行うことが推奨されます。表1はアメリカ産輸入乾草および日胆産乾草の主な栄養価を示しています。これらの値が乾草の質を判断する1つの目安になるかと思います。今回は日高育成牧場のデータを参考に、成分分析値の読み取り方をご紹介いたします。タンパク質含有率を例に取ると、日胆産乾草は9.6%、アメリカ産チモシー乾草(1番)は10.3%、アメリカ産チモシー乾草(2番)は12.8%という結果でした。JRA日高育成牧場で2018~2020年に収穫した乾草(33点)の平均値は11.9%(±3.3%)であり、一般的な目標値である9.0%を超えていました。これらの結果から、タンパク質に関しては概ね平均的以上の質の乾草を収穫できていることになります。

 

表1 アメリカ産輸入乾草および日胆産乾草の主な栄養価

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「愛馬のカイバあれこれ(JRAF発行)」を改変

 

繊維(NDFとADF)の評価
 草食動物である馬にとって繊維は非常に重要です。これまでは粗繊維含有率として繊維全体の値が評価に使われてきましたが、近年ではNDFとADFの値を使って評価されます。NDFは中性デタージェント繊維の略で、細胞壁を構成する物質のうち、ヘミセルロース、セルロース、リグニンなどを含みます。また、ADFは酸性デタージェント繊維の略で、NDFからヘミセルロースの値を引いたものです(図1)。リグニンは不消化成分ですが、ヘミセルロースは50%程度、セルロースは40%程度が馬の大腸の微生物によって消化されて、エネルギーとして使用されます。以上のことから、NDFやADFの値が乾草の品質評価に使用できます。

 

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図1 植物細胞に含まれる各構成物
「愛馬のカイバあれこれ(JRAF発行)」を改変


 一般的に、NDFについては、40~50%で良質とされ、65%以上となると嗜好性や採食量が低下し、疝痛リスクが高まると言われています。ADFは30~35%であれば良質と判断され、消化や栄養素利用率が良好です。ADFが45%以上となると、総合的に栄養価が低いと言われますが、このような値になる乾草はほとんどありません。
 図2は先ほどタンパク質含有率でも使用したJRA日高育成牧場で収穫された乾草のNDFおよびADF含有率を散布図で示したものです。良質とされるNDF:40~50%、ADF:30~35%を両方とも満たした乾草は1つもありませんでしたが、ADFが30~35%となる乾草は10サンプル(全体の30.1%)あり、本場で収穫された乾草の中ではこれらのものが良質であると考えられます。

 

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図2 JRA日高育成牧場で収穫された乾草のNDFおよびADF含有率

  

NDFに注目すると、65%以上となる乾草は16サンプル(全体の48.5%)ありました。一般的に、NDFやADF含有率が高くなる原因は、収穫時期が遅れた結果と考えられます。表2は、2020年に収穫された乾草のNDFおよびADF含有率と収穫日の関係を示しており、この結果から天候などの理由により収穫が遅れた乾草のNDFおよびADF含有率が高くなっていることがお分かりいただけると思います。一方で、2番草であっても、適切な時期に収穫を行えばそれなりの乾草を得られることも分かります。以上のことから、これまで多くの文献でも指摘されてきた通り、できる限り開花期前の出穂期に刈り取ることが重要だと考えられます。

 

表2 NDFおよびADF含有率と収穫日の関係

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カルシウムとリンの評価

 
 カルシウムとリンは骨を構成する主成分であり、その比率のアンバランスは骨疾患の発症要因となります。飼料中の適正なカルシウムとリンの比率は1.5~2.0:1と言われています。図3はJRA日高育成牧場で収穫された乾草のカルシウムおよびリン含有率を、散布図で示しています。適正なカルシウム・リン比率の乾草は10サンプル(全体の30.3%)であり、比率が1.5より低いサンプルの方が多いという結果でした。一般的に、チモシー乾草に含まれるカルシウムとリンの変動は大きいと言われており、表1に示したアメリカ産輸入チモシー乾草についても、比率が1.5を下回るものが全体の37.5%、1.0を下回るものが全体の7%含まれていたことが報告されています。一般に濃厚飼料はCa/Pが低いため、状況に応じて、カルシウム含有率の高いアルファルファ乾草やカルシウムを含むサプリメントの使用を検討する必要があると考えられます。

 

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図3 JRA日高育成牧場で収穫された乾草のカルシウムおよびリン含有率

 

終わりに

 
 適切な飼養管理を行うためには、今回ご紹介したように牧草分析を行って、科学的に乾草の質を評価することが推奨されます。その結果を元にして、より良い牧草を収穫するための対策を考える必要があります。例えば、採草地に明らかに雑草が増え、牧草分析の結果からも質が低下していることが示唆される場合には、草地更新を検討する必要があるかもしれません。また、牧草分析と一緒に土壌分析も行い、土壌の状態を正確に把握して適切な施肥管理を行うことで、牧草の質の改善にも繋がります。牧草分析の結果を適切な飼養管理に繋げていただければ幸いです。


参考資料
サラブレッドのための草地管理ガイドブック(公益社団法人 日本軽種馬協会)
https://jbba.jp/data/booklet/guide/pdf/THOROUGHBRED_guide_all.pdf

愛馬のカイバあれこれ(JRAファシリティーズ株式会社)
※一部を下記サイトで確認できます
愛馬のためのカイバ道場 | JRAファシリティーズ株式会社 (jra-f.co.jp)

育成馬ブログ(日高①)

1歳馬と当歳馬、それぞれの移動

 ○ 1歳馬の入厩

 
今年もセプテンバーセール(9/21~22開催)でJRA育成馬の1歳市場での購買も終了し、日高育成牧場への育成馬の入厩も完了しました。

今年も各市場の取引成績は好調で、JRA育成馬の主要な購買市場であるサマーセール(8/23~27開催)では売却率は2年連続75%を超え、平均価格も2年連続700万円に迫っており(昨年693万円、本年688万円)、生産者や販売者にとって良い流れが続いています。さらにセプテンバーセールも高い売却率を維持しており、関係者からはコロナ禍でも競馬開催を継続できていることへの感謝の声も多く聞かれ、改めて競馬開催の重要性を認識させられたセリでもありました。
購買する立場としては、狙った馬が思うようにセリ落とせず苦労しましたが、本年も予算の範囲内で良質な馬74頭(九州1頭、八戸4頭、セレクション12頭、サマー47頭、セプテンバー10頭)を購買することができました。

サマーセールから数日後の9月1日には、サマーセールで購買した育成馬54頭のうち45頭が日高育成牧場に入厩してきました(9頭は宮崎育成牧場に入厩)。

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写真1) 装蹄師による入厩時の肢蹄検査

 

例年と同じく、飼養者の方々に当場まで輸送していただきましたが、一日に多頭数の馬を迎え入れることから混雑しないように牡牝の入厩時間を分けて行いました。入厩時には獣医師・装蹄師による馬体検査や体重測定を行い、飼養管理方針の確認を行いました。また、多様な飼養者のもとから移動してくることから、病歴やウォーキングマシンの使用歴、駆虫・ワクチン接種歴、放牧の方法などこれまでの飼養情報を入手しておくことで、環境変化時のトラブルに対応するようにしています。入厩してきた馬たちがこれから始まるトレーニングでどのように成長するのか、今から楽しみです。

 

○ 当歳馬の移動

 
移動したのは1歳馬ばかりではありません。8月下旬に離乳を終えたばかりの当歳馬(JRAホームブレッド)も、昼夜放牧を行うためさらに広い放牧地への移動を行いました。
日高育成牧場内の移動ではあるものの5㎞ほど離れた分場への移動ですので、馬運車を使っての移動です。短い距離ではありますが、生まれて初めての馬運車。当歳馬の小さなお尻が並んでいる姿はかわいらしいですが、昼夜放牧で逞しく成長してくれることを期待しています。

Photo_5写真2) 初めての馬運車

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写真3) 昼夜放牧中の当歳馬

育成馬ブログ(生産①)

JRAホームブレッドの生産履歴

 

○通算100頭目のJRAホームブレッド

 秋になり本年生まれた当歳馬たちも離乳の時期が近づいてきました。JRA日高育成牧場で生まれた100頭目のホームブレッドとなるユッコ2021(父:クリエイターⅡ)も、離乳に備えているところです(写真1)。今回はこれまで生産してきたJRAホームブレッドの生産履歴について、振り返ってみたいと思います。

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写真1 100頭目のJRAホームブレッドとなるユッコ2021(父:クリエイターⅡ)

 

○受胎から出産までの損耗率

 2009年から生産を始めたJRAホームブレッドが通算で100頭となったわけですが、受胎した馬がすべて無事に生まれてくるわけではありません。表1は、2009年から2021年までの13世代で受胎した111頭の中で、出産までに胎子が失われた件数を示しています。早期胚死滅や流産などが発生し、損耗率は9.9%でした。受胎馬の損耗率は13.8%【イギリス】(Rose, 2018)、14.7%【日高地方】(Miyakoshi, 2012)などの報告があることから、JRAホームブレッドの生産では損耗率を抑える管理ができているものと考えられます。損耗の原因の中で、その半数近くが胎齢約40日以内の喪失として定義される早期胚死滅が占めていました。胎子の喪失の中で、胎齢39日までの発生が55%、胎齢49日までの発生が75%を占めるという報告もあります(Bain, 1969)。これらの事実からも、早期胚死滅を防ぐ管理を行っていくことが、損耗率を低下させるためには非常に重要であることが示唆されます。早期胚死滅の発生率は加齢と共に上昇することが知られています(Miyakoshi, 2012)。このことから、繁殖成績(産駒の競走成績)の芳しくない高齢の繁殖牝馬は、更新することを検討すべきかもしれません。

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表1 JRAホームブレッドの受胎から出産までの損耗率
(2009~2021年生まれの13世代)
  

○子馬の性別、出生時体重、妊娠期間

 表2は子馬の性別、出生時体重、妊娠期間についてまとめたものを示しています。牡とめすの比率は、遺伝法則に従ってほぼ半分半分という結果になっています。年によっては片方の性別に偏り、離乳後の集団管理に支障が生じることもありましたが、長期的には比率が収束していくようです。子馬の出生時平均体重は53.2±6.7 kgでした。最大は66 kg、最小は29 kgとなっています。最小体重で生まれた子馬は、母馬が慢性的な蹄葉炎を患っていたために虚弱状態で生まれました。乳母により育てられることになりましたが、最終的には競走馬になっています。

 平均妊娠期間は341.6±8.8日であり、最大363日、最小318日でした。いろいろな文献によって値が多少変わりますが、320~360日の間が正常の妊娠期間と考えられています。教科書では305日未満に生まれた子馬は生存できない状態であると言われており、320日未満に生まれたものは未熟な状態として定義されています。320日未満で生まれた馬は1頭いましたが、出生時の状態に問題なく、最終的に競走馬となりました。一方、360日を超えて生まれた馬も1頭でした。牛では妊娠期間が長くなると胎子が巨大化して難産の発生率が高まることが知られていますが、馬においては問題ないと言われています。363日の妊娠期間であったこの馬は、初子であったこともあり、出生時体重が43 kgでした。妊娠期間を決めるのは胎子の成熟度であると考えられており、当然個体差があります。分娩予定日は排卵日から340日後として設定されることが多く、その日から大きく外れると不安になることと思いますが、妊娠期間よりも出生後の子馬の状態を見極めることの方が重要であると考えられます。

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表2 子馬の性別、出生時体重、妊娠期間

 

 ○受胎からBU上場までの損耗率

 前述のように、受胎から出産までに約1割が損耗しますが、生まれてからも競走馬になれない馬が残念ながらいます。現在までのところ、2019年生まれの馬までがブリーズアップセール(BU)に上場されて売却されています。表3は受胎からBU上場までの間の損耗率を示しています。胎子喪失に加え、当歳時に死亡してしまったり、育成期の病気や怪我によりBUセールを欠場してしまったりした結果、損耗率は30%となっています。

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表3 JRAホームブレッドの受胎からBU上場までの損耗率
(2009~2019年生まれの11世代)
  

 出生からBU上場までをみてみると、82頭生まれた中でBU上場まで至った馬は63頭ですが、欠場馬の中で5頭が二次売却を経て競走馬となり、合計68頭が競走馬となりました。つまり、約8割が競走馬となったことになります。2020軽種馬統計によると、2017年に日本国内で生産されたサラブレッドは7,083頭であり、競馬に出走した頭数は6,432頭でした。日本国内全体で生まれてから競走馬となる馬の割合は約9割となります。このように、出生した馬の中で1~2割の馬が競走馬になれないことになります。せっかく生まれた馬が競走馬になれない時には、非常に悔しい思いをしますが、多くの生産牧場の方々が同じ思いを抱いている現状があるようです。

 

○ヨシオ号がアイドルホースオーディションで第1位

 これまでの100頭の中で、最も獲得賞金が多いJRAホームブレッドはヨシオ号(2013年生まれ、父:ヨハネスブルグ、母フローラルホーム)となります。同馬は、2020年にオープン特別のジャニュアリーSを勝利し、現在までのところ1億5000万円以上の賞金を獲得しています。先日、JRA京都競馬場が実施した、アイドルホースオーディションでは、見事に第1位となりました(詳細はこちら)。応援していただいている多くの皆様に感謝申し上げます。

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写真2 ヨシオ号の軌跡

  

このように現在は立派な競走馬となったヨシオ号ですが、出産直後の母馬が「母乳分泌不足」となったため、乳母に育てられた過去があります。これは、母馬が初産であったため乳房が上手く発達せず、子馬を育てるのに十分な母乳が作れなかったことによるものです。ホルモン剤処置を受けた乳母の協力を得て育ったヨシオ号が、これほどまでの活躍をしたことには、感慨深いものがあります。詳細はこちらの記事()でご確認ください。今後も多くの皆様に応援していただけるような馬を生産していきたいと思います。

育成馬ブログ(2020年 生産⑤)

子馬を帯同しない種付けの影響

 

子馬を帯同しない種付けとは?
 JRA日高育成牧場では、子馬のいる繁殖牝馬に種付けする際に、子馬を種馬場まで連れて行かない形で種付けを実施しています。方法はいたってシンプルで、子馬を馬房に残すだけです。突然母馬がいなくなった子馬は、馬房内で寂しくて鳴いたり、不安から飛び跳ねたりすることもあるため、馬房の扉や裏戸をしっかりと閉めることや飼い桶や水桶などの突起物を取り外すことなどを確実に実施し、子馬が怪我をしない状況を整えることが重要となります(動画1)。

https://youtu.be/AQ9Twcc2Phk
動画1 種付けの際に馬房に残され子馬の様子

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 また、種付けから帰ってきた際にも、注意が必要です。種付けを終えて帰ってきた繁殖牝馬は興奮しており、哺乳にきた子馬を蹴って怪我をさせてしまう可能性があります(動画2)。それを防ぐために、馬房に戻ってきた繁殖牝馬と子馬をしっかりと向い合せ、慣れるまで待つことが重要となります。その後、繁殖牝馬を保持した状態で、子馬が問題なく哺乳したことを確認してから、繁殖牝馬を馬房に離します。このように、いくつかの点に注意を払えば、安全に実施することができます。JRA日高育成牧場では、種付けに出発してから帰ってくるまでの時間は約5時間ですが、これまで大きな事故が発生したことはありません。

https://youtu.be/83CbxSOF_GA
動画2 子馬を蹴ろうとする母馬

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 この方法の利点について考えてみると、馬運車に慣れていない子馬が暴れて、馬運車内で怪我をしてしまうことが防げます。また、母馬が種付けに行く時期の子馬はまだ免疫機能が低く、牧場外の環境に触れることで何かしらの疾病にかかる危険性がありますが、牧場に残しておくことでそのリスクをなくすことができます。さらに、副次的なメリットとして、輸送時に子馬を保定する人員を減らすことにもなります。

 一方で、一時的とはいえ、親子を引き離すことになりますので、親子双方にストレスがかかることが問題点としてあげられます。その結果として、子馬の健康状態や成長に悪影響を与える可能性も考えられます。また、先ほど述べたように馬房内の安全確保に努めたとしても、子馬が怪我をしないようにしっかりと監視する必要があります。(図1)。

 

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図1 子馬を帯同しない種付けの利点と問題点

 

子馬を帯同しない種付けの影響
 先ほど説明した問題点について、どの程度の影響があるのかを検討した結果がありますので、ここでご紹介したいと思います。まず、種付け時のストレスについて、血液中のコルチゾール値を指標として検討したところ、馬房に残された子馬が大きなストレスを感じていることが明らかとなっています。しかしながら、そのストレスは一過性のものであり、母馬が牧場に戻ってきて親子が再会した時点では、正常値に戻っていました。つまり、一時的には大きなストレスを感じるものの、その精神面への影響は長くは続かないものと考えられます。

 子馬の健康や成長といった身体的な影響については、子馬を帯同しない種付けをした群(5組)と種付けをしなかった群(母馬と離れた経験のない群)(4組)に分けて、比較・検討を行いました。それぞれの子馬で体重には個体差がありますので、各馬の1日あたりの増体重量を出生30日後から30日ごとに調べ、各群の平均を比較しています(図2)。もしも、身体面への影響があるとすれば、母馬が種付けを実施したあとの出生60日後以降において、増体量に差が出てくるはずですが、両群間に有意な差は認められませんでした。つまり、子馬を帯同しない種付けを行っても、その後の子馬の成長に大きな影響は認められないと考えられます。

 

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図2 子馬の1日あたりの増体重の比較

 

 以上のように、子馬を帯同しない種付けには、種付けに行く人員を削減できたり、子馬の感染症予防になったりといった、利点があることを説明してきました。さらに、問題点として懸念される、子馬の健康や成長に対する影響も、長期的には大きなものではないことも示唆されました。しかしながら、今回の記事は子馬を帯同する種付け自体を否定するものではありません。生産者の中には、いつでも親子が一緒にいた方が安心できると考える方もいるかと思います。

 

 アメリカのケンタッキーでは、種付けに行く時には子馬を帯同しない形が一般的です。さらに、輸送自体も輸送専門の業者が行い、牧場関係者すら帯同しない場合も多くあります。これは、生産牧場と種馬場が概ね1時間程度の圏内にあることが要因と考えられます。ヨーロッパのアイルランドでは子馬を帯同する種付けが一般的で、輸送も繁殖牝馬が繋養されている牧場のスタッフが行います。このように、牧場の考え次第で対応が異なるものであると考えられ、帯同するかしないかの正解はないと考えられます。今回の記事で興味を持った方が子馬を帯同しない種付けを検討していただければ幸いです。

育成馬ブログ(2020年 日高③-2)

JRA育成馬の近況 その2


今回の育成馬日誌では、現時点での坂路調教で目を引く動きをしている育成馬を紹介したいと思います。

【動画】
https://youtu.be/p31FhsAHRwI
(左)スノーボードロマン2019、(右)ジュエルメッセージ2019

スノーボードロマン2019 めす 父クリエイター 生産:JRA日高育成牧場(浦河)
JRAホームブレッド。兄2頭はいずれも2歳戦で勝ち上がり、1つ上の姉フレンドロマンも2歳9月の未勝利戦でクビ差2着と堅実で早仕上がりの血統。父がクリエイターで母系のスピードに持続力が加わった印象。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F41.3-26.0-13.4 乳酸値15.9mmol/L

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ジュエルメッセージ2019 めす 父ザファクター 生産:三石橋本牧場(三石)
父は新種牡馬ザファクター、2代母レディサファイアはロードカナロアの半姉。前進気勢が強く、坂路ではあえてウッドチップが深く負荷がかかる外側(動画では右側)を走行させることで、運動強度をコントロール。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F40.4-25.8-13.3 乳酸値15.7mmol/L

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【動画】
https://youtu.be/sugwHiPZ-Z8
(左)エポカブラヴァ2019、(右)マイネアンティーク2019

エポカブラヴァ2019 めす 父ザファクター 生産:谷川牧場(浦河)
父は新種牡馬ザファクター、半兄レッドゲルニカはバレンタインS(OPダ1400m)含め6勝を上げる。筋肉量が多くしっかりした馬体。普段は大人しいが、坂路では抑えきれないほどのスピードで駆け上がってくる。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F44.3-28.9-14.0 乳酸値15.2mmol/L

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マイネアンティーク2019 めす 父ロードカナロア 生産:今牧場(静内)
父ロードカナロア、母父サクラバクシンオー。全兄サンキューユウガは芝1200mで2勝を上げる快速馬。父系、母系いずれもスピードに優れている血統構成で、坂路での動きも上々。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F44.2-28.6-13.9 乳酸値14.9mmol/L

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【動画】
https://youtu.be/v4z2IEtolr4
レッドサーガ2019

レッドサーガ2019 牡 父プリサイスエンド 生産:大北牧場(荻伏)
父プリサイスエンド、母は芝1200mで、半兄レイデマーはダート1200mでそれぞれ勝っており、近親には熊本産の星ヨカヨカがいるスピード豊かな牝系。前進気勢が強く、他馬と併せるとヒートアップし易いため、坂路ではウッドチップが深く負荷がかかる外側(動画では右側)での単走で運動強度をコントロール。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F44.7-29.3-14.7 乳酸値13.5mmol/L

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【動画】
https://youtu.be/oglpHa4uf9Q
(左)ホクセツダンス2019、(右)ニシノツインクル2019

ホクセツダンス2019 牡 父ルーラーシップ 生産:日高大洋牧場(門別)
母はダート短距離を中心に6勝を上げてオープンまで上り詰める。母系を遡ると日本競馬の礎を築いた名牝シラオキに辿り着く。歩様に多少の緩さがあるため1月のこの時期にスピードが出るか半信半疑だったが、坂路では上がり3F40秒を楽に切ってきて、不安を完全に払拭してくれた。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F39.5-26.1-13.5 乳酸値18.6mmol/L

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ニシノツインクル2019 牡 父ストロングリターン 生産:松本牧場(三石)
母と半兄ニシノコデマリはいずれも芝1200mで2勝を上げているスピードが勝った血統。本馬は父よりも母父ヨハネスブルグが出た馬体と気性を持っており、早い時期からの活躍が期待できる。
1月19日坂路コースの上がりタイム:3F39.8-26.2-13.6 乳酸値18.1mmol/L

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これら以外にも、まだまだ期待が大きい育成馬が多数いますので、ブリーズアップセールを是非楽しみにお待ちください!

育成馬ブログ(2020年 日高③-1)

JRA育成馬の近況 その1

今回の育成馬日誌では、1月現在の日高育成牧場におけるJRA育成馬の調教の進捗状況をお伝えしたいと思います。

11月まで基礎体力をつけるメニューをこなしてきた育成馬は、12月に坂路とトレッドミルで強い負荷をかける調教を開始し、年末年始に一時的に楽をさせた後、1月中旬から強い調教を再開しています。

現時点での調教内容は、
・強調教は屋内ウッドチップ坂路とトレッドミルで実施。翌日はハッキングもしくはウォーキングマシンでの軽調教のみ。
・強調教の頻度は2週間に3回程度(中4~5日)で、乳酸値が10~15mmol/Lになる強度にスピードを設定。
・上記以外の日は、屋内800mダート馬場と屋内ウッドチップ坂路でF22程度のステディキャンター。距離は計2200~2400m。
・ステディキャンターの際は、縦列調教で馬と馬の間隔を1~2馬身。

このように、乳酸値10mmol/L以上の強い調教を行うことで有酸素運動能力の向上を図るとともに、若馬の馬体成長やメンタル面を注視して、各馬の運動負荷が可能な限り適切になるように調整しています。
例えば、調教後の乳酸値が15mmol/Lを大きく超えた場合、次回の調教は10mmol/L程度になるようにスピードを調整する。テンションが高く、坂路で簡単にスピードが出てしまう馬については、併走ではなく単走にして精神面のコントロールに努めるなど、個々の馬に応じたきめ細かいメニュー調整をしています。
また、ステディキャンターでは、前の馬との間隔を1~2馬身に詰めてキックバックに慣れさせるような調教も行っています。競馬で走行する際の「馬群」に順応させることが目的ですが、このような調教は若馬にとって体力向上と同等かそれ以上に重要と認識しています。

https://youtu.be/vkUohtLSTXU
坂路でのステディキャンター(F22程度のスピード)では、前の馬との間隔を1~2馬身に詰めてキックバックに慣れさせるような調教を行っています。

https://youtu.be/6nX46mb0xqw
トレッドミルでの強調教(アートオブビーン2019 父クリエイター めす)。乳酸値が10~15mmol/Lになる強度にスピードを設定。この馬の場合、この日は速度13m/s、傾斜6%で3分間のギャロップを実施し、調教後の乳酸値は13.8mmol/Lでした。

この時期になると、前進気勢があり、スピードを容易に出すことができる馬が頭角を現してきます。次回の育成馬日誌では、そのような馬についてピックアップして紹介したいと思います。お楽しみに!