育成馬ブログ 日高⑦

○  春は、もうそこまで!(日高)

3月も半ばまで来ると、日高育成牧場でもさすがに最低気温がマイナス5℃を超える日はなくなりました。近年では比較的暖かかった今年の冬。雪が降るたびに「これが今年最後の雪だろう」と話しながら、春の訪れを楽しみにしつつ日々の調教に励んでいます。

 

育成馬の調教状況

さて、JRA育成馬の調教状況をお伝えします。現在も1週間の調教をパターン化してスピード調教は火曜と金曜に行い、その翌日と休み明けとなる月曜には馬をリラックスさせる目的で屋内800mトラックの調教(ハロン24-20程度で2,000~2,400m)を、木曜は長めの距離(3,200m)を乗る運動を行っています。今ではこの「1週間のパターン」が人馬ともに定着し、その曜日の目的に沿ったメリハリのある調教ができています。

スピード調教は、屋内800mトラックで1,200mのウォーミングアップ後に屋内坂路馬場を2本登坂(3ハロン54-51秒程度)しています。3月初旬からは、1本目は精神面の鍛錬を目的とした隊列を乱さない縦列調教を行い、2本目で「併走」の練習を開始しています。併走調教を始めると馬同士の走りたい気持ちが高まるため、スピードは勿論ですが馬の迫力が増してきます。これまで幼かった馬達も徐々に競走馬らしくなってきました。

 

最近の調教動画(坂路調教)をご覧下さい。

 

こちら→https://www.youtube.com/watch?v=xUFLcSEpmvc&feature=youtu.be

動画1. 屋内坂路で行った併走練習の様子。向かって右がグディニアの13(牝、父:プリサイスエンド、BU番号67)、左がウインゼフィールの13(牝、父:ハービンジャー、BU番号29)。この日のタイムは3ハロン16.7-16.9-16.8でした。

 

こちら→https://www.youtube.com/watch?v=5ZRshmoRmbM&feature=youtu.be

動画2. 同じく併走練習の様子。向かって右がシゲルハチマンタイの13(牝、父:エンパイアメーカー、BU番号30)、左がファミリア―ストーリーの13(牝、父:バゴ、BU番号54)。この日のタイムは17.7-17.5-16.8でした。

 

獣医検査を実施しました。

育成馬の調教が本格化しているなか、ブリーズアップセール開催に向けた準備も着々と進んでいます。レポジトリー(馬医療情報開示)の準備もそのひとつで、ノドの内視鏡検査や屈腱部のエコー検査、前肢の近位種子骨と飛節部のレントゲン検査等を日々行っています。

3月10日、11日には、美浦トレーニングセンター競走馬診療所の獣医職員が来場して「獣医検査」を実施しました。この検査は、育成馬の健康状態や現時点の疾病有無を確認することを目的としており、全馬の調教を見たうえで歩様の悪い馬やレポジトリー検査で所見のあった馬を詳細に検査します。育成期の疾病状況をトレセン獣医師に把握してもらうことは、セール売却後に入厩した際の「引継ぎ」になるため非常に重要な検査だと考えています。

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写真1.獣医検査風景。歩様検査や疾病確認、ノドの内視鏡検査などを行いました。医療情報に漏れがないよう、複数の目で確認します。

 

育成馬展示会を開催します

今年の育成馬展示会は4月13日(月)に開催します。当日は10時から育成馬の比較展示を行った後、1600mダート馬場において2頭併走で騎乗供覧を行います。この展示会は、セール出発前の「育成馬お披露目式」であると同時に、軽種馬育成調教センター(BTC)の育成調教技術者養成研修生の卒業イベントとしての側面も併せ持ちます。昨秋の初期馴致研修以降、育成馬の騎乗研修を通して育成馬とともに成長してきたBTC研修生たちは、この展示会を最後に立派なホースマンとしてデビューします。育成馬同様、彼らの展示・騎乗技術にも注目してください。

 

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写真2.昨年の展示会風景。今年も大勢のお客様の来場をお待ちしています!

育成馬ブログ 生産編⑧「その2」

・育成期の屈腱に関する調査

 

 JRA日高育成牧場では、3年間に亘ってJRA育成馬165頭の屈腱部の超音波検査を

実施し、若馬の屈腱部に関する調査を行いました。

 調査は、育成調教開始前の1歳9月、およびブリーズアップセール前の2歳4月の2回、

屈腱部を6つの部位に分けて、浅屈腱の断面積を測定し、左右で比較しました。

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 結果を見ると、

いずれの部位でも、浅屈腱の断面積は、1歳9月の方が大きく、2歳4月にかけて徐々に

小さくなる傾向にありました。

 また、いずれの時期も、以前にトレセンで調査した成馬の値を上回っていました。

   

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すなわち、育成期の若馬の浅屈腱は、成馬より太く、

育成調教を行う過程において、徐々に正常に近づくことがわかりました。


・育成期の屈腱の左右差

 

また、屈腱を3つの部位に分けて、左右の太さ、すなわち断面積を比較してみました。

すると、左右で断面積の差が20%以上あった馬は、1歳9月および2歳4月のいずれの時期においても、育成馬全体の20%近くに達しました。

 

 成馬においては、浅屈腱断面積に左右差が20%以上認められた場合、浅屈腱炎の前兆と考えられていますが、育成馬では、5頭に1頭にそのような所見を認めたのです。

 

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なお、このような所見を有した育成馬であっても、超音波検査で腱損傷所見が

認められない場合には、通常どおりの調教が実施されました。

 

それでは、このような左右差が認められた馬は、他の馬と比較して、競走成績は

劣っていたのでしょうか?

競走期に屈腱炎を発症したのでしょうか?

調査馬のうち、中央競馬に登録した143頭について調査したところ、

出走回数、入着回数、および浅屈腱炎の発症率に有意差はありませんでした。

 

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すなわち、育成期に屈腱が通常より太い、もしくは太さが左右で異なった場合であっても、競走期のパフォーマンスに及ぼすような病的な状態ではなく、調教運動を通して改善されていくことが分かりました。

 

なぜ、若馬の腱は一時的に太くなるのでしょうか?

今回の調査で解明することはできませんでしたが、運動や骨成長などにより、

未成熟な腱が負荷を受けた際に認められる生理的反応の1つなのかもしれません。

 

この調査は、我々が育成馬を調教していく過程で遭遇した「若馬の屈腱腫脹」について、それが病的なものか否かを解明する目的で実施したものです。

 

JRA日高育成牧場では、生産者、育成関係者、そして市場購買者の皆様が日頃から疑問に思っていることについて、今後とも育成馬を用いた科学的な調査を行っていきます。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

 

育成馬ブログ 生産編⑧「その1」

 育成期の若馬の屈腱腫脹

 育成調教期の若馬で、「ウラがもやっとして、すっきりしない」「触わって腱が太く感じる」と表現するような、屈腱部のわずかな腫脹や帯熱を認めることはありませんか?

 我々、JRA日高育成牧場の育成馬でも、このような症状は珍しくない、一過性の現象であることを経験しています。

 

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 このような若馬に対して超音波検査を行った場合、浅屈腱が成馬と比較して太い、もしくは反対の正常肢と比較して太い所見は認められます。

 しかし、腱損傷を示す所見は認められません。

 

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 成馬においては、このような屈腱部の腫脹や帯熱は、浅屈腱炎すなわち「エビ」の症状もしくは前兆と理解されています。

 

 このため、若馬でこのような所見を認めた場合、育成調教の妨げとなるばかりではなく、市場価値の低下を招くことが懸念されます。

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 では、このような若馬の屈腱の腫脹や帯熱は、本当に屈腱炎の前兆なのでしょうか?競走期のパフォーマンスや屈腱炎発症に影響を及ぼすのでしょうか?

 

つづく

育成馬ブログ 日高⑥

○  アメニモマケズ(日高)

風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモ負ケヌ丈夫ナ体ヲ持チ・・・。宮澤賢治さんの有名な一節が脳裏に浮かびます。立春を過ぎてからも厳しい寒さはしばらく続きますが、JRA育成馬を“心身ともに健康な馬”に鍛えるため、風の日も吹雪の日も、トレーニングを続けています。

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写真1.風雪のなか屋内坂路馬場へと向かうパキータの13(牡、父:タニノギムレット)。

 

育成馬の調教状況

さて、JRA育成馬の調教状況をお伝えします。現在も、屋内800mトラックで縦列のキャンター(1周:ハロン23秒程度)後に、手前を変えて2列縦隊でのキャンター(2周:ハロン20秒程度)を行う調教を基本メニューにしています。強負荷の調教は屋内坂路馬場で毎週火曜日と金曜日に実施しており、屋内800mトラックでキャンター2周のウォーミングアップをしてから坂路に向かいます。2月中旬には坂路で3ハロン57秒(ハロン19秒)の走行を無理なく安定してできるようになったため、坂路2本の調教(3ハロン57-54秒程度)に移行しています。現在もスピードを求めるのではなく隊列を乱さず前馬との距離を2馬身に維持することに主眼を置き、精神面の鍛錬を目指しています。調教ボリュームが増えるこの時期は、下肢部運動器疾患や飼葉を食べなくなる馬が出る時期です。各馬の体調を毎日確認しながら、個別の管理に気を緩められません。

 

最近の調教動画(坂路調教)をご覧下さい。

動画1.坂路2本目の調教映像。先頭からヨクバリージョの13(牡、父:メイショウボーラー)、アーバンライナーの13(牡、父:タニノギムレット)、フローラルホームの13(牡、父ヨハネスブルグ)、ホーマンソレイユの13(牡、父:エンパイアメーカー)。この2本目の3ハロンのタイムは19.0-17.9-17.3(秒/ハロン)でした。

 

動画2.同じく坂路2本目の映像。先頭からウインゼフィールの13(牝、父:ハービンジャー)、シゲルハチマンタイの13(牝、父:エンパイアメーカー)、クレイステルスの13(牝、父:メイショウボーラー)、ドリームチルチルの13(牝、父:アグネスデジタル)。この2本目の3ハロンのタイムは18.5-17.4-17.5(秒/ハロン)でした。

 

 

競馬学校騎手課程生徒の研修

2月初旬に競馬学校第32期騎手課程生徒の研修を実施しました。これから騎手としてデビューしていく彼らは、この研修でJRA育成馬に騎乗して競馬学校では経験できないデビュー前の若馬の騎乗を初体験します。これに加えて、民間の生産牧場や育成牧場を訪問・視察して、厳冬期の厳しい自然環境のもとでも鍛錬を続ける生産育成現場を知ってもらいます。これは、競走馬を育てるために必要な手間と労力、さらには競走馬が背負っている「様々な人の思い」を伝えることが目的です。 

生産地に滞在した時間は長くはありませんが、生徒一人一人が感じた何かを今後に活かして欲しいと思います。

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写真2.騎手課程生徒のJRA育成馬騎乗訓練。赤白の染分け帽が騎手課程生徒です。

 

トレッドミル内視鏡検査を行いました

 ブリーズアップセール上場にむけ、JRA育成馬の各種検査が始まっています。検査項目はノドの内視鏡検査や前肢屈腱部のエコー検査、前肢球節部や飛節部のX線検査などで、JRA育成馬を購買されるお客様に開示するレポジトリー資料を作成するために実施しています。

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ノドの内視鏡検査は全頭実施します。そのなかで、確認項目の1つである「喉頭片麻痺」に所見のある育成馬については、運動中の内視鏡検査を追加で実施し競走能力に影響のある所見であるか否かを判断します。日高育成牧場で行う運動時内視鏡検査は、「トレッドミル」と呼ばれるルームランナーのような機械の上で馬を走らせながら内視鏡検査を実施して、運動中のノドの様子を確認する検査です。今回、ドリームニキハートの13(牡、父:ケイムホーム、JRAホームブレッド)の安静時内視鏡検査結果に所見が見られたため、トレッドミルを用いた運動時内視鏡検査を実施しましたのでご紹介します。

ではまず、ノドの安静時内視鏡検査動画をご覧ください。

 

動画3.安静時内視鏡検査動画。中心部にあるドーム状に開いた披裂軟骨の動きに注目してください。向かって右側の披裂軟骨の動きが左側に比べて悪く、完全に開いていません。運動時にこの状態が続くと十分な酸素を取り込むことができず、競走能力を低下させることがあります。

 

続いてトレッドミルの上を走行させて実施した検査動画をご覧ください。

動画4.運動時内視鏡動画。運動中には左右両方の披裂軟骨が十分に開いていることがわかります。この状態が維持できていれば、競走能力に影響を及ぼすことはありません。

 

今回の検査で運動中のノドの状態に問題ないことが確認できましたので、JRAブリーズアップセールに上場すべく他馬と同様の調教を継続しています。なおJRAブリーズアップセールでは、レポジトリールームにおいて内視鏡動画を公開しています。

 

本州では春一番の噂も聞こえてきていますが北海道はまだまだ厳しい寒さが続いています。とはいえこの時期は育成馬がぐっと良くなる時期でもあります。ブリーズアップセールが近付き調教も本格化してきた日高育成牧場では、育成馬をご覧になられる購買関係者のご来場をお待ちしています。皆様、是非お越しくださいませ!

 

育成馬ブログ 生産編⑦ 「その2」

厳冬期の昼夜放牧が競走期パフォーマンスに及ぼす影響

それでは、厳冬期の昼夜放牧は、競走期のパフォーマンスに対して、どの程度の影響を及ぼすのでしょうか?

 

「厳冬期の昼夜放牧で体力や精神力が鍛えられる」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。実際にはどうでしょうか?

 

11月から翌年3月の冬期において、「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン(以下WM)群」に分けた2010~2012年に生まれた3世代について、現段階(2015年2月現在 3世代目は現3歳)での競走成績を比較します。

 

「昼夜放牧群」の11頭は、全て2歳で中央競馬に出走することができました。一方の「昼放牧+WM群」は、11頭のうち3頭はブリーズアップセールに欠場(理由はセール直前の跛行や、後期育成期における放牧地での事故)、7頭は中央競馬、1頭は地方競馬での2歳デビューを果たしています。

 

出走した「昼夜放牧群」と「昼放牧+WM群」の競走成績(中央および地方競馬)を比較すると、後者3頭がセールを欠場しているため、出走率では前者が上回っています。一方、出走馬(11頭 vs 8頭)で比較した出走回数、勝率、連対率、3着内率、獲得賞金は後者の方が上回っています。

 

 

出走率

1頭あたり出走回数

勝率

連対率

3着内率

獲得賞金(中央値)

昼夜群

(11頭)

100%

8.4回

45.5%

54.5%

54.5%

178万円

昼放牧

+WM群

(11頭)

72.7%

12.3回

87.5%

87.5%

87.5%

713万円

中央競馬および地方競馬における成績(2015年2月1日現在)

 

「昼夜群」と「昼放牧+WM群」の両者について、「どちらが優れているか」を単純比較することは、頭数が少ないことから容易ではありません。しかし、競走成績から考察すると両群いずれも、概ね問題ない飼養管理方法であるとも考えられます。

 

では、実際に厳冬期の子馬に対して、どちらを選択するべきなのでしょうか?

明確な答えはありませんが、厳冬期に安全に飼養できる放牧環境(凍結防止の水桶など)、牧場スタッフの人数、WMの有無、セリの上場時期など、様々な状況に応じた選択をすれば良いのかもしれません。

また、気象状況や、GPSを用いて計測した放牧地での移動距離などに応じて、放牧時間やWMの実施を選択する柔軟な対応をしてもよいのかもしれません。

 

現在、JRA日高育成牧場では、全頭に対して厳冬期の昼夜放牧を実施したうえで、「WM実施群」と「昼夜放牧のみの群」とに分けて、厳冬期の昼夜放牧における運動刺激が、馬体に及ぼす影響を調査しています。ここでも、興味深いデータが得られましたら、ご報告したいと思います。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

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育成馬ブログ 生産編⑦ 「その1」

厳冬期の昼夜放牧

 JRA日高育成牧場では、この1~2月の厳冬期を含めて、通年昼夜放牧で子馬を管理しています。

今回はこの「厳冬期の昼夜放牧」について、馬体や競走期パフォーマンスに及ぼす影響について触れてみたいと思います。

 

馬体に及ぼす影響

現在はホームブレッド全頭に対して、厳冬期の昼夜放牧を実施していますが、2010~2012年に生まれた子馬については、11月から翌年3月まで「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン(以下WM)群」に分けて調査を行っていました。

(この期間以外は、生後1ヶ月から騎乗馴致開始前まで昼夜放牧を実施)

 

この調査によると、1~2月にかけての成長ホルモン様の作用を持つ「プロラクチン」の分泌が、昼夜放牧群では、昼放牧+WM群と比較して低い傾向にあることがわかりました。

また、心電計を用いた検査では、昼夜放牧群において、副交感神経の活動が優位、すなわち、「身体の代謝が低く抑えられている」ことがわかりました。

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すなわち、厳冬期における昼夜放牧は「子馬の成長や代謝を抑制する」との結論が示されました。

 

しかし、実際の馬体成長を比較してみると、体重、体高、胸囲、管囲のいずれの増加率も両群で有意差がないことがわかりました。

このことから、厳冬期の昼夜放牧を実施した場合、たとえ、プロラクチンの分泌濃度が低くても、「馬体の成長に及ぼす程の影響はなかった」と考えられました。

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あえて、馬体に及ぼす影響をあげるなら、冬毛が伸びるため、春時期においても毛づやの悪さが目立つことかもしれません。

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(次回につづく)

育成馬ブログ 日高⑤

○  育成馬の近況報告(日高)

年末年始には平年の約2倍近い降雪量があった日高育成牧場ですが、1月初旬から気候は一転して暖かく(?)なり、この時期には珍しく「雨」が降る日もみられました。とはいえ立春を迎えた現在は再び寒さがぶり返しており、春の訪れはもう少し先のようです。

    Photo_2写真1.育成牧場を訪れた珍客(?)。

育成馬の調教状況

さて、JRA育成馬の調教状況をお伝えします。日高育成牧場ではこれまで、出生時期や成長度合い、馬格などをもとに3つの群にわけて騎乗馴致を開始し、その群ごとに運動メニューを作成して調教を進めてきました。基礎体力がつき調教内容が本格化してきた1月中旬からは、全群が合流して同内容の調教を実施しています。

現在の基本メニューは、屋内800mトラックにおいて縦列のキャンター(1周:ハロン24秒程度)を行った後、手前を変えて2列縦隊でのキャンター(2周:ハロン21秒程度)を行うというものです。強めの負荷となる坂路調教は毎週火曜日と金曜日に実施しており、屋内800mトラックでキャンター2周のウォーミングアップをしてから坂路を1本(3ハロン57秒程度)駆けあがっています。スピードを求めるのではなく隊列を乱さず前馬との距離を2馬身に維持することに主眼を置き、精神面の鍛錬を目指しています。また、休み明けの月曜日と坂路調教翌日には800m屋内トラックにおいて「リラックス」させることに主眼を置いた調教を行っています。1週間の調教メニューをパターン化することで、育成馬に「オン」と「オフ」を理解させたメリハリのある調教ができるよう、心がけています。

一部の馬の近況動画(坂路調教)をご覧下さい。

 

動画1.先頭からステージワンスモアの13(牡、父:ローレルゲレイロ)、 アーバンライナーの13(牡、父:タニノギムレット)、フローラルホームの13(牡、父:ヨハネスブルグ)、シラタマの13(牡、父:サウスヴィグラス)。この日のタイムは3ハロンが20.3-19.6-19.1(秒/ハロン)でした。

 

動画2.先頭からマルカジュリエットの13(牝、父:スゥエプトオーヴァーボード)、スイートカフェの13(牝、父:パイロ)、シックファイターの13(牝、父:ワークフォース)。この日のタイムは3ハロンが19.3-18.9-18.4(秒/ハロン)でした。

 

動画3.先頭からテイエムサイレンの13(牡、父:シンボリクリスエス)、ナイキクレイバーの13(牡、父:アンライバルド)、ヴァルネリーナの13(牡、父:サムライハート)。この日のタイムは3ハロンが19.3-19.9-19.0(秒/ハロン)でした。

 

育成馬検査を行いました

先日、JRAの本部職員が来場して育成馬検査を行いました。これは、購買以降の馬体の成長具合や調教進度などを確認する定期検査で、騎乗馴致が終わった11月頃と調教が本格化する1月下旬頃の計2回実施しています。

この検査では、全馬の調教状況を確認してから1頭ずつの馬体検査を行います。検査者の前で駐立し、歩様検査を行う育成馬は、疾病の有無だけではなく駐立や引き馬の「しつけ」や見た目の美しさ(タテガミやのトリミング状態など)も評価されます。

 

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写真2.当日の検査風景。人馬の信頼関係やしつけの状態、トリミングが行き届いているかなど、多岐にわたる項目が検査されました。このような機会がある度に、ご来場いただいたお客様に「楽しんで育成馬を見ていただく」ための練習を繰り返し行っています。

 

今回、検査と並行して「ベストターンドアウト賞」を決定しました。ベストターンドアウト賞は日本ダービーやジャパンカップでも馴染みがありますが、「馬がよく躾けられ、美しく手入れされ、かつ人馬の一体感を感じさせる展示・引馬(リード)を行う」人馬に送られます。JRAの育成牧場では「馬を見ていただく」という気持ち・姿勢を再確認する機会として検査とあわせて実施しています。

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写真3.ベストターンドアウト賞(牝馬)に選ばれたカシノリボンの13(牝、父:タニノギムレット)

 

春の訪れはまだ先のようですが、ブリーズアップセールの上場番号も決まり育成馬も徐々に本格化してきた今日この頃。競走馬デビューの時を待ちわびる育成馬達を是非見に来てください。ご来場、心よりお待ちしております。

育成馬ブログ 生産編⑥

厳冬期の子馬の管理

 

JRA日高育成牧場では、この時期(1月)の子馬は昼夜放牧で管理しています。

 

【放牧時間】 

22時間(朝10:30~翌朝8:30)

※放牧時には馬服を着用

 

【飼料】

(1日2回)

朝(馬房内):スタム(バランサー)0.5kg、エンバク1kg、ルーサン2kg

夕(放牧地):スタム(バランサー)0.5kg、エンバク1kg、ルーサン2kg

この他に自家製牧草の自由採食(馬房内および放牧地)

 

【BCS】

5.0~5.6(全7頭の平均5.2)

※2013年産駒の同時期:5.4~6.0(全7頭の平均5.7)

 

【ADG(1日あたりの体重増加量)】

0.3~0.6(全7頭の平均0.4 12月初旬~1月初旬の1ヶ月間)

 

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午後の放牧地での飼付けの様子

 

BCSに関しては、昨年産駒の同時期と比較すると約0.5ポイント低い値を示しています(折れ線グラフ)。現在の給餌量は昨年同時期と比較してほぼ同量ですが、昨年は冬場に備えて比較的早い時期から、飼料(昨年はオールインワン飼料ワンダーオリジナル)を多めに与えてきたことによるものです(棒グラフ)。

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昨年は「厳冬期の成長停滞」および「春以降の急激な成長」の防止を目的として、秋季からBCSを高めに管理してきました。

馬体の成長に関しては、個体差はあったものの、概ね所期の目的を達成することができたように感じました。

一方、デメリットとして、9~10月にかけて球節の骨端炎(明らかな疼痛、帯熱が認められたもの)を発症する馬がいたこと(7頭中3頭)、1歳夏時期に市場購買馬と比較したところ、やや太めの馬体に映ったことがあげられました。

いずれも大きな問題には至りませんでしたが、草が豊富にある秋時期における濃厚飼料の過給が、骨端炎を始めとする骨軟骨症のリスクに繋がることを実感しました。

本年については、同時期における骨端炎の発症馬は認められませんでしたが、昨年より低めのBCSで冬を迎えたことが、今後の成長や健康状態にどのような影響を及ぼすか気になるところです。

 

今後、気温が更に低下する2月を迎えますが、BCSと増体量を観察していきながら、徐々に濃厚飼料を増やしていく予定です。

 

冬期の昼夜放牧に関する議論は尽きないところですが、日高育成牧場では、引き続き様々なデータを収集しつつ、最適な飼養管理方法を模索していきたいと思います。

 

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育成馬ブログ 日高④

○  本年もよろしくお願いします!(日高)

あけましておめでとうございます。昨年に引き続き、JRA育成馬ブログをよろしくお願いします。12月下旬の日高育成牧場には例年の2倍近い降雪があったため牧場は根雪に覆われており、まさに「厳冬期」です!マイナス10℃を下回る日も少なくなかった今回の年末年始、育成馬の管理は昼放牧のみとしましたが、事故なく無事に年始を迎えることができました。リフレッシュした育成馬達は元気に調教を再開しています。

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写真1.雪化粧した日高山脈と育成馬たち。

 

 

育成馬の調教状況

さて、JRA育成馬の調教状況についてお伝えします。第1群の牡馬は屋内800mトラックにおいて、縦列のキャンター(1周:ハロン24秒程度)を行った後に、手前を変えて2列縦隊でのキャンター(2周:ハロン22秒程度)を行うメニューを継続しています。年末には体力もつき走りたい気持ちを前面に出す馬が多くなってきますが、前馬との距離を2馬身に保ち前後左右の隊列を整えた調教を行っています。屋外1600m馬場が雪でクローズされた11月末以降は、週2回の屋内坂路馬場での調教を上記メニューと併せて行っています。坂路調教日は屋内800mトラックでキャンター2周のウォーミングアップをしてから坂路を1本駆けあがる(3ハロン60秒程度)調教を行っています。

第2群の牝馬もしっかり体力をつけており、1群とほぼ同内容の調教を行っても息の入りが早くなり騎乗者の手応えにも余裕が出てきました。12月から開始した坂路調教にも徐々に慣れ、年末までには週2回の坂路調教(1本、3ハロン66秒程度)が安定して行えるようになりました。

馴致を最後に開始した第3群も概ね順調に調教が進んでおり、12月末には坂路での調教ができるまでになりました。これから体力をつけていき、1月中旬を目途に1・2群と合流する予定です。


動画1.坂路調教を行う2群の牝馬。3~5頭を1ロットとした縦列調教を行っています。日々先頭を入れ替えることで、先頭の馬には自ら前に出る前進気勢を、後続の馬には走りたい気持ちを我慢することを教えています。

 

ゲート馴致と確認試験

JRA育成馬に対するゲート練習は、入厩して騎乗馴致を開始した時点から毎日行っています。ウォーミングアップを行う覆角馬場に練習用ゲートを設置して、このゲートを馴致・調教時に通過することで、ゲート通過を馬にとっての「特別なこと」ではなく「日常、当然のこと」と理解させます。JRAでは、育成段階におけるゲート馴致の目標を“前扉を閉めたゲートに入り後扉を閉めて、リラックスした状態で駐立し、前扉を開けたら常歩で発進すること“としています。昨年末からこの確認試験を開始しており、これまでに順次合格していっています。3月に再び確認試験(最終)を行ってブリーズアップセールに臨みます。

 

 

動画2.ゲートの確認試験を行う育成馬

 

BTC利用者との意見交換会

昨年12月16日、当場では「若馬の鍛錬~心身ともに健康な馬に鍛えあげる~」をテーマに、2歳戦の早期から活躍できる馬に鍛えるための取り組みや工夫についての意見交換会を開催しました。はじめに日高育成牧場から「アイルランドの調教」と「トレーニング効果の判定方法」についての話題提供を行い、パネリスト3名(BTC利用者代表)を中心にフロアーの参加者と意見を出し合いました。今回、特に白熱した意見交換が行われたのは「隊列の考え方」と「奥手な馬の取扱い」、「トレーニング効果の判定方法」の3項目でした。JRA育成馬の調教を進めるうえで悩むことの多いこれらの項目について、BTC利用牧場の皆様と意見交換が行える非常に有意義な時間となりました。早期から勝ちあがる強い馬を作るという共通の目標に向けて、意見交換会は今後も引き続き実施したいと考えています。

 

BTC32期研修生の騎乗研修

1月7日からBTC育成調教技術者養成研修生の騎乗実習が始まりました。今年は18名の研修生が4月の育成馬展示会までの約3ヶ月間、JRA育成馬を用いた騎乗実習を行います。馴致実習を行ったJRA育成馬と久しぶりに再開した研修生は、若馬の成長ぶりに驚いていました。研修生にとってこの研修がはじめての若馬騎乗機会となるため、しばらくは若馬の動きに対応しきれないことも多々あります。しかし、実習が進むにつれて若馬と一緒に大きな成長を遂げ、4月には一人前の騎乗者・ホースマンに成長して卒業していきます。近い将来、彼らが育成牧場の最前線で働く際に、今回の騎乗実習で得た経験を役立てられるようにしっかりとサポートしたいです。

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写真2.BTC研修生の騎乗実習が始まりました(2列目内の騎乗者がBTC研修生)。はじめて行う若馬の調教に緊張しながらもしっかり騎乗できています。

 

厳しい寒さの続く北海道で鍛えられるJRA育成馬たち。競走馬としてデビューする日を夢見て日々成長する彼らを見に、ぜひ日高育成牧場まで足を運んでください。皆様のお越しをお待ちしています!

育成馬ブログ 生産編⑤ 「その2」

離乳後の子馬の取扱い 馬房内での張り馬

 

馬房内での手入れについては、離乳後から張り馬で実施しています。

当場では、馬房の奥の壁に1本のチェーンで張っています。

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このように、出入口に対して後ろ向きに張る理由として、

「出入口に向かって出て行こうとしない」

「出入口が見えないので馬が安心できる」

「後方からの人の接近に慣れさせることができる」

「人を蹴らないことを教えることができる」などの様々な利点があります。

 

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後ろ向きの張り馬により、後方からの人の接近に慣れさせることができる 

 

この他にも、後方から与えるプレッシャーで、馬が左右に動くことを覚えることは、騎乗馴致におけるドライビング、その後の騎乗における「馬の後方からの指示」にも繋がります。

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張り馬での後方からの指示は、その後の騎乗にも繋がる

 

張り馬の馴致では、最初は引き手をリングに通して、2名1組で慣らします。慣れてきたら徐々に「タイチェーン」を使用して張り馬をします。

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最初は引き手を通して張り馬をする

 

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タイチェーン:馬側の段端にはナイロン紐を装着し、外傷・馬具破損を予防

 

馬によっては、立ち上がったり、後退したりすることで、チェーンを破損する癖がつくことがあります。このような場合には、引き手を引っ張って、抑え込むのではなく、後方からプレッシャーをかけて、大人しく駐立したらプレッシャーを「オフ」にして安心感を与えながら時間をかけて慣らしていきます。

 

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立ち上がる場合、引っ張るのではなく、後方からプレッシャーを与える

 

当場のように、子馬をほぼ1年とおして昼夜放牧している場合には、人と馬が接する時間は限られてきます。1日のうち、多くの時間は馬同士で過ごすことにより、馬本来の自然な生活をしてもらう一方で、収放牧や手入れなど、人と向き合ったときには、しっかりと人に対する信頼感や安心感を育んでもらいたいと思います。