当歳馬品評会&強い馬づくりのための生産育成技術講座(生産)

 だんだん日も短くなり、冬の訪れを感じる今日この頃ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?当歳馬たちは現在、昼夜放牧を継続していますが、昨年同様厳冬期には「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン群」の2群に分けて管理し、データを集積していく予定です(写真1)。

さて、今回のテーマは、先日行なわれました当歳馬品評会のお話と、近々開催される「強い馬づくりのための生産育成技術講座」のご案内です。

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写真1 昼夜放牧している当歳馬たち

当歳馬品評会

 これは浦河町軽種馬生産振興会青年部の主催で、一時期開催されていなかったそうですが昨年より再開されました。今年はJRA日高育成牧場を含む7つの牧場が参加し、各牧場を巡回する方式で行なわれました(写真2)。参加者全員の投票制で「最優秀賞」「優秀賞1席」「優秀賞2席」が決められ、今年の「最優秀賞」は宮内牧場生産のソフィアルージュの24(牡、父エンパイアメーカー)が受賞しました(写真3)。また、「優秀賞1席」には田中スタッド生産のママラヴズマンボの2012(牝、父ホワイトマズル)、「優秀賞2席」には高村牧場生産のチェリーエンジェルの2012(牡、父エンパイアメーカー)が選ばれました(写真4)。

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写真2 品評会の様子

JRA日高育成牧場にて)

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写真3 最優秀賞受賞馬

(宮内牧場 ソフィアルージュの24 牡 父エンパイアメーカー

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写真4 受賞者の皆さん

 この当歳馬品評会の趣旨は、「これに向けて馬を仕上げていこう」というよりもむしろ日頃の管理のまま展示し、お互いに当歳馬の飼養管理について意見を交換し合い、勉強していこうというものです。昨年はお互い遠慮がちでしたが、再開2年目となる今年はだいぶ打ち解け、「飼料は何をどのくらい与えているか?」「昼夜放牧はいつまで継続する?」などといった基本的なことから、「この時期多発する皮膚病についてどう対処しているか?」「今年ローソニア感染症(※)にかかった子馬がいたが、こうやって対処した」など専門的な会話まで意見を交換することができ、非常に有意義なイベントとなりました。※ローソニア感染症につきましては、前回の当ブログを参照。

 昼食時には学会などで行なわれる「ランチョンセミナー」を模して、JRA日高育成牧場で現在取り組んでいる「研究紹介」を行ないました。今回は昨年の「競走馬に関する調査研究発表会」で日高育成牧場から発表した演題のうち、「幼駒における近位種子骨骨折の発症に関する調査」について紹介し、ここでも活発な意見交換が行なわれました。夜は懇親会が行なわれ、酒の勢いも手伝って(?)生産者の皆さんの馬づくりにかける熱い気持ちが伝わってきました。我々の生産・育成研究の目的の一つが「生産地の様々な問題点を解決するため」ですが、このような交流を通して自分たちの牧場で生産しているだけでは気づかない、様々な問題を認識することができました。

強い馬づくりのための生産育成技術講座

 JRA日高育成牧場では、毎年11~12月に「強い馬づくりのための生産育成技術講座」という講習会を行なっています。これは、生産牧場関係者向けに最新のトピックを紹介するものです。今年のテーマは「レポジトリー」「妊娠期の検査」「厳冬期の昼夜放牧」についてです。「レポジトリー」については、今まで獣医師向けにはたくさん講習会が開かれてきましたが、今回は生産牧場関係者の視点に立った説明をいたします。今までJRA育成馬で蓄積してきたデータをご披露し、大丈夫な所見、注意しなければならない所見について、解説していきたいと思います。「妊娠馬の検査」については、現在は獣医師による妊娠鑑定が種付け後5~7週を最後に行われ、その後は分娩まで何もしないという流れが一般的でしたが、近年胎盤炎など流産の原因となる疾患が血液中のホルモンの数値や超音波検査による胎盤の厚さの計測などで予測できるようになっています。それらについて解説いたします。最後に「厳冬期の昼夜放牧」についてですが、今年7月の「生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウム講演抄録」で紹介したJRAホームブレッドを「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン群」の2群に分けて行なった調査の2年分のデータを合わせて発表したいと思います。多数の皆様のご来場を心よりお待ちいたしております。

詳細は下記のとおりです。

強い馬づくりのための生産育成技術講座2012

JRA日高育成牧場では、競走馬の資質向上や生産育成関係者への情報・技術普及を目的として「強い馬づくりのための生産育成技術講座2012」を開催いたします。
入場無料で一般の方もご参加いただけます。皆様のご来場をお待ちしております。

開催日時および場所;

①平成24117日(水) 18:30-20:30

北海道浦河郡浦河町 基幹集落センター堺町会館

②平成24118日(木) 18:30-20:30

北海道沙流郡日高町 門別総合町民センター

研修対象;北海道地区軽種馬生産育成関係者

講演内容

・いまさら聞けないレポジトリー。その基本について知ろう!

中井健司(JRA日高育成牧場業務課)

・お腹の胎子は大丈夫?妊娠期の検査について知ろう!

南保泰雄(JRA日高育成牧場生産育成研究室)

・昼夜放牧のススメ。厳冬期の昼夜放牧は有効か?

遠藤祥郎(JRA日高育成牧場業務課)

司会進行  佐藤文夫(JRA日高育成牧場生産育成研究室)

              日高軽種馬生産振興会青年部連合会

【共 催】

 日高軽種馬生産振興会青年部連合会

【後援】

 日高軽種馬農業協同組合

【お問い合わせ・連絡先】

 JRA日高育成牧場 生産育成研究室

 TEL0146-28-2084(土・日・祝除く9:0017:00

※講演内容につきましては予告なく変更する場合がございますので予めご了承下さい。

【腹帯馴致】について(日高)

 今夏の東日本は、記録的な残暑に見舞われました。北海道浦河も、9月に入っても30℃を超すなど、9月中旬までの平均気温は観測史上最高で、半世紀に1度ともいわれる残暑となりました。この残暑厳しい中、サマーセールで購買した40頭が、829日と30日の両日に分かれて入厩しました。9月上旬にはセレクトおよびセレクションセール購買馬を中心に22頭の牡馬を1群として、また、10月初旬からは21頭牝馬を2群として、騎乗馴致を開始しました(写真1)。日高育成牧場は、来年のブリーズアップセールに向けて活気づいてきました。

 騎乗馴致の開始に伴い、BTC育成調教技術者養成研修生の騎乗馴致実習も始まりました。研修生達は、3週間かけて、ランジング、ローラーの装着、ドライビング、そして騎乗に至るまでの過程を学びます。実習前には、馬は人を乗せるのが当たり前だと考えていた研修生達が、実習を通して、騎乗馴致の重要さを感じ取っていく姿は、非常に印象的に映ります。

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写真1.安全に騎乗するために、騎乗前にはドライビングを実施し、扶助を理解させます。写真はパディントンの11(牡、父:バゴ)。

さて、今回は騎乗馴致について触れたいと思います。騎乗馴致は「ブレーキング」とも呼ばれ、草食動物としての“馬”らしい行動を壊し(Break)、新たにヒトとの約束事を構築することを意味します。1群の牡馬の多くは7月下旬に入厩しており、約1.5ヶ月の昼夜放牧によって、心身もとに“馬”らしい状態になっていたために、まさに「ブレーキング」という言葉がふさわしく感じられます。騎乗馴致は、馬体のパッティング、腹帯馴致、ランジング、ドライビングを経て、ペンでの騎乗までを3週間程度かけて、段階的に進めていきます。

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写真2.「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

動画1.「ストラップ」による腹帯の馴致方法。

しかしながら、どんなに細心の注意を払って、騎乗馴致を進めていても、危険な場面に遭遇することは少なくありません。その危険な場面とは、初めて「腹帯」および「騎乗」を実施するときです。なぜならば、これらは、騎乗馴致を開始する前には、決して経験することのない刺激となるからです。これらのうち、騎乗は、「装鞍」や「横乗り」などによって、段階的に慣らしていくことが可能となります。一方、「腹帯」は「装着するか装着しないか」、つまり「全か無」の刺激しか与えることができないために、騎乗馴致時において、ひとつの山場となっています。そのために、ローラー装着前の腹帯馴致として、JRA育成牧場では、「ストラップ」による馴致方法を導入しています(写真2)。この「ストラップ」は、革ベルトとリングというシンプルな構造のため、解除が容易であり、使用方法も簡便です。さらに、馬に対して、段階的に圧迫に慣らすことが可能であるために、非常に推奨できる方法であります(動画1)。「ストラップ」による腹帯馴致方法を導入してから、ローラー装着時に「カブリ(Bucking)」(動画)と呼ばれる、四肢で跳ね上がる反応を見せる馬は減るようになりました。この「カブリ」は、大きな呼吸によって胸郭が膨らみ、ローラーによる経験したことのない圧迫を強く感じて驚き、それを振り解こうとする必然的な反応であります。馬が「カブリ」を見せた場合には、必ず、ムチなどの扶助を使って馬を前に出し、馴致者の安全を確保するとともに、扶助に従って、前に出ることによって、問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は冷静に明確な指示を出すことが要求されます。ローラー装着後は、ローラーを装着したまま馬房に収容し、1時間程度様子を見てはずします。しかし、ローラーに対する反応は個体差がありますので、過敏に反応する馬に対しては、馴致終了後も、ローラーを装着したままウォーキングマシンで運動させたり、あるいは放牧するなど、ローラーの圧迫に慣らすことが有効です。

動画2.ローラー装着時の「カブリ」の様子。コロナガールの11(牝、父:デュランダル)。

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写真3.ローラーに過敏に反応する馬に対しては、ローラーを装着したまま放牧し、ローラーの圧迫に慣らすこともあります。コロナガールの11(牝、父:デュランダル)。

 馴致の進行程度は、個体差があるので、「急がば回れ」の諺のとおり、個々の馬に合わせて、段階的に進めていきたいと思っています。次回は、走路での走行している姿をお伝えするとともに、初雪についてもご報告できるかもしれません。

離乳後に注意しなくてはならない病気(生産)

今年は異常に暑く、ようやく秋の訪れを感じる涼しさになってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 日高育成牧場では獣医・畜産学系の学部に在学中の大学生を対象に、大学の夏休み期間中「サマースクール」を実施しました(写真1)。これは、馬に興味がある学生に対して、牧場の作業や講義・実習を通して広く馬産業に携わる人材を養成する目的で実施しているものです。毎年6月頃JRAのホームページ上で募集しますので、興味のある学生の皆さんは是非来年応募していただきたいと思います。

さて、今回のテーマは、ちょうど今頃行なわれる離乳のお話です。離乳自体につきましては、昨年の当ブログでご紹介しておりますので、今回は離乳後に注意しなくてはならない病気について、当歳馬、繁殖牝馬両方の面からお話したいと思います。

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写真1 サマースクールの様子

当歳馬

 当歳馬は離乳することで母乳からの栄養供給がなくなるため、離乳前から十分に濃厚飼料に馴らしておくなど、離乳後スムーズに十分な栄養補給ができるようにするための準備が大切です。離乳後の時期の当歳馬に起こりやすい病気で、特に最近問題になっているのは「ローソニア感染症」です。この病気はLawsonia intracellularis という病原体が感染することで発症します。元々豚の感染症として知られていたものが、近年馬にも感染することがわかり、問題となっています。日本でも胆振地区の一部では集団発生が見られたり、ここ浦河町でも発生が確認されるなど、注意が必要です。

 発症すると、発熱、元気消失、食欲低下など他の一般的な感染症と同様な症状のほか、四肢の浮腫や下痢が認められるのが特徴です(写真2、3)。診断は、血液検査で低蛋白血症が認められるほか、腹部超音波検査で小腸壁の肥厚が確認できることもあります。確定診断には、血清中の抗体検査あるいは糞便中のPCR検査という専門機関での特殊な検査が必要です。治療としてはリファンピシン、クロラムフェニコール、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリンなどの抗生物質を投与します。

 死亡率は決して高くありませんが、下痢が長期に渡る結果、腸管からの栄養摂取が上手く行かなくなり、成長不良となってしまいます。ワクチンもまだ開発されておらず、絶対的な予防法は存在しないため、離乳時にかかる子馬のストレスをなるべく軽減し、子馬の健康状態を良好に保つことが重要です。

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写真2 ローソニア罹患馬。両後肢の浮腫が認められる。

(出典 Equine vet. Educ. (2009) 21 (8) 415-419

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写真3 ローソニア罹患馬の下痢

(出典 Equine vet. Educ. (2009) 21 (8) 415-419

繁殖牝馬

 一方、母馬は離乳することで今まで子馬が飲んでいた乳が溜まることになるため、「乳房炎」という病気になることがあります。これは乳腺が細菌感染することが原因で発症します。離乳直後に起こるイメージですが、実は離乳した4~8週間後に最も発症が多いと言われています。

症状としては、乳房が著しく腫れ(写真4)、触ると痛みを示し、乳房が腫脹している方の後肢の跛行を示すこともあります。原因菌は主にStreptococcus zooepidemicus などのグラム陽性菌と呼ばれる種類の細菌ですので、ペニシリン(マイシリン)やセファロチン(コアキシン)などの一般的な抗生物質がよく効きます。早期発見・早期治療できれば予後は良いので、離乳後は母馬の乳房をこまめに観察するように心がけましょう。

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写真4 乳房炎(右の乳房が感染)

 離乳はこのような疾病の発症を始め、子馬、母馬両方に負担がかかる、デリケートなイベントです。皆様の愛馬がこの時期を上手く乗り切り、将来健全な競走馬になれるよう心から願っています。

7月セールの購買馬が入厩(日高)

本年売却したJRA育成馬達は6月中旬から開始されたメイクデビューに続々と出走しています。本年売却したJRA育成馬は、910日現在、6頭が勝ち上がり、その内メイクデビュー勝ちが4頭(写真1)となっています。秋競馬に向けて、さらに頑張ってほしいと願っています。

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写真1.左:3回東京競馬4日目第5メイクデビュー(芝:1800m)に優勝したトーセンレディ右:2回中京競馬5日目 第5メイクデビュー(芝:1400m)に優勝したサウンドリアーナ

さて、7月に行われたセレクトセール、北海道セレクションセール、および八戸市場の各1歳せりで購買した10頭(セレクト1頭、セレクション8頭、八戸1頭)が日高育成牧場に入厩しました(写真2。また、購買馬の入厩に合わせて、日高育成牧場で生産したJRAホームブレッドの牡3頭も繁殖厩舎から育成厩舎へと移動しました。

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写真2.入厩時には購買馬と生産者やコンサイナーの方々との絆の深さを再認識することができます。

近年、生産者あるいはコンサイナーの方々からの引き渡しの際に感じることは、“セリ馴致”と呼ばれるコンサイニング技術の向上に伴い、ヒトとの良好な関係が構築されている馬が大半を占めているということです。そのために、購買後も昼夜放牧を経て、ブレーキング(騎乗馴致)へとスムーズに移行することが可能となっている印象を受けます。輸送していただいた生産者あるいはコンサイナーの方々の立会いのもと、購買馬の個体識別、馬体検査およびアナボリックステロイド(AS)検査のための尿検体の採取を行った後に、生産者あるいはコンサイナーの方々からの引き渡しが完了します。その後、落ち着く間もなく、5頭以下のグループに分けて放牧します。セリに向けた舎飼中心の個体管理が行われていた馬達は、自身が馬であることを再確認するかのように放牧地内を疾走します(写真3左)

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写真3セリに向けた舎飼中心の個体管理が行われていた馬達は、自身が馬であることを再確認するかのように放牧地内を疾走し(左)、馬らしさ(右)を表現します。

放牧直後の牡の群れにおいては、群れの中での順位づけのための争いが繰り広げられるために(写真3右)、他馬に蹴られたり、その他のアクシデントによるケガも少なくはありません。このようなリスクを承知の上で、翌日からは昼夜放牧を実施します。その理由は、ブレーキングが始まるまでの間に成長を待つとともに、草食動物として “馬”らしく行動させることが、非常に重要であると考えているからです。競走馬という“経済動物”を取り扱う上で忘れてはならないことは、馬は草食動物であり、人を乗せるためにこの世に誕生したのではないということを理解することなのかもしれません。例えれば、馬の主食は燕麦ではなく“草”であり、馬房にいることが自然ではなく、放牧地にいることが自然であるということです。欧州では調教後に、ハミを装着したまま、放牧地の草を食べさせることも珍しくはありません(写真4。青草だけを食べさせる目的であれば、刈り取った青草を馬房で食べさせれば良いようにも思われます。しかし、地面に生えている草を摘んで食する行動そのものによって、草食動物としての本能が惹起され、メンタル面を安定させる効果を期待しているようにも思われます。つまり、欧州においては、馬は草食動物であるということを常に念頭に置いて、馬と接しているように感じられます。この意識を持つことは、ホースマンにとって重要であるように思われます。

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写真4欧州では草食動物としてナチュラルな生理状態を維持するために、調教後にピッキングを行うことも珍しくありません。

8月末には我が国で最大規模のセリとなるHBAサマーセールの購買馬が入厩する予定です。馬の購買に際して、JRAでは発育の状態が良好で、大きな損徴や疾病がなく、アスリートとして適切な動きをする馬を選別するようにしています。上場されるすべての馬が候補馬であるために、セリ前にコンサイナー牧場を中心に6日間の日程で事前検査を実施しています。検査にあたっては、競走馬の臨床経験が豊富な獣医・装蹄職員を含めた複数名で実施し(写真5)、意見交換を行いながら候補馬を選定します。この事前検査を通じても、前述いたしましたコンサイニング技術の向上を感じることができます。

サマーセールの購買馬が入厩すると、9月上旬からブレーキングを開始します。次号ではブレーキングの様子をお伝えしたいと思います。

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写真5獣医・装蹄職員を含めた複数名による事前検査の様子

JRAホームブレッドを用いた研究紹介~当歳馬の種子骨骨折~(生産②)

暑い日が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 日高育成牧場では先月「うらかわ馬フェスタ」が開催されました(写真1)。このお祭りは馬上結婚式などが行なわれる「シンザンフェスティバル」と、ジョッキーベイビーズの北海道地区予選などが行なわれる「浦河競馬祭」を合わせたもので、浦河町を挙げて大々的に行なわれました。北海道予選を勝ち抜いた木村和士君と大池澪奈さんは、11月に東京競馬場で行なわれるジョッキービベイビーズ決勝に出場することになります。おめでとうございます。

繁殖業務が一段落した現在は、我々が普段行なっている調査・研究のまとめをする時期でもあります。今回は、日高育成牧場の生産馬(以下ホームブレッド)を用いて調査している研究のうち、「当歳馬の近位種子骨骨折の発症に関する調査」の概要について紹介いたします。

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写真1 ジョッキーベイビーズ北海道地区予選

(向かって1番左が木村君、1番右が大池さん)

当歳馬の近位種子骨骨折発症状況

 日高育成牧場では、ホームブレッドを活用して発育に伴う各所見の変化が、その後の競走期のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかについて調査しています。そのなかで、クラブフット等のDOD(発育期整形外科的疾患)の原因を調査するため、肢軸の定期検査を行っていたところ(写真2)、生後4週齢前後の幼駒に、臨床症状を伴わない前肢の近位種子骨骨折がX線検査で確認されました。そこで、子馬におけるこのような近位種子骨々折の発症状況について明らかにするため、飼養環境の異なる複数の生産牧場における本疾患の発症率およびその治癒経過について調査しました。また、ホームブレッドについては、発症時期を特定するため、X線検査の結果を詳細に分析しました。

 まず、日高育成牧場および日高管内の生産牧場の当歳馬を対象として、両前肢の近位種子骨のX線検査を実施し、骨折の発症率、発症部位および発症時期について解析しました。骨折を発症していた馬については、骨折線が見えなくなるまで追跡調査を実施しました。次に、ホームブレッドについては、両前肢のX線肢軸検査を生後1日目から4週齢までは毎週、その後は隔週実施し、近位種子骨々折の発症時期について検討しました。

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写真2 当歳馬のレントゲン撮影風景

「種子骨骨折の発症率と特徴」

調査の結果、近位種子骨骨折の発症が約4割の当歳馬に認められました。全てApical型と呼ばれる種子骨の上端部の骨折でした(写真3・4)。骨折の発症部位については、左右差は認められませんでした。また、近位種子骨は内側と外側に2つありますが、外側の種子骨に発症が多い傾向がありました。しかし、統計学的な有意差は認められませんでした。

世界的に見ても、当歳馬の近位種子骨々折に関する報告は非常に少なく、5週齢までの幼駒に臨床症状を伴わない近位種子骨骨折が高率に発症していることが今回の調査で初めて明らかとなりました。また、今回の調査では、全てApical型の骨折でした。成馬においてもApical型の骨折が最も多く、繋靱帯脚から過剰な負荷を受けることによって骨の上部に障害が生じることが原因とされています。現在のところ、子馬特有の腱および靱帯の解剖学的なバランスのより、種子骨上端部のみに力がかかりやすい状態なのではないかと考えています。

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写真3 5週齢の子馬に認められた近位種子骨骨折

(正面から、丸印が骨折部位)

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写真4 5週齢の子馬に認められた近位種子骨骨折

(横から、丸印が骨折部位)

「発症と放牧地との関連」

牧場別の発症率は、大きく異なっていました。また、発症時期については、約8割は5週齢までに骨折が確認されました。JRAホームブレッドでの骨折発症馬についてX線検査結果の詳細な解析を行ったところ、3~4週齢で発症していました。

牧場ごとに発症率が大きく異なっていたことや、ホームブレッドでの骨折発症時期は、広い放牧地への放牧を開始した時期(この時期、母馬に追随して走り回っている様子が観察された)と重なっていることから、子馬の近位種子骨骨折の発症には、子馬の走り回る行動が要因となっていると推察されました。

「予後」

 ほとんどの症例で、骨折を確認してから4週間後の追跡調査で骨折線の消失を確認できました。しかし、運動制限を実施していない場合は治癒が遅れる傾向があり、種子骨辺縁の粗造感が残存する例や、別の部位で骨折を発症する例も認められました。

今回の調査では、全ての症例で骨折線の消失を確認し、予後は良好でしたが、疼痛による負重の変化も考えられるため、今後は、クラブフットなど他のDODとの関連について検討したいと思います。

「まとめと今後の展開」

5週齢までの幼駒に臨床症状を伴わないApical型の近位種子骨々折が高率に発症していることが今回初めて明らかになりました。広い放牧地で母馬に追随して走ることが発症要因の一つとして推察されました。今後は、今回の調査で認められた骨折がなぜこのように高率に発症しているのか、成馬の病態と異なっているのかどうか、などを調べるため、病理組織学的検査などを含めたさらなる詳細な検査を実施する予定です。また、最終的には、生後間もない幼駒の最適な放牧管理方法について検討して参りたいと考えています。

今後、興味深い知見が得られましたら、順次、当ブログで紹介していきたいと思います。これからもJRAが行なう生産育成研究についてご注目いただけましたら幸いです。

より良い放牧管理を目指して~生産地シンポジウムのご案内~(生産)

 日高育成牧場では、5月下旬より全8組の親子の昼夜放牧を開始しました(写真1)。誕生から離乳までの「初期育成期」と、離乳からブレーキング開始までの「中期育成期」では、子馬にとって放牧管理が運動面や栄養面、さらには精神面にとっても重要なことは言うまでもありません。今回は日高育成牧場で行なっている初期から中期育成期の放牧管理についてご紹介するとともに、来月新ひだか町静内で行なわれるJRA主催の「第40回生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウム(以下、生産地シンポジウム)」についてご案内したいと思います。

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写真1 親子の昼夜放牧。吸血昆虫もまだ少なく、今が一番過ごしやすい時期です。

放牧が馬体に及ぼす影響

 サラブレッドの一生のうち、最も成長が著しい時期が誕生からブレーキング開始までの初期~中期育成期になります。後々のブレーキングや調教を順調に進める上でこの時期にしっかりと「健康な体づくり」を行なうことが重要です。馬はこの期間、多くの時間を放牧地で過ごしますので、いかに放牧管理を上手く実践することが大切かおわかりいただけるかと思います。

 放牧時の子馬の自発的な運動は、骨や腱、心肺機能の発育にとって重要な役割を果たすことが知られています。例えば骨の発育にはカルシウムを多く摂取するだけでは不十分で、適度な運動により骨の形成に関与する骨芽細胞の活動が活発となり、骨の形成のために効率の良いカルシウムの利用が行なわれることになります。運動が骨や腱の発育に与える影響について過去の調査では、放牧時間が長いほど骨密度が増加したという報告があります(図1)。また、実験的に当歳に毎日トレッドミルによる常歩運動を負荷すると、小さな放牧地で4時間のみ放牧されている群と比較して腱の発育が早かったという報告もあります(図2)。

 また、放牧地は子馬の運動の場というだけでなく、牧草は発育に必要な栄養素を供給する飼料であり、天気の良い日には寝たりリラックスできる休息場所でもあります。

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図1 放牧が骨密度に及ぼす影響

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図2 子馬における浅屈腱断面積の変化

昼夜放牧への移行

 日高育成牧場では、子馬は特別虚弱でなければ生まれた翌日からパドックに放牧しています。生後4~5日間は、他の親子とは一緒にせずに1組の親子のみで放牧を実施しています。この時期の母馬は母性本能が非常に強くなっており、神経質過ぎるくらい自分の子馬を守ろうとするため、他の親子を怪我させる可能性が高くなるからです。生後2週間を目安に2ha以上の大きな放牧地に親子複数組で放牧しています。

 5月頃、少なくとも4週齢になるのを待って、昼夜放牧に移行しています。過去に行なった調査では、昼放牧を行なっている期間の親子の移動距離は1日平均7.7kmだったのに対し、昼夜放牧開始後は1日平均20.0kmと約3倍に増加することがわかっています。このことから、放牧時間が長いほど骨や腱を発育させるために必要な自発的運動をより多くさせることができると言えます。また、1歳馬の昼夜放牧中の採食行動に関する調査では、16時から0時までに採食していた割合が82.7%と高かったと報告されており、放牧地における採食が夕方から夜間にかけて活発となることがわかっています。本来、馬は広い草原で草を食べながら群れで生活している動物です。採食が活発となる時間帯に個別に馬房で過ごすことよりも、放牧地で過ごした方がストレスがなく、また栄養面からも昼夜放牧がより自然であると言えます。

昼夜放牧のメリットとデメリット(図3)

 もちろん、昼夜放牧には昼放牧と比較してメリットとデメリットの両方が存在します。まず、昼夜放牧を実施した場合、放牧時間が長くなるため昼放牧と比較して移動距離が約3倍長くなり、子馬に自発的な運動をさせることができます。前述の報告を考えると、子馬の発育のためには昼夜放牧の方が良さそうです。また、昼夜放牧では厩舎の中の馬房で個別に飼われるという人工的な環境にいる時間が短くなり、群れで自然の中で自由に牧草を食べることができるため、ストレスが少ないこともメリットとして挙げられます。

 一方、昼夜放牧を実施する際は人の目が届かない夜間にも放牧を継続するため、牧柵の整備など安全面には昼放牧以上に配慮する必要があります。また、放牧時間が長いほど早く放牧地が傷むため、昼夜放牧を実施するにはある程度広い土地が必要となります。

 このような特徴があるため、春から秋にかけては昼夜放牧が行なわれるのが一般的になってきていますが、最近になり一部の牧場で厳冬期にも試験的に昼夜放牧が実践されるようになってきました。しかし、北海道の馬産地では冬は放牧地が雪に覆われるため、春から秋にかけて行なっている昼夜放牧とは異なる管理が求められることになります。そのあたりの話題について、「生産地シンポジウム」で詳しくお話したいと思います。

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図3 昼夜放牧のメリットとデメリット

生産地シンポジウム

 毎年7月中旬に新ひだか町静内で行なわれているJRA主催の講習会ですが、今年は下記の要領で実施されます。今年のシンポジウムのテーマは「軽種馬生産における若馬の昼夜放牧管理について」です。

 主催:日本中央競馬会

 開催日時:平成24712日(木)10001430

 開催場所:静内ウエリントンホテル2F

 シンポジウム

  「軽種馬生産における若馬の昼夜放牧管理について」

 座長:服巻滋之(ハラマキファームクリニック)・佐藤文夫(JRA日高育成牧場)

1)若馬の昼夜放牧管理について

○佐藤文夫(JRA日高育成牧場)

2)社台ファームにおける若馬の昼夜放牧管理

○加藤 淳(社台ファーム)

3)エクセルマネジメントにおける若馬の昼夜放牧への取り組み

○瀬瀬 賢(エクセルマネジメント)

4)日高育成牧場における厳冬期の昼夜放牧管理について

○遠藤祥郎(JRA日高育成牧場)

5)昼夜放牧における草地管理について

○三宅陽(日高農業改良普及センター)

   6)ファームコンサルティングの観点から見た軽種馬生産における昼夜放牧管理のすすめ

○服巻滋之(ハラマキファームクリニック)

 ほか、一般講演が8題あります。詳しくは「軽種馬防疫協議会」のホームページ(URLhttp://keibokyo.com/)をご覧下さい。

 以上、日高育成牧場で行なっている初期から中期育成期の放牧管理についてお話させていただきました。生産地シンポジウムにも多数の皆様にご来場していただけましたら幸いです。

~事務局より~

 JRAで取り込んでいる生産育成研究で得られた知見や新しい技術に関して、JRA育成馬日誌を通じて、適宜発信しております。これらの生産育成研究に関しての質問には、可能な限りお答えします。下記メールアドレスにご質問をお願いいたします。

 

        メールアドレス     jra-ikusei@jra.go.jp

交配前後の繁殖牝馬の管理について(生産)

日高育成牧場では、4月末までに全8頭のJRAホームブレッドが誕生しております。今年は例年より冬の寒さが厳しかったですが、ゴールデンウィーク明けになりようやく桜も咲きました(写真1)。さて、今回は日高育成牧場で行なっている交配前後の繁殖牝馬の管理についてご紹介したいと思います。

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写真1 桜が咲きました!

ライトコントロール

 馬は春にしか発情期が来ない「季節繁殖動物」です。春になると日が長くなり、気温が上がり、草が伸びますが、馬は何で季節を感じているかというと「日の長さ」であることがわかっています。そこで、馬房内に電球を照らして人工的に明期を長くすることによって、馬の体に「春が来た」と錯覚させ、早く発情期を迎えるというテクニックが「ライトコントロール」です。

 具体的には、冬至(1220日頃)から昼間(明期)を14.5時間、夜(暗期)を9.5時間になるようにタイマーを用いて馬房を照らします(写真2)。すると無処置の場合と比較して、約2ヶ月初回排卵を早める効果があるという研究結果が出ています。

 この繁殖シーズンの初回の排卵は「持続性発情」となるなど安定しないことが多いため、なるべく早期に排卵させてしまい、2回目以降の安定した排卵を狙って種付けを行なうということが効率的な管理につながります。

 なお、この「ライトコントロール」は明期だけでなく暗期も重要です。窓を閉め外から街灯の光が入ってこないようにするなど暗期をなるべく暗くするように工夫した方がより効果的です。

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写真2 ライトコントロール

獣医師による検査

 ①直腸検査

 直腸壁を介して卵巣や子宮を触診する、最も一般的な検査です。子宮は大きさ、硬さなど、卵巣は卵胞の大きさ、軟らかさ、排卵窩の開き具合などを調べ、総合的に判断します。

 ②超音波検査(エコー検査)

 直腸検査と併せて、卵巣や子宮を超音波診断装置により描出する方法です(写真3)。卵胞の大きさや形、排卵の確認、黄体の有無、子宮の貯留液の有無、シストの確認のほか、妊娠鑑定にも必須となっています。

 ③膣検査

 膣鏡を陰門から挿入し、膣粘液の量、膣壁の充血具合、子宮外口の形を見ます。

 繁殖牝馬には個体差があるため一概には言えませんが、日高育成牧場では通常下記の所見が確認された後、後述の排卵誘発剤を投与し種付けとなります。

1)卵胞が成長過程で(1日に3~5mm)、大きさが35mm以上ある

   2)超音波検査で子宮の浮腫が認められる

   3)膣検査で子宮外口の軟化が認められる

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写真3 排卵前の卵胞

交配前後に使用する薬剤(写真4)

①排卵誘発剤

 以前は直腸検査の結果から排卵時期を予測し種付けするというスタイルが常識でしたが、近年はより効率的に交配するため排卵誘発剤が普及してきました。

 ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)は、馬の排卵を直接的に誘発する黄体形成ホルモン(LH)様の作用を有しており、2,5003,000単位を静脈内投与すると、2448時間後に排卵する確立が高くなるため、種付けの前日に投与します。「卵胞が排卵できる状態」にあることが使用の前提となるため、前述の所見を確認後投与します。

 少し専門的な話になりますが、このhCG製剤を繰り返し使用すると免疫反応によって繁殖牝馬の体内に抗体が作られ効果が減少すると言われているため、上記の所見が認められない場合は使用しないなど、無駄打ちをなくしなるべく使用回数を減らす注意が必要です。

 海外ではこのhCGの欠点を改善した性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の類似物質であるDeslorelinが使用されています。GnRHは前述のLHの放出を促進し、その結果間接的に馬の排卵を誘発するため、hCGより自然な排卵に近い効果が得られると言われています。2.1mgを皮下注射すると48時間以内に排卵すると言われていますが、卵胞の大きさが30mm以上であることが使用の前提であるため、投与前に超音波検査を実施することが不可欠です。

②子宮収縮剤

 種付けをすると、精子は約1時間以内に卵子と受精する場所である「卵管」に到達すると言われています。卵管に到達できなかった余分な精子は、子宮の炎症の原因となるため、速やかに排出した方が良いとされています。そのため、我が国では種付け後の子宮洗浄が一般的に行なわれていますが、日高育成牧場では海外で一般的な方法である子宮を収縮させる作用のあるホルモン(オキシトシン製剤)を25単位筋肉内注射しています。

 ③黄体退行処置(発情休止期の短縮)

 繁殖シーズンの牝馬は、約1週間の発情期と約2週間の発情休止期(黄体期)を交互に繰り返しているわけですが、発情休止期(黄体期)が終わるシグナルは子宮から分泌されるプロスタグランジン(PGF2α)が黄体を退行させることによります。1回目の種付けが不受胎であった場合や、分娩後初回発情での交配を見送った場合など、一日でも早く次の種付けを行いたい場合、PGF2α製剤を使用することで早く次の発情期を迎えることができます。具体的には、発情休止期(黄体期)と思われる時期に超音波検査を実施し、黄体の存在を確認してから投与します。PGF2α製剤の一つであるクロプロステノール製剤を250μg筋肉内注射します。

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写真4 左からhCG製剤、GnRH製剤、オキシトシン製剤、PGF2α製剤

分娩後の交配

 妊娠馬は、分娩後約10日で排卵が起こることが知られています。現在我が国ではこの「分娩後初回発情」で種付けを行うことが一般的ですが、2回目以降と比較して受胎率が低いことがわかっています。分娩による子宮のダメージが十分に回復していないことが原因です。日高地方で過去に行なった調査では、分娩後初回発情で交配された場合の受胎率は約46%であり、2回目以降の受胎率約65%と比較して明らかに低い結果でした。さらに13歳以上の高齢の繁殖牝馬では受胎率は約37%にまで低下することがわかりました。さらに、分娩後初回発情で種付けを行うと10日齢前後の子馬を一緒に種馬場まで輸送することになるため、まだ幼弱な子馬に大きなストレスをかけることになります。以上から「分娩後初回発情」で種付けは推奨できませんが、シーズン終盤など止むを得ない場合は下記の基準を元に判断すると良いでしょう。

1)牝馬の年齢が12歳以下である

   2)分娩後の後産排出が1時間以内であった

   3)分娩後の後産の重さが8kg以下であった

   4)種付けが少なくとも分娩後10日目以降である

   5)分娩後の子宮頸管スワブの細菌検査が陰性であった

日高育成牧場では、生産率を向上するため基本的に分娩後初回発情は見送り、前述したPGF2α製剤を使用して発情休止期(黄体期)を短縮して2回目以降の排卵で交配しています。

 以上、日高育成牧場で行なっている交配前後の繁殖牝馬の管理についてお話させていただきました。私たちも現在のやり方がベストだと満足してはおらず、今後もよりよい管理方法を模索してまいりたいと思っておりますが、ご参考にしていただけましたら幸いです。

「HBAトレーニングセール」に向けて(日高)

424日に中山競馬場で行われたJRAブリーズアップセールにおきましては、多くの皆様の参加および多頭数の御購買をいただき、誠にありがとうございました。御購買いただきました馬たちの競走馬としてのご活躍を心から期待しています。育成馬日誌の紙面をお借りし、あらためて御礼申し上げます。

ようやく桜が満開となった浦河は1年で最も美しい季節を迎えています。事務所近くに居を構える“エゾタヌキ”の夫婦も、厳しい冬を乗り越えた直後の3月には痩せ細っていましたが、冬眠明けのカエルやミミズなどの食物が豊富となる5月を迎え、“タヌキ”らしい体型に戻ってきました。

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春を迎え“タヌキ”らしい体型を取り戻した“エゾタヌキ”の夫婦。

さて、JRAブリーズアップセールに体調が整わず間に合わなかった6頭につきましては、521日(月)および22日(火)の両日にJRA札幌競馬場で開催されるHBAトレーニングセールに上場いたします(JRAの馬は522日に上場)。今回の上場馬は、ブリーズアップセール直前に跛行等の理由によって順調に調教を行うことができなかった馬達です。

ブリーズアップセールから約1ヶ月と決して十分な期間ではないために、HBAトレーニングセールへの上場を見送った馬も4頭おりますが、今回の上場する6頭については、競走馬では普通に見られる疾病の発症が、偶然ブリーズアップセールと重なってしまった馬たちになります。これらの馬たちにとって、HBAトレーニングセールは競走馬としてのスタートラインに立つためのラストチャンスになります。

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トレーニングセールに備えての併走調教。内:No. 211ダイコーダンスインの10(牡 父リンカーン)、外:No.210エムケイミラクルの10(牡 父ケイムホーム)

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トレーニングセールに備えての併走調教。内:No. 212フレンドリータッチの10(牝 父ケイムホーム)、外:No.209アポロヘルムの10(牝 父タイキシャトル)

トレーニングセールに備えての併走調教。内:No. 208ワンモアベイビーの10(牡 父ケイムホーム)、外:No.213ヘバラーの10(牝 父アルデバラン)

今回私たちが上場する馬たちにとって、セールは「単に売って終わりではなく」、「競走馬になるための過程」であることが大切と考えています。セール当日は、民間セールの雰囲気に合った走行ができるよう、馬たちと相談をしながらしっかりと鍛え、セールまで残り少ない日々の調教を進めているところです。

長い冬が明け、北海道は一年で最も素晴らしい季節を迎えています。皆様のご来場を心からお待ち申し上げています。

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調教終了後は、馬の精神や生理状態をナチュラルに保つため、下馬してグラスピッキングを行います。馬は草を食べることで非常にリラックスします。左:No. 211エムケイミラクルの10(牡 父ケイムホーム)、右:No.208ワンモアベイビーの10(牡 父ケイムホーム)。

育成馬展示会が開催されました(日高)

BTC調教施設での春の訪れの代名詞ともなっている屋外1600mトラック馬場の開場が、昨年より1週間遅れの4月2日に行われました。4月を迎えた浦河では肌寒い日が続いており、育成馬きゅう舎の近くに居を構える“エゾユキウサギ”の換毛も少し遅れており、ようやく茶褐色の夏毛が現れ始めたところです。

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今年の冬は寒く“エゾユキウサギ”の換毛も昨年より少し遅れています。4月上旬(左)と2月下旬(右)の写真。

育成馬展示会の開催

先日、4月9日()に日高育成牧場の育成馬展示会が開催されました。当日は早朝には積雪を認め、その後は開始1時間前まで雨が降り続いていました。幸いにも展示会開催中の降雨は認められませんでしたが、4月とは思えぬほどの寒さの中、馬主・調教師・生産者をはじめとして181名の方々にご来場いただきました。この展示会は、以前は生産牧場の皆様にその成長ぶりを見ていただくという趣旨が強かったのですが、8年前に開始されたBUセールでの売却となってからは、購買に興味を持たれた馬主や調教師の方々の来場が年々増えてくるようになりました。

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比較展示でたくさんの来場者に囲まれる育成馬達。

今年の冬は例年に無い寒さ

今年の冬は例年にないほど寒く雪解けが遅かったため、騎乗供覧の会場となる1600mダートトラック馬場の開場が1週間遅れ、4月2日にようやくオープンとなりました。育成馬展示会まで8日間しか期間が無く、恥ずかしくない供覧をお見せできるか不安もありましたが、オープン以降は順調に使用できたことで、何とかしっかりとした動きをご覧いただくことができたのではないかと思っております。

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騎乗供覧:右が11番ベラミロードの10(牝 父:アドマイヤムーン)、左が12番オテンバコマチの10(牝父:ケイムホーム)。

BTC生徒の卒業イベント

また、軽種馬育成調教センター(BTC)が行う騎乗者養成コースの生徒に対して、昨年秋の初期馴致および本年1月からの実践騎乗の場として育成馬達を提供してきましたが、生徒達は卒業のイベントとして、立ち馬展示や騎乗供覧の場でこれまで学んできた成果を遺憾なく発揮してくれました。立派なホースマンとして飛躍することを期待しています。

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立ち馬展示だけでなく騎乗供覧でもこれまで学んできた成果を遺憾なく発揮してくれたBTC生徒達。これからの活躍を期待しています。

育成馬達にとってのブリーズアップセール

育成馬達にとっては、ブリーズアップセールがゴールではなく、競走馬としてのスタート地点に過ぎません。順調に調教が進んでいたとしても、セール1週間前に運動器疾患を発症する場合や、2月には軽調教しかできなかったにもかかわらず、セール当日には良いパフォーマンスを発揮する場合など様々です。育成馬達にとっては、ブリーズアップセールという日は2歳の4月のある1日にしか過ぎないのですが、この舞台でその馬の持っているパフォーマンスを最大限に引き出すことができなければ、競走馬としてのスタートラインに立てないという事実もあります。調教が進むにつれ、運動器疾患が少しずつ顔を出すようにもなり、どんなに注意していても馬の管理にはアクシデントが付き物であるということを実感せざるを得ず、セールまで悩みが尽きることはありません。

BUセールの安心と信頼のための取組み

3月に入ってからは、スタッフ一丸となってセリカタログ用の写真撮影、セール用の調教DVDの撮影、さらにはレポジトリーのための各種検査を実施しています。特に、情報開示室で開示するレポジトリーの確認のために、3月下旬には美浦トレーニングセンターの獣医職員が来場し、第三者による検査も実施されました。その検査のなかで、喉の状態に不安がある馬に対して、トレッドミル(ルームランナーのようなもの)を使用して運動時の内視鏡検査を実施しました。喉の状態を内視鏡で検査する場合、一般的には駐立状態で行われますが、競走馬のパフォーマンスを確認する上では、運動時の内視鏡検査が重要であることはいうまでもありません。そのために、日高育成牧場では、少しでも不安がある場合には、トレッドミルでハロン15秒程度のスピードを上げた走行時の内視鏡検査を実施し、その検査結果の情報開示を行っています。


YouTube: 【トレッドミル内視鏡検査】.wmv

少しでも喉の状態に不安がある場合には、トレッドミルでハロン15秒程度のスピードを上げた走行時の喉の内視鏡検査を実施します。

最後になりますが、中山競馬場でのブリーズアップセールは4月24日(火)に開催いたします。本年は、前日に上場馬をじっくりと吟味いただくために、前日展示会も実施いたします。多くの皆さまのご来場をお待ち申し上げております。

子馬の取り扱いについて(生産)

 日高育成牧場では、3月末現在3頭のJRAホームブレッドが誕生しています。学校が春休みに入るこの時期には、主に獣医学科の大学生の研修も行なっています(写真1)。研修では馬の分娩に立ち会うほか、繁殖牝馬や子馬の管理を実際に体験してもらっています。ここ日高育成牧場では、生まれたばかりの当歳馬からもうすぐブリーズアップセールに上場される2歳の育成馬まで幅広い時期のサラブレッドを見ることができます。種付けを決めるための直腸検査や子馬の画像診断の研究、さらには育成馬の調教まで見てもらい、大学ではあまり経験できないサラブレッドという動物について間近に接してもらいながら学んでもらっています。さて、今回は日高育成牧場で行なっている子馬の取り扱いについてのお話です。

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写真1 直腸検査の実習の様子

子馬の取り扱いについての基本的な考え方

 育成期に順調に調教を積むためには、子馬の段階からの取り扱いが非常に重要になってきます。野生の馬の世界では「アルファ」と呼ばれるリーダーが群れを統制していますが、私たち馬を取り扱う人間が子馬の「アルファ」となるべくしつけていくことが、その後の子馬の取り扱いを容易にします。といっても、子馬のしつけは力ずくで行なうのではなく、「オン」と「オフ」を明確に示してやることが重要です。すなわち、ヒトが馬に何かを要求する際には強い態度で示し(「オン」)、馬が素直に指示に従った際にはすぐにプレッシャーを解除し(「オフ」)、「ヒトの言うことを聞けば居心地の良い場所に居られるんだ」という意識を馬に持たせていくのです。

 また、生後間もない子馬の特徴として、「身体が虚弱であること」が挙げられます。力ずくで無理やり扱うと怪我をしやすいのは当然として、他に成馬のように引き手のみで取り扱おうとすると力が1点にかかることになり頸椎を痛め、最悪の場合競走馬生命が絶たれることにもなりかねません。引き手を使用していわゆる「点」で扱うのではなく、身体がしっかりするまであえて引き手は使用せず、両腕を回しヒトの体が子馬に接する面積をなるべく多くして子馬の動きに追随する、すなわち「面」で子馬を扱うイメージが重要です。

子馬の引き馬について

 ①2人1組での引き馬

 前述のとおり、生後2週齢くらいまでは引き手を使用せず、「面」で子馬を扱うように意識します。子馬の肩から頸に手を回して、子馬が自発的に歩くことをサポートするイメージです。この時期に大切なのは、子馬に「ヒトと歩く時は肩の位置で」と意識付けさせることで、そのことが後々の引き馬をスムーズにします。子馬が立ち止まった時はお尻を軽く引っかくイメージで触り、前に進むよううながしてやります。この軽く引っかくというのは、母馬が子馬を乳房に誘導する際に鼻でお尻を刺激する自然な行為に近いものです。引き手はある程度子馬の身体がしっかりしてくる生後2週齢以降から使用します(写真2)。最初は止め具のない1本のロープを使用することで、放馬した際ロープが簡単に抜け落ちますので、子馬が引き手を踏んで頸椎を痛めるなどの事故を予防することができます。この時期の子馬は放馬しても母馬の元へ戻ってきますので、いかに事故を防ぐかが大切です。

 もう一つ大切なことは、なるべく子馬が小さいうちからヒトが多く手をかけてやることです。子馬を観察していると頻繁に横になって休息しますが、放牧地では十分に休息が取れない場合も多いです。そこで、例えば朝一旦放牧に出した後、昼間に一度馬房に入れ十分休息させ、午後再度放牧するようにします。そうすることで子馬に接する機会が増え、結果としてヒトに慣れた扱いやすい子馬にすることができます。

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写真2 引き手は2週齢以降から、止め具のない1本のロープを使用します。たとえ放馬しても引き手を踏んで頸椎を痛めるなどの事故を予防できます。

 ②1人で行なう親子の引き馬

 子馬が自ら進んで歩くようになったら、1人で親子を引き馬することができるようになります(写真3)。この場合、左手で母馬を引き、右腕は基本的に子馬の頸に回して保持し、子馬が立ち止まろうとした際には右手で肋骨を軽くたたいて刺激し前に進んだ場合はまた頸に回すことでスピードを調節します。プレッシャーの「オン」が肋骨の刺激、「オフ」が頸に手を回した状態というわけです。これを教えていくことで、馴致の際馬が脚などの扶助を理解しやすくなります。

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写真3 子馬が自ら歩くようになったら、1人で親子の引き馬ができるようになります

子馬の保定

 子馬の治療や削蹄を行なう際には、子馬を保定する必要があります。その場合にも、子馬を「点」ではなく「面」で扱うイメージが重要です。すなわち、馬房の中央で引き手のみで押さえるのではなく、馬房の壁を利用して子馬が移動できる方向を制限します。引き馬の時と同じく、ある程度身体がしっかりする生後2週齢以前は引き手を使用せず、万が一転倒した際に頸椎の損傷を防ぎます。削蹄などで前肢を挙上する際は、子馬は後退して逃げようとするので馬の後ろに壁を当てて保定します。反対に後肢を挙上する際は子馬は前に進もうとするため馬の前に馬房の壁を向けると上手く行きます。採血する際も後退する傾向があるため、壁を後ろに当てると良いでしょう。経鼻カテーテルの挿入など、壁を利用しても保定が困難な場合は、壁を横に当てながら片手で子馬の胸前を保持し、もう一方の手で尾を上方に挙げて保定します。

 保定時に重要なことは子馬を屈服させるのではなく、要求に従ったらただちにプレッシャーを「オフ」にし、納得させることです。それを繰り返すことで従順になり、必要最小限の保定で検査などを受け入れるようになります(写真4)。最も避けなくてはならないことは子馬を精神的に追い込んで、パニックに陥れてしまうことです。馬は記憶力の良い動物ですので、治療や削蹄の度に暴れる馬をわざわざ作ってしまうことになりかねません。

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写真4 子馬の超音波検査時の様子。

 以上、子馬の取り扱いについてお話させていただきました。子馬のうちからヒトが正しく取り扱っていれば、将来騎乗馴致を行なう段階での扱いやすさが格段に良くなります。ご参考にしていただけましたら幸いです。

●事務局より

2012JRAブリーズアップセールの調教DVD映像はこちらをご覧ください。