育成馬ブログ(宮崎②)

〇ヨカヨカ号の引退と後輩たちの近況


 JRA育成馬として活躍したヨカヨカ号(牝、3歳、栗東・谷厩舎)が、調教中の怪我のため引退することが発表されました。3度目のG1競走(スプリンターズステークス)挑戦を目前に控え、好調が伝えられていた矢先の出来事で、非常に驚きましたが、命に関わる怪我ではなかったことは本当に幸いでした。熊本県の本田土寿氏の生産馬である「ハニーダンサー2018」、後のヨカヨカ号は、2019年6月の九州1歳市場において340万円でJRAが購買し、宮崎育成牧場にて育成調教を行った後、2020年4月のJRAブリーズアップセールにて1122万円にて売却されました。同年6月のデビューからの通算成績10戦4勝2着2回、掲示板を外したのは桜花賞(17着)だけという堅実さで、3歳夏にして獲得総賞金1億2千7百万円余りという素晴らしい成績を残しただけでなく、九州産馬として16年ぶりの、さらに熊本県産馬としては史上初のJRA重賞競走勝利という金字塔を打ち立て、日本の競馬史にその名を刻んだといっても過言ではありません(よね?)。また宮崎育成牧場出身のJRA育成馬による重賞勝利は、2001年のタムロチェリー号による阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち以来、実に20年ぶりの美酒であり、当場職員一同、歓喜に沸いたことは申し上げるまでもありません。
 2019年に熊本県において生産されたサラブレッドは36頭で、国内の生産総頭数7390頭に占める割合は、わずか約0.5%(「2019年軽種馬統計」より)。その中からこれだけの活躍馬が出たことが、地元熊本や当場のある宮崎で大きなニュースとして一般紙や情報番組にも取り上げられると、九州の競馬ファンはもとより、普段は競馬に親しみのない方からも当場に問い合わせのお電話を頂くなど、その反響は想像以上のものでした。競馬中継やグリーンチャンネルにおいては、ヨカヨカ号の特集が組まれ、当場にも度々取材に来ていただきました。ヨカヨカ号の活躍が九州の馬産業全体にもたらしてくれたこの盛り上がりを将来に繋げていくため、宮崎育成牧場はこれからもチーム九州の一員として頑張る所存です。

_20210822_zzzl9280

【写真1】待望の重賞競走勝利の瞬間!北九州記念ゴール前の雄姿

Bu49_18_1

【写真2】まだあどけなさが残る1歳10月頃のヨカヨカ号。オンオフの切り替えが上手な賢い馬でした。

 そんな九州の将来を担う(?)、本年の育成馬の近況を少しだけご紹介いたします。9月末に入厩した、セプテンバーセールにおける購買馬3頭をもって、本年の宮崎育成馬22頭(雄11頭、雌11頭)が揃いました。血統的には例年以上にバラエティーに富んだラインナップで、当たり前ですが見た目もキャラクターも様々です。9月中旬から馴致を始めた牡馬は、既に集団で角馬場調教を行っている馬たちもいますが、馴致が始まったばかりの牝馬たちは馬房内で様々な刺激に慣れる段階を経て、ラウンドペン(円馬場)での馴致を開始したばかりです。馬の性格も人と同様千差万別ですので、素直に人の指示を受け入れて、なんでも器用にこなす馬もいれば、臆病な、あるいは慎重な性格のため、スムーズに課題をこなせない馬もいます。

 いずれにしても、馬と人との関係性がきちんと構築されていること、馬にとって人間がリーダーとして信頼できる存在となることが、馬に余計なストレスを与えず人馬とも安全に騎乗馴致を進めていく上で重要となります。それを念頭に、それぞれの馬の個性に合わせて、根気強く成長を促していけるよう取り組んでいきたいと思います。

16349759513183

【写真3】放牧地ではじゃれ合って遊んでいる1歳馬たちですが…

Pxl_20211024_0000055342

【写真4】競走馬になるためのトレーニングもしっかり頑張ってます。

育成馬ブログ(宮崎①)

1歳セリにおける育成馬購買と宮崎への輸送

 

〇活況を呈する1歳市場

 本年4月に開催されたブリーズアップセール2021において購買されたJRA育成馬を送り出した後は、宮崎育成牧場にはつかの間ののんびりとした時間が流れていましたが、梅雨の時期を迎えると、早くも来年のブリーズアップセールに向けて動き始めます。各地の1歳市場における育成馬の購買です。

 6月22日に開催された「九州1歳市場」を皮切りに、「八戸市場」(7月6日)、「セレクトセール」(7月12日)および「セレクションセール」(7月27日)に参加し、これまでのところ17頭の1歳馬を購買することができました。

 引き続きコロナ禍での開催となるため、盛り上がりに欠けるのではという心配をよそに、いざ開幕するとセリ会場はどこも多くの人で賑わい、いずれのセールにおいて総売上額や売却率において軒並み過去最高を記録する活況となりました。オンラインビッドとのハイブリッド方式が広く浸透したことや、新たな購買層の活発な市場活動などがこの盛況の要因として挙げられますが、この盛り上がりが今後の1歳市場だけでなく、来年のブリーズアップセールにおいても継続できるよう、育成業務に取り組んでいきたいと思います。

Image1

写真1)九州1歳市場で購買したテラノイロハ2020(父マクフィ)。売却額600万(税別)は同市場最高額であった。生産者は宮崎育成馬であるヨカヨカ号と同じ本田土寿氏。

 

〇宮崎育成牧場への道のり

 現在までに宮崎育成牧場に入厩している育成馬は、九州1歳市場で購買した1頭、八戸1歳市場で購買した4頭および日高育成牧場で生産したJRAホームブレッド2頭の計7頭です。このうち九州産の1頭を除いた6頭は、遠く北海道あるいは青森県から馬運車に乗って宮崎までやってきました。ここではその道のりを簡単にご紹介したいと思います。

【1日目】夕刻、日高育成牧場でホームブレッド2頭を積んで出発。道内の牧場で八戸市場購買馬2頭を収容し、深夜に苫小牧港からフェリーに搭乗。

【2日目】早朝に青森港に上陸。八戸市内の牧場で残る2頭を収容。東北自動車道を南下、福島県内から磐越自動車道にて潟方面へ。夕方、新潟競馬場に到着。

【3日目】昼前に新潟競馬場を出発。日本海側から関西地方を抜け山陽自動車道を西へ。

【4日目】日付が変わるころには九州上陸間近。九州縦貫自動車道、宮崎自動車道を経て宮崎育成牧場に到着。

Photo_2Image3

写真2)日高育成牧場から宮崎育成牧場までの長い道のりと、道中の馬運車内の様子。

 

 出発から到着まで約90時間、総移動距離は2,700㎞におよぶ行程となりました。人と馬の休養のため新潟競馬場に滞在した時間を除いても、70時間以上馬運車に乗っていた計算になります。どの馬にとっても、これほどの輸送は初めての体験です。特にホームブレッドの2頭は馬運車に乗ること自体が初めてのようなものでしたので、最初のうちは興奮して落ち着かない様子を見せていましたが、徐々に順応して、この長旅を乗り切ってくれました。宮崎に到着後、放牧地に放たれた育成馬たちが元気に駆け出す姿を見て、我々もようやく胸を撫でおろしました。

 育成馬を輸送した馬運車には輸送会社のドライバーさん2名と我々JRA職員2名が同乗しました。概ね3~4時間毎にサービスエリアなどで休憩をとり、ドライバーを交代しながら、一人は仮眠をとるという形で運行されていましたが、常に馬の様子をモニターでチェックしながら(我々が寝ている間も)、スケジュールに狂いが生じないようにスピードを調整するさまは、まさにプロフェッショナルの仕事だと感心しました。今後の育成馬輸送も同様に、無事に完了することを願っております。

育成馬ブログ(宮崎④)


地元のお客様に応援されるJRA育成馬

○ 馬と電車
宮崎育成牧場はJR日豊本線宮崎神宮駅の近くに位置していることもあり、牧場の隣には高架の線路があります。育成馬の調教エリアからも近く、電車の音もはっきり聞こえるため、馬が驚くのではないかと心配になりますが、全く気にする様子はありません。1歳の夏から線路の近くに暮らしているためなのでしょうが、改めて馬が環境に慣れる動物であることを認識させられます。

Photo

(写真1)電車の見えるパドックでリラックス中の育成馬


駅近の牧場で飼育されている育成馬たちですが、昨年10月には一般の方々を対象に開催した「育成馬見学会」を開催いたしました。
このイベントは、地元の方や近くに競馬場がない南九州の方々にサラブレッドの姿をご覧いただくことで、競馬を身近に感じてもらうイベントです。今回の参加者のなかには、「いつも電車から厩舎や馬を見ていたが、近くで見ることができてよかった」という方もおられ、地域の皆様に見守られながら馬が育っていることを実感しております。今年も、恒例の来場者の皆様による育成馬の人気投票をしていただきましたので、その結果をお知らせします。
最も票を集めたのは、可愛らしい名前の「ポポチャン2019」と新種牡馬産駒の「スイートカルタゴ2019」の2頭でした。来場者の皆様の馬を見る目も肥えてきているのでしょうか、どちらも育成担当者の期待も高い馬でしたので、納得の投票結果といえます。きっと人気を裏切らない活躍をしてくれることでしょう。

2019

(写真2)スイートカルタゴ2019(父 シルバーステート) (2月撮影)

2019_2

(写真3)ポポチャン2019(父 アドマイヤムーン) (2月撮影)


これらの2頭以外にも多くの馬に投票をいただきましたが、本年の育成馬は例年になく順調に調教ができています。これから徐々にトレーニング強度を上げていく予定ですので、3月に開催予定の「育成馬見学会(一般向け)」や4月に開催予定の「育成馬展示会(関係者向け)」ではさらに逞しくなった22頭の育成馬を披露できると思います。


〇育成馬の調教状況について
現在では1600m馬場でハロン15秒を切るスピードでの調教を開始しているところです。12月までは、夜間放牧を行いながら有酸素運動能力と操縦性に主眼を置いた調教をメインに調整していましたが、最近では走行スピードと心拍数を上げることで無酸素性のエネルギー供給を刺激するような調教を実施しています。
昨年に引き続き、トレッドミルを用いたトレーニングも並行して実施しており、当初は幼さを残した体つきも筋肉質の馬体に変わってきました。週2回程度の高強度の負荷をかけたトレーニングを行いながら、4月のブリーズアップセール、さらには新馬戦に向けた調整を行っているところです。
トレーニング強度が高まるにつれ、精神的にイライラするような馬も出てきてはいますが、馬たちが少しでもリラックスできるよう放牧や自家製の生草の給与を行っています。写真のように温暖な宮崎育成牧場では1月でもイタリアンライグラスが青々と生育していますので、オンとオフを切り替えながら暖地のメリットを生かした調整を行っているところです。

Photo_2

(写真4)馬も草も順調に育っています

育成馬ブログ(2020年 宮崎②)

〇 ウインズのある宮崎育成牧場

 世界的にも新型コロナウイルス対応に追われた夏でしたが、宮崎育成牧場でも毎年夏の恒例の馬事イベント「馬に親しむ日」は中止とさせていただきました。毎年楽しみにされていた方も多いことから非常に残念ですが、来年は開催できる状況になっていることを願っています。

 また、当場の行事ではありませんが宮崎地方のもう一つの大きな行事「綾競馬」も中止が決定してしまいました。例年11月初旬に宮崎県綾町で行われる迫力満点の草競馬で、地元の方にとって最も身近な「競馬」であるだけに非常に残念な思いです。

 そのような中ではありますが、宮崎育成牧場内にあるウインズ宮崎は全国のウインズに先駆けて7月11日より営業を再開しております。ソーシャルディスタンスを保つなど感染予防策を講じたうえでの限定的な営業時間内での再開ではありますが、公園地区を含め当場を訪れるお客様も増えているようで、少しずつ賑わいを取り戻しつつある状況です。

 このウインズには当牧場で育成した活躍馬の写真も掲示されていて、育成牧場のなかにあるウインズならではのものとなっています。館内には本年活躍しているヨカヨカ号(宮崎育成牧場出身)の写真も展示してありますので、是非ご注目いただければと思います。なお、ヨカヨカ号は熊本産馬ということで、ウインズ八代(熊本県)にも写真を飾ってもらいました。     

1__2

【写真1】ウインズ八代にもヨカヨカ号の写真を展示しています

 また、ウインズ宮崎は育成牧場内にあることから、全国で唯一馬の調教の様子を見ることができるウインズでもあります。まだ躾の行き届いていない幼稚園生のような馬たちですので、馬の近くでご覧いただくわけにはいきませんが、タイミングが良ければダートコースを走る姿も見ることができます。

Photo

【写真2】ウインズ宮崎の屋外からは調教の様子も見ることができます

 

〇 育成馬の入厩完了

 さて、先日のセプテンバーセール(北海道)で本年の育成馬の購買が終了し、本年のラインアップが揃いました。今年も全国の1歳セリで購買した馬とJRA日高育成牧場で生産した馬を併せた22頭の育成馬が宮崎に入厩しました。育成馬の日高と宮崎の各育成牧場への振り分けについては、施設面や牡牝のバランス、血統、購買価格など様々な要素を検討したうえで決定しました。
今年も各セリでの購買馬が決定するたびごとに振り分けを行い、宮崎行の馬20頭を3回に分けて輸送しました。特に3回目の輸送では台風12号が接近している中での輸送でしたので、輸送計画の変更を余儀なくされましたがなんとか無事に終えることができました。今年も育成馬の輸送の様子はグリーンチャンネルの番組「馬産地通信」で紹介されており、毎年楽しみにされている方もいらっしゃるようです。今年の放映は既に終了しているようですので、もし来年の視聴機会があればチェックしてみてください。

3

【写真3】長距離輸送時は馬運車内で給餌します

 全馬の入厩が完了した後、馬たちの健やかな成長とこれから本格的に始まる育成業務の安全を祈願して入厩神事を執り行いました。同時に各所のお祓いもしていただきましたので、人馬のけがなく育成馬を送り出していけるようにしたいと思います。

4

【写真4】馬場のお祓いをしていただきました。落馬しませんように!

育成馬ブログ(2020年 宮崎①)

1歳セリと放牧地管理について

 

○ 初めてのオンラインビッド

 梅雨明けして本格的な夏が始まりましたが、今年の梅雨は例年にない豪雨に見舞われ、熊本県を中心とした九州各地で大きな被害がありました。宮崎育成牧場では大きな被害はありませんでしたが、梅雨期の総雨量が1,000㎜と平年の1.5倍を超え、馬道の砂が流れるなど少なからず影響がでており、温暖化や雨の影響について考えさせられた季節でした。

 雨ばかりの6~7月でしたが、1歳馬のセリが始まる季節でもあります。本年のJRA育成馬の購買も6月23日に開催された「九州1歳市場」を皮切りにスタートしており、7月7日の「八戸市場」、7月13日の「セレクトセール」まで無事に終えることができました。

 いずれのセリも新型コロナウイルス対策として入場者を限定するなど様々な対策を講じており、例年とは違った雰囲気の開催となりました。なかでも九州市場では1歳セリでは初めてとなるオンラインビッドが活用され、我々も初めてのオンラインでの入札に緊張しながら参加し、その使用感を体験しながら2頭を購買することができました。

Photo

写真1) 九州市場のオンラインビッド画面。2頭とも落札!

 

 これまでの3つのセールでJRAは7頭の1歳馬を購買しました。そのうちの6頭と日高育成牧場で生産したJRAホームブレッドのうち2頭の合計8頭が宮崎育成牧場に入厩しています。この育成馬たちは現在、16時から8時までの夜間に放牧しており、間もなく開始するトレーニングに向けて馬体や精神的な成長を促しているところです。

 

○放牧地の草種について

 この時期の育成馬は放牧地で1日のほとんどを過ごしていますが、サラブレッドの放牧地には「飼料としての牧草」と「自発的な運動場所」の2つを両立することが重要とされています。

 宮崎育成牧場では、本年から馬の放牧地の管理方法を変え、草種をこれまでのイタリアンライグラスからバヒアグラスに変更しました。一般的に国内の牧場では、チモシーやイタリアンライグラス、ケンタッキーブルーグラスなど比較的寒い地域に適した種類の牧草が多く利用されています。今回変更したバヒアグラスは、暖地型牧草に分類される多年草で、夏季の再生力が旺盛な点が特徴です。

 当場の放牧地は夏季~秋季の夜間放牧での利用が中心で、運動場所としての放牧を重視しています。そのような背景もあり、年間平均気温が17℃を超える九州の夏には暖地型牧草が適していると考え、今回の草地更新を行いました。

Img_8268

写真2) 常に採食可能となるよう掃除刈りで草丈を一定に保ちます

 

 バヒアグラスは道路脇にも雑草として生えているような身近な草ですが、馬の嗜好性はやや劣るとされています。そこで、茎が硬くなりすぎないよう小まめに掃除刈りを実施したり、放牧地のボロ取りをこまめに行うなど丁寧な管理を心がけています。

Dji_0131

 写真3) 集団で草をはむ育成馬

 

 草地管理スタッフの努力の甲斐あって、当初懸念していた嗜好性も問題なく、写真のように放牧初日からおいしそうに食べてくれて一安心といったところです。今後は栄養面についても各種分析を行いつつ、定期的に馬体重やボディコンディショニングスコアなども確認していく予定です。

育成馬ブログ(宮崎⑤)

○育成馬調教見学会を開催しました


暖冬の影響で雪不足に悩まされているスキー場も多いとのニュースもありましたが、育成馬を調教する者としてはできるだけ暖かいほうが助かります。今シーズンの宮崎の冬(12~2月)も全国と同じく暖冬で、最低気温も氷点下となる日は1日もなく、最高気温も10℃を下回る日は3日間のみと非常に過ごしやすい冬となりました。調教時間帯には汗ばむような日も何日かあり、早くも半袖で騎乗する姿も見られました。

Photo_2

写真)調教後にゲートを通過

 この時期の育成馬たちは、ブリーズアップセールに向けて運動負荷を次第に高めているところです。スピード調教時には、写真のように集団での調教や2列や1列といった様々な隊列を組んで調教していますが、週1~2回はハロン15秒程度のスピードで、騎乗者の指示に従うよう心がけて調整を重ねています。抑えきれないくらいの手ごたえの馬も増えてきていて、トレーニングによって力がついてきているのを実感しています。

16002

写真)隊列(2列)を組んだ調教

また、2月15日には、一般市民の方々や宮崎育成牧場の育成馬を応援していただいている方を対象に「育成馬調教見学会」を開催しました。今回の見学会は、改築した育成馬厩舎地区に見学者を迎え入れる初めての機会ということもあり、我々も馬の調教風景をご覧いただこうと楽しみに準備をしておりました。しかし、当日は前日からの雨により馬場状態が悪化したため、当初の予定よりスピードを抑えた調教の見学とさせていただきました。その代わりではありませんが、馬がトレッドミルで走っている姿を見ていただいたところ、見学者からは「間近に育成馬が疾走する姿を見ることができて楽しかった」との感想もいただくことができました。
これからも、競走馬の育成やJRA育成馬を身近に感じていただける内容のイベントにしていきますので、今後のJRA育成馬の活躍にも注目いただければと思います。

Tm

写真) 調教見学会ではトレッドミル調教も公開

育成馬ブログ(宮崎④)

新厩舎と新しいトレーニング機器

 宮崎育成牧場では昨年12月に育成馬厩舎を改築しました。これまでの厩舎は昭和44年に造られた木造の厩舎で、天井裏に藁や牧草を収納できる昔ながらの造りでしたが、いたるところに老朽化が進んでおり業務に支障をきたしていたことから今回の建て替えに至りました。

 完成した新厩舎は、これまでの一列に配置された馬房ではなく、馬がよりリラックスできるよう対面式の馬房を採用しております。また、換気に考慮して天井高に余裕のある構造になっています。育成牧場は宮崎の都市部に位置していることもあり、これまで鳩の厩舎内への侵入がありましたが、防鳥ネットを張り巡らせることで衛生面にも配慮しました。

 育成馬の引っ越しは、12月中旬に行いましたが、馬たちもすぐに新しい環境にも慣れて、一安心といったところです。これから始まる本格的なトレーニングに備える安息の場所として、末永く育成馬たちを見守って欲しいと思います。

 今回はもうひとつ、馬用のトレッドミル棟も新設しました。トレッドミルは古くからJRA競走馬総合研究所や両トレーニングセンター診療所において様々な研究や診断に活用されているほか、近年では民間の育成牧場や海外の厩舎でもトレーニング機器として広く活用されています。当場でも、体力評価の研究等を行うために育成馬への使用を開始しております。

 これまでは1,600mダート馬場と500mダート馬場が唯一の調教コースでしたが、今年の育成馬たちからはトレーニング機器としても積極的にトレッドミルを活用し、バリエーションを広げたトレーニングを実施しております。既にトレッドミルを用いた体力測定試験も複数回実施しており、トレーニング効果を実感しているところです。

 3月21日(土)に開催する育成馬見学会(一般の方向け)と、4月7日(火)に開催する育成馬展示会(購買関係者向け)では、新しくなった育成馬厩舎の前で育成馬を披露する予定です。是非足を運んでいただきたいと思います。

 ※追記

 3月21日(土)に開催予定の育成馬見学会(一般の方向け)は中止とさせていただきます。楽しみにされている方には大変申し訳ございません。

Photo

新しくなった育成馬厩舎

2

トレッドミルでトレーニングする育成馬

育成馬ブログ(宮崎②)

○育成馬のブレーキングはじめてます

 9月下旬にセプテンバーセール購買の牝馬3頭が新たに入厩し、本年の宮崎の育成馬22頭すべてが揃いました。一方、6月~7月に入厩した馬たちにとっては、宮崎での生活も数ヶ月が経過し、すっかり環境に慣れて一回りも二回りも体が大きくなって力も付いてきています。しかし、まだまだ競走馬とは言えません。競走馬になるには、いくつものことを教えていかなければなりません。そのひとつが、騎乗するための準備作業であるブレーキング(騎乗馴致)です。

 宮崎育成牧場においても、馴致や管理方法をまとめた「JRA育成馬管理指針」に則って管理しています。今年も9月から牡馬10頭のブレーキングを開始しています。

 今年の宮崎地方は雨の日が多く、豪雨によりラウンドペンとよばれる円馬場が水没することもありました。決してコンディションのよい日ばかりではありませんでしたが、馬と職員の頑張りにより予定通りトラブルなく騎乗まで教えることができています。

Photo

突然の雨にずぶ濡れになりながらも、馬を躾けます

Img_7216

入念なドライビングで「ハミ受け」を形成しながら、馬場等の環境に慣らします

 

 牡馬の騎乗の目処がついたら、次は牝馬の馴致にとりかかります。牝馬は牡馬よりも気難しいことが多いため、騎乗されることにマイナスイメージを持つことがないよう、馬が送るサインを読みとりながら丁寧に根気強く教え込んでいきます。

 なお、今年は通常のブレーキングに加えて、本年9月に新導入したトレッドミルにも慣らしています。

 近年では民間牧場でも珍しくなくなったトレッドミルですが、当育成牧場においても育成期の馬における効果的な使用法や馬体への影響などについて調査する予定です。結果がまとまるのはまだ先の話ですが、育成馬の健やかな成長とともに興味深い報告ができるよう知見を積み重ねて参ります。

Img_7253

トレッドミル棟もドライビングで通過させて徐々に慣れさせます

育成馬ブログ(宮崎①)

○ 宮崎の育成馬たち

 JRA育成馬は、「全国のサラブレッド1歳市場で購買した馬」とJRA日高育成牧場で生産した「JRAホームブレッド」とで構成されているのはご存知の方も多いと思います。

 宮崎育成牧場の特徴のひとつは、比較的上場頭数の少ない九州市場に近いこともあってか、日本各地の市場で購買したJRA育成馬が在厩しており、非常にバリエーション豊かな馬たちが揃っていることです。本年については、今年開催された国内のサラブレッド1歳市場すべてのセール出身馬が揃っています。

1

セリ開始を待つ本年の八戸市場。

 

 これまで開催された国内1歳サラブレッド市場は以下のとおりですが、これほど多様なセール出身馬たちを同じ場所で繋養しているのは、宮崎育成牧場くらいかもしれません。

 

※2019年に開催されたサラブレッド1歳市場

6月25日 九州市場(鹿児島):上場頭数17頭

7月2日 八戸市場(青森):上場頭数35頭

7月8日 セレクトセール(北海道):上場頭数239頭

7月16日 セレクションセール(北海道):上場頭数236頭

8月19日~22日 サマーセール(北海道):上場頭数1,197頭

 

 これからも9月のセプテンバーセール(北海道)と続きますが、JRAはこれら市場でも購買する予定ですので、さらに多様なラインナップとなる予定です。おまけにJRAホームブレッドも繋養していますので、JRA育成馬を応援される際は、どのセール出身の馬かということにも注目してみると面白いかもしれません。

 

○JRA育成馬の入厩(宮崎)

 日本各地で購買した馬たちは、それぞれ日高と宮崎で育成する馬とに分けられ、宮崎に振り分けられた馬については宮崎まで輸送するわけですが、その道のりは長く、日本縦断の旅をしているといっても過言ではありません。

 既に19頭の育成馬たちが宮崎育成牧場に入厩しておりますが、九州市場出身の1頭を除き、北海道や青森から輸送されてやってきました。馬の輸送には、馬運車という専用車で輸送しますが、北海道からは移動時間だけでも40時間をこえる大移動です。今年も7月と9月とに分けて購買馬を輸送しましたが、車中の馬の様子はというと、初めての遠足といった感じではしゃぐ馬がいたり、おとなしく行儀のよい馬がいたりと馬の性格もそれぞれです。

 人と馬の休憩のため、適宜休憩を挟んで輸送したこともあり、出発から3日後の宮崎到着となりましたが、無事に輸送を終えることができ、ほっとしております。

Photo

無事に宮崎に到着した育成馬。運転手さんも馬もお疲れ様でした。

 

 馬の輸送といえば、輸送後に発熱するなど馬へのストレスがしばしば問題になります。近年は、馬運車の性能の向上(エアコンやエアサスペンションの搭載)や高速道路網の発達により大幅に輸送環境がよくなったことに加え、これまでの馬輸送に関する研究や知見の積み重ねにより、より安全に輸送できるようになってきました。

 しかし、まだまだ輸送の問題が解決したわけではありません。馬の長距離輸送に関する知見を得るため、今回も購買馬の輸送中に定期的な血液サンプリングを行い、輸送が免疫機能に及ぼす影響に関する調査を行いました。人も馬も疲れる長距離輸送ですが、JRAの育成研究は購買馬の輸送段階でも実施していることを知っていただければ幸いです。今回輸送した馬たちの次の輸送は、来年のブリーズアップセールになる予定です。まずは、長旅の疲れを癒して、まもなく開始するトレーニングに備えてもらいたいと思います。

3

宮崎で初めての放牧で旅の疲れもリフレッシュ。

育成馬ブログ(宮崎⑥)

○セール前に一足早くお披露目しました

 

 JRAブリーズアップセールまで3週間を切りましたが、宮崎の馬たちも順調に

調教を重ねており、自信をもって送り出せる状態に仕上がってきています。

 先日、宮崎育成牧場では日頃お世話になっている地元の皆様向けに「育成馬

見学会」を開催しました。この見学会は、成長した育成馬の姿を市民の皆様に

見ていただき、競走馬となってからも応援していただきたいとの思いで開催し

ております。

 風が強くややコンディションの悪い中での開催となってしまいましたが、多

くの市民の様にお越しいただきました。一度に複数頭を並べて見比べていただ

く比較展示を行い、間近で育成馬たちを見ていただくことができました。展示

中には「きれいに手入れされている馬ですね」とお褒めの言葉もいただき、

我々としても少しばかり誇らしい気分にさせていただきました。ありがとうご

ざいました。

 

Photo

見学会では、市民の皆様が気に入った馬を牡牝それぞれ1頭ずつ選んでいただ

き、投票するイベントがあるのですが、今回は投票における人気馬をご紹介い

たします。

 

 牡馬の人気馬は、マチュアードの17(No.17 父ブラックタイド)です。

1歳時のセリで購買した際の評価も高かった馬ですが、順調に成長しており、

宮崎の育成馬の中で最も体高(164㎝)のある馬です。バランスのとれた馬体

と前向きな気性を持っており、非常に余裕のある走りをいたします。当育成牧

場はもちろん宮崎市民も期待の1頭です。

 

17     

左:No.17 マチュアードの17(父 ブラックタイド)

右:No.3 シャトルシャロンの17(父 ヨハネスブルグ)

 

 牝馬の人気馬は、アーリースプリングの17(No.48 父キズナ)です。

父キズナは本年2歳馬がデビューを迎える新種牡馬ですが、今回の投票結果か

ら種牡馬になっても現役時代と変わらずファンの多い馬であると感じます。

母系のブラックタイプには、スプリングソングやカレンチャンなどスピードの

ある馬の名前が多くみられますが、走りからは父が活躍した長距離でも期待が

持てそうな印象がします。気持ちがはやる素振りをみせるときもありますが、

スタッフの騎乗技術によって順調に調整できています。競馬場の広い馬場で存

分に走らせてあげたいと思わせる1頭です。

 

17_2

左:No.31 タイムトラベリングの17(父 フェノーメノ)
右:No.48 アーリースプリングの17(父 キズナ)

 

今回の紹介した馬以外にも期待馬が数多くおりますので、中山競馬場で皆様に

見ていただく日を楽しみにしております。