6/8「ひだかトレーニングセール」にむけて(上場予定のJRA育成馬紹介)(日高育成牧場)

6/8(火)JRA日高育成牧場で開催される「ひだかトレーニングセール」に上場を予定しているJRA育成馬(5頭)についてご案内いたします。なお状況により、欠場となる馬が出る場合もあります。詳細につきましてはJRA馬事部生産育成対策室(電話03-5785-7540)までお問い合わせ下さい。

2010 JRAブリーズアップセールを欠場した馬は6頭います。そのうち、タイキエンプレスの08(牡:父スウェプトオーヴァーボード)、ハナコスマイルの08(牝:父ネオユニヴァース)、ミズホの08(牝:父ネオユニヴァース)、メモラブルワーズの08(牝:父ストラヴィンスキー)、ニキトートの08(牝:父チーフベアハート)の5頭は、68日(火)に開催される『ひだかトレーニングセール』を目指して調教を進めているところです。※1

 これらの馬たちは、それぞれブリーズアップセール直前に発症した疾病や跛行等のため、順調に調教を進めることができませんでした。セールを見送った後は約24週間、馬体をいったん緩め、常歩運動で管理してきました。彼らに対する調教のポリシーはブリーズアップセールに上場する馬となんら変わりません。つまり、ステッキを入れてラスト1Fを速いスピードで走るためのトレーニングではなく、競走馬として必要な基礎体力をつけたうえで、馬自らが走りたい気持ちとなるような教育を行って上場するということです。しかしながら、当日のセールにおける騎乗供覧では、セリの雰囲気にあったスピードを出して皆様にご評価をいただくつもりです。

ここまでの調教過程を理解していただいた上で、JRAのポリシー、すなわち走行タイムだけではなく、いかにいいフォームで走ることができるかを見ていただければと考えています。なお、当日はセールのレポジトリーとは別に、上場馬の厩舎前に設ける予定のJRAブースにおきまして、上場馬の調教過程、疾病歴および個体ごとのX線・エコー・内視鏡画像をご覧になることができます。どうぞ、ご利用ください。

※1ダンツローレライの08は左肩跛行が良化せず、ひだかトレーニングセールを欠場することとしました。

Photo_6 ひだかトレーニングセール上場番号76番 ニキトートの08

ニキトートの08(牝父チーフベアハート)は、3月に喘鳴症を発症したためBUセールを欠場しました。セール後、日高育成牧場においてトレッドミル検査を行った結果に基づき、516日に声のうおよび声帯摘出手術を実施しました。経過も良好で、術後3日後から普通に調教を実施しています。姉はフィリーズレビュー2着の当場育成馬アマノチェリーランでもあり、血統的にも期待している馬です。

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ニキトートの08の調教(529日)

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縦列での調教で、先頭はひだかトレーニングセール上場番号75番 ハナコスマイルの08(牝 父ネオユニヴァース)です(529日)。

ハナコスマイルの08319日の屋内坂路馬場において3F46秒(16-15-15/F)の調教後に右後肢の跛行を呈し、レントゲン検査の結果、陳旧性の右第3趾節種子骨骨折も確認されたため、413日まで調教を休んでいました。現在では、スピード調教も順調にこなしており、元気よく走ることができるようになってきました。

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ひだかトレーニングセール上場番号74番 メモラブルワーズの08(牝 父ストラヴィンスキー)の調教後の常歩運動です(519日)。

メモラブルワーズの081月に左前内側管骨瘤がでたり、4月に右肩跛行を呈したりするなど、順調ではありませんでした。本馬は気性の勝った馬で、走りたい気持ちに身体がついていけなかったのですが、現在では心身ともに充実し馬体に身が入りつつあります。

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気候がよくなったので、天気のいい日はグラスピッキングを実施しています。

精神面のリラックスを図るとともに、馬に草食動物としての本能を刺激し、肉体的・精神的に健康に保つものと考えています。向かって左の芦毛馬は、ひだかトレーニングセール上場番号15番 タイキエンプレスの08(牝 父スウェプトオーヴァーボード)、向かって右が上場番号16番 ミズホの08(牝 父ネオユニヴァース)です(519日)。タイキエンプレスの08はブリーズアップセール前日まで順調に調教を行っていましたが、右前屈腱部の腫脹が見られたため欠場したものです。エコー検査を定期的に実施しながら、調教を進めています。また、ミズホの08は、312日に小腸捻転を発症し開腹手術を実施しました。腸管のダメージは少なく、切除はせず整復のみ実施したものです。術後の経過は良好で、術後18日から騎乗運動を開始し、順調に調教をこなしています。

育児放棄その2(経産空胎馬にホルモン剤投与を行い乳母として導入する試み(生産)

前回お伝えした育児放棄の続報です。本年が初産の母馬が育児放棄に陥ってから、3週間が経過しました。子馬に対する攻撃が、徐々に激しくなる傾向を認め、対策を考えなければならない状況となりました。高額な費用をかけて乳母を借りるか、孤児としてヒトの手のみで代用乳を給与して育てるか、それともその他の方法を試みるか非常に悩みました。

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育児放棄の母馬の子馬に対する攻撃は、徐々に激しくなっていきました。

今回、当場で選択したのは、高齢(20歳)のために、昨年出産後に種付けを行わずに研究用馬として在厩している空胎馬に対して、ホルモン剤投与を行うことによって泌乳を誘発し、乳母として導入する方法です。この方法はフランスの研究者が報告しており、当場では、今回が初めての試みとなりました。このホルモン処置は2週間必要であるため、育児放棄が発覚した数日後から開始しました。ホルモン処置を開始してから経時的に乳房が膨らみ始め、搾乳を開始した3日目には、1回の搾乳で1リットルもの乳を得られるまでに至り、乳母として導入する日がやってきました。

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ホルモン処置前の乳房(左)とホルモン処置13日後の乳房(右)

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ホルモン処置13日後には1回で1リットルの搾乳が可能となりました。

乳母を導入すること自体が、当場では初めての経験となります。乳母として導入する牝馬は、高齢のため落ち着いてはいるものの、少し気性の激しい部分も持ち合わせているために、また子馬が3週齢と導入時期が遅すぎるために、乳母の導入自体が成功するかどうかは非常に不透明であり、さらにホルモン処置によって子馬を発育させるために必要な泌乳量が得られるかどうかという不安も残っていました。

まずは子馬と産みの母馬との離別を行いました。これは予想していたとおり、問題なく終了しました。続いて、乳母と子馬との対面に移りました。乳母を導入する場合に、出産時に産道を胎子が通過するのと類似の刺激を子宮頸管に与えることによって、母性を誘発させられるとの報告に基づき、最初に乳母を枠馬に保定し、用手にて子宮頸管の刺激を実施しました。1度目の刺激時には目の前の子馬を威嚇したり、噛んだりしていましたが、2度目の刺激時には34回ではありましたが、子馬の顔を舐める仕草を認めました。しかし、その後も威嚇は続き、子馬が吸乳を試みる際には蹴ろうとするので、後肢を縛り付けることによって、なんとか吸乳が可能となりました。

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乳母と子馬の初対面時には、胎子が産道を通過するのと同様の刺激を与えて母性の誘発を試みました。

馬房に収容してからは、子馬の安全確保を最優先として、馬房内に簡易の枠馬を設置し、翌朝まで乳母を収容しました。それでも吸乳時には後肢で蹴ろうとするので、枠馬に畳を吊るし、その一部に小窓を開けて、子馬が安全に吸乳できるようにしました。対面を開始してから5時間が経過した時になってやっとスタッフが乳母の頭絡を持つだけで、抵抗なく吸乳を許すまでになりました。

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対面初日は馬房内に設置した簡易枠馬に乳母を収容しました。これにより吸乳時には子馬の安全が確保できました。

翌朝からは、インドアパドックや屋外パドックで2頭一緒に放牧を開始しました。対面開始から5日間は、完全に子馬を受け入れるまでには至らず、機嫌が悪い時には威嚇し、噛み付く素振りを認めることも珍しくはなく、そのために、子馬が避難できるように馬房内に鉄管を渡し、子馬専用のスペースを確保しました。また、子馬への授乳は、スタッフの保定がなければ不可能な状況が続きました。

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乳母導入後5日間は、子馬への威嚇が続き、乳母と子馬の双方にストレスが溜まっているように見受けられました。馬房に鉄管を通し、子馬専用のスペースを確保しました。

乳母導入から4日間が経過しても子馬を受け入れない場合には、導入を諦めるべきだともいわれているため、今回の導入は失敗したと考えていた6日目に、他の親子と一緒に放牧を行ってみました。当初は他の親子の姿を見て、母性を抱くきっかけになればと考えていましたが、他の母馬が威嚇してきたのを境に、子馬を守ろうとして蹴り返しました。それからお互いの威嚇が数分間繰り返され、双方の母馬が落ち着いた直後に変化がおきました。子馬を守ろうとの想いからか、乳母に完全な母性が覚醒し、放牧地の中でスタッフが保定することなく吸乳さえも受け入れ、常に子馬を守ることを第一に考えるようになりました。それ以降は、子馬の全てを受け入れ、本当の親子のように振舞うようになりました。子馬も生まれて初めて安らげる場所を見つけたかのようにリラックスして横たわるようになりました。さらに、以前はスタッフが馬房に入るとミルクがもらえると嘶き、跳び付くこともありましたが、乳母導入後はスタッフが馬房に入っても、体を揺すらないと起きないようになりました。

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他の母馬から子馬を守ろうとすることで、完全な母性が覚醒しました(右の親子が乳母と子馬)。

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母性が覚醒してからは、完全に子馬を受け入れるようになりました。

一方、ホルモン処置によって得られた泌乳量は決して十分とは感じられず、子馬を適正に発育させるために、現在も推奨量の1/3程度の代用乳を補助的に給与しています。今回のホルモン剤投与によって経産空胎馬に泌乳を誘発し、乳母として導入する試みは、泌乳量だけを考えると完全に成功とまではいませんでしたが、子馬の精神面を考えた場合には非常に効果的であったと感じています。今後はホルモン処置を行った乳母が正常に発情し、受胎できるのかについても検証する予定です。

今回の育児放棄を経験し、競走馬として1勝すること、あるいは競走馬としてデビューすることはもちろん、セリに上場させるまでに順調に発育させること、さらには無事出産させることの難しさ、すなわち軽種馬生産の難しさを実感することができました。ドラマであれば、このような育児放棄を受けた馬がG1競走に優勝したりするものですが、そう上手くはいかないのが軽種馬生産の現実です。当場で得られる知見が軽種馬生産の一助となれば幸いです。

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子馬は生まれて初めてリラックスし、精神的に落ち着きました。今回、最もがんばってくれたのは、もちろん20歳になった乳母でした。本当に頭が下がります。

若馬の坂路調教(日高)

 前任者が手塩にかけて育成した日高育成牧場の若馬たち56頭を、3月から引き継ぐことに伴い、ブログの筆者が変わりました。どうぞよろしくお願いします。前任者同様、「これがいい」という信念をもって、育成調教を行いたいと考えています。

 319日現在、通常調教は800m屋内トラックの調教をベースとし、また、スピードと体力をつけるトレーニングは、週2回、屋内1000m坂路で実施しています。坂路では、1本目を縦列でのストリングを組んでのステディキャンター(19-18/F)、2本目は併走で3F48秒程度(16/1Fペース)のスピードで、実施しています。特に、1本目の縦列では前後の馬、2本目の併走では横にいる馬にそれぞれ近づけて走ることができることを目標にしています。

 

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3/161本目の縦列調教。先頭はポレントの08(牝 父ネオユニヴァース)。

 

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3/162本目の併走調教。向かって左はポレントの08、右はドクターブライドの08(牝 父ロックオブジブラルタル)。

 

 屋内坂路馬場は、前半350mの平坦な部分と後半650mの坂路部分に分かれています。勾配は、最初の200m2.5%、次の350m3.5%、止め際の50m5.5%となっています。したがって、実質は600mの坂路ということになります。なお、タイムについては、スタートしてから150750m間を自動計測することができます。効果的に負荷をかけるためには、この測定区間の最初の1Fの平坦部分でスピードにのせ、坂路部分の3Fをしっかり走らせることが重要と考えています。負荷をかけたよい調教が行えたかどうかは、馬の動きや走り終えた後の息遣いを参考に心拍数や乳酸値を推定して判定するようにしています。119日号の当場ブログ「科学の目」にもありましたが、1月は18秒のキャンターで220まで上昇していましたが、現在(319日)ではそのスピードでは心拍数は200手前、すなわち有酸素運動でこなせるようになっていました。しかし、2本目のスピード(実際は15.5-14.5-14.7)における最大心拍数は226、また、調教後の血中乳酸値は13mmolまで上昇していました。これら数値が示すとおり、かなり頑張って走っているので、翌日に多少歩様の硬い馬も出ます。馬が現在の調教を楽にこなすことができるようになり、また、騎乗者の手ごたえがon the bridledとなってきたことを見極め、1600馬場でスピード調教へ移行して行くつもりです。なお、坂路の負荷は自分が想像したより大きいことから、坂路以外の800mトラック馬場調教日には、あまりスピードを出さず、隊列を整えた落ち着いた調教を行っています。

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3/18800mトラック馬場での調教。1本目は縦列(F24)、2本目は2列(F20)で隊列を整えることを目標に調教を実施しています。向かって右の栗毛はレイクミードの08(牝 父サクラバクシンオー)、左はシルクテイルの08(牝 父ゴールドアリュール)。

日高育成牧場で坂路馬場を使用するメリットとして、坂を登るための負荷をかけるトレーニング以外に、①調教場が厩舎から離れた場所にあるということや②坂路を2回常歩で下るということを考えています。①については、必然的にウォーミングアップやクーリングダウンを長く(片道約2km)行うことができる、②については坂道を下る際に、自然に骨盤以下の後躯を深く踏み込ませる効果があり、背中から腰にかけてのトップラインと連動するボトムラインの筋肉を強化できるのではないかと考えています(具体的に下り坂でどのような筋肉が鍛えられるかについての研究はこれからの課題です)。

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800m屋内トラックの調教後。1頭ずつ騎乗者のコメントを確認します。

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クーリングダウンは馬場内を1周した後、外周を1周します。

日高育成牧場の展示会412日(月)10時~ を予定しています。実馬展示後にブリーズアップセールに上場する予定の馬たちのトレーニングを皆さまに披露させていただきます。多くの皆さまのご来場をお待ち申し上げております。

育児放棄(生産)

222日に本年最初の出産を迎えることができ、当場でもようやく出産シーズンが始まりました。この最初の出産は、初産であり、さらに例年より厳しい冬が影響したのか予定日よりも11日遅れとなりました。初産のために、子馬は50kgと小さく、それも手伝って比較的容易に分娩を終え、さらに初乳もスムーズに摂取したために、スタッフの間でも無事出産を終えたという安心感が漂いました。

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初めての大仕事を終え、子馬の匂いを嗅ぎ、愛情を深める母馬。

翌朝、初乳を経て子馬に移行する抗体の血液中濃度を測定したところ、十分量ではなかったために、冷凍保存初乳を給与することにしました。再度、24時間後に抗体の濃度を測定したところ、十分量の抗体価の上昇を認めることができました。初産のために、初乳中の抗体の濃度が少し低く、乳量も少ないのは一般的なことであり、さらに生後2日間は子馬が乳首から吸飲している姿も認め、また乳首も濡れていたために、この時点では、それほど心配はしていませんでした。しかし、生後3日目から子馬が乳首に近づこうとすると、母馬が子馬を威嚇し、さらには蹴り上げる行為を見かけるようになり、その時期と同じくして子馬の体重の減少を認めました。

初産馬で見られることがある育児放棄が起きてしまいました。馬において育児放棄が起きた場合には、唯一の栄養源である母乳に代わるものを与えなければなりません。その方法として、乳母を導入するか、人工哺乳を行うかのどちらかが選択されます。また、子馬が母馬からの攻撃によって大事に至る危険性もあるために、虐待の程度が激しい場合には早急に母子を分ける必要があります。

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子馬を威嚇し、噛み付こうとする母馬。

 

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小パドックでは他の親子では考えられない程の親子間の距離を確認しています。

今回のケースでは、母馬の攻撃は威嚇程度の範囲であり、さらに初産で泌乳量が少ないために、子馬が執拗に吸い続けることによって痛みを感じているようにも思われ、またヒトが母馬を保定しさえすれば、ストレスは感じているものの吸乳を受け入れるために、早急に母子を分ける必要性は感じられないため、人工哺乳を選択しました。

人工哺乳の方法も様々であり、哺乳瓶での給与や、バケツでの給与などがありますが、今回は、ヒトが保定しさえすれば子馬の吸乳を受け入れることを尊重し、子馬が乳首に吸い付く、吸乳刺激によって泌乳量が増加することを期待して、吸乳時に子馬の反対側から経口投薬器で給与する方法を選択しました。以前、当場で哺乳瓶を使用して人工哺乳を実施した馬が、ヒトをヒトとも思わずに、取り扱いの難しい成馬へと成長した苦い経験もあり、あえて哺乳瓶の選択は避けました。この方法によって、子馬がヒトから乳を与えられているのではなく、母馬の乳首から乳を得ているという意識を持ち続けさせることができればと考えています。

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母馬を保定し、子馬が乳首に吸う時に、口角から経口投薬器を舌の上に挿入し、乳首吸飲時に口蓋と舌の間に生じる陰圧を利用して、人工乳を給与します。

 

 一方で、母馬のストレスを軽減させるために、泌乳に関連するホルモンであるプロラクチンの分泌を促進させるための投薬処置を実施し、泌乳量の改善も試みています。人工哺乳を開始して5日目頃から、短時間ではあるもののヒトが保定することなく、子馬の哺乳を許容する姿、特に母馬が横臥で寝ている状態では23分間も吸乳を許すようになってきました。また、子馬の体を舐める姿も見受けられるようになり、徐々に子馬と母馬の距離が近づいているよう感じています。それとともに乳房の膨らみも少し増し、さらにまだまだ十分量にまでは達していませんが、泌乳量も少し増えています。46kgまで低下した子馬の体重も、生後10日目には60kgにまで回復し、活発な行動も見受けられるようになりました。

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子馬の哺乳を許容する姿も見られるようになり、特に横臥時には23分間も吸乳を許すようになってきました。

初めて妊娠した馬が出産する場合には、このような育児放棄が起こることもあるといわれています。今回、このような育児放棄を経験し、子馬が困惑するのは当然ですが、母馬もどうして良いのか分からずに困惑していることを理解することができました。このような場合、ヒトが新生子を育てるという状況は最後の手段であり、可能な限り母馬が保育できるように対応したいと思っています。一方、海外ではホルモン製剤の投与によって、経産空胎馬に泌乳を誘発させることができるという報告もあるので、今後のことも考え、このような方法も試してみたいと考えています。

バトンタッチ(日高)

 雪が多く寒さの厳しかった本年の冬も、そろそろ峠を超えたようです。225日夜から26日の昼にかけて本年初めての雨が降り、白く路面を覆っていた固く締まった雪も一気に解けてしまいました。その雨後の陽だまりに、春の訪れを告げる福寿草の花を見つけ、うきうきした気持ちにさせられました。

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・雪の多かった今年の冬ですが、毎年牧場内で一番に開花する陽だまりでは、いつもどおり可憐な福寿草の花が咲き始めました。

 育成馬達もここに来てぐんぐん成長してきています。まさに木の芽が萌え出でるように、馬体が膨らんでくるといった印象を受けます。与えられた調教メニューをこなす馬達の走りには力強さも加わってきています。

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    800m屋内トラックでの1列縦隊。ウォーミングアップを兼ねた1本目の駆歩。フレッシュな元気あふれる走りを見せる中で、しっかり一列で馬場の真ん中を走ることができるようになっています。先頭はオールウェイズグッドサンクスの08(牝:父オペラハウス

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2本目の主運動。ハロン22秒のペースで最後までペースを緩めることなく2周(1600m)を走ります。2列縦隊により、もっと走りたいという気持ちを喚起するとともに、ジッと持ったままで隊列のポジションを守ります。先頭左がエイシンマニッシュの08(牡:父グラスワンダー)、右はチャランダの08(牡:父チーフベアハート

卒業式、入学式にはまだ若干早いですが、競馬会は31日に定期人事異動を迎え、この日を境に毎年一部の職員が入れ替わります。若手騎乗者も含めて全てのセクションの者が対象ですが、新任地に赴き、入れ替わりに新しい顔ぶれが着任します。

この日誌を担当してきた私も、本年は異動の対象となり、フレッシュな次期担当者にバトンタッチです。

今回はその送別の宴で、私が職場の方たちに伝えた話のポイントを記して、執筆の締めとさせていただきたいと思います。

それは、「馬には“これでいい”ではなく“これがいい”の姿勢で取り組みましょう」ということです。前回の日誌で、本性として馬は「動きたくない動物」「安心して落ち着くところを求める動物」であると書きました。言わずもがな、これは人にも当てはまります。「楽をしたい、サボりたい」は人の本性でもあります。そういった性の中で、より良い馬づくりを通じて調査研究や技術開発、人材の養成を進める日高育成牧場では、「それでいい」ではなく「それがいい」の姿勢が求められると思っています。

「強い馬づくり」の取り組みに終着駅はありません。いくら科学でその頂(いただき)を目指し、感覚を研ぎ澄まして見極めようとしても次々に暗雲が立ち込め、さらに上の頂や目標が生まれてくるのがこの世界です。私も諸先輩の取り組んできた馬づくりを引き継ぎつつ、馬達から多くのことを学ばせてもらいました。その過程で「それでいい」と思ったこともしばしばです。自らそれではいけないと思えることが馬と違うところであり、人の素晴らしさであると思います。

次回からは、新しい感性と視点で「これがいい」という取り組みとその成果をこの誌面を通じて伝えてくれることと思います。

そろそろ出産準備を・・・(生産)

2月初旬の-20℃を下回る寒さの後は、少し寒さも緩み、日照時間も日に日に長くなってきました。春を待ち遠しく思う今日この頃です。

日高地方ではすでに出産を迎えている牧場も多いようですが、当場では211日出産予定の馬の分娩が遅れているため、本年度の出産シーズンは始まっていません。しかし、出産準備は開始しています。分娩予定日の概ね1ヶ月前からウォーキングマシンを開始し、冬期の運動不足を解消させ、難産などの分娩事故を予防しています。これは、近年、ヒトの出産においても出産の直前まで体を動かすことによって、自然で安全な分娩へと導く方法が見直されているのと同様の考え方です。

時期を同じくして馬房内を電球で照らして人工的に日照時間を延長させる「ライトコントロール」も開始しています。馬は季節繁殖性動物であるため、妊娠に不可欠な卵巣機能は春季以降に発達します。しかしながら、寒冷地である北海道においては、3月に交配を行うためにはライトコントロールによる卵巣機能の早期亢進が必要です。効率的な繁殖管理を実施するためには、適切な栄養管理も不可欠であることはいうまでもありません。

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放牧地が雪で覆われ運動不足となりがちな冬期間には、ウォーキングマシンによる運動が有効です。

また、近年、厳冬期である23月生まれの子馬の管理方法として普及し始めている“子馬ハウス(屋内パドック)”に、出産前の母馬を慣らす必要もあります。これは、特に初産の場合には、出産直後に初めての場所に連れて行くことで、母馬がパニックに陥ることを防ぐ目的があります。直接的な原因は不明ですが、昨年“子馬ハウス”を使用していた子馬が関節炎を発症した経験から、生後間もない子馬の感染症を防ぐためにも、母馬に “子馬ハウス”に存在している細菌やウイルスに対する抗体を獲得させ、初乳を通じてその抗体を子馬に移行させる目的で、今年は出産1ヶ月前後の期間を中心に“子馬ハウス”に収容するようにしました。

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主に冬期間の出生馬に使用する“子馬ハウス”。場所に慣らし抗体を獲得させる目的で、出産前から母馬を収容します。

さて、昼夜放牧を継続している1歳馬達も寒さに順応したのか、それとも寒さの峠が越え、日照時間の延長を体感し、春の訪れを感じているためなのか、ますます生き生きとしています。1月初旬と比較して牧草の摂取量も増え、放牧地でじゃれ合う姿も目立つようになってきました。ブレーキングが開始され、馬房での個体管理を始めるまでは、可能な限り馬本来の群れでの管理を心掛けていきたいと考えています。放牧地で観察していると、1頭が乾草を食べ始めると他の馬も乾草を食べ、1頭が水を飲み始めると他の馬も水飲み場に近づきます。このように集団での行動を尊重することによって、競馬にも不可欠な群れへの適応を自然と身に付けさせたいと考えています。

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放牧地でじゃれ合う1歳馬達。特に牡馬同士で遊ぶ頻度が増えてきました。

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1頭が水飲み場に向かうと、他の馬もやって来て水を飲み始めます。

放牧地における運動距離をGPSで測定すると合計810km程度を推移しており、天候が悪い方が運動距離は長くなる傾向があります。当場では自発的な運動を促すために、放牧地の隅にルーサン乾草を1日に2回置き、さらに1日に2回の飼付け時には、馬房に収容して給餌を行い、放牧を再開する時にフレッシュな状態となることを期待して、運動量を増やす工夫を試みています。

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放牧地の隅にルーサン乾草を置いておくと、馬はルーサンを探して放牧地を歩き回ります。

一方、1歳馬の体重は停滞する傾向にあり、標準とされている日増体量(この時期の標準的な値は0.5kg/日)を下回っています。寒冷地である北海道では、当歳から1歳時の冬期間に成長曲線が鈍化するため、冬期の適切な管理方法が課題となっています。当初は米国のコンサルタントが提唱している成長曲線に合わせるべく体重のコントロールを試みていました。しかし最近では、北海道の冬は青草もなく-10℃を下回るような最低気温になることも考えると、他の季節と同じように成長させることは不自然ではないか、また、北海道に比較して寒さが厳しくない馬産に適した米国での成長曲線とは異なってしかるべきではないか、とも考えるようになりました。また、成長の程度が個体ごとで異なるのは自然であり、無理に平均値として得られた基準値に調整する必要はないとも思うようになっています。幸いにも、2月に入ってからは、1ヶ月間程度停滞していた体高が、再び徐々に伸び始めた馬も認められてきていますので、もう少し待ってみたいと思います。冬期の成長の停滞以上に、栄養満点の青草が生え始める春季における成長のリバウンド(代償的成長)に対して、細心の注意を払わなければと肝に銘じています。

このような北海道での当歳から1歳にかけての冬期における成長停滞が生理的なもので、競走馬としての将来にプラスになることを信じるとともに、マイナスに作用する可能性についても関心を持ちながら今後の調査を進めたいと思っています。

馬の本性とトレーニング(日高)

温暖化がいわれて久しいこの頃ですが、今年は例年になく寒い日が続いており、24日の朝にはマイナス23度となりました。この日、浦河町内の中杵臼にある観測地点では、観測史上初となるマイナス26.7度を記録したそうです。

このように寒さ厳しい立春の北海道ですが、朝6時にはうっすらと夜が白むようになり、陽も徐々に長くなってきています。抜けはじめた馬の冬毛にも、春が着実に訪れていることを感じています。

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12627日の2日間、購買担当者が来場して育成馬の検査を実施しました。この結果を元に、来るブリーズアップセールの売却馬名簿の順番が決められます。まずまず順調な育成馬の成長に、今後への期待も膨らみます。

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年度ごとの調教進度を客観的に見るため、走行スピードと心拍数を関連させ、V200(心拍数が200拍/分のときの走行スピード)を測定します。今年は234日に約40頭に対して実施しました。目視によるラップタイム計測のため、騎乗者は目立つ服装をしています。馬はチャランダの08(牡、父:チーフベアハート)。

今回は馬のトレーニングと本性について考えてみたいと思います。

運動生理学のトレーニング理論では、トレーニング効果を得るためには以下の4つの基本的な原則があり、これは馬にもあてはまります。

1.過負荷の原則:日常の水準以上の負荷をする。

2.漸進性の原則:負荷は徐々に強めていく。

3.反復性の原則:負荷はくり返し行う。

4.個別性の法則:個々の体力、技術、性格に合わせて負荷を行う。

さて、人は名誉やお金(いわゆるハングリー精神)などいろいろな形のモチベーションを持ち、上記の原則を理解してトレーニングを前向きにこなすことができます。しかし、馬には、きついトレーニングを積極的に行う動機は存在しません。

競馬で疾走する馬のイメージから、多くの皆さんは「馬は走る動物である」という先入観をお持ちではないでしょうか。しかし基本的には、馬は安心して快適な場所を求め、特別な指示や刺激がなければ無駄な動きをしたがらない本性を持っています。私達を含め動物は皆同様でしょうが、人は頭で考えられる点が他の動物と異なっています。

そこで順調にトレーニングを負荷していくために考えなければならないのが、馬の精神面の管理です。ホースマンの金言に「馬をハッピーでフレッシュに保て」というものがあります。初めてこの言葉にふれた時、耳あたりのよい言葉で、当然のことと受け流してきました。しかし、最近サラブレッドのトレーニングにおけるその意味の重さをしみじみと感じています。毎日のトレーニングにより、競走馬として肉体的に鍛えられる馬達は、このような精神状態に保たなければそのトレーニングをなかなか継続できないのです。中には食欲が落ちたり、必要以上にイライラしたりで、体が細くなってしまう馬もでてきます。軽種の範疇に入るサラブレッドは、走る素因をより強く引き出すために改良を重ねられてきたため、他の品種に比べて精神的に繊細でもろくなっていることが要因であるようにも感じます。

こういったことから日高育成牧場では、騎乗馴致の段階から調教、トレーニングの段階に移行する年明けからは「走らされたのではなく走ってしまったと感じる調教」をキーフレーズに調教を進めています。意味するのは、ムチや必要以上の体重移動により無理やり馬を動かすのではなく、群れや先行馬について行こうとする馬の性質を利用して、結果として十分な運動をしてしまったという状況を作り出すということです。またトレーニングと休息とのメリハリをつけ、調教後には褒美としてえさを与えます。調教場所や内容に変化をもたせることは馬を飽きさせない意味でも大切です。こういった取り組みにより、毎日の調教が馬にとって嫌なものではなく、少しでも前向きになれる楽しいものになってほしいと考えています。

当然その前提として、馬の体内には走るためのエネルギーと気持ちが蓄積されていることが必要です。朝、馬房から放牧地に放された馬達が、気持ちよさそうにしばし駆け回るあの時の気持ち、状態をイメージしています。この観点からは、調教をやり過ぎないことも大切です。例えるならば、美味しい寿司でもおなか一杯食べると毎日は食べたくなくなるのと同様です。「腹八分目がどこか」を見定めるのは非常に困難ですが、そのためにも調教前後の馬の状態をよく観察することが必須ですし、前回述べさせていただいた科学の目の活用も大切です。

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放牧されてしばらくは、馬達はフレッシュな気持ちで走り回ります。自ら動くこの精神状態をトレーニングにおいても保てるか、が課題です。

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馬はなるべく動かず、落ち着いて草を食むことを好み、それを求める動物です。

1月末になると、週2回の1,000m屋内坂路でのスピード調教が定着します。3ハロンを18秒/ハロンで刻むスピード指示を出せるまでになっていますが、その指示は、馬が余裕を持って走れるスピードであり、無理をしなければ出せないものではありません。心拍数は200拍/分を越え、十分な負荷がかかっていると思いますが、走った後の発汗もほとんどなく馬はけろっとしています。こういった指示のもとで、綺麗に組めていた隊列の中に、行きたがって列を乱したり、我慢させるために騎乗者が背中を丸めたりする馬が多くなれば、それは1つ上のスピード指示を出せる体力がついた(力が溜まってきた)と判断しています。

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1,000m屋内坂路での調教風景。シングルファイル(一列縦隊)で3ハロンを18秒/ハロンの指示です。先頭はタイムを刻み、後ろは群れをイメージする中で、距離2馬身を保ってしっかり追走します。元気のある馬は我慢することも求められます。競馬を想定したポジショニングの練習でもあります。先頭はチコリーベルの08(牝、父:ジャングルポケット)。

トレーニング自体に意義と必要性を理解することのできない馬達に、毎日の調教で気持ちよく前向きに走らせるためには「ハッピーでフレッシュ」な気持ちの維持は不可欠なのです。

冬期の昼夜放牧について(生産)

浦河では、12月中旬に続いた降雪がひと段落したと思っていた矢先、正月明けの大雪に見舞われました。さらにその後もマイナス10を下回る日が数日続くなど、例年になく厳しい冬となっています。

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正月明けの大雪によって1歳馬の腕節が埋まるまでの積雪となり、歩くのも一苦労です。

さて、前号に引き続き、昨年生まれの1歳馬の管理についてです。大雪によって放牧地に40cmもの雪が積もり、牧草摂取が不可能となったため、1歳馬を事務所付近の放牧地に移動しました。この放牧地にもシェルターはありませんが、現在も昼夜放牧を行っています。放牧地における運動距離をGPSで測定したところ、日中2.5km、夜間4.5km、合計7km程度で、やはり運動量は減少してきました。また、体重もここ2週間の推移は12kgの微増にとどまり、ほぼ現状維持となっています。特に最低気温がマイナス103日間連続で下回ったときには、3日間で全馬45kgほど体重が減少しました(その2日後の測定時にはしっかり回復していました)。一方、昼間のみの放牧管理を行っている空胎の繁殖牝馬の体重も、この期間を含む1週間で約710kg減少していたため、マイナス15にまで冷え込むような日には、摂取カロリーを増やす必要があると考えています。このように運動量と体重の増減を見る限り、昼夜放牧の限界に近づいているようにも感じられます。

一方、馬のコンディションおよび表情を見ると、必ずしも快適そうではありませんが、群れで乾草を頬張り、水を飲み、横たわり、そして放牧地を歩く姿を見ると、我々が想像しているほどダメージはないのかなという印象を受けています。また、この調子なら春まで昼夜放牧を実施できるのではないか、とも思い始めています。しかしながら、最も気温が低下する2月下旬を過ぎるまでは馬のコンディションを見極めながら、臨機応変に対応しようと肝に銘じています。

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現在放牧中の放牧地には多くの木が植えられており、馬達は好んで木の周囲に集まります。

ここからは、馬の寒さに対する適応力について触れてみたいと思います。一般的に、家畜化された馬が屋外で過ごせる限界温度は、マイナス1からマイナス9までと幅広い範囲の報告があります。ただし、これは最高気温が0を下回ることがほとんどなく、降雪も珍しい地域での調査です。しかし、北海道の気候に似たカナダで実施された研究では、「馬は温暖な地域から降雪を認めるような寒冷地に移動しても、その寒さに対して1021日で適応する」と述べられています。一方、寒冷地に繋養されている場合、寒さに馬体が容易に適応し、マイナス15までは馬服もシェルターもなく過ごすことができると報告されています。また、シェルターで雨風を遮った場合、熱放散を20%防ぐことができるとも報告されています。

一般的に、冬期の寒さに対しては、乾草の給餌が重要視されています。つまり、乾草などの高繊維飼料が微生物の働きによって盲腸と結腸で分解された際に熱が発生し、体内を温めることができるからです。このため、外気温が0から5ずつ低下するごとに1kgの乾草の増給が必要とされています。

帯広畜産大学の研究では、北海道和種や半血種は気温の低下に対して安静時の代謝量を増加させずに、皮下脂肪を蓄えることによって適応するそうです。一方、サラブレッド種は皮下脂肪が少なく、安静時の代謝量を増加させることによって適応すると報告されています。したがって、冬期の昼夜放牧に際して、どのようにして乾草を摂取させるかが課題となります。

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通常の乾草(手前左)とラップサイレージ(奥右)を同時に2つ設置すると、ラップサイレージを好んで食べます。

そこで、低水分ラップサイレージと通常の乾草を2つ設置してどちらを好んで食べるか比較したところ、圧倒的に低水分ラップサイレージを好むことがわかりました。ラップサイレージはヒートダメージ(空気と接触することにより好気発酵、品温上昇がすすみ、その結果品質が低下する現象)等に注意が必要であるため、冬期の給餌が適しているといわれています。給餌を開始して3週間ほど経過していますが、子馬に下痢や呼吸器症状等は認めていないので、春まではラップサイレージを給餌する予定です。

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ラップサイレージ(左)と通常の乾草(右)を同時に設置した5日後の状況。圧倒的にラップサイレージが好まれ、食べられていることが分かります。

科学の目 -心拍数や乳酸値の測定から得られるもの-(日高)

本年も12日の騎馬参拝で年が明けました。年明け早々は暖気が入り、年末に降り積もった雪もかなり緩みましたが、ここに来てマイナス10度を下回る日が続いています。特に5日午後から6日にかけて、地元の人でもあまり経験がないほどの大雪に見舞われ、例年になく厳しい冬となりました。一方、このしばれと雪にはよい側面もあります。調教後や調教オフ日の育成馬には、リフレッシュのために極力パドック放牧をしますが、地面がアイスバーンにならないため安全に放牧ができます。しかしながら、転倒による大怪我をさせてしまった過去の教訓もあり、春まで気がぬけない日々が続きます。

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毎年恒例の騎馬参拝で新年の行事が始まりました。参拝するポニー達。本年は諸般の事情から浦河神社の石段を登る参拝ができなくなったため、育成牧場の近くの西舎神社で実施されました。人馬の安全と育成馬の活躍を祈願しました。

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16日の大雪。800m屋内トラック馬場に吹き込んだ雪を、人海戦術で取り除きます。この日はとりあえずの除雪に10時過ぎまでかかりましたが、調教は無事実施できました。

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うず高く積まれた厩舎周りの雪。夜から降り続いた雪は60cm近く積もり、歩くのも一苦労。車も埋まってしまうため、早朝から厩舎地区へのアクセス路の確保が最優先で行われました。

さて、寒さの厳しい中、育成馬の調教は徐々に本格化し、800m屋内トラック馬場での2,400m(1+2周、ハロン23秒まで)の駆歩調教をベースに、週2回の1,000m屋内坂路調教(2本、ハロン20秒まで)を実施しています。坂路では1列縦隊シングルファイルの調教を行っていますが、求めるスピードをあげることに伴い、併走に移行します。

今回は「科学の目」についてです。馬を管理・育成・調教する際、担当者は自身の五感をフルに使ってその時々の馬の状態の把握に努めます。息遣いや息の入り方、発汗の程度、運動時に見せる様々な仕草、騎乗時の反応、四肢の触診、エサの食べ方など、挙げればきりがありません。これらの情報を元にそれぞれの馬に合わせた管理を行っていきます。そういった感覚にプラスされるのが「科学の目」です。例えば、毎日の検温や体重測定で得られたデータもその一つといえるでしょう。

現在日高育成牧場では、馬の状態把握に加えて日々の調教メニュー作成の一助とするために、数頭の馬を群全体のパイロットとして、定期的に調教中の心拍数測定ハートレートモニター使用と調教後の血中乳酸値測定(※)を実施しています。

例としてプリンセスレールの08父:チーフベアハートの、114日(図115日(図2の心拍数変化のグラフを示します。両日とも同じ騎乗者が騎乗し、14日は800m屋内トラック馬場、15日が屋内坂路馬場で調教しました。いずれも駆歩を2本行ったため、心拍数には2つの大きなピークがみられます。調教内容の変化や馬の精神状態に心拍数が敏感に反応することがよくわかります。

駆歩の心拍数を両日で比較してみましょう。

14日:トラック馬場 駆歩2本目(F2321秒)

平均心拍数:181最大209回/分 

15日:坂路馬場   駆歩2本目(F2321秒)

平均心拍数:188最大227回/分

両日とも走行速度はほぼ同様ですが、当然、心拍数は坂路調教のほうが高くなっています。特に最大心拍数は坂路では227回/分にもなり、この時期でのほぼ最大心拍数と思われる値を示しています。また、2本目の駆歩のあと心拍数が100回/分に戻るまでに要した時間は、トラック馬場の70秒に対し、坂路馬場では120秒かかりました。この心拍数だけをみれば馬にとってこの日の調教はかなりきつかったと考えられますが、騎乗者の感想は「まだ余裕がある」というものでした。

2本目の駆歩調教直後の血中乳酸値は、トラック馬場では殆ど上昇しませんでした。しかし、坂路では6.6ミリモルリットル(血漿で測定)にまで上昇し、無酸素運動が行われたことを示していました。

800m屋内トラック馬場は有酸素運動のトレーニング、坂路馬場は無酸素運動のトレーニングに有利な馬場ですが、総合的に見てこれら2種類の馬場を使っての現時点での調教により、十分効果が上がっているものと考えられました。

視点をかえて飼食いについてみると、例年調教が進むと少しずつエサを残す馬が増える傾向が見られます。2歳になった育成馬には、現在計7kgの飼料を一日4回に分けて与えています。今年も調教が続くことで週末になるとエサを残す馬が数頭いるものの、週末の軽運動日を挟んだ週明けには飼食いが回復しており、このことからも適度な調教負荷になっているものと考えられます。

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図1:800mトラック馬場で調教した際の心拍数変化。調教の流れは、角馬場での速歩歩様検査)常歩で移動駆歩1F2625常歩で手前変換駆歩2周(F2321秒)常歩での鎮静運動(約20分)。

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21,000m坂路馬場で調教した際の心拍数変化。調教の流れは、角馬場での速歩歩様検査)→常歩で移動駆歩1本目F2826常歩で坂路を下りスタート地点に戻る駆歩2本目(F2321秒)常歩での鎮静運動(約20分)。駆歩の2つの大きなピークの前に心拍数の上昇がみられますが、これは坂路を下る途中で横を馬が駆け上がり、馬がそれに驚いたことが原因でした。

いうまでもなく馬の状態をよく観察することは必須事項ですが、それに加えて心拍数や乳酸値の測定をはじめとした「科学の目」をオーバーラップさせることで、それぞれの管理者が五感に磨きをかけることができるとともに、より多面的に馬の状態や調教の適否を把握することができるようになると考えています。日高育成牧場でも得られた情報を元にして、若馬に対する調教メニューをよりよいものにしていきたいと考えています。

※運動後の血中乳酸値はトレーニング進度や調教強度の判定に使用できる指標のひとつといわれています。トレーニングにおいて無酸素エネルギーが利用されると、筋肉中に産生された乳酸は血液中に流れこみます。この血液中の乳酸値を測定し、4ミリモル/リットルを超えているか否かが無酸素運動か、有酸素運動かを判断するひとつの目安となります。

冬期の子馬の管理について(生産)

12月中旬に降り続いた雪のため、北海道浦河地方は例年より早く一面銀世界へと変わりました。北海道では冬期の積雪および低温を避けることはできず、当歳馬の管理方法の変更を余儀なくされます。

冬期には主食となる牧草が枯れ、気温の低下によって放牧地の路面が凍結するなど、飼育環境が急変します。当場においても、放牧地の草が枯渇したためか、群れ全体で体重が減少する傾向が認められました。そこで、離乳後から開始していたシェルター付き放牧地での24時間放牧管理を12月初旬で終了し、当場において最も遅くまで緑が残る放牧地に当歳馬を移動させました。

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メドウフェスクの混入割合が高い放牧地。12月中旬にも緑が残っています。

この放牧地は、なぜか最低気温が氷点下に達する時期にも緑が残るので不思議に思っていました。そこで日高農業改良普及センターの指導員の方々に調査してもらったところ、「メドウフェスク」の混入割合が高いためではないか、との返答をいただきました。メドウフェスクはシベリア原産の牧草です。耐冬性に優れているため晩秋期にも生育を続け、12月中旬でも緑が残るようです。一方、フェスク系の牧草は、「エンドファイト」と呼ばれる内部寄生真菌が産生するアルカロイドによる中毒症が問題となります。しかし、この中毒症は、主に妊娠馬に対して流産や無乳症を引き起こすといわれており、一般的に子馬の摂取には問題が無いと考えられています。放牧中の子馬を見ている限りは、嗜好性も概ね良好で、体重の増加もスムーズでした。晩秋期でさえも生育を続けるため、12月中旬でも草丈は15cm程度を維持しており、他の放牧地の草丈が5cm未満で地面が凍結している時でも、クッション性はある程度良好です。しかし、この放牧地は馬が退避するためのシェルターを備えていないため、いつまで昼夜放牧を継続できるのかが悩みの種となっています。十分な栄養は、良質な乾草やバランスの取れた配合飼料によって供給可能かもしれません。しかし、地面に生えている草を群れの仲間とむしり食べる行為こそが生理的に自然であり、子馬の成長にとって最も重要なことだと思っています。そのため、可能な限り昼夜放牧を継続し、濃厚飼料を最小限にした自然な状態で管理したいと考えています。

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嗜好性も良く、草丈が長いためクッション性も良好です。

昼夜放牧から昼放牧へ変更時期の目安は、①放牧地での運動距離の5km前後に低下したとき、および②体重が減少したとき、としています。放牧地での運動距離は、GPS装置を使って確認していますが、12月初旬に放牧地を変更した際が14km、そして降雪の翌日で最低気温が-10℃になった日でさえも10kmの移動距離が確認されました。一方、体重については、降雪が続いた日などには減少することもありましたが、緩やかな増加を認めました。そのため、現在も昼夜放牧を継続しています。

当初、シェルターがないことから、雨や雪の夜には馬体へのダメージを考慮して馬房に収容することも考えました。しかし、天気予報に反して雪が降る夜を放牧地で過ごした翌朝、子馬たちは背中に雪を背負っているにもかかわらず、意外にも清々しい表情をしています。さらに背中に積もった雪の下はほとんど濡れておらず、密な冬毛が馬体の暖かさを保っていました。

この日を境に、馬は寒さに適応する能力を有していると再認識するようになり、昼夜放牧を終了する時期については、子馬の行動および表情を見て決定しようと考えるようになりました。

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朝飼葉を食べるため馬房に収容した当歳馬。夜間の積雪により、背中に雪が積もっています。

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背中の雪を掃うとあまり濡れておらず、暖かさを保っていました。

北海道の冬期における当歳から1歳にかけての管理をどのようにするべきか、という問いに対する明確な答えは見つかりません。半日かけて移動する距離を、ウォーキングマシンを使用して1時間で強制的に運動させるべきなのか、または、将来のアスリートであることを考慮して、馬服を着せて皮下脂肪を蓄積させないように保ち、冬眠にも似た低代謝状態を避けるべきなのか、悩みは尽きません。しかし、調教が始まれば、当然のことながら毎日馬房に収容されます。したがって、それまでの期間は群れで管理し、放牧地で仲間と餌を食べて仲間と遊ぶことで自然に体力がつき、あわせて精神面も成長すれば良いな、と理想ばかり抱いてしまう今日この頃です。

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昼夜放牧時の午後、餌は放牧地にバケツをつるし、並んで食べさせています。馬房では餌を残す馬も、群れで食べさせると完食するから不思議です。

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雪は牧草を保温し、運動時のクッション性も高める役割を果たします。

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前肢で雪をかき分け、雪の下の牧草を食べる子馬。草をむしり食べる行為こそが、馬の自然な行動であり、欲求なのでしょう。

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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調教へのこだわり パート2(日高)

北海道浦河では連日マイナス10度を下回る日が続いています。おまけにドカ雪も降り、新年を前に冬モード全開です。

本年売却した育成馬であるエスカーダ号(牡、父:バゴ)が、オープン競走のクリスマスローズSに勝利し、朝日杯FSに駒を進めました。有馬記念では、1世代上の当場育成馬であるセイウンワンダー号(牡、父:グラスワンダー)の活躍を期待しています。

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一面真っ白な雪道を坂路馬場に向かう馬達。

本年購買した育成馬は3つの群に分けて馴致を行いましたが、11月末には屋内800m走路での全馬の運動量の足並みが揃いました(馬なりで両手前1周ずつ、計1,600mのキャンター調教)。当初は単に群れで走る調教でしたが、2列縦隊での安定した走行が行えるようになり、現在は次のステップである一列縦隊での調教に移行しています。騎乗者を乗せてキョロキョロ、フラフラしていた第3群の馬達もその走りは次第に安定し、しっかりとした隊列が組めるようになってきました。また、馬の方から運動量を増やして欲しいという気持ちが表れはじめ、「走りたくて仕方ない」力溢れる走りがみられるようになってきました。12月からはキャンターの距離を2,400mに伸ばし、調教速度も屋内坂路で1ハロン20秒程度まで徐々に上げていきます。

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調教後の鎮静運動。約20分間(約2,000m)の常歩運動を行います。左からハートストリングスの08(牝、父:ゼンノロブロイ)、ペンタクルの08(牝、父:ロージスインメイ)、メモラブルワーズの08(牝、父:ストラヴィンスキー)、シルクテイルの08(牝、父:ゴールドアリュール)

今回は、昨年もこの時期にお伝えした、育成における様々な「こだわり」についてです。

日高育成牧場では、例年BTC(軽種馬育成調教センター)利用者との意見交換会を開催しています。この会では、昨年から「育成のこだわり」を話題として、2歳戦での競走成績が上位である5名の利用者の皆さんにパネラーになっていただき、育成・調教に対するそれぞれの「こだわり」を話していただいています。本年は育成牧場からのこだわりとして「馬の本性と調教」と題する話題提供の後、パネリストからその年の結果に対する感想と、その考えに至った理由を話していただきました。その後、パネリストと会場の質疑応答が行われます。

この会には、活発な意見交換をするための一つのルールがあります。それは基本的に全ての意見は言い切りで終わる、ということです。つまり「こだわり」に対して正しいか間違っているかを検討するのではなく、出された「こだわり」について納得できる人は吸収し、違うと感じる人は聞き流す、というスタイルです。もちろん、明確な科学的根拠のあるものについてはその都度説明します。絶対の根拠がなくても、それぞれの人が、自分で育成調教する中で感じ、辿り着いた「こだわり」ですので、何らかのヒントが含まれていることに間違いありません。

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意見交換会の風景。

少し専門的な内容も含まれますが、本年の参加者(JRA日高育成牧場を除く)から出された「こだわり」の一部を列記してみましょう。

1歳末までの調教量>

1歳時は無理をしない(A牧場)。

・坂路でハロン13秒台を出す馬もいる(B牧場)。

<準備運動について>

・ウォーキングマシンで1時間実施(B牧場)。

・常歩を10分から15分実施(C牧場)。

2本行う駆歩の1本目までを準備運動と捉えている(B牧場)。

・準備運動馬場で3040分両手前の常歩速歩を実施(D牧場)。

・草食獣である馬は常に走る準備ができており準備運動は不要という考え方を聞いたことがある(E牧場)。

2歳馬をトレセンに送り出すときの目安>

・直線ダートで5ハロン70秒、もしくは坂路で3ハロン40秒をクリアする(B牧場)。

・スピード調教日の調教後の馬体状態を見る。5月なら坂路で3ハロンを37秒程度課して、午後に馬がしぼんで見えたらまだ早い。エネルギッシュな状態であれば退厩体制が整ったと判断する(F牧場)。

・坂路で3ハロン36.5秒、1,600mダートトラックを5ハロン65秒で走ることができた馬の多くが新馬戦で勝ち負けできる(G牧場)。

<調教施設>

1,600mダートトラックを多用する理由は、蹄や腱が鍛えられるため。坂路によるインターバル調教では負荷が軽いと思う。また、調時の馬をしっかり観察できるのも良い。(G牧場)

・骨に刺激を与えるためには締まった馬場のほうがよい(C牧場)。

・より負荷のかかるほぐした馬場がよい。ただし、馬場が荒れるので中間ハローが必要になる(F牧場)。

<胃潰瘍について>

・納豆のとぎ汁を与え、納豆菌で整腸、健胃を図っている(B牧場)。

・濃厚飼料の多給が原因と考える。青草、乾草をなるべく多く食べさせている(C牧場)。

この他にも多くの意見交換がなされ、当初予定していた2時間が短く感じられました。

BTC利用者の多くは現状に満足せず、最大限の知恵を絞り、持てる施設をフルに活用して色々なことにこだわって「強い馬づくり」という目標に向け、努力していることがひしひしと伝わってきました。一見すると相反するようなこだわりもありますが、登る山は同じでも、色々なルートがあるのだなと強く感じさせられました。

日高育成牧場でも育成馬をしっかり観察する中で「こだわり」を持って育成調教を進めていきたいと思いますし、併せてそれらを少しでもわかりやすく、なるべく科学的な分析や根拠も加えて広く普及していくことが大きな使命であると考えています。

それでは皆様、良い新年をお迎えください。

【ご意見ご要望をお待ちしております】

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“血統登録検査”について(生産)

北海道浦河では“雪虫”が飛び交う時期も過ぎ、さらに10月の終わりに最低気温‐6℃を記録し、早くも冬を迎えています。生産の現場では、離乳を終えると年明けの出産シーズンまでは放牧中心になるため、代わり映えのしない毎日となります。しかしながら、秋から冬にかけては、寒暖の変化も激しいため、毎日の子馬の体調チェックは欠かせません。そんな心配をよそに、子馬たちは、離乳後から開始した分場での24時間放牧管理によって、半野生馬と化しており、鹿を追いかけ、自主トレーニングに励んでいます。

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鹿を追いかけて“馬鹿”げた自主トレーニングに励んでいる子馬たち。北海道では鹿が増え、農作物への被害が深刻な問題となっています。

今回は、9月に行われた子馬(当歳馬)の血統登録検査について触れてみたいと思います。サラブレッドとして競馬に出走するためには、サラブレッドである旨の証明を受け、そして登録されなければなりません。サラブレッド誕生の地である英国では、1791年に出版された繁殖記録台帳であるGeneral Stud Book」から血統登録の歴史は始まっており、血統登録の歴史が、サラブレッドの歴史そのものとなっています。現在では、日本を含め世界各国で英国の形式が踏襲され、血統登録が行われています。日本では(財)日本軽種馬登録協会がその業務を実施しています。ちなみにサラブレッドなどの軽種馬以外の登録は、日本馬事協会が実施しています。

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個体識別検査のためにマイクロチップリーダーを使用して、番号を確認する日本軽種馬登録協会の登録審査委員

検査当日は、2名の登録審査委員の方が来場され、検査を実施していただきました(写真)。実施する検査は、主に馬の個体識別と親子鑑定検査です。個体識別検査は、以前は性別、毛色、頭部や下肢部の白斑、そして毛(つむじ)などによって行われていましたが、2007年産まれの馬からマイクロチップが併用されるようになりました。マイクロチップ検査の導入により、個体識別は簡便かつ確実となったため、2009年産まれの馬からは、当歳時と1歳時に2回実施されていた個体識別検査が、当歳時の1回だけに変更となりま。個体識別は、近年のサラブレッドの経済的価値、さらには競馬の公正確保を考えた場合には、非常に重要なものとなっています。

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マイクロチップ本体は直径2mm×長さ11mmの円筒状で非常に小さく、写真下の注射器を用いてタテガミの生え際の下の靭帯内に挿入されるため、馬への苦痛・ストレスはほとんどありません。

血統、すなわち親子鑑定検査は、以前は血液型検査によって実施されていましたが、2003年から導入されたDNA型検査によって、その精度は99.9%を超えるようになりました。現在は、510本のタテガミあるいは尻尾の毛根をサンプルとして検査を実施しており、採血も不要となったため、子馬へのストレスもほとんどなくなり、人馬ともに安全な検査となっています。

我々にとって、この検査は初めて外部の方に子馬を見ていただく機会であり、セリに上場するような気持ちでトリミングを実施しました。スッキリと手入れされ、少し気取って立つ子馬たちの姿を見ると、少し頼もしく思えました。

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フジティアス09(牡、父:デビッドジュニア)。221日生まれで当場の長男です。

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ラストローレン09(牡、父:デビッドジュニア)。54日生まれで当場の末っ子です。

昼夜放牧について(日高)

北海道浦河では昨年よりも19日早い109日に日高山脈の初冠雪が見られました。紅葉も終わり、木々は冬支度万全といったところです。降雪もまもなくです。

昨年売却した育成馬から、クラシック最終戦となる秋華賞にはダイアナバローズ(父:シンボリクリスエス、母:チッキーズディスコ)が出走、菊花賞にはセイウンワンダー(父:グラスワンダー、母:セイウンクノイチ)が出走し3着に頑張ってくれました。

3群に分け馴致を進めてきた56頭の育成馬達は、2群までは集団調教の段階に入っており、残る3群も騎乗前のドライビングを行っています。

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800m屋内馬場で安定した2周の駆歩ができるようになると坂路調教をスタートします。1群の坂路調教初日は1030日で、誘導馬を先頭に15頭が一群となりゆったりと駆け上がりました。

さて、今回は昼夜放牧について書きたいと思います。このところ昼夜放牧はかなり一般的に実施されるようになりました。夏季の早朝や夕暮れ時の日高路を車で走れば、薄明かりの中で「まだ(もう)馬が放牧されている」という風景に出会うことが多くなってきました。

昼夜放牧を実施する利点としては、放牧時間が長くなることにより運動量が増す、夜を経験させることにより馬が精神的にタフになる、エサ代や寝藁代の節約になる、などが挙げられます。

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朝、視界がよくなると、疲れのあまり肢を投げ出して寝る群れの姿をよく目にします。数頭が見張り役を担当し、他の馬はいびきが聞こえてきそうなほどの熟睡です。

一方、なかなか昼夜放牧に踏み切れなかった牧場の方の多くが、監視の届かない夜間に放牧するのは危険だ、ということを口にされていました。最近では昼夜放牧が普及する中で、徐々にその懸念が薄れてきたのではないかと思います。

しかし、注意しなければならないのは放牧地が狭かったり、放牧頭数が多かったりすると、放牧地自体が荒れて(疲れて)しまうという問題です。そのような場合にはこまめな馬糞拾いや牧草量や草質の維持など、より注意深い草地の管理が求められます。馬の行動観察から、1頭あたりの適切な放牧地の面積はおよそ1ヘクタールという話をよく耳にします。20時間以上の昼夜放牧をしても放牧地が傷まない広さと、いう考え方からもこのぐらいの面積は必要であるように感じています。

一括りにするのは危険かもしれませんが、欧米では馬に十分な広さの放牧地を用意できるのであれば、昼夜放牧をしたほうがより馬にとって自然で快適ではないかという考え方が主流です。これは、加えて経費と労力を節約できることも大きな要因のようです。

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秋も深まり朝日の中でゆったりと草を食む育成馬。体力がついたのか、度胸がついて夜間もリラックスできるようになったのか、疲れて肢を投げ出して寝る姿はほとんど見られなくなります。左からイブキフリッカーの08(牡、父:ファルブラヴ)、オスカースマイルの08(牡、父:デビッドジュニア)、ゲルニカの08(牡、父:ロックオブジブラルタル)。

本年、当場では7月に購買した育成馬9頭の騎乗馴致を3群目として、それまでの3ヶ月間じっくり昼夜放牧(1620hr)を実施してきました。昼夜放牧と書きましたが、当場では8月の一時期にはアブなどの吸血昆虫による馬の消耗が著しいため、若干夜間にシフトして行いました。

群れが安定し、放牧地の環境に慣れてしまうと馬が動かなくなり、運動量が減少するという問題が生まれます。特に牝馬の群れでその傾向が強いように感じます。その対策として、少しでもフレッシュさを保つために定期的な放牧地の変更を行います。牝馬の群については3箇所の放牧地(3ha2ha4.5ha)を使いました。また、まめに掃除刈りを行い、草丈を短く保つことで採食のために動くという副次的効果があるため励行しました。

期間中の馬体重の変化は下図のようになります。最初の数週間は体重増減にばらつきがあるものの、9月に入るとほぼ全ての馬が順調な成長を見せています。皮膚病が出たり毛が焼けたりと、見た目だけでは購買時よりも見劣るものの、ボディーコンディションスコア(馬の肥満度を現す指標)を維持しつつ、体は一回り大きくたくましくなったように感じます。放牧開始当初の体重増加にばらつきがみられるのは、セリに向けた準備のため昼夜放牧を一時中止するなど、牧場での管理方法の違いなどが要因であると思われます。

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7月に購買した牡馬の入厩から昼夜放牧終了前までの体重推移です。8月中間に体重が減ったゲルニカの08は、体重測定時に感冒のため馬房内休養していました。

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7月に購買した牝馬の入厩から昼夜放牧終了前までの体重推移です。9月以降は順調な増加傾向を示しています。タイランツフェイムの08は昼夜放牧を経験しておらず、ハナコスマイルの088月下旬から9月上旬にかけて放牧を疾病のため休んでいます。

また、これまで昼夜放牧を行うと十分な運動によって管が太くなるという印象があることから、その要因を調査するため、現在昼夜放牧の開始前と終了時に屈腱部のエコー検査も実施しています。この結果についてもまとまりましたらご報告したいと考えています。

“離乳(子馬と母馬の別れ)”について(生産)

軽種馬生産の現場で晩夏から早秋の風物詩となっている子馬の離乳が当場でも行われました。離乳と聞くと悲しい儀式のように思われている人が多いのではないでしょうか?離乳直後の子馬が母馬を呼ぶ“いななき”を聞くと、ほとんどの人が胸を締め付けられる思いになるでしょう。実際、離乳後には明らかにストレスを受けているように見えることも少なくなく、食欲が落ち、体重が減る場合もあります。そのため、無事に離乳が行われることを願い、縁起を担いで「大安」の日を選んで行う牧場もあるようです。

一方、海外では日本ほど離乳を特別なものとは考えていないようです。広大な敷地面積を有する海外の牧場では、子馬と母馬を完全に隔離することが可能であり、24時間放牧などを実施しているため、母馬を想うストレスを最小限に止められることがその一因なのかもしれません。それ以外にも文化の違い、すなわち人に目を向けても1歳未満の乳児も母親と別々の寝室で寝ることも珍しくない海外と、5歳頃までは添い寝を続ける日本との差であるようにも思われます。

母馬と別れることは、子馬にとって非常に不安であるに違いありません。しかし、群れで行動する馬という動物の性質を考えた場合、離乳後すぐに安心して生活できる安定した群れの中で過ごせることが最も重要なポイントになると考えています。

この考え方に基づき、本年度は群れの安定化を目的として、45組の親子の放牧群から同時に全ての母馬を引き離すことはせずに、半数ずつの母馬を2度に分けて引き離す“間引き方法”を実施しました。これに併せて、安定した群れを維持するために“離乳直後から行う24時間の放牧”を試みました。その際、気温が高くアブが多い日は、子馬へのストレスが増すように感じられたので、昼間は馬房に収容することとしました。また、当場の繁殖馬房は大き目に作ってあることから、厩舎への収容時に群れから離れ1頭になるストレスを軽減する目的で、離乳後の子馬を2頭ずつ同じ馬房に収容しました。この方法が功を奏したのか、食欲が落ちることなく、体重も著しく減ることはありませんでした。今後も、どのような離乳方法がストレスを最小限に止めることができるかについて、考えていきたいと思います。

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写真①:離乳後、落ち着きがない子馬たち。

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写真②:諦めて残っている母馬の方へと向かう子馬の群れ。

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写真③:他の母馬をリーダーとして新たに安定した群れを形成しました。

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写真④:離乳後は2頭で1つの馬房をシェアすることでストレスを軽減させました。

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写真⑤:馬房収容2日後。早くもリラックスしています。

今年のラインナップが揃いました(日高)

824日から5日間にわたり開催されたHBAサマーセールにおける61頭の1歳馬購買で、今年のJRA育成馬80が全て揃いました。これらのサマーセール購買馬のうち、日高で育成を行う馬達47頭が、92日(牡馬)と4日(牝馬)に無事入厩しました。これで来年のブリーズアップセールにむけて日高で騎乗馴致・調教を実施していく育成馬は7月に購買した9頭(セレクトセール購買3頭、セレクションセール6頭)に加えて56(28頭、牝28)となります。

さて、日高育成牧場ではこれらの馬に対する騎乗馴致を99日から開始しました。当牧場では例年3つのグループに別けて順次騎乗馴致を実施しています。若馬への負担をなるべく少なくし、安全でより良い騎乗馴致を目指すため、グループの設定には毎年頭を悩ませるものです。昨年までの成績、牡牝や購買馬の状態を踏まえ検討した結果、今年の騎乗馴致については、サマーセール購買の牡馬25頭のうち21頭を第1グループ(第1群)、牝馬のうち約20頭を第2グループ(第2群)として騎乗馴致を行うことにしました。また、7月市場の購買馬9頭は第3グループ(第3群)として10月中旬以降に騎乗馴致を開始する予定です。馴致グループの設定における昨年との違いは、牝馬を含めてサマーセール購買馬は入厩後すみやかに騎乗馴致を実施するという点です(牡馬は昨年から実施)。最近では、既にセリ馴致が十分に施されていて、かなり人との信頼関係ができている馬が多く見られます。そこで、セリ馴致からそのまま騎乗馴致を行い、騎乗調教へスムーズに移行しよう、という考え方です。一方、7月購買馬は入厩後約3ヶ月間、昼夜放牧により管理することになります。その間、馬体の成長と充実を待つとともに、長時間放牧による基礎体力の向上を期待しています。

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牡馬は新しく大きな群を作ることによるストレスと危険が大きいため、入厩直後から2頭のペアを組んで放牧を開始します。まずは順位決めの「すもう」です。どちらが、強いでしょうか?どちらが速い競走馬に成長するのでしょうか?楽しみです。

左:マイネコサージュ08(父:ネオユニヴァース)、右:ボルジア08(父:ロックオブジブラルタル)

さて、今回は入厩時調査についてお話ししたいと思います。各市場においてJRAが購買した際に、飼養者の方にアンケートを配布して飼養状況に関する調査協力をお願いしています。このアンケートは入厩時に持参していただき、購買馬の履歴、癖などの把握に役立てたり、騎乗馴致順の決定の参考資料としたりしています。その内容は、生産牧場における管理(放牧時間・昼夜放牧or昼間放牧・ウラホリや検温の経験の有無・装蹄の有無および期間など)と、コンサイナーにおける管理(引き馬やウォーキングマシンでの運動時間や期間・ランジング実施の有無・飼葉の内容や回数および嗜好性など)に関することです。調査項目は詳細かつ多岐にわたりますが、JRA購買馬の飼養管理情況の確認には必要な調査です。参考までに、今年サマーセールで購買して日高で育成する47頭の調査から何点か簡単に紹介します。生産牧場でセリ上場前に昼夜放牧を実施したものは牡50%(12/24頭)、牝76%(16/21頭)でした。また、昼夜放牧実施したもの(昼夜群)と昼放牧のみ実施したもの(昼群)を比較すると、放牧時間の平均は昼夜群18.1時間/日、昼群11.5時間/日、放牧地の広さの平均は昼夜群3.6ha、昼群2.2ha、同時放牧頭数は昼夜群4.4頭、昼群3.3頭でした。アンケートの詳細な結果については数年分のデータがまとまり次第生産者・育成者の皆様にもお知らせしたいと思っています。JRAにとっても生産地における若馬の管理状況の把握に役立つ貴重なデータとなると思われます。

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各市場でJRAが購買した際にお配りする「育成馬入厩時調査票」

<日高育成牧場だより>

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毎年恒例の「日高育成牧場バスツアー」でも騎乗馴致見学が始まりました。初回の916日の参加者は15名でした。

<日高の四季>

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日高育成牧場内のナナカマドも紅く色づきました。実りの秋はすぐそこまで近づいています(916日撮影)。ナナカマド(七竈)の花言葉:「慎重」「賢明」「用心」「私と一緒にいれば安心」「怠りない心」だそうです。

日高育成牧場における仔馬の出産(生産)

今回より1歳セリでの購買から4月のブリーズアップセールまでを綴った日高・宮崎での育成編に加え、「JRA育成馬日誌(生産編)」と題して、日高育成牧場での生産馬の近況についてもお届けしますのでよろしくお願いします。

日高育成牧場では10年前から生産した研究馬を利用して栄養、繁殖および運動生理に関して、主に基礎的な研究を行ってきました。そして昨年から、それらの研究成果をベースに母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した育成研究を開始し、その過程で新たな調査研究や技術開発を行うこととなりました。今年生まれた7頭の産駒から、1歳セリで購買した馬と同様にブリーズアップセールまで育成し、競走裡での検証を実施することとなります。まず手はじめとしてこれらの生産馬を活用して、様々な初期・中期育成時期の問題解決に役立てていきたいと考えています。例えば、生後直後から定期的にX線検査、エコー検査、内視鏡検査を実施し、正常ではない所見がいつ発症するのか、その所見が発育とともにどのように変化し、さらに競走期のパフォーマンスに影響するのかなどを調査することもひとつの課題です。今後、得られた成果を生産地にフィードバックすることで「強い馬づくり」に貢献できればと考えています。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、第1回目は出産について触れてみたいと考えています。本年度は2月~5月に7頭の出産を無事に終えていますので、回顧して綴ってみたいと思います。“馬のお産”と聞いてイメージするのは23人で子馬の前肢を引っ張り出す光景だと思われますが、日高育成牧場では母子ともに自然のリズムに従い、双方の準備が整った上で分娩が進行するように、自然分娩を実践しています。この自然分娩には子宮の負担を軽減させ、受胎率を向上させる効果もあると考えています。私自身もこれまで分娩では介助が必要であるとのイメージを抱いていたので、最初の頃はイキミ始め寝起きを繰り返す姿を見ると不安になりました。しかしながら、破水後に膣の中の子馬の2本の前肢と鼻端を触知し、正常な胎位であることを確認しさえすれば、通常は破水から30分程度で自然に分娩が終了するので介助は必要ありません。

自然分娩は人的に牽引されることによる子宮への負担を軽減させるだけでなく、母馬は娩出に伴う自然な疲労により横臥状態を維持するため、臍帯が切断されずにつながったままとなり、胎盤からの血液が十分に子馬へ供給されます。さらに人的介助なく産道を通過する時のストレスは、子馬に多大な刺激を与えるため、起立までの時間が短くなるなどの利点があります。

本年度は7頭中1頭のみ人的介助が必要となりましたが、全頭無事に出産を終え、現在は体重も200kgを超えるまでに成長し、8月末の離乳に向け親子間の放牧地での距離も徐々に広がっていっている状況です。次回は離乳についてお届けできればと思っております。

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破水後には少し苦しむように寝起きを繰り返す場合もあるが、これは母馬自身で子馬の胎位を修正しているためです。

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肩が通過するのに時間を要するが、肩が通過するとすぐに胸まで通過します。3_3

臀部まで娩出後も後肢は産道の中に残ったままの状態で落ち着くことが多い傾向があります。

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自然分娩では子馬ばかりでなく母馬も大仕事を終え疲労しており、直ぐには立ち上がらないため、臍(へそ)の緒はつながった状態で血液供給が十分に行われます。

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一息ついて、親子のスキンシップとなります。

7月購買の育成馬が入厩しました(日高)

新馬戦が始まってから概ね2ヶ月が経過しました。本年売却したJRA育成馬達も順調にデビューしており、現在5頭が5勝、その内3頭がメイクデビュー勝ちを飾っています。それぞれの馬がこれまでの育成過程で学んできた成果をフルに発揮し、今後とも順調に活躍することを期待しています。

さて、先月28に、7月の市場で購買した13頭の育成馬(セレクトセール購買4頭、セレクションセール購買9頭)が無事入厩しました。

まず、育成馬達の個体識別や馬体チェックを実施した後に全馬の入厩時写真を撮影しました。その後、牡を2頭と3頭、牝を4頭ずつの合計4群に分けて、新しい群れでの放牧を実施しました。

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本場に入厩した牡馬5頭の写真撮影。馬はゲルニカの08(父は本邦新種牡馬ロックオブジブラルタル)

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飼い付け厩舎に入厩した牝馬の写真撮影。馬はタイランツフェイムの08(父は新種牡馬ディープインパクト)

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まずは人に引かれて放牧地を巡回します。知らない場所で走り回って怪我をするリスクを少しでも軽減するため、事前に引き馬で放牧地の柵の周りをみせて環境に慣らす取り組みです。

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放牧されるとまずは互いに確認。牡馬では特に主張、争いが激しくなります。

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お決まりのかけっこをする牡馬たち。先頭からオスカースマイルの08(父:デビッドジュニア)、ゲルニカの08(父:ロックオブジブラルタル)、イブキフリッカーの08(父:ファルブラヴ)です。先頭の馬が強いとは限りません。

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牝馬の走りにはどこか落ち着きがあり、安心してみていられます。前からイクテリーナの08(父:ネオユニヴァース)、ケリーケイズプレジャーの08(父:Tiznow)、ポレントの08(父:ネオユニヴァース)、タイランツフェイムの08(父:ディープインパクト)。

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やっと落ち着きました。

昨年はこの段階で牡馬の1頭が柵に激突するというアクシデントがありましたが、本年は牡馬も含めて比較的大人しかったようです。これら13頭は入厩週の金曜日から昼夜放牧に移行しました。本年は天候不順のためアブの発生が遅れていましたが、ここにきて暑くなりアブの数もだいぶ増えてきました。活発にアブが動く天気のいい日には、放牧を遅らせた夜間に若干シフトした放牧体制になりそうです。

また、昼夜放牧を前に入厩した全馬に対して屈腱部のエコー検査を実施しています。これは昼夜放牧によって経験する屈腱部の腫脹や腱の太さの増大などについて、屈腱の太さや実質のエコー画像に変化が現れるかどうかを調査しているものです。その結果についてはまた皆様にお伝えすることが出来ればと思います。

本年も「強い馬づくり」を目指して色々と悩み、試行錯誤を繰り返し、その葛藤の課程や結果を皆様にお届けして参りたいと思います。ご期待ください。

育成馬展示会が開催されました(日高)

413()に日高育成牧場の育成馬展示会が開催されました。この時期にしては暖かい素晴らしい展示会日和となり、昨年より多い190名の方に来場していただきました。抽選馬制度の中で行っていた展示会は、生産牧場の皆様にその成長ぶりを見ていただくという趣旨が強かったのですが、ブリーズアップセールによる売却が始まってからは、購買に興味を持たれた馬主・調教師の方々の来場も多くなりました。JRA調教師の来場も20名を越え、それぞれ熱心に育成馬をチェックしておられました。

本年は騎乗供覧の会場となる1600mダートトラック馬場の開場が1週間遅れ、41(昨年:324)にようやくオープンしました。育成馬展示会まで2週間しか期間がなく、恥ずかしくない供覧をお見せできるか少々気をもみましたが、馬場オープン以降は順調に使用できたこと、前日に本番同様の流れで入念なリハーサルを実施したことで、何とか無事に成長した若駒の姿をご覧いただくことが出来たのではないかと思います。

また、これまで軽種馬育成調教センターBTC)が行う騎乗者養成コースの生徒に対して、実戦経験の場を提供してきましたが、総仕上げの節目のイベントとして彼らも展示会に参加しました。16名の生徒(1名は事情により不参加)が、立ち馬展示や騎乗供覧において、これまで学んできた成果を遺憾なく発揮してくれました。

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比較展示でたくさんの来場者に囲まれる育成馬達。頭1つ出ているのは当場で一番の大型馬、名簿番号44フォレストキティの07(牡、父:ジャングルポケット)。彼はこの後の騎乗供覧で、破格のストライドで、持ったまま12.1秒の時計を出し、多くの来場者の注目を集めることになりました。(写真提供:齊藤宗信氏)

騎乗供覧で指示されたタイムはゴール前の2ハロンを14秒-14秒でしたが、体力がついて向かい風となったこともあり、かなり行く気になってしまい予定より早いタイムを計時する馬も多く見られました。

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騎乗供覧:左が名簿番号67バヴィーラの07(父:タイキシャトル)、右が6フォーントの07(父:キングカメハメハ)。タイムは、ハロン13.1秒→12.9秒。(写真提供:齊藤宗信氏)

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騎乗供覧:左が名簿番号3チーサキーの07(父:プリサイスエンド)、右が48インキュラブルロマンティックの07(父:ボストンハーバー)。タイムは、ハロン13.0秒→12.4秒。(写真提供:齊藤宗信氏)

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騎乗供覧:セイウンワンダーの全妹、名簿番号17セイウンクノイチの07(父:グラスワンダー)。タイムは、ハロン19.6秒→16.4秒。(写真提供:齊藤宗信氏)

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騎乗供覧。左が名簿番号21バトルカグヤの07(父:マーベラスサンデー)、右は22ウメノディオンの07(父:サニングデール)。タイムは、ハロン14.1秒→12.7秒。(写真提供:齊藤宗信氏)

展示会では、JRA育成牧場管理指針や生産育成業務年報、これまで書き綴った育成馬日誌の冊子などの配布を始め、育成牧場で取り組んできた調査研究や技術開発に関するパネル展示なども行い、来場者への育成研究成果の普及に努めました。特に今年は、JRAが開発し、本年の育成馬達に入厩時から給与しているオールインワンの配合飼料「JRAオリジナル08」の紹介ブースに多くの見学者が集まっていました。

さて、ここで展示会に向けてのステップを振り返って見ましょう。

これまで利用してきた800m屋内トラックや坂路馬場から、1,600mトラック馬場の開場に伴い調教場所を移し、展示会・ブリーズアップセールに向けたトレーニングを開始しました。3月末の坂路でのスピード調教では、すでに3ハロンを楽に15秒で走れるまでの体力をつけていましたが、最初はキョロキョロして走りに集中できません。しかし、個体にもよりますがそれも数日で落ち着き、これまでの屋内の遮蔽された環境からオープンエアになったことで、さらにフレッシュな走りを見せるようになります。

調教は月水金が左回り、火木土が右回りのルールとなっており、左回りの水曜日、金曜日の2回にスピード調教を実施します。展示会までの期間が短いため、供覧における運動パターンとスピード調教のパターンを同一にすることで、馬に行く気を出さなければならない流れを教え込むのです。スピード調教以外の日は、スピード調教とは違った流れで調教し、主として2本に分けて3,200mまでの長距離騎乗を行いスタミナ作りとリラクゼーションに努めます。こういったメリハリのあるパターン化された調教をすることで、展示会やセールで持ったままの爆発するような走りを供覧できるようになります。

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スピード調教の帰りは、直ちに下馬し引き馬で厩舎地区に戻り、さらに800m屋内馬場の外周を1周します。このことで馬は早くリラックスし、心拍数も落ち着きます。また、帰厩後直ちに冷たい水道水で四肢を冷却します。引き馬は、セールに向けての引き馬馴致にもなります。

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厩舎に戻ったら馬装を解き、直ちに冷たい日高の水をホースで流し、ほてった四肢を冷却します。肢はぬれたまま馬房に収容しますが、水が気化熱を奪い、さらに冷却効果を上げます。さらに、汚れを洗い流し、調教後の四肢をチェックする機会にもなります。馬はフォーントの07(牡、父:キングカメハメハ)。

展示会直前の47日(火)には、セール用の調教DVDの撮影も実施しました。開場1週間足らずの1,600mトラックでのDVD撮影となり、馬達もまだ走りに集中できていない部分も見られました。調教が進むと運動器疾患が少しずつ見られるようになりますし、どんなに注意しても馬の管理にはアクシデントが付きまといます。幸いにもそういった中で、56頭の育成馬のうち欠場馬1頭を除く55頭が撮影を無事に終えることが出来ました。

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美しい日高山脈を背景に調教ビデオの撮影を行いました。走りに集中できず、幼さを見せる馬もいましたが無事55頭の撮影を終了しました。

また、情報開示室で開示する情報の最終的な確認のため、3月中旬にトレーニングセンターの獣医職員が来場して獣医検査を行いました。この機会を利用して、必要な馬については内視鏡検査やX線撮影などの再検査を実施しました。その中には、運動中の異常呼吸音のため原因となる声のうと声帯の摘出手術を実施したミヤビトップレディの07の運動時における喉の状態の再確認も含まれました。検査はトレッドミル(人のルームランナーのようなもの)上を走らせながら実施しますが、術部は綺麗に治癒しており、健康な馬として自信を持って上場できるという判断が下されました。この馬の術後経過はすこぶる良好で、異常呼吸音は消失し、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれていたので、思っていた通りの結果というところです。

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トレッドミルで駆歩を行いながら、喉の内視鏡検査を受けるミヤビトップレディの07(牡、父:タイキシャトル)。

さて、展示会が終わると、慌しく輸送の準備に取りかかります。19()、いよいよ育成馬達は10台の馬運車に乗り中山競馬場へと旅立ちます。育成牧場職員一同が愛情を注ぎ、手塩にかけて育ててきた育成馬達。その過程で多くのことを学び経験させてもらいました。

立派に育ったこの馬達が、セールにおいてしっかり評価され、競走馬として多くの夢を提供できる存在になってもらいたいと願いつつ、0809育成馬たちを綴った今期の育成馬日誌を締めたいと思います。

化粧するのは自分の顔(日高)

427日のBUセールまで残すところ1ヵ月半。セールに向けた準備が忙しくなってきました。個体情報で購買者の方に開示するための四肢のレントゲン検査、喉の内視鏡検査、屈腱部のエコー検査、喉の手術を実施した馬に対するトレッドミルでの運動負荷試験など、スケージュールがビッシリです。

そういった中、39日からBUセールの名簿に掲載する上場馬の写真撮影を開始しました。既報でもお伝えしていますが、今年の日高は雪が多く残り、現時点では撮影場所はまだ雪に覆われています。本年のセール日程から逆算して、1ヶ月前には撮影を終了しなければなりませんが、気候が味方してくれなければお手上げです。

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背景に雪が残る中、始まった写真撮影。撮影場所は除雪後、凍結防止剤を撒き何とか使えるようにしました。馬はチーサキーの07(牡 父:プリサイズエンド)。馬が綺麗に四肢を配し、立ち位置が決まったらICレコーダーから発せられる馬のいななき音がキリッとした馬の表情作りに役立ちます。

育成馬達の調教は、週2回の1,000m屋内坂路で行うスピード調教を着実にこなし順調に進んでいます。スピードの指示は、2月末時点で「3ハロンをハロン16秒刻みで48秒」にまでになっています。坂路馬場は平坦な馬場に比べて心肺機能に対する運動負荷が強く、心拍数による調査によればその差は3%の坂路で1~2秒とされています。つまり現時点でハロン15秒以上の負荷の調教が出来ていることになります。このスピード指示は、3月下旬にはさらに15秒にまでアップします。

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1,000m屋内坂路での併走によるスピード調教。向かって右が昨年の最優秀2歳牡馬セイウンワンダーの全妹、セイウンクノイチの07(牝 父グラスワンダー)、左はランビーの07(牝 父ストラヴィンスキー)。この日(35日)は2本目のスピード調教の中間3ハロンを持ったまま18.116.416.5秒で上ってきました。両馬とも期待の牝馬です。

さて、今回の表題「化粧するのは自分の顔」。何のことでしょうか?

JRA30年ほど前から海外競馬先進国に「実践研修」と称してその優れた技術やノウハウ、考え方などを学び、帰国後は自らJRAの育成牧場でその成果を実践してきました。派遣された国はアメリカ、カナダ、イギリス、アイルランド、フランス、オーストラリア、ニュージーランドの7カ国に及びます。

世界各国、いかに強い競走馬を作るかに試行錯誤をしている点では一致していますが、それぞれの国にはそれぞれ異なった気候、地勢をはじめとした違いがあります。当然、馬に携わってきた歴史や文化的な違いも存在します。そういったことを承知しつつ、まず先進国から学ぶ姿勢で、それぞれの国で行われている手法をまず試しました。これは他人(海外のホースマン)が自分の顔(環境や施設)に行っている化粧の方法(馬の管理方法)をそのまま自分の顔に用いたといえるものでした。このプロセスの中で多くの新しい技術や考え方が導入されましたが、一方で育成牧場の担当者からは、「研修生が帰ってくる度にコロコロ育成馬の管理の仕方が変る」「なぜこれまでの方法ではいけないのか」などと不評な部分があったのも事実です。しかし、こうした経緯の中から、育成業務を継続する中でそれぞれの手法の背景にある考え方が整理され、現在のJRA育成牧場の管理手法に収束してきたわけです。たとえるならば、自分の顔に自分で化粧をしてきたわけです。

小さな例を挙げれば、育成馬を引く際の道具です。アメリカではチェーンシャンク、チフニー(ハートバミ)が主として使われています。一方ヨーロッパでは棒バミ(ストレートバービット)が多用されます。その当時の日高の育成牧場では無口頭絡で引くことが主流でした。JRAでは両方を試し紆余曲折はありましたが、効果や取り扱いの特徴などを検討した結果、現在は必ず無口頭絡の上にチフニーを用いるようになりました。今では、普段から馬をしつける上ではなくてはならないものになっています。

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チフニー(ハートバミ)。引き手のナスカンは、下の環に付けます。

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無口の上からチフニーを装着した状態。馬はフォーントの07(牡 父:キングカメハメハ)。素直な馬ですが、そろそろ牡らしさが出てきて人に挑戦してくる場面も見られます。そういったときにしっかりと御すためにもチフニーは不可欠です。

私は、研修で滞在していたアイルランドの厩舎で、調教師に「あなたの今の調教スタイルや考え方を形作る上で、アシスタントとして働いた厩舎のどんな経験が役に立っているか」と尋ねたことがあります。彼は「極言すれば、私はアシスタントとして朝早くから夜遅くまで働いただけ。色々な経験はさせてもらったが、一番役に立っているのはその経験を元に自分が実際に調教師として試行錯誤したことであり、特に犯してしまった失敗を忘れないことだ。」と答えてくれました。まさに、他の人の化粧の仕方を学び、その上に自分のアイデアも加え、自らの顔に化粧をすることによってさらに良い方法を見出してきたのではないでしょうか。

育成牧場には多くの生産育成に携わる皆さんが見学、視察に来られます。今回の話はちょっと重くなってしまいましたが、私達の取り組んでいる管理方法の中から少しでも参考にしていただく部分があれば幸いですし、そういったアイデアに富んだ育成牧場でありたいと思っています。

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馬体やボディコンディションのチェックを含めた測尺の手順を視察する獣医や育成牧場の皆さん。

  

オン・ザ・ブライドル(On The Bridle) (日高)

例年になく雪が多く、おまけに寒暖の差が激しい日高です。圧雪であれば問題ないのですが、溶けて凍るためたちが悪いのです。このため、週2回の坂路調教では2km離れたスタート地点までのアクセス路の確保には大きな労力を要します。また、調教後のパドック放牧も危険なため行えなくなります。これも自然のなせる技とゆったり構えて、やり過ごすしかありません。雪が残り、まだまだ寒さは厳しいですが、日に日に長くなる日照時間と馬の冬毛が抜け始めたことに春を感じるこのごろです。

さて、うれしいニュースです。JRAが昨年の種付けシーズンから新たに開始した、生産からの育成業務。その生産馬第一号が221日(土)に産声を上げました。体重59kgの立派な牡駒です。予定日から11日遅れましたが、産気づいたのが夜7時前であったこともあり、多くの職員が見守る中、ほぼ完全な自然分娩での誕生となりました。連絡の約束をしていた軽種馬育成調教センター(以降BTC)の騎乗者養成コースの生徒達16名も駆け付け、その様子を見学すると共に、出産についてのレクチャーや質疑応答が行われました。本年はこの馬を含め7頭の当歳馬が生まれる予定になっていますが、この馬達を立派な競走馬として育てていく中で、多くの試行錯誤をし、その成果を発信していけたらと思っています。

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BTCの生徒達が見守る中、陣痛に耐えるフジティアス(父フジキセキ)。

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大役を終え、優しくわが子(フジティアスの09:父デビッドジュニア)と対面する母フジティアス。子をいたわる優しい目がたまりません。

今回は、オン・ザ・ブライドルのお話。日本語にすれば「持ったまま」といったところでしょうか。つまり、じっと手綱を持ち、馬に少し我慢させた状態での騎乗で、若馬の調教では基本形ともいえるものです。

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シングルファイル(一列縦隊)での、オン・ザ・ブライドルによる騎乗。馬は先頭からグランエレガンスの07(牡:父スキャン)、フィンラディアの07(牡:父キングヘイロー)、カズサヴァンベールの07(牡:父アルカセット)。(写真提供:坂口誠司氏)

この騎乗を可能にするためには、馬自身に走りたいという前進気勢が求められます。しかし馬は、基本的に走らなければならないというモチベーション(動機)を持つことはできません。本来動物は、エネルギーの無駄使いをしたがらないものです。

ムチや推進扶助を使って無理に馬を前に追い出す事も可能です。しかしそういった調教で馬を追い込むと精神的にも肉体的にもしぼんでしまい、調教継続は困難になってしまいます。さらに故障(運動器疾患)発生の可能性も大きくなります。

そこで隊列の変化を用いて馬を走る気持ちにさせ、その気持ちをためることが必要になってくるわけです。ヨーロッパの調教現場で、ついつい馬の走りに任せて拳を動かすと、後から調教師に、拳はキ甲(馬の首の付け根)にじっと置いておきなさいと口すっぱく指導されたことが思い返されます。

例えるならば、おいしい寿司でも食欲が無ければ食べたくはありませんし、食べ過ぎた次の日にはもう食べたくなくなる、ということです。

調教はその効果を上げるために毎日継続し、頻度と強度を増していかなければなりません。その中でも馬がフレッシュでハッピーな気持ちでいられるように維持するために大切なことが、「出し切らない」、つまりオン・ザ・ブライドルの調教ではないでしょうか。

このような調教の結果として、育成馬が「走らされた」のではなく、「走ってしまった」と感じることが必要だと思います。この考え方は、調教に携わる世界のホースマンに言い古された金言、「馬を常にハッピーでフレッシュに保ちなさい」に通ずるのではないでしょうか。

2歳育成馬達は、2月に入り、1,000m屋内坂路で週2回のスピード調教を開始しました。隊列は2頭併走です。通常、併走での走行では、馬は横にいる馬に互いに遅れずに付いて行こうとする気持ちが生まれ、走ることに集中し始めます。結果として競い合う形になるわけです。現在(2月下旬)の指示タイムは3ハロンを16秒-16秒-16秒ですが、結果として、オン・ザ・ブライドルの騎乗で、指示よりも早いスピードで走ってしまう馬も出てきています。馬の走行や息の入り方、乗り手の様子などを観察し、指示タイムを十分にこなすことが出来ると判断した場合に、さらに上のタイム指示に移っていきます。しかし、判断している馬の体力よりも上の指示タイムに挑戦させることはほとんどありません。先にも述べましたが、無理に走らせることは、まだ成長途上の若駒に対して、運動器疾患を誘発する危険性が大きくなると考えているからです。

このような積み重ねにより、約1ヶ月後の3月末には、坂路で3ハロンを15秒-15秒-15秒で走る指示を、余裕を持ってクリアできるだけの体力をつけていくのです。 

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坂路での併走によるスピード調教。オン・ザ・ブライドルの騎乗で互いに競い合うことで、結果として「走ってしまう調教」を目指します。

私達が、ブリーズアップセールの騎乗供覧において、最後の2ハロンを13秒-13秒で走ることを目安にして騎乗供覧することもこのポリシーから来ているものです。馬にハロン11秒、12秒で走行する力が備わっていても、13秒を目安にオン・ザ・ブライドルで騎乗すること、これが競走馬としてスタートする馬達にとってプラスになる調教であると考えているからです。

心臓に毛を生やす(日高)

120日、21日の2日にかけて育成馬検査が実施されました。初日こそしばれがきつかったものの、この時期にしては両日とも好天に恵まれ、本部からの出張者と共にじっくり現状の日高の育成状況の目合わせが出来ました。検査は、市場で購買した56頭の2歳の他、本年誕生する生産JRA育成馬を宿した7頭の繁殖牝馬の状態も併せて実施されました。

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育成馬検査を実施する本部と当育成牧場の職員。馬はホワイトウォーターの07(父Songandaprayer ソングアンドアプレヤー)。この検査は育成状況を把握するのに加え、その結果をBUセールの名簿番号決めにも活用します。

また、セイウンワンダーの活躍のお陰もあり、以前にも増して多くの方々に本会の行っている育成業務やJRA育成馬に興味を持っていただいております。ノーザンファームの方をはじめとした牧場関係者や調教師、馬主の方々が来場し、当場で取り組んでいる調教内容や管理手法、施設の成り立ちなどを熱心に見学されています。

さて、表題の「心臓に毛を生やす」お話です。私たちは物事に動じず、肝の据わった落ち着いた立ち居振る舞いをする人のことを「心臓に毛の生えた人」と言ったりします。

実はその心臓の毛、既報でもお伝えした、当場で実施している軽種馬育成調教センター(以降、BTC)生徒の騎乗研修と関連があります。彼らは昨年の4月にBTCに入学し、その後8ヶ月にわたってBTC所有の訓練馬に騎乗してみっちり練習を積んできました。慣れた大人しい訓練馬であればそつなく乗りこなせる技術レベルには達している彼らに、この時点で騎乗者として不足しているもの、それは何でしょうか。さらに上の騎乗技術はもちろんです。しかし、それ以上に求められるのは経験に裏打ちされた自信です。彼らがその自信を付けることを、私は「心臓に毛を生やす」と言っています。つまり私達JRAでの研修に対して彼らが求めているのは、「心臓に毛を生やすこと」であると考えています。そのために彼らにはJRA育成馬や研究馬を含め60頭近い2歳馬の中から技量に合わせて毎日の騎乗馬が割り振られます。

過去、私はアイルランドの厩舎に滞在したことがあります。そこで騎乗する中で痛感したのが現地の若い騎乗者の肝っ玉の太さです。相当の暴れ馬でもやんちゃな馬でも、「こんなもんさ」という雰囲気で、叱る時は厳しく褒める時は十分に、メリハリをつけて騎乗していました。深く頭で考えている様子ではなく、反射的な反応です。これは彼らが幼少時から馬に接してきた経験から、ごく自然に馬というものを肌で感じとっているからではないかと強く思いました。なかなか幼少時から馬に接する経験を持つことが出来ない日本の環境の中で、少しでもナチュラルなホースマンを育成するために必要なのは、絶対的に豊富な経験、実践であると思います。

最初のうちは、育成馬の中でも安定した走行のできる安全な馬を割り当てます。しかしそういった馬でも最初は新しい環境、初めての馬ということもあり、彼ら自身にとっては精一杯の状況となることが多いものです。しかし習得の速さはやはり若さのなせる業でしょうか、ぐんぐん上手になってきます。彼らには、毎日騎乗日誌を書かせていますが、しばらくすると「指示通り乗れた」「安定した走行が出来た」などという反応が返ってくるようになり、中には「完璧に乗れた」などというコメントが見られることもあります。彼らの成長を喜ぶと同時に、さらに上の騎乗を求めたり、もう1つ難度の高い馬を割り当てたりすることで、常にチャレンジする気持ちを失わせないように配慮しています。

そういったプロセスを経ながら、彼らの研修は413日(月曜日)に開催予定の当場の展示会まで続きます。そこで彼らは、卒業騎乗として多くの来場者の前での騎乗供覧に騎乗することになるのです。 出される指示は5ハロン(1ハロンは200m)の走行で最後の2ハロンを14秒-14秒のスピード。この指示をしっかりこなすことができるようになった彼らの心臓には、しっかりと毛が生えていることと思います。

このように競馬会の行っている育成業務は、調教した育成馬の活用を通して、産地の育成牧場で働く人材の養成にも一役買っているのです。

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ウォーミングアップを行う生徒達。騎乗馬は研究馬。

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800mトラック馬場で1列縦隊の指示で騎乗する生徒達。騎乗馬は研究馬。

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V200の測定試験に騎乗する生徒達(後ろの2頭)。2列縦隊で前列を走る職員のスピードにあわせて追走します。色々な馬に、色々な環境設定で騎乗することにより、心臓に沢山の太い毛を生やしてほしいと思います。馬は左から、イアラガディスの07(牝、父アフリート)、インオンザゴシップの07(牝、父Sky Mesa)、レモンキスの07(牝、父フレンチデピュティ)、サブノリアルの07(牝、父クロフネ)。

育成のこだわりと「管理指針」(日高)

少々遅くなりましたが、皆様明けましておめでとうございます。日高の育成馬達は、年末年始も休むことなくウォーキングマシン運動や放牧を課され、年内の調教で若干しまった馬体が逆に少しフックラとし、フレッシュな状態で新年を迎えることができました。15日現在でほぼすべての馬達が、週2回の坂路調教(1,000m2本:スピードは2本目をハロン20秒程度)をこなせるようになっています。

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・年が開け新雪の上を坂路に向かう育成馬たち。気持ちも新たに、今年も育成業務を通して色々なことに取り組んでいきたいと思います。

しかしその中で、残念な事故がありました。マイナス10度近く冷え込んだ年末の朝、プロポーションラブの07(牝:父オペラハウス)がパドックでの放牧直後に転倒し、腰角(こしかど)を強打してしまったのです。事故直後には跛行が重度であり最悪の事態も脳裏によぎりましたが、幸い翌日には体重負荷ができる様になり、現在少しずつ快方に向かっています。前日に解けた雪が凍り、その上に薄く雪が積もって滑りやすくなっていたことが誘因でした。十分にチェックをしているつもりでもまだ足りないのだと反省しきりです。

もう1つトピックとして、今月8日から軽種馬育成調教センター(以後BTC)の騎乗者養成コースの生徒達によるJRA育成馬を用いた騎乗実践研修が始まりました。16名の生徒たちが3班に分かれ、育成馬が退厩する4月中旬までそれぞれの技術レベルに応じた騎乗馬を割り振られ、多くの経験を積んでいきます。

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800m屋内トラックで騎乗する第16名の生徒達。色々な馬の背中から、多くのものを学んでほしいと思います。

さて、前回に引き続き育成への「こだわり」についてです。昨年末のBTC利用者との意見交換会では、色々な場面やステージにおける、まさに三者三様のこだわりがクローズアップされました。

その会を企画した当場としては、交換会の冒頭「日高育成牧場のこだわり」と題して口火を切ることとなりました。話したいこだわりを思いつくままにまとめたところ、結果として2年前に作成した「JRA育成牧場管理指針」(以下 管理指針)に記されていることと同じものになりました。さて、「管理指針」とはどんなものなのでしょうか。

今でこそその差はかなり縮まりましたが、30年ほど前、日本の育成技術やその考え方は、競馬先進諸国とは大きな隔たりがありました。そこがウイークポイントと考えた競馬会は、イギリス、アイルアンド、フランス、アメリカ、カナダ、オセアニアなどに職員を派遣し、実際に牧場や厩舎で実践研修をすることで多くのことを学ばせました。学んできたことを実際に試し定着させるため、帰国後は研修に行った職員を育成牧場に配属し、新しい視点に立った育成技術の開発に取り組ませてきました。その中で民間の育成者の方々にも広がり定着したものとしては、騎乗馴致に対する考え方やドライビングの技術(調馬索という2本の長いロープをハミに付け、騎乗せずに馬の後ろから推進することで口向きを作る手法)、冬場の馬服を着せての放牧、色々な場面での馬の展示方法など多岐にわたります。

同時にJRAの育成牧場にも「JRA仕様」となった若馬の管理方法やその根底にある考え方が定着してきました。それらをまとめ更なる普及につなげるために作成したのが、「JRA育成牧場管理指針」です。中には科学的なアプローチにより裏付けのある記述も含まれます。しかし多くは、海外から学び「強い馬づくり」を目指す試行錯誤の中から生まれた「こだわり」そのものです。内容的には、応用できるものも多いのではないかと自負はしていますが、だからといって押し付けるつもりは毛頭ありません。強い馬をつくる道は一通りではありませんし、一つの提案だと考えていただけたらよいと思います。

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2年前に版が出された「JRA育成牧場管理指針」。現在は2版となりますが、薄いこの冊子はこれまでの育成業務において長い年月をかけて磨かれた「こだわり」の集大成ともいえるものです。

意見交換会では、BTCでトップにランクされた実力を背景に、育成者の皆さんが信念を持ってそれぞれの「こだわり」を披露して下さいました。同様に、私達は昨年のJRA育成馬であるセイウンワンダー号の朝日杯フューチュリティSJpnⅠ)勝利を、我々のこだわりの集大成である[管理指針]の内容を広く伝えるチャンスであると捉えています。今後も育成業務が続く限り「管理指針」は少しずつ充実し、改定されていくことになるわけです。

育成へのこだわり(日高)

前回2頭の活躍馬として紹介した内の1セイウンワンダー号(父グラスワンダー、母セイウンクノイチ)が大仕事をしてくれました。朝日杯フューチュリティS(GⅠ)で見事に優勝、2歳牡馬チャンピオンになったのです。これまでの抽選馬、育成馬の長い歴史の中で牡馬のGⅠ制覇は始めてです。岩田康誠騎手の好騎乗に加え、新潟2歳ステークス以来3ヶ月半ぶりとなる競馬にもかかわらずキッチリと仕上げた厩舎関係者の苦労には頭が下がります。育成馬達がこうした活躍をしてくれることで、私達の行う育成業務への関心が高まり、ひいては成果の普及の追い風になるのではないかと思っています。

本年の育成馬達は、時期をずらして3つのグループに分けて馴致をしてきましたが、1群として先に進めた群が調教進度を維持する中で、3群の調教がほぼ追いついてきました。その内容は、週21,000m屋内坂路で駆歩を2本、スピードはハロン2520秒というものです。坂路を利用することで、常歩の距離は4km、時間は約40分にもなります。今後年末年始は、ウォーキングマシンとパドック放牧を中心とした管理を行いますが、年明けからは基本同一レベルの調教を開始できそうです。調教強度がさらに増すなか、当然調教を加減していかなければならない馬も出てくるとは思いますが・・・・。

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・撮りためた写真から探し出した一枚。今年の1月、パドックでのんびり日光浴をするセイウンワンダーです。やんちゃな馬という印象が強かったセイウンでしたが、こんなオットリした表情も見せていたのですね。

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・突然降りだしたゲリラ吹雪の中、坂路馬場に向かう馬達。次のセイウンを目指して、着実に調教を積み重ねていきます。

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・本年は年内にすべての育成馬が1,000m屋内坂路で2本の調教を行うレベルに達しています。

さて、今回は育成に対する「こだわり」について書いてみたいと思います。「こだわる」を広辞苑で引いてみると「些細な点にまで気を配る。思い入れする」とあります。何度もお伝えしていますが、私達が育成業務を行う意義は、その中で行った調査研究、技術開発の成果を広く多くの方に伝え、少しでも日本の育成のレベルアップに役立てることを目的としています。科学的な実験や研究は再現性がありその結果には有無をいえぬ強さがあります。その一方、実際に育成に携わっていると、科学的に白黒は決められないものの、ここは譲れないということも数多く出てきます。たとえるならば、科学のデータはしっかりした骨格、こだわりは皮膚といえるかもしれません。皮膚は薄いものですが、それが顔の表情を左右する決め手ともなります。

例を上げれば、馬の育成・調教の要諦として「馬をいつもフレッシュでハッピーな状態に保つ」ということがいわれています。この考え方に異を唱える方はほとんどいないと思いますが、はたして馬のフレッシュやハッピーは何処で判断するの?という疑問が沸いてきます。それを理解できる感覚や手法などもこだわりの1つではないかと思うのです。

実は先日BTC(軽種馬育成調教センター)利用者との意見交換会を開催し、その主題を「若馬の育成へのこだわり」としました。この意見交換会は本年が6回目となりますが、利用者の間に日高育成牧場が仲立ちをすることで、相互のコミュニケーションの場を設けて、全体としての育成技術のレベルアップや意思疎通を図ることを目的として毎年、年末に実施しているものです。

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・意見交換会の風景。こだわりについて述べる吉澤ステーブルのH場長。5名のパネラーを前にして、取り囲んだ来場者との会話のキャッチボールが弾みます。

今回はこれまで以上に誰でも発言をしやすい雰囲気作りを目指し、広く浅く利用者が誰でも持っている育成に対する「こだわり」にスポットをあてました。しかし前述のように、それらの多くは残念ながら「感覚・経験」に立脚したものであり、重みを持つためには競走成績という「実績」が伴わなければならないのが実状です。このことから今回は、本年の中央競馬2歳戦で上位にランクされた5名のBTC利用者にパネラーをお願いしました。

口火として、日高育成牧場のこだわりの一端を紹介し、その後パネラーの発言に移りました。育成規模やBTC利用経歴からもバラエティーのあるパネラーがそろい、期待どおり各人各様の育成に対するこだわりが紹介され、来場者からはそれらに対する質問もなされました。例えば、年内にどの程度まで1歳馬の調教を進めるのかということついても、スピードでハロン1313秒を求める方から、ハロン20秒までで十分と考えている方までおられます。成績を上げた方たちの言葉ですので説得力はありますが、各育成者がどの考えに共感するかは自由です。

つまりこの会ではそれらの正誤を問うのではなく、その多様性を参加者皆で認識するにとどめ、その中でヒントをつかむという形としました。参加した皆さんからは、活躍している他の育成者の方から参考になる考え方を聞け、質問も出来て役に立ったというコメントも聞かれました。

こういった「こだわり」は多岐にわたり、1回の会で言い尽くされるものではなく、今後もしばらく同様の切り口で、開催していきたいと考えています。次回からは、この会で紹介した日高育成牧場のこだわりや、出席の皆さんから披露されたこだわりについてお伝えしていこうと思います。

対照的な二頭(その2)

11月下旬にまとまった雪が降り、すっかり冬景色の日高育成牧場です。まだ根雪とはならないでしょうが、車の運転に気が抜けない季節になりました。

1118,19日の2日間、本部職員が来場して育成馬検査が実施されました。購買してから馴致を経た育成馬の成長状況を把握すると共に、これまで実施した内視鏡やレントゲン、超音波などによる検査で確認された疾病に対して今後の対応を決定します。

育成は概ね順調との判断でしたが、内視鏡検査で確認されたサブノリアルの07(父:クロフネ)の喉頭蓋下膿胞(喉に膿の入った袋ができる病気)に対して、年内に切除手術を行うことになりました。喉頭蓋下膿胞は、完治すれば競走馬としての将来には影響のないものです。こういった手術はもちろん、育成馬全頭の各種検査の内容についてもBUセールの際にお配りする「育成馬個体情報」に掲載されることになります。

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・雪景色の中での調教後のクーリングダウン。

さて、前回に引き続き、2頭の活躍馬セイウンワンダー号(以後セイウン、牡2歳:父グラスワンダー、母セイウンクノイチ)、ナイキハイグレード号(以後ナイキ、牡2歳:父アグネスタキオン、母ダイアモンドコア)の育成期間について見ていきます。

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・セイウンの体重の推移です。

両馬とも育成計画に準じた調教をこなしながら概ね順調な成長をみせ、500Kgを超える大型馬となりました。成長曲線では、どちらも10月下旬から12月上旬にかけてやや足踏み状態がみられます。これは育成馬全体に見られる傾向ですが、騎乗馴致に伴い放牧中心の管理から、舎飼中心の管理に移行することで腸管の滞留食物量が少なくなる点(草腹の解消)、馴致前後の精神的、肉体的負荷が要因であろうと考えています。育成牧場ではこの成長の停滞傾向をなるべく少なくし、より滑らかな成長曲線を描けるように飼養管理、運動管理に配慮しています。

似たような成長曲線を描いて成長した2頭ですが、馬体から受ける24月時点での印象はまったく違っていました。写真にあるようにセイウンは成長によりキ甲が抜け、体高と馬体に伸びが出たことで、スッキリとした素軽い印象を受けます。父グラスワンダーではなく、まさに母父のサンデーサイレンスが強く出たイメージに成長しました。

一方ナイキは筋肉質でガッチリしており、購買時と比べて伸びは出たものの、どちらかといえば詰まった体型が残り、これも父アグネスタキオンではなくミスプロ系の母父ジェイドロバリーが強く出てきたように感じました。

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3月下旬のセイウン。すらっとした伸びのある大型馬(体高162cm、体重518kg 4/11計測)。

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3月下旬のナイキ。がっちりとした詰まった体型(体高158.5cm、体重510kg 4/11計測)。

次に、測定時点の体力指標の1つであるV200値(心拍数が200回/分となる時の馬の走行スピードを分速で表示したもの)を見てみましょう。測定は2歳の2月、4月の上旬に行いました。

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・先頭左がV200測定のための規定運動を行うナイキ。2列縦隊でスピードを段階的に上げ、その時の心拍数を測定します。

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・グラフは右肩上がりで、2月上旬から4月上旬にかけて体力が向上したことがわかります。

V200値には個体差が大きく、4月の測定では550850/分程度の幅がありました。その中で両馬ともほぼ平均的な推移を示しており、測定時点では他の育成馬と比べ特に飛びぬけた体力を持っていたわけではなく、両馬を比べても大きな差はなかったと考えられます。

上記の比較では2頭に大きな差は見られませんが、実際に馬に接してきた私達は、この2頭の性格にはずいぶん違った印象を受けました。端的にいえば、セイウンは「ピリッ」とした、ナイキは「オットリ」したイメージです。

セイウンは調教での素軽い動きもさることながら、馬房の中でも落ち着かない面があり、馬房に人が入るとすぐにちょっかいを出し、人が強い態度で接しなければ、いつでもボスの座を狙っているというタイプでした。プライドが高いのか頭を触られることを嫌い、騎乗担当者は頭絡をつけるのに最後まで苦労させられました。

一方ナイキは、オットリした馬でBTC生徒の騎乗実習にも使用できるタイプの馬でした。しかし、普段の調教後に「乗りやすいです」「重いぐらいです」などと答える生徒が坂路調教の後では「抑えるのが精一杯です」「手がしびれました」と息を切らして返事をしたのが強く印象に残っています。また、引き馬での坂路調教の帰りには、入れ込みがきつく暴れて放馬したこともありました。生徒の気の弱さ、技術面の未熟さは差し引いても、その変貌振りから気持ちの奥底に何かを秘めているのではないかと期待させてくれました。残念ながら育成期間中は、坂路以外で本来の実力と輝きを見せてくれたことはありませんでした。

当たり前のことですが、活躍する馬には性格的にも肉体的にも色々なタイプがおり、育成段階で活躍するかどうかを断じることは非常に難しいことです。不可能といっても過言ではないかもしれませんし、解らないから競馬という選抜手法を用いているともいえるわけです。

そういった中で、血統だけでなく色々な角度から各馬の実力を推測できることが競馬の面白さ・楽しさの大きな要素です。JRA育成馬は、BUセールにおいて育成段階の情報を購買者に伝えることで、安心と共に馬所有の夢を膨らませていただきたいと考えています。

また、この馬達はそれぞれ個性的な馬でしたが、順調に調教を進めることが出来たことが大切なことだと思います。加えて、我々育成を担当する者は、すべての馬達に分け隔てなく接し、健康・調教管理にベストを尽くすことで、競馬へのステップに引き継ぐ姿勢を保つことの重要性を再認識させられました。

もちろんその取り組みから得られた科学的なデータや感じたこと、技術的なノウハウを広く伝えていくことが我々JRAの育成牧場の使命でもあるわけです。   

二頭の活躍馬(その1)

ほぼ馴致も完了し、12群は坂路馬場へ、3群は屋内800mトラックでの調教をこなしています。最初はキョロキョロ、フラフラ走っていた馬達も、かなりドッシリと落ち着いた走りをするようになってきました。今後、冬季閉鎖になる12月まで1600mトラックでの調教、隊列を意識した調教を進めていきます。

本年も韓国の研修生3名が、3群馴致開始当日の1015日から約1カ月間、実践研修生として育成牧場に滞在しました。1名は韓国馬事会の職員、他2名はオーナーブリーダー牧場の若いオーナーです。3名とも前進気勢旺盛で、積極的に騎乗馴致について学んでいました。

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馴致第12群は、800mトラック馬場で誘導馬を先頭にして、駆歩までの騎乗調教を行っています。

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馴致の研修を終えた後は、ホースマンの基礎である騎乗練習です。誘導馬であり、毎日の練習の相棒であるフジノシャワーを囲んで左からイさん、ナさん、チェさん。

さて、既報にもあるとおり、日高で育成したナイキハイグレード号(牡2歳:父アグネスタキオン、母ダイアモンドコア)が大井競馬場で行われたハイセイコー記念(S2)を勝利しました。これで3連勝となり今後の中央所属馬との対戦もますます楽しみになってきました。そこで、今回から2回に分けて、本年売却した育成馬のなかで活躍している2頭のこれまでを振り返りながら話を進めていきたいと思います。

もう1頭の馬の名前は、セイウンワンダー(牡2歳:父グラスワンダー、母セイウンクノイチ)です。この馬は新潟2歳S(JpnⅢ)で、出遅れての後方待機から、大外をまくって差しきりました。

まず、2頭の購買から売却までの概略を表にしてみました。

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現在の実力は甲乙付けがたい2頭ですが、1歳セリでの購買価格を見て見ましょう。そこには約2倍の差があります。セイウンワンダー(以後セイウン)は馬体の素晴らしさと母父サンデーサイレンスという点、一方のナイキハイグレード(以後ナイキ)は腹袋のある成長力を感じさせる馬体と期待の種牡馬アグネスタキオン(購買年の公示種付け料1200万円)産駒という点を主として評価しました。また、セリではセイウンは活発に競り上がり、ナイキは一声での購買でした。

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セイウンワンダー17月入厩時。バランスの取れた馬体は非常に目を引きます。

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ナイキハイグレード17月入厩時。頭の大きく写るゴロンとした印象の馬体。

さて、競走馬としてのスタートも両極端でした。表にもあるとおり、BUセールでセイウンは持ったままで1313秒の指示にもかかわらず、最終1ハロン11.3秒の豪快な動きを披露したことでセール最高価格で購買され、中央競馬への入厩が決まりました。一方、ナイキは、スピードは指示通りではありましたが、動きが少し重く映ったのか、それとも台付けの割高感からなのか主取りとなってしまったのです。

すぐにトレセンに入厩したセイウンに対し、ナイキは競走馬としての売却を目指し3週間後に迫った千葉トレーニングセールに向け競馬学校に移動、引き続き調教が続けられました。セールの調教供覧では12.411.3秒の標準以上の時計で走行。台付け(セリでのスタート価格)は、声をかけていただくことを期待してBUセールでの主取り価格よりもさらにディスカウントし、1200万円に設定。しかし、残念ながら結果は主取。アグネスタキオンが「なぜ売れないの?」という気持ちと、競走馬としての将来を打ち砕かれたことで大いに落胆させられました。

幸い再上場の申し込みがあり、この馬の競走馬としての将来、もしかしたらせり上げもあるかもしれないという期待から、さらに台付け価格を下げて受けることになったのです。再上場は、通常呼び出しをかけた購買者が一声で落札することが多いのですが、蓋を明けてみると今までの沈黙がウソのような活発な競り合い。結局は最初の台付け価格より少しだけ安い1160万円で購買され、地方競馬で走ることとなったのです。競走馬としての将来を夢見ることが出来ると胸をなでおろすと共にセリの難しさを痛感したものです。

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千葉セールでのナイキハイグレード。すっきりとした見違える馬体に変貌したナイキでしたが…。(写真提供:馬市.com

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千葉のセールでの騎乗供覧。右がナイキハイグレード。ゴール前を12.411.3秒で軽快に走り抜けましたが…。(写真提供:馬市.com

BUセールの売却の際、購買者の方々にお配りしている育成馬の個体情報には、育成牧場における種々の成長の過程や医療情報に加えて育成牧場からのコメントも記載されています。

セイウンには「購買時は父グラスワンダーの雰囲気が強かったが、育成が進むにつれて母父サンデーサイレンスが強く表に出てきた。特に気性面では、人がしっかりとした態度で臨まなければ圧倒される強さを持つ。その気性が勝負根性と躍動感あふれる走りを生み出す。」というコメント。ナイキのコメントには「大種牡馬サンデーサイレンスの後継の筆頭と目されるアグネスタキオン産駒で期待も高まる。坂路で併走しての燃えるような走りと、普段の力を抜いた動きとが好対照。コンパクトな1歳時のイメージに、少しずつ伸びが加わってきた。」と書かれています。この文章に込められた思いと期待、育成期間中のエピソードなどの対比の詳細、この2頭が教えてくれたことなどは、引き続き次回にお伝えしたいと思います。

 

騎乗馴致におけるランジングとペン(丸馬場)の有用性

山の木々の葉も落ち、北国のつかの間の秋があっという間に通り過ぎて冬支度完了といった日高です。先日は日高山脈の高嶺に初冠雪を確認しました。

育成馬達の馴致は順調に進んでいます。12群は屋内800mトラックでの駆歩調教をこなし、次のステップとして11月からは週2回程度屋内坂路馬場へ通うことになります。また、1015日から馴致を開始した317頭は、ペン(丸馬場)の中で騎乗できるまでになっており、数日で屋内800トラックでの集団調教に移行します。今年は幸い56頭のほぼすべてが騎乗馴致のステップを大過なく上っており、ここまでは、まず一安心といったところです。

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1,2群の育成馬は、駆歩運動後の鎮静運動として場内各所を15分ほど常歩します。人を乗せてしっかり歩くこともこの時期の若馬にとって良い運動刺激になると考えています。背景は、初冠雪の野塚岳。

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ゲート通過は毎日の日課となっています。

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第3群は、騎乗に先立ち場内各所で十分なドライビングを行っています。補助者は馬から離れ、馬は御者の指示に従い前進気勢のある常歩をしています。馬はハッピーパレットの07(牝:父チーフベアハート)。

今回は、騎乗馴致でおなじみのランジング(調馬索運動)とペン(丸馬場)の有用性についてです。この話題を取り上げるきっかけとなったのは、当場で夏から秋の10月一杯まで実施している、一般ファンの方達に対する牧場内バスツアーにおいて受けた質問です。それは「騎乗馴致ではなぜ馬をペンでクルクル回すのですか」というものでした。

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ペンの中でランジング運動する育成馬。クルクル回っています。馬はミヤビトップレディーの07(父タイキシャトル)。

騎乗馴致において我々が当たり前のこととして行っている基本ですが、以下のように説明しました。

まず、馬をクルクル回す作業はランジングといい、調馬索という約10mの長さの平打ちのロープを用います。ランジングは、よく訓練された馬であれば、調馬索だけで綺麗な円運動をさせることが可能です。しかしランジングの経験のない1歳馬たちは、調馬索で繋がれていても、どう動いていいのかわからないのです。追われることで直線的に人から逃避したり、大きく膨らむ、逆に内に入ってくるなど反応は様々です。そこで綺麗に円運動をすることを効率的に学ばせる施設として存在しているのが、ペンなのです。

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図のように御者(馴致では二人でチームを組み役割分担をします)によって「前に動きなさい」というプレッシャーと「外に膨らみなさい」というプレッシャーを受けた馬は、ペンの壁により外に膨らめないことから、自然にその壁に沿って円運動をすることになるわけです。

図のような御者のペン内における位置関係は、馴致開始初日から騎乗が終了するまで、基本形として継続されることになります。

次に、それではなぜ馴致においてクルクル円運動を実施するのでしょうか。馴致において最も大切なのは人と馬の信頼関係に裏打ちされたコミュニケーションです。ペンは直径15mの円形をしています。そのため必然的に中心に位置する御者と壁に沿って運動する馬との距離は常に7m程度に保たれるわけです。この位置関係を守ることで、人は労せずに馬の運動を継続させ、一定の距離で馬とのコミュニケーションを交わすことが可能になるわけです。

このような役割と目的を持ったペンは、中の馬が外を見ることができない高さと、隙間を作らない工夫が必要で、ちなみに当場のペンは、高さ2.3mで安全のため内部の高さ1mほどまでゴムを貼っています。このペンとその壁を有効に使うことで、安全でスムーズな騎乗馴致を進めることができるわけです。

つまり「ランジングで行う円運動は、馬に運動をさせながら人が馬とコミュニケーションをとるために非常に有用な手法であり、ペンは馴致されていない若馬に綺麗な円運動を行わせるためにとても効率の良い施設で、騎乗馴致には不可欠なものなのです」。

騎乗馴致の前には、歯の検査(日高)

朝夕の冷え込みも始まり、山の緑も色づき始めました。育成馬の馴致も順調に進んでいます。1015日からは317頭の馴致も開始しています。今年は、これまでの過程で特に馴致を遅らさなければならない馬は出てきておらず、結局のところゆっくり調教を行う4群を設ける必要はなさそうです。

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93日に馴致を開始した第1グループは、800mトラック馬場で誘導馬を先頭に騎乗調教を行っています。

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924日に馴致を開始した第2グループは、騎乗を前に場内各所で十分なドライビングを行っています。

さて今回は、馬の口の中、歯の話です。

馬の騎乗に際して、ブレーキやハンドルの役割を果たすのがハミです。そのハミは図にあるように、前歯と奥歯の間(歯槽間縁といいます)に装着されます。放牧地で草を食むのには何の問題もありませんが、騎乗してコントロールするためには、人工物であるハミの装着が不可欠です。そのハミが口腔内に気持ちよく収まり、良好に機能するためには、ハミと歯によって頬や口角の皮膚が傷つかないように、その可能性のある部分の歯の角(とがった部分)を滑らかにするとともに、咀嚼に不必要な歯を抜く必要があるのです。

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前歯と奥歯(臼歯)の隙間を歯槽間縁といいますが、この存在がハミの装着と馬への騎乗を可能にしたといっても過言ではありません。前歯と奥歯の間の黒い●がハミを装着する位置です。Aが狼歯(やせ歯とも言われ、ハミが引かれた際に口角の皮膚を傷つけてしまうことがあります)、Bが犬歯(牡馬のみにあり、通常ハミ受けとは関係ありません)です。

手順として、まず指で狼歯の有無や歯のとがり方をチェックし、必要な場合には、口を開けて直接眼で見て確認します。

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歯や口の中の異常をチェックしている獣医スタッフ。ヘッドライトを使用し、奥歯の状態まで確認します。

狼歯が有る場合には、根から完全に抜歯します。馬の臼歯は咀嚼による摩滅を補うため一生伸び続けます。そのため根は非常に深く抜歯は困難ですが、狼歯は咀嚼には関与せず根も浅いため、抜歯用のノミで綺麗に抜歯することができます。

狼歯は牡牝に関係なく、およそ2/3近い馬に生えてきますが、その大きさや形は様々で、左右片方だけの場合や下顎にあることもあります。

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上顎臼歯の前面にある大きな狼歯。

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抜歯された左右の狼歯。比較は単4電池。比較的大きな狼歯ですが、抜歯の後は特に治療も必要とせずに治癒します。

抜歯が終わったら、今度はハミに当たる可能性がある前臼歯の一番手前の部分を滑らかにするため、歯をヤスリ(歯鑢:しろ)で削ります。馬の上顎は下顎に比べて幅が広く、咀嚼を繰り返すことで上顎臼歯の外側と下顎臼歯の内側が尖ってきます。その鋭利な部分を滑らかにするわけです。

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歯の処置専用の大きめの無口を付け、馬用のヤスリで歯を削っているところ。上顎の奥歯(臼歯)の外側を処置しています。

一度処置をしても、前述の通り馬の歯は一生伸び続けるため、ハミを付けて騎乗する限りは定期的にチェックする必要があります。育成馬達は、4月に行われるBUセールの前に再度チェックを受け、整歯された後に上場されます。

馬は大地の贈り物(日高)

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アブの来襲もなく、落ち着いて草を食む昼夜放牧の馬達

温暖化の影響でしょうか、日高は9月中旬になっても日中はまだ汗ばむ様な陽気が続き、下旬になってようやく秋らしくなってきました。さて、現在日高では3つのグループに分けて騎乗馴致を進めています。第1グループは8月購買の牡馬20頭を93日から馴致を開始し、すでに人が騎乗できるまでになっています。第2グループの約20頭は924日から騎乗馴致を開始しました。この後、第3グループは1015日の馴致開始を予定しており、それまでの間は引き続き昼夜放牧で管理します。しかし、馬の成長や状態を見て、馬にストレスのかかる騎乗馴致を遅らせた方が良いと判断した馬は、第4グループとします。

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腹帯馴致として行うローラー(写真の馬が腹部に装着している道具)の装着により、胸郭の圧迫に驚いては跳ねる育成馬。御者が落ち着いて馬を前に出すことで、馬はローラーの圧迫を受け入れるようになります。セリ上場を通してある程度人との関係をしつけられている馬が多くなり、これだけ暴れる馬は最近少なくなりました。このステップでは、気を緩めることができません。馬はベーシックフジの07(父:バゴ)。

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騎乗に移る前に行うドライビング(写真)で闊達な動きを見せる第1グループの育成馬。御者の技術が求められます。ドライビングをすることで、馬は騎乗前にハミ受けを学びます。

今回は、放牧地管理についてです。当場は表題にあるように、馬は大地で育まれ強くなるという観点に立ち、環境に優しくかつコストをかけない馬づくりを目指しています。まず本年から、堆肥作りをこれまで以上に積極的に実施しています。寝藁として使われた後の麦稈はもちろんですが、放牧地管理として行う掃除刈り後の草、これまで廃棄していた乾草など大地からいただいたものはもれなく堆肥として土に返すという試みです。

もちろん堆肥だけでは馬が土から持ち出した成分が不足し、糞尿由来のカリウム過剰など土の栄養バランスも崩れてきます。そこで、崩れたバランスを補足する指標を得る手段として土壌成分の分析や乾草の栄養分析を実施します。最近の原油高騰のあおりを受け、肥料代も農家にとって大きな負担になってきています。この取り組みの結果についても何年か先に取りまとめることができたらと考えています。

また、乾草作りや牧野の掃除刈りも積極的に行っています。本年は天候不順のため乾草作りには苦労しましたが、ラップ乾草や敷料として利用する分も含めて30Kg程度を収穫しました。

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掃除刈り。刈った草は細かく裁断され、放牧地で土に返ります。

放牧地の掃除刈りを頻繁に行うことには色々な効果が期待されます。まず、馬達に新しく成長したフレッシュな草を食べさせることができるという点です。また、チモシー、ライグラスなどのイネ科牧草は刈り取られると茎枝分かれし株が大きくなることで密度を増し、また成長点を残すことですぐに新しく成長してきます。その新芽を求め、馬が放牧地を歩くことで運動量が増えることも期待されます。さらに、雑草の多くが双子葉植物であり、これらは成長点が高い位置にあるため上部を刈り取ることで繁茂を防ぐという効果もあります。掃除刈りにより成長点を奪われた双子葉植物は脇芽で成長しようとしますが、成長速度が鈍り、種を作る機会も少なくなるわけです。

もう一つ、掃除刈りには放牧地を乾燥させる効果もあり、放牧が原因(明確な原因は不明)となって肢や鼻が白い馬に発症する難治性の皮膚炎の予防にも効果があるようです。

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難治性の白部の皮膚炎。抗生物質などで2次感染は防止できても、放牧をしている限りなかなか完治しません。しかし、草を短く保ち乾燥させることで、これまでに比べ程度が軽減したように思われます。

さらに、放牧地の大敵エゾノギシギシ(別称:馬ダイス)の駆除も積極的に行っています。馬ダイスは非常に繁殖力が旺盛で、少し気を抜くと猛烈な勢いで繁茂し、牧草を駆逐していきます。また、牧草に比べ乾燥に時間がかかり、乾草の劣化につながります。この生命力の強い馬ダイスを駆除するためには、根気強い除草のプレッシャーが必要です。対策として、手で抜くことはもちろんですが、種をつける穂を出させないための掃除刈りの励行、出た穂は刈り取ってから掃除刈り(穂が出たまま掃除刈りをすると、駆除どころか播種したことになってしまう)、成長期の若葉に対する除草剤のスポット散布などを繰り返しました。

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エゾノギシギシ。馬ダイスとも呼ばれます。

こうした放牧地管理のもと、大地の恵みを受けた若馬達がすくすくと育っています。

サマーセールの事前検査で感じたこと(日高)

北海道市場において818日から開催されたサマーセールで、JRA58頭の1歳馬を購買しました。このうちの45頭(牡20、牝25)が、27日から29日にかけて日高育成牧場に無事入厩してきました。今年については、牡馬は環境に慣れ次第騎乗馴致を開始し、牝馬はしばし昼夜放牧を行い、馴致開始まで成長を待つことになります。

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 2頭放牧で仲良く草を食む牡馬(手前2)。左はマンリーポッケの07(父キャプテンスティーヴ)、右はカズサヴァンベールの07(父アルカセット)。牡馬を多頭数で放牧すると、群れが落ち着くまで争いが続き、蹴り傷などが絶えません。群れ作りに要する危険性を極力排除するため小頭数で放牧し、翌週からの騎乗馴致に備えます。

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 走路内の放牧地に放牧され、大人しく調教馬を見つめる牝馬の群れ。はじめは調教馬に興味を示すものの、過度に入れ込み激走するような牝馬はあまりいません。走路で騎乗するBTC利用者にも理解があり、淡々と調教が進められます。

さて今回は、サマーセールに向けてJRAが事前に行った検査と、「コンサイナー」と呼ばれるセリ上場業務を請け負う育成者について、感じたことを書いてみたいと思います。

サマーセールは、上場頭数が1,000頭を超える日本最大規模の1歳馬セールです。1日に上場される頭数も250頭を超え、すべての馬を購買候補にしているJRAにとって、セリ当日のみでは十分な検査が行えません。そこで数年前から、日高育成牧場の育成スタッフが中心となり、セール1週間前から近隣の牧場を回り上場予定馬の検査を行っています。検査で訪れた牧場は、効率的に多頭数の検査を行うことを目的として、門別町から様似町までの54のコンサイナーとしました。ちょうどお盆の真最中だったのですが、我々の検査にご理解・ご協力をいただいた皆様のお蔭で、上場予定頭数1,273(上場頭数1,124)のうち624頭の事前検査が行えました。

ほぼすべての育成者が事前に測尺(馬の身長や体重を測定すること)を実施しており、きれいに磨き上げられた馬をじっくり検査させていただきました。多くの馬がいる中からわざわざセリ名簿の番号順に馬を出し、太陽光線の角度を考えて、馬の立ち姿を判断しやすいよう平坦に整地された検査場所を選んでくれる、といった「見る人が見やすいと感じる方法」を実践するコンサイナーの展示技術はかなり向上していると感じました。中には過去に患った病気の履歴や下肢部のX線写真を提示してくれる育成者もあり、馬格の大小や病歴の有無以上に、誠実さに立脚して正確な情報を提供することで得られる信頼は大きいものだと感じました。

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 整った環境の下、上場予定馬を展示する育成者(左)と検査を行うJRAスタッフ。

 展示するにあたり、以前はハミをかませずに展示される馬が多く見られましたが、今回の検査では殆どの馬がチフニーと呼ばれるハート型のハミと革製の引き手を使っていました。常歩で歩様検査をする際のUターンは、自然で見やすいと言われている右回りのUターンが定着しています。引き馬では展示者の右側を馬が歩くため、左回りをすると馬が外に振られて後肢が外に流れてしまいます。そのため歩様検査でUターンをする際には右回りをするのが一般的です。また、現在でもトレセンや競馬場で多くの競走馬に対して行われている引き手を2本使う引き馬が、馬産地では遠い昔のことのように感じられます。

 コンサイナーが管理する頭数は、過去の売却実績などにより預託申し込み頭数が変わるなか、核となる管理者が自身の判断で頭数を決定しています。前年の実績が良くて多くの依頼を受けたからといって急激に頭数を増やしすぎると、すべての馬に手が行き届かなくなることもあります。今回検査した中には頑なに自分の限度頭数にこだわり、高いレベルの管理を維持している方もおられました。管理頭数と管理人数とのバランスが大切だと思います。

 競合しあうコンサイナーの中で、売却成績を上げるための様々な努力がみられます。例えば育成業者同士でグループを作り、インターネットでの情報配信や上場予定馬の写真カタログを作成し活発な販売促進を行うことなども、セール結果に影響しているようです。

 今回、サマーセールの事前検査で多くのコンサイナーを見て回り、ポリシーをもった育成を行っている育成者が多くなってきたと感じました。特に、見る人が見やすいと感じられる展示方法や、馬をよく見せるための育成技術は数年前に比べて格段に進歩していると思います。

 全体にレベルアップしているこの業界が、今後どのように日本の競馬産業に定着していくのか楽しみであり、私としても変化を見守っていきたいと思っています。

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サマーセール当日の速歩展示。セリ運営の迅速化に伴いマイナーな展示手法になってきましたが、購買者にとっては健康な馬を選ぶ上での重要な情報源です。 

日高にも1歳馬が入厩しました (日高)

昨年購買した育成馬たちは428日に開催されたブリーズアップセール等を経て元気に巣立ち、6月中旬から行われているメイクデビュー競走(新馬戦)に続々と駒を進めてきています。馴致段階から心を注いできた我々育成牧場の職員にとって、育成馬の出走とそのパフォーマンスは大きな喜びの瞬間であると同時に、多くの反省が生まれる時でもあります。

さて、7月に行われたセレクトセール、北海道セレクションセールの1歳セリでJRAが購買した17頭(セレクト3頭、セレクション14頭)のうちの15頭が、730日に日高育成牧場へ入厩しました。

馬体検査と写真撮影を行い、5頭以下のグループに分け放牧を開始します。その際、新しい放牧環境に慣れて群れの内の順位が決まるまではしばし争いが絶えないため、最初の放牧では怪我やアクシデントの心配が絶えません。これは特に牡馬で顕著な傾向があります。しかし、騎乗馴致開始までの間に昼夜放牧を経験させておきたいという考えから、我々はこれを必ず通過しなければならないポイントと考えています。少しでも放牧時のリアクションを小さくするために、放牧地を牧柵に沿って引き馬で1周回り、放牧地に慣らします。この時しっかりと馬を御すために、必ずチフニーと呼ばれるハート型のハミを用い、放す直前にはずします。安全のため、人は柵を背にしていつでも外に出ることのできる体勢をとり、全馬一斉に離します。

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放牧地外周を引かれる馬達。必ずチフニーを装着します。新しい環境で早く放してほしいため、少しいらいらしています。

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フレッシュな馬たちの走りです。放牧地のチェックが一段落し、みんなで出入り口に戻ってきました。右からエンドレスチャントの07(牡、父:オペラハウス)、インキュラブルロマンティックの07(牡、父:ボストンハーバー)、ブルーブロッサムの07(牡、父:ストラヴィンスキー)

今回入厩した牝馬は放牧地を軽く1周しただけで馬同士のいざこざはほとんどなく落ち着きました。牡馬の闘争も比較的少なかったのですが、みんなで走る際に群れから押し出された1頭がフェンスにぶつかり、ちょっとヒヤッとする場面がありました。しかし、大きな事故はなく無事に初日の放牧を終えました。

この時期の放牧で頭を悩ませるのが吸血昆虫です。特にこの時期はアブの発生が多く見られます。日高はアブの発生源となる沢地が多いため、ピーク時のアブの数は半端ではありません。放牧されている馬はおいしく草を食むというよりも、団子状の馬群を作りほとんど動かず、落ち着きなく尾を振り地団太を踏みながらアブを追うという、まさに我慢大会の様相を呈します。

この対策として、日中を避け夜間に重点を置いた放牧になるべく早く移行します。今回の入厩馬は、群が落ち着いた入厩3日後から、夕刻4時から朝8時までの夜間放牧としました。

欧米では私の知る限りアブや吸血昆虫の発生は比較的少なく、こういった悩みはあまりないようです(単独の放牧で、顔にたかるハエを防ぐために頭巾を被せているのを見たことはありますが)。放牧前には既存の忌避剤(虫よけ)の塗布などの対策はしていますが、現状の市販品では忌避力と持続時間が短く、期待するほどの大きな効果はないようです。コスト面にも課題が残ります。新たな忌避剤の開発なども含めた、放牧時の吸血昆虫対応は今後取り組んでいかなければならないことかもしれません。

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アブは皮膚に傷をつけ染み出てきた血液を舐めるため、吸血後も血がにじみます。

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アブに刺されてボコボコになった下腹部。

育成馬の写真撮影(日高)

このところ穏やかな日が続き、いよいよ324日(月)から1,600mトラック馬場がオープンしました。これからのスピード調教は、間近に迫った育成牧場の展示会やBUセールの騎乗供覧に向けて、1,000m屋内坂路馬場に加えてこの馬場を併用して行っていくことになります。

馬達はほとんどが1,000m屋内坂路馬場のスピード調教で持ったまま3ハロンを45秒(ハロン15秒ペース)で走れる体力が付いてきています。坂路の傾斜による心肺機能に対する負荷を考慮すれば、そろそろ平坦馬場では3ハロンを13秒台刻みで走る力が付いてきたと考えられます。

さて、今回は写真撮影についてです。

今年から育成牧場職員自らの手で写真撮影を実施することにしました。天候や場所を選び、しっかり馬を立たせ写真撮影する技術、加えて撮影した写真を吟味する選択眼も育成牧場が試行錯誤する中で色々な皆さんに伝えていく部分ではないかという考え方からの取り組みです。

 馬の駐立写真の撮影について、注意しなければならないポイントとしては、

①光線(馬に当たる光)

・順光で、光がやわらかく横目から光が当たる時間帯がベスト。

②撮影場所

・平坦で蹄まできれいに見え、背景のスッキリした場所。

③風向き

・無風が望ましいが、風があっても、タテガミが立たず、尾が股間に巻き込まないこと。

④立たせ方

・四肢をずらして、立った耳がVの字を作る程度に馬の顔を少し撮影者に向ける。

・引き綱は、ゆったりと長めに持つ。

⑤撮影テクニック

などがあげられ、撮影担当者はシャッターを押す瞬間に、馬の四肢が画角に収まり、写した写真をトリミングした時に保持者の手が入らないか、肢を休ませていないかなどチェックし、最後に耳が立ち馬の表情が引き締まっているかを判断します。

今回の撮影において威力を発揮したのがデジタル一眼レフカメラです。連写機能によりシャッターチャンスを逃さないのはもちろんですが、フィルムや現像の費用に加え手間がかからないのが大きな魅力です。

もう一点は、ICレコーダーの活用です。撮影準備が整い、最後に耳を含めた顔の表情を求める段階になってなかなか撮影に集中してくれない馬がいます。そんな時、事前にレコーダーにテレビのコマーシャル等、馬の注意を引きそうな音源を録音しておき馬の左斜め前から聞かせるのです。瞬時に異なったタイプの音を再生、リピート、頭出しができることから効果覿面です。しかし一方で何回も繰り返すとその音に慣れてしまう傾向もあります。再生は極力短時間にとどめ音源を豊富に用意すること、構えるカメラマンと息を合わせることが大切です。ちなみに数頭の例外はありましたが、音源の中で極めつけは、馬の「いななき」でした。

最後に、写真選択の段階になって、その幅を持つためにも、いい写真が撮れたと感じても、最低23回は立ち位置を変えて撮影しておく必要性を感じました。しかしそのためには、撮影に携わる全スタッフの、いい写真を撮ることに対する理解と忍耐が求められます。

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昨年造成した日高山脈を望む写真撮影用のお立ち台。ようやく周囲のしばれが取れたものの芝生が生えそろわず少し殺風景ですが、背景の山並みは素晴らしい。左前のICレコーダーの発する音に反応し凛々しい立ち姿を見せています。馬はBUセール番号7ハートフルソングの06(牡父クロフネ、母父マルゼンスキー)。

それでは購買時の写真と今回撮影した写真との比較をご覧下さい。

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昨年の8月入厩時の写真。四肢は右側を狭く立たせることで、すべての肢が見えるようにします。馬はシラーの06(♂父マイネルラヴ)。馬体は皮膚が薄く購買時より垢抜けており多くの方の注目を集めた1頭でした。春早い撮影では、この写真の緑の芝と青い山並がうらやましく感じます。

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今回3月中旬撮影のシラーの06。BUセールの名簿番号は36番。休むことなくトレーニングを積まれ、1歳時の子供らしさが抜けてたくましくバランスが良くなりました。その力強さが表現できていればいいのですが、いかがでしょう。

色々な撮影テクニックはあるにしても馬の良さを引き出す写真を撮影する一番の要素は天候です。光と風が味方してくれなければ、どれだけ手入れをして、どれだけきれいに立たせてもインパクトのない写真になってしまいます。その天候を待つために撮影が予定通り進まないのは常のことです。できるだけ成長を待ち、冬毛が取れた馬体を撮影してお見せしたいのは人情ですが、お披露目の期日は決まっています。そのタイトなスケジュールのなかで好天の調教後を撮影に当て、現時点の馬たちの馬体をアピールできる写真の撮影を終えることができました。

目標を持った騎乗と隊列(日高)

428日に開催されるブリーズアップセールまで残り40日あまり、育成牧場での展示会は残り1ヶ月(414日)を切りました。日も長くなり、凍結のため使えなかった1,600mトラック馬場も予定通り3月下旬には使えるようになりそうです。

2回実施している育成馬の1,000m屋内坂路馬場でのスピード調教は、2本目のスピード指示を、最終3ハロン平均で牡馬は16秒、牝馬は18秒とするまでになっています。手綱を持ったままの余裕の走りを見せており、展示会やセールでは力強い走りを皆様に披露できるのではないかと思います。

さて今回は「目標を持った騎乗と隊列」について書いてみたいと思います。

育成牧場では騎乗に際して走行タイムと走行時の隊列(ポジション)を事前に騎乗者に指示します。その目的は、騎乗者と馬との折り合いの中で乗りやすい位置取りやタイムに甘んじ、ただ漫然と調教を進めるのではなく、他の馬に影響を受けながらも目標を持った騎乗が出来ることを目指しているからです。

与えられる指示は騎乗者の日々の目標でもありますが、当然馬たちの目標でもあります。一朝一夕に目標がクリアできるわけではありませんが、そこを目指して日々歩を進めていきます。

競馬において、競走馬は一群となってもまれる中でレースを進め、直線での攻防に望みます。最終的には、先行逃げ切り、差し、自在等、色々なタイプの競走馬として成長していくのでしょうが、我々は基本ベースとして、位置取りに自在性のある馬を育てたいと考えています。そこでレースでの展開を想定して、群走行の要素を分解して調教に用いるのが隊列です。

また、基本的に馬は走りたがらない動物と考えています。長い年月をかけた改良により、走る素因の一つとして、なるべくテンションの高い競馬に適した馬が選抜されてきていますが、動物の基本としてエネルギーを無駄にせず楽をしたい、無理をしたくないというのが自然です。しかし競馬ではその意に反し全速力で走らなければなりません。そこで生来の性質を利用していかに気持ちよく走らせるかが調教を進める上で大きなポイントとなってきます。馬にとって強引に「走らされた」のではなく、結果として「走ってしまっていた」という自然な流れの中で調教を進展していけたらと考えています。その手法として、どう調教時の隊列を組むかがポイントになってくるわけです。

 騎乗馴致終了後のしばらくは、環境と騎乗されての運動に慣らすことを目的に、誘導馬を先頭にして、まさにランダムな一群で行う調教をこなします。その段階を過ぎるといよいよシングルファイル(1列縦隊)による隊列調教が始まります。

そこではまず、先頭を走ることを学びます。最初は先頭に立つとキョロキョロ、フラフラして真っ直ぐ走れない馬がほとんどですが、誘導馬や僚馬と一緒に走らせることで、人馬共に自信を持って先頭が出来るようになっていきます。最初はできる馬からですが、育成牧場を卒業するまでには先頭馬を指定し、全馬がこなせるようにしていきます。

隊列の主なものは、1列縦隊、2列縦隊、2頭併走があります。

1列縦隊は、縦1列に並んで走りますが、前の馬との間隔の目標は2馬身です。真っ直ぐに走ることはもちろんですが、先行馬への追走、後ろでの我慢、顔への砂のキックバックに慣れる等を学びます。

2列縦隊では横にも馬がいる形になり、より実践に近くなります。横に馬がいても走りに集中できることを求めます。

最後の2頭併走は、直線での競り合いをイメージしたものですが、どちらかが先行する勝ち負けではなく、鼻面をあわせることが基本です。馬の心理として逃げ遅れる恐怖があり、さらに牡馬には闘争心も加わります。それらを利用して求めるスピードを自然に達成させていきます。

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屋内800mトラック馬場での1列縦隊(シングルファイル)による騎乗。さらに前後間隔を詰めていきます。

馬は先頭からラリシェスの06(♀父コロナドズクエスト)、メローホリデーの06(♀父:バブルガムフェロー)、エルカーサリバーの06(♀父:サニングデール)、ワールドウッドの06(♀父:ゴールドアリュール)。

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屋内800mトラック馬場での2列縦隊による騎乗。隊列は整っていますがまだスカスカの状態です。前後左右の間隔はさらに詰めていく必要があります。

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間隔が詰まってきてこの時点では最終形に近づきつつあります。しかし馬や騎乗者の表情の違いを見てもこの隊形の維持にかなり努力をしていることが推察できます。馬は左からウォーターセレブの06(♂父:スウェプトオーバーボード)、ニットウヒマワリの06(♂父:ワイルドラッシュ)、ケイアイバラードの06(♂父:シルバーチャーム)、エイユージュリアンの06(♂父:トウカイテイオー)。

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屋内800mトラック場での併走調教。規定されたスピード(ハロン20秒)を守り、互いにオンザブライドル(持ったまま)で指示通りに併走できています。スピードに余裕があることによる蹴り合いなどを防ぐために左右の間隔はこの時点では馬3頭分程度を目安にしています。

馬場状態の把握とコンディション維持への取り組み(日高)

1月の着任当初は最低気温がマイナス20度まで下がるかもしれないと思っていた寒さも、3月になり底を打った感があります。牧場の南斜面では、解けた雪の間から福寿草が可憐な花を咲かせ、春の訪れを告げています。しかし浦河管区気象台の測候データによれば、本年は2月末までに一日の平均気温がプラスになった日は2度しかありませんでした。 昨年は17日、一昨年が 13日であったことから本年は近年の中では寒さが厳しかったといえるのではないでしょうか。

育成馬達は、屋内800mトラックでの800m+1600m(ハロン2120秒)調教をベースに週2回、屋内坂路馬場でスピード調教を実施していますが、ほぼすべての馬が2本の駆歩をこなし、2月末時点で、牡馬は2本目の最終3ハロンを171616秒、牝馬は191919秒の指示が出せるまでになっています。

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牧場の南斜面で、雪解けの間から可憐な花を咲かせる福寿草。

 さて今回は育成牧場の調教馬場の状態把握とコンディション維持への取り組みについて書きたいと思います。育成を担当する者にとって常に気になるのが、調教を行う馬場のコンディションであり、それは若馬期特有の運動器疾患の発生を予防するうえで非常に大きな役割を担います。一方それは天候や経年により変化するため、良いコンディションを長く維持することはかなり大変なことです。

育成牧場では、屋内800mトラックが、冬季間の調教の主体をなす施設となっています。馬場のクッション素材は寒冷地向けに冬期間の凍結を防ぐことによるクッションとグリップ力の確保と埃の防止を主眼とし、オイルサンドに細いゴムチップを混入させたもので、新素材の試行を兼ねていました。当初の目的は十分に果たせたのですが、経年により色々な変化をみせ、管理方法についても試行錯誤が重ねられました

初期の段階では、こまめな馬糞の除去とパワーハロー掛けだけの手間いらずの馬場でしたが、何処まで安全に調教できるか、その当時の育成担当者は、新しい素材の特性をつかむべく調教を進めました。この馬場はゴムチップを含むことで、転圧が利かず、砂が厚く重いという特性があり、調教が強くなると弯膝(前膝の関節がゆるくなってしまう症状)の馬が増え、重度なものでは肩跛行も散見されました。しかし経年と共に砂の細粒化が進みオイルコーティング劣化や、馬糞(なるべく取るようにはしている)由来の埃がオイルに付着することで粘着性と保持力が低下し、硬い路盤への蹄の衝撃によると思われる骨瘤の発生が目立ってきました。また、凍結はないものの埃がひどくなってきたのもこの頃です。そこで使用開始から5年経過した0102のシーズンからは、馬場のグリップ力とクッション性を向上させるため、ついにオイルサンドに対して散水と不凍剤(塩化カルシウム)の散布を開始しました。

現在では既報にもありますように、ローラーで転圧を加えることでさらに走りやすい馬場の管理が可能となっており、以前は上限がハロン22秒のスピードであったものが、20秒の指示が出せるようになっています。

しかし今後も馬場状態は日々変化していきます。また管理担当者も交代します。そういった状況において一定の良好なコンディションを長く保つためには、馬場状態をある程度客観的に把握していくことが求められます。そこで今年から試行として、①差込加重、②砂厚、③水分量、④計測時の気温を定期的に計測するようにしています。計測は800mの馬場8箇所のそれぞれ内側と外側の合計16箇所で実施していますが、均一で良好な馬場コンディションづくりの大変さを改めて実感する一方で、管理担当者と馬場コンディションの調整状況を、数値を用いてイメージできるようになってきています。

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散水、ハロー掛け後の馬場で、状態をチェックする職員。

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加重計の表示。計器を下に向け、赤いテープが隠れるまでゆっくり砂に押し込むと8cmの加重が計測できます。

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加重計で8cmまでの差し込み加重を測定しているところ。

育成状況の視察においでください(日高)

まず最初に育成馬の近況ですが、昨年8月の下旬から、10月にかけて、セリでの購買時期や馬の成長状況を考慮して、4群に分けて馴致を開始しその後の調教を進めてきましたが、先に馴致を始めた群が後続を待つ形で、現在牡牝ともようやく、同一調教レベルに追いつきました。週2回のスピード調教を坂路で実施していますが、215日時点で、牡馬は1,000(5ハロン)のギャロップの最終3ハロンを171717秒、牝馬は202020秒の指示をクリアすることができるようになっています。今後も1ハロンの瞬間スピードを求めるのではなく、1,000mの坂路馬場をフルに生かして少なくとも3ハロンの平均スピードを上げていくことで、若馬に対して安全にかつ馬に底力の養成ができる調教を目指したいと考えています。

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牝馬も育成馬全体が坂路で1ハロン202020秒をこなせるまでになっています。馬は左からチッキーズディスコの06(父:シンボリクリスエス)、ハッタロッチの06(父:アグネスデジタル)フランチェスカの06(父:アッミラーレ)(写真提供は齊藤宗信氏)

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坂路に行かない日は、800m馬場において1周-2周の計3周(2,400m)を2列縦隊で、牡はハロン20秒、牝は22秒を上限とした駆歩をベースに調教を進めています。馬は先頭左がファミリアーストーリーの06(牡 父:Diesis)、マイネマリエの06(牡 父:バブルガムフェロー)。(写真提供は齊藤宗信氏)

さて、そういった現在のJRA育成馬の調教状況、飼養管理は、生産や育成に携わる方、JRA育成馬の購買を希望される馬主、調教師の方々に参考にしていただくこと主眼として常時オープンにしております。事前に「育成状況の視察希望」の旨、育成牧場にまで連絡をいただけましたらできる限り対応させていただいています。

これまでにも多くの育成牧場の方々に来場いただいておりますが、先日は三石の青年部の皆さんが訪れ、熱心に視察されるなかで、本年の調教の進展状況や視察した内容に対する質疑など、多く話題に盛り上がりました。中にはJRA育成の生産牧場の方もおられ、愛馬の成長を見て期待に胸を膨らませていました。来場いただいた方には育成牧場の育成馬管理の基礎を明記した第2版となる「JRA 育成牧場管理指針」や育成馬名簿などをお配りし、でき得る限り当育成牧場の育成内容について理解いただけるように努めています。育成牧場で実施されている手法が少しでも皆さんの育成の参考になれば幸いですし、同時に我々にとっても外部の色々な方々との意見交流は大きな刺激にもなっています。

来場をお待ちしています。

なお、一般のファンの皆様には、夏季(7月~10)に毎週牧場見学ツアーを実施する予定ですので、日高路への旅行の際には事前連絡の上是非お立ち寄りください。子馬を含めた場内の馬達とのふれあいなども企画しており、育成馬とは趣は違いますが楽しんでいただけると思います。

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覆馬場において、調教前の歩様チェックに際して、各馬の説明に耳を傾ける青年部の皆さん(写真提供は齊藤宗信氏)

調教騎乗における拳と手綱の持ち方(日高)

若手の職員や研修生などに、調教騎乗における拳(こぶし)と手綱の持ち方についてよく質問を受けます。私は基本的には、手綱はダブルブリッジ(図.2 参照)で持ち、手綱を握る拳は、キ甲を通る「サイドレーンの様な拳」が理想だとシンプルに考えています。また安全のためにネックストラップ(馬の頚に掛けた皮ひも)も併せて持つように指示しています。

サイドレーンは騎乗せずに馬を御すときに、馬の頭頚の位置を理想的な位置にコントロールするための馬装具です。育成馬に対しては下の図.1 の様に、馬の頭の位置が理想的になる長さに設定し、制御がきつすぎなり過ぎないように、馬のキ甲を交差させて用います。中間にあるゴム環が緩衝作用を担い、このゴムと同様の役割を拳が行えればよいのです。サイドレーンは規定の位置に馬の頭頚が納まっていれば馬に何のプレッシャーもかかりません。一方でその枠からはみ出そうとすれば明確に「ダメ」と制御します。この明瞭さが馬の理解を早めます。またキ甲に拳を軽く置くメリットは、馬の頚が動く基点がキ甲であり、走行時の馬の頚の動きを妨害することが少ないからです。両足でアブミに立ちふくらはぎで馬とコンタクトを取る調教騎乗においては、よほどのバランス感覚を持った熟練した騎乗者でなければ、手綱を持つことだけでは拳を一定の位置に置くことは困難です。ましてや相手はまだ走行の安定しない若馬なのです。押さえつけるような硬い拳ではなく、弾力のあるゴムをイメージして、そっと拳をキ甲に添えることの大切さを伝えています。持ち上げる様な高い位置の拳、頚にまで下げた低い拳は騎乗者にとってバランスが悪いだけでなく、馬自身の自然な動きまでも阻害してしまうため慎みたいものです。

また、ダブルブリッジは、手綱を二重にして持つため握りを強くすることができ、行きたがる馬に、じっと我慢させる場合には特に有効な持ち方です。また安全の面でもキ甲の左右に拳を分けて位置させることにより、馬が急反転した場合などにもバランスを崩しにくくなります。どんな時でも、少なくとも片手だけ手綱を2重に持つシングルブリッジ(図.3参照)にすることだけは心がけたいものです。

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.1 馴致段階でのサイドレーンの装着。キ甲の部分で左右のサイドレーンを交差させる。このイメージを騎乗者の拳にも求めています。

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.2 ダブルブリッジの持ち方

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.3 シングルブリッジの持ち方

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.4 駆歩騎乗時の適切な拳の位置。サイドレーンの様な拳のイメージを大切に。(モデルはBTC研修生と研究馬)

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.5 ブリッジにしていないと、腕が開いてバランスを崩してしまう危険性が高くなります。手綱のブリッジは、馬のとっさの動きに対して、バランスを崩すことが少なくより安全と考えています。(モデルはBTC研修生と研究馬)

順調に調教が進んでいます(日高)

ここ2週間、連日厳しい寒さの続く浦河ですが、先日はマイナス19度まで冷え込みました。地球温暖化の影響もあるのか、育成牧場では数10年来マイナス20度の大台は記録されていないと聞いており、さらに寒さの増すこれから2月末までには経験できるかもしれません。その一方で、降雪は少なく、アクセス路が確保できるため、年が明けてからも順調に週2回の1,000m屋内坂路馬場でのスピード調教が積めています。

現在、意図的に若干牝馬の調教を遅らせており、坂路では、牡馬は2本(2頭併走で2本目のスピード指示は最後2ハロンを18秒-18秒)、牝馬は1本(2列縦隊でスピード指示は最後2ハロンを22秒‐20秒)としています。牝馬の調教を遅らせている理由としては、経験的に冬の寒い時期から調教量を増やした場合、故障が多く精神的にもテンションが高くなり飼いの食いが落ちてしまうなどの難しさがあるからです。最近のデータでは、季節繁殖動物として春に発情の始まる牝馬は、冬期間は卵巣が活動しておらず性ホルモンが動いていないことがわかってきており、そのあたりのことも牝馬調教の難しさに影響しているのかもしれません。

4群に分けて馴致を行いましたが、群間の運動内容格差は徐々に詰まってきています。その一方で、徐々に四肢の熱、すくみなどの運動量の限界を示すサインを見せる馬も出てきており、これまで以上に注意を払いながら調教を進めていかなければならない段階に入ってきたと感じています。

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厩舎地区から屋内坂路馬場 約2km離れた覆坂路に向かう育成馬達。

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 1,000m屋内坂路馬場での併走調教。スピード指示は、最後の2ハロンを18秒‐18秒。右はハートフルソングの06(♂:父クロフネ)、左はアーチェリーの06(♂:父シルバーチャーム)。非常に軽快なフットワークで、計測されたタイムは3ハロンの合計で58.1(ハロンごとでは21.618.418.1)。持ったままの指示で馬に余裕のあるこの時期としては、蹴り合いなどの事故を防ぐには理想的な間隔を保った併走だと思います。これから求めるスピードと距離がさらに高くなるにつれて、併走での馬の間隔は詰めていくことになります。

より良い育成を求めて(日高)

今回新しく日高育成牧場で育成馬日誌を担当することになりました。よろしくお願いいたします。

前任者の最終コメントにもありますように、育成中の56頭の馬達は順調に馴致調教を積まれてきており、私は非常に良い状態で育成担当のバトンを引き継ぎました。この状態に満足することなく「強い馬づくり」を目指して、よい伝統は着実に受け継ぎそのレベルを維持していくとともに、新しい視点からさらに色々な取り組みをしていきたいと考えています。その中で私が考え感じたことなどを織り交ぜて、試行錯誤の心の機微を少しでも皆様にお伝えできたらと思っています。これまで同様これからの日誌も楽しんでいただけたら幸いです。

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気持ちも新たに、高い頂を求めて。山は日高山脈の名峰で、日高育成牧場の背後にそびえる野塚岳(1353.2)です。馬はナナコフレスコの06(父:コマンダーインチーフ)。活躍中のエイシンパンサーの妹です。

JRA育成馬の近況(日高)

今回はJRA育成馬たちの近況を紹介したいと思います。

12群の牡馬は1221日より2本の坂路調教を行っています。坂路2本は若馬にとってかなり強い運動負荷となるため、例年開始時期には頭を悩ませていますが、本年度は馬の動きや手応え、調教後の息遣いや息の入りなどから十分に体力がついていると判断して、初めて年内に2本目の坂路調教を試みました。1本目は集団でハロン22秒程度、2本目は2-3頭併走でハロン18秒程度の速度で、もったまま楽な手応えで駆け上がってきます。

13群の牝馬は屋内800mトラックで1000mの駈歩を行った後に、集団でハロン20秒程度の坂路調教を1本行っています。牝馬は運動強度が上がると特に飼葉食いが悪くなる場合があるので、様子を見ながら慎重に調教を進めています。

4群の馬は屋内800mトラックで、ハロン24秒程度の速度で、距離を伸ばして1600mの駈歩を行っています。今後、馬の状態を見ながら調教進度を上げていきたいと思っています。

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2本目の坂路をハロン18程度で併走する第12群の牡馬。右はマイネマリエの06(牡:父バブルガムフェロー)、左はリッショウスキーの06(牡:父ジャングルポケット)。

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集団で坂路調教を行う第1,3群の牝馬。先頭右端はミロヴァダンスの06(牝:父スペシャルウイーク)、中央はダンシングザードの06(牝:父ネオユニヴァース)、左端はチッキーズディスコの06(牝:父シンボリクリスエス)

本年度は前の馬について我慢することや馬込みの中でも折り合いをつけることを目的として、屋内800mトラックでも集団調教を行っています。直線の坂路と違い、コーナーが結構きついため、騎乗者の技量は要求されますが、有効な隊列ではないかと思っています。

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800m屋内トラックで集団調教する第12群の牡馬。先頭の右はシュバルブランの06(牡:父シルバーチャーム)、左はシラーの06(牡:父マイネルラヴ)

例年、跛行等の運動器疾患で長期の戦線離脱を余儀なくされる馬に悩まされるのですが、幸いなことに現在のところ全頭が順調に調教を実施しています。本年度は体力のある馬はより強く、無理をしない方がよいと判断した馬はゆっくりというように、個体の状態により調教進度の差を大きく設けていることが特徴です。また、毎日ウォーキングマシンを活用し、運動時間を長くしていることや馬場管理もこの結果に結びついているのではないかと考えています。

屋内800mトラックはオイルコーティングした砂にゴムチップを混ぜたオイルサンドという素材で、今話題のポリトラックにちょっと似た特性を持つ馬場です。馬場管理は調教の合間に2回と終了後の計3回ミキシングハローを用いて蹄跡を均し、ミスステップが起きにくいようにしています。また、定期的な散水やレベルハローを掛けてクッション砂厚を10cmの均等な深さに保つことで、常にクッション性がよく、しかもグリップ力に優れた馬場を維持できるように努めています。

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ミキシングハローはクッション砂をほぐす爪ハローと転圧するローラーを組み合わせたハローです。左はハロー掛け後の状態です。

今回で育成馬日誌の担当は最後になります。次回からは後任が引き継ぎますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

BTC利用者との意見交換会(日高)

今年5回目を迎えたBTC利用者との意見交換会は、「坂路調教の効果と馬場の特性」というテーマで1212日(水)に行いました。昨年700mから1000mに延長したことで調教強度が増して、トレーニング効果が上がった坂路馬場、今注目されているニューポリトラックを含めた馬場の特性等、安全かつ効果的なトレーニングをコンセプトに意見交換を行いました。このように利用者同士がお互いに刺激を与えあえる環境にあることがBTCの強みであり、利用馬の活躍にも繋がっているのではないかと思います。

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意見交換会風景:気楽に参加できるのがこの会の特徴です。

また、1129日(木)には総研から笠嶋研究役を招いて、獣医師を対象として不治の病といわれる屈腱炎について技術講習会を開催しました。胸骨の骨髄液を採取して、培養した幹細胞を移植する屈腱の再生療法への関心は高く、特に再生療法は万能な特効薬ではなく、正しい知識を理解したうえで治療を行う必要があるという言葉が印象的でした。

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胸骨の骨髄液を採取する場所をエコーで確認しているところ。第3あるいは第4胸骨腔から採取します。

JRA育成馬の紹介はこれまで馴致開始の早い第1・2群を中心にお伝えしてきましたが、いよいよ第3群の牝馬も1212日から坂路調教を開始しました。また、馴致最後の第4群も800m屋内トラックで駈歩調教まで進み、全馬の足並みが揃う日は遠くないようです。

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3群の坂路調教(一部第1群の牝馬を含む):初日にしては真直ぐ走ってくれました。集団調教の左からナイスジュノーの06(牝:父シルバーチャーム)、チケットトゥフライの06(牝:父ブライアンズタイム)、シルクマーメイドの06(牝:父コロナドズクエスト)、ディアンの06(牝:父マリエンバード)、メローホリデーの06(牝:父バブルガムフェロー)、ハッタロッチの06(牝:父アグネスデジタル)

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4群の800m屋内走路での調教:1列縦隊で前の馬について走ります。徐々に真直ぐ走れるようになってきています。先頭右からフジノバンナの06(牝:父ステイゴールド)、ナナコフレスコの06(牝:父コマンダーインチーフ)、エルカーサリバーの06(牝:父サニングデール)

講習用DVDを作成しています(日高)

JRAでは昨年度「育成牧場管理指針」と題した小冊子を作成し、今年はこれを基にした講習会を各地で催しています。日高育成牧場では7月に八戸で「馬の展示としつけ」というタイトルで、馬のトリミングの仕方と引き馬や駐立展示の方法について講習会を行いました。講習会はスライドによる講義と実馬を使った実技形式で行ったところ、特に実馬を用いた実演は視覚的にも分りやすく、スライドでは表現しにくい細かなところまで説明でき、非常に好評でした。

そこで、JRAでは「育成牧場管理指針」映像化の第1弾として、「馬のトリミングと展示方法」についてDVDを作成することにしました。年内には完成予定ですので、乞うご期待下さい。

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ビデオ撮影風景1:心配していた天気は予報と異なる快晴で絶好の撮影日和となりました。展示のモデル役はシラーの06(牡:父マイネルラヴ)

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ビデオ撮影風景2:トリミングはシーキングハーフォーチュンの06(牡:父フサイチコンコルド)が務めました。写真は前髪のトリミングをしているところ。

今年のBTC利用馬は新馬勝ちの数を含めて、例年に増して好成績を収めています。その理由の一つとして、700mから1000mに延長された屋内坂路馬場を挙げる関係者は少なくありません。日高育成牧場では毎年12月にBTC利用者と様々なテーマで意見交換会を実施していますが、今年は坂路調教の効果と馬場の特性をテーマに開催する予定でいます。

JRA育成馬で最初に馴致を始めた第1群は、1030日から坂路調教を開始しました。本年度は同じ速度でも平地より運動負荷が高く、直線でハミ受けを作りやすい坂路の特性を活かし、可能な限り早い時期からより積極的に屋内坂路馬場を使っていこうと考えています。第2群は1030日から屋内800mトラックで駈歩調教を開始し、安定した駈歩で走れることを目指しています。また、1112日現在で、第3群は速歩調教まで、最後に馴致を開始した第4群は馬房内で騎乗する直前まで馴致は進んでいます。

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1群坂路調教風景:右からチケットトゥフライの06(牝:父ブライアンズタイム)、ダンシングザードの06(牝:父ネオユニバース)、ハッタロッチの06(牝:父アグネスデジタル)、ミロヴァダンスの06(牝:父スペシャルウイーク)、チッキーズディスコの06(牝:父シンボリクリスエス)、オースミシャロンの06(牝:父タイキシャトル)

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2群調教風景:左からネバータッチミーの06(牡:父スキャン)、ニットウヒマワリの06(牡:父ワイルドラッシュ)、アーチェリーの06(牡:父シルバーチャーム)、シスタースルーの06(牡:父ラムタラ)、ウォーターセレブの06(牡:父スウェプトオーバーボード)。右上は今年から導入した新兵器のタイム計測装置。調教タイムはこれまでコースの一部を手動で計測していましたが、全ハロンのタイムを自動で計測できるようになりました。調教の客観的評価に欠かせないアイテムの登場です。

韓国からの研修生奮闘中(日高)

アンニョンハセヨ(こんにちは)

近年、日高育成牧場には年間を通して、韓国、中国や東南アジアなどの海外からも大勢の競馬関係者が見学に訪れてきます。当場の施設や利用馬の素晴らしさを紹介するとともに、日本の馬産や競馬をアピールすることは、我々の重要な仕事の一つとなっています。

特に本年は、1017日から約1ヶ月間にわたり、韓国から4名の研修生(KRA職員2名と生産者の後継者2名)がブレーキングの実習に訪れています。彼らの中には日本語を話せる者はおらず、かろうじて英語を話せる者が1名だけで、当初はどんな研修になるか危惧していましたが、馬の世界は万国共通で、身振り手振りを交えながら、あっという間に当場の馬取扱職員の中に溶け込んでくれました。施設や馬はもちろんですが、競馬サークルの財産は人です。彼らがこの研修で多くのことを学んで、韓国競馬の発展に寄与してくれることを願っています。

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ブレーキングを見学する研修生たち

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収牧のために馬を引く研修生

今年入厩したJRA育成馬は、入厩日、性別、誕生日や疾病等により4群に分けて馴致を開始しました。9月上旬に馴致を開始した第1群の馬たちは、現在、屋内800mトラックでゆっくりした速度で約1200mの駈歩を行っています。この日誌がアップする頃には屋内坂路を使った調教ができればと思っています。

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屋内800mトラックで駈歩を行う第1群の馬たち:先頭3頭は右プリンセスバローズの06(牡:父ボストンハーバー)、中央ハートフルソングの06(牡:父クロフネ)、左セイウンクノイチの06(牡:父グラスワンダー)

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クーリングダウンを行う第1群の馬たち:後ろの山々は赤や黄色に染まり、これからの厳しい季節を前に、日高は今が一番美しい季節です。

馬体写真撮影の変遷(日高)

近年、せり名簿に併せて馬体写真カタログを作成するせり主催者が増えてきました。写真により、事前に馬体をイメージできるというメリットがある反面、写りが悪いとマイナスイメージを与えてしまう怖さもあります。

1回目となった2005JRAブリーズアップセール開催にあたり、写真カタログ用の撮影を3月中旬に行いました。日高では撮影場所の選定にあたり、平坦で脚元がよく見えて、しかも雪などの自然現象の影響が最小限の場所ということで、初年度は厩舎の中庭で撮影することにしました。

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1回のJRAブリーズアップセール用の写真:馬は重賞を2勝したダイワパッション号(牝:父フォーティナイナー)

背景にクリーム色の壁と緑色の馬房の扉が写ってしまい、背景がうるさく感じられました。そこで、2年目はアイボリー色のボードを背景に撮影を行いました。

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第2回のJRAブリーズアップセール用の写真:馬は新馬、オープンを連勝して、先週の秋華賞に出走したハロースピード号(牝:父マヤノトップガン)

ボードで背景はすっきりしましたが、アイボリー色は明るすぎたため、やや馬体が暗く見えてします傾向がありました。そこで、3年目はボードをモスグリーン色に変更しました。さらに今まで1回だった撮影回数を、入厩間もない時期と売却前の時期の2回とすることで、写真で馬体の成長が比較できるように工夫しました。

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第3回のJRAブリーズアップセール用の売却前の写真:馬は今年の2歳新馬を勝ったベストロング号(牡:父コロナドズクエスト)

ボードをモスグリーン色にしたことで、これまでの欠点は解消されたものの、撮影条件上、馬とボードの距離を近づけての撮影となるために、背景にもピントが合ってしまい、どうしても馬体を浮き上がらせることができませんでした。そこで、今年は日高山脈を背景にした撮影場所を新たに作りました。放牧柵が少し気になりますが、これまで以上に馬のよさを引き出せる場所だと思います。今後もよりよい写真撮影を目指していきたいと思います。

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今年作った新たな撮影場所。下をウレタン敷きにすることで、馬の肢元がはっきり見えます。遠くには美しい日高山脈の山々が広がる素晴らしい背景です。

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背景が遠くなり、ズームレンズを用いて被写界深度を浅くすることで、馬体を浮き上がらせることができました。馬は今年のサマーセールでJRA最高価格馬(税込み1312.5万)となったシラーの06(牝:父マイネルラヴ)。写真からも皮膚の薄い素晴らしい馬体の持ち主であることがわかります。今年のJRA育成馬期待の1頭です。

サマーセール購買のJRA育成馬が入厩しました(日高)

820日~24日の5日間にわたり開催された北海道市場サマーセールにおける購買で、今年のJRA育成馬は全て揃いました。1歳馬がファーストクロップとなるシルバーチャーム、サニングデールやネオユニバース産駒を初めとして、2歳新種牡馬ランキングでトップを争うコロナドズクエスト産駒等、47種牡馬の産駒で80頭のラインナップと例年にも増して多彩な顔ぶれとなっています。これから随時紹介していきますのでお楽しみに。

これらのサマーセール購買馬は翌週から順次入きゅうしてきました。今年は特徴検査や歩様検査等の馬体検査、血液検査、尿検査および写真撮影という通常の入きゅう時検査に加えて、日本で36年ぶりに発生した馬インフルエンザに対応して、同検査も併せて実施しましたが、結果は幸いなことに全馬陰性でした。  

また、サマーセール購買馬のうち宮崎育成牧場で育成する馬は、例年は牧場から馬運車で直接、宮崎に輸送しますが、今年は一度日高育成牧場に入きゅうして、馬インフルエンザの検査で2回の陰性を確認後に宮崎に送り出しました。

サマーセール購買馬は、この後しばらく昼夜放牧を行った後に9月下旬から順次ブレーキングを開始する予定です。

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入きゅう時の馬体検査風景:いい馬がたくさんいて今後が楽しみ。四長白が派手なニシノファンシーの06(牡:父マヤノットプガン)

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入きゅう時の馬体写真撮影:ビッキーロイヤルの06(牡:父スペシャルウィーク)はサマーセールで1260万円(税込)で購買。今後、全馬の馬体写真をJRAホームページにアップしていきます。

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入きゅう初日の放牧風景:初めての放牧です。細心の注意を払い、フェンスに向けて馬を立たせ一斉に放します。手前から順にナスノジュノーの06(牝:父シルバーチャーム)、ディアンの06(牝:父マリエンバード)、シルクマーメードの06(牝:父コロナドズクエスト)、スキードリームの06(牝:父アグネスフライト)

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放牧初日で元気に走る馬たち。新しい群れの誕生です。

北海道で1歳馬セリ開催される

79日には日本競走馬協会主催のセレクトセール、16日には日高軽種馬農業協同組合等主催の北海道セレクションセールの各1歳セリが開催されました。セリ上場馬は前者ではセリ前々日の7日から、後者では本年度から1歳馬と当歳馬のセリ日程を入れ替えたことで、セリ前日の15日からセリ会場に入きゅうしたことで、より事前に馬をチェックしやすい体制になったのではないかと思います。

JRAでは1歳馬を購買するに当たり、血統はもちろんのこと上場される全ての馬を見て、馬体や肢勢、馬の動き等を総合的に勘案して購買候補馬を選定しています。一昨年からセレクトセールではノドの内視鏡所見と四肢関節部のX線所見、北海道セレクションセールでは四肢関節部のX線所見が開示されるようになり、候補馬選定に必要な情報が新たに加わりました。

開示情報を利用する上で大切なことは所見を的確に評価し判断することです。馬は生き物であり、全く所見もない馬は珍しいくらいで、所見があっても競走には影響がないと考えられる場合もあります。せっかく気に入った馬を所見があるというだけであきらめてしまうのはもったいないことだと思います。JRAではこれまで集積してきた種々の所見と競走期パフォーマンス成績との関連について取りまとめています。また、セリで購買される方を対象として、内視鏡検査やOCD※1に関する小冊子を作成していますので、ぜひ活用していただきたいと思います。

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セリ前日に複数の目で1頭々々念入りに馬体検査を行い、購買候補馬を選定します。

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馬体検査に併せて、歩様検査で馬の動きをチェックします。

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今年から上場者であるコンサイナーのブースが登場しました。購買者のニーズに対応する環境作りがセリ市場の活性化につながるのではないでしょうか。

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レポジトリーのX線画像のイメージ写真:球節部の種子骨の形、辺縁や線状陰影の数や太さによりG0(所見なし)からG3まで4段階に評価します。この種子骨はG2のものです。

OCD※1OCDOsteoChondoritis Dissecansの略で日本語では離断性骨軟骨症といいます。OCDは成長中の長骨と関節の表面の軟骨が正常に発達せず、軟骨としてそのまま表面に残ってしまうときに発生します。

待望の屋外1600mダートトラック開場

日高地方も長い冬が終わり、春の到来を告げる幕開けとして、日高育成牧場の屋外調教施設の1600mダートトラックが326日に開場しました。日高育成牧場は4月上旬に育成馬展示会をこのコースで開催していますが、ここ数年は開場が遅れ、展示会の1週間前ほどにやっと使用可能となり、ぎりぎりの状況で展示会に間に合わせていました。しかし、今年は暖冬と路盤改修工事のおかげで、昨年と比べて約10日早いオープンとなり、十分余裕を持って展示会に望むことができます。

そのため、昨年まではブリーズアップセール用の調教ビデオ撮影を展示会当日に併せて行っていましたが、今年は展示会とは別に46日に調教ビデオ撮影日を設定することができ、皆様に1日でも早く調教の様子をご覧頂くことができると思います。現在のところ日高からは51頭のJRA育成馬を423日に阪神競馬場で開催される第3回ブリーズアップセールに上場する予定でいます。

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初めて1600mダートトラックで駈歩を行うJRA育成馬。

 育成馬展示会はJRA育成馬のお披露目の場だけでなく、1月から騎乗研修を続けていたBTC研修生のお披露目の場でもあります。3ヶ月に渡る厳しい訓練の成果で、職員と併走してスピード調教できるまで成長してくれました。

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調教ビデオ撮影風景:左はエルソルの05(牡:父タニノギムレット)、右はグロウゲンザンの05(牡:父スクワートルスクワート)

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調教ビデオ撮影風景:左はハローヘレンの05(牡:父ヘクタープロテクター)、右はハロースィーティの05(牡:父ティンバーカントリー)

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調教ビデオ撮影風景:左はレモングラスの05(牡:父アグネスタキオン)、右はレガシークラウドの05(牡:父スクワートルスクワート)

坂路調教2本(日高)

ブリーズアップセールまで残すところ1ヶ月半となり、JRA育成馬の調教も日ごとに強さを増してきています。12月中旬からスピード調教日として週2回の屋内坂路調教を行っていますが、坂路は平地に比べて馬への負荷が大きいため、最初のうちは坂路調教1本のみとし、次に屋内800m走路で駈歩1000m後に坂路調教1本と徐々にステップアップし、2月下旬からは坂路調教2本を開始しました。

3年前に坂路調教2本を行ったときは、運動強度が強くなりすぎたせいか歩様が悪くなる馬が出たため、いつ開始するかずっと頭を痛めて、なかなか決断がつかなかったのですが、もう十分に体力がついたと判断して、牡馬を対象として行うことに決めました。

1本目はハロン20秒程度の速度として、6-7頭が1団となり駆け上がる集団調教とし、馬群の中で我慢させることを覚えさせ、2本目はハロン16秒程度で2頭併走調教としました。ほとんどの馬がじっと手綱を持ったまま楽な手応えで駆け上がり、調教後の息使いも楽で、一段とパワーアップした印象です。

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坂路1本目の集団調教:左からハローヘレンの05(牡:父ヘクタープロテクター)、オグラテスコの05(牡:父チーフベアハート)、アラビックナイトの05(牡:父コロナドズクエスト)、リキアイワンダーの05(牡:父キャプテンスティーヴ)、オグリウェルズの05(牡:父デヒア)、ハロースウィーティの05(牡:父ティンバーカントリー)

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1本目の調教を終え、2本目のスタート地点に向かうJRA育成馬。

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坂路2本目の併走調教:左からフェアリーアフランの05(牡:父バブルガムフェロー)、マチカネホホエミの05(牡:父ヘクタープロテクター)

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坂路2本目の併走調教:左からレモングラスの05(牡:父アグネスタキオン)、ミスムーンライトの05(牡:父ゴールドアリュール)

V200測定(日高)

タイトルからいきなり「V200」という聞き慣れない言葉で恐縮ですが、JRA育成馬は毎年2月と4月の2回、調教中の心拍数を測定し体力評価を行っています。

心拍数は最高心拍数※1に達するまで、速度が速くなるに従い、直線的に増加することから、下図のように心拍数が200/minのときの速度(m/min)を求めることができます。この値をV200と呼び、有酸素運動能力2の指標として用いられています。V200が大きいほど心拍数が200/minのときの速度が速く、同じ速度で走るときの心拍数は低いことから有酸素運動能力が高いことになります。

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V200の算出方法:グラフの横軸に速度、縦軸に心拍数をとり、データをプロット(青点)し、回帰直線(黒線)を引きます。そこで、心拍数が200の時の速度(赤線)を求めることで、V200(赤字)が算出できます。

V200はヒトでは個体ごとの有酸素運運動能力の科学的指標として確立していますが、馬の場合は人が騎乗しての野外試験のため、速度の規定が難しいこと、馬の情動や騎乗者の体重・技術の影響を受けることから、個体ごとの有酸素運動能力の指標としては精度が高いとはいえず、現在のところ群れ全体の調教進度の判定に利用しており、育成期の適正な調教強度を検討するうえでの科学的指標の一つとして用いられています。

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ハートレイト(HR)モニターと呼ばれるこの装置は、鞍下ゼッケンと腹帯に電極を装着することで、騎乗者の腕にはめた時計に心拍数が記録されます。

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HRモニターを装着して併走調教を行う左ヤナビの05(牝:父ボストンハーバー)、右イシノエスパーの05(牝:父キングヘイロー)。最後はハロン18秒程度で調教を行いました。

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過去9年間のJRA育成馬の2月のV200の推移:牡牝ともに02年以前より、03年以降のV200が高い傾向にあることがわかります。これは近年、JRA育成馬に早い時期からより強い強度の運動を負荷していることから、2月の時点で有酸素運動能力が高くなっているものと考えられます。

最高心拍数※1:これ以上は運動強度を強くしても上昇しないと考えられている心拍数。ヒトでは220-年齢拍/min、馬では220230/minといわれている。

有酸素運動能力2:運動能力の一つの指標で、酸素を利用してエネルギーを産生する能力のことをいう。

育成馬検査(日高)

130日(火)、31日(水)の両日、JRAの本部生産育成対策部員2名が来場し育成馬検査が行われました。検査担当の2人は前日夕方に日高入りする予定でしたが、千歳空港が降雪のため閉鎖、急遽変更した羽田-帯広便まで欠航してしまい、一時は開催が危ぶまれましたが、翌朝の帯広便で到着し、何とか検査が実施できました。

育成馬検査ではJRA育成馬の調教状況や馬体をチェックします。これらを把握した上で、ブリーズアップセールの名簿作成作業が開始されます。例年この時期には肩跛行などで休養を要する馬が出るのですが、幸いなことに本年度は現在のところほぼ順調に調教を実施できています。

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11頭立ち馬と引き馬で検査を行います。この日は小雪のぱらつく天候でしたが、翌日はなんと雨中での検査となりました(本部のある検査員が来ると必ず天気が・・・)

昨年1218日(月)に喉頭蓋エントラップメント※1整復術を実施したイナリカレンの05(牝:父マイネルラブ)は順調に回復し、14日(木)から騎乗調教を再開し、現在は他馬と同程度の調教を行えるまでになっています。同馬は臨床的には異常呼吸音等の症状はなく、全馬に実施している内視鏡検査で発見することができました。この病気に罹患した有名馬にはシーキングザパールなどがいます。JRA育成馬では過去にアスカノヒミコ03年産)が発症、手術後ブリーズアップセールで売却され中央で勝利を挙げています。2_2

屋内800m走路でハロン20秒程度の併走調教を行うイナリカレンの05(右)、左はタガノブルードレスの05(牝:父コロナドズクエスト)

喉頭蓋エントラップメント※1:喉頭蓋は喉頭の入り口にある弁のようなもので、飲み込む食物が気管に入り込まないように蓋をする役割を持っています。喉頭蓋エントラップメントは喉頭腹側にある披裂喉頭蓋ヒダが喉頭蓋の背側面を包み込む疾患で、競走馬に見られる、ノドの病気の一つです。放置しておくとプアーパフォーマンスの原因となる場合があります。手術は披裂喉頭蓋ヒダを縦正中切開することにより正常な位置に整復します。

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左は術前の映像で矢印に示すように喉頭蓋が披裂喉頭蓋ヒダに包まれている。右は術後2週間の映像で喉頭蓋が露出し正常に回復している。

BTC生徒実践研修(日高)

15日よりBTC生徒の騎乗研修が始まりました。BTCでは事業の一つとして、将来、生産地で技術的中核となるべき育成調教技術者の人材養成事業を行っています。日高育成牧場では、実際に競走馬となる若馬を経験させることを目的として、JRA育成馬や当場で生産した研究馬を用いて、秋にはブレーキング実習、年明けからは騎乗研修を実施し、バックアップしています。

彼らは訓練用馬と違い、軟らかく反応の早い若馬に戸惑い、最初はなかなか上手に騎乗することはできません。時には落馬もすることもありますが、日々経験を積むことで馬とともに成長し、卒業間近の4月上旬には当場で開催されるJRA育成馬の展示会で、訓練の成果を披露してくれるはずです。

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 覆馬場で速歩を行うBTC生徒:騎乗姿勢はまだ何となくぎこちない。

 

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 屋内800mトラックにて単走で駈歩を行うBTC生徒

JRA育成馬は現在、馴致による群分けから、牡牝による群分けに変り、牡馬は2400mの駈歩を牝馬は1600mの駈歩を実施しています。例年この時期はアクセス路が凍結して屋内坂路にいけないのですが、今年は雪がなく、週に2回ほど1000mに延長された屋内坂路でF20-18程度のスピード調教を行っています。また、馬の闘争心を養うために併走調教を行っています。

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屋内坂路馬場に向かうJRA育成馬:右手に見えるのが屋内坂路馬場。1月だというのに全く雪がない。

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併走でスピード調教を行う左はミスクラブアップルの05(牡・父シンボリクリスエス)、右はプライヴェイトアイの05(牡・父アラムシャー):徐々に力強い走りができるようになってきました。

BTC:財団法人軽種馬育成調教センターの略で、浦河町にある日高育成総合施設軽種馬育成調教場の運営・管理を行うほか、育成調教技術者の養成等の事業を行っています。

育成馬にライトコントロール(日高)

明けましておめでとうございます。本年もJRA育成馬日誌よろしくお願いします。

昨年に引き続いて、今年のJRA育成馬に1220日からライトコントロールを始めました。ライトコントロール法とは、繁殖牝馬には一般的に用いられている方法で、季節繁殖性の動物※1である馬に対して、電球や蛍光灯の照明で人工的に日照時間を長くし、性腺機能の発達を促すことで、初回排卵を早め、種付や出産時期を早めることができます。

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ライトコントロールは馬房内に100ワット電球一つを点灯し、冬至の1220日頃から4月まで、タイマーで人工的に昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作るだけで、安価で手軽に行えます。

話は宮崎育成牧場に勤務していた10年近く前に遡りますが、冬季の育成は北の日高より南の宮崎で馬が仕上げやすいこと、アメリカの2歳トレーニングセール上場馬の調教はカリフォルニアやフロリダで行われていたことから、暖地育成に着目していました。その結果、冬の宮崎は日高と比べて日照時間は長く、気温は暖かく、性ホルモンの分泌時期が早く濃度が高いことがわかりました。性ホルモンは骨や筋肉の発育に関与しており、馬の成長が早くなっているのではないかと考えました。

そこで、昨年度日高の育成馬に光の刺激であるライトコントロールを実施したところ、牝馬の性ホルモンの分泌時期が早く、濃度が高くなること、牡馬の筋肉量の増加が多い可能性があること、冬毛の脱毛が促進されることがわかりました。冬季に気候条件の悪い日高で、早い時期に強いトレーニングが必要な育成馬には、ライトコントロールという飼養管理方法が有用ではないかと思います。今年も引き続き研究を実施しております。これまでの詳しい成績はこちらをご覧下さい

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雌の血中プロジェステロン(黄体ホルモン)はライトコントロール群が明らかに濃度が高く、早期に排卵していることがわかります。

12日には今年で97回目を迎えた新年恒例の「騎馬参拝」が行われました。人馬の無病息災を祈願し、日高育成牧場から浦河神社まで往復20kmの道のりを馬に騎乗して参拝します。浦河神社の101段の石段を駆け登る「騎馬参拝」は大勢の観客が詰めかける浦河の正月の風物詩となっています。3kiba1

浦河神社の参拝を終え、石段を降りる乗馬:テレビや新聞の報道では石段を駆け登るシーンが使われますが、実は降りるほうが数段恐いのです。4kiba2

公道を隊列を組んで進む乗馬を車が追い越しているところ:日高育成牧場から浦河神社の往復は公道を通るので細心の注意が必要。今年は雪がなくて大助かり。

季節繁殖性の動物※1:年間を通して排卵して1年中出産が可能なヒトと違い、馬は冬季は卵巣が活動を休止し、春になり日照時間が長くなると排卵が始まり交配が可能となります。通常馬の初回排卵は4月頃始まりますが、ライトコントロール法により、2-3月に初回排卵を誘発することが可能となります。

ゲート練習(日高)

日高育成牧場のゲート馴致は宮崎育成牧場と同様、ブレーキング時にドライビングで通過することから開始し、騎乗後は広いゲートから徐々に狭いゲートへと毎日通過を繰り返すことで慣らしていきます。最終的には扉を閉めてゲート内で駐立後、常歩で発進するところまで教えています。一つだけ違うところは暖か~い宮崎は練習用ゲートが屋外にありますが、寒~い日高は屋内にあることです。

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毎日、覆馬場でウォーミングアップ後にゲートを通過してから主運動を行っています。先頭はレモングラスの05(牡:父アグネスタキオン)

調教は事前にウォーキングマシンで運動後、馬装して覆馬場に集合します。そこで速歩のウォーミングアップと歩様検査を行い、馬に異常がないことを確認してから、主運動とクーリングダウンを行い、約50分間の騎乗運動が終了します。

主運動は現在、第1・2※1は屋内800m走路で駈歩2400mまたは延長された坂路1本、第34※1は屋内800m走路でそれぞれ駈歩1600mと1200mの調教を行っています。第12群の馬は単走だけでなく、闘争心を養うために徐々にスピードを増して併走調教も行っています。

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真剣な眼差しで歩様をチェックする獣医知識を持った調教責任者。初期の段階で異常を発見して対応することが大切です。

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併走調教を行う左オグラテスコの05(牡:父チーフベアハート)、右エイシンベーリングの05(牡:父カリズマティック)。徐々にスピードを上げた中で力強い走りができるようになってきました。

 1211日(月)にBTC利用者を対象とした意見交換会を開催しました。4回目となる今年は「育成馬の肢蹄管理」をテーマとして、肢軸検査2を参考にした装削蹄等、日高育成牧場の方針を話題提供した後で会場の皆さんと意見交換を行いました。育成場での調教の重要性が増す中、装蹄技術向上へのニーズは高まっています。そのためには装削蹄を装蹄師に任せきりにするのではなく、育成場の責任者や獣医師が連携してディスカッションしていく必要性を痛感しました。

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BTC利用者、装蹄師、獣医師等50人を越える参加者で、熱気あふれる意見交換が行われました。

14※1:日高育成牧場では馬の入厩日、性別、馬格、疾病、生年月日等を参考にして、ブレーキングを開始した時期で4群に分けています。

肢軸検査2:レントゲンで蹄と第1・2指(趾)骨の角度を確認する検査。3骨の肢軸が一致するように装削蹄を行います。

屋内坂路馬場リニューアルオープン(日高)

700mから1000mに延長工事を行っていた屋内坂路馬場が完成し、121日にリニューアルオープンしました。新しい馬場の感触を確かめに早速JRA育成馬を連れて行ってきました。

700mの旧スタート地点から手前側に300m延長されたコースは、新スタート地点から川に沿って緩やかな右カーブを描きながら旧コースに接続しています。馬場材はウッドチップで非常にクッション性がよく走りやすく、スタート地点から約350mは平坦で、その後200m2.5%、300m3.5%、50m5.5%の傾斜で残りがゴール前の踊り場となっています。

スタート地点は屋内直線馬場と同様な作りとなり、混雑時でもゆったりと旋回できるように改善されました。右カーブでゴール地点を視認できないため、スタート地点にはモニターが設置され、途中の状況を確認できるようになっています。屋内のため見た目はコーナーがきつそうな印象を受けましたが、騎乗した感想ではほとんど気にならないということでした。

BTC利用者が待ち望んでいた馬場の完成です。栗東や美浦トレセンでは坂路延長後に馬の故障が増えた実例がありオーバーワークへの注意が必要ですが、上手に利用することで強い馬づくりの進展が期待できる素晴しい施設の完成だと思います。

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延長された屋内坂路馬場:左手の登り口から右端までが新設された部分で、緩やかな右カーブで旧コースと接続しています。

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スタート地点:常歩でゆったり旋回しながら出発を待ちます。中央やや右にモニターと赤字でタイム計測番号が表示されています。先頭からエイシンベーリングの05(牡・父カリズマティック)、ミスムーンライトの05(牡・父ゴールドアリュール)、レモングラスの05(牡・父アグネスタキオン)、チアリーダーの05(牡・父スキャターザゴールド)

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集団で屋内坂路を駈け上がってくるJRA育成馬:先頭はミスクラブアップルの05(牡・父シンボリクリスエス)、ウッドチッブコースはクッション性がよく走りやすいコースとなっています。

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調教を終えクーリングダウン中のJRA育成馬:雪景色の日高山脈と青く澄んだ空がとても美しい。

グラス坂路で調教を行っています(日高)

日高育成牧場の「日高育成総合施設軽種馬育成調教場」には様々な調教施設がありますが、その中でも全長約2400mのグラス坂路馬場は当場自慢の馬場の一つで、景観が素晴しく施設見学のコースにも組み込まれています。JRA育成馬の第1※111月からこのコースで調教を行っています。最大勾配約4%の自然の丘陵を利用した坂路は若馬には結構タフで、調教中に鹿、狐、雉等の野生動物に遭遇することもあり、常に神経を集中させておく必要があります。また、アクセス路は砂利敷きの坂道で、最初のうちは砂利が蹄を刺激して馬は歩きづらそうでしたが、何日か経つとスムーズに歩けるようになってきました。霜が降りて馬場状態が悪化する前までの短い期間の利用ですが、屋内の恵まれた施設だけでなく、様々な環境を経験することは人馬にプラスになると期待しています。

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スタートから約600m地点で4%の勾配を上ってきた馬群が見えてきたところ。遠くには太平洋が望めます。

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スタート地点から1000mを過ぎたところ。柏の木はすでに葉を落としています。

生産地は10月を過ぎると年明けから続く、出産・種付け・離乳2・せりという多忙なシーズンが1段落し、次の出産が始まるまで、生産者や育成者等を対象とした講習会が盛んになる充電期間となります。

1030日には美浦の勢司調教師と栗東の角居調教師を迎えて、人材養成の考え方や馬のメンタルトレーニング等、強い馬をつくるために両調教師が日頃考えて実践していることについての講演が開催され、約400名の来場者と熱気あふれる意見交換が行われました。競走馬になるためにはたくさんの人の手が入ります。馬の取扱い意識が統一されることは大切なことで、今回の意見交換会は意義のある催しであったと思います。

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講演会風景:直後にオーストラリアのメルボルンカップでデルタブルースとポップロックがワンツーフィニッシュしたことで、よりインパクトの強い講演会となりました。

111日には当場主催で日高・胆振地区の獣医師を対象として「馬の上気道疾患と内視鏡検査」の講習会を開催しました。上気道疾患はせりにおける情報開示等で、生産者や購買者の関心が高まっているところでもあり、少しでも参考になれば幸いです。なお、育成期の上気道所見と競走期パフォーマンスの関連について興味のある方はJRA育成研究のデータがありますのでご覧下さい。

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馬がトレッドミル3運動中に内視鏡検査を行っているところ。上気道疾患を診断する際に馬が運動中の状態を観察することが必要な場合があります。

1※1、:日高育成牧場では馬の入厩日、性別、馬格、疾病、生年月日等を参考にして、4群に分けてブレーキングを開始しています。第1群は95日から開始しました。

離乳2:生後約6ヶ月で子馬が親離れすること。

トレッドミル3:馬用のルームランナー、人が騎乗せず馬を運動することができます。

浦河で当歳馬の品評会が開催されました(日高)

1027日(金)に浦河町軽種馬生産振興会青年部の主催による当歳馬の品評会が開催されました。品評会は準備が大変なことや地区の意識が変わったこと等で、近年開催数が減っていましたが、浦河地区では青年部の努力で復活しました。当日は10頭の当歳馬が出陳され、大勢の人の前で立ち姿や歩きが披露されました。当歳馬の馴致等、事前の準備は大変だったと思いますが、青年部が活性化しお互いに刺激しあうことは必ず地区の振興につながっていくことと思います。

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品評会で見事に最優秀賞を獲得した(有)酒井牧場から出陳されたペリウィンクルの18(父:マヤノトップガン)。馬の手入れ、チフニーを付けての展示や馬体の作り。さらに馬の引きかたや馬自身の歩き等いずれも高評価でした。

日高育成牧場では馬の成長を把握するために、月に1度、測尺(そくしゃく)を行っています。一般的には、き甲の頂点から地面までの垂直距離を測る体高、き甲の頂点に近い部位を通って、胸郭のまわりを測る胸囲、左前肢の管中央の周囲を測る管囲の3部位からなります。測尺は簡単にできるため、昔から馬の大きさを知る指標として用いられています。

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測尺部位:赤線は体高でき甲から地面までの距離、白線は胸囲で胸郭の周囲長、青線は管囲で管部の周囲長

さらに月に2度、体重とボディコンディションスコア(BCS※1を測っています。体重の推移を知り、馬の脂肪のつき方をみることで、成長や調教強度に応じた飼料給与量が適切であるか判断し、馬の適正な発育に努めています。

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ボディコンディションスコア(BCS※1:外貌からみた馬体の脂肪のつき方を1から9までで数値化したもの。育成馬の標準は概ねスコア5で、太るほど数値が高くなり、痩せるほど数値は低くなります。日高育成牧場では肋骨部、背中央部、尾部の3部位を測定しています。

また、一昨年からエコー機器を用いて馬の臀部の脂肪厚を測定しています。この値から馬の体脂肪率や除脂肪体重を推測することができます。冬季間の牝馬は体重が増えても脂肪として蓄積されるだけで、なかなか筋肉量が増加しにくい傾向にあり、図らずしも「冬場の牝馬は仕上がりにくい」という厩舎格言を裏付けた結果となりました。

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エコー機器を用いて臀部の脂肪厚を測定しているところ。馬の臀部にプローブを当てるだけで、簡単に測定することができます。

ブレーキングの様子がNHKニュースで放映されました(日高)

920日(水)から第2※1のブレーキングを開始しました。これに併せてNHK室蘭放送局の太田記者が取材に来ました。やらせなしのぶっつけ本番でしたが、初めてのラウンドペンでのランジングにもかかわらず、どの馬も人の指示に従いスムーズにこなしてくれました。また、第1※1のドライビングや馬房での騎乗の様子も併せて撮影しました。太田記者は人が騎乗できるまでに多くの過程があることや馬が素直に従っている姿に感心していました。この模様は当日と翌日に北海道内で放映されました。130秒という短い枠の中で全てを紹介することはできませんでしたが、競馬に詳しい方でも競走馬として出走するまでのことをご存知の方は多くないと思います。これからも機会を捉えて積極的に発信していきたいと思います。

Img_1983_1 ラウンドペンでのランジングを撮影する太田記者。ブレーキング初日で上からの撮影にも動じず、エイシンベーリングの05(牡・父カリズマティック)はとても素直にランジングを行えました。

ドライビングとは馬の後ろで、人が2本の調馬索(ロングレーン)を用いて馬を操作することで、馬の背に騎乗することなく口向きを作るために行います。口向きは車で例えるとハンドルとブレーキに該当し、これ無くしては安全に騎乗することはできません。これまでのブレーキングの過程は安全にドライビングに移行するためのものといっても言い過ぎではないほど重要なステップです。

061024pic2 コーンを用いてドライビングでスラロームを行うショッキングピンクの05(牝・父スターオブコジーン)また、ドライビング中でゲートを通過しておくと、騎乗してからのゲート馴致が容易になります。

061024pic3ドライビングでゲートを通過するスイートイブンの05(牝・父ティンバーカントリー

1群の馬たちは順調にブレーキングを消化し、104日(水)から屋内800m走路での騎乗調教を開始しました。誘導馬に先導され、まだフラフラした足取りですが着実に競走馬としてのステップを歩み始めています。

061024pic4 誘導馬に先導され800m走路を運動するJRA育成馬:右からミスクラブアップルの05牡・父シンボリクリスエス)、リキワイワンダーの05(牡・父キャプテンスティーヴ)、メンデスキャンドルの05(牡・父フォーティナイナー)、誘導馬、ヒットザボードの05(牡・父コロナドズクエスト)、レガシークラウドの05(牡・父スクワートルスクワート

1※1、2※1:日高育成牧場では馬の入厩日、性別、馬格、疾病、生年月日等を参考にして、4群に分けてブレーキングを開始しています。第1群は95日から開始していました。

ブレーキング(騎乗馴致)を始める前に(日高)

ブレ-キングとは馬に鞍をつけて人が騎乗できるように教育することです。馬にとってみれば、わけのわからない馬具を付けられ、胸部を締め付けられた上に背中に跨られるわけで不安で一杯なはずです。しかし、この過程を経なければどんなに走る能力があっても競走馬になることはできません。馬が納得して自ら受け入れ、心に傷跡を残さないようにすることが肝心です。

馬は自然界では集団で生活する動物であり、必ず群れの中に順位が形成され強いリーダーのもと群れは安定します。対人関係も同様で、人が馬のリーダーになることで馬は人と一緒にいることに安心して信頼するようになります。馬に接する基本は褒めることですが、特に牡馬は自分がボスと勘違いしやすい傾向があり、ときには毅然とした態度で序列を明確にすることも必要です。ただし、馬を怖がって懲戒することは百害あって一利なしです。

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パッティング:タオルを用いて全身をパタパタと叩きますが、馬はじっとしています。

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ストラップ馴致:ベルトのようなストラップを用いて、馬の胸部を締め付けることに慣らします。

日高育成牧場では円滑で安全にブレーキングを進めるために、事前に様々な準備を行っています。タオルを用いたパッティングもその一つです。タオルで全身を隈なく触り、最終的にはパタパタと叩きます。最初は不安で体を硬くさせていた馬が、慣れると全く動じなくなります。パッティングは馬が人を受け入れてくれたかのバロメーターになります。特に敏感な部分である頭頂部、胸下、飛節の上は念入りに実施します。

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日々の馬体チェック:馬をつなぐことなく肢元を触っても馬はじっとしています。

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ウォーキングマシンの馴致:放牧地への行き帰りにウォーキングマシンを通します。

サマーセールが終了し、JRA育成馬が入きゅうしてきました。

8月21日から25日まで、新ひだか町の北海道市場でサマーセールが開催されました。1,122頭のサラブレッド1歳馬が上場された大規模なセールですが、売却率は5年ぶりに30%を越え、売却総額も前年を1.3億円ほど上回る、約18.2億円でした。せりの会場では馬を見に来場しているバイヤー(購買者)の数が多く感じられ、実際のせりでも例年以上のせり合いで、目当ての馬を購入することは簡単ではありません。数字だけでなく景気が回復しつつあることが感じられた市場となりました。

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活発なせりあいとなったサマーセール

それでも新種牡馬のアラムシャーやコロナドズクエストの産駒をはじめとして、素質あふれる若馬を購入できたと思います。最高価格馬は1950万円(税抜)で落札した母ハローヘレンの牡馬で、姉に今年の2歳戦で2連勝と活躍しているJRA育成馬ハロースピードがいます。父はマヤノトップガンからヘクタープロテクターに変わっていますが、姉に負けず劣らず伸びのある好馬体をしており、非常に楽しみな1頭です。

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最高価格馬のハローヘレンの05

サマーセールで購入した馬の日高育成牧場への入きゅうは8月30日から始まり、9月1日には今年のラインナップが揃いました。入きゅう時に血液検査、特徴照合や歩様検査等の馬体検査および写真撮影を行いましたが、ほとんどの馬がおとなしく躾られており、牧場やコンサイナーのしっかりした教育の成果が伺えました。馬体の写真撮影には、よりよい映像を得ることを目的として、背景ボードに光線が吸収されにくいモスグリーンを採用したところ、昨年以上に馬体がはっきり見えるようになりました。
 また、レントゲンによる蹄の撮影を行ないました。これは肢軸(しじく)検査と呼ばれるもので、これを参考に今まで以上によい装削蹄につなげられればと思っています。「蹄なくして馬なし」といわれるほど、蹄の状態を把握することは重要です。

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入きゅう時の綿密な馬体検査
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蹄の状態をレントゲン像で確認します

日高育成牧場の育成馬日誌をお届けします!

今回より「JRA育成馬日誌(日高)」をお届けすることになりました。JRA育成馬の近況や調教過程、日高育成牧場の出来事等をお届けしますのでよろしくお願いします。

まずはちょっとうれしいニュースから。日高育成牧場では馬に食べさせる乾草を自給しています。牧草収穫には刈り取りからロールまで連続して3、4日間の晴天が必要で、途中で雨に降られるとパーになってしまいます。今年の夏は天候不順で、長期予報で晴れマークが続いていても急に雨マークに変わったり、晴れマークにもかかわらず雨が降ったりと大気の状態が安定せず、なかなか牧草収穫が捗りませんでした。7月末からやっと夏らしい天候となり、なんとか1番牧草の収穫を終了してほっとしているところです。

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テッターをかけて牧草を乾かします
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ロールベイラーで牧草をロール状にします

JRAでは北は北海道から南は九州まで全国各地で開催される1歳馬市場でJRA育成馬を購入しています。現在、日高育成牧場にはセレクトセールとセレクションセールで購入した17頭のサラブレッドが入きゅうしており、2頭から5頭のグループに分かれて、午後2時から翌朝8時まで昼夜放牧を行っています。暑さとアブのためしばらくの間は快適な放牧環境とはいえませんが、放牧地でおいしい青草を腹一杯食べて9月上旬から始まる騎乗馴致まで英気を養ってもらいたいと思います。

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JRA育成馬の放牧風景

さて、8月21日から5日間の日程で約1300頭の馬が上場される国内最大規模のサマーセールが始まります(注1)。育成馬の仕入れはその後の育成に勝るとも劣らぬほど大切であり全頭をチェックしていきますが、せり期間中だけでは時間が足りず、14日から1週間かけて主要コンサイナー(注2)を中心に事前の検査を実施しています。上場馬の中から磨けば光るダイヤモンドの原石を見つけ出すことは大きな楽しみでもあります。

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真剣な眼差しでの馬体検査

(注1)この文書は8月15日に作成しております
(注2)コンサイナー:せりに上場される馬を飼養管理する専門業者