2023年2月 2日 (木)

競馬場の土壌調査

こんにちは。
微生物研究室の岸です。
今回は我々が行っている調査をご紹介いたします。

当研究室では、馬から採取される微生物以外に、
競馬場やトレーニングセンターの馬場に存在する細菌の調査も行っています。
レース中の競走馬のスピードは、時速60~70キロと言われています。
このように高速で走行していると、蹴り上げられた芝生や砂が
馬の皮膚や眼に接触することで傷ができてしまうことも少なくありません。

芝生や砂が原因となり細菌感染してしまう可能性もあるので、
芝コースの芝生やダートコースの砂の中に、
どのような細菌が生息しているのか調査を行っています。

今回は内田と岸で中山競馬場へサンプリングに行ってきました。

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芝・ダートコースからサンプリングを行います。
使用しているのは検土杖という器具です。

採取された土壌サンプルをもとに、

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細菌培養を行い、

Photo_3上段:ネガティブコントロール
中段:芝サンプル
下段:ダートサンプル

どのくらい細菌が生息しているのか、
生息していた場合に馬へ影響のある細菌がいるのか
といったことを調査していきます。

このような調査結果は、今後論文や学会などで発表していく予定です。

2023年1月10日 (火)

ドリーム・ホース

臨床医学研究室の太田です。

今回は馬が登場する映画の紹介です。

「ドリーム・ホース」

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2009年に英国ウェールズの障害競走最高峰のレースで優勝した競走馬の実話を映画化したもの。

週10ポンドずつ出し合って約20人の組合馬主となった村人の夢と希望を乗せ、「ドリームアライアンス(夢の同盟)」と名付けられた馬は、奇跡的にレースに勝ち進み、彼らの人生をも変えていく、というストーリー。

ちなみに映画の中では、当研究所でも実施している最先端の治療技術も登場します。

レース映像も迫力満点なので、ぜひ映画館でご鑑賞ください。

2023年1月 6日 (金)

競走馬の骨折は致命的?

少々遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。臨床医学研究室の福田です。

今年も総研ブログをよろしくお願いします。

さて年末年始、皆さんはどのように過ごされましたか?

コロナ禍の中なかなか帰省できず、ようやく実家に帰って久しぶりに親戚同士顔を合わせたという方も多いのではないでしょうか。

自分も実家に帰っておりましたが、帰省した時によく聞かれる質問があります。

「馬って、骨折したら死んじゃうんだよねえ?」

骨折にも色々ありまして…。

2021年のデータを見てみますと、競馬のレース中に発症した肢の骨折は689件ありました。分母を述べ出走頭数にして確率を計算しますと、1.58%となります。
1競馬場あたり1日で約2頭くらいでしょうか。
このうち、いわゆる「重症で救うことができない」骨折の件数は25件でした。つまり、残りの馬たちは手術や保存療法によって救命されたことになります。

競走馬に最も多い骨折は、下肢部の関節構成骨の骨折です。

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こういった骨折は、関節鏡を使って骨片を取り出せば予後は良好です。

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比較的重症な例としては、下の写真のような骨折線が縦に伸びているケースですが、写真右のようにネジ留めすることでしっかり安定し、症状の悪化や再骨折を予防することができます。

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最近は手術の技術も向上し、多くの馬が競走に復帰できるようになりました。
しかし、前述の「救うことができない」骨折馬がまだ存在することは事実です。
臨床医学研究室は、これらの馬を「全て救う」ことを目指して今年も頑張ります。

2023年1月 5日 (木)

カルガリー大学での研究留学

こんにちは、運動科学研究室の高橋です。


私は材料工学や運動力学に関する研究をするためにカルガリー大学のキネシオロジー学部Human Performance Labに来ています。

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このHuman Performance Labは1988年にカルガリーオリンピックで好成績を修めるために設立されました。ヒトの怪我予防のための逆動力学や骨の疲労寿命、シミュレーション、運動生理、神経筋生理などが主に行われています。施設は世界的に見ても充実しており、トップアスリートを対象にした研究も行われています。
また、大学内にはOlympic Ovalという施設があり、スピードスケートの大会会場にもなっています。先日はワールドカップの第3戦、第4戦が行われ、北京オリンピック金メダリストの高木美帆選手が1500mで優勝、500mでも2位に入っていました。

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カナダではスケートがとても人気のスポーツで、大学でもスケートの研究を行っている方は日本よりも多くいます。先日のゼミでは研究者の発表に実際の被験者となったスケートカナダ代表メンバーが来て結果の解釈について研究者と一緒にディスカッションしていました。トップアスリートの動作や生理学的な指標と成績を追跡し、現場からも適切なフィードバックを得ていることが良い研究に繋がっている一因と感じています。

2022年12月20日 (火)

サラブレッドのせり会場

 企画調整室の小野です。

 2022年も残すところあとわずかですね。

 最近、ゲームからサラブレッドや競馬に興味を持てもらえる方が増えており、うれしく思っております。

 先日、日本の9割近くのサラブレッドを生産している北海道の日高地方に行く機会がありました。泊まったホテルにもいろんなぬいぐるみがかざってありました。

Nuigurumi

 

 お仕事の合間にサラブレッドのせり会場を案内してもらいました。

 そこで今回は子馬から競走馬にはどのようなステップを踏んで馬主さんの所有になるのか簡単に書かせてもらいます。

 JRAの競走に出走する2歳の春まで何もしないで競走馬になれるわけではありません。お母さんの元を離れる離乳、人に従うようになるコンサイニング、人が騎乗できるようになる馴致、競走に近づくトレーニングを行う育成、ゲート練習などを経て、出走を迎えます。

 そんな中、生産された牧場などから馬主さんに売買される1つの手段がせりです。当歳、1歳、2歳それぞれで売買されますが、その多くは1歳です。その市場取引の大半を行っているのが、今回見学させていただいた新ひだか町静内にあります日高軽種馬農業協同組合の北海道市場です。この組合は、春の2歳トレーニングセールは札幌競馬場で行われますが、それ以外の夏から秋に行われるせりはこの会場で行われています。

Photo かなり広々としていてどの席からでもセンターにある馬の展示スペースと鑑定台が見えます。

 

Photo_2 鑑定人のスペースには落札時のハンマーも置かれており、鑑定人は広い視野が求められていることがよくわかりました。

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 最近のせりでも新型コロナウイルス感染症対策で一般の入場はできないようでしたが、ネット配信もされていますので機会があればぜひ一度ご覧ください。

 おそらく今年最後の更新となります。
 皆様よいお年をお迎えください。

2022年12月13日 (火)

第64回JRA競走馬に関する調査研究発表会に参加しました

分子生物研究室の根本です。

第64回JRA競走馬に関する調査研究発表会が、11月28日に東京・両国の国際ファッションセンター(KFC Hall&Rooms)で開催されました。通常ジャパンカップの翌日に毎年開催されています。今年も獣医学から装蹄、馬場に関してまで、幅広い内容の演題がありました。国際ファッションセンターはプロレスの会場にもよく使われる会場であり、プロレスファンの私としては少しテンションが上がる会場です。本発表会はウマ科学会の学術集会と同時開催であったため、コロナ禍以降初めて会う知り合いもいて、有意義な時間を過ごすことができました。


肝心の発表ですが、私は馬インフルエンザのワクチンに関する内容を発表しました。しかし特に質問もなかったことから、時間調整が必要となってしまい、座長のお手を煩わせてしまいました。来年以降発表する機会がある際は、質問していただけるよう、わかりやすい内容で、わかりやすいプレゼンを作成するように心がけます!

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本発表会の様子。左は演者の私、右は座長。

2022年12月12日 (月)

4年後に会いましょう

運動科学研究室の杉山です。


めっきり寒くなりましたが、いかがお過ごしでしょうか。 
今回はスウェーデンで行われた第11回国際馬運動生理会議(International Conference on Equine Exercise Physiology(以下ICEEP)(外部リンク))についてお話します。

ICEEPは1982年より4年に1回開催されている国際学会で、2022年は4日間に渡り馬の運動能力に影響を及ぼすトレーニング、栄養、薬物、生理機能などについての研究成果が報告されました。日本からも5題のポスター発表を行い、様々な意見やアドバイスをいただくことができました。

Photo(写真1)Swedish University of Agricultural Sciencesの動物病院兼獣医学部

2(写真2)会場はこの大学の講堂でした。ウマの置物が着ているのは北欧柄のかわいいブランケット

ところで、ICEEPでは海外からの参加者をもてなし、その国をよく知ってもらうための企画にも力を入れていて、今回のスウェーデンでは16世紀半ばに建造されたというウプサラ城を貸し切ってのディナーが行われました。
そしてこのウプサラ城で4年後の開催地が「日本」と発表され、会場から歓声が沸き上がりました。

次回の日本開催にむけて、”映え”るおすすめスポットがあればぜひ教えていただきたいです。

3(写真3)ウプサラ城での次回開催地発表の様子

4(写真4)どこを撮っても絵みたいになると思って撮った1枚

2022年12月 1日 (木)

FAVA2022への参加

微生物研究室の木下です。

2022年11月、福岡にてアジア獣医師会連合 (FAVA) 大会(外部リンク)が開催されました。大会の招待講演として馬の細菌性感染症に関するセッションが設けられ、当研究室から内田および木下がそれぞれMRSA感染症およびClostridioides difficile感染症について講演を行い、丹羽が座長を務めました。

本セッションでは、当研究室2名の他に、北里大学名誉教授の髙井先生からRhodococcus equi感染症について、モンゴル国立生命科学大学のバナーバータル・バトバータル先生から鼻疽に関してのご講演をしていただきました。4つの疾病はそれぞれ異なるものの、本大会のテーマであるワンヘルスの視点から、ヒトと動物 (主にウマ) あるいは環境との関連について様々なデータが披露され、ヒトとウマの健康をコントロールするためには多角的なアプローチが必要になることや、疾病ごとに注力するポイントが異なることが理解でき大変有意義な講演となりました。

Photo左から講演者のバナーバータル・バトバータル先生、内田、木下、高井先生そして座長を務めた丹羽。

Photo_2 マスコットキャラクター『ワンヘルスぼうや』と内田の記念写真

2022年11月10日 (木)

馬感染症研究会を開催

分子生物研究室の上林です。
秋も深まり、栃木の木々も紅く色づき始めました。
先週末はGⅠ天皇賞(秋)が開催されました。1998年天皇賞(秋)を彷彿とさせるような大逃げの展開もあり、非常に興奮する面白いレースでした。

さて、先月末に総研で「馬感染症研究会」が開催されました。
これは、全国の家畜保健衛生所や動物検疫所の獣医師の方が集まり、馬の伝染病に関する情報交換をしたり、総研の研究者による講義・実習を受けたりして馬の伝染病に関する知見を高める場となります。
家畜保健衛生所は、各都道府県に設置されており、牛・豚・鶏をはじめとした家畜の伝染病の発生予防のための様々な業務を担っています。動物検疫所は、主に動物の輸出入の際の伝染病侵入予防のための責務を果たしています。いずれも、我が国の畜産業を守っていく存在として非常に重要な存在です。そんな機関で働く先生方に、普段は触れる機会の少ない馬についても伝染病の診断にかかわる知識と技術を有していただくために、本研究会は開催されています。

今年は全国から約20名の獣医師が集まりました。
細菌やウイルスが原因となる伝染病に関する講義に加え、馬の触り方や検体の採取方法に関する実習が実施されました。
普段馬に触れる機会が少ないせいか、皆さん熱心に実習に取り組まれている姿が印象的でした。

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僅か3日間の開催ではありますが、この経験を通じて少しでも皆さんの馬に関する知識と技術の向上に貢献できていればと思います。
我々としても各自治体に勤務される獣医師の方とお話をできる貴重な機会なので、今後もこの場を大事にしていこうと思います。

長―く効く薬の話

臨床医学研究室の三田です。

 

寒くなってきて風邪が流行る時期になってきました。

我が家でも子供が咳込んでいたので漢方薬を処方してもらったのですが毎食後に飲ませる必要があり、たまに忘れてしまいます・・・。飲み忘れるのが漢方薬ならまだいいのですが、もしこれがホルモン剤や抗菌薬であれば飲み忘れによって体調を崩したり、病気をぶり返してしまうなど大きな問題になってしまいます。そこで、今回のブログでは現在私の研究で取り組んでいる、少ない服用回数で長く効く薬の話をしたいと思います。

 

上記のような「患者が医師の処方通りに服薬できるか(服薬コンプライアンス)」という問題は数十年前から話題にされており、特にホルモン剤注射を頻回にわたって服用しなければならない患者さんにとっては毎日の負担が非常に大きいそうです。そこで製薬会社では薬剤を人工合成したポリマーを用いて加工することで少数回の服用でとても長く効く薬を開発してきました。つまり、一般的に薬を単独で体に投与すると数時間で代謝されてしまい効果が無くなっていきますが、体の中で徐々に分解されるポリマーを使って薬剤をコーティングすることで薬剤が長期間にわたって徐々に分解されるようにする仕組みです。この技術によって現在商品化されているホルモン剤の中には1回の投与で数か月も体の中で有効濃度を保てる薬もあります。薬の加工技術は年々進化しており、薬を必要な量・必要な部位へ・必要な期間にわたって作用させるための研究が様々な薬で行われています。

馬の診療でも頻回の投与が大変だったり、目的の部位だけに薬を届けたい場面があり、私の研究では馬で使用している抗菌薬でこのようなことができないか検討を重ねています。下の写真は先ほど説明した、①薬剤を加工する前と②ポリマーで加工した後の電子顕微鏡写真です。結晶構造だった薬がポリマーで包まれて丸くなっている様子がわかると思います。

①加工前の結晶状の抗菌薬

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②ポリマーで加工した抗菌薬Photo_2

 

この形を見て先日の皆既月食を思い出してしまいました。

いつしかこの薬剤がウマの体のなかで満月のように輝いた効果を発揮できるよう研究をすすめているところです。