育成馬ブログ(生産②)

離乳~コンパニオンホース導入の効果~

 

 9月に入り、朝夕はめっきり涼しくなってきました。今年生まれた当歳馬たちも放牧地内で母馬から離れて行動する時間が増え、生産牧場では離乳の時期となりました。当ブログにおいても過去にも何度か離乳の方法について取り上げています。

http://blog.jra.jp/ikusei/2011/09/post-26e4.html

http://blog.jra.jp/ikusei/2013/09/post-405b.html

http://blog.jra.jp/ikusei/2016/09/

 

 JRA日高育成牧場では「間引き法」と呼ばれる当歳馬ではなく母馬を別の放牧地に移動する方法を行ってきました。これに加え「コンパニオンホース」の導入による離乳後のストレス緩和を試みてきました。今回は、離乳時の当歳馬の体重データから、コンパニオンホースの効果を検証してみたいと思います。

 

コンパニオンホースと間引き法

 現在、当場で行っている離乳の方法を簡単にご紹介します。まず、子育て経験豊富な子付きではない牝馬(コンパニオンホース)を離乳前に母子の馬群に入れます(図1)。次に、放牧地で離乳する母馬を2~3頭間引いて、別の放牧地に連れていきます(図2)。この作業を1週間に1回ずつ行っていき、最終的に当歳馬の群に母馬はいなくなり、コンパニオンホースが1頭いる状態にします(図3)。コンパニオンホースは乳汁こそ出せませんが、母馬がいなくなって不安でいななく当歳馬たちの中でどっしり構えているため、離乳後のストレス緩和を期待してこの方法を取り入れてみました。

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図1 コンパニオンホースの導入

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図2 間引き法

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図3 離乳後の当歳馬とコンパニオンホース(矢印)

 

コンパニオンホース導入の効果の検証~当歳馬の体重データから~

 当場では2013年から離乳時のコンパニオンホースの導入を始めました・2009年生まれ以降のJRAホームブレッド82頭の体重を比較したところ、コンパニオンホース導入前は体重が平均して4.5kg減少していたのが、導入後には平均して2.7kgの減少にとどまりました(図4)。これは統計学的にも有意な差であり、コンパニオンホースの導入により離乳後の当歳馬の体重減少を抑えられることがわかりました。

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図4 コンパニオンホース導入前後の離乳時の当歳の体重減少

 毎年、離乳後の当歳馬のコンディションが崩れてしまうとお悩みの際には、コンパニオンホースの導入も一つの方法としてお考えいただけましたら幸いです。

育成馬ブログ(日高②)

○馬の横見写真撮影のポイント

 日高育成牧場では、ブリーズアップセールの前に上場馬の写真撮影を実施しています(図1)。今回は、その際に気をつけている撮影の条件やポイントをいくつかご紹介します。

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図1:2019年コスモス賞優勝馬ルーチェデラヴィタ号
【父:キズナ、母:トウカイライフ】撮影は1歳7ヶ月時

 まず、撮影場所には、①整然としている(背景が雑然としていると印象が悪くなる)、②平坦で(まっすぐに駐立させるため)、③雑草や芝の丈が低い(伸びていると繋や蹄が隠れてしまう)場所を選びます。

 次に、屋外での撮影では、天候に配慮する必要があります。中でも最も重要かつ自在にコントロールできないのが光線です。馬の体型が正確に伝わるよう、明るさが十分に確保できる「晴れ」の日に撮影します。

 そして、馬体の左側面に光線が当たるよう駐立させます。「雨」や「雪」の日は論外として、「くもり」の日(特に背景が白くなる冬)や逆光の場合、馬体が暗く写ってしまいます(図2)。また、光が馬の前方や後方から当たっていると影が強く出てしまいます。

 なお、季節にもよりますが、光線の角度が低くなると馬が眩しがり、眠そうな目つきになるので、早朝や夕刻を避けるなど撮影時間にも配慮する必要があります(図3)。

 他の天候条件としては、が挙げられます。タテガミや尻尾が風に舞ってしまうことに加え、強風時には馬の落ち着きが無くなってしまうため、無風状態が理想的です。

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図2:暗い天気(背景が雪)や強風時(タテガミが乱れる)は撮影に不向き

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図3:眩しいと「眠たい」表情になる

 では、具体的な撮影方法を説明します。

①原則として、タテガミの垂れていない馬体左側を「表(おもて)」として立たせます。
②撮影者から見て四肢が重ならないように、蹄の位置を決めます。左右の蹄の間隔は、前肢が蹄0.5~1個分、後肢が蹄1~2個分が目安です(図4)。
③左前肢および右後肢の管部(第3中手ならびに中足骨)が地面に対し垂直になるように馬の重心を調整します(前方や後方に傾斜させない、図5)。
④保持者と助手が協調し、馬の頭部を適度な高さに保ち、顔を若干撮影者側に向けて額が見えるように、さらに耳が顔の正面に揃って向くように馬を動かします(図6)。
⑤保持者は、手が写りこまないように馬から距離をあけ、引き綱に余裕を持たせ少し垂らすように保持しつつ馬を御します(図6)。

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図4:横から見たときの左右の蹄の間隔

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図5:前方または後方に傾斜している駐立姿勢

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図6:頭部を上げ、頭と耳の向きを調整する方法

 

 最後にカメラの設定や撮影テクニックをご紹介します。レンズは、画像の隅の歪みが強く出てしまう広角タイプのものは不向きです。撮影者の立ち位置は、馬体の正中線に対し真横、心臓の位置を通る垂線上となるよう決定します(図7)。従って馬の位置や向きが変われば、それに合わせて撮影者も動く必要があります。また、カメラを構える高さは、心臓の高さが望ましいとされています。なお、正しく駐立できているか判別できるのは撮影者のみですので、保持者に的確な指示を出すことも良い写真を撮るコツです。

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図7:撮影者の立ち位置とカメラの焦点

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】
 JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

 アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

育成馬ブログ(生産①)

実践研修~募集中です!~

 

 JRA日高育成牧場では2015年から実践研修という牧場関係者向けの研修の受

入れを行っています。これは6名以下の少人数のグループで、希望する内容の

義・実技を自由に組み合わせて受講してもらうというスタイルの研修で、

過去4年間で延べ39牧場、270名の関係者に参加していただいております。

今回はこの実践研修についてご紹介いたします。

 

講義

 あらかじめこちらで用意したメニューから選んでもらう形にしていますが、

メニュー以外の内容でもご相談の上、講義を行うことができます。昨年行った

講義のメニューは、「スポーツ栄養」「牧草の栄養」「妊娠鑑定・直腸検査」

「妊娠馬の管理・分娩管理」「馬栄養学の基礎」「BCSの見方」「騎乗馴致」

「育成馬の疾患」と多岐にわたります。JRA日高育成牧場では生産・育成両方

を行っており、生産牧場・育成牧場どちらからでも関係者の受け入れを歓迎し

ております!

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講義の様子(妊娠鑑定・直腸検査)

 

実技

 この研修のユニークな点は、実際に馬を用いて実技を行ってもらっているこ

とです。昨年は、「繁殖牝馬のBCSの見方」「子馬のコンフォメーションの見

方」「繁殖牝馬の削蹄・装蹄判断」「直腸検査」「騎乗馴致」「トリミング」

について実技を学んでもらいました。

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実技の様子(繁殖牝馬の削蹄)

 実践研修について申し込みは窓口である日本軽種馬協会にファックスを送っ

ていただく形で行っています。この夏スキルアップしたいと考えている牧場関

係者の皆様は是非一度受講してみてください。お待ちしております!

 

 「実践研修プログラム申込書」ダウンロード

育成馬ブログ(日高①)

~姿勢?いいえ肢勢(しせい)のお話です~

 

 今回の育成馬ブログでは「馬の肢(あし)」に関して少しお話をしたいと思

います。

 皆さんも学校などで「姿勢を正して!」と言われた経験はありませんか?

人間でしたら言葉で伝えれば背筋を伸ばして姿勢を正すことも出来ますが、

馬には伝わらないものです。

 ただ、馬の場合は姿勢ではなく「肢勢(しせい)」・・そう肢(あし)の

立ち姿が重要です。

 当場では、毎年10頭近くの仔馬達が誕生していますが、生まれたばかりの

仔馬たちの中には、写真1のように安定しない肢勢の立ち方をする馬もいます。

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写真1 生後まもない子馬。まだ立ち方が安定してない。 

 

 このような肢勢はほとんどが成長とともに改善しますが、矯正が必要になる

こともあります。そこで普段から歩き方や肢勢の観察を行い(写真2)、必要

があれば蹄(ひづめ)を切って調整します(写真3)

 ただし、削蹄だけでは改善できない場合には道具などを使って肢勢の矯正を

行います、まさに「肢勢を正して!」ですね。

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写真2 歩き方や肢勢をチェック

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写真3 蹄を切って調整中

 

 一例として、写真4は軽度の内反姿勢の仔馬のものです。内反姿勢とは下肢

関節が体の中心に向かって曲がってくる肢軸異常の一つで、蹄尖が内を向く

「内向肢勢」とは区別されています。

 写真の仔馬の場合は、削蹄でのバランス調整だけでなく、蹄用のウレタン製

樹脂の充填材を使い(写真5)、蹄の外側を人工的に広くする「張出し」

(写真6)を設けることによって正常な肢軸に近づくよう矯正を行いました。

これらの矯正は早ければ早いほど効果が期待できます。

 重要なことは普段から肢勢を観察し、何か異常を感じたらみつけたら早期に

適切な処置を施すことです。これこそ早期発見、早期治療ですね!

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写真4 内反肢勢の仔馬。腕節以下が内に曲がっている

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写真5 矯正のために蹄用のウレタン製樹脂の充填材を使用して張出しを製作

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写真6 完成した張出し部分

育成馬ブログ(日高⑧)

○2019JRAブリーズアップセールを振り返る

 

 4月23日、中山競馬場において「2019JRAブリーズアップセール」が開催さ

れ、盛況のうちに終了することができました。

 ご来場ご参加いただきお客様には、この場を借りて心より厚く御礼申し上げます。

 現場スタッフとしては、上場馬が多くのお客様から高評価を受けたことに加

えて、馬体の仕上がりや騎乗供覧での動きについて、複数の方から好意的なご

意見をいただいたことは今後の育成業務の励みになると感じています。

 

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上がり2F最速23.1秒を余裕の手ごたえでマークしたNo.15 ニシノミラクルの17

(父キズナ ご購買者:杉野公彦様)

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上がり2位2F23.2秒の鋭い動きを見せたNo.20 ミラクルフラッグの17

(父エスケンデレヤ ご購買者:宮本昇様)

 

 今期の日高育成牧場の調教方針については、前回の当欄

http://blog.jra.jp/ikusei/2019/04/post-5f85.html)でご紹介したよう

に、昨年よりも強い負荷をかけた調教を主眼に置いて取り組んできました。

 具体的には、長い距離を乗り込むよりも、短い距離で強い負荷がかかる坂路

調教を中心に行い、2月以降は調教後の乳酸値が15mmol/L以上に上がるように

各馬個別にスピード設定を行いました。

 また、強調教を坂路コースだけではなくトレッドミルでも実施し、同じく乳

酸値が15mmol/L以上になるように個々の馬でメニューを設定しました。

 これらの取り組みの結果として、BUセールでの騎乗供覧の動きや走行スピー

ドに繋がったものと捉えておりますし、有酸素運動能の指標であるV200などの

客観的な数値にも表れました。売却馬については、引き続き競走成績に着目し

ながら、育成調教の効果を検証していきたいと思います。

 一方、当場からの欠場馬は上場馬58頭中9頭と、昨年(58頭中10頭)に引き

続き少ない数字ではなく、来年に向けて必要な対策を講じていく必要がありま

す。原因の多くを占める運動器疾患、特に深管骨瘤については、適切な予防・

治療方法およびリハビリメニューの構築を目指していきたいと思います。

 来年以降もセリにご参加いただく多くの皆さまに喜んでいただけるような馬

を上場できるように、引き続き強い馬づくりに励むとともに、新たな調教技術

の開発や調査研究に取り組んでいきたいと思います。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

 JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログ

に対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただき

ましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

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育成馬ブログ(生産⑦)

○ブセレリンを用いた発情誘起その2~実践編~

 

 生産牧場では種付のピークを迎え忙しい時期か思います。過去に同ブログで

ブセレリンを用いた発情誘起に関する報告を紹介しました

 http://blog.jra.jp/ikusei/2018/12/post-1d33.html

 今シーズン実際にJRA日高育成牧場繋養の繁殖牝馬に使用する機会がありま

したので経過を簡単にご報告いたします。

 

ブセレリンを用いた発情誘起方法

 米国にあるハグヤード馬医療機関およびケンタッキー大学のグループの調査

によると、卵胞の発育不全が認められた牝馬に対してブセレリンを筋肉内投与

(1日2回12.5μg)すると、71%の牝馬において平均日数10.42日で卵胞が35

~40mmに発育したと報告されています。そのうち64%の牝馬が排卵し、

72%が受胎したとされています。

 

●JRA日高育成牧場での使用例

 当場において、ブセレリンを用いて発情誘起を行った例の経過をご紹介しま

す。同馬は6歳12月に競走馬を引退し、1月5日に当場に到着しました。すぐに

ライトコントロールを開始しましたが、3月下旬になっても発情がきませんでし

た。そこで、3月29日にエコー検査を行い、左右の卵巣に大きな卵胞が全く存

在しないことを確認したうえで、ブセレリンの投与を開始しました。ブセレリ

ン製剤には日本国内で製造販売されているエストマール注を用い(図1)、ハ

グヤードの報告どおりの投与量(12.5μg)になるように3mlずつ朝8時と午後

15時の1日2回筋肉内投与しました。投与開始6日後から卵胞が大きくなり始

め、10日後には排卵直前の基準となる35mm大にまで育ちました。そこで排卵

誘発剤であるhCG(ゴナトロピン3000、図2)を1アンプル静脈内投与し、翌

日種付に向かいました。翌日のエコー検査で排卵が確認され、2週間後の妊娠鑑

定で受胎していることが確認されました。

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図1 ブセレリン製剤(エストマール注)

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図2 hCG製剤(ゴナトロピン)

 

 ブセレリンは日本製の薬剤が市販されており、今回1例ではありますが海外で

の報告と同様の効果が確認できました。何らかの原因により卵胞が発育しなく

なってしまった牝馬の治療の選択肢の一つとして、ご紹介した方法がお役に立

てば光栄です。この方法を試したい場合はかかりつけの獣医師にご相談くださ

い。

育成馬ブログ(日高⑥)

○2019年ブリーズアップセールに向けて

 

 本年のブリーズアップセールの上場馬名簿

http://www.jra.go.jp/facilities/farm/training/bus/)が完成し、セール

まで残すところ1ヶ月少々となりました。日高育成牧場では本番に向けて、調教

もヒートアップしてきており、育成馬達も概ね順調に仕上がりつつあるところ

です。

 今回のブログでは、日高育成牧場の上場馬の中で、特に調教の動きが目立つ

4頭をピックアップして紹介したいと思います。

 

 牡馬ではダイワエタニティーの17(No.22 父ダンカーク)とミステリアス

ガールの17(No.46 父エスケンデレヤ)を紹介します。

 前者の半兄プレトリアも当場の育成馬で、現在1000万下条件で活躍中です。

兄は6月の2歳新馬戦で勝利しており、弟にも2歳の早い時期からの活躍が期待

されます。後者は新種牡馬エスケンデレヤの本邦初年度産駒。アメリカでは産

駒の活躍が目立っており、日本での活躍にも期待が膨らみます。

 3月5日の坂路調教ではこの2頭で併走し、上がり3ハロン40.1秒

(14.1-12.9-13.0)のタイムを持ったままで駆け上がってきました。

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左:ダイワエタニティの17(No.22 父ダンカーク)
右:ミステリアスガールの17(No.46 父エスケンデレヤ)

   

 牝馬ではアグネスリースの17(No.7 父ワールドエース)とトウカイライフ

の17(No.57 父キズナ)を紹介します。

 いずれの父もディープインパクト産駒の新種牡馬で、気性的にも動きを見て

も仕上がりが早い印象を受けます。3月5日の坂路での併走調教では、上がり

3ハロン40.6秒(14.4-13.0-13.2)のタイムをやはり持ったまま、余裕の手ご

たえで走ってきました。

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左:トウカイライフの17(No.57 父キズナ)
右:アグネスリースの17(No.7 父ワールドエース)

 

 4月8日(月)には当場で育成馬展示会が開催されます。当日は今回ご紹介し

た馬以外にも、多くの将来性の高い育成馬の調教をお見せいたしますので、是

非ご来場ください!心よりお待ちしています!

育成馬ブログ(生産⑥)

乳汁のpH値測定による分娩予知(米国イリノイ大学での調査)

 

 だいぶ暖かくなり、すでに分娩が始まっている牧場も多いことかと思いま

す。今回は以前よりJRA日高育成牧場で行っている妊娠馬の乳汁のpH値測定

による分娩予知について、米国でも同様の研究を行ったという報告がありま

したので、ご紹介いたします。

 

●乳汁のpH値測定による分娩予知

 過去に本ブログ(http://blog.jra.jp/ikusei/2011/05/post-d30d.html

でも紹介してまいりましたが、妊娠馬の乳汁のpH値低下が分娩予知に応用でき

ることを当場の頃末らが発見し、2013年に米国の学術雑誌“Journal of the

American Veterinary Medical Association”に論文として発表しました

(242号242~248ページ)。2014年には英国の教科書“Equine

Reproductive Procedures”にも引用され、馬の臨床上有用な研究成果である

ことが世界的に評価されています。(図1)

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図1 英国の教科書にも乳汁のpH値による分娩予知が掲載されています

 

●米国イリノイ大学での調査

 米国イリノイ大学でも同様の研究が行われ、2016年のAAEP(アメリカ馬臨

床獣医師協会)年次大会で発表されました。研究に供された品種および頭数は

明らかにされていませんが、分娩前の乳汁pH値の低下には下記の3パターンが

あったとのことでした。

 ①Fast Decrease:分娩直前にpHが下がるパターン。

 ②Slow Decrease:徐々にpHが下がるパターン。古馬に多かった。

 ③Alkaline pH:pHが下がらないまま分娩するパターン、極めて稀、乳汁中

  のNa+, K+, Ca2+も同じく変化していなかった。

 

●JRA日高育成牧場でのその後の調査結果

 2013年の発表後も、当場では分娩前の妊娠馬の乳汁pH値のデータを蓄積し

ています。イリノイ大学での調査結果と同じく、乳汁pH値は分娩当日まで低下

しないパターン(図2)および分娩5日ほど前から低下するパターン(図3)が

あることから、データを毎年記録することがその馬の分娩予知の精度の向上に

役立つと考えています。

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図2 乳汁pH値が分娩当日まで低下しないパターン

Photo_3図3 乳汁pH値が分娩5日ほど前から低下するパターン

 

 また、当場では分娩予知のための乳汁の採取を夕方(16~17時)に行ってい

ますが、そのpH値が基準値となる6.4まで低下していなかったにもかかわらず

分娩した例が約10%ありました。これらの馬においても、分娩直前の乳汁pHは

いずれも6.4以下であり、分娩前のpH低下時期には個体差が大きいことが示唆

されました。

 このことから私たちは現在、乳汁pHに加え繁殖牝馬の分娩直前の行動パター

ン、発汗量などの指標により分娩予知の精度向上を目指した研究を進めている

ところです。今後も、当場からの新たな研究成果の発信にご期待いただけまし

たら幸いです。

育成馬ブログ(日高⑤)

○調教後の乳酸値データの活用

 日高育成牧場の育成馬は9月の騎乗馴致後、屋内800mダートコースと屋内

1000m坂路コースを併用してトレーニングを積み重ね、1月時点ではルーチン

ワークとして各コース1000~1200m、合計2,200mをハロン20~22秒程度の

スピードでの縦列走行を行い、週1もしくは2回は坂路コースでの併走による比

較的速いスピードでの調教を取り入れています。

 

●乳酸値を活用した併走調教の組み分け

 この時点での併走調教におけるスピードは、速いグループでハロン16秒平均

(上がり3ハロン48秒)、遅いグループではハロン19秒平均(上がり3ハロン

57秒)と馬によって異なりますが、目安にしているのは調教後の乳酸値です。

 以前までの併走グループの組み分けは、走行スピード、騎乗者の感覚(手応

え)、馬の動きなどを総合的に判断して決めていましたが、現在はその判断材

料の1つとして調教後の乳酸値を含めています。

 下図に一例を示しますと、12月20日に屋内坂路1000mを2組のグループが

1ハロン約18秒平均(上がり3ハロン54秒)で走ってきました。各馬の調教後の

乳酸値(単位は全てmmol/L)は、1組目のA馬は9.3、B馬は9.9、C馬は5.7、

そして2組目のD馬は5.9、E馬は9.4でした。

 そこで、1週間後の12月27日には「A馬、B馬、E馬」と「C馬、D馬」にグ

ループ変更し、前者には1週前と同タイムの指示を、後者には前回よりも速いタ

イムを指示したところ、1組目は1ハロン約18秒平均で走り、A馬は12.3、B馬

は10.8、E馬は11.3でした。そして、2組目は1ハロン15.5秒平均(上がり3ハ

ロン46.5秒)で走り、C馬は15.1、D馬は14.7でした。後者については強度が

想定よりも上がってしまいましたが、いずれのグループも1週前と比較するとグ

ループ内の乳酸値に大きな差を認めなくなりました。

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 このように乳酸値を活用してグループ分けを行うことで、個々の馬に応じた

運動負荷を適切にかけることができるのではないかと考えており、1月現在は

「乳酸値が10mmol/L程度に上がるようなトレーニング」を週1もしくは2回実

施しています。

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坂路調教直後における乳酸値測定のための採血

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屋内坂路コースでの併走調教 (左)デュエットの17(めす 父タニノギムレット)、(右)ティンクルハートの17(めす 父クロフネ)。

上がり3ハロンのタイムは52.4秒で、乳酸値は両馬いずれも10.5mmol/Lでした。

 

●騎乗スタッフとの乳酸値データの共有

 騎乗調教において乳酸値を活用するうえでの欠点の1つは、調教後にしか測定

結果を出せない、すなわちリアルタイムで確認できないことです。このため、

あくまで前回の調教時のデータを活用せざるを得ないのが現状です。そこで当

場では、騎乗スタッフが自身の騎乗馬の動きとスピードから乳酸値を推定でき

るように、毎回の測定データを騎乗スタッフと共有しています。これによっ

て、騎乗者自身がターゲットとなる乳酸値が出る運動負荷を課すような騎乗を

することを目指しています。

 近年、人間のアスリートの世界では、乳酸値を活用して運動強度を設定する

トレーニング方法が注目されています。競走馬の世界でも「どの程度の乳酸値

を上げるトレーニング強度が必要なのか」、「乳酸値を上げるトレーニングは

何日間隔で行うのが効果的か」など検討課題は山積しています。

 日高育成牧場では、引き続き乳酸値のデータを蓄積していき、1~2歳の若馬

にそれらを活用した効果的なトレーニング方法を模索していきたいと思います。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに

対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきま

したご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

 

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育成馬ブログ(生産編⑤)

●交配に向けて繁殖牝馬の冬期の管理

 年が明け、いよいよ繁殖シーズンも近づいてまいりました。今回は当場で

行っている繁殖牝馬の冬期の管理についてご紹介いたします。

 

○繁殖牝馬の管理における冬期のポイント

 JRA日高育成牧場では例年3月中旬より交配(種付)を開始していますが、寒

い北海道で繁殖牝馬を管理する上で気を付けているポイントは下記の3点です。

① 12月20日(冬至)からライトコントロール開始

② 最高気温が2桁まで上がらなくなったら馬服着用開始

③ 積雪が概ね30㎝以上になったら放牧地内に乾草ロールを設置

 

○ライトコントロール

 ウマは日長時間が長くなることによって発情期が出現する「長日性季節繁殖

動物」であり、日照時間の短い北国において3月中旬から交配を開始するために

は馬房内に電球を点灯して人為的に明るい時間を延長するライトコントロール

が必要不可欠となります。過去に我々が空胎馬に対して行った調査によると、

12月中旬から明期14.5時間、暗期9.5時間のライトコントロールを開始する

と、2月下旬までに70%の、3月下旬までに90%の牝馬にシーズン初回排卵が

認められることがわかりました。このことから、現在は12月20日(冬至)前後

から昼放牧に切り替え、朝は5時半から夜は20時まで馬房内の電球が点灯する

ようにタイマーを設定し、ライトコントロールを行っています。妊娠馬に対し

ても同じくライトコントロールを実施することで妊娠期間の短縮および分娩後

の卵巣静止を予防する効果があると言われているため、同時にライトコント

ロールを開始しています。

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12月20日(冬至)からライトコントロール開始

 

○馬服の着用

 さらに、ウマは日長時間だけでなく気温の上昇によっても季節の変化を感じ

ていると言われているため、冬期は馬服の着用を行っています。着用する馬服

の種類にもよりますが、馬服を着用した状態で最高気温が概ね2桁(10℃)以

上になると汗をかき始めるため、汗が乾く際の気化熱で馬体がかえって冷えて

しまう恐れがあるので、最高気温が2桁まで上がらなくなったタイミングで馬服

を着用するようにしています。なお、JRA日高育成牧場では、防水・防風効果

に優れ、放牧に適したニュージーランドラグというタイプの馬服を着用してい

ます。

 

○放牧地内に乾草ロールを設置

 積雪がまだ少ない状態では馬は雪の下に生えている青草を掘って食べます

が、積雪が概ね30cm以上になると雪を掘るのが困難となってしまうため、乾草

ロールを放牧地内に設置します。これによってボディコンディションスコアの

低下を防ぐのと同時に、繊維分を補給することで疝痛の予防にもなります。な

お、かつては当場でも鉄製の草架を使用していましたが、事故防止および呼吸

器への影響(馬が上を向いた状態だと気管に埃が入りやすい)から現在は草架

を使用していません。

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馬服の着用と乾草ロールの設置

 

 繁殖シーズンが始まる前に交配に向けてしっかりと準備しておくことが重要

だと考えています。今回の記事が繁殖牝馬の管理に少しでもお役に立てば幸い

です。