冬期の当歳馬の管理(生産)

新年あけましておめでとうございます。本年もJRA育成馬日誌をよろしくお願いいたします。日高育成牧場では、浦河町乗馬クラブやポニー少年団の子供たちとともに、恒例の騎馬参拝で新年の幕が上がりました。騎馬参拝を行った西舎神社で、本年の人馬の安全を祈念いたしました。

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本年も西舎神社にて人馬の安全を祈念いたしました

さて、北海道浦河では12月下旬の降雪により、一面銀世界へと変わりました。放牧草を主食とし、昼夜放牧時には1日に1420時間は採食している馬にとって、放牧地が雪で覆われる北海道の冬期は、飼養管理方法の変更を余儀なくされます。また、氷点下を下回る気温の低下やそれに伴う放牧地面の凍結によって、放牧地での自発的な運動量も減少します。特に、成長期の当歳馬にとって、この環境の変化は大きな意味を持ち、冬期には成長が停滞することが知られています。この成長の停滞をハンデと捉え、人的な管理でスムーズな成長を促すべきなのか、それとも厳冬期を乗り越えるための生理的な反応と捉え、それを理解したうえである程度自然に管理するべきなのか意見が分かれるところでもあり、大きな課題となっています。

昨年は“自然な状態での管理”というテーマで、厳冬期も昼夜放牧を実施しました。その結果、やはり厳冬期には成長の停滞を認めるとともに、冬毛も非常に伸びてしまい、夏毛へと完全に換毛したのは1歳の6月ごろであったために、外貌上の面を考えると、特に7月のセリへの上場を目標とする場合には、厳冬期の昼夜放牧の実施を強く推奨できるという結果には至りませんでした。一方、昨年、厳冬期も昼夜放牧を実施した生産馬達は、現在、育成厩舎で調教を行っていますが、セリで購買した他の馬との相違点も特に見当らず、厳冬期の昼夜放牧のマイナス点を指摘できることはほとんどない状況です。そこで、前回のブログでもお伝えしたとおり、本年は、11月末から昼夜放牧群(22時間放牧群)と昼放牧群(7時間放牧+ウォーキングマシンによる運動群)とに分け、臀部脂肪厚、屈腱断面積、成長に関わるホルモンなどの変化について比較検討を行っています。

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昼放牧群は収牧後にウォーキングマシンを実施し、写真のようにハートレイトモニターを装着し、運動中の心拍数を測定しています。

比較試験を開始してから1ヶ月が経過した時点では、GPSで測定した放牧地における運動距離は、昼夜放牧群では約7km、昼放牧群では3.5kmとなっています。また、ウォーキングマシンによる運動は5.5km/hの速度で60分間実施しているために、昼放牧群の総運動距離は9kmということになります。外貌上の変化は、昼放牧群では夜間の馬房収容時に馬服を着用させていることもあって、冬毛は明らかに昼夜放牧群の方が伸びています。また、臀部脂肪厚は昼夜放牧群では厚さが増加する傾向にある一方で、昼放牧群では減少する傾向にあり、すでに変化が出始めています。この臀部脂肪厚の相違は、昼夜放牧群の気温の低下に対する生理的な反応、昼放牧群のウォーキングマシンによる影響、あるいはエネルギー供給量の過不足など様々な要素が関連していると考えられるので、その原因については今後検討する必要があります。

当歳から1歳にかけての臀部脂肪厚は、育成調教を行っている1歳~2歳の冬期の同時期における臀部脂肪厚と比較すると、13程度の厚さであるということ、また、当歳の冬期のこの時期からすでに牝馬の方が明らかに厚いということは、非常に興味深い所見でした。育成調教を行っている1歳~2歳の適切な臀部脂肪厚というのは明らかにされていませんが、当歳の冬期のそれと比較して3倍の厚さであったという結果については、加齢性に脂肪が蓄積されていくためなのか、それともセリに上場するための管理された馬体づくりが、筋肉の発達ではなく、実は脂肪を蓄積させているためなのかは分からず、今後の調査検討課題となります。脂肪蓄積はマイナスに捉えられがちですが、冬期の脂肪蓄積は生理的反応であり、必要不可欠であるような気がしています。例えば、冬期には競走馬の馬体が絞りにくいといわれているのも、寒さに対して脂肪を蓄積するという生理的な反応であるとも考えられています。出走時の競走馬はともかく、それ以外の馬、特に当歳~1歳の冬期には、ある程度の脂肪蓄積が不可欠であるように思われます。この時期の適切なボディコンディションスコア(BCS)が5.05.5といわれているのは、やはり適度な脂肪の蓄積は必要であるということを意味しているのでしょう。

野生のエゾシカは、寒冷に対して皮下脂肪を蓄積して対応するといわれており、冬期に向けて脂肪を蓄積するために、秋期の採食量が1年で最大になっているようです。“天高く馬肥ゆる秋”あるいは“食欲の秋”という言葉は、馬や人のみならず、冬眠する動物を筆頭に全ての動物が冬を乗り切るために脂肪を蓄積するための本能的な行為を意味しているのではないかと感じています。北海道和種や半血種などの馬、気温の低下に対してエゾシカと同様に皮下脂肪を蓄えることによって適応しているのに対して、サラブレッド種は皮下脂肪が少なく、安静時の代謝量を増加させることによって適応することが報告されています。また、馬では気温の低下に伴って、繊維消化率が上昇することも報告されており、気温の低下に適応する能力は有しているようです。しかし、北海道の冬を乗り越えるためには、ある程度の脂肪の蓄積は必要であるのかもしれません。

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昼放牧群は放牧地で寝ることはありませんが(写真上)、昼夜放牧群は天気の良い日には横になって日光浴する姿が目立ちます(写真下)。このように科学的なデータでは表すことのできない馬の行動についても観察していきたいと思います。

○ 「胆振地区生産育成技術講座」と「BTC利用者との意見交換会」(日高)

北海道では12月に入っても最高気温が10℃を上回る日もあり、道内各地で12月の最高気温を更新しています。ここ浦河も例年と比較すると非常に暖かく、12月上旬に馬服を着せてパドックに放牧していると、少し汗ばんでいることもあるほどでした。このような暖冬は、馬を管理する我々にとって事故防止の観点から大歓迎ですが、スキー場のオープンが遅れるなど影響を受けている方々もいるので、北海道らしい冬が早く来ることを願っています

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暖冬のために坂路へ向かう途中に見える山でさえも積雪は僅かのようです。左からチジョウノテンシの09(牡 父:ケイムホーム)とタシロスプリングの09(牡 父:ファンタスティックライト

育成馬の近況について触れさせていただきます。馴致を開始した時期の早い順から第1群、第2群、第3群と3つに分けており、第1群は牡馬、第2群は牝馬、そして第3群は牡牝混合となっています。調教スピードの差こそあるものの、全ての群ともに800m走路において、一列縦隊での1周のキャンター実施後に手前を変え、2列縦隊での2周のキャンターを実施し、総距離2,400mのキャンターを行えるまでになっています。1群および2群については、12月から坂路での調教も開始し、順調に調教をこなしています。年内はスピードにこだわらず、特に牝馬は精神面を重要視し、リラックスした馬なりのキャンターでの調教に主眼を置き、年明けから徐々に運動強度を上げていく予定です。

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1群および2群については12月から坂路調教も開始しています。先頭左はタシロスプリングの09(牡 父:ファンタスティックライト)、右はレディービーナス(牡 父:フジキセキ

さて、ここからは11月下旬に行われました「胆振地区生産育成技術講座」と、12月上旬に行われました「BTC利用者との意見交換会」について触れてみたいと思います。

「胆振地区生産育成技術講座」は、胆振軽種馬農業協同組合および同組合青年部の共催で行われ、日高育成牧場のスタッフが講師として招かれました。当日は胆振地区のみならず日高地区からも多くの生産育成関係者の皆様に足を運んでいただき、会場は200名を超える満員となりました。

参加者の多く方々が講習会のことをインターネットで知ったということを聞くと、改めてインターネットによる広報効果の大きさを実感しました。

講習テーマは「仔馬の飼養管理について」および「競走馬の育成調教について」の2点で、前者では2年前から当場で取り組んでいる「生産からの育成業務」での研究成果から得られた知見である「pH値の測定による客観的な分娩予知方法」および「ホルモン剤投与による空胎馬への泌乳処置」によって乳母として導入に成功した例を紹介し、その他出生から離乳までの初期育成管理について、また後者では「馬自身のバランスでの走行」について講演いたしました。講演後には質問も多数いただき、また、参加者の真剣な眼差しに圧倒された講習会となりました。会場の設営等にご尽力いただきました事務局の皆様方には、この場を借りて御礼申し上げます。

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200名を超える方々に足を運んでいただいた「胆振地区生産育成技術講座」の様子。

BTC利用者との意見交換会」は12月の恒例行事となっており、本年は「若馬の騎乗に対する考え方」というテーマに基づき、強い馬を作るには騎乗者が何を考え、どのような騎乗を心がけるべきかについて、騎乗者の観点から5名のパネリストの方々を中心に活発な意見交換が行われました。5名のパネリストの方々のお話には、非常に説得力がありました。これは馬を取扱い、そして調教するなかで、自身で悩み、最善の策を考え、そして行動し、自身の経験を得てきた自信の表れではないかと感じました。一方、現状にとどまることなく、常に良いものを模索していこうという姿勢も非常に感じられました。何事も馬の調教と同様、私自身、「前進気勢」が最も重要であるということを感じずにはいられませんでした。非常に刺激を受けるとともに、多くのヒントをいただくことができました。

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例年同様に活発な意見交換が行われた「BTC利用者との意見交換会」の様子

09年日高育成牧場生産馬がJRA育成馬厩舎へ(生産)

 馬産地日高では、朝夕の冷え込みが一段と増し、日高颪も吹き荒れ、冬の気配が感じられます。そんな中、昨年より本ブログで近況をお伝えしていた2009年の日高育成牧場生産馬である1歳馬7頭は、繁殖厩舎からJRA育成馬厩舎へと巣立っていきました。今後は、1歳市場で購買した他の育成馬と同様に騎乗馴致が行われ、来年のブリーズアップセールに向けて調教が進められます。

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JRA育成馬厩舎へと移動し、ブレーキングが開始された09年日高育成牧場生産馬 写真はハギノゴールドキーの09(牡 父デビッドジュニア

日高育成牧場では、1998年より繁殖に関する研究を行ってきましたが、昨年度から「母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した調査研究や技術開発」を目的として、新たな取り組みを行っています。この取り組みのなかで、昨年誕生したのが、前述の7頭であり、“自然な状態での管理”というテーマに基づき、JRA育成馬厩舎へ入厩するまで、厳冬期も昼夜放牧を継続してきました。

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ハギノゴールドキーの09(牡 父デビッドジュニア)の1日齢(左)、5週齢(右)

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同じく4ヶ月齢(左)、10ヶ月齢(右)

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同じく14ヶ月齢(左)、18ヶ月齢(右)

写真で振り返ると順調に育ったように見えますが、生産馬を順調に1歳に育て上げるまで、生産者の方がいかに苦労されているのかをわずかながら、実感することができました。

これら7頭のなかでも、思い入れのある1頭を紹介いたします。その馬はハギノゴールドキーの09(牡、父:デビッドジュニア)です。同馬の母であるハギノゴールドキーは、当場において繁殖研究が開始された1998年より繋養され、受胎率も非常に高く、多くの研究成果に貢献し、さらに、学生のための直腸検査等の実習にも利用され、長きに渡って、繁殖研究を支えてきました。しかし、昨年、19歳で出産した産駒を最後に、高齢のため、繁殖生活にピリオドを打ちました。さらに、繁殖生活引退後の本年度も、4月にお伝えした育児放棄が起きた際に、ホルモン処置によって泌乳を誘発し、乳母として導入した代理母としても活躍し、当場の“カマド馬”的な存在です。前述のハギノゴールドキーの09は、この馬の多くの産駒のなかでも、ターフを駆けるチャンスを持つ最初で最後の唯一の産駒になるため、自然と期待が高まっています。

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多くの研究成果に貢献し、繁殖研究を支えてきたハギノゴールドキー

一方、本年生まれた当歳馬は、9月下旬から開始した分場での24時間放牧管理によって、のびのびと過ごしています。昨年は“自然な状態での管理”というテーマで、厳冬期も昼夜放牧を実施し、給餌についてもエンバクなどの濃厚飼料を最小限に止め、チモシーやルーサンなどの粗飼料を主体にしました。その結果、厳冬期には、成長の停滞を認め、冬毛も非常に伸びました。1歳の夏ごろまでには、馬体も回復したために、厳冬期の昼夜放牧の是非についてまでは言及することはできませんでした。そこで、本年は、厳冬期の昼夜放牧群と昼放牧群に分け、様々な項目について比較検討を行う予定です。興味深い結果が得られた際には、このブログでもお伝えしたいと考えております。

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分場で24時間放牧管理を行っている当歳馬たち

2010年度育成馬の入厩完了(日高)

日高地方では“雪虫”が飛び交い、日々、最低気温が更新され、冬の訪れを感じさせる今日この頃です。そんな中、10月中旬に行われたオータムセールでの購買馬2頭が、1022日に入厩を終え、そして、「生産からの育成業務」というテーマの中、昨年、当場で誕生した7頭のJRA生産馬が、1025日に繁殖厩舎からの移動を終えました。これによって、日高育成牧場所属のJRA育成馬63頭の入厩がすべて完了しました。

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JRAのオータムセールでの最初の購買馬となったマンデームスメの09(牡・父:クロフネ

JRAは例年サマーセールまでで購買を終えており、オータムセールでの1歳馬の購買は、本年が初めての試みとなりました。ここ数年、コンサイナーや各牧場のセリ馴致の技術が著しく向上し、ほとんどの購買馬は、人の指示に対して従順であるために、10月末に入厩したとしても、ブレーキングが遅れることなく、順調に進むものと考えています。また、オータムセールは本年から前半の月・火は主に新規の上場馬部門、後半の水・木はサマーセールからの再上場馬部門という区分がなされました。4日間のロングランで800頭以上が上場されるという大規模なセリですが、購買者が狙いを絞ってセリに参加できるこの区分は、お客様のニーズにマッチした対応であったと思います。

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JRAが生産した育成馬第1号のフジティアスの09(牡・父:デビッドジュニア

オータムセールの購買とともに、本年からの新たな取り組みという点では、JRA生産馬の育成厩舎入厩も同様になります。1歳のJRA生産馬7頭は、「母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した調査研究や技術開発」を目的として、1歳セリで購買した馬と同様に育成し、ブリーズアップセールに上場する予定です。昨年誕生した7頭は、“自然な状態での管理”というテーマに基づき、今回の入厩まで、厳冬期も昼夜放牧を継続してきました。セリのための馬体づくりも無関係に、濃厚飼料を最小限に、青草を主食として初期育成、および中期育成を行ってきました。そのためか、少し、お腹周りに余裕がある体型となっています。オータムセール購買馬とともに、最も遅い第3群でのブレーキングが、10月末から開始されています。他の育成馬同様に、ブリーズアップセールを経て、無事、競走馬になってくれることを願っています。

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800m屋内トラックでキャンターを行う第1群の牡馬

さて、9月上旬から騎乗馴致を開始している第1群の牡馬は、1列縦隊で800m屋内トラック2周の調教メニューをこなしており、非常に順調です。

一方、10月上旬からブレーキングを開始した第2群の牝馬は、ようやく騎乗ができるようになりました。一般的に、牝馬は、牡馬と比較して、騎乗に至るまでに、順調さを欠くことが少なくなくありません。第2群の牝馬のなかにも、ランジングレーンがお尻に触れることを嫌う馬、腹帯を嫌う馬、さらには騎乗するのを嫌う馬などがいます。

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人と同じで牡よりも牝の方が繊細なようです。腹帯に慣らすための、はじめてのローラー装着では、圧迫を感じてかぶったり、立ち上がろうとすることがあります。人は瞬時に追いムチや声によって、馬を前へと推進します。馬はハッピースキャットの09(牝・父:マンハッタンカフェ

このように、牝馬は非常に繊細であるために、『馬を支配』しようとするのではなく、『馬を導く』ことが、牡馬以上に必要であることを、再認識しています。例えば、馬に対して何らかの要求を行ったときに、すぐに答えを求めるのではなく、馬に考える時間を少し与える余裕を持つことが大切です。考える時間を与えずに、すぐに答えを求め、人が強引に支配する方向に進んでしまうと、特に牝馬はストレスを感じるのではないかと考えています。したがって、従順なように見える牝馬のなかにも、ストレスを内に秘めている馬もいるのではという前提で、日常の小さな変化も見逃さないようにしたいと心がけています。

離乳後の子馬たち(生産)

8月の離乳を終え、ひと段落した当歳馬たちですが、9月の中旬には恒例の血統登録検査が行われました。血統登録検査は、競走馬になるための第一歩でもあり、サラブレッドとして競馬に出走するためには、サラブレッドである旨の証明を受け、そして登録されなければなりません。血統登録のための検査は、最近の10年ほどで大きく変わり、血統、すなわち親子鑑定は、2003年に血液型検査からDNA型検査に変更され、さらに2007年からは、個体識別にマイクロチップ検査が導入されたために、血統登録検査は簡便かつより正確なものに発展しています。

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個体識別のためのマイクロチップ検査

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検査のためにトリミングされた

当歳馬キセキスティール10(牡 父:ケイムホーム

2007年産駒から、血統登録を行った全頭に対してマイクロチップが装着された結果、本年の札幌競馬開催における出走馬のマイクロチップ装着率は、6070%にも達しました。このように、現在は、競馬の公正確保に不可欠な装鞍所での出走馬の個体照合にも、マイクロチップが利用され、非常に有益なものとなっています。

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札幌競馬場の装鞍所でのマイクロチップ検査

出走馬の60~70%はマイクロチップを装着している

また、9月の下旬には分場へと放牧地を移動し、24時間放牧を開始しました。離乳後の不安を乗り切り、8頭の群れで落ち着いていた当歳馬たちでしたが、放牧地の移動という環境の変化に少しストレスを感じているようにも映りました。体重は前日から510kg減少し、放牧地での1日の移動距離は12kmから18kmに増加していました。母馬と離別する離乳時には、ストレスは最小限に止めることを第一に考えていましたが、離乳後は、可能な限り多くの環境の変化を経験させ、「心のブレーキング」を行うことも重要であると考えています。しかしながら、秋から冬にかけては、寒暖の変化も激しいため、感染症の発症には細心の注意を払わなければなりません。

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放牧前には飼付け場所となるシェルターに慣らしておく

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環境の変化を乗り越えリラックスする当歳馬たち

当歳馬たちを分場へと移動した当日の午後に、日高育成牧場内にヒグマが出没しました。分場は、本場よりもさらに山奥になるために、少し心配する一方で、子馬たちにとって適度な刺激となり、「心のブレーキング」になればとも思っています。

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当場の敷地内に出没したヒグマ

第1群のブレーキング開始!(日高)

91日から3日にかけてサマーセールで購買した馬が入厩し、ブレーキング(騎乗馴致)を913日から開始しました。今年の騎乗馴致は例年通り3群に分けて実施します。その群分けは、馬体の発育や入厩日等を参考に実施しています。また、日高育成牧場で生産した馬7頭も来年の競走馬デビューを目指して、馴致を行いますが、生産馬はもう少し成長を待って11月頃から騎乗馴致を開始しようと思っています。

BTCの研修生もJRA育成馬8頭を用いて実際に馴致を行う等の研修を行っています。BTCの研修生はここで一度ブレーキングを体験し、年が明けたら実際にJRA育成馬を活用して騎乗実習を行います。まだ、人の技術が追いついていませんが、実際に競走馬になるJRA育成馬を用いて、その調教過程を自分の肌で体験することは、優秀なホースマンになる上で必ずや彼らの大きな財産になることと思います。

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BTC教官指導の下、馴致を体験するとともに見学して学びます。ローラー(腹帯)馴致までスムーズに終了し、ラウンドペンの中で教官がドライビングを行っているのを補助しています。馬はザフェイツの09(牡 父スクワートルスクワート)

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外でドライビングを行う前にラウンドペンの中で馬に前進気勢を与え、活発に動かすことは重要です(馬は同じ)。

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実際に育成馬にまたがるところまで研修します。横乗りを行い、騎乗者の体重に慣らしながら馬房内を動かします(馬は同じ)。

 JRA育成馬の馴致は、育成牧場管理指針にも記載しているとおり、まずラウンドペンで調馬索を行うところから開始します。日高育成牧場では、調馬索後、さらに常歩運動を負荷する目的でウォーキングマシンを歩かせ、さらに、放牧を行って馬体のリラックスを図っています。当初、私自身、ウォーキングマシンは機械的な強制運動であることから好きではなく懐疑的であったのですが、馬の運動量を増やすことができることや、意外に馬も退屈そうではないので、積極的に使用しようと考えています。現在は6km/時のスピードで馬が落ち着いて歩くことができるまで、2030分程度行っています。また、まだ青草も多く気候もよいので、調教後には草を食べさせますが、まだ成長過程のこの時期には地面に生えている青草の摂取によってメンタル面でも馬をハッピーにできると考えています。また、集団で放牧する群れを活用することで、集団調教への移行も容易になります。

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馴致後、ウォーキングマシンにいれて歩かせ、放牧地に向かいます。放牧地までの引き馬も騎乗にいたるまでの重要な馴致と考えています。

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馴致が終わった後、昼間放牧をしてリラックスを与えます。

乳母と孤児の離乳(生産)

 1歳馬のセリシーズンは残すところオータムセールのみとなりました。本年JRAが購買した馬たちは日高・宮崎の各育成牧場に入厩しております。

 本年も日高育成牧場・宮崎育成牧場からの育成編、日高育成牧場の生産馬に関する生産編の3本柱で、育成馬や生産馬の近況をお届いたしますのでよろしくお願いいたします。

 初回は日高育成牧場の生産に関するお話です。

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“乳母と孤児の離乳”

全国的に猛暑の話題が尽きない今年の夏ですが、北海道も同様で、例年と比較すると明らかな猛暑に見舞われました。例年、お盆が過ぎれば涼しくなりますが、今年は9月に入っても日中の気温は25℃を越える日も多く、残暑は厳しい日々が続いています。しかし、馬にとって不快な存在であるアブは姿を消したために、放牧地の馬達はそれほど不快ではないように映ります。

例年では、暑さのピークを過ぎ、涼しくなる8月中旬に離乳を実施しているのですが、今年の猛暑では、暑さとアブによる二重のストレスが子馬を襲うことも考えられたので、実施時期を遅らせることも考えました。しかし、幸いにもアブの飛来数は少なくなってきたために、離乳後のストレスも許容範囲であると判断し、予定通り8月中旬と下旬の2回に分けて離乳を実施しました。

今回は、4月にお伝えした育児放棄を受けた子馬と、ホルモン処置によって泌乳を誘発し、乳母として導入した代理母馬との別れを中心に離乳について綴りたいと思います。

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育児放棄の母馬から虐待を受ける子馬(生後2週目)

4月にお伝えしたとおり、当場で育児放棄が起こり、子馬への虐待がエスカレートしたために、空胎馬にホルモン剤を投与して、泌乳を誘発し、乳母として導入する試みを行いました。乳母と子馬の対面から6日目にようやく乳母が子馬を許容し、その後、子馬は乳母によって順調に育てられ、春の陽ざしの中で放牧中の2頭は、ほんとうの親子のように映りました。(育児放棄その1その2

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本当の親子のように見える乳母と子馬(生後3ヶ月目)

離乳は、例年どおり、群れの安定化を目的として、45組の親子の放牧群から同時に全ての母馬を引き離すことはせずに、半数ずつの母馬を前半と後半の2度に分けて引き離す、“間引き方法”によって実施しました。そして、注目の乳母と子馬の離乳は、前半の8月中旬に行われました。この日は、JBBAの研修生および当場で開催している“サマースクール”に参加している大学生の見学が行われていたため、いつもより多くの人が見守る中での離乳となりました。子馬は5.5ヶ月齢に達し、体重は235kgにまで増加し、同時期に生まれた子馬より少し小さくみえるものの、立派な馬体に成長し、離乳を迎えました。

子馬は、乳母が他の母馬とともに、1kmほど離れた放牧地に連れ出された直後こそ、少し落ち着かない様子でしたが、15分後には早くも落ち着き、残っている他の母馬を中心とする群れの中で、草を食べ始めました。一方、乳母は別の放牧地に放された瞬間に、馬場柵沿いを走り回り、子馬を呼び続けていました。1時間後に、ようやく少しは落ち着きはじめたものの、立ち止まっては耳を澄ませ、いななく行動は、夜中まで続きました。

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離乳翌日の手入れ時にも落ち着かない乳母

離乳翌日の子馬は、落ち着いており、体重も離乳した子馬の中では最小の4kgの減少にとどまり、馬房に他の子馬と一緒に収容した後も、仲良く戯れ、ストレスは見受けられませんでした。翌々日には、体重も離乳前に復し、餌も完食するようになりました。一方、乳母は離乳翌日も落ち着かず、体重は40kg減少し、離乳した他の母馬より10kgほど多い減少となりました。翌日の午後になって、ようやく落ち着きを取り戻しました。

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非常にリラックスしている離乳翌日の子馬の様子

このように、離乳に際して、子馬は何もなかったように振る舞う一方で、乳母は他の母馬と比較しても明らかに不安定な状態となりました。これらのことを鑑みると、子馬は成長すると母馬への依存度は小さくなっていく一方で、たとえ乳母であっても、一度備わった母性の強さというのは、子馬の母馬への思いとは、比べられないほど強いものであるように思われました。また、これだけ強い母性を持っていた乳母であったからこそ、孤児を許容することができたのだと感じました。 

6/8「ひだかトレーニングセール」にむけて(上場予定のJRA育成馬紹介)(日高育成牧場)

6/8(火)JRA日高育成牧場で開催される「ひだかトレーニングセール」に上場を予定しているJRA育成馬(5頭)についてご案内いたします。なお状況により、欠場となる馬が出る場合もあります。詳細につきましてはJRA馬事部生産育成対策室(電話03-5785-7540)までお問い合わせ下さい。

2010 JRAブリーズアップセールを欠場した馬は6頭います。そのうち、タイキエンプレスの08(牡:父スウェプトオーヴァーボード)、ハナコスマイルの08(牝:父ネオユニヴァース)、ミズホの08(牝:父ネオユニヴァース)、メモラブルワーズの08(牝:父ストラヴィンスキー)、ニキトートの08(牝:父チーフベアハート)の5頭は、68日(火)に開催される『ひだかトレーニングセール』を目指して調教を進めているところです。※1

 これらの馬たちは、それぞれブリーズアップセール直前に発症した疾病や跛行等のため、順調に調教を進めることができませんでした。セールを見送った後は約24週間、馬体をいったん緩め、常歩運動で管理してきました。彼らに対する調教のポリシーはブリーズアップセールに上場する馬となんら変わりません。つまり、ステッキを入れてラスト1Fを速いスピードで走るためのトレーニングではなく、競走馬として必要な基礎体力をつけたうえで、馬自らが走りたい気持ちとなるような教育を行って上場するということです。しかしながら、当日のセールにおける騎乗供覧では、セリの雰囲気にあったスピードを出して皆様にご評価をいただくつもりです。

ここまでの調教過程を理解していただいた上で、JRAのポリシー、すなわち走行タイムだけではなく、いかにいいフォームで走ることができるかを見ていただければと考えています。なお、当日はセールのレポジトリーとは別に、上場馬の厩舎前に設ける予定のJRAブースにおきまして、上場馬の調教過程、疾病歴および個体ごとのX線・エコー・内視鏡画像をご覧になることができます。どうぞ、ご利用ください。

※1ダンツローレライの08は左肩跛行が良化せず、ひだかトレーニングセールを欠場することとしました。

Photo_6 ひだかトレーニングセール上場番号76番 ニキトートの08

ニキトートの08(牝父チーフベアハート)は、3月に喘鳴症を発症したためBUセールを欠場しました。セール後、日高育成牧場においてトレッドミル検査を行った結果に基づき、516日に声のうおよび声帯摘出手術を実施しました。経過も良好で、術後3日後から普通に調教を実施しています。姉はフィリーズレビュー2着の当場育成馬アマノチェリーランでもあり、血統的にも期待している馬です。

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ニキトートの08の調教(529日)

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縦列での調教で、先頭はひだかトレーニングセール上場番号75番 ハナコスマイルの08(牝 父ネオユニヴァース)です(529日)。

ハナコスマイルの08319日の屋内坂路馬場において3F46秒(16-15-15/F)の調教後に右後肢の跛行を呈し、レントゲン検査の結果、陳旧性の右第3趾節種子骨骨折も確認されたため、413日まで調教を休んでいました。現在では、スピード調教も順調にこなしており、元気よく走ることができるようになってきました。

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ひだかトレーニングセール上場番号74番 メモラブルワーズの08(牝 父ストラヴィンスキー)の調教後の常歩運動です(519日)。

メモラブルワーズの081月に左前内側管骨瘤がでたり、4月に右肩跛行を呈したりするなど、順調ではありませんでした。本馬は気性の勝った馬で、走りたい気持ちに身体がついていけなかったのですが、現在では心身ともに充実し馬体に身が入りつつあります。

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気候がよくなったので、天気のいい日はグラスピッキングを実施しています。

精神面のリラックスを図るとともに、馬に草食動物としての本能を刺激し、肉体的・精神的に健康に保つものと考えています。向かって左の芦毛馬は、ひだかトレーニングセール上場番号15番 タイキエンプレスの08(牝 父スウェプトオーヴァーボード)、向かって右が上場番号16番 ミズホの08(牝 父ネオユニヴァース)です(519日)。タイキエンプレスの08はブリーズアップセール前日まで順調に調教を行っていましたが、右前屈腱部の腫脹が見られたため欠場したものです。エコー検査を定期的に実施しながら、調教を進めています。また、ミズホの08は、312日に小腸捻転を発症し開腹手術を実施しました。腸管のダメージは少なく、切除はせず整復のみ実施したものです。術後の経過は良好で、術後18日から騎乗運動を開始し、順調に調教をこなしています。

育児放棄その2(経産空胎馬にホルモン剤投与を行い乳母として導入する試み(生産)

前回お伝えした育児放棄の続報です。本年が初産の母馬が育児放棄に陥ってから、3週間が経過しました。子馬に対する攻撃が、徐々に激しくなる傾向を認め、対策を考えなければならない状況となりました。高額な費用をかけて乳母を借りるか、孤児としてヒトの手のみで代用乳を給与して育てるか、それともその他の方法を試みるか非常に悩みました。

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育児放棄の母馬の子馬に対する攻撃は、徐々に激しくなっていきました。

今回、当場で選択したのは、高齢(20歳)のために、昨年出産後に種付けを行わずに研究用馬として在厩している空胎馬に対して、ホルモン剤投与を行うことによって泌乳を誘発し、乳母として導入する方法です。この方法はフランスの研究者が報告しており、当場では、今回が初めての試みとなりました。このホルモン処置は2週間必要であるため、育児放棄が発覚した数日後から開始しました。ホルモン処置を開始してから経時的に乳房が膨らみ始め、搾乳を開始した3日目には、1回の搾乳で1リットルもの乳を得られるまでに至り、乳母として導入する日がやってきました。

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ホルモン処置前の乳房(左)とホルモン処置13日後の乳房(右)

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ホルモン処置13日後には1回で1リットルの搾乳が可能となりました。

乳母を導入すること自体が、当場では初めての経験となります。乳母として導入する牝馬は、高齢のため落ち着いてはいるものの、少し気性の激しい部分も持ち合わせているために、また子馬が3週齢と導入時期が遅すぎるために、乳母の導入自体が成功するかどうかは非常に不透明であり、さらにホルモン処置によって子馬を発育させるために必要な泌乳量が得られるかどうかという不安も残っていました。

まずは子馬と産みの母馬との離別を行いました。これは予想していたとおり、問題なく終了しました。続いて、乳母と子馬との対面に移りました。乳母を導入する場合に、出産時に産道を胎子が通過するのと類似の刺激を子宮頸管に与えることによって、母性を誘発させられるとの報告に基づき、最初に乳母を枠馬に保定し、用手にて子宮頸管の刺激を実施しました。1度目の刺激時には目の前の子馬を威嚇したり、噛んだりしていましたが、2度目の刺激時には34回ではありましたが、子馬の顔を舐める仕草を認めました。しかし、その後も威嚇は続き、子馬が吸乳を試みる際には蹴ろうとするので、後肢を縛り付けることによって、なんとか吸乳が可能となりました。

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乳母と子馬の初対面時には、胎子が産道を通過するのと同様の刺激を与えて母性の誘発を試みました。

馬房に収容してからは、子馬の安全確保を最優先として、馬房内に簡易の枠馬を設置し、翌朝まで乳母を収容しました。それでも吸乳時には後肢で蹴ろうとするので、枠馬に畳を吊るし、その一部に小窓を開けて、子馬が安全に吸乳できるようにしました。対面を開始してから5時間が経過した時になってやっとスタッフが乳母の頭絡を持つだけで、抵抗なく吸乳を許すまでになりました。

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対面初日は馬房内に設置した簡易枠馬に乳母を収容しました。これにより吸乳時には子馬の安全が確保できました。

翌朝からは、インドアパドックや屋外パドックで2頭一緒に放牧を開始しました。対面開始から5日間は、完全に子馬を受け入れるまでには至らず、機嫌が悪い時には威嚇し、噛み付く素振りを認めることも珍しくはなく、そのために、子馬が避難できるように馬房内に鉄管を渡し、子馬専用のスペースを確保しました。また、子馬への授乳は、スタッフの保定がなければ不可能な状況が続きました。

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乳母導入後5日間は、子馬への威嚇が続き、乳母と子馬の双方にストレスが溜まっているように見受けられました。馬房に鉄管を通し、子馬専用のスペースを確保しました。

乳母導入から4日間が経過しても子馬を受け入れない場合には、導入を諦めるべきだともいわれているため、今回の導入は失敗したと考えていた6日目に、他の親子と一緒に放牧を行ってみました。当初は他の親子の姿を見て、母性を抱くきっかけになればと考えていましたが、他の母馬が威嚇してきたのを境に、子馬を守ろうとして蹴り返しました。それからお互いの威嚇が数分間繰り返され、双方の母馬が落ち着いた直後に変化がおきました。子馬を守ろうとの想いからか、乳母に完全な母性が覚醒し、放牧地の中でスタッフが保定することなく吸乳さえも受け入れ、常に子馬を守ることを第一に考えるようになりました。それ以降は、子馬の全てを受け入れ、本当の親子のように振舞うようになりました。子馬も生まれて初めて安らげる場所を見つけたかのようにリラックスして横たわるようになりました。さらに、以前はスタッフが馬房に入るとミルクがもらえると嘶き、跳び付くこともありましたが、乳母導入後はスタッフが馬房に入っても、体を揺すらないと起きないようになりました。

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他の母馬から子馬を守ろうとすることで、完全な母性が覚醒しました(右の親子が乳母と子馬)。

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母性が覚醒してからは、完全に子馬を受け入れるようになりました。

一方、ホルモン処置によって得られた泌乳量は決して十分とは感じられず、子馬を適正に発育させるために、現在も推奨量の1/3程度の代用乳を補助的に給与しています。今回のホルモン剤投与によって経産空胎馬に泌乳を誘発し、乳母として導入する試みは、泌乳量だけを考えると完全に成功とまではいませんでしたが、子馬の精神面を考えた場合には非常に効果的であったと感じています。今後はホルモン処置を行った乳母が正常に発情し、受胎できるのかについても検証する予定です。

今回の育児放棄を経験し、競走馬として1勝すること、あるいは競走馬としてデビューすることはもちろん、セリに上場させるまでに順調に発育させること、さらには無事出産させることの難しさ、すなわち軽種馬生産の難しさを実感することができました。ドラマであれば、このような育児放棄を受けた馬がG1競走に優勝したりするものですが、そう上手くはいかないのが軽種馬生産の現実です。当場で得られる知見が軽種馬生産の一助となれば幸いです。

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子馬は生まれて初めてリラックスし、精神的に落ち着きました。今回、最もがんばってくれたのは、もちろん20歳になった乳母でした。本当に頭が下がります。

若馬の坂路調教(日高)

 前任者が手塩にかけて育成した日高育成牧場の若馬たち56頭を、3月から引き継ぐことに伴い、ブログの筆者が変わりました。どうぞよろしくお願いします。前任者同様、「これがいい」という信念をもって、育成調教を行いたいと考えています。

 319日現在、通常調教は800m屋内トラックの調教をベースとし、また、スピードと体力をつけるトレーニングは、週2回、屋内1000m坂路で実施しています。坂路では、1本目を縦列でのストリングを組んでのステディキャンター(19-18/F)、2本目は併走で3F48秒程度(16/1Fペース)のスピードで、実施しています。特に、1本目の縦列では前後の馬、2本目の併走では横にいる馬にそれぞれ近づけて走ることができることを目標にしています。

 

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3/161本目の縦列調教。先頭はポレントの08(牝 父ネオユニヴァース)。

 

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3/162本目の併走調教。向かって左はポレントの08、右はドクターブライドの08(牝 父ロックオブジブラルタル)。

 

 屋内坂路馬場は、前半350mの平坦な部分と後半650mの坂路部分に分かれています。勾配は、最初の200m2.5%、次の350m3.5%、止め際の50m5.5%となっています。したがって、実質は600mの坂路ということになります。なお、タイムについては、スタートしてから150750m間を自動計測することができます。効果的に負荷をかけるためには、この測定区間の最初の1Fの平坦部分でスピードにのせ、坂路部分の3Fをしっかり走らせることが重要と考えています。負荷をかけたよい調教が行えたかどうかは、馬の動きや走り終えた後の息遣いを参考に心拍数や乳酸値を推定して判定するようにしています。119日号の当場ブログ「科学の目」にもありましたが、1月は18秒のキャンターで220まで上昇していましたが、現在(319日)ではそのスピードでは心拍数は200手前、すなわち有酸素運動でこなせるようになっていました。しかし、2本目のスピード(実際は15.5-14.5-14.7)における最大心拍数は226、また、調教後の血中乳酸値は13mmolまで上昇していました。これら数値が示すとおり、かなり頑張って走っているので、翌日に多少歩様の硬い馬も出ます。馬が現在の調教を楽にこなすことができるようになり、また、騎乗者の手ごたえがon the bridledとなってきたことを見極め、1600馬場でスピード調教へ移行して行くつもりです。なお、坂路の負荷は自分が想像したより大きいことから、坂路以外の800mトラック馬場調教日には、あまりスピードを出さず、隊列を整えた落ち着いた調教を行っています。

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3/18800mトラック馬場での調教。1本目は縦列(F24)、2本目は2列(F20)で隊列を整えることを目標に調教を実施しています。向かって右の栗毛はレイクミードの08(牝 父サクラバクシンオー)、左はシルクテイルの08(牝 父ゴールドアリュール)。

日高育成牧場で坂路馬場を使用するメリットとして、坂を登るための負荷をかけるトレーニング以外に、①調教場が厩舎から離れた場所にあるということや②坂路を2回常歩で下るということを考えています。①については、必然的にウォーミングアップやクーリングダウンを長く(片道約2km)行うことができる、②については坂道を下る際に、自然に骨盤以下の後躯を深く踏み込ませる効果があり、背中から腰にかけてのトップラインと連動するボトムラインの筋肉を強化できるのではないかと考えています(具体的に下り坂でどのような筋肉が鍛えられるかについての研究はこれからの課題です)。

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800m屋内トラックの調教後。1頭ずつ騎乗者のコメントを確認します。

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クーリングダウンは馬場内を1周した後、外周を1周します。

日高育成牧場の展示会412日(月)10時~ を予定しています。実馬展示後にブリーズアップセールに上場する予定の馬たちのトレーニングを皆さまに披露させていただきます。多くの皆さまのご来場をお待ち申し上げております。