2021年1月12日 (火)

倒馬用スイングドア

 臨床医学研究室の三田です。

 倒馬用スイングドアが更新されたので馬の倒馬方法について紹介します。
人の手術を行う時に患者さんが手術台に寝そべっているシーンをドラマなどで見ることがありますね。人の場合は患者さんが自ら手術台に寝そべってくれるのでよいのですが、馬の場合は自ら手術台に乗ってくれないのでとても大変です。手術台に乗せるためには、まずは安全に倒す処置が必要になります。この処置を倒馬(トウバ)といいます。倒馬には様々な方法がありますが、総研やトレーニング・センターでよく用いられる方法がスイングドアを用いるものです。
 スイングドアを用いた倒馬の手順を簡単に説明すると、まずは写真のようにスイングドアと呼ばれる可動式の扉(写真手前、銀色)と壁の間に馬に入ってもらいます。ここで、適切な鎮静や筋弛緩処置がなされた後に馬に催眠薬を投与します。催眠薬を投与されてしばらくすると馬はたっていられない状態になるためバタンとたおれてしまいます。この時に馬や人がケガをしないための仕組みがスイングドアに備わっています。スイングドアは壁の間に馬を挟んでいるため馬が横にバタンと倒れてケガをすることが防げると同時に、頭に装着した無口とロープによって頭を高い位置で固定することができるので、馬が意識を失っても頭を地面にぶつけたりすることを防止できます。

 何かと危険がつきものの大動物の手術ではいろいろなところで人馬の安全が図られていますね。

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2020年12月29日 (火)

遺伝子型

分子生物研究室の辻村です。

前回の記事で2020年のブログがきれいに締まったところ申し訳ありません。あと1回お付き合いください。

年末年始といえばお酒の消費量が増える季節ですね。今年は例年と状況が異なるところですが、お家で嗜まれる方は多いのではないでしょうか。アルコールが飲めるかどうかに遺伝子型が関係していることは、皆さんお聞きになったことがあるかと思います。よく知られるのが2型アルデヒド脱水素酵素遺伝子で、遺伝子型によって、飲める・飲めるが弱い・全く飲めないの3タイプに分かれるとされています。このような遺伝子型による違いは馬にもあって(もちろんお酒の強い・弱いではありません)、有名なのは競走馬の距離適性に関係するとされるスピード遺伝子です(https://sg-test.lrc.or.jp/:外部リンク)。また、興味深いところでは、セロトニン受容体の遺伝子型が馬の扱いやすさに関係するとの報告もあります(https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2015-12-14-0:外部リンク)。

そして、遺伝子型が注目されるといえばウイルスもそうで、私が研究対象としているウマヘルペスウイル1型では、ある遺伝子の1塩基の違いがウイルスの神経病原性に関係することが分かっています(http://nichiju.lin.gr.jp/mag/07012/a3.pdf:外部リンク)。

近年ますます身近になってきた遺伝子の話題。私もいつか自分のアルコール体質を調べたいと思っています(人並に飲めるつもりですが、果たしてどうか・・・)。

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ヒトと比べると、まだまだ分からないことが多い馬の遺伝子。今後の研究の進展が期待されます。

2020年12月24日 (木)

新年の準備

企画調整室の小野です。

今日はクリスマスイブではありますが、競走馬総合研究所は年末年始の準備を進めております。正面玄関に門松が設置されました。

今年はコロナ禍による未曾有の出来事が多々ありました。

しかし、競馬の世界では牡馬・牝馬ともに無敗の三冠馬コントレイル号やデアリングタクト号が登場したり、アーモンドアイ号のように史上初のGⅠ9勝を挙げたりするなど輝かしい歴史に残る出来事もあった1年でした。

来年は皆様にとっていい年になりますことをお祈りしております。

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2020年10月28日 (水)

生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウムでの発表

分子生物研究室の根本です。 

10月15日に北海道の静内で開催された生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウムにおいて、ウマコロナウイルス感染症について発表してきました。

本シンポジウムは、生産地における軽種馬の保健衛生に関する問題とその対応策の検討を目的として、JRA主催で毎年開催されています。参加者および発表者は、生産地の獣医師、生産育成関係者、外部学識経験者およびJRA職員になります。今年は新型コロナウイルス対策のためさまざまな対策を行っており、具体例として、例年より参加人数をしぼり、また発表者はフェイスシールドを着用し実施されました。

ウマコロナウイルスは新型コロナウイルスとは異なり、消化器症状を引き起こすウイルスになります。発表後は多くの質問を受け、本ウイルス感染症に対する関心の高さを感じてきました。ウマコロナウイルスは未知の部分の多いウイルスですが、少しでも解明されるように研究を進めていきたいと思っています。

なおウマコロナウイルスの詳細について興味のある方は、下記総説をご覧ください。

日本獣医師会雑誌 2018年第71巻第1号5-9頁

http://nichiju.lin.gr.jp/mag/07101/a2.pdf(外部リンク)

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2020年10月 1日 (木)

新人獣医師を対象とした研修が始まりました。

臨床医学研究室の田村です。

 

新人獣医師を対象とした研修が始まりました。

 

普段は両トレーニング・センターの競走馬診療所で臨床獣医師として勤務していますが、専門的な知識や技術を習得するために、競走馬総合研究所に出張して来ました。

 

例年は6月頃に実施していますが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響があり、10月からのスタートになりました。

 

先日のブログにおいて、学会にWeb参加したことを紹介しましたが、この研修も一部にWeb講義を取り入れています。写真はフランスに留学中の先輩獣医師から、薬の使用方法について説明を受けているところです。双方向での会話が可能であり、研修生は講義後も熱心に質問をしていました。

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JRAでは新人獣医師を対象にした研修の他にも、多数の研修を実施しています。知識や経験を新しい世代にしっかりと引き継ぐ体制を整えています。

 

研修期間はおよそ2週間です。熱いエールをお願いします。

2020年9月 8日 (火)

避難訓練を実施しました

先週、競走馬総合研究所全体で避難訓練を実施しました。

大規模地震が発生したことを想定。火災報知器を作動させて、本番さながらです。火災発生時の初期消火の手順、避難経路の確認、消火器の位置確認、各班の役割分担を再確認。

全員の避難を確認した後は、2班に分かれてAEDの操作方法や消火器の扱い方に関する模擬訓練を行いました。

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2020年9月 1日 (火)

日本感染症学会学術集会にWeb参加しました

微生物研究室の内田です。

先日、日本感染症学会の学術集会が行われました。COVID-19関連のニュースで名前がよく挙がるため、ご存知の方も多いと思いますが、日本感染症学会は、人の感染症専門医を中心とした学会です。

人の感染症と馬の研究、関係ないのではと思われるかもしれませんが、人の医療で問題となっている薬剤耐性菌や、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症は馬の診療現場でも遭遇することがあります。微生物研究室でも、これらの細菌感染症の研究を行なっています。学術集会では、様々な感染症の研究報告や人の医療現場で行われている最新の治療法について知ることができ、大変刺激を受けました。

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さて、今年はCOVID-19感染拡大防止のために、様々な学術集会が紙面開催、オンライン開催など、これまでとは異なる方式で行われていますが、日本感染症学会の学術集会も、現地とWebの同時開催で行われました。私たちは学術集会のライブ映像をオンライン視聴し、学術集会Web参加を初体験しました。研究所セミナー室でのオンライン視聴、直接質問ができないのは残念ですが、とても快適な環境で集中して発表を聞くことができました。

多くの変化があった2020年、学術集会のあり方も変わっていくことになりそうです。

2020年8月18日 (火)

国際馬伝染病会議の延期

分子生物研究室の坂内です。

本来であれば今頃は東京オリンピックの開催期間でしたので、それに伴う総研職員の仕事についてご紹介しようかというタイミングなのですが、COVID-19のせいで何もない夏になってしまいました。

オリンピックに限らず、私たちの業務に関係する様々な行事が延期や中止に追い込まれていますが、その中の一つに、第11回国際馬伝染病会議(The 11th International Equine Infectious Diseases Conference)があります。学会公式サイトhttps://eidc2021.com/(外部リンク)

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馬の感染症研究に特化したこの国際学会は、オリンピックと同じく4年に一度開催され、昨年から私が国際委員として運営に参加しています。前々回は2012年に米国ケンタッキー州、前回は2016年にアルゼンチン共和国ブエノスアイレス市で行われ、第11回となる今回は2020年10月にフランス共和国ノルマンディー州での開催が予定されていました。馬産業の盛んな欧州やアメリカ大陸から遠いアジアにいる私たちにとって、世界の研究者と直接会って親交を深められる貴重な機会となるはずでしたが、残念ながら1年延期されることが決まりました。

ノルマンディーというと戦時中の悲劇が思い起こされますが、現在では美しい海岸沿いにリゾートホテルが建ち並ぶ一大観光地となっています。そして、競馬大国であり、乗馬の強豪国でもあるフランスに、来年こそはぜひ行きたい・・・。行けることを心から願っています。

※国際馬伝染病会議では現在スポンサーを募集しています。ご興味のある方は総研分子生物研究室までお問い合わせください。

2020年7月27日 (月)

植え込みに咲いていた美しい花

臨床医学研究室の田村です。

 

栄養豊富な乾物食品として知られる干瓢は、全国生産量の98%を栃木県が占めているそうです(栃木県干瓢商業協同組合より)。

干瓢の花は夕顔(ウリ科)と呼ばれています。

白くてかわらいしい花が夕方に咲くため、その名前がつけられていますが、一年だけで咲き終わってしまう一年草です。

 

今回のブログで紹介する写真は、その夕顔ではなく、昼顔です。

 

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JRA競走馬総合研究所の植え込みの中で、まるでこちらを見るように力強く咲いていました。

雨に濡れた部分がピカピカと輝き、

白とピンクのグラデーションが爽やかに感じられたため、写真をとりました。

いかにも雰囲気の良い花だと思い、興味をもって調べたところ、

万葉集の時代から題材にされていると知りました。

納得の美しさです。

 

昼顔は午前10時くらいから夕方まで咲いています。

夕顔とは異なり何年にもわたって花が咲く多年草(ヒルガオ科)です。

しっかりした根とツルによって成長するため、昔から強い生命力を連想させる花として知られてきたようです。

 

そんな昼顔の花言葉は絆です。

あの東日本大震災の後からは絆を意識する機会が増えました。

平常時においても重要なことではありますが、非常時においては殊更に絆の重みを感じます。

 

鑑賞用としての人気もありますが、昼顔は古くから薬草としても好まれてきたようです。

 

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絆と薬、現在の状況に必要とされる二つのキーワードを兼ねそろえた花です。

 

8月くらいまでは咲いているようですので、かわいらしいピンクの花を探してみてください。

 

 

2020年7月20日 (月)

技を磨くということ~装蹄技術の奥深さ

臨床医学研究室の福田です。

今年もすでに半ばを過ぎましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

まさかこんな夏になっているとは。。。

災害に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げます。

またくれぐれも体調にはお気をつけてお過ごしください。

さて、少々昔になってしまいますが、今年の初春に全国的なJRA装蹄師の配置換えが行われ、競走馬総合研究所には常勤の装蹄職員がいなくなってしまいました。そのため、ちょっと離れた宇都宮の馬事公苑で勤務しております装蹄職員に月に数回来ていただき対応してもらっています。順調に改装(蹄鉄の履き替え)できれば問題ないのですが、改装後にアクシデントなどあったとしても、多忙さも手伝ってそんなに何回も来ていただくことができません。そこで研究所の獣医職員が簡単な処置をかわりに行うことがあります。

現在、主に引き受けていただいている方は、公益社団法人日本装削蹄協会に3年間出向していた間に認定”牛”削蹄師の資格を取得した桑野上席研究役です。牛と馬ではだいぶ削蹄技術が違うらしいのですが、元々馬の蹄病の研究者だった上席は、他の獣医師に比べて豊かな知見と経験をお持ちで、積極的にトラブルに対応していただいております。

もちろん装蹄師の仕事は一朝一夕でモノになるものではありません。1本の鉄の棒から蹄鉄を作り出すことはもちろん、蹄の底を削って調整を加えるにも、長期間の訓練や豊富な専門知識に裏打ちされた繊細なテクニックが必要です。このように大変神経を使う作業をすすんで引き受けていただいていることについて桑野上席は、

「蹄鉄操作は難しくてまったくできません。それでよく、『蹄を削るだけでしょ?』と言われるのですが、この削蹄技術をバカにしていると馬は壊れると装蹄師さんから習っています。装蹄師さんに実地で教えてもらうとわかるのですが、蹄の形状をどの目線から眺めるか、これを間違えただけでひどく変形した蹄に削りあがってしまうのです。」

とおっしゃっていました。

みなさんも競馬場では、各レースのスタート地点あたりで装蹄師さんたちがエプロンのようなものを腰から下げて立っているのを見かけることがあると思います。出走馬が落鉄(蹄鉄が外れること)したときにすぐ対応するのですが、そのスピードといったら。もちろんただ落ちた蹄鉄を履かせ直すだけでなく、落ちて曲がった蹄鉄の微修正や蹄の観察まで行うわけですから、経験に裏打ちされた高いレベルの技術が必要になるわけですね。

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1本の鉄の棒を真っ赤になるまで熱した後、金づちで叩いて形を整えます。パワーが要るうえ、繊細さも求められます。

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宇都宮の装蹄教育センターで、未来の装蹄師を目指す若者たち。暑いですが頑張ってます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。