育成馬ブログ 日高②

●跛行(支跛)診断のポイント

 

現在、日高育成牧場の育成厩舎には

セレクト・セレクション・サマーセールの各市場で購買した1歳馬52頭と

JRAホームブレッド3頭の計55頭が入厩しています。

 

牡馬27頭は9月初旬から馴致を順次進めていますが、

牝馬28頭は10月からの馴致開始に備え昼夜放牧を実施して

馬体づくりにつとめています。

 

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左写真)ドライビング調教(コーラルチャイムズの16 父アルデバラン)

右写真)放牧中の1歳牝馬

(左エメラルドコーストの16 父ディープブリランテ、

右レディパッションの16 父ルーラーシップ)

 

さて、今回の当ブログでは育成馬を調教する際には

避けて通ることができない「跛行」について、

その基本的な診断法について簡単に説明したいと思います。

 

○馬の跛行診断

 

跛行とは、馬が歩様に異常をきたしている状態をいいます。

原因はさまざまです。

 

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左図1:関節炎や骨折、右図2:局所感染

 

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左図3:骨膜炎や打撲、右図4:筋肉痛や横紋筋融解症

 

跛行している馬が育成馬や競走馬であれば競走や調教に支障をきたしますし、

繁殖牝馬であればストレスや運動不足で妊娠へ悪影響がでるほか、

授乳馬の場合は一緒に行動する子馬の運動量も低下してします。

 

○跛行の分類

 

一言で跛行と言っても症状によって分類されています。

 

・肢に体重を乗せた際に痛む支柱肢跛行(支跛=シハ)

・肢を挙げるとか前に振り出すと痛む懸垂肢跛行(懸跛=ケンパ)

・上記の両方の症状を示している混合跛行(混跛=コンパ)

 

今回は、骨折や蹄病等の疾患の際に多く観察される支跛について解説します。

 

馬は一定のリズムを刻みながら歩行します。

跛行診断は、硬い平地で常歩と速歩を前後左右から見て、

このリズムの乱れを見極める必要があります。

 

○跛行している肢を簡単に発見するためのチェックポイント

 

・前肢の跛行(支跛) ⇒ 頭部の上下動に注目!

痛い方の肢に体重がかかると痛みが増すため

頭を上げてかばう動作を見せます。

 

5_2図5:前肢の跛行

 

動画1:前肢の跛行(繋靭帯炎)

 

・後肢の跛行(支跛) ⇒ 腰の上下動と球節の沈み込みに注目

痛い方の腰の上下動が大きくなり痛い方の肢で

負重している時間が短くなります。

また、正常な方に体重をかける時間が長くなるので、

そちらの球節が深く沈み込みます。

 

6図6:後肢の跛行

 

動画2:後肢の跛行(挫跖)

 

今回は、跛行診断のほんの一部のみ紹介させていただきました。

早期に愛馬の跛行を発見し、

適切な治療につながる一助となることを願っています。

 

※動画を多用して跛行診断についてより細かく解説した番組が、

グリーンチャンネルの「馬学講座ホースアカデミー」のコーナーで

2018年1月に放送予定となっていますので、そちらもご覧ください。

育成馬ブログ 生産編②(その2)

●ケンタッキーの馬産

 

○馬産全体の違い

 

馬産全体の違いについて説明します(図3)。

日本の生産牧場では牧場が繁殖牝馬を所有する

自己所有馬の割合が多いのに対し、

米国では馬主が生産牧場に預託料を支払って繁殖牝馬を預ける

預託馬の割合が多いです。

私が研修したダービーダンファームでは、約8割の馬が預託馬で、

自己所有馬は2割しかいませんでした。

 

また、日本の生産牧場には採草地を有し、

そこで作った自家製の乾草を馬の食用に使用していますが、

米国では採草地がなく牧場の土地を目一杯使って広い放牧地として利用し、

そこで作られた乾草は食用としては使用せず敷料として使用し、

麦稈代を節約していました。

 

さらに、日本では種牡馬はスタリオンステーションとして独立した

種馬場で繋養されているのに対し、

米国では大手の生産牧場の中に種牡馬厩舎および種付場が作られており、

種牡馬はそこで繋養されていました。

 

また、日本の牧場の従業員はほとんどが日本人ですが、

米国ではヒスパニックと呼ばれる中南米からの移民がほとんどでした。

そのため、ほとんどのマネージャーが英語だけでなく

スペイン語を話せる必要がありました。

 

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図3 馬産全体の違い

 

 

○放牧地内で乾草を作り、敷料として使う

 

米国の牧場には採草地がなく、

牧場の土地を目一杯使って広い放牧地として利用していました。

自家製の一番乾草を採った後、馬を放牧し、

その後は掃除刈りで維持するという草地管理を行っていました。

放牧地内で作製された乾草は、

食用にするのではなく敷料とすることで購入する麦稈の量を減らし、

節約していました。

なお、放牧地にはペレニアルライグラス、ケンタッキーブルーグラス、

オーチャードグラスがミックスされた種を

春と秋の2回播いていました(図4)。

 

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図4 放牧地内で乾草を作り、敷料として使う

 

次回は繁殖牝馬の飼養管理について述べたいと思います。

育成馬ブログ 生産編②(その1)

●ケンタッキーの馬産

 

今回から「ケンタッキーの馬産」について紹介していきたいと思います。

まず今回は、広い米国の中でもなぜケンタッキーが生産の中心なのか、

また馬産全体の日本との違いについてお話します。

 

○米国のサラブレッドが生まれてから出走するまで

 

米国のサラブレッドが生まれてから出走するまでの流れですが、

生産牧場で1歳の夏まで過ごし、

ブレーキングが行われる1歳の秋から育成牧場に移って調教される点は

日本と同じです(図1)。

異なるのは、競走馬としてデビューした後、

JRAでは美浦もしくは栗東トレーニング・センターで調教され、

レースのある週末のみ競馬場に行くのに対し、

米国ではレースが開催される競馬場で調教が行われている点です。

JRAの函館や札幌競馬場開催時の滞在競馬、

もしくは地方競馬と同じ状況だと言えばイメージし易いかと思います。

 

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図1 サラブレッドが生まれてから出走するまで

 

○なぜケンタッキー州が最大の馬産地なのか?

 

米国では毎年約2万頭のサラブレッドが生産されていますが、

中でもケンタッキー州は最大の馬産地であり、

約12,000頭が生産されています(図2)。

これは日本全体の生産頭数の約2倍にもなります。

では、広い米国の中でもなぜケンタッキー州が馬産に適しているとされ、

サラブレッドの生産が盛んに行われているのでしょうか?

 

まず1つ目として、この地には「ライムストーン」

と呼ばれる石灰岩の地層が存在し、土壌中にカルシウム分が供給され、

牧草中のミネラル分が豊富になり、馬の骨が丈夫になることが挙げられます

また2つ目として、ケンタッキーブルーグラスという

馬の放牧地に適した牧草が自生していたことも挙げられます。

さらに3つ目として、夏は暑くなり過ぎず、

冬は寒くなり過ぎない、馬に適した気候が挙げられます。

ケンタッキー州の牧場地帯の中心であるレキシントンは、

日本でいうと新潟市と同じ緯度にあります。

最後に4つ目として、東海岸に位置していることが挙げられます。

米国東海岸にはニューヨークなどの大都市があり、

経済の中心となっていることから馬主が集まりやすいという利点があります。

 

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図2 広い米国の中でもケンタッキー州が最大の馬産地

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高①

●仔馬の内反肢勢

 

仔馬の肢勢は発育スピード、遺伝、放牧地の硬さなどによる環境など、

様々な影響を受けて変化していきます。

生後間もない子馬の異常肢勢は、成長に伴い治癒する場合もありますが、

重症例を放置することで、競走期のパフォーマンスに

悪影響を及ぼすことも少なくありません。

今回のブログでは、球節以下が体の内側に曲がる

「内反肢勢」について取り上げます。

 

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右後球節以下の「内反肢勢」

 

上記のとおり「内反肢勢」とは、

下肢関節が体の中心に向かって曲がる肢軸異常であり、

蹄尖が内を向く「内向肢勢」とは区別されます(図1)。

 

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図1.標準、内向、内反肢勢の違い

 

「内反肢勢」は成長に伴う自然治癒が期待できないため、

放置せずに装蹄療法などによる肢軸矯正を実施すべきです。

 

内反に対する肢軸矯正には、重症度にあわせて様々なものがありますが、

重要なことは「早期発見・早期治療」です。

 

これには仔馬の成長スピードが関係しています。

仔馬の肢の成長は体から一番遠い下肢部から始まり、

6ヶ月齢で球節以下の成長板は完全に閉鎖します。

このため、成長板閉鎖前であればある程度の効果が得られるものの、

その後は十分な効果が期待できません。

 

具体的な装蹄療法について説明します。

 

軽度であれば、内側蹄負面の多削による左右バランスの調整で

対処できますが、中程度から重度のものでは蹄の外側に

エクステンション(充填剤や特殊蹄鉄などを使用した張り出し)を

装着する方法がとられます(図2)。

ただし、エクステンションでも良化が見込めないような

重症例に対しては外科手術を行うこともあります。

 

仔馬の肢軸異常は

「昨日大丈夫だったから今日も大丈夫!」という事は一切ありません。

当場でも厩舎スタッフ・装蹄師・獣医師が毎日の馬体検査を行っています。

仔馬の肢軸異常は日常の微妙な変化を見逃さず

早期に対処することが重要だといえるでしょう。

 

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 図2.エクステンションを接着し装蹄療法を施した症例

育成馬ブログ 生産編①(その2)

●1歳馬のセールス・プレップについて(その4)

 

○グルーミング(手入れ)

 

ウォーキングマシンによる運動が行われない日は、

念入りなグルーミング(手入れ)が行われていました(図3)。

中でも最も力が入れられていたのが、ゴムブラシで全身を強く擦ることで、

古い体毛をできるだけ抜き、皮膚の血行を促していました。

最初の1週間は変化に気づかないレベルでしたが、

2~3週間続けていると明らかに新陳代謝が良くなり、

自然な艶が出てきました。

そのほか、セリの直前にはトリミングが行われ、

たてがみがきれいに整えられ、耳毛や距毛は短くカットされました。

 

2図3 セリ上場馬のグルーミング(手入れ)

 

 

○セールス・プレップにおける日米の考え方の違い

 

育成牧場で行われることが多いわが国のセールス・プレップと異なり、

生産牧場で行われるケンタッキーのセールス・プレップでは、

考え方が異なるように感じました。

すなわち、日本ではセールス・プレップが“後期育成の入り口”と

位置づけられ、ランジングを行うなど馬を従順にしていくことで

ブレーキングへの移行をスムーズにするという意図があるのに対し、

米国のセールス・プレップは“中期育成の延長”という考え方で、

放牧時間を極力短縮しないなど1歳馬の自然な成長を

促したいという意向が感じられました(図4)。

どちらにもメリットとデメリットがあると思いますが、

わが国においても生産牧場でセールス・プレップを行う際には、

ケンタッキーの自然な成長を促すやり方を

参考にしてみるのも一考の価値があるのではないでしょうか。

 

1図4 日米でセールス・プレップの位置づけが異なる

 

(おわり)

育成馬ブログ 生産編①(その1)

※今回から本年度のJRA育成馬日誌の連載が

スタートとなりますが、今回の記事は5月31日掲載

育成馬ブログ 生産編⑨(その2)」の続きとなります

合わせてご覧ください

 

●1歳馬のセールス・プレップについて(その3)

 

○飼料

 

先月に引き続き、ケンタッキーで行われている

1歳馬のセリに向けての準備(セールス・プレップ)について

ご紹介します。

 

セリに上場される馬は、

ボディ・コンディション・スコア(BCS)の調整のため、

馬房内で個別に濃厚飼料が与えられます。

ダービーダンファームでは、

McCauley Bros.社製の「Option 14 Pelleted」という

大粒のペレットが1日2回与えられていました(図1)。

1回の量は太っている馬(BCSが6.0以上)で1.5kg、

痩せている馬(BCSが4.5以下)で2.0kgでした。

ケンタッキーでは放牧地に生えている牧草の栄養価が高いため、

太っている馬には放牧時に口篭が装着されていました。

反対に痩せている馬は、

他州からの入厩時などで一時的に散見されましたが、

夜間放牧されている内に自然とBCSが回復していきました。

ダービーダンファームは“Honesty(正直、誠実)”を

スローガンにしており、

BCSが5.0前後の自然な馬体を目指していました。

そのほか、毛艶を良くするため米糠油や

各種サプリメントが与えられていました。

 

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図1 1歳馬用の飼料

 

○ウォーキングマシンの使い方と馬体洗浄

 

セリに上場される1歳馬の管理は、

一日おきにウォーキングマシンを

使った運動および馬体洗浄をする日と(図2)、

後述するグルーミングをする日に分かれていました。

 

ウォーキングマシンによる運動は、

常歩のストライドを伸ばしてセリの下見時に

活発な印象を与えることを目的として行われていました。

具体的には、常歩ではついて行けず半分程度は速歩に

なってしまう程度の速度でウォーキングマシンを回して、

徐々に馬が体の使い方を覚えて大きく常歩で歩けるようになったら

さらに速度を上げるということを繰り返していました。

理想を言えば人が引いて(ハンドウォークで)馬の常歩の速度を

コントロールするのがベストでしょうが、

少ない人手で活発に歩ける馬を作るのには

有効な方法だと感じました。

 

ウォーキングマシンで運動した後は、

汗をかいた馬体をシャンプーで洗い、

その後ワックスをかけ毛艶を出していました。

後述するようにゴムブラシで馬体をしっかりマッサージして

血行を良くし、自然な毛艶を出すことが理想ですが、

米国ではそれに加えて飼料(米糠油)やワックスも使って

人工的にも馬を磨くというやり方が行われていました。

 

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図2 ウォーキングマシンによる運動と馬体洗浄

 

(つづく)

育成馬ブログ 生産編⑨(その2)

●1歳馬のセールス・プレップについて(その2)

 

○放牧地の違いとの広さの目安

 

セリに上場されない馬は20エーカー(約8ヘクタール)程度の

大きな放牧地に集団で放牧されます。

一方、セリに上場される馬は、牝馬に関しては放牧時間が

短縮(24時間から12~13時間)されるだけで、

同じく大きな放牧地に集団で放牧されます。

牡馬に関しては、ケンカして噛み付くなどして外傷を負い、

セリ上場に支障をきたす恐れがあるため、

1頭ずつ1ヘクタール以下の小パドックに放牧されます(図3)。

 

放牧地の広さを決める際の目安に

“1 acre, 1 horse(ワンエーカー、ワンホース)”という言葉が使われています。

これは馬1頭当たり1エーカー(約0.4ヘクタール)以上の

広さが必要という意味です。

この基準より広い放牧地が用意できれば、

馬は栄養面でも運動面でも支障をきたすことなく

すこやかに成長することができると考えられています。

 

1図3 放牧の違いと放牧地の広さの目安

 

 

ケンタッキーにおけるGPSを用いた調査

 

昼夜放牧をすることのメリットの一つとして、

馬が放牧地内を移動することで運動量が増え、

体質が強くなることがあげられます。

では、24時間放牧から夜間放牧(12~13時間)に放牧時間が短縮されると、

運動量にどのような影響があるのか、

ケンタッキーの牧場で放牧されている1歳馬に

GPS装置を取り付けて調査を行いました。

その結果、小パドックに放牧されている場合を除き、

大きな放牧地の馬は放牧時間を短縮しても、

移動距離すなわち運動量は変わらないことがわかりました(図4)。

まだ馬体に成長の余地がある1歳馬にとって、

夜間放牧をしながらセールス・プレップを行うことは

体質を強くしながら成長を促すことができるという

メリットがあると言えるかもしれません。

 

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図4 ケンタッキーにおいてGPSを用いて1歳馬の移動距離を調べた結果

 

次回は飼料や手入れ(グルーミング)についてご紹介します。

育成馬ブログ 生産編⑨(その1)

●1歳馬のセールス・プレップについて(その1)

 

生産牧場で行われるセールス・プレップ

 

今回は、ケンタッキーで行われている

1歳馬のセリに向けての準備(セールス・プレップ)についてご紹介します。

 

最初に、用語の確認です(図1)。

セリ(Sales)に向けて準備(Preparation)すること、

具体的には、毎日手入れをして馬をきれいに磨き、

躾や引き馬の練習を入念に行ってセリ会場で

お客様の前でしっかり展示できるようにすることを

セールス・プレップと言います。

そしてセリ本番での販売を委託(Consign)されること、

具体的には、広告(ホームページへの馬の写真や動画の掲載など)、

セリ会場での下見対応、上場手続きなどを行うことを

コンサイニングと言います。

そして、コンサイニングを請け負う牧場のことをコンサイナーと呼びます。

 

日本の馬産地では育成牧場がコンサイナーとなり、

セリの1~2ヶ月前に生産牧場から馬を預かって

セールス・プレップを行うのが一般的です。

一方、ケンタッキーでは育成牧場が

少なく(米国の育成の中心はフロリダ州オカラ)、

生産牧場がセールス・プレップを行っています。

そして、同じく生産牧場がコンサイナーになります。

日本と同じくコンサイナーに預けられてセールス・プレップが

行われることもありますが、自分たちでセールス・プレップを行って

セリ本番のみコンサイナーに預けるというパターンも多く認められます。

大手の牧場ばかりがコンサイナーとなっているかといえばそうとも言えず、

大手の牧場の中でもセールス・プレップのみ行い、

セリ本番は他のコンサイニングを行っている牧場に

預託するということが多々あります。

 

少々話がそれましたが、今回はケンタッキーで行われている

生産牧場でのセールス・プレップについてご紹介します。

 

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図1 セールス・プレップとコンサイニング

 

 

セリに上場される馬とされない馬の飼養管理の違い

 

日本と同じく、1歳の段階ですでにオーナーが決まっていてセリには

上場されない馬と、新たな買い手を求めてセリに上場される馬の

2パターンがあり、それぞれ管理方法が違います。

まずセリに上場されない馬ですが、ケンタッキーにはライムストーンと

呼ばれる石灰岩の層の上にアルカリ性の土壌が広がっており、

ケンタッキーブルーグラスを中心とした青草から

天然のミネラル分(カルシウムなど)が補給される恵まれた環境にあります。

 

また、新潟市と同じくらいの緯度にあり、

夏は暑過ぎず冬は寒過ぎない快適な気候を有しています。

ですので、セリに上場されない馬は悪天候時などの例外を除き、

基本的には24時間放牧が行われており、馬が怪我をしていないかなど

馬体のチェックを兼ねて朝夕2回放牧地で飼付されます。

 

一方、1歳セリは日本と同じく7~10月の夏季に開催されるため、

24時間放牧しているとどうしてもたてがみや体毛が

日焼けしてしまいます(図2)。

これは馬の成長には全く影響しませんが見栄えが悪くなるため、

セリに上場される馬は昼間の日光の強い時間を馬房内で過ごして、

夜間放牧(19時から翌朝7時まで)されています。

 

Photo_3図2 セリに上場される馬は日焼けを防ぐため夜間放牧される

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高⑧

○Proximal Suspensory Desmitis(PSD)いわゆる「深管骨瘤」について

 

今回は、育成馬に携わる人であれば一度は聞いたことがある疾病の

「深管骨瘤(通称シンカン)」についてご紹介致します。

深管『骨瘤』という病名が付いているこの病気ですが、

成書ではProximal Suspensory Desmitis(近位繋靭帯炎、以下PSD)と

記載されているとおり、実際の病態としては

第3中手骨の繋靭帯付着部における炎症に起因するものです(画像①)。

 

Photo画像①:赤丸内が繋靭帯付着部

 

沈み込んだ球節を繋靭帯が引っ張り上げる際、

この付着部には強いテンションがかかります。

PSDはその際に起こる外傷性の捻挫だと考えられており、

急旋回や細かい回転運動はそのリスクを高めるものとして知られています。

また、重症例ではこの部位が剥離骨折することもあります(画像②)。

 

Photo_2画像②:矢印先の逆U字型の骨折線

 

PSDを発症した場合、跛行は数日から数週間続きます。

急性例では熱感や腫脹を伴い、

同部に圧痛を認めることもあります(画像③)。

慢性例では間欠的な跛行を呈すのみで、

明らかな臨床所見を伴わないことがあります。

 

Photo_3画像③:触診方法(赤丸内が繋靭帯付着部)

 

診断は診断麻酔によって行います。

外側掌側神経麻酔(副手根骨の内側:画像④赤丸)を用い、

High-4-point麻酔(掌側中手神経および掌側指神経の麻酔:画像④青丸)を

併用することもあります。

ただし、上記麻酔は腕節以下全体に効果があるため、

確定診断には事前に球節以下の診断麻酔(Low-4-point麻酔:画像⑤)を

行うなどして、球節以下に異常がないことを確かめておく必要があります。

 

Photo_5画像④:外側掌側神経およびHigh-4-point麻酔

黄色線が神経走行(赤丸が外側掌側神経麻酔部位、

青丸がHigh-4-point麻酔部位)

 

Photo_6画像⑤:Low-4-point麻酔部位

 

上記のような骨折が認められることもあるため、

レントゲン検査などの画像診断も重要になってきます。

栗東トレーニング・センターでは、2013年より導入された

MRI装置を用いて予後の診断を行うこともあります(画像⑥)。

 

Photo_7画像⑥ 左:縦断面 右:左画像の黄色線部位における横断像

上記画像では黄色矢印部分が他の部分と比較して白く描出されており、

その部分に炎症が起きていると判断できます。

 

PSDは重症でなければ比較的早く調教復帰することも可能ですが、

調教再開時の再発例が多く認められます。

その要因の一つとして、一定期間休養させた若馬の騎乗再開時における、

スピードコントロールの困難さが挙げられます。

さらにもう一つの要因として、トラックで調教する前段階で

一般的に用いられているラウンドペンでのランジングや騎乗においては、

細かい回転運動が不可避であることが挙げられます。

そこで、日高育成牧場ではトレッドミルを用いた

リハビリテーションを行っています(画像⑦)。

 

Photo_8画像⑦:トレッドミルでのリハビリ風景

 

トレッドミルを用いるメリットとして、

・騎乗せずにある程度の負荷をかけることができる

・細かい回転運動を行わないで済む

などが挙げられます。

 

PSD発症馬に対しては、一定期間の休養で疼痛および跛行が消失した後、

トレッドミルで徐々に負荷をかけていきます。

多くの場合、トレッドミルでの運動を1週間程度実施する

リハビリテーションを行い、騎乗調教に復帰させています。

一度発症してしまうと繰り返すことも多く、

特に育成馬にとってはやっかいな病気の1つであるため、

強調教後はよく冷却するなど日常的なケアも重要です。

育成馬ブログ 生産編⑧(その2)

「感染性子宮内膜炎」について

 

○子宮内膜炎の治療

 

ハグヤードに所属する獣医師は、

検査室(Laboratory)から返ってきた結果をもとに治療を行っていました。

まとめると下記のとおりでした。

 

1)細菌が検出されないが、貯留液のみ認められる場合

→アセチルシステインを使用。製剤は10%なので、

3%に薄めて使用(製剤20mlに対し生理食塩水を40ml添加)。

60mlをポンプで2本、120mlを子宮内に注入。

 

2)β溶血性連鎖球菌(beta Streptococcus species)のみが検出された場合

→子宮洗浄(生理食塩水2リットルで2回)を行った後、

アンピシリンを使用(ペニシリン系であれば何でも良い)。

1バイアル(2g)を注射用水(滅菌水)で溶かして、

60mlのポンプで1本子宮内に注入。

 

3)大腸菌(Escherichia coli)のみが検出された場合

→子宮洗浄(生理食塩水2リットルで2回)を行った後、

ポリミキシンBを使用。

1バイアル(500,000U)を注射用水(滅菌水)で溶かして、

60mlのポンプで1本子宮内に注入。

 

4)β溶血性連鎖球菌および大腸菌の両方が検出された場合

→子宮洗浄(生理食塩水2リットルで2回)を行った後、

Timentin(Ticarcillin3gとClavulanic acid100mgが

あらかじめ混合された合剤)を使用。

1バイアルを注射用水(滅菌水)で溶かして、

60mlのポンプで1本子宮内に注入。

 

5)その他の細菌が検出された場合

→感受性試験の結果に基づいて抗菌薬を選択。

 

6)真菌が検出された場合

→真菌培養はハグヤードでは行っておらず、

コーネル大学もしくはケンタッキー大学に検査に出す。

感受性試験の結果に基づいて抗真菌薬を選択する。

 

 

○理想的な診療体制

 

前回ご紹介した日高での調査は4年間で1,252件のサンプルを

分析したものであったのに対し、

ハグヤードではたったの1年間で6,947件ものサンプルを検査していました。

なんと、日本の約22倍もの頻度できちんと検査が

行われているという計算になります。

もちろん、生産頭数も多いのですが、ケンタッキーが約12,000頭に対し

北海道は約6,800頭と1.8倍程度しか違いません。

 

前回の内容と重複しますが、我が国の感染性子宮内膜炎の治療においては、

その都度綿棒によるぬぐい液検査(子宮スワブ)および

薬剤感受性試験(どの抗菌薬が病原菌に効果的であるかを判定する検査)が

実施されているわけではなく、

臨床獣医師が経験的に抗菌薬を選択しているのが現状です。

 

ケンタッキーのように、全ての症例に対する検査の実施が理想的です。

しかし、土地が平坦で牧場が密集しているケンタッキーとは環境が異なり、

日高地区は山に囲まれ牧場地帯が広範囲に及んでおり、

一人の臨床獣医師が往診できる範囲も限られています。

また、馬専門の臨床獣医師が40名も所属する大病院もありません。

このことから、我が国においては当地の効率的な手法を

そのまま応用することは現実的ではなく、

それに代わる迅速で簡便な細菌検査法の導入が望まれます。

 

(おわり)