2022年8月 2日 (火)

あれから1年

臨床医学研究室の太田です。

猛烈に暑い日が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 

昨年の今頃は、TOKYO 2020オリンピック・パラリンピックが開催され、様々な種目で熱戦が繰り広げられていました。

大会期間中、馬術競技会場(世田谷区の馬事公苑)には、総研から総勢20名以上のスタッフが派遣され、競技運営のサポートをしていました。

具体的には、競技馬の診療・各種検査をはじめ、検疫・防疫対応、競技中の事故対応、空港から会場までの輸送の帯同など、普段の競馬開催業務で得たノウハウが役立ったのではないかと思います。

特に馬の暑熱対策に関しては、過去の総研でのデータが大いに活用され、海外のスタッフからも高い評価をいただきました。

 

Img_3820

さて、写真は最近の総研での一コマ。

注目していただきたいのは馬ではなく、スタッフのお揃いのユニフォームです。

実はこれ、TOKYO 2020大会のボランティアのユニフォームだったものです。

なかなか普段着として外では着れないので、1年経った今も、作業着として総研内では重宝されています。

2022年8月 1日 (月)

ローソニア感染症の研修(タイ王国)-生活編-

微生物研究室の丹羽です。
ローソニア感染症は、馬では増殖性腸症(EPE)と呼ばれ、発症した子馬は激しく痩せ細ってしまうため、生産地では大きな問題となっている病気です。ローソニア感染症は、豚の生産性を著しく悪化させる病気としてもよく知られています。
本年7月、ローソニア感染症の抗体検査法やその原因菌であるLawsonia intracellularis (LI)の培養法を習得するため、ローソニア感染症研究の第一人者であるタイ国立チュラロンコン大学のWattanaphansak博士の研究室に約3週間の技術研修を受けてまいりました(写真1)。研修は非常に充実したものとなりましたが、ブログということで今回は研修内容ではなく、日常生活についてご紹介したいと思います。

1写真1. Wattanaphansak先生(中央)、山口大学の清水先生(右隣)、筆者(左隣)およびラボのスタッフの皆さん


研修の舞台となったチュラロンコン大学大動物研修センターは、タイ国内では最も養豚業が盛んなナコンパトム県内に位置し、バンコク市内から西へ約80kmの距離にあります。自然豊かな環境に囲まれ、近隣には宿泊施設がないことから、研修中は大学職員寮の1室を借り生活しました(写真2)。

2写真2. 宿泊場所となった大学職員寮


この時期のタイは雨季にあたり、日中は晴れていても蒸し暑く、夕方頃になるとスコールと呼ばれる激しい雨が降り出します。寮は研修センターから歩いて5分程度の大学敷地内にあり、寮から研究室に行くまでの道のりや寮の自室内では日本では見ることのない様々な生物を見ることができました(写真3)。タイ料理は辛い食べ物が多く、現地の食堂もどこもキレイというわけではないことから、胃腸に不安のある私は胃腸薬と乾燥納豆は手放せませんでしたが、美味しい料理も数多くあり、楽しい思い出となりました(写真4)。

3写真3. 寮の周辺で出会った野生動物たち

4 写真4. 辛くも魅惑的な料理の数々


今回はタイでの生活をご紹介しましたが、また別の機会に研修で出会った様々な人々をご紹介できればと思っています。

2022年7月22日 (金)

競走馬の角膜炎発症リスクを解析中

臨床医学研究室の黒田です。

本日は競走馬にみられる出走後の角膜炎を紹介します。
角膜炎は砂や土などの異物が目に入り、角膜に傷ができることで発症する疾患です。
JRAでは発症予防のため出走後に全てのウマに対し目洗いと抗菌薬眼軟膏の塗布を行っていますが、出走馬の約0.3%が発症する疾患です。

我々は過去5年間にJRAのレースに出走した23万頭のデータを解析し、その発症メカニズムを探っています。
レース中のポジションと発症の関係を調査すると、逃げ馬ではほとんど発症はなく、先行馬は差し追い込み馬よりも発症は少なかったことから
前にいる馬の蹴り上げた砂や土が後方のウマの目に入ることが、原因となっていることが推測されました。
また、馬場状態に関しても悪化すると発症率は増加しており、馬場が悪化により蹴り上げる土や砂が増加していることが考えられます。
これらの結果は、ある程度予想していた結果でしたが、以下の競馬場別の結果は予想外の結果となりました。
以下の図が競馬場別の発症率で、芝レースは緑バー、ダートレースはオレンジバーです。

0606

オレンジのダートレースでは全国で発症率の差があまりありません。
一方、緑の芝レースでは北海道でほとんど発症がないですが、西日本に行くほど発症率が高くなっています。
ここに、角膜炎の発症メカニズムが隠されていると推測し、現在、気候や土壌の違いなど様々な検討を行っているところです。

こちらは、今月初めに出張しました過去5年間発症が無い函館競馬場の芝コースです。

Img_2150

この芝コースにどのような違いがあるのか解明していきたいです。

2022年7月 1日 (金)

サーベイランス器材の発送

分子生物研究室の坂内です。
6月に入り、梅雨どころか真夏に近い気温が続く栃木県ですが、
この時期に当研究室で行われる行事の一つが、伝貧サーベイランスの器材発送です。

このサーベイランスは、以前にもブログ記事(2021年1月)でご紹介したことがありますが、
馬伝染性貧血ウイルスが国内に無いことを確認するために毎年行っているものです。
これから秋にかけ地方競馬場やJRA内部の施設でランダムに血清を採取してもらい、
年末に約1000検体を試験することになります。

今回総研から各施設へ送る器材のセットは、
血清用クライオチューブ、検体番号ラベル、二次容器の耐圧パウチ袋、吸収剤、衝撃緩衝材、
検体送付マニュアル、依頼文書で、これらを三次容器の段ボール箱に入れます(写真1)。

1(写真1)送付する器材一式


臨床検体は健康な動物の物であっても適切に梱包して輸送する必要がありますが、
現在では写真のような検体輸送専用の梱包キットが市販されており、重宝しています(写真2)。

2(写真2)輸送専用の梱包キット


検査の手技やデータが大事なのはもちろんですが、
その前段階の検体のやり取りから適切な方法を採ることで、信頼性のある報告ができることになります。
猛暑の中、検査を行う遠い冬に想いを馳せ、無事に検体が集まることを願っています。

2022年6月24日 (金)

競走馬の年齢別・性別出走割合

 こんにちは、運動科学研究室の吉田です。
 昨年のブログ(その①その②)で、過去10年間のべ47万頭以上のデータから、出走馬に占めるオスとメスの割合を調べたところ、オスが60%、メスが40%であることがわかりました。
 今回はこれを年齢別に調べてみました。
 競走馬がデビューできる2歳とダービー・オークスの出走年齢にあたる3歳では、のべ頭数に占める割合はメスが約44%でした。
 その後4歳、5歳と下降して、6歳以上では19%とかなり少なくなっています。
 サラブレッド競馬は次世代に優秀な血統をつないでいくスポーツです。母馬は1年に1頭しか子馬を産めません。競走引退後の繁殖の場ではオス馬より多くのメス馬がその役割を担っていることがメスの比率が下がっていく一因と考えられます。

Photo_4

2_4

2022年6月20日 (月)

英国ダービー

 こんにちは、イギリスに滞在している臨床医学研究室の田村です。

 先日、英国ダービーを観戦する機会がありましたので、紹介させて頂きます。
 英国ダービーは6月4日土曜日にロンドン南西部にあるエプソムダウン競馬場で実施されました。日本と同様に、イギリス競馬の中でも最も注目されているレースの一つです。

 当日は多くの人が競馬場に来場して、賑やかな雰囲気だったのですが、中でもドレス姿の女性やフォーマルな服装をした紳士が多く、競馬開催を華やかに盛り上げていました。
 パドックの内部には関係者が集まり、出走馬の状態をチェックしていました。

Photo

 

 エプソムダウン競馬場は左回りのU字形をしたコースになっています。丘を登って下る高低差が見所の一つとなっています。
 この競走を制したのは、デザートクラウンでした。
 勝負が決まったときには、競馬場に大きな歓声が上がり、場内には一体感がありました。

Photo_2


 今年の日本ダービーの勝利馬はドウデュースでした。近年では海外の競馬に出走することも珍しくありません。もしかすると、この両者が同じ競馬場で走る日が来るかもしれない、と考えるとワクワクした気持ちになりました。

3

 また、イギリスダービー当日にはJRAの「エプソムカップ」との交換競走である「The Tokyo Trophy(東京トロフィー)」も開催されました。
 このレースに勝った馬は、ウイニングサークル内でJRAのロゴ入り馬服を着用していました。

2022年6月15日 (水)

顕微鏡観察標本の作製方法 ②

 微生物研究室 上野です。
今日は前回(→こちら)に引き続き,一般的な病理組織標本~ホルマリン固定パラフィン包埋(ほうまい)標本の作製方法についてご紹介いたします。

薄切(はくせつ)
 ブロック状になったパラフィン浸透組織を顕微鏡観察に最適な厚さにするために,ミクロトームという機器〔図1〕を使用します。パラフィンブロックをミクロトームに固定し,前後あるいは上下に動く刃でブロック表面を一定の厚さで少しずつ切り取ります〔図2〕。詳細は異なるものの,切る対象に対する刃の動きは鉋(かんな)掛けに類似しています。ブロックから切り取られた組織片は,そのままでは顕微鏡観察ができないため,スライドガラスにきれいに貼り付ける必要があります。しかし,組織片の厚さは一般的な食品用ラップの厚さ(約10μm)の半分以下かつ強度も低いので,そのままではうまく貼り付けることができません。そこで,組織片を水面上へ浮かべ,水面下に差し入れたスライドガラスにくっつけながら引き上げることにより,スライドガラス表面に組織片を貼り付けます〔図3〕。なお当所では,薄切時に生じた組織片のしわや収縮などの変形を伸ばすため,この工程に40℃程度の温水を使用しています。最後にスライドガラスを乾燥し,組織片をしっかりと付着させます。

Fig1_2図1 滑走式ミクロトーム
刃(矢印)が前後してパラフィンブロック(丸囲み)表面を薄切する。

<Fig2図2 パラフィンブロックの薄切

Fig3図3 水面に浮遊させた組織片の引き上げ

染色
 薄切した組織片は,そのまま観察しても組織構造が分からないため,染色(組織成分への色素吸着)する必要があります。用途に応じて様々な染色手法があるのですが,組織の全体像を把握するための基本的な染色法としてヘマトキシリン-エオジン染色を用いています。ヘマトキシリンは植物由来の天然染料であり,メキシコ原産のアカミノキを原料としています。日本新薬株式会社さんの山科植物資料館webサイト https://yamashina-botanical.com/ (外部サイト)で実物の写真を見ることができるのですが,“赤身の木”の名のとおり幹の中心部が赤色を呈しています。組織標本では主に細胞核を青紫色に染めます。一方,エオジンは化学合成された色素であり,細胞質や結合組織,赤血球などをピンク~赤色に染めます。エオジンの名称は,古代ギリシャ語で「夜明け」あるいは「夜明けの女神」を意味するEosに由来していますが,鏡検していても朝の爽やかな空気を思い出すことはありません。
 組織片はパラフィンが浸透しており,そのままでは染色液をはじいてしまうため,染色前にパラフィンの溶解・除去を行います。包埋処理と逆の手順でキシレン(有機溶剤)→アルコール→水洗と進めた後に染色液に浸します〔図4〕。染色後は組織片から水分を取り除き,透明な接着剤のような試薬(封入剤)を介してカバーガラスを組織片上に被せます。封入剤が乾くと組織標本の完成です。

Fig4図4 自動染色装置
染色工程は分刻みで次々と進みますが,パラフィンの溶解・除去から染色後の脱水等まで自動化されています。

 

 このようにして作製した組織標本を顕微鏡で観察し,病気の診断や実験の評価などを行っています。

Fig5図5 完成した組織標本

2022年6月 3日 (金)

JRA総研サマースクールの受講生募集

 

 企画調整室の小野です。

競走馬総合研究所では、例年夏休みのシーズンに獣医学を専攻する大学生を対象にサマースクールを開催しております。

本年は8月22日~5日間を感染症コース、8月29日~5日間を臨床コースとして開催予定です。募集期間は6月1日(水)~6月15日(水)で、家畜衛生・公衆衛生獣医師インターンシップ「VPcamp」を通じてご応募ください。

詳しくはVPcampホームページ(外部サイト)をご覧ください。

Photo_2

2022年5月25日 (水)

毛刈りのシーズン

 企画調整室の小野です。


 今年もやってまいりました羊の毛刈りのシーズン。
 競走馬総合研究所では、ウマだけでなく、ヒツジを3頭飼育しております。
 ウマの研究所なのに何のため?と思うかもしれませんが、ヒツジから採血した血液は、ウイルスに対する血中の抗体価を測定するために利用されています。感染症の研究には欠かせない存在なのです。

 ヒツジの毛刈りに不慣れなわれわれだと時間ばかりかかって、ヒツジの安らかな生活に迷惑?をかけてしまいます。ですから、依頼して毛刈りしていただきました。

Photo

 まずわれわれがなかなかできないのが、おとなしく捕まえることです。口元を素早く押さえてコントロール下において、姿勢を変えてしっかり保定されていました。あられもない姿ですが、少し後ろに倒れるくらいが、おなかを圧迫しなくておとなしくじっとしてくれているのだとか。

Photo_2

 あっという間に刈られていきます。外は汚れていても、中はきれいでふわふわなクリーム色です。羊毛として使用する際は、脂も多いのでまず塩水で洗うそうです。


 ヒツジの毛刈りですが、一般的に年に一度夏に向けて、肉用のヒツジは早めの3月~5月ごろ、羊毛用のヒツジは5~6月ごろ、子羊は毛が短くても熱中症予防のため7月ごろに刈るそうです。

Photo_3
見た目にもスッキリしましたね。
 

2022年5月18日 (水)

多血小板血漿(PRP)を使った屈腱炎治療

 臨床医学研究室の福田です。

 昨年、当ブログにて、私が今取り組んでいる多血小板血漿(PRP)治療の研究について簡単に紹介させていただきました。→こちらです! 

 先日、馬の屈腱炎治療のためにPRPを投与する機会がありましたので、簡単にレポートいたします。
競走馬の屈腱炎は不治の病といわれ、過去ではアグネスタキオン、クロフネといった多くの競走馬が引退に追い込まれています。

Ebi1 赤で囲まれた部分が腫れている屈腱部です。反対の足に比べて太くなっているのがわかりますか?

Ebiprp 腫れている部分にPRP(黄色い液体)を注射器で注入しています。
PRPの投与が有効であれば、投与された部分を中心に新しい組織が再生します。
この馬は乗用馬なのですがまだ若く、この治療で腱の具合が良くなればまだまだ人を乗せて活躍できることでしょう。

今後の治療経過に注目しています。