繁殖牝馬 Feed

2022年1月12日 (水)

出産シーズン

 謹んで新春のお慶びを申し上げます。本年もJRA日高育成牧場をよろしくお願い申し上げます。

 年が明け、生産地では出産シーズンが始まりました。JRA日高育成牧場もホームブレッド第1号の分娩予定日まで残り1ヶ月をきり、分娩準備が本格化してきたところです。馬房内の監視カメラを起動させ、妊娠後期の流産原因となる馬鼻肺炎対策としてアームカバーやタイベック防護服の着用、長靴等の消毒も徹底しています。

 無事に元気な子馬たちが生まれてくることを職員一同祈っています。

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アーツィハーツ号(デクラレーションオブウォー受胎)

2021年2月25日 (木)

今年も元気な子馬が生まれました!

 まだまだ冬の寒さが厳しい浦河ですが、日高育成牧場では今朝方、今年最初の子馬が生まれました。お母さんは一昨年にアメリカから日本にやってきたのですが、日本の寒さにも負けず無事に元気な初子を産んでくれました。分娩も順調そのもので、破水から分娩まで15分の安産、子馬が立ち上がるまでの時間も1時間のスピード出産でした。少し小柄な女の子ですが、片時もお母さんの傍から離れず、すでに甘えんぼの片鱗を見せています。順調に成長して立派な競走馬になるんだよ!

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2020年8月21日 (金)

別れ・・・

 8月も残りわずかとなりましたが、北海道らしくない蒸し暑い日が続いています。

 日高育成牧場では、今週から当歳馬の離乳が始まっています。離乳は、母馬が翌年の出産に万全の態勢で望めるよう授乳を断ち切る目的のほか、子馬側にも飼料給与で成長をコントロールする目的があります。野生の馬では分娩数ヶ月前にあたる年明け頃(子馬は9〜10ヶ月齢)で離乳がみられますが、生産牧場における離乳の適期は、体重が220kg程度まで成長して1〜1.5kgの飼料摂取が可能となる、5〜6ヶ月齢とされています。また、離乳時期の決定には、これら栄養面の要因のほかに母子の精神面への影響も考慮する必要があります。

 離乳の方法については様々な方法が試行されていますが、少し前までは母子の厩舎から子馬を一斉に離れた厩舎に移動させる方法が一般的でした。しかし、この方法だとストレスから子馬の発育に悪影響が現れたり、母馬や子馬が大騒ぎして怪我をすることがある点が問題でした。この問題を解決するため、日高育成牧場では数年前から「間引き法」を導入しています。間引き法とは、離乳に先立って母子の群れに子なしの乳母を混ぜることで予め群れに慣らしておき、数週間かけて数頭づつ数回に分けて母馬を間引いていく方法です。この方法でも母馬がいなくなった子馬は母馬を探して騒ぎ出しますが、群の大半を占める他の仲間は落ち着いているため、比較的早く子馬が落ち着くようになります。最終的に群れには子馬と乳母だけが残る形となりますが、乳母がいることで子馬もとりあえず安心感を覚えているようです。

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 今年の1回目の離乳を行ったこの日、長い間子馬たちを見守ってくれていたスタッフの一人が育成牧場から旅立って行きました。新天地でのご活躍をお祈りしています。

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2020年2月15日 (土)

2020・2・14 暖冬

昨日は2.14、バレンタインデーでした。

2月14日は、サラブレッドの生産地にとって「愛の告白日」ならぬ「種付けの解禁日」となります。交配から分娩までの平均期間が340日にも及ぶサラブレッドの妊娠期間ですが、前後30日程度の誤差もあります。そのため、年明け早々の分娩を計画する上で、種付け開始はバレンタインデーを目安とするのが良いのです。しかし、例年2月上旬の日高地方は雪に覆われる真冬日です。この時期に種付けを行うためには、ライトコントロールを行い、馬服を着せ寒冷の保護、BCSを保つ栄養管理などの様々な飼養管理の工夫が必要になるのです。

しかし、今年の冬は暖冬でした。雪が降るのも少なく、積雪は全くない状況でした。放牧地には茶色い牧草があり、放牧中の馬たちは茶色くなった牧草をタラフク食べていました。

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雪が無いとは言っても、放牧地は硬く凍てついた地面となります。そのため体重の重い繁殖牝馬や柔らかい1歳馬の蹄はボロボロになりました。蹄壁と蹄底の境目となる白線の部分が乖離して泥や砂が入ってしまうのです。

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その様な場合、白線が乖離した部分がそれ以上広がらないように、括削してしまう必要があります。

私も日高に来て10年が経ちましたが、このような暖冬、積雪の無い冬は初めての経験です。年々温暖化してきている地球環境ですが、北海道もいづれは雪の降らない地域なってしまうのかも知れませんね。

このような環境の変化が、繁殖牝馬や生まれてきた子馬にどのような影響を及ぼすのか、生産育成研究室では自ら軽種馬の生産を行うことで調査を継続していきたいと思います。

2019年12月 5日 (木)

Equilume ライトマスク

12月4日、空胎繁殖牝馬4頭に、Equilume ライトマスクを装着しました。

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ライトマスクは、右側片方のブリンカーに設置された青色LEDにより昼夜放牧中の繁殖牝馬でも放牧地でライトコントロール(光線長日処理)が行える装置です。

http://www.equilume.net/index.html

すでに日高地方の日の入りは16時、日の出は6時半過ぎとなっています。暗くて寒い時期ですが、来春の繁殖シーズンに向けて準備が始まっているのです。

2019年8月 2日 (金)

ホームブレッドの血統登録

 今日は当歳ホームブレッド達の血統登録を行いました。

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 審査では、書類と実馬との照合による個体鑑別マイクロチップについての審査、DNA型親子判定検査のための毛根サンプルの採取を行います。

 マイクロチップは、予め頸に打ち込んでおきました。

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 毛根サンプルの採取は、たて髪から行います。

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 引き抜いた毛根サンプルは、競走馬理化学研究所に送られDNA親子鑑定が行われます。

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 かつて親子判定は血液型で行われていましたが、DNA鑑定に代わり、その精度は格段に上がりました。

 以前、2回目の種付けで1回目の種付けとは異なる種牡馬を交配する「配合変更」を行って誕生したホームブレッドの中に、血統登録時のDNA親子鑑定で1回目の種付けの種牡馬の産駒であることが判明した事例がありました。1回目と2回目の交配は1周期も開いていたにも関わらず・・・不思議なこともあるようです。

 暑い中、ジャパンスタッドブックインターナショナルの方々、有難うございました。

2019年7月30日 (火)

アブ(Horsefly)対策

 毎年7月の終わりからお盆を過ぎる1ヶ月程度、アブに悩まされます。放牧を夜間放牧(午後15:30に放牧して、午前9:30に収牧)にして対応したりしますが、馬たちには試練の季節となります。

 馬は尾と尾が届かない範囲にある皮筋をブルブル振動させることでアブを追い払います。しかし、アブはこの尾と皮筋が及ばない、腹の下と腰を目掛けてしつこく刺しに来ます。

Horsefly アブ
YouTube: Horsefly アブ

 日高育成牧場では、ドライアイスを使用しないアブのボックストラップを使用しています。非常に沢山のアブを捕ることができますが・・・イタチごっこですかね。

Horsefly Trap (No need any dry Ice) アブトラップ
YouTube: Horsefly Trap (No need any dry Ice) アブトラップ

 非常に悩ましいアブですが対策が進まないのは、お盆を過ぎると途端にアブは少なくなるからでしょうか!?

2019年4月 2日 (火)

あて馬による繁殖牝馬の試情検査

  日高育成牧場では繁殖牝馬の交配適期を見極めるために「あて馬」による試情検査を実施しています。

 先ずは、検査の様子をご覧ください。

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YouTube: あて馬

 ここで見られる繁殖牝馬の発情行動とは...

1 尾の挙上

2 陰唇の開口による膣粘膜および陰核の露出(ライトニング)

3 尿あるいは粘液の排出

4 排尿姿勢

5 あて馬を許容し、攻撃的な行動(蹴る、威嚇)を示さない

 といったものになります。

 これらの行動を表す指標として試情スコアというものがあります。

試情スコア(点数が高いほど、良い発情徴候を表す)

0:当て馬を受け入れるしぐさを見せない。あて馬に対して、蹴る、いななく、などの攻撃的な行動をとる。

1:あて馬に対して、攻撃的な行動は見せない。

2:あて馬に対して、興味を示す。近づき、尾の挙上や陰唇の開閉を見せる。

3:あて馬に対して、強い興味を示し、尾の挙上、陰唇の開閉、排尿姿勢、排尿を見せる。

4:あて馬に対して、さらに強い興味を示し、腰を向けて受け入れる(その場から離れようとしない)。

 このスコアの推移を観察することで、発情徴候を客観的に把握することができる様になります。あて馬は、獣医師が居なくてもできる検査になりますが、最終的には、獣医師による直腸検査やエコー検査、膣検査により総合的に交配適期が判断されることになります。

2019年2月24日 (日)

ホームブレッド第1号の誕生

今年の第1号ホームブレッド(JRA生産馬)が誕生しました!

Img_9858_2 アイハヴァジョイの19(♂)父マクフィー似の鹿毛でした。

その日は、15:30に集牧してウォーキングマシン運動を行い(4㎞/h*30min)、馬房に入れて乳汁を測定したらpH6.4, Brix31.2!

「まだ乳ヤニも付いていないけど産まれるんじゃね?!」ということで、汗モニターを腰に付けて分娩に備え、監視モニターを眺めたら「もう破水してんじゃん!」ということで、17:30に無事安産でした。破水後、胎位を確認した後は自然分娩。娩出後も10分以上も臍帯が切れることなく、胎児の胎盤中の血液はすべて回収されました。後産は分娩後30分で出てしまいました。3産目の母馬は授乳も上手で安心して見守ることが出来ました。

Img_9869まだ少し後肢の繋が硬いけど、経過観察しながら様子を見ていきたいと思います。

翌日、元気に母馬に付いて歩きます。

今年から新生子不適応症候群(NMS:Neonatal Maladjustment Syndrome)に関する調査の一環として、生後直後・1日後・3日後・7日後にプロジェステロン(P)値を免疫発光測定装置(パスファースト) により測定し、正常馬およびMNS馬の推移についてデータを蓄積しています。パスファーストは、血漿サンプルを用いて僅か17分で測定結果の出る装置です。この馬に関しては、分娩後40ng/mL以上あったP値は、翌日には4.9ng/mlまで低下していました(NMSでは上昇することが知られています)。

生産育成研究室では、これからも現場での応用し易い技術の検討も実施していく予定です。

2019年1月18日 (金)

妊娠後期の馬に対するエンロフロキサシンの投与

 昨年の強い馬づくり講習会でも紹介しましたが、近年米国で抗菌薬エンロフロキサシンを妊娠後期の馬に投与しても安全であることが報告され、胎盤炎の治療への応用が期待されています。Journal of Equine Veterinary Scienceという雑誌に詳細が記載されていましたので、その内容をご紹介いたします。

エンロフロキサシン製剤(バイトリル®)
 エンロフロキサシンは動物専用に開発されたフルオロキノロン系の抗菌薬で、「バイトリル®」という注射薬および経口薬が主に牛や豚の肺炎や下痢症の治療用として市販されています。

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エンロフロキサシン製剤(バイトリル®)

妊娠後期の馬に対するエンロフロキサシンの安全性
 米国イリノイ大学のグループが行った調査について紹介します。流産を引き起こす胎盤炎の原因の多くはE. coliやP. aeruginosaなどのグラム陰性菌であることが知られており、グラム陰性菌に良く効くエンロフロキサシンを治療に使うことができれば胎盤炎の治療の成功率も上がることが期待されます。しかし、エンロフロキサシンは子馬に高濃度で投与すると、関節軟骨や腱組織に障害を起こすことがあると報告されています。すでに生まれてきた子馬と、母馬の子宮の中にいる胎子では状態が異なるため、妊娠後期の馬にエンロフロキサシンを投与し、胎子への影響を調べました。

静脈内投与における試験
 まず、妊娠280日までの牝馬16頭を用いて静脈内投与による調査を行いました。何も投与されないコントロール群(4頭)、エンロフロキサシンを5mg/kgの濃度で24時間毎に10日間静脈内投与された通常投与群(6頭)、同じく10mg/kgの濃度で投与された倍量投与群(6頭)の3群に分けられました。その結果、エンロフロキサシンの母馬の血漿中の濃度、胎盤中の濃度、胎子の血漿中の濃度はいずれも高く、胎盤炎の原因菌に効果的に作用する可能性が示されました。また、投与量5mg/kgと10mg/kgで上記の値に有意差は認められず、5mg/kgで十分な効果があることが示されました。さらに、胎子の関節軟骨および腱組織に悪影響は認められず、安全性が示されました。

経口投与における試験
 さらに、実際の臨床現場における胎盤炎症例に対する抗菌薬投与は長期に渡るため、静脈内投与ではなく経口投与が行われることが一般的です。そこで、妊娠中の牝馬17頭を用いて、何も投与されないコントロール群(5頭)、エンロフロキサシンを7.5mg/kgの濃度で24時間毎に14日間経口投与された通常投与群(6頭)、同じく15mg/kgの濃度で経口投与された倍量投与群(6頭)の3群に分けて調査が行われました。その結果も静脈内投与の場合と同じであり、胎盤炎の治療に有効および安全であると考えられました。また、投与量は7.5mg/kgで十分であることが示されました。
詳しく知りたい方は、2018年のJournal of Equine Veterinary Science 66号p.232をご覧ください(英文)。

 現在のところ、胎盤炎と診断された妊娠馬には抗菌薬として主にサルファ剤が用いられていますが、サルファ剤の効果が認められない場合などの治療の選択肢の一つとして今回ご紹介した方法がお役に立てば光栄です。これらの方法を試したい場合はかかりつけの獣医師にご相談ください。