育成馬ブログ 日高⑥

育成馬の装蹄開始のタイミング

 

市場購買した1歳馬は、裸足、いわゆる

「跣蹄(せんてい)」の状態で入厩します。

その後、調教が進み、蹄が走行時の負担に耐えられなく

なってくると蹄鉄を装着します。

では、いったいどのタイミングで蹄鉄を装着するのが適切なのでしょうか?

 

1_3写真1 装蹄の様子

 

野生の馬は蹄を削切することも蹄鉄を装着することもありません。

それは彼らの運動量に関係しているのです。

競走馬や乗馬と比較して運動量が少ないため、

蹄が伸びた分だけ減ることで、バランスが保たれるため、

装蹄の必要がないわけです。

しかし育成馬は違います。

日々調教強度が増すとともに、蹄への負担は増加していきます。

蹄鉄には「滑走」および「摩滅」の防止という大きな役割があります。

運動時に跣蹄の状態で着地すると蹄が滑り、

蹄叉(蹄の裏の三角形の弾力装置、衝撃を和らげたり、

蹄の隅々に血液を送る重要な部位:写真2)に衝撃がかかります。

運動量が増えてくると蹄叉が絶えられなくなり、

中央部に横裂が生じます(写真2)。

このタイミングで装着すればまず問題はないでしょう。

この状態を見過ごすとやがて裂け目から出血し、

重度の場合には蹄叉欠損となり、調教は困難となります。

この兆候を見逃さず早めに蹄鉄を装着することが重要です。

 

Photo_2写真2 蹄叉の横裂

 

ほかにも蹄を曳きずったり、負重による摩滅を

削蹄で直しきれなくなった場合には早めの蹄鉄装着が必要となります。

当場では装蹄師による継続的なチェックを行うことで護蹄管理に努め、

必要に応じて前肢もしくは後肢のいずれか一方から、

もしくは最初から前後肢に蹄鉄を装着していきます。

2歳3月の現時点では、すべての育成馬に蹄鉄が装着されています。

蹄鉄を装着してからも蹄鉄の摩滅の具合は1頭1頭異なるため、

蹄鉄を装着したから大丈夫!ではなく、運動量とのバランスを

考慮しながら護蹄管理を続けることが重要といえるでしょう。

育成馬ブログ 生産編⑥(その2)

「交配誘発性子宮内膜炎」について

 

○治療の注意点

 

子宮洗浄および子宮収縮剤(オキシトシン、クロプロステノール)の

投与に関しては、治療のタイミングに注意が必要です。

どんなに早くても、交配後4時間以上経過してから治療を

行うようにしなくてはなりません。

なぜかというと、精子が受精する場である卵管内に到達するまでに

およそ4時間かかると考えられているからです。

その後であれば、子宮内に残った余分な精液は

本来繁殖牝馬から見れば異物であり、速やかに除去することで

炎症反応を抑えることができます(写真3)。

逆に、治療は遅くとも排卵の2日後までに行うようにしなくてはなりません。

理由は、受精卵が排卵5~6日後には卵管から子宮内に移動するので、

その前までに治療を終えておく必要があるからです。

 

Photo_5

写真3 交配4時間後以降に子宮洗浄を行い、余分な精液を除去

 

○交配翌日の経直腸超音波検査のススメ

 

交配翌日の経直腸超音波検査ですが、

上記のように排卵確認以外にも「交配誘発性子宮内膜炎」の

早期発見・早期治療につながるため、強く推奨されます。

たとえ期待通りに排卵が起こっていて卵管内で受精していたとしても、

子宮内に炎症があると着床が阻害され、

結果として「不受胎」となってしまう恐れがあります。

現在、hCGなどの排卵促進剤の使用が広く普及し、

交配翌日の検査を省略するというケースも散見されますが、

卵巣だけでなく子宮の状態を確認するためにも、

交配翌日の経直腸超音波検査をオススメします。

 

(おわり)

育成馬ブログ 生産編⑥(その1)

「交配誘発性子宮内膜炎」について

 

「交配誘発性子宮内膜炎」とは

 

そもそも「子宮内膜炎」とは文字通り繁殖牝馬の子宮内に炎症が起き、

受胎率が低下するやっかいな病気の一つです。

一般的には細菌や真菌(カビ)などの感染が原因で起こることが

知られていましたが、近年必ずしも感染が原因とは限らず、

交配(種付け)後の精液に対する過剰な免疫応答や子宮機能の低下により

精液の排出が上手くいかないことが原因で起こる子宮内膜炎が

存在することが明らかとなっています。

前者を「感染性子宮内膜炎」、

後者を「交配誘発性子宮内膜炎(Breeding Induced Endometritis

もしくはPost-Mating Induced Endometritis)」

と呼んで区別することが提唱されています。

 

診断と治療のポイント

 

交配の24時間後に排卵確認を兼ねて経直腸超音波検査を行い、

子宮内の状態を観察します。

そこで、子宮内貯留液が2cm以上認められる場合(写真1)、

もしくは炎症反応が8時間以上持続する場合、

「交配誘発性子宮内膜炎」と診断されます。

ここで綿棒によるぬぐい液検査(子宮内スワブ検査)を行っても、

細菌が検出されないことが「感染性子宮内膜炎」との違いです。

 

Photo_2写真1 種付けの24時間後に子宮内貯留液が2cm以上認められる

 

治療にはコルチコステロイド製剤(デキサメサゾン、プレドニゾロン)の

全身投与、子宮洗浄、子宮収縮剤(オキシトシン、クロプロステノール)の

投与などがあります。

「交配誘発性子宮内膜炎」には同じ馬が毎年繰り返して発症するという

特徴があるため、過去に同病を発症したことのある繁殖牝馬に対しては

炎症を抑えるためアセチルシステインを

交配前に子宮内に注入するという方法もあります(写真2)。

 

Photo_3写真2 交配前にアセチルシステインを子宮内に注入

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高⑤

○ 騎手課程生徒の研修を行いました(日高)

 

関東地方で春一番が吹いた2月17日。

日高育成牧場のある浦河町でも最高気温が

7度まであがり春を感じさせましたが、

その後は気温が急降下して20日夜には猛吹雪となりました。

景色は一気に冬に逆戻りしましたが、

この時期の気象の乱高下は毎年のことです。春は確実に近づいています。

 

1

写真① 一気に冬景色へと逆戻りした日高育成牧場の育成厩舎

 

 

●競馬学校騎手課程生徒の研修

 

今年も2月8日から5日間の日程で競馬学校から

騎手課程生第34期生が来場し、生産地研修を行いました。

馬産地日高で毎年行われるこの研修では、

生産牧場や種馬場の見学や普段彼らが

騎乗しない若馬(JRA育成馬)の調教騎乗を行います。

自分の目で生産地を見ると同時に、

生産・育成に携わり馬を育てている人々から

直接話を聞くことで、将来レースで騎乗する

競走馬達が背負っている“様々な思い”を

感じてもらうことが目的です。

競馬学校の基礎訓練を修了し、

美浦・栗東の両トレーニング・センターで

競走馬に騎乗する実践課程に進んだ彼らも、

若馬の取り扱いには慣れていません。

研修期間中は1人平均12鞍(3日間)に騎乗しました。

騎乗を重ねるごとに肩の力が抜け、

最終日には育成馬と一体になって

伸び伸びとした動きを見せてくれました。

 

●育成馬の近況

 

育成馬の調教メニューは前回ご紹介した内容から変わらず、

週2回(火曜日・金曜日)の坂路調教を行っています。

今回は騎手課程生徒が騎乗した、

調教中の様々なシーンを紹介します。

毎日の調教は角馬場でのウォーミングアップから始まります。

体をほぐして調教の準備をすると同時に、

獣医師・装蹄師・騎乗者という3者による

歩様検査をして馬の状態を確認します。

 

 

 

動画① 騎手課程生徒は赤白の染め分けヘルメットを被って騎乗します。

まだ少し緊張がみられます。

 

 

JRA育成馬のメイン調教場である800m屋内トラックです。

動画は2本目のキャンター調教で、

2列縦隊で走行するところです(1本目は縦列で実施)。

砂をかぶってもひるまず、前後左右の馬に気を取られることなく、

騎乗者の指示に従って走行することが目標になります。

 

 

動画② 3名の生徒が騎乗し、綺麗な隊列で走行しています

 

 

最後の動画は1000m屋内坂路馬場で、

ラスト3ハロンを57~54秒で駈け上がるところです。

馬場の中央を一列で走行し、

先頭の馬は真っ直ぐ同じペースで走りぬくことを、

後続馬は走りたい気持ちをためて、前を走る馬の

キックバック(前の馬が走行中に巻き上げるウッドチップなど)

に怯まないことを教えます。

 

動画③ 騎手課程生徒は先頭・後続など様々なポジションで騎乗しました。

1組目の先頭は山田敬士君が騎乗する

ゴートゥザノースの15(牝、父:バゴ)、

2組目の先頭は木村和士君が騎乗する

ロゼットネビュラの15(牝、父:エンパイアメーカー)。

 

 

彼らが生産地研修で得た経験を活かして、

競馬ファンの皆様や競馬サークルの皆様に

愛される騎手として将来活躍してくれることを期待しています。

さて、今回の報告は以上です。

今年のJRAブリーズアップセールは4月25日(火)に

中山競馬場で開催されます。

今いる育成馬と私たちが共に過ごせる時間も

あと2カ月弱になりました。

限られた時間に何ができるか、デビューしてから悔いが残らないよう、

しっかり考えながら毎日馬と向き合っていきたいと思います。

育成馬ブログ 生産編⑤(その2)

白線裂の治療と予防

 

白線裂による蹄感染症の治療は

主に疼痛管理と膿瘍除去になります。

教科書的には全身投与の抗炎症剤や

抗生物質の投与が推奨されています。

しかし、場合によっては

投与によって治癒が遅延することもあるため、

実施のタイミングなどについては議論の余地が残されています。

 

最終的に膿瘍が消失することで疼痛が緩解するため、

蹄底に穴をあけて強制的に排膿させることもできますが、

膿瘍形成部位の特定が困難であることが多く、

穴をあけることによって、

かえって跛行を悪化させる場合もあるため、

あまり推奨されません。

 

蹄冠部などの柔らかい部分からの

自然排膿を促すことを目的とした湿布処置、

神経ブロックによる麻酔処置後の

ランジング運動などが場合によっては有効です。

 

1_2

  自然排膿を促すことを目的とした湿布処置

 

 

予防としては、蹄を清潔に保持するための洗浄、

過度な乾燥を防ぐための蹄油塗布に加えて、

白線裂が見つかった場合、

進行を防ぐための括削や消毒(パコマなどの逆性せっけんが有効)

などがあげられます。

 

白線裂についても、

他の疾病や怪我と同様に

「早期発見、早期治療」が極めて重要です。

軽症例に対して、

括削や消毒などの処置を速やかに実施することによって、

重症例、ひいては感染症を予防することが可能となります。

 

当場では、子馬全頭に対する蹄洗浄および蹄油塗布、

さらに、白線裂の発症部位に対する

括削および消毒を実施しています。

これによって、白線裂の発症および進行を防いでいます。

 

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白線裂の進行を防ぐための括削

 

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白線裂の予防および治療で実施している蹄洗浄、消毒、蹄油塗布

 

Photo

 

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育成馬ブログ 生産編⑤(その1)

冬期の子馬の蹄のケア ~白線裂~

 

当場では、当歳から1歳にかけての冬期も昼夜放牧を実施しています。

冬期の昼夜放牧のメリットとして、

馬本来の生活形態である「群れ」で

多くの時間を過ごすことによる精神的な安定、

屋内で長時間繋養される場合と比較して

換気が良い屋外で過ごすことによる感染症予防などがあげられます。

 

デメリットとしては、

降雪による青草の摂取量減少、

運動量低下などがあげられます。

これらに対しては、

放牧地へのロール乾草設置や

ルーサンなどのコンパクト牧草を各所に散布、

ウォーキングマシンによる運動などの対策を実施しています。

 

一方、冬期の昼夜放牧による上記以外のデメリットとして、

蹄の感染症があげられます。

当場でも例年この時期は子馬の蹄感染症に悩まされています。

では、なぜこの時期に蹄の感染症が多いのでしょうか?

 

Photo

冬期放牧の悩みの1つは蹄の感染症

 

 

この時期の蹄感染症の原因の1つとして、

白線裂があげられます。

白線裂とは、

白線(蹄下面に見られる蹄底と蹄壁の境界。白帯ともいわれる)の

角質が腐敗あるいは崩壊することで、

蹄底と蹄壁が離開する状態です。

 

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白線の構造(蹄底)

 

1白線の構造(矢状断面)

 

1_2

 

1_3 

Photo_3

(上)正常蹄  (中)軽度の白線裂 (下)重度の白線裂

 

 

冬期に白線裂の発症が多い原因として、乾燥した空気、

放牧地の地面の凍結および泥濘(ぬかるみ)などが考えられます。

これらによって、

蹄の角質が脆弱化して白線が腐敗・崩壊します。

人間でもこの時期の水仕事で

手指の肌荒れに悩まされるのと同様です。

 

1_4 水仕事による手指の肌荒れと同様、

冬期の地面の凍結や泥濘(ぬかるみ)が白線裂の要因

 

 

白線裂が悪化して蹄内部にまで空洞が拡張すると、

離開部位から細菌や真菌などが侵入することで、

蹄内部における感染が成立、

すなわち膿瘍が形成されることによる疼痛を伴う炎症がおこり、

跛行を呈します。

軽症例の場合には、

そのまま自然治癒することも多いのですが、

重症例の場合には放牧を中止せざるを得ませんし、

治癒に時間を要する症例も少なくありません。

 

1_5白線裂から細菌などが侵入し膿瘍を形成する。

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高④

⦁ 運動時内視鏡検査を行いました(日高)

 

JRA日高育成牧場は一年で最も寒い季節を迎えました。

シーズン最盛期を迎えた町のスケートリンクでは、

ちびっ子スケーター達が毎日トレーニングに励んでいます。

浦河町でスケートをはじめ

ソチオリンピックに出場したウィリアムソン師円選手や

次期オリンピック代表候補の小田卓朗選手は、

彼らの憧れであり目標でもあります。

 

1

  写真1.浦河町の屋外スケートリンク

 

●育成馬の近況

 

まずはJRA育成馬の近況をお伝えします。

2歳育成馬の調教はここまで順調に進められています。

屋内800mトラックをキャンター1周(縦列:ハロン22秒程度)

してから手前を変えて2周(2列縦隊:ハロン20秒程度)する

基本メニューを継続しながら、

週に2回(火曜・金曜)の坂路調教を行っています。

現在、坂路調教日には

800mトラックのウォーミングアップ(2周、ハロン22秒程度)

してから坂路を2本(ラスト3ハロンを18-18-18秒程度)

駈けあがっています。

 

さらに放牧とウォーキングマシン運動だけで管理されていた

週2日の休日は1日だけになり、

週に1回屋内800mトラックを2周+2周(ハロン22-20秒程度)する

スタミナ調教もはじめました。

調教内容は徐々に強化され、

競走馬としてデビューする日に向けて

着実に前進しています。

 

 

動画1.坂路調教時の映像

先頭はビクトリアスズランの15(父:ケイムホーム)

  

 

●運動時内視鏡検査を実施しました

 

続いて育成馬に実施した運動時内視鏡検査

(オーバーグランド内視鏡検査:以下OGE検査)を紹介します。

以前の運動時内視鏡検査は

馬をトレッドミル上で走らせながら検査していました。

このOGE検査は騎乗しながら安全に内視鏡検査が実施できるため、

騎乗調教中の「ノドのライブ映像」が確認できます。

また、トレッドミル内視鏡検査では見つけられなかった

異常が発見できることもあります。

 

2

  写真2.運動時内視鏡検査。頭絡に固定した内視鏡(赤矢印)と

軽量化された映像保存機器(黄色矢印)が装着されています。

 

この育成馬は、枠場で行った安静時内視鏡検査で

喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia:以下LH)の

グレードが高かった馬です。

LHは、ノドにある披裂軟骨(図1参照)の動きが悪くなる疾患で、

その動き方や状態をみてグレードわけされます。

(正常グレードⅠ~異常グレードⅣに分類)

 

披裂軟骨は気管の入り口に位置し、

息を吸い込む際に大きく開くことで

気道が広がって十分な酸素を取り込みます。

披裂軟骨を動かす筋肉(背側輪状披裂筋など)を

支配する神経が麻痺すると披裂軟骨が十分開かなくなり、

走行中に十分な酸素が取り込めずに

プアパフォーマンス(本来持っている走行能力を発揮できない状態)

を引き起こします。

 

1_2

  図1.馬の上気道と内視鏡像

  

 

今回の検査は坂路調教時に実施し、

走行スピードはラスト3ハロンが58秒(20-19-19秒)でした。

この検査結果(動画2)をみると、

騎乗調教時には披裂軟骨が十分に開き、

気道が広く確保されていることがわかります。

(動画3と比較してください)

 

今後も必要な馬には、

積極的にOGE検査を実施しようと考えています。

 

 

動画2.OGE検査動画

駈歩中は左右の披裂軟骨が大きく開いて気道が確保されています。

検査中に録音した呼吸音にも異常は認められません。  

 

 

 

動画3.同じ馬の安静時検査動画  

 

 

●BTC34期生の騎乗研修

 

話は変わりますが、

以前紹介したBTC(軽種馬育成調教センター)研修生の

騎乗訓練が続いています。

19名いる研修生が2歳馬に騎乗できるのは

当場で行うこの研修だけなので、

彼らにとってとても貴重な経験になります。

研修は「4月10日(月)の育成馬展示会まで」という

限られた時間の中で、

少しでも多くのことを学んで、

競馬サークルを支える立派な人材に成長して欲しいと思っています。

 

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  写真3.JRA育成馬に騎乗する研修生(写真右端。青いヘルメットで騎乗)

 

 

●育成馬検査を行いました

 

最後に、宮崎育成牧場の記事でも紹介した育成馬検査を、

当場でも行ったので紹介します。

検査にはJRA本部から担当職員が来場し、

全馬の調教状況の確認ならびに馬体検査を行います。

この馬体検査では

馬の成長具合や疾病の有無を確認すると同時に、

手入れ・トリミング・しつけも含めた

馬をみていただく姿勢を評価する

“ベストターンドアウト賞”の審査も行いました。

この審査で高く評価されることを目指し、

職員ならびにBTC研修生は入念に担当馬を磨き上げるとともに

ウォーキングの練習を行いました。

このような審査を頻繁に実施することで

互いに競い合い、

お客様がいつ来場されても

馬をきちんと見ていただける環境を整えておきたいと考えています。

 

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  写真4.馬体検査中の育成馬

(レディフェアリー15、牝、父:ゼンノロブロイ)

 

寒さ厳しい季節ではありますが、

是非とも日高育成牧場にお越しください。

関係者の皆様のご来場、心からお待ちしております!

育成馬ブログ 生産編④

馬鼻肺炎ワクチンの効果

 

昨シーズンの日高管内における

馬鼻肺炎による流産発生頭数は例年より多い53頭、

今シーズンも1月14日時点ですでに9頭の発生が報告されています。

 

馬鼻肺炎の流産に対しては、

「適切な飼養管理(妊娠馬の隔離など)」

「ワクチン接種」

「流産発生を想定した準備」

が予防策の3本柱として極めて重要であり、

このうち1つでも欠かすことができません。

 

3

馬鼻肺炎の流産予防策の3本柱

 

このうちのワクチンについては、

正確な知識を持ったうえで

適切に接種することが馬の飼養管理者には求められます。

生産現場でこのような話を耳にすることがあります。

「馬鼻肺炎のワクチンは流産予防に効果がないのではないか?」

「ワクチン接種が流産をおこすのではないか?」

始めにお断りしておきますが、

これらの話は明らかに間違っています。

特に後者、

「ワクチン接種が流産を引き起こすこと」

は絶対にありません。

 

しかし、流産発生状況を見てみると、

ワクチン接種馬でも流産しています。

このことから、

ワクチンの流産予防効果を疑う人がいても

何ら不思議ではありません。

ワクチンの効果については

「馬鼻肺炎ウイルスの流産に対しては、

ワクチンでは完全には予防することができない」

というのが正確なところです。

 

では、なぜ完全に予防することができないのでしょうか?

それは馬鼻肺炎ウイルス(以下、EHV-1)の特性にあります。

EHV-1は免疫回避能力に長けているウイルスなのです。

どういうことでしょうか?

 

多くのウイルスや細菌などの病原体は、

免疫が備わったウマの体内に入った際には、

抗体や白血球などによる攻撃を受けることで

死滅もしくは病原性が減弱します。

 

一方、EHV-1の場合は

ウマのリンパ球内に入り込んで隠れることで、

抗体や白血球による攻撃から逃れ、

血液を介して子宮・胎盤にまで到達して流産を引き起こします。

したがって、ワクチンで十分な免疫が誘導されていても

流産が起こる場合があるのです。

  

Photo_2

EHV-1は免疫による攻撃を逃れる性質を有している。

  

だからといって

ワクチン接種が意味をなさないわけではありません。

馬鼻肺炎ワクチンに認められている重要な効果の1つに、

感染・発症したウマの鼻からのウイルス拡散の防止効果があります。

 

この効果をもたらす、

免疫のメカニズムの詳細は明らかではありませんが、

鼻粘膜において、リンパ球に入る前、

あるいはリンパ球から粘膜細胞に移行する際に

外に出たEHV-1を、

ワクチンによって誘導された抗体が攻撃することが

関与しているのかもしれません。

 

 

Photo_3

リンパ球の外に出たEHV-1を抗体や免疫細胞が攻撃する。

  

過去のブログ

http://blog.jra.jp/ikusei/2016/02/post-5999.html

でも触れたように、

EHV-1は多くのウマの神経節やリンパ節に潜伏しており、

それらが「再活性化」することで体内に拡がり

呼吸器症状や流産を引き起こします。

ただし、

再活性化は比較的多くのウマで

頻繁に起こっているらしいのですが、

流産発生頭数を考えると

「再活性化=必ず流産」ということではなさそうです。

 

しかし、1頭のウマが再活性化したEHV-1を

鼻からバラ撒くことで同居馬への感染が拡がり、

厩舎全体さらには牧場全体のウイルス量が増加することで、

流産発生リスクは確実に高まります。

このことから、ワクチン接種の効果としては、

再活性化した1頭のウマからの

ウイルス拡散を抑えることができて、

厩舎全体あるいは牧場全体の感染リスク、

ひいては流産発生リスクを減少させることだと考えられます。

 

ですから、

牧場内のワクチン接種プログラムを考慮する場合には、

「一部の妊娠馬だけ接種する」

「同居している空胎馬や当て馬には接種しない」

などといった考え方は、

このワクチンの効果的な使用法とは言えません。

可能な限り牧場全体のウマに接種することが望ましいのですが、

最低限、妊娠馬だけを他のウマから隔離した厩舎で飼養し、

妊娠馬全頭に確実にワクチンを接種する方法が推奨されます。

 

Photo_4

ワクチンではEHV-1の再活性化を防げないが、

ウイルス拡散を抑えることはできる。

  

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育成馬ブログ 日高③

○  本年もよろしくお願いいたします(日高)

 

日高育成牧場から本年最初の投稿となります。

昨年に引き続き、

同ブログならびにJRA育成馬をよろしくお願いします。

 

今年も1月5日の金杯から中央競馬がスタートしましたが、

この日の京都12レースで

JRA育成馬のオールインワン号が3勝目をあげ、

幸先の良いスタートを切る事ができました。

オーナーはじめ関係者の皆さま、おめでとうございます!

 

さて、JRA育成馬たちは

この年末年始を放牧とウォーキングマシン運動で過ごしました。

短期休養でリフレッシュした育成馬たちは

4日から通常調教を再開しています。

今回は、育成馬達の近況と年末年始のトピックスをお伝えします。

                       

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写真1.調教後のクーリングダウンで屋内馬場の外周を歩く育成馬。

トレーニング後に日高の澄んだ空気を吸うと人馬共にリラックスできます。

  

 

育成馬の近況

 

まずはJRA育成馬の近況をお伝えします。

昨年内は騎乗馴致を開始した時期ごとに

3群にわけて調教を行っていましたが、

全馬の足並みが揃った現在は皆が同じメニューをこなしています。

 

基本メニューは

屋内800mトラックをキャンター1周(縦列:ハロン22秒程度)した後、

手前を変えてキャンター2周(2列縦隊:ハロン20秒程度)する調教です。

12月以降はこれに加えて週2回の坂路調教も行っています。

 

1月現在、坂路調教日には

屋内800mトラックでウォーミングアップ

(キャンター2周:ハロン22秒程度)をしてから、

1000m坂路1本(ラスト3ハロンを20-20-20秒)を駆けあがっています。

 

調教時には定期的に心拍数の測定と血中乳酸値の測定を行い、

馬の体力を見た目(客観的データ)だけでなく

科学的指標でも判断するようにしています。

当初はハロン20秒のイーブンペースのキャンターで

息を切らして汗まみれになっていた馬たちも、

現在は爽やかな顔をして登坂できています。

心拍数や血中乳酸値の値からも馬の成長が伺えるので、

間もなく次のステップに進むことができそうです。

 

 

動画1.坂路調教映像。先頭馬は馬場の中央を真直ぐ走行し、

後続馬は前馬の真後ろでじっと我慢して走行することを目標にしています。

先頭を走るのはオウバイの15(牡、父:トーセンホマレボシ)。

 

  

浦河および荻伏軽種馬生産振興会青年部の視察

 

続いて年末年始のトピックスを紹介します。

昨年12月6日、浦河・荻伏地区の青年部メンバーによる

育成馬見学会が行われました。

当日は青年部メンバーがピックアップした

21頭の育成馬を比較展示し、

あわせて800m馬場での調教風景も見ていただきました。

生産者やコンサイナーである青年部メンバーと

様々な意見交換を行うことができ、

私たちにとってもとても良い刺激になりました。

是非また見に来ていただければと考えています。

 

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写真2.育成馬の展示風景。3~4頭にわけた比較展示を行いました。

 

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写真3.調教風景。角馬場で準備運動を行った後、

800m馬場で調教を視察してもらいました。

  

 

BTC利用者との意見交換会

 

続く12月8日、当場で恒例となった

“BTC利用者との育成に関する意見交換会”を開催しました。

テーマは前年のアンケート結果から

「若馬のゲート馴致について」を選びました。

当日は競馬開催時に発走委員として執務しているJRA職員も出席して、

①JRA育成馬のゲート馴致

②トレセン入厩に向けたゲート練習

についての話題提供を行ってから会場の参加者と意見を出し合いました。

 

今回、特に白熱した意見交換が行われたのは、

ゲートから馬を後退させて後扉から出す

「後出し馴致の活用法」と、

「ゲートが怖くなってしまった馬の矯正方法」です。

ゲート馴致に対する考え方や

ゲート試験に向けたアプローチは様々ですが、

育成に携わる参加者同士で意見交換を行う非常に有意義な時間となりました。

 

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写真4.意見交換会当日の風景

  

 

騎馬参拝

 

元旦翌日の1月2日、

こちらも恒例となった「騎馬参拝」が行われました。

人馬の無病息災を祈願するため、

日高育成牧場から西舎神社まで乗馬に騎乗して参拝します。

今年は好天に恵まれ、

多数の参拝者が見守る中を全馬無事に参拝することができました。

人馬ともに怪我のない1年になることを祈っています。

 

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写真5.騎馬参拝に臨む人馬

  

寒さも厳しくなって参りましたが、

是非ともJRA育成馬の姿を見にお越しください。

日高育成牧場では、皆様のご来場をお待ちしております!

 

育成馬ブログ 生産編③「その2」

おとなしい馬?or うるさい馬? その2

 

ブルーシート馴致を実施して、

当場の子馬5頭を刺激に対する反応で

大きく2つのグループに分けることができました。

 

今回は「刺激に対する反応」という

性格の1面のみにフォーカスしていますが、

結局のところ「おとなしい」と表現されている馬は、

「様々な刺激に対する反応が少ない、もしくは遅い」

「多くの刺激を過去に受けており、鈍感になっている」

「人に従順」

「活力(元気)がない」

などのうちのどれか、もしくはいくつかが重複しているのかもしれません。

 

一方、「うるさい」と表現される馬は、

「様々な刺激に対する反応が敏感で早い」

「様々な刺激に対する経験に乏しい」

「こわがり」

「テンションがあがりやすい」

「人の指示に従わず自己主張してくる」

「人の指示を理解できない」

「活力(元気)がある」

などがあげられるかもしれません。

  

このように考えると、

馬の性格を「おとなしい」と「うるさい」の

単純な二元論では分けられないことが理解できますし、

いくつかの性格に関しては、

生まれ持った性質である一方で、

残りのそれはトレーニングや人の接し方で

反対側の性格に変えることも可能です。

 

競走馬や将来競走馬になる育成馬にとって

必要な性格を上から選択していくと、

「人に従順」

「活力(元気)がある」

などは異論がないかもしれません。

 

それでは「刺激に対する反応」については、いかがでしょうか? 

観光用の乗馬であれば、

乗馬未経験者が騎乗する機会が多いため、

むしろ「反応が遅い、鈍感」の馬が適しているのかもしれません。

 

しかし、競走馬は

「素早くゲートから出る」

「ゴール前一瞬のスピードで前の馬をとらえる」

など、どちらかというと刺激に対しては敏感で反応が素早く、

状況によってはテンションが上がり易い性格も1つの武器になりえます。

 

このため、このようなサラブレッド特有の

「反応の過敏さ」と上手くつきあっていくことが、

競走馬や育成馬を取り扱う人間には求められるのです。

 

例えば、騎乗馴致やゲートなど

競走馬になるために避けて通れないいくつかのステップについては、

個々の性格を考慮して、

馬によっては他の馬よりも、

ゆっくり時間をかけて経験させることが重要です。

 

また、馬の過敏な反応に人間が呼応しないことも重要です。

怖がって反応している馬に対して、

扱う人間が同じように過敏に反応してしまっては、

さらに馬の恐怖は増幅されます。

このため、人間は泰然自若として、

落ち着いた態度で接することで、

馬を落ち着かせることが必要となります。

むしろ、馬は恐怖を感じる状況で、

落ち着いた態度をとる人間をリーダーとして認めます。

 

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馬の過敏な反応に人間が呼応しない

 

 

そういう意味では、恐怖を感じている馬に対して、

人間が短気を起こして怒ることは

全くもって逆の事をしているといえます。

このようなことから、

サラブレッド競走馬を取り扱う人には、

個々の馬の性格や馬が何を感じているのかを把握し、

それに応じた対応をとることができる

一定の技量と豊富な経験、

そして冷静で落ち着いた態度が必要なのかもしれません。

 

「うるさい馬」とは本当はどのような性格か、

なぜ「うるさく」感じられるのか、

今一度、馬と向き合って考える時間を設けてみてはいかがでしょうか。

 

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