2022年4月11日 (月)

髙木美帆選手と競走馬ナリタブライアン

 こんにちは、運動科学研究室の吉田です。
 2月の北京オリンピック、日本勢の活躍で大いに盛り上がりましたね。
 中でもスピードスケートの髙木美帆選手、金メダルを含む4つのメダル獲得は素晴らしい記録でした。


 そんな髙木選手のスピードスケートと競馬、なかでもナリタブライアンとの接点を探してみました。
 ○ ナリタブライアンの成績(それぞれの距離の最終走)
  3200m(芝) 3分18秒2 96年 天皇賞(春) 2着
  1600m(芝) 1分34秒4 93年 朝日杯3歳S  優勝
  1200m(芝) 1分08秒2 96年 高松宮杯   4着
 ○  髙木選手の成績(北京五輪)
  3000m(氷)   4分1秒77    6位入賞
  1500m(氷)   1分53秒72    銀メダル
  1000m(氷)   1分13秒19  金メダル(五輪新)

 

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 競馬とスピードスケート、全く違う競技ですが、その距離設定・スピードはとても近いものがあります。競馬場(1周約1600m)に比べかなり小さい400mというコースを周回しながら、髙木選手は競走馬に近いスピードで走り続けていたのですね。
 一方クラシック三冠のナリタブライアンですが、引退した5歳(旧6歳)時には3200mのGⅠレース後、たったの1か月で1200mのGⅠを走り、それぞれ上位に入賞してみせました。
 今でも「最強馬」に推すファンも多いナリタブライアン、北京での髙木選手の活躍に重ねてしまうのはちょっと無理がありましたでしょうか?
  

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 一方、競馬の短距離戦(1200mなど)を陸上競技の100m、長距離戦(3200mなど)をマラソンになぞられたりすることがありますが、これにはかなりの無理があります。スポーツを分類するときはその競技時間から比較するのが良いようです。関連記事「競馬は陸上競技の中距離走」を以下に掲載していますので興味のある方はご覧ください。

「サラブレッドのスポーツ科学」
(一覧の最下段にあります”第1回”をご覧ください) 

2022年4月 3日 (日)

ルイジアナダービー

 

 

こんにちは。微生物研究室の越智@ルイジアナ州です。

日本では春のG1シーズンが始まりました。ご存知の通り,私の留学しているアメリカも競馬の盛んな国です。ルイジアナ州には,Fair Grounds Race Courseがあります。この競馬場は1838年に開場し,現存する競馬場としては米国で2番目に古い競馬場として知られています。今回, G2ルイジアナダービー(3歳,ダート9.5ハロン)を見るべく,弊社ニューヨーク事務所の職員と同競馬場に赴きました。ルイジアナダービーは,G1ケンタッキーダービー出走馬選定ポイントシリーズにカウントされており,過去の勝ち馬がケンタッキーダービーで好走することも多いようです。

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Fair Grounds Race Courseの外観

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パドックの奥にはニューオリンズの高層ビル群が見える

3_3 ダービーの日はドレスコードが設定され,多くの人がドレスアップしている

4_3 ルイジアナダービーのレイ。ケンタッキーダービ同様,バラの生花で作られている

以前に紹介したように,当研究所の獣医職職員は競馬場での業務も担当しています(ブログ(外部リンク))。初めてみたアメリカの競馬・競馬場は,本会とは異なるところもありとても楽しめました。

5_2 事故救護用の救急車(奥)とピックアップトラック(手前)。トラックには,万が一に備えて遮蔽幕が常備されている。

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パドックでマイクロチップを読み取る係員(左側)

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上の写真↑をクリックするとgoogle drive(外部サイト)につながり動画が再生されます。


ファンファーレは途中からジャズの名曲に(各レースで異なるアレンジのようです)

2022年3月18日 (金)

抗菌薬還流療法

臨床医学研究室の三田です。

ウマの臨床現場で遭遇する細菌感染症では抗菌薬を用いて治療することが一般的です。

抗菌薬の投与方法は色々ありますが基本的には血流を介して抗菌薬を病巣に届けられるかがカギになるため、外傷などで組織に空隙がある場合や骨折手術の螺子やプレート周囲など血流が乏しい部位では感染制御が難しくなることがあります。

そこで近年ヒトの医療で注目されているのが軟部組織内抗菌薬還流療法(intra-Soft tissue Antibiotics Perfusion〔iSAP〕)です(イメージ図参照)。これは高濃度の抗菌薬を皮下などの感染巣に持続的に注入するものです。

この方法では血流が乏しい部位に対しても抗菌薬を作用させることが可能となるばかりでなく、全身投与では到底達成できないような高濃度の抗菌薬を作用させることができるため低濃度の抗菌薬で死なない細菌に対しても有効となる場合があります。

 

 

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画像はiSAPのHPより引用させていただきました。

https://www.ismap-clap.com/isap(外部サイト))

ウマでこの治療方法を応用するためには課題が多いですが実現すればより早期に感染コントロールができる可能性もあるので注目の治療法として紹介しました。

2022年3月14日 (月)

米国ルイジアナ便り

こんにちは。微生物研究室の越智です。


 現在,私は解剖病理学の研修のために米国・ルイジアナ州立大学にいます。ルイジアナ州は,アメリカ南部のメキシコ湾に面しており,2月でも比較的温暖だと聞いていましたが,実際には最低気温20℃の日の翌日に最高気温が10℃になる日も多く,体調管理に気を遣う日々です。


 私の所属先は,ルイジアナ州立大学獣医学部 Louisiana Animal Disease Diagnostic Laboratory (LADDL)です。LADDLは同獣医学部の診断施設であるだけではなく,ルイジアナ州およびその周辺地域からの依頼を受けてさまざまな検査,調査や研究を行っています。日本に置き換えると,獣医学部(学科)の研究室が家畜保健衛生所の機能をかねているようなイメージです。そのため,毎日多くの病理解剖やバイオプシー(病理組織診断)が行われており,病理医にとっては夢のような環境です。このような環境で1年間勉強ができることをとても楽しみにしています。(アメリカは狂犬病発生国ですので,十分に気をつけるようにと最初に説明されました。大学生の時に受けた狂犬病ワクチンが初めて役に立っています。)


 私の通勤ルートには,Tiger stadiumというアメリカンフットボール専用の超巨大スタジアムがあります。約10万人の観客を収容でき,収容人数では世界9位の規模です。コロナ禍が収まり,このスタジアムでアメフトを観戦するのも楽しみの1つです。

Photoタイガースタジアム@ルイジアナ州立大学

2022年3月 9日 (水)

馬鼻肺炎ELISA

 分子生物研究室の上林です。
 馬ヘルペスウイルスに起因する“馬鼻肺炎”いう呼吸器感染症をご存じでしょうか。日本国内では主に冬~春にかけて感染馬が増加する傾向があり、感染すると発熱を引き起こすことがあります。重症化することはほとんどありませんが、突然の熱発で出走を回避しなければならないという事態も起こりえますので、我々にとっては競走資源の確保という観点で注視すべき感染症です。

 そこで、ウイルス感染症を担当する当研究室では、競走馬群における馬鼻肺炎の疫学状況を監視する目的で、毎月トレセンで発熱した馬の血清を送付してもらい感染の有無を検査します。ここで我々が使用する検査法が“ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)”です。
 ELISAは抗原―抗体反応を利用した抗体検査法であり、今回のようにウイルスに対する抗体のみならず様々なタンパクの定量に使われる非常にポピュラーな実験系です。仕組みを簡単に説明すると以下の通りです。

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 プレートに抗原を固相化→血清を乗せて抗原に血清中抗体を結合→抗体にさらに酵素標識抗体(一般には二次抗体と呼びます)を付着させて発色。
 この発色の程度を吸光度として数値化して抗体価を算出します。血清中の抗体が多いほど二次抗体も多く付くため、発色が強くなるという仕組みです。下図左は試験後のプレートです。発色の程度が様々なのが見てわかるかと思います。右は最後の過程、吸光度を機械で測定しているところです。

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 当研究室では、この馬鼻肺炎の疫学調査を20年以上にわたって継続して行っています。1シーズン(秋~翌春)を通しての感染率は年によって様々で、数%~十数%に収まることがほとんどです。この検査を継続的に行うことで得られる疫学データは、流行の兆候を把握することに繋がるのはもとより、変遷を遂げてきたワクチン接種プログラムの効果を検証する重要な材料にもなります。今でも突発的に流行する年はあるものの、ワクチン接種方法の改善やワクチン改良の効果もあり、長い目で見れば競走馬群での馬鼻肺炎感染率は低下してきています。
 ELISAは1回の検査を実施するのに半日程度要します。毎年、膨大な数の検体をELISAで検査することになるため少し骨が折れる作業ではあるのですが、これが日本競馬を防疫の観点から守る仕事だと思うと気は抜けません。

 さて、今年初のGⅠフェブラリーステークスも終わり、もうすぐ春競馬が始まります。今年も競馬を楽しみましょう。

2022年2月18日 (金)

エクリプスとRVCの関係

 こんにちは、イギリスに滞在している臨床医学研究室の田村です。

 前回、Royal Veterinary College (RVC;王立獣医大学) にはエクリプスの骨格標本が保存されていることを紹介しました。
 なぜ、エクリプスがRVCに保管されているのか?という質問を頂きました。
 実は、エクリプスの存在そのものがRVCを設立するきっかけになったからです。

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 これまでに見たことのない圧倒的なスピードと体力があったエクリプスの存在は、当時の人々に難問を投げかけました。
 現在の競馬ファンにも通じるその疑問は、いたってシンプルです。
 「なぜ、あの馬はあんなに速いのか?」

 その疑問に対して、科学的に向き合うために設立された研究機関、それこそがRVCだと言われています。当時の最先端の知識や検査道具を用いて、様々な観点から研究が実施されたようです。
 そうした研究成果や経験が基礎となり、今日のRVCおよび獣医学の発展に繋がっていることを考えると、エクリプスの功績は相当なものであり、偉大な存在であったと考えられます。

 さて、「なぜ、エクリプスは速いのか?」。
 この疑問への回答は様々です。心臓が大きかったとする研究者や、骨格形状と関連付ける研究者もいます。
 しかし、まだ完全な正解には至っていないようです。
 なぜなら、Eclipse と名付けられたRVCの主要研究棟には、彼の骨格標本や貴重な試料が保存されており、現在においても最先端の知識や検査道具を用いて研究が継続されているからです。
 一つの参考としてRVCのWebページ(外部サイト)をお教えしますので、「RVCのWebページ」の部分をクリックしてみてください。

 200年以上が経過しても答えが出ないことに、競馬のロマンを感じることができます。
 日本にいる大多数の競走馬がエクリプスの血統を引き継いでいます。競馬を通じることによって、彼らの速さの秘密を考えることは興味深いことかもしれません。

2022年2月 7日 (月)

動作解析のはじまりはウマ

 運動科学研究室の高橋です。


 現在ではヒトのスポーツ界で様々な動作解析技術がありますが、動物の動作解析の始まりがウマだったことは皆さんご存じでしょうか。


 1800年代後半に、高速疾走するウマの四肢が地面から離れる瞬間があるかないか、という議論がドイツを中心にヨーロッパであったと言われています。


 それに決着をつけたのがアメリカの写真家であったMuybridgeだと言われています。ギャロップで疾走するウマの連続写真を撮影して、四肢が地面から離れている瞬間と肢の着地順を客観的に証明したということです。ちなみに、この連続写真はアメリカで「世界を変えた100枚の写真」にも選ばれ、国際バイオメカニクス学会では2年おきに最も優秀な論文を選び、その著者に”Muybridge Awards” という賞を授与しています。


 ヒトの目の解像度はそこまで良くないので、速い動作の観察には測定機器が必要ということですね。そして、様々な測定機器と組み合わせて私たちはウマの動作の理解を深めています。写真は野外走行中にハイスピードカメラと筋電図を組み合わせた実験風景です。

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 さて、野外での実験において最も気を使わなければいけないことの1つは天気です。晴れ間に雲がかかると、せっかく合わせたカメラの絞りが合わない、雨が降ると中止、などなど。写真の実験時には快晴に恵まれましたが、数日前から天気予報を逐一気にして、実験中も雨雲レーダーチェックが欠かせませんでした。Mugbridgeの頃よりは格段に映像を撮影しやすくはなったと思いますが、自然を相手にしなければいけない辺りの難しさは残っていますね。

2022年1月31日 (月)

名馬の骨格標本

 こんにちは、イギリスに滞在している臨床医学研究室の田村です。
 イギリスは競馬の発祥地であり、品種改良によってサラブレッド種競走馬を生み出しました。
 私が滞在しているRoyal Veterinary College(RVC;王立獣医大学)と競馬には深い関係があります。

 1700年代後半の英国競馬界にスターホースが現れます。その馬の競走成績は18戦18勝であり、無敗のまま引退しました。その馬のスピードがあまりにも速すぎたため、対戦相手が見つからず、競馬が成立しなかったとも言われています。

 その馬の名前はエクリプスです。競馬の歴史が好きな方はご存じかもしれませんが、「1着はエクリプス、その他に2着と認められる馬はいない(Eclipse first, the rest nowhere.)」という名言を生み出した歴史的名馬です。

 エクリプスは競馬界に多大なる影響を与えました。種牡馬としても優秀であり、サラブレッド種競走馬の成立に大きな貢献を果たしました。

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 実はそのエクリプスの骨格標本がRVCには保管されているのです。標本になってから200年以上は経過しているはずですが、現在でも良好な状態で保存されています。
 骨格標本を前にすると、エクリプスが走っている姿や当時の競馬場の雰囲気を想像したくなります。
 RVCと競馬、双方の歴史と伝統を結びつける骨格標本です。

2022年1月20日 (木)

次世代シークエンサー〜細菌の遺伝子を読む〜

微生物研究室の内田です。
今日は当研究室の研究に使用している「次世代シークエンサー」をご紹介します。

次世代シークエンサーとは、生物の遺伝情報を調べる機械です。
微生物研究室では、馬の病気の原因になる細菌について研究をしています。
細菌について細かく調べていく中で遺伝情報が必要になった時は、次世代シークエンサーを使います。

今回はこの次世代シークエンサーを使って、馬の病気の原因になった「黄色ブドウ球菌」という細菌の遺伝情報を調べてみます。

まず、細菌から遺伝子を抽出します。
とても小さいので目には見えませんが、この中に細菌の遺伝情報が詰まっています。

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次に、次世代シークエンサーで調べることができるように、様々な試薬を使って遺伝子に「目印」をつけていきます。
細かい作業が半日ほど続きます。

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そして、目印をつけた遺伝子を次世代シークエンサーにセットして、
いよいよ解読開始です。
「Sequence!」

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翌日・・・
遺伝情報が解読されました。

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文字の羅列です。
これだけではよくわかりませんので、コンピュータで解析を行い、この細菌がどのような特徴を持っているのか調べていきます。

今回は、微生物研究室の研究の一部をご紹介しました。
なかなかイメージが湧きにくいと思いますが、このようにして得られた研究成果は論文などで発表しておりますので、ぜひご覧ください。

2022年1月 5日 (水)

イギリスの獣医大学について

 こんにちは、臨床医学研究室の田村です。

 私は馬間葉系幹細胞に関する研究をするために、イギリスのRoyal Veterinary College(RVC;王立獣医大学)に来ています。

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 RVCは伝統ある大学として知られており、今から200年以上前の1700年代後半に開学しています。開学当初から、英国における獣医学の代表的な存在であり、数多くの研究が実施されています。

 玄関前にはRVCの紋章が掲げられています。馬や牛、犬といった賑やかな様子ですが、しっかりと王冠が掲げられており、王立としての格式を示しています。

 私の所属研究室があるHawkshead campus場所はロンドン郊外にあります。イギリスの郵便番号精度は日本よりも細分化されていて、ほぼピンポイントで検索することができます。もし可能でしたら、グーグルマップの検索欄にAL97TAと入力し、検索してみて下さい。航空写真にすると、広大な農地にポツンと存在する建物を御覧頂けると思います。こうした立地は馬や牛等の大動物を扱うために必要なものでしょう。

 RVCは研究のみならず、大規模な動物病院があり、様々な動物種に対して最先端の治療を提供しています。特に馬獣医学に関しては積極的に取り組んできた歴史があります。近年では私の研究テーマである馬間葉系幹細胞を用いた研究および臨床応用を世界に先駆けて実現してきました。

 RVCの中庭は芝生庭園となっており、美しく整備されています。中央にはRVCのシンボルとなっている馬の大きな像があり、夜にはライトアップされています。  

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 イギリスには街中であっても広い敷地があり、馬をみかけることが多々あります。そうした環境が馬獣医学を育む土壌になってきたのでしょう。