冬期の昼夜放牧について(生産)

浦河では、12月中旬に続いた降雪がひと段落したと思っていた矢先、正月明けの大雪に見舞われました。さらにその後もマイナス10を下回る日が数日続くなど、例年になく厳しい冬となっています。

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正月明けの大雪によって1歳馬の腕節が埋まるまでの積雪となり、歩くのも一苦労です。

さて、前号に引き続き、昨年生まれの1歳馬の管理についてです。大雪によって放牧地に40cmもの雪が積もり、牧草摂取が不可能となったため、1歳馬を事務所付近の放牧地に移動しました。この放牧地にもシェルターはありませんが、現在も昼夜放牧を行っています。放牧地における運動距離をGPSで測定したところ、日中2.5km、夜間4.5km、合計7km程度で、やはり運動量は減少してきました。また、体重もここ2週間の推移は12kgの微増にとどまり、ほぼ現状維持となっています。特に最低気温がマイナス103日間連続で下回ったときには、3日間で全馬45kgほど体重が減少しました(その2日後の測定時にはしっかり回復していました)。一方、昼間のみの放牧管理を行っている空胎の繁殖牝馬の体重も、この期間を含む1週間で約710kg減少していたため、マイナス15にまで冷え込むような日には、摂取カロリーを増やす必要があると考えています。このように運動量と体重の増減を見る限り、昼夜放牧の限界に近づいているようにも感じられます。

一方、馬のコンディションおよび表情を見ると、必ずしも快適そうではありませんが、群れで乾草を頬張り、水を飲み、横たわり、そして放牧地を歩く姿を見ると、我々が想像しているほどダメージはないのかなという印象を受けています。また、この調子なら春まで昼夜放牧を実施できるのではないか、とも思い始めています。しかしながら、最も気温が低下する2月下旬を過ぎるまでは馬のコンディションを見極めながら、臨機応変に対応しようと肝に銘じています。

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現在放牧中の放牧地には多くの木が植えられており、馬達は好んで木の周囲に集まります。

ここからは、馬の寒さに対する適応力について触れてみたいと思います。一般的に、家畜化された馬が屋外で過ごせる限界温度は、マイナス1からマイナス9までと幅広い範囲の報告があります。ただし、これは最高気温が0を下回ることがほとんどなく、降雪も珍しい地域での調査です。しかし、北海道の気候に似たカナダで実施された研究では、「馬は温暖な地域から降雪を認めるような寒冷地に移動しても、その寒さに対して1021日で適応する」と述べられています。一方、寒冷地に繋養されている場合、寒さに馬体が容易に適応し、マイナス15までは馬服もシェルターもなく過ごすことができると報告されています。また、シェルターで雨風を遮った場合、熱放散を20%防ぐことができるとも報告されています。

一般的に、冬期の寒さに対しては、乾草の給餌が重要視されています。つまり、乾草などの高繊維飼料が微生物の働きによって盲腸と結腸で分解された際に熱が発生し、体内を温めることができるからです。このため、外気温が0から5ずつ低下するごとに1kgの乾草の増給が必要とされています。

帯広畜産大学の研究では、北海道和種や半血種は気温の低下に対して安静時の代謝量を増加させずに、皮下脂肪を蓄えることによって適応するそうです。一方、サラブレッド種は皮下脂肪が少なく、安静時の代謝量を増加させることによって適応すると報告されています。したがって、冬期の昼夜放牧に際して、どのようにして乾草を摂取させるかが課題となります。

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通常の乾草(手前左)とラップサイレージ(奥右)を同時に2つ設置すると、ラップサイレージを好んで食べます。

そこで、低水分ラップサイレージと通常の乾草を2つ設置してどちらを好んで食べるか比較したところ、圧倒的に低水分ラップサイレージを好むことがわかりました。ラップサイレージはヒートダメージ(空気と接触することにより好気発酵、品温上昇がすすみ、その結果品質が低下する現象)等に注意が必要であるため、冬期の給餌が適しているといわれています。給餌を開始して3週間ほど経過していますが、子馬に下痢や呼吸器症状等は認めていないので、春まではラップサイレージを給餌する予定です。

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ラップサイレージ(左)と通常の乾草(右)を同時に設置した5日後の状況。圧倒的にラップサイレージが好まれ、食べられていることが分かります。

科学の目 -心拍数や乳酸値の測定から得られるもの-(日高)

本年も12日の騎馬参拝で年が明けました。年明け早々は暖気が入り、年末に降り積もった雪もかなり緩みましたが、ここに来てマイナス10度を下回る日が続いています。特に5日午後から6日にかけて、地元の人でもあまり経験がないほどの大雪に見舞われ、例年になく厳しい冬となりました。一方、このしばれと雪にはよい側面もあります。調教後や調教オフ日の育成馬には、リフレッシュのために極力パドック放牧をしますが、地面がアイスバーンにならないため安全に放牧ができます。しかしながら、転倒による大怪我をさせてしまった過去の教訓もあり、春まで気がぬけない日々が続きます。

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毎年恒例の騎馬参拝で新年の行事が始まりました。参拝するポニー達。本年は諸般の事情から浦河神社の石段を登る参拝ができなくなったため、育成牧場の近くの西舎神社で実施されました。人馬の安全と育成馬の活躍を祈願しました。

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16日の大雪。800m屋内トラック馬場に吹き込んだ雪を、人海戦術で取り除きます。この日はとりあえずの除雪に10時過ぎまでかかりましたが、調教は無事実施できました。

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うず高く積まれた厩舎周りの雪。夜から降り続いた雪は60cm近く積もり、歩くのも一苦労。車も埋まってしまうため、早朝から厩舎地区へのアクセス路の確保が最優先で行われました。

さて、寒さの厳しい中、育成馬の調教は徐々に本格化し、800m屋内トラック馬場での2,400m(1+2周、ハロン23秒まで)の駆歩調教をベースに、週2回の1,000m屋内坂路調教(2本、ハロン20秒まで)を実施しています。坂路では1列縦隊シングルファイルの調教を行っていますが、求めるスピードをあげることに伴い、併走に移行します。

今回は「科学の目」についてです。馬を管理・育成・調教する際、担当者は自身の五感をフルに使ってその時々の馬の状態の把握に努めます。息遣いや息の入り方、発汗の程度、運動時に見せる様々な仕草、騎乗時の反応、四肢の触診、エサの食べ方など、挙げればきりがありません。これらの情報を元にそれぞれの馬に合わせた管理を行っていきます。そういった感覚にプラスされるのが「科学の目」です。例えば、毎日の検温や体重測定で得られたデータもその一つといえるでしょう。

現在日高育成牧場では、馬の状態把握に加えて日々の調教メニュー作成の一助とするために、数頭の馬を群全体のパイロットとして、定期的に調教中の心拍数測定ハートレートモニター使用と調教後の血中乳酸値測定(※)を実施しています。

例としてプリンセスレールの08父:チーフベアハートの、114日(図115日(図2の心拍数変化のグラフを示します。両日とも同じ騎乗者が騎乗し、14日は800m屋内トラック馬場、15日が屋内坂路馬場で調教しました。いずれも駆歩を2本行ったため、心拍数には2つの大きなピークがみられます。調教内容の変化や馬の精神状態に心拍数が敏感に反応することがよくわかります。

駆歩の心拍数を両日で比較してみましょう。

14日:トラック馬場 駆歩2本目(F2321秒)

平均心拍数:181最大209回/分 

15日:坂路馬場   駆歩2本目(F2321秒)

平均心拍数:188最大227回/分

両日とも走行速度はほぼ同様ですが、当然、心拍数は坂路調教のほうが高くなっています。特に最大心拍数は坂路では227回/分にもなり、この時期でのほぼ最大心拍数と思われる値を示しています。また、2本目の駆歩のあと心拍数が100回/分に戻るまでに要した時間は、トラック馬場の70秒に対し、坂路馬場では120秒かかりました。この心拍数だけをみれば馬にとってこの日の調教はかなりきつかったと考えられますが、騎乗者の感想は「まだ余裕がある」というものでした。

2本目の駆歩調教直後の血中乳酸値は、トラック馬場では殆ど上昇しませんでした。しかし、坂路では6.6ミリモルリットル(血漿で測定)にまで上昇し、無酸素運動が行われたことを示していました。

800m屋内トラック馬場は有酸素運動のトレーニング、坂路馬場は無酸素運動のトレーニングに有利な馬場ですが、総合的に見てこれら2種類の馬場を使っての現時点での調教により、十分効果が上がっているものと考えられました。

視点をかえて飼食いについてみると、例年調教が進むと少しずつエサを残す馬が増える傾向が見られます。2歳になった育成馬には、現在計7kgの飼料を一日4回に分けて与えています。今年も調教が続くことで週末になるとエサを残す馬が数頭いるものの、週末の軽運動日を挟んだ週明けには飼食いが回復しており、このことからも適度な調教負荷になっているものと考えられます。

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図1:800mトラック馬場で調教した際の心拍数変化。調教の流れは、角馬場での速歩歩様検査)常歩で移動駆歩1F2625常歩で手前変換駆歩2周(F2321秒)常歩での鎮静運動(約20分)。

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21,000m坂路馬場で調教した際の心拍数変化。調教の流れは、角馬場での速歩歩様検査)→常歩で移動駆歩1本目F2826常歩で坂路を下りスタート地点に戻る駆歩2本目(F2321秒)常歩での鎮静運動(約20分)。駆歩の2つの大きなピークの前に心拍数の上昇がみられますが、これは坂路を下る途中で横を馬が駆け上がり、馬がそれに驚いたことが原因でした。

いうまでもなく馬の状態をよく観察することは必須事項ですが、それに加えて心拍数や乳酸値の測定をはじめとした「科学の目」をオーバーラップさせることで、それぞれの管理者が五感に磨きをかけることができるとともに、より多面的に馬の状態や調教の適否を把握することができるようになると考えています。日高育成牧場でも得られた情報を元にして、若馬に対する調教メニューをよりよいものにしていきたいと考えています。

※運動後の血中乳酸値はトレーニング進度や調教強度の判定に使用できる指標のひとつといわれています。トレーニングにおいて無酸素エネルギーが利用されると、筋肉中に産生された乳酸は血液中に流れこみます。この血液中の乳酸値を測定し、4ミリモル/リットルを超えているか否かが無酸素運動か、有酸素運動かを判断するひとつの目安となります。

冬期の子馬の管理について(生産)

12月中旬に降り続いた雪のため、北海道浦河地方は例年より早く一面銀世界へと変わりました。北海道では冬期の積雪および低温を避けることはできず、当歳馬の管理方法の変更を余儀なくされます。

冬期には主食となる牧草が枯れ、気温の低下によって放牧地の路面が凍結するなど、飼育環境が急変します。当場においても、放牧地の草が枯渇したためか、群れ全体で体重が減少する傾向が認められました。そこで、離乳後から開始していたシェルター付き放牧地での24時間放牧管理を12月初旬で終了し、当場において最も遅くまで緑が残る放牧地に当歳馬を移動させました。

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メドウフェスクの混入割合が高い放牧地。12月中旬にも緑が残っています。

この放牧地は、なぜか最低気温が氷点下に達する時期にも緑が残るので不思議に思っていました。そこで日高農業改良普及センターの指導員の方々に調査してもらったところ、「メドウフェスク」の混入割合が高いためではないか、との返答をいただきました。メドウフェスクはシベリア原産の牧草です。耐冬性に優れているため晩秋期にも生育を続け、12月中旬でも緑が残るようです。一方、フェスク系の牧草は、「エンドファイト」と呼ばれる内部寄生真菌が産生するアルカロイドによる中毒症が問題となります。しかし、この中毒症は、主に妊娠馬に対して流産や無乳症を引き起こすといわれており、一般的に子馬の摂取には問題が無いと考えられています。放牧中の子馬を見ている限りは、嗜好性も概ね良好で、体重の増加もスムーズでした。晩秋期でさえも生育を続けるため、12月中旬でも草丈は15cm程度を維持しており、他の放牧地の草丈が5cm未満で地面が凍結している時でも、クッション性はある程度良好です。しかし、この放牧地は馬が退避するためのシェルターを備えていないため、いつまで昼夜放牧を継続できるのかが悩みの種となっています。十分な栄養は、良質な乾草やバランスの取れた配合飼料によって供給可能かもしれません。しかし、地面に生えている草を群れの仲間とむしり食べる行為こそが生理的に自然であり、子馬の成長にとって最も重要なことだと思っています。そのため、可能な限り昼夜放牧を継続し、濃厚飼料を最小限にした自然な状態で管理したいと考えています。

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嗜好性も良く、草丈が長いためクッション性も良好です。

昼夜放牧から昼放牧へ変更時期の目安は、①放牧地での運動距離の5km前後に低下したとき、および②体重が減少したとき、としています。放牧地での運動距離は、GPS装置を使って確認していますが、12月初旬に放牧地を変更した際が14km、そして降雪の翌日で最低気温が-10℃になった日でさえも10kmの移動距離が確認されました。一方、体重については、降雪が続いた日などには減少することもありましたが、緩やかな増加を認めました。そのため、現在も昼夜放牧を継続しています。

当初、シェルターがないことから、雨や雪の夜には馬体へのダメージを考慮して馬房に収容することも考えました。しかし、天気予報に反して雪が降る夜を放牧地で過ごした翌朝、子馬たちは背中に雪を背負っているにもかかわらず、意外にも清々しい表情をしています。さらに背中に積もった雪の下はほとんど濡れておらず、密な冬毛が馬体の暖かさを保っていました。

この日を境に、馬は寒さに適応する能力を有していると再認識するようになり、昼夜放牧を終了する時期については、子馬の行動および表情を見て決定しようと考えるようになりました。

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朝飼葉を食べるため馬房に収容した当歳馬。夜間の積雪により、背中に雪が積もっています。

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背中の雪を掃うとあまり濡れておらず、暖かさを保っていました。

北海道の冬期における当歳から1歳にかけての管理をどのようにするべきか、という問いに対する明確な答えは見つかりません。半日かけて移動する距離を、ウォーキングマシンを使用して1時間で強制的に運動させるべきなのか、または、将来のアスリートであることを考慮して、馬服を着せて皮下脂肪を蓄積させないように保ち、冬眠にも似た低代謝状態を避けるべきなのか、悩みは尽きません。しかし、調教が始まれば、当然のことながら毎日馬房に収容されます。したがって、それまでの期間は群れで管理し、放牧地で仲間と餌を食べて仲間と遊ぶことで自然に体力がつき、あわせて精神面も成長すれば良いな、と理想ばかり抱いてしまう今日この頃です。

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昼夜放牧時の午後、餌は放牧地にバケツをつるし、並んで食べさせています。馬房では餌を残す馬も、群れで食べさせると完食するから不思議です。

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雪は牧草を保温し、運動時のクッション性も高める役割を果たします。

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前肢で雪をかき分け、雪の下の牧草を食べる子馬。草をむしり食べる行為こそが、馬の自然な行動であり、欲求なのでしょう。

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調教へのこだわり パート2(日高)

北海道浦河では連日マイナス10度を下回る日が続いています。おまけにドカ雪も降り、新年を前に冬モード全開です。

本年売却した育成馬であるエスカーダ号(牡、父:バゴ)が、オープン競走のクリスマスローズSに勝利し、朝日杯FSに駒を進めました。有馬記念では、1世代上の当場育成馬であるセイウンワンダー号(牡、父:グラスワンダー)の活躍を期待しています。

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一面真っ白な雪道を坂路馬場に向かう馬達。

本年購買した育成馬は3つの群に分けて馴致を行いましたが、11月末には屋内800m走路での全馬の運動量の足並みが揃いました(馬なりで両手前1周ずつ、計1,600mのキャンター調教)。当初は単に群れで走る調教でしたが、2列縦隊での安定した走行が行えるようになり、現在は次のステップである一列縦隊での調教に移行しています。騎乗者を乗せてキョロキョロ、フラフラしていた第3群の馬達もその走りは次第に安定し、しっかりとした隊列が組めるようになってきました。また、馬の方から運動量を増やして欲しいという気持ちが表れはじめ、「走りたくて仕方ない」力溢れる走りがみられるようになってきました。12月からはキャンターの距離を2,400mに伸ばし、調教速度も屋内坂路で1ハロン20秒程度まで徐々に上げていきます。

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調教後の鎮静運動。約20分間(約2,000m)の常歩運動を行います。左からハートストリングスの08(牝、父:ゼンノロブロイ)、ペンタクルの08(牝、父:ロージスインメイ)、メモラブルワーズの08(牝、父:ストラヴィンスキー)、シルクテイルの08(牝、父:ゴールドアリュール)

今回は、昨年もこの時期にお伝えした、育成における様々な「こだわり」についてです。

日高育成牧場では、例年BTC(軽種馬育成調教センター)利用者との意見交換会を開催しています。この会では、昨年から「育成のこだわり」を話題として、2歳戦での競走成績が上位である5名の利用者の皆さんにパネラーになっていただき、育成・調教に対するそれぞれの「こだわり」を話していただいています。本年は育成牧場からのこだわりとして「馬の本性と調教」と題する話題提供の後、パネリストからその年の結果に対する感想と、その考えに至った理由を話していただきました。その後、パネリストと会場の質疑応答が行われます。

この会には、活発な意見交換をするための一つのルールがあります。それは基本的に全ての意見は言い切りで終わる、ということです。つまり「こだわり」に対して正しいか間違っているかを検討するのではなく、出された「こだわり」について納得できる人は吸収し、違うと感じる人は聞き流す、というスタイルです。もちろん、明確な科学的根拠のあるものについてはその都度説明します。絶対の根拠がなくても、それぞれの人が、自分で育成調教する中で感じ、辿り着いた「こだわり」ですので、何らかのヒントが含まれていることに間違いありません。

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意見交換会の風景。

少し専門的な内容も含まれますが、本年の参加者(JRA日高育成牧場を除く)から出された「こだわり」の一部を列記してみましょう。

1歳末までの調教量>

1歳時は無理をしない(A牧場)。

・坂路でハロン13秒台を出す馬もいる(B牧場)。

<準備運動について>

・ウォーキングマシンで1時間実施(B牧場)。

・常歩を10分から15分実施(C牧場)。

2本行う駆歩の1本目までを準備運動と捉えている(B牧場)。

・準備運動馬場で3040分両手前の常歩速歩を実施(D牧場)。

・草食獣である馬は常に走る準備ができており準備運動は不要という考え方を聞いたことがある(E牧場)。

2歳馬をトレセンに送り出すときの目安>

・直線ダートで5ハロン70秒、もしくは坂路で3ハロン40秒をクリアする(B牧場)。

・スピード調教日の調教後の馬体状態を見る。5月なら坂路で3ハロンを37秒程度課して、午後に馬がしぼんで見えたらまだ早い。エネルギッシュな状態であれば退厩体制が整ったと判断する(F牧場)。

・坂路で3ハロン36.5秒、1,600mダートトラックを5ハロン65秒で走ることができた馬の多くが新馬戦で勝ち負けできる(G牧場)。

<調教施設>

1,600mダートトラックを多用する理由は、蹄や腱が鍛えられるため。坂路によるインターバル調教では負荷が軽いと思う。また、調時の馬をしっかり観察できるのも良い。(G牧場)

・骨に刺激を与えるためには締まった馬場のほうがよい(C牧場)。

・より負荷のかかるほぐした馬場がよい。ただし、馬場が荒れるので中間ハローが必要になる(F牧場)。

<胃潰瘍について>

・納豆のとぎ汁を与え、納豆菌で整腸、健胃を図っている(B牧場)。

・濃厚飼料の多給が原因と考える。青草、乾草をなるべく多く食べさせている(C牧場)。

この他にも多くの意見交換がなされ、当初予定していた2時間が短く感じられました。

BTC利用者の多くは現状に満足せず、最大限の知恵を絞り、持てる施設をフルに活用して色々なことにこだわって「強い馬づくり」という目標に向け、努力していることがひしひしと伝わってきました。一見すると相反するようなこだわりもありますが、登る山は同じでも、色々なルートがあるのだなと強く感じさせられました。

日高育成牧場でも育成馬をしっかり観察する中で「こだわり」を持って育成調教を進めていきたいと思いますし、併せてそれらを少しでもわかりやすく、なるべく科学的な分析や根拠も加えて広く普及していくことが大きな使命であると考えています。

それでは皆様、良い新年をお迎えください。

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“血統登録検査”について(生産)

北海道浦河では“雪虫”が飛び交う時期も過ぎ、さらに10月の終わりに最低気温‐6℃を記録し、早くも冬を迎えています。生産の現場では、離乳を終えると年明けの出産シーズンまでは放牧中心になるため、代わり映えのしない毎日となります。しかしながら、秋から冬にかけては、寒暖の変化も激しいため、毎日の子馬の体調チェックは欠かせません。そんな心配をよそに、子馬たちは、離乳後から開始した分場での24時間放牧管理によって、半野生馬と化しており、鹿を追いかけ、自主トレーニングに励んでいます。

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鹿を追いかけて“馬鹿”げた自主トレーニングに励んでいる子馬たち。北海道では鹿が増え、農作物への被害が深刻な問題となっています。

今回は、9月に行われた子馬(当歳馬)の血統登録検査について触れてみたいと思います。サラブレッドとして競馬に出走するためには、サラブレッドである旨の証明を受け、そして登録されなければなりません。サラブレッド誕生の地である英国では、1791年に出版された繁殖記録台帳であるGeneral Stud Book」から血統登録の歴史は始まっており、血統登録の歴史が、サラブレッドの歴史そのものとなっています。現在では、日本を含め世界各国で英国の形式が踏襲され、血統登録が行われています。日本では(財)日本軽種馬登録協会がその業務を実施しています。ちなみにサラブレッドなどの軽種馬以外の登録は、日本馬事協会が実施しています。

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個体識別検査のためにマイクロチップリーダーを使用して、番号を確認する日本軽種馬登録協会の登録審査委員

検査当日は、2名の登録審査委員の方が来場され、検査を実施していただきました(写真)。実施する検査は、主に馬の個体識別と親子鑑定検査です。個体識別検査は、以前は性別、毛色、頭部や下肢部の白斑、そして毛(つむじ)などによって行われていましたが、2007年産まれの馬からマイクロチップが併用されるようになりました。マイクロチップ検査の導入により、個体識別は簡便かつ確実となったため、2009年産まれの馬からは、当歳時と1歳時に2回実施されていた個体識別検査が、当歳時の1回だけに変更となりま。個体識別は、近年のサラブレッドの経済的価値、さらには競馬の公正確保を考えた場合には、非常に重要なものとなっています。

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マイクロチップ本体は直径2mm×長さ11mmの円筒状で非常に小さく、写真下の注射器を用いてタテガミの生え際の下の靭帯内に挿入されるため、馬への苦痛・ストレスはほとんどありません。

血統、すなわち親子鑑定検査は、以前は血液型検査によって実施されていましたが、2003年から導入されたDNA型検査によって、その精度は99.9%を超えるようになりました。現在は、510本のタテガミあるいは尻尾の毛根をサンプルとして検査を実施しており、採血も不要となったため、子馬へのストレスもほとんどなくなり、人馬ともに安全な検査となっています。

我々にとって、この検査は初めて外部の方に子馬を見ていただく機会であり、セリに上場するような気持ちでトリミングを実施しました。スッキリと手入れされ、少し気取って立つ子馬たちの姿を見ると、少し頼もしく思えました。

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フジティアス09(牡、父:デビッドジュニア)。221日生まれで当場の長男です。

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ラストローレン09(牡、父:デビッドジュニア)。54日生まれで当場の末っ子です。

昼夜放牧について(日高)

北海道浦河では昨年よりも19日早い109日に日高山脈の初冠雪が見られました。紅葉も終わり、木々は冬支度万全といったところです。降雪もまもなくです。

昨年売却した育成馬から、クラシック最終戦となる秋華賞にはダイアナバローズ(父:シンボリクリスエス、母:チッキーズディスコ)が出走、菊花賞にはセイウンワンダー(父:グラスワンダー、母:セイウンクノイチ)が出走し3着に頑張ってくれました。

3群に分け馴致を進めてきた56頭の育成馬達は、2群までは集団調教の段階に入っており、残る3群も騎乗前のドライビングを行っています。

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800m屋内馬場で安定した2周の駆歩ができるようになると坂路調教をスタートします。1群の坂路調教初日は1030日で、誘導馬を先頭に15頭が一群となりゆったりと駆け上がりました。

さて、今回は昼夜放牧について書きたいと思います。このところ昼夜放牧はかなり一般的に実施されるようになりました。夏季の早朝や夕暮れ時の日高路を車で走れば、薄明かりの中で「まだ(もう)馬が放牧されている」という風景に出会うことが多くなってきました。

昼夜放牧を実施する利点としては、放牧時間が長くなることにより運動量が増す、夜を経験させることにより馬が精神的にタフになる、エサ代や寝藁代の節約になる、などが挙げられます。

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朝、視界がよくなると、疲れのあまり肢を投げ出して寝る群れの姿をよく目にします。数頭が見張り役を担当し、他の馬はいびきが聞こえてきそうなほどの熟睡です。

一方、なかなか昼夜放牧に踏み切れなかった牧場の方の多くが、監視の届かない夜間に放牧するのは危険だ、ということを口にされていました。最近では昼夜放牧が普及する中で、徐々にその懸念が薄れてきたのではないかと思います。

しかし、注意しなければならないのは放牧地が狭かったり、放牧頭数が多かったりすると、放牧地自体が荒れて(疲れて)しまうという問題です。そのような場合にはこまめな馬糞拾いや牧草量や草質の維持など、より注意深い草地の管理が求められます。馬の行動観察から、1頭あたりの適切な放牧地の面積はおよそ1ヘクタールという話をよく耳にします。20時間以上の昼夜放牧をしても放牧地が傷まない広さと、いう考え方からもこのぐらいの面積は必要であるように感じています。

一括りにするのは危険かもしれませんが、欧米では馬に十分な広さの放牧地を用意できるのであれば、昼夜放牧をしたほうがより馬にとって自然で快適ではないかという考え方が主流です。これは、加えて経費と労力を節約できることも大きな要因のようです。

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秋も深まり朝日の中でゆったりと草を食む育成馬。体力がついたのか、度胸がついて夜間もリラックスできるようになったのか、疲れて肢を投げ出して寝る姿はほとんど見られなくなります。左からイブキフリッカーの08(牡、父:ファルブラヴ)、オスカースマイルの08(牡、父:デビッドジュニア)、ゲルニカの08(牡、父:ロックオブジブラルタル)。

本年、当場では7月に購買した育成馬9頭の騎乗馴致を3群目として、それまでの3ヶ月間じっくり昼夜放牧(1620hr)を実施してきました。昼夜放牧と書きましたが、当場では8月の一時期にはアブなどの吸血昆虫による馬の消耗が著しいため、若干夜間にシフトして行いました。

群れが安定し、放牧地の環境に慣れてしまうと馬が動かなくなり、運動量が減少するという問題が生まれます。特に牝馬の群れでその傾向が強いように感じます。その対策として、少しでもフレッシュさを保つために定期的な放牧地の変更を行います。牝馬の群については3箇所の放牧地(3ha2ha4.5ha)を使いました。また、まめに掃除刈りを行い、草丈を短く保つことで採食のために動くという副次的効果があるため励行しました。

期間中の馬体重の変化は下図のようになります。最初の数週間は体重増減にばらつきがあるものの、9月に入るとほぼ全ての馬が順調な成長を見せています。皮膚病が出たり毛が焼けたりと、見た目だけでは購買時よりも見劣るものの、ボディーコンディションスコア(馬の肥満度を現す指標)を維持しつつ、体は一回り大きくたくましくなったように感じます。放牧開始当初の体重増加にばらつきがみられるのは、セリに向けた準備のため昼夜放牧を一時中止するなど、牧場での管理方法の違いなどが要因であると思われます。

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7月に購買した牡馬の入厩から昼夜放牧終了前までの体重推移です。8月中間に体重が減ったゲルニカの08は、体重測定時に感冒のため馬房内休養していました。

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7月に購買した牝馬の入厩から昼夜放牧終了前までの体重推移です。9月以降は順調な増加傾向を示しています。タイランツフェイムの08は昼夜放牧を経験しておらず、ハナコスマイルの088月下旬から9月上旬にかけて放牧を疾病のため休んでいます。

また、これまで昼夜放牧を行うと十分な運動によって管が太くなるという印象があることから、その要因を調査するため、現在昼夜放牧の開始前と終了時に屈腱部のエコー検査も実施しています。この結果についてもまとまりましたらご報告したいと考えています。

“離乳(子馬と母馬の別れ)”について(生産)

軽種馬生産の現場で晩夏から早秋の風物詩となっている子馬の離乳が当場でも行われました。離乳と聞くと悲しい儀式のように思われている人が多いのではないでしょうか?離乳直後の子馬が母馬を呼ぶ“いななき”を聞くと、ほとんどの人が胸を締め付けられる思いになるでしょう。実際、離乳後には明らかにストレスを受けているように見えることも少なくなく、食欲が落ち、体重が減る場合もあります。そのため、無事に離乳が行われることを願い、縁起を担いで「大安」の日を選んで行う牧場もあるようです。

一方、海外では日本ほど離乳を特別なものとは考えていないようです。広大な敷地面積を有する海外の牧場では、子馬と母馬を完全に隔離することが可能であり、24時間放牧などを実施しているため、母馬を想うストレスを最小限に止められることがその一因なのかもしれません。それ以外にも文化の違い、すなわち人に目を向けても1歳未満の乳児も母親と別々の寝室で寝ることも珍しくない海外と、5歳頃までは添い寝を続ける日本との差であるようにも思われます。

母馬と別れることは、子馬にとって非常に不安であるに違いありません。しかし、群れで行動する馬という動物の性質を考えた場合、離乳後すぐに安心して生活できる安定した群れの中で過ごせることが最も重要なポイントになると考えています。

この考え方に基づき、本年度は群れの安定化を目的として、45組の親子の放牧群から同時に全ての母馬を引き離すことはせずに、半数ずつの母馬を2度に分けて引き離す“間引き方法”を実施しました。これに併せて、安定した群れを維持するために“離乳直後から行う24時間の放牧”を試みました。その際、気温が高くアブが多い日は、子馬へのストレスが増すように感じられたので、昼間は馬房に収容することとしました。また、当場の繁殖馬房は大き目に作ってあることから、厩舎への収容時に群れから離れ1頭になるストレスを軽減する目的で、離乳後の子馬を2頭ずつ同じ馬房に収容しました。この方法が功を奏したのか、食欲が落ちることなく、体重も著しく減ることはありませんでした。今後も、どのような離乳方法がストレスを最小限に止めることができるかについて、考えていきたいと思います。

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写真①:離乳後、落ち着きがない子馬たち。

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写真②:諦めて残っている母馬の方へと向かう子馬の群れ。

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写真③:他の母馬をリーダーとして新たに安定した群れを形成しました。

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写真④:離乳後は2頭で1つの馬房をシェアすることでストレスを軽減させました。

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写真⑤:馬房収容2日後。早くもリラックスしています。

今年のラインナップが揃いました(日高)

824日から5日間にわたり開催されたHBAサマーセールにおける61頭の1歳馬購買で、今年のJRA育成馬80が全て揃いました。これらのサマーセール購買馬のうち、日高で育成を行う馬達47頭が、92日(牡馬)と4日(牝馬)に無事入厩しました。これで来年のブリーズアップセールにむけて日高で騎乗馴致・調教を実施していく育成馬は7月に購買した9頭(セレクトセール購買3頭、セレクションセール6頭)に加えて56(28頭、牝28)となります。

さて、日高育成牧場ではこれらの馬に対する騎乗馴致を99日から開始しました。当牧場では例年3つのグループに別けて順次騎乗馴致を実施しています。若馬への負担をなるべく少なくし、安全でより良い騎乗馴致を目指すため、グループの設定には毎年頭を悩ませるものです。昨年までの成績、牡牝や購買馬の状態を踏まえ検討した結果、今年の騎乗馴致については、サマーセール購買の牡馬25頭のうち21頭を第1グループ(第1群)、牝馬のうち約20頭を第2グループ(第2群)として騎乗馴致を行うことにしました。また、7月市場の購買馬9頭は第3グループ(第3群)として10月中旬以降に騎乗馴致を開始する予定です。馴致グループの設定における昨年との違いは、牝馬を含めてサマーセール購買馬は入厩後すみやかに騎乗馴致を実施するという点です(牡馬は昨年から実施)。最近では、既にセリ馴致が十分に施されていて、かなり人との信頼関係ができている馬が多く見られます。そこで、セリ馴致からそのまま騎乗馴致を行い、騎乗調教へスムーズに移行しよう、という考え方です。一方、7月購買馬は入厩後約3ヶ月間、昼夜放牧により管理することになります。その間、馬体の成長と充実を待つとともに、長時間放牧による基礎体力の向上を期待しています。

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牡馬は新しく大きな群を作ることによるストレスと危険が大きいため、入厩直後から2頭のペアを組んで放牧を開始します。まずは順位決めの「すもう」です。どちらが、強いでしょうか?どちらが速い競走馬に成長するのでしょうか?楽しみです。

左:マイネコサージュ08(父:ネオユニヴァース)、右:ボルジア08(父:ロックオブジブラルタル)

さて、今回は入厩時調査についてお話ししたいと思います。各市場においてJRAが購買した際に、飼養者の方にアンケートを配布して飼養状況に関する調査協力をお願いしています。このアンケートは入厩時に持参していただき、購買馬の履歴、癖などの把握に役立てたり、騎乗馴致順の決定の参考資料としたりしています。その内容は、生産牧場における管理(放牧時間・昼夜放牧or昼間放牧・ウラホリや検温の経験の有無・装蹄の有無および期間など)と、コンサイナーにおける管理(引き馬やウォーキングマシンでの運動時間や期間・ランジング実施の有無・飼葉の内容や回数および嗜好性など)に関することです。調査項目は詳細かつ多岐にわたりますが、JRA購買馬の飼養管理情況の確認には必要な調査です。参考までに、今年サマーセールで購買して日高で育成する47頭の調査から何点か簡単に紹介します。生産牧場でセリ上場前に昼夜放牧を実施したものは牡50%(12/24頭)、牝76%(16/21頭)でした。また、昼夜放牧実施したもの(昼夜群)と昼放牧のみ実施したもの(昼群)を比較すると、放牧時間の平均は昼夜群18.1時間/日、昼群11.5時間/日、放牧地の広さの平均は昼夜群3.6ha、昼群2.2ha、同時放牧頭数は昼夜群4.4頭、昼群3.3頭でした。アンケートの詳細な結果については数年分のデータがまとまり次第生産者・育成者の皆様にもお知らせしたいと思っています。JRAにとっても生産地における若馬の管理状況の把握に役立つ貴重なデータとなると思われます。

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各市場でJRAが購買した際にお配りする「育成馬入厩時調査票」

<日高育成牧場だより>

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毎年恒例の「日高育成牧場バスツアー」でも騎乗馴致見学が始まりました。初回の916日の参加者は15名でした。

<日高の四季>

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日高育成牧場内のナナカマドも紅く色づきました。実りの秋はすぐそこまで近づいています(916日撮影)。ナナカマド(七竈)の花言葉:「慎重」「賢明」「用心」「私と一緒にいれば安心」「怠りない心」だそうです。

日高育成牧場における仔馬の出産(生産)

今回より1歳セリでの購買から4月のブリーズアップセールまでを綴った日高・宮崎での育成編に加え、「JRA育成馬日誌(生産編)」と題して、日高育成牧場での生産馬の近況についてもお届けしますのでよろしくお願いします。

日高育成牧場では10年前から生産した研究馬を利用して栄養、繁殖および運動生理に関して、主に基礎的な研究を行ってきました。そして昨年から、それらの研究成果をベースに母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した育成研究を開始し、その過程で新たな調査研究や技術開発を行うこととなりました。今年生まれた7頭の産駒から、1歳セリで購買した馬と同様にブリーズアップセールまで育成し、競走裡での検証を実施することとなります。まず手はじめとしてこれらの生産馬を活用して、様々な初期・中期育成時期の問題解決に役立てていきたいと考えています。例えば、生後直後から定期的にX線検査、エコー検査、内視鏡検査を実施し、正常ではない所見がいつ発症するのか、その所見が発育とともにどのように変化し、さらに競走期のパフォーマンスに影響するのかなどを調査することもひとつの課題です。今後、得られた成果を生産地にフィードバックすることで「強い馬づくり」に貢献できればと考えています。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、第1回目は出産について触れてみたいと考えています。本年度は2月~5月に7頭の出産を無事に終えていますので、回顧して綴ってみたいと思います。“馬のお産”と聞いてイメージするのは23人で子馬の前肢を引っ張り出す光景だと思われますが、日高育成牧場では母子ともに自然のリズムに従い、双方の準備が整った上で分娩が進行するように、自然分娩を実践しています。この自然分娩には子宮の負担を軽減させ、受胎率を向上させる効果もあると考えています。私自身もこれまで分娩では介助が必要であるとのイメージを抱いていたので、最初の頃はイキミ始め寝起きを繰り返す姿を見ると不安になりました。しかしながら、破水後に膣の中の子馬の2本の前肢と鼻端を触知し、正常な胎位であることを確認しさえすれば、通常は破水から30分程度で自然に分娩が終了するので介助は必要ありません。

自然分娩は人的に牽引されることによる子宮への負担を軽減させるだけでなく、母馬は娩出に伴う自然な疲労により横臥状態を維持するため、臍帯が切断されずにつながったままとなり、胎盤からの血液が十分に子馬へ供給されます。さらに人的介助なく産道を通過する時のストレスは、子馬に多大な刺激を与えるため、起立までの時間が短くなるなどの利点があります。

本年度は7頭中1頭のみ人的介助が必要となりましたが、全頭無事に出産を終え、現在は体重も200kgを超えるまでに成長し、8月末の離乳に向け親子間の放牧地での距離も徐々に広がっていっている状況です。次回は離乳についてお届けできればと思っております。

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破水後には少し苦しむように寝起きを繰り返す場合もあるが、これは母馬自身で子馬の胎位を修正しているためです。

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肩が通過するのに時間を要するが、肩が通過するとすぐに胸まで通過します。3_3

臀部まで娩出後も後肢は産道の中に残ったままの状態で落ち着くことが多い傾向があります。

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自然分娩では子馬ばかりでなく母馬も大仕事を終え疲労しており、直ぐには立ち上がらないため、臍(へそ)の緒はつながった状態で血液供給が十分に行われます。

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一息ついて、親子のスキンシップとなります。

7月購買の育成馬が入厩しました(日高)

新馬戦が始まってから概ね2ヶ月が経過しました。本年売却したJRA育成馬達も順調にデビューしており、現在5頭が5勝、その内3頭がメイクデビュー勝ちを飾っています。それぞれの馬がこれまでの育成過程で学んできた成果をフルに発揮し、今後とも順調に活躍することを期待しています。

さて、先月28に、7月の市場で購買した13頭の育成馬(セレクトセール購買4頭、セレクションセール購買9頭)が無事入厩しました。

まず、育成馬達の個体識別や馬体チェックを実施した後に全馬の入厩時写真を撮影しました。その後、牡を2頭と3頭、牝を4頭ずつの合計4群に分けて、新しい群れでの放牧を実施しました。

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本場に入厩した牡馬5頭の写真撮影。馬はゲルニカの08(父は本邦新種牡馬ロックオブジブラルタル)

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飼い付け厩舎に入厩した牝馬の写真撮影。馬はタイランツフェイムの08(父は新種牡馬ディープインパクト)

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まずは人に引かれて放牧地を巡回します。知らない場所で走り回って怪我をするリスクを少しでも軽減するため、事前に引き馬で放牧地の柵の周りをみせて環境に慣らす取り組みです。

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放牧されるとまずは互いに確認。牡馬では特に主張、争いが激しくなります。

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お決まりのかけっこをする牡馬たち。先頭からオスカースマイルの08(父:デビッドジュニア)、ゲルニカの08(父:ロックオブジブラルタル)、イブキフリッカーの08(父:ファルブラヴ)です。先頭の馬が強いとは限りません。

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牝馬の走りにはどこか落ち着きがあり、安心してみていられます。前からイクテリーナの08(父:ネオユニヴァース)、ケリーケイズプレジャーの08(父:Tiznow)、ポレントの08(父:ネオユニヴァース)、タイランツフェイムの08(父:ディープインパクト)。

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やっと落ち着きました。

昨年はこの段階で牡馬の1頭が柵に激突するというアクシデントがありましたが、本年は牡馬も含めて比較的大人しかったようです。これら13頭は入厩週の金曜日から昼夜放牧に移行しました。本年は天候不順のためアブの発生が遅れていましたが、ここにきて暑くなりアブの数もだいぶ増えてきました。活発にアブが動く天気のいい日には、放牧を遅らせた夜間に若干シフトした放牧体制になりそうです。

また、昼夜放牧を前に入厩した全馬に対して屈腱部のエコー検査を実施しています。これは昼夜放牧によって経験する屈腱部の腫脹や腱の太さの増大などについて、屈腱の太さや実質のエコー画像に変化が現れるかどうかを調査しているものです。その結果についてはまた皆様にお伝えすることが出来ればと思います。

本年も「強い馬づくり」を目指して色々と悩み、試行錯誤を繰り返し、その葛藤の課程や結果を皆様にお届けして参りたいと思います。ご期待ください。