育成馬ブログ 日高⑥

ブリーズアップセールに向けての日高育成牧場での取組み その2

ブリーズアップセールのセリ名簿が刷り上り、日高育成牧場の職員にとってはセリが近づいていることをいよいよ実感する時期になってきました。

そのような中、JRA育成馬は例年以上に仕上がってきています。
前回のブログ(http://blog.jra.jp/ikusei/2020/02/post-7abd.html)でもお伝えしたように、当場では調教のギアを例年よりやや早め、12月には上げ始め、年明け以降も坂路およびトレッドミルで昨年より運動強度を高めた調教を実施してきました。グラフ①は前回のブログでご紹介したもので、昨年2019年(△)と今年2020年(●)の1月20日前後の屋内坂路ウッドチップコース(1000m)でのスピード(上がり3ハロン平均値)と乳酸値のデータを示しており、昨年と比較して本年は坂路でのスピードが速く、調教後の乳酸値が高い、すなわち運動強度が高い調教を行ってきたことを確認することができます。

Photo

グラフ①.昨年と本年の1月20日前後の屋内坂路コースでのスピードと乳酸値

そのような調教を積み重ねた後の2月中旬のデータがグラフ②です。昨年と比較すると今年は全体的にスピードが速い馬が多い一方で、乳酸値が低い傾向にあることがわかります。すなわち、2月時点では今年の育成馬がより体力がある、すなわちグラフ①で示したような運動強度を高い調教を行った効果が表れたと推定することができます。

2

グラフ②.昨年と本年の2月中旬の屋内坂路コースでのスピードと乳酸値


前回の当欄でも触れたとおり、若馬に対して強運動を負荷することにより懸念される馬体や精神面への悪影響を考慮して、強調教の翌日にはハッキングもしくはウォーキングマシンでの常歩調教など、引き続きダメージ回復に努めています。現時点では一部の牝馬で食欲低下が認められるものの、運動器疾患の発症頭数については例年とほぼ同程度です。

最後に、現時点で調教の動きが良い3頭を紹介します。

Photo_5No.8 イットーエンプレス2018(牝)、生産牧場:日高育成牧場(浦河)。父エスケンデレヤ。伸びのあるしっかりした馬体の持ち主で、体力・スピードいずれもトップレベル。坂路では持ったまま好時計で上がってきており、新規限定セッションの目玉になりそうです。

Photo_3No.37 ダンスフェイム2018(牡)、生産牧場:新井昭二(日高)。父ルーラーシップ。3代母ダンスパートナーの良血馬。母父ファルブラヴ譲りの筋肉質な馬体で、動きもパワフル。坂路も好タイムで上がってきています。

Photo_4No.71 ファンアンドゲイムス2018(牡)、生産牧場:谷口牧場(浦河)。父トゥザグローリー。姉4頭がJRAで勝ちあがる堅実な血統。横見がキレイな馬体で、坂路では好タイムを余裕で上がってきています。

育成馬ブログ(生産⑤)

冬期に枯れた放牧草の栄養価

 

雪のない放牧地
今シーズンは例年になく暖冬で、JRA日高育成牧場のある浦河町を含め日高管内の牧場地帯では1月末まで放牧地に雪がない状態が続きました(図1)。通常だとこの時期の馬たちは雪の上に置かれた乾草を食べていますが、今年は放牧地内の枯れた草を食べ続けていました。この状況が栄養学的に問題はないのか調べるため、枯れた放牧草の栄養分析を行いましたので今回はその結果についてご紹介したいと思います。

Photo

図1 1月末まで放牧地に雪はありませんでした

 

牧草の栄養分析
牧草の栄養分析は日本軽種馬協会が実施しています。分析には乾草では250g、青草(放牧草)では500g程度のサンプルが必要です(図2)。ご自身の牧場の乾草もしくは青草の栄養分析を行ってみたいという方は、お近くの農協もしくは役場までお問い合わせください。

Photo_2

図2 栄養分析用に採材された枯れ草

 

栄養分析の結果
 当場の放牧地6面(下表A~F)に生えていた草を本年1月14日に採材し、栄養分析を行いました。結果を表に示します。放牧地Aのみ数値が低くなっていますが、この放牧地は雑草が多くそもそもの栄養価が低かったためと考えられました。チモシー主体の放牧地B~Fでは、蛋白質・各種ミネラルともにチモシー乾草より高く、青草より低い範囲でした。以上の結果から、枯れた放牧草の栄養価は、乾草と青草の中間であると言えます。

Photo_5

表 枯れた放牧草の栄養価は乾草と青草の中間でした

 

今回の結果から、今シーズンのように冬期に雪が積もらず馬が枯れた放牧草を食べ続けても、栄養学的には特に問題はないと言えます。しかしながら、例年より深く土壌が凍結しているため、放牧草の冬枯れや早春の生育不良が懸念され、放牧地によってはローラーによる鎮圧等の処置をした方が良いかもしれません。心配な方はお近くの農協までご相談ください。

育成馬ブログ(日高⑤)

ブリーズアップセールに向けての日高育成牧場での取組み

 

 日高育成牧場がある浦河町は北海道内でも温暖かつ雪が少ないことで知られていますが、暖冬の今年はその傾向が特に顕著で、2月に至ってようやく冬らしい気温になったものの、根雪はほとんど無い状態が続いています。

 そのような中、JRA育成馬は4月のブリーズアップセールを目指して、例年よりやや早めに調教のギアを上げ始め、1月時点で昨年よりも運動強度を高めた調教を実施しています。昨年と今年の1月同時期の屋内坂路ウッドチップコース(1000m)での調教について、グラフ(図)を用いて説明すると、本年(●)は昨年(△)と比較してスピードを速めに設定したことで、調教後の乳酸値が高くなっています。

Photo

昨年と本年(いずれも1月20日前後)の屋内坂路コースでのスピードと乳酸値

 

 また、概ね週1回実施しているトレッドミル調教では、乳酸値が15mmol/L以上になるようにスピードと傾斜を設定したトレーニングメニューを馬毎に組んでいます。坂路およびトレッドミルいずれにおいても、昨年は乳酸値15mmol/Lを目標にして調教を進めていましたが、本年のそれは15mmol/L「以上」としています。なお、強度の高い調教をした翌日は馬のダメージを考慮して、ハッキングもしくはウォーキングマシンでの常歩調教など、低強度メニューを施すことで、馬の精神面にオンとオフを付与するとともに、身体のダメージ回復に努めています。

 一方で、若馬に対して強運動を負荷することにより懸念される馬体への悪影響については、1月末時点での運動器疾患の発症頭数が例年とほぼ同程度であることから、現時点では大きくないように感じます。

 今後も育成馬の肉体面と精神面の状態を詳細に観察しながら、各馬に応じた適切な運動負荷をかけていくことで、ブリーズアップセールのみならず、売却後の出走を念頭に置いた調教を積み重ねていきたいと思います。

 さて、そのような調教を行っているなかで、1月末の屋内坂路を好タイム(上がり3ハロン38~39秒)で駆け上がってきた3頭をここで紹介します。

 

 No.11 スズカグレイス2018(牝)、生産牧場:稲原牧場(平取)。父は新種牡馬マクフィ、近親にサイレンススズカがいる良血馬です。父の産駒らしいスピードを持っており、早い時期からの活躍が期待できそうです。

2018

 No.33 キャニオンリリー2018(牝)、生産牧場:谷川牧場(浦河)。父グランプリボス、エーデルワイス賞(JpnⅢ)を勝利した姉フクノドリーム、1月19日京都競馬の芝1600m未勝利戦を逃げ切った兄グレイトゲイナーはいずれもJRA育成馬。兄姉同様の競走馬らしい気性は大きな武器になりそうです。

2018_2

 

 No.36 ダイワジャンヌ2018(牝)、生産牧場:千代田牧場(静内)。初年度から活躍馬を多数輩出するキズナ産駒。トレッドミル調教では、現時点で一番負荷がかかるメニューを楽にこなしています。兄姉3頭はJRAで堅実に勝ちあがっています。

2018_3

 

育成馬ブログ(生産④)

今シーズンの新たな試み

 

 新年あけましておめでとうございます。本年も当ブログをよろしくお願いいたします。

 JRA日高育成牧場では今年も生産現場に役立つ実践的な調査・研究をしてまいりたいと思います。今回は、今シーズンから導入した飼養管理上の新たな試みについて紹介します。

 

○ブルーライトマスクによるライトコントロール

 繁殖牝馬へのライトコントロールの効果について、今まで当ブログでも紹介してきましたが(http://blog.jra.jp/ikusei/2014/01/post-5575.html)、今シーズンは一部の牝馬にブルーライトマスク(EquilumeTM Light Mask)を装着し、効果を検証しています(写真1)。このマスクは単眼ブリンカーの内側に組み込まれた青色発光ダイオードがタイマーによって16時から23時まで点灯するように設定されているため、繁殖牝馬に装着することにより夜間に馬房に集牧しなくてもライトコントロールの効果が得られるとされています。当場では今シーズン空胎馬を従来の馬房でライトコントロールを行う群とこのマスクを装着し24時間放牧を継続した群に分け、シーズン初回排卵の時期などについて検証を行っています。

Photo

写真1 今シーズンは一部の牝馬にブルーライトマスクを装着しています

 

○厳冬期昼夜放牧用のシェルターおよび水桶の導入

 北海道では当歳から1歳にかけての厳冬期の放牧管理も大きな課題の一つです。当場では以前、昼夜放牧を秋から継続して続ける群と昼放牧に切り替えウォーキングマシンによる運動を負荷する群に分けて比較するなど、様々な調査を行ってきました。

厳冬期の管理①(http://blog.jra.jp/ikusei/2012/12/post-2f5a.html

厳冬期の管理②(http://blog.jra.jp/ikusei/2013/01/post-8d83.html

厳冬期の管理③(http://blog.jra.jp/ikusei/2013/02/post-ae64.html

厳冬期の管理④(http://blog.jra.jp/ikusei/2013/03/post-2d55.html

 調査を始めた2010年当時から昨シーズンまで、当場では屋根のない風除けを冬期のみ一時的に設置し暴風雨を防いでいましたが、今シーズンからは屋根付きのシェルターを放牧地内に建設し使用を開始しました(写真2)。GPSを用いた過去の調査では毎日夜中の一定時間風除け付近で横臥して休息していることがわかっており、屋根が付いてさらに快適になった環境下で馬たちの行動がどのように変化するのか、観察を続けていきます。

Photo_2

写真2 今シーズンから屋根付きのシェルターを使用しています

  

 また、同じく昨シーズンまで当場では概ねマイナス10℃を下回ると放牧地内の水桶が凍ってしまっていたのですが、今シーズンは電気を利用した凍結防止機能付きの水桶を導入しました(写真3)。過去の調査において、厳冬期には血清中のBUNが上昇することがわかっており、これは脱水時など腎臓の血流量が低下していることを示しており、馬の健康管理上好ましい状況ではありませんでした。この新しい水桶の導入後、馬の血液検査の数値にどのような変化が現れるのか、あわせて比較してみたいと思います。

Photo_3

写真3 今シーズンから水桶に凍結防止機能が付きました

 

 以上のように、今シーズンも新たなチャレンジを続け、今後も現場に役立つ情報をたくさん発信できるようにがんばりたいと思いますので、当場の活動にご注目いただけましたら幸いです。

育成馬ブログ(日高④)

強い馬づくりのための生産育成技術講座2019

~進化するサラブレッド育成馬の調教~

 

 12月に入り、日高育成牧場では雪がちらつく日も多くなってきました。現在、育成馬たちは屋内800m周回コースおよび屋内坂路馬場での調教に加えて、週に1回、トレッドミルを用いた強調教を実施しています。また当場ではトレッドミルでの強調教後にルーチンで血液を採取し、乳酸値を測定しています。

 近年、競走馬の世界では人間のアスリートと同様に乳酸値をトレーニング負荷の指標として活用する方法が広がりつつあり、当ブログでもたびたび当場における乳酸値の活用方法を紹介しています。

http://blog.jra.jp/ikusei/2019/01/post-7abd.html
  

Photo

(トレッドミル調教後の採血)

 

 さて今回は、11月18日と19日に浦河と門別で「強い馬づくりのための生産育成技術講座2019~進化するサラブレッド育成馬の調教~」が開催されましたので、その概要についてお伝えします。

 この講座は生産育成にたずさわる関係者への情報提供・技術普及を目的としており、今回は育成牧場関係者や馬獣医師など、浦河では約110名、門別では約170名が参加しました。

 本年度のテーマは冒頭にも紹介しました「乳酸」。特別講演として、乳酸を活かしたスポーツトレーニング・運動と疲労との関係など運動生理学の分野で第一人者である東京大学の八田秀雄教授から「乳酸をどう考え利用したらよいのか?」というテーマのお話をしていただきました。http://jp.youtube.com/watch?v=DmQUIo_A9uE
  

Jpg

(壇上で特別講演をされる八田教授)

 

 八田教授の講演では、これまで「疲労物質」というような見方をされてきた乳酸が、実はエネルギー源となる物質であること、その乳酸を利用する能力のある細胞内のミトコンドリアを高強度トレーニングで増加させることが重要であることが示されました。八田教授はこれまでJRA競走馬総合研究所と長きに亘り共同研究をされてきていることから、サラブレッドのトレーニングについても精通されており、競走馬においても人間のアスリートと同様に高強度トレーニングによってミトコンドリアを増加させることで強い馬を作り出せるのではないかという考えを示されました。

 また当場業務課長の冨成から「日高育成牧場における乳酸を指標とした育成調教」http://jp.youtube.com/watch?v=u1XQ5jRX9wk むかわ町にある育成牧場エクワインレーシングの瀬瀬代表から「科学的トレーニングへの可能性~エクワインレーシングの取り組み~」http://jp.youtube.com/watch?v=uJhcz6Fo1cY というタイトルで話題提供が行われました。どちらの牧場においても調教後乳酸値は運動負荷の指標として非常に有用であると報告され、その具体的な活用方法についても紹介されました。

 最後の総合討論では、調教後乳酸値の目標値の設定など、競走馬における乳酸値の利用に関して検討課題が多くあることなど有意義な意見交換が行われました。http://jp.youtube.com/watch?v=WIcp3BAof9c

 今回の講座を受けて、これまで乳酸値を測定していなかった育成牧場が導入したり、すでに活用していた育成牧場でも今回の発表をふまえ、さらなる活用が行われるかもしれません。当場でも引き続きデータを蓄積し、多くの育成牧場の皆様のお役に立つような研究を積み重ねて参りたいと考えています。

育成馬ブログ(生産③)

“第二の離乳”~コンパニオンホースと引き離す際の影響~

 

 前回、当ブログでは離乳時にコンパニオンホースを導入すると当歳馬の体重減少が小さくなることを報告しました。

http://blog.jra.jp/ikusei/2019/10/post-76f0.html

 その過程で海外の文献を調べていくうちに、興味深い記載を発見しました。「コンパニオンホースと当歳馬を引き離す際に、離乳時と同等のストレスがかかる。」とのことです。

https://ker.com/equinews/common-methods-weaning-horses/

 そこで、今回は“第二の離乳”とでも呼ぶべき当歳馬からコンパニオンホースを引き離す際の影響について、前回と同じく体重減少を比較することで考察していきたいと思います。

 

○コンパニオンホースと引き離す際の当歳馬の体重減少

 JRA日高日高育成牧場では2013年から離乳時のコンパニオンホースの導入を始めました。そこで2013年以降に当場で生まれた当歳馬のうち、データが残っていた31頭のコンパニオンホースを引き離す前の体重と引き離した後の体重を比較しました。その結果、平均して体重は0.35kg増加していました。前回お示ししたとおり、離乳時は体重が減少するものであり、その平均値はコンパニオンホース導入前は4.54kg、導入後は2.72kgでした。統計学的に解析しても、減少幅は有意に少ないことがわかりました。

Photo

図1 当歳馬の体重減少の比較

 

○“第二の離乳”で体重が減少した当歳馬もいる

 平均するとプラスでしたが、中には体重が減少した当歳馬もいました。図2にその内訳を示しますが、最大で4kgも体重減少した当歳馬もいました。

Photo_2

図2 “第二の離乳”での当歳馬の体重減少の内訳

 以上のことから、当歳馬からコンパニオンホースを引き離す“第二の離乳”について、多くの場合は問題ないが中には注意しなくてはならない当歳馬もいる、というのが結論になりそうです。結局のところ、当歳馬を日頃からよく観察し、離乳時には個別にケアしてあげることが大切だと考えます。

育成馬ブログ(日高③)

○2つの嬉しいお知らせ

 

この秋、JRA日高育成牧場に2つの嬉しいニュースが届きました!

 まず1つ目は、9月15日に静岡県のつま恋乗馬倶楽部で行われた「第71回全日本障害馬術大会2019 PartⅡ」の内国産障害飛越競技において,当場職員の塚本敏一選手とフリーデン・アポロ号が見事に優勝を飾ったことです。

 内国産、すなわち国内で生産された乗馬による障害飛越競技の中で、最高峰の試合で優勝した塚本職員は、相棒アポロ号の調教のみならず、当場の育成馬の調教も担当しています。

 競走馬と馬術競技馬、それぞれに対する調教方法の共通点や相違点については、多くの馬関係者から様々な見解が示されていますが、両者に活用可能なテクニックや考え方を個々の馬の個性やステージに合わせて取り入れていくことが最も合理的ではないかと考えます。当場で育成馬に騎乗する他の職員も、やはり乗馬の騎乗や調教に従事しておりますので、今後も両者に対して、それぞれがより適切な方法でアプローチしていくことで、良い結果につなげていければと思います。

Photo_4

塚本敏一職員とフリーデン・アポロ号

Photo_5

育成馬に騎乗する塚本職員(中央)

 

 そして2つ目のグッドニュース、10月7日に栃木県の日本装削蹄協会 装蹄教育センターで行われた「第72回全国装蹄競技大会」において、当場の装蹄師、吉川誠人職員が2連覇を飾りました。

 この競技会は、実馬の装蹄や蹄鉄を作成する技術、さらに馬を観察して装蹄方針を決定する判断力など、装蹄師に必要とされる技量を総合的に競うものです。毎年1回開催される本大会で、全国から予選を勝ち抜いた装蹄師や過去大会の優勝経験者を含む36名が腕を競い合うなか、見事2年連続で吉川職員が最優秀選手の栄誉である農林水産大臣賞を授与され、優勝旗を日高育成牧場に持ち帰ってくれました。

 彼は繁殖牝馬や子馬、育成馬および乗馬のフットケアに従事しており、当場には欠かせない存在です。生まれたばかりの子馬、時にトップスピードでの調教を強いられる育成馬、体格の大きな乗馬や繁殖牝馬まで、同じ馬でも異なる形状や性質の蹄を取り扱う装蹄師は、各馬の課題に対する最適解を見つけるという高いスキルが要求されます。

Photo_7

競技中の吉川職員

Photo_8

優勝旗を手渡される吉川職員

 

 二人の活躍に刺激を受けた他のスタッフも、負けじとお互い切磋琢磨しながら技術を高めていこうと、場全体で盛り上がっています。

「馬づくりは人づくり」、まさに至言ですね!

育成馬ブログ(生産②)

離乳~コンパニオンホース導入の効果~

 

 9月に入り、朝夕はめっきり涼しくなってきました。今年生まれた当歳馬たちも放牧地内で母馬から離れて行動する時間が増え、生産牧場では離乳の時期となりました。当ブログにおいても過去にも何度か離乳の方法について取り上げています。

http://blog.jra.jp/ikusei/2011/09/post-26e4.html

http://blog.jra.jp/ikusei/2013/09/post-405b.html

http://blog.jra.jp/ikusei/2016/09/

 

 JRA日高育成牧場では「間引き法」と呼ばれる当歳馬ではなく母馬を別の放牧地に移動する方法を行ってきました。これに加え「コンパニオンホース」の導入による離乳後のストレス緩和を試みてきました。今回は、離乳時の当歳馬の体重データから、コンパニオンホースの効果を検証してみたいと思います。

 

コンパニオンホースと間引き法

 現在、当場で行っている離乳の方法を簡単にご紹介します。まず、子育て経験豊富な子付きではない牝馬(コンパニオンホース)を離乳前に母子の馬群に入れます(図1)。次に、放牧地で離乳する母馬を2~3頭間引いて、別の放牧地に連れていきます(図2)。この作業を1週間に1回ずつ行っていき、最終的に当歳馬の群に母馬はいなくなり、コンパニオンホースが1頭いる状態にします(図3)。コンパニオンホースは乳汁こそ出せませんが、母馬がいなくなって不安でいななく当歳馬たちの中でどっしり構えているため、離乳後のストレス緩和を期待してこの方法を取り入れてみました。

Photo_2

図1 コンパニオンホースの導入

Photo

図2 間引き法

Photo_4

図3 離乳後の当歳馬とコンパニオンホース(矢印)

 

コンパニオンホース導入の効果の検証~当歳馬の体重データから~

 当場では2013年から離乳時のコンパニオンホースの導入を始めました・2009年生まれ以降のJRAホームブレッド82頭の体重を比較したところ、コンパニオンホース導入前は体重が平均して4.5kg減少していたのが、導入後には平均して2.7kgの減少にとどまりました(図4)。これは統計学的にも有意な差であり、コンパニオンホースの導入により離乳後の当歳馬の体重減少を抑えられることがわかりました。

Photo_5

図4 コンパニオンホース導入前後の離乳時の当歳の体重減少

 毎年、離乳後の当歳馬のコンディションが崩れてしまうとお悩みの際には、コンパニオンホースの導入も一つの方法としてお考えいただけましたら幸いです。

育成馬ブログ(日高②)

○馬の横見写真撮影のポイント

 日高育成牧場では、ブリーズアップセールの前に上場馬の写真撮影を実施しています(図1)。今回は、その際に気をつけている撮影の条件やポイントをいくつかご紹介します。

Photo

図1:2019年コスモス賞優勝馬ルーチェデラヴィタ号
【父:キズナ、母:トウカイライフ】撮影は1歳7ヶ月時

 まず、撮影場所には、①整然としている(背景が雑然としていると印象が悪くなる)、②平坦で(まっすぐに駐立させるため)、③雑草や芝の丈が低い(伸びていると繋や蹄が隠れてしまう)場所を選びます。

 次に、屋外での撮影では、天候に配慮する必要があります。中でも最も重要かつ自在にコントロールできないのが光線です。馬の体型が正確に伝わるよう、明るさが十分に確保できる「晴れ」の日に撮影します。

 そして、馬体の左側面に光線が当たるよう駐立させます。「雨」や「雪」の日は論外として、「くもり」の日(特に背景が白くなる冬)や逆光の場合、馬体が暗く写ってしまいます(図2)。また、光が馬の前方や後方から当たっていると影が強く出てしまいます。

 なお、季節にもよりますが、光線の角度が低くなると馬が眩しがり、眠そうな目つきになるので、早朝や夕刻を避けるなど撮影時間にも配慮する必要があります(図3)。

 他の天候条件としては、が挙げられます。タテガミや尻尾が風に舞ってしまうことに加え、強風時には馬の落ち着きが無くなってしまうため、無風状態が理想的です。

Photo_2

図2:暗い天気(背景が雪)や強風時(タテガミが乱れる)は撮影に不向き

Photo_3
図3:眩しいと「眠たい」表情になる

 では、具体的な撮影方法を説明します。

①原則として、タテガミの垂れていない馬体左側を「表(おもて)」として立たせます。
②撮影者から見て四肢が重ならないように、蹄の位置を決めます。左右の蹄の間隔は、前肢が蹄0.5~1個分、後肢が蹄1~2個分が目安です(図4)。
③左前肢および右後肢の管部(第3中手ならびに中足骨)が地面に対し垂直になるように馬の重心を調整します(前方や後方に傾斜させない、図5)。
④保持者と助手が協調し、馬の頭部を適度な高さに保ち、顔を若干撮影者側に向けて額が見えるように、さらに耳が顔の正面に揃って向くように馬を動かします(図6)。
⑤保持者は、手が写りこまないように馬から距離をあけ、引き綱に余裕を持たせ少し垂らすように保持しつつ馬を御します(図6)。

4

図4:横から見たときの左右の蹄の間隔

Photo_12

Photo_13


図5:前方または後方に傾斜している駐立姿勢

Photo_14
図6:頭部を上げ、頭と耳の向きを調整する方法

 

 最後にカメラの設定や撮影テクニックをご紹介します。レンズは、画像の隅の歪みが強く出てしまう広角タイプのものは不向きです。撮影者の立ち位置は、馬体の正中線に対し真横、心臓の位置を通る垂線上となるよう決定します(図7)。従って馬の位置や向きが変われば、それに合わせて撮影者も動く必要があります。また、カメラを構える高さは、心臓の高さが望ましいとされています。なお、正しく駐立できているか判別できるのは撮影者のみですので、保持者に的確な指示を出すことも良い写真を撮るコツです。

Photo_15


図7:撮影者の立ち位置とカメラの焦点

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】
 JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

 アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

育成馬ブログ(生産①)

実践研修~募集中です!~

 

 JRA日高育成牧場では2015年から実践研修という牧場関係者向けの研修の受

入れを行っています。これは6名以下の少人数のグループで、希望する内容の

義・実技を自由に組み合わせて受講してもらうというスタイルの研修で、

過去4年間で延べ39牧場、270名の関係者に参加していただいております。

今回はこの実践研修についてご紹介いたします。

 

講義

 あらかじめこちらで用意したメニューから選んでもらう形にしていますが、

メニュー以外の内容でもご相談の上、講義を行うことができます。昨年行った

講義のメニューは、「スポーツ栄養」「牧草の栄養」「妊娠鑑定・直腸検査」

「妊娠馬の管理・分娩管理」「馬栄養学の基礎」「BCSの見方」「騎乗馴致」

「育成馬の疾患」と多岐にわたります。JRA日高育成牧場では生産・育成両方

を行っており、生産牧場・育成牧場どちらからでも関係者の受け入れを歓迎し

ております!

Photo

講義の様子(妊娠鑑定・直腸検査)

 

実技

 この研修のユニークな点は、実際に馬を用いて実技を行ってもらっているこ

とです。昨年は、「繁殖牝馬のBCSの見方」「子馬のコンフォメーションの見

方」「繁殖牝馬の削蹄・装蹄判断」「直腸検査」「騎乗馴致」「トリミング」

について実技を学んでもらいました。

Photo_2

実技の様子(繁殖牝馬の削蹄)

 実践研修について申し込みは窓口である日本軽種馬協会にファックスを送っ

ていただく形で行っています。この夏スキルアップしたいと考えている牧場関

係者の皆様は是非一度受講してみてください。お待ちしております!

 

 「実践研修プログラム申込書」ダウンロード