2021年11月25日 (木)

競走馬の平均体重は470kg その②

こんにちは、運動科学研究室の吉田です。
前回のブログで、過去10年間のべ47万頭以上のデータから馬体重の平均は470kgで、オスの平均は480kg、メスの平均は455kgということがわかりました。
今回はその補足として、のべ47万頭を超える出走馬に占めるオスとメスの割合を調べたところ、下のグラフの通りでした。JRAのレースで走っている馬の6割がオス、4割がメスだったのですね。

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次に、芝のレースとダート(砂)のレースに分けて平均馬体重を比べてみたところ、芝は464kg、ダートは476kgでした。
単純に人間に置き換えてみると芝は59kg、ダートは61kg ってとこでしょうか?
わずかではありますが、パワーが必要とされるダートのほうが体の大きいウマが走っていることになりますね。



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2021年10月21日 (木)

床反力

運動科学研究室の高橋です。

 先月、当研究室長吉田の記事で競走馬の平均体重が470kgだということをご紹介しました。 成人男性の6倍以上はある重さを4本の肢で支えていることになりますが、1本の肢にはどのくらいの力がかかっているのでしょうか。

 止まっているときは、体重計の上で測ればよいのですが、動いているときはなかなか難しそうです。 動作中の肢にかかる力は写真のような機械で測ります。 フォースプレートという機械で、60×90cmの大きさです。

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 歩いているときにこれを踏ませるということですね。 そして、このときに肢にかかる力を床反力と呼んでいます。 床反力を測定するときに一番難しいことは何でしょうか??

 答えは、上手にフォースプレートの上を歩かせるということです。 ちなみに500kgのウマの、前肢における常歩の床反力最大値はおよそ300kg、速歩では550kg程度です。 常歩では5回に1回くらい、速歩になれば10回に1回くらいの成功率になってきます。 言葉が通じない動物を使う難しさですね。。。

2021年10月15日 (金)

古くて新しい治療法:糞便移植

ついついお酒を飲みすぎた次の日は、二日酔いと共にお腹がゆるくなりがちな微生物研究室の木下です。

お腹の不調を訴えるのは私だけに限ったことではなく、いろいろな動物で観察される症状ですが、草食動物であるウマにとっては消化器に関係する下痢などの症状は、時に深刻な結果に繋がりかねない重要なサインになります。

ウマが下痢を発症する原因は様々で、給餌内容の変化や輸送によるストレス、あるいは投与された抗菌薬が原因になることもあります。

(私と違ってお酒が原因になることは、無い。。。)

下痢を発症しているウマに対しては、抗菌薬が投与されている場合は投与を中止し、対症療法として補液や整腸剤の投与を行うことが一般的ですが、健康なウマの糞便を経鼻的に腸管に接種する糞便移植という古典的な治療法も知られています。

糞便移植には、腸内における乱れた細菌叢あるいはウイルス叢を正常なものに引き戻す働きが期待されています。

近年では、人におけるClostridioides difficile感染症に対する糞便移植の有効性が認識されるようになり、ウマにおいても再注目されることが増えてきました。

もし、愛馬が下痢に苦しんでいる際には、古くて新しい治療法である糞便移植をぜひ検討されてみて下さい。

写真:糞便移植に使用するドナー糞便の用意Fmt

2021年10月13日 (水)

国際馬伝染病会議が開催されました

分子生物研究室の辻村です。

2021年9月27日から10月1日にかけて、第11回国際馬伝染病会議(11th International Equine Infectious Disease Conference: IEIDC XI)が開催されました。

この会議は、細菌、ウイルス、寄生虫を含むウマの感染症全般を網羅する国際学会で、第1回会議は1966年にイタリアのストレーザで開催されています。その後は中断をはさみながらも3から4年間隔で開催され、1994年の開催地は東京でした。

そして、11回目となるIEIDC XI。当初の2020年のフランス・ドーヴィルでの開催がコロナ禍で本年に延期となり、さらに、学会の形式もオンラインに変更となりました。JRAからは9名がそれぞれの研究成果などを発表しました。以下のリンク先に学会抄録が掲載されていますので、興味のある方はご覧ください。

(外部リンク:https://beva.onlinelibrary.wiley.com/toc/20423306/2021/53/S56

(2021年10月13日リンク確認)

これらのなかで、特に興味が持たれた発表は、本年2月にスペインで発生のあった馬鼻肺炎神経型の流行に関するものでした。

(外部リンク:http://keibokyo.com/wp-content/uploads/2021/03/%E8%BB%BD%E9%98%B2%E5%8D%94%E5%8F%B7%E5%A4%962021-1.pdf

(2021年10月13日リンク確認)

今回の情報は、日本での馬鼻肺炎の予防対策にも大変役立つものと考えられます。

さて、次回の12回目の会議は、改めて、2024年にドーヴィルでの開催が予定されています。

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上の写真は、アルゼンチン・ブエノスアイレスでの第10回会議の際に撮影されたもの。第12回会議が現地ドーヴィルで開催されることを心から祈っています。

2021年9月29日 (水)

研究馬の離厩

臨床医学研究室 黒田です。

 

長年、総研臨床医学研究室を支えてくれました研究馬ウルフ号が離厩しました。

2016年に総研に来てから、6年もの長きにわたり各種研究に御協力していただきました。特に、私が行っている抗菌薬の血漿中濃度を測定する実験において欠かせない存在で、競走馬の感染症治療法の確立に貢献していただきました。

大変大人しい性格から、学生実習や獣医新人研修も彼であれば安全に行うことができました。6年間、彼が見てきた新人獣医師が、すでに現場の第1線で活躍していることを考えると感慨深いものがあります。

行き先は宇都宮馬事公苑で、リトレーニングを行い乗用馬もしくは競馬場の誘導馬を目指すとのことです。彼にとっては、競走馬、研究馬に続く第3の馬生になります。大変よく食べる子で、入厩当初500kgだった体重は550kgを超え、元気一杯です。性格も良いので乗用馬としても活躍してくれると思っております。数年後もし競馬場で見かけるようでしたら、是非とも応援してあげてください

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2021年9月25日 (土)

競走馬の平均体重は470kg

こんにちは、運動科学研究室の吉田です。
今日は当研究室で扱っている過去のデータから馬体重について調べてみました。
2011年からの10年間でJRAの平地競走に出走したのべ47万頭以上のデータからその平均体重は470kgでした。
ちなみにオスの平均は480kg、メスの平均は455kgでした。
単純に人間に置き換えてみると男性61kg、女性58kg ってとこでしょうか。
男女差はそれほどないみたいですね。

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「サラブレッド競走馬の体重の季節的変動」については、2002~2014年の約64万頭のデータをもとに、BMC Veterinary Researchに論文投稿されていますので、興味のある方はこちらもご覧ください。
Seasonal fluctuations in body weight during growth of Thoroughbred racehorses during their athletic career(外部リンク:英文)

2021年9月10日 (金)

多血小板血漿(PRP)治療とは・・・

臨床医学研究室の福田です。

最近はすっかり暑さも和らぎ、研究所内でもとんぼがたくさん飛んで、すっかり秋の気配です。

今年の夏は少々短かったように思いますが、ステイホームのせいでしょうかねえ。

さて、今回は現在当研究室で行われている研究内容についてお話させていただきます。

臨床医学研究室では競走馬が直面する治療困難な疾病(例えば、屈腱炎、蹄葉炎、肺炎)に対する新しい治療法に関する研究を行っています。

詳しくは研究室紹介をご覧ください。

私は現在、多血小板血漿(PRP)治療についての研究をメインに行っています。

PRPは患者自身の血液から作られますが、PRPの中には炎症を抑えたり疾病治癒を促進させたりする成分が大量に含まれています。

最近人の臨床では、現楽天の田中将大投手や大リーグの大谷翔平選手がひじの治療に使ったことで話題になりました。

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こちらは遠心分離機を使って馬の血液を濃縮して作られたPRPです。オレンジ色の液体です。

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このPRPにカルシウムを加えると、このようにゼリー状になります。不思議ですね。

人では液体のPRPを関節の中に投与したり、腱・靭帯に直接投与するケースが多く報告されています。さらに、ゼリー状にして傷口に当てることで傷の治癒が促進されることもわかっています。

馬でも外傷に対しては同じような治癒促進効果が確認されています。

今後もPRP治療のさらなる可能性を探っていきたいと思います。

免許更新

微生物研究室の越智です。

免許の更新といえば,自動車免許が思いつくと思います。
先日,私も免許(実際には専門医資格)を更新してもらいました。

人のお医者さんには,様々な専門制度がありますが,獣医にもいくつかあります。例えば,獣医内科専門医,小動物外科専門医,馬専門医などです。これらの資格を取得するには,実務経験などの条件を満たした上で,筆記・実技試験に合格する必要があります。

私の持っている日本獣医病理学専門家協会認定医は5年毎に更新となり,それにも条件があります。5年間に投稿した論文数,勉強会や学会への参加数,学会での発表会するなど,十分な自己研鑽を行なっていないと,更新が認められません。次回も何事もなく更新できるように,努力していきたいと思います。

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2021年8月25日 (水)

唾液の抗体測定

分子生物研究室の坂内です。

今日は最近当研究室で取り組んでいる唾液の研究についてのお話です。

 

唾液は口の中を適度に湿らせ、清潔に保つのに役立ちます。

また、アミラーゼなどの消化酵素が含まれていて、食べ物の消化を助ける役割があります。

このように様々な役割を担う唾液ですが、実は病原体と闘う抗体も含まれています。

 

下痢などの消化管の病気を起こす病原体は口から侵入しますので、唾液中に抗体があれば感染を防ぐのに役立つと考えられています。

ですので、私たちは馬から唾液を採って、下痢や発熱を起こすウイルスに対する抗体を測定する研究に取り組んでいます。

 

馬の唾液を採るための専用の道具は無いので、人間の唾液採取用に作られたこちらの製品を使います。

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人間だとこのスポンジを1分間ほど口に入れておけば良いのですが、馬は放っておくと飲み込んだり吐き出したりしますので、写真のように口を開けさせて口の中を拭います。

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このように舌を口の外に引っ張り出すと、馬は口を閉じることが出来ません。

ただ、それでも噛もうとしてくる馬もいますので、この採材はなかなかスリリングです。

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噛まれて怪我をすることが無いよう、そして抗体が無事に検出されて、研究が実を結ぶことを願っています。

 

2021年8月23日 (月)

馬疫

分子生物研究室の太田です。

 

第24回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作「馬疫(BA-EKI)」を読んでみました。

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あらすじは『2024年、コロナ禍が収まらず2021年に続いて東京で五輪が開催されることに。山梨県小淵沢で近代五種競技の提供馬の審査会に参加していた獣医師の一ノ瀬駿美は、複数の馬にインフルエンザ様症状が出ていることに気づく。しかもインフルエンザの型は従来とは異なり、馬が暴れ狂う狂騒型。調べていくと新たなウイルスも出現し…』といった感じ。

 

実はなんと、この小説中に、競走馬総合研究所の分子生物研究室が登場します! もちろんフィクションですが、我々にとっては、随所に「あるあるネタ」が満載で、非常に楽しく読めました。

 

研究者が私利私欲にまみれて次々と犯罪に手を染める後半部分の展開は、現実にはあり得ないでしょうが、前半部分のパンデミックに関しては、いつ小説の世界が現実になってもおかしくないでしょう。いかなる状況にでも対応できる検査体制を常に整備しておくことが我々の使命だと改めて感じた次第です。

 

作者の茜灯里(あかねあかり)さんは、獣医師でもあり、エンデュランス馬術競技の選手でもあるそうで、専門的な内容も非常にわかりやすく書かれています。皆さんもステイホーム期間中に、ぜひご一読ください。