22-23育成馬ブログ(宮崎②)

〇2022~23年シーズン宮崎育成馬が揃いました!
 

 去る9月末日、セプテンバーセールで購買した牝馬3頭が日高からの長旅の末、宮崎育成牧場に到着しました。これをもって、本年の宮崎育成馬22頭(牡11頭、牝11頭)が揃ったことになります。先の日高育成牧場からの報告にもある通り、1歳セリをはじめとする馬市場の盛況ぶりを反映して、育成馬の購買価格も上昇しており、宮崎にも1,000万円を超える価格で購買した馬が6頭入厩しました。これらの馬を含めた22頭のラインナップは例年にも増してバラエティ豊かです。血統的には、実績あるドゥラメンテやモーリス、初年度産駒である現2歳世代が活躍を見せマインドユアビスケッツやデクラレーションオブウォー、そしてこの1歳世代が初年度産駒となるシュヴァルグラン、スワーヴリチャード、アニマルキングダムなど、今が旬の種牡馬の産駒が揃っていますし、母馬をみてもステイゴールドの妹やウインドインハーヘアの孫、そして最近続けざまに活躍馬を出している「バラ一族」ロゼカラーの娘など、母系にも魅力的な血統背景を持つ馬が多くいます。また宮崎育成牧場出身のタムロチェリーの孫(タムロブライト2021)はダイヤモンドステークス(G3)を勝利したミライヘノツバサ号の弟という血統馬でもあります。血統面だけでなく馬体や精神面においても素質の高さがうかがわれる楽しみな馬たちが揃っていますので、その能力を100%発揮できるよう、彼らに寄り添って成長を促していきたいと思います。

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九州産馬プリンセスゴールド2021(牝、父ケイムホーム)

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宮崎ゆかりの血統タムロブライト2021(牡、父オルフェーヴル)

〇入厩神事ならびに育成馬見学会を開催しました
 

 育成馬が全頭入厩したことを受けて、育成調教における人馬の無事を願って入厩神事を執り行いました。宮崎育成牧場では例年、育成馬の入厩時と退厩時(ブリーズアップセールへの出発時)に、当牧場から程近い、神武天皇を祀る宮崎神宮の権禰宜(ごんねぎ)を祭主様としてお迎えして神事を執り行っています。馬に携わる仕事である以上、ケガは付き物ではありますが、どうすればケガや事故を防ぐことができるかを常に念頭に置いて業務にあたることが重要となります。このような機会を通じて、安全対策への認識を新たにし、緊張感をもって育成調教に取り組んでいきたいと思います。

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 また、10月29日には、本年の宮崎育成馬の初お披露目の機会となる「秋の育成馬見学会」を開催しました。当日は、日頃からJRA育成馬や宮崎育成牧場を応援してくださっている近隣にお住いの方々だけでなく、HPなどで開催日時を調べて訪れてくださった熱心なファンの方など73名のお客様にご来場いただきました。開催に向けては、念入りにトリミングを行って身だしなみを整えるとともに、展示のリハーサルを繰り返して、万全を期して臨みましたが、その成果もあって全馬ともにお行儀よく、かつ堂々とした姿を見ていただくことができました。初めて育成馬を間近で見たお客様も多く、迫力ある雄大な馬体と、1歳にして人の指示をしっかり理解するスマートさのギャップに魅力を感じていただけたようでした。来春にはさらに成長した姿をお披露目できる機会を設けたいと考えておりますので、ご興味のある方は是非足をお運びいただければと思います。

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〇集団放牧で脱“馬見知り”
 

 育成馬たちの現況としましては、騎乗馴致を経て馬場での騎乗調教が始まった段階です。宮崎育成牧場では、南国の温暖な気候を生かして、11月でも夜間放牧(夕方4時頃から翌朝8時頃まで)を実施しています。育成馬の放牧の目的としては、運動量増加による体力増強、良質な牧草の摂取による成長促進、集団行動による群れへの順応、といったことが挙げられます。当場には約1ヘクタールの放牧地が6面あり、それぞれに3~4頭を放牧していますが、今年の宮崎育成馬においては、群れへの順応という観点から、定期的にその組み合わせを変更する試みを行っています。固定されたメンバー同士で放牧するほうが、馬も精神的に安定して落ち着いた群れになると考えられますが、一方で、競走馬になってからはトレセンや競馬場で、常に多数の馴染みのない馬たちと顔を合わせることになります。そのような環境でも平常心を保っていられることは、持てる能力を最大限発揮する上で、重要な要素の一つと言えます。育成馬たちは、メンバーが変わるたびに、匂いを嗅ぎあったり、遠目で様子を窺っていたかと思えば唐突にケンカを始めたりと様々な反応を見せますが、すぐに馴染んで仲良く集団生活を送っています。その成果が出ているのかはわかりませんが、集団での騎乗調教が始まっても、テンションが上がる馬もおらず、落ち着いて騎乗者の指示に応えることができています。育成馬たちには、人見知りならぬ“馬見知り”をしない、堂々とした競走馬になってほしいと願うばかりです

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22-23育成馬ブログ(宮崎①)

〇ジョッキーベイビーズ九州予選開催!
 

 夏真っ盛りの8月11日、山の日に、全国ポニー競馬選手権「第12回ジョッキーベイビーズ」九州地区代表決定戦が、宮崎育成牧場で開催されました。ジョッキーベイビーズは、小学4年生から中学1年生までを対象としたポニーによる競走で、全国7か所の地区代表決定戦・選考会を勝ち抜いた8名が、東京競馬場の芝コース直線400mで行われる決勝大会に出場します。過去の出場者からは多くのジョッキーを輩出しており、ジョッキーを目指して乗馬に励む子供たちにとっては、まさに夢の舞台といえる大会です。本年の九州地区代表決定戦には、九州各地から6名の乗馬キッズが愛馬とともに参加してくれました。コロナ禍のため、関係者のみの観覧ではありましたが、仲間の熱い声援のもと、日頃の練習の成果を発揮して白熱したレースを繰り広げてくれました。当日は、関西テレビ『競馬BEAT』の小倉競馬中継を担当するテレビ西日本の佐藤有里香アナにレース実況していただき、本物の競馬中継さながらの臨場感で盛り上がりました。
予選レースを勝ち上がった上位4名で行われた決勝レースで優勝を勝ち取ったのは、今回が初出場となる小学4年の下平新くんでした。初出場とは思えない落ち着いた手綱さばきで、見事に東京競馬場へのチケットを勝ち取りました。決勝大会での活躍を期待しています!

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第12回ジョッキーベイビーズ九州地区代表決定戦出場者

Jb 熱戦のゴール前!

〇ウインズ宮崎・公園地区リニューアル工事中です!
 

 宮崎育成牧場では、場外馬券発売所「ウインズ宮崎」のリニューアルならびに公園地区の整備工事の真っ最中です。これに伴い、通常は年間を通して開放している公園地区も閉鎖しています(2023年4月中旬まで)。近隣にお住いの地元の方々を中心に、小さなお子さんからご年配の方まで、いつもたくさんの人で賑わっていた公園ですので、一時的とは言え、遊具が撤去され更地になった状態を見ると少し物悲しい気持ちになります。また、馬車の運行や乗馬体験などの、馬と触れ合う機会を皆さんに提供できないことにも寂しさを感じてしまいますが、来春には広さも遊具もグレードアップした素敵な公園に生まれ変わって皆さんをお迎えできる予定です。ウインズ宮崎についても、お客様エリアを拡充し、より快適な空間で競馬を楽しんでいただける施設となります。来年春には、リニューアルした宮崎育成牧場で皆様をお待ちしておりますので、ぜひ足をお運びください!

Photo_2 リニューアル後のウインズ宮崎と公園地区完成予想図

〇本年の育成馬たち
 

 育成馬日誌と言いながら、馬の話が少なくて申し訳ありませんが、本年の宮崎育成馬の現状についても少し紹介させていただきます。8月末現在、宮崎育成牧場には7頭(牡2頭、牝5頭)の1歳馬が在厩しています。九州1歳市場で購買したプリンセスゴールド2021(牝、父ケイムホーム)はヨカヨカでお馴染みの本田牧場さんの生産馬、八戸市場からはハーツクライの後継として期待の新種牡馬シュヴァルグラン産駒ローマンクィーン2021(牝)や宮城県産馬であるオーバーザレインボ2021(牝、父バゴ)など、今年も個性豊かな顔ぶれが揃いました。現在は、放牧地で仲間と走り回ったり草を食べたりしてのんびり過ごす傍ら、育成調教の第一段階である初期馴致に向けて馬房内での訓練を開始しています。まもなくセレクションセールおよびサマーセールで購買した馬たちが入厩すると、いよいよ本格的な育成業務のスタートとなりますので、職員一同、気合をいれて取り組んでいきたいと思います!

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放牧地を駈け回る育成馬

育成馬ブログ(宮崎④)

〇育成馬展示会の開催

 3月に入り、南国・宮崎では徐々に春の気配が漂いはじめたかと思ったのもつかの間、気が付いたら4月を迎え、ブリーズアップセール本番まで1ヵ月を切りました。調教も佳境を迎え、育成馬たちも見違えるほどの成長を見せてくれています。セールが近づいてくると、セリへの参加を予定している馬主や調教師の方々が、育成馬たちのポテンシャルや現在の状態を確認するため下見に来られる機会が増えてきます。日高および宮崎育成牧場では、できるだけ多くの関係者にブリーズアップセールに参加していただくため、「育成馬展示会」をそれぞれ開催して、これまでの調教の成果を披露する機会を設けています。宮崎育成牧場ではさる4月5日、本年の育成馬展示会を開催しました(日高は4月12日)。
当日は晴天に恵まれ、80名近い関係者が来場されました。展示会では、まず育成馬を3頭ずつのグループに分けて「比較展示」を行い、馬体の完成度や歩様などを間近で観察してもらいます。その後、オス・メスに分かれて、実際の調教の様子を見る「騎乗供覧」を行います。この騎乗供覧では、2頭の併せ馬でスピード調教を行い、最後の2ハロンの走行タイムを公表しています。どの馬も、厳しいトレーニングの成果を発揮して、人馬一体となった素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。ちなみにこの日の一番時計は、ルナフェリーナ2020(父ミッキーアイル)とピュアシンフォニー2020(父クリエイターⅡ)の牝馬2頭による併せ馬で計時された11秒9-11秒6でした。参加された方々からも、育成馬の普段の様子や健康状態、性格や癖などについてたくさんの質問があり、皆さんに大いに興味を持っていただけたのではないかと思います。展示会から本番までは3週間たらずですが、この時期の馬たちの成長には目を見張るものがありますので、本番ではさらに成長した姿やパフォーマンスでセール参加者を驚かせてくれることでしょう。

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【写真1】育成馬展示会での比較展示の様子

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【写真2】ルナフェリーナ2020(右)とピュアシンフォニー2020(左)の併走

〇いざ中山!

 育成馬たちの今後ですが、退厩に先立って育成牧場にほど近い、神武天皇を祀る宮崎神宮の神職の方にご来場いただいて、育成馬の健康と今後の活躍ならびにブリーズアップセールの成功を願って神事を執り行う予定です。そして4月18日にはいよいよ住み慣れた宮崎の地を離れ、中山競馬場へと馬運車で丸一日かけて移動します。25日には中山競馬場のダートコースで、今度は単走での騎乗供覧を行い、26日にセール本番を迎えます。我々が育成馬と共に過ごす時間も残り少なくなってきましたが、この貴重な時間を無駄にしないよう、大切に愛情を注いで、より高く評価してもらえるよう磨きをかけていきたいと思います。

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【写真3】昨年の育成馬退厩神事の様子

〇ヨカヨカ号を称える記念碑

 このブログにもたびたび登場する宮崎育成馬であるヨカヨカ号ですが、熊本県産馬初のJRA重賞制覇という彼女の偉大なる功績を称える記念碑を育成牧場内に作製しました。育成馬厩舎の玄関口で、先輩のGⅠウィナーであるタムロチェリー号の碑と並び立ち、その功績そのままに燦然と輝いています。育成馬展示会に来場されていた同馬の関係者の皆さん(馬主:岡浩二氏、調教師:谷潔氏、生産者:本田土寿氏)にも喜んでいただくことができました。今年の育成馬たちが偉大な先輩の背中を追って、記念碑を立てる場所がなくなるほどの活躍をしてくれることを期待しています!

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【写真4】ヨカヨカ号の記念碑

育成馬ブログ(宮崎③)

〇「強い馬づくり」を目指す生産育成研究業務

 
 JRA育成馬は、2歳4月のブリーズアップセールへの上場、そしてその先に待つ競走馬としてのデビューを目指して、日々トレーニングに励んでいますが、その過程において、様々な研究にも供されています。これはJRAが育成馬を用いて行う「強い馬づくりを目的とする生産育成研究」であり、その内容は、JRAホームブレッドの生産を通じた繁殖学的研究や子馬の飼養管理に関するものから、育成期の疾病が競走馬としてのパフォーマンスに与える影響についての調査研究、アスリートとしての競走馬に関する運動生理学的研究など多岐にわたります。今回はその中から、宮崎育成牧場において行っている「トレッドミルを用いた育成馬の走行フォーム解析」について簡単にご紹介したいと思います。

 
 この研究では、競走馬総合研究所・運動科学研究室の協力のもと、脚部にマーカーを装着した育成馬を、7%の傾斜をつけたトレッドミル上で7~12m/sの速度で走らせた時の走行フォームをハイスピードカメラで撮影・解析します。これを2歳の1月と4月の2回にわたって行い、育成調教期間を経たことによって生じる変化を調べようというものです。馬の走行フォームに関する研究報告は少なくありませんが、こと育成期のサラブレッドについてはあまり知られていません。日々の調教や馬体の成長によって、育成馬の走行フォーム(ストライドの長さやピッチの速さなど)がどのように変化するかを知ることは、育成調教の方針を決める上で有用な知見となると考えられます。また、この研究の対象となった育成馬が、競走馬となってどのような成績を残したかを調査することによって、育成期の走行フォームと競走馬としてのパフォーマンスの関連性についても何らかのヒントが得られるかもしれません。この研究によって、直ちにJRA育成馬のパフォーマンスが向上するわけではありませんが、このような地道な基礎研究によって得られた結果をもとに、生産育成技術をより良いものに発展させ、それを広く日本中の馬関係者に普及することが、JRAが行う生産育成研究業務の大きな目的の一つです。

 

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【写真1】トレッドミルを走行する育成馬

 

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【写真2】 ハイスピードカメラでの撮影風景

  

〇キャンプのメッカ宮崎

 
スポーツファンの方はよくご存じだと思いますが、ここ宮崎県は冬でも比較的暖かい地理的特性から、プロスポーツチームの春季キャンプ開催地としてよく知られています。今年も1月下旬から県内各地において、プロ野球は8球団、Jリーグからは約20チームが、来たるべきシーズンに向けて始動しています。コロナ禍の状況で様々な制限はあるものの、たくさんのファンの方々がキャンプ地を訪れてトップアスリートのトレーニング風景を楽しんでいるようです。これに倣って、というわけではありませんが、宮崎育成牧場でも普段見ることができないJRA育成馬を間近で見学できるイベントを定期的に開催しています。主に地元の方々を対象として、育成馬を通じて馬という動物や競馬をより身近に感じていただくきっかけとなれば、という思いで取り組んでいますので、お近くにお住まいの皆様、機会があれば是非足をお運びください!

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【写真3】宮崎で行われる春季キャンプの案内マップ(宮崎県観光協会HPより)

 

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【写真4】育成馬見学会の様子

育成馬ブログ(宮崎②)

〇ヨカヨカ号の引退と後輩たちの近況


 JRA育成馬として活躍したヨカヨカ号(牝、3歳、栗東・谷厩舎)が、調教中の怪我のため引退することが発表されました。3度目のG1競走(スプリンターズステークス)挑戦を目前に控え、好調が伝えられていた矢先の出来事で、非常に驚きましたが、命に関わる怪我ではなかったことは本当に幸いでした。熊本県の本田土寿氏の生産馬である「ハニーダンサー2018」、後のヨカヨカ号は、2019年6月の九州1歳市場において340万円でJRAが購買し、宮崎育成牧場にて育成調教を行った後、2020年4月のJRAブリーズアップセールにて1122万円にて売却されました。同年6月のデビューからの通算成績10戦4勝2着2回、掲示板を外したのは桜花賞(17着)だけという堅実さで、3歳夏にして獲得総賞金1億2千7百万円余りという素晴らしい成績を残しただけでなく、九州産馬として16年ぶりの、さらに熊本県産馬としては史上初のJRA重賞競走勝利という金字塔を打ち立て、日本の競馬史にその名を刻んだといっても過言ではありません(よね?)。また宮崎育成牧場出身のJRA育成馬による重賞勝利は、2001年のタムロチェリー号による阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち以来、実に20年ぶりの美酒であり、当場職員一同、歓喜に沸いたことは申し上げるまでもありません。
 2019年に熊本県において生産されたサラブレッドは36頭で、国内の生産総頭数7390頭に占める割合は、わずか約0.5%(「2019年軽種馬統計」より)。その中からこれだけの活躍馬が出たことが、地元熊本や当場のある宮崎で大きなニュースとして一般紙や情報番組にも取り上げられると、九州の競馬ファンはもとより、普段は競馬に親しみのない方からも当場に問い合わせのお電話を頂くなど、その反響は想像以上のものでした。競馬中継やグリーンチャンネルにおいては、ヨカヨカ号の特集が組まれ、当場にも度々取材に来ていただきました。ヨカヨカ号の活躍が九州の馬産業全体にもたらしてくれたこの盛り上がりを将来に繋げていくため、宮崎育成牧場はこれからもチーム九州の一員として頑張る所存です。

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【写真1】待望の重賞競走勝利の瞬間!北九州記念ゴール前の雄姿

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【写真2】まだあどけなさが残る1歳10月頃のヨカヨカ号。オンオフの切り替えが上手な賢い馬でした。

 そんな九州の将来を担う(?)、本年の育成馬の近況を少しだけご紹介いたします。9月末に入厩した、セプテンバーセールにおける購買馬3頭をもって、本年の宮崎育成馬22頭(雄11頭、雌11頭)が揃いました。血統的には例年以上にバラエティーに富んだラインナップで、当たり前ですが見た目もキャラクターも様々です。9月中旬から馴致を始めた牡馬は、既に集団で角馬場調教を行っている馬たちもいますが、馴致が始まったばかりの牝馬たちは馬房内で様々な刺激に慣れる段階を経て、ラウンドペン(円馬場)での馴致を開始したばかりです。馬の性格も人と同様千差万別ですので、素直に人の指示を受け入れて、なんでも器用にこなす馬もいれば、臆病な、あるいは慎重な性格のため、スムーズに課題をこなせない馬もいます。

 いずれにしても、馬と人との関係性がきちんと構築されていること、馬にとって人間がリーダーとして信頼できる存在となることが、馬に余計なストレスを与えず人馬とも安全に騎乗馴致を進めていく上で重要となります。それを念頭に、それぞれの馬の個性に合わせて、根気強く成長を促していけるよう取り組んでいきたいと思います。

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【写真3】放牧地ではじゃれ合って遊んでいる1歳馬たちですが…

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【写真4】競走馬になるためのトレーニングもしっかり頑張ってます。

育成馬ブログ(宮崎①)

1歳セリにおける育成馬購買と宮崎への輸送

 

〇活況を呈する1歳市場

 本年4月に開催されたブリーズアップセール2021において購買されたJRA育成馬を送り出した後は、宮崎育成牧場にはつかの間ののんびりとした時間が流れていましたが、梅雨の時期を迎えると、早くも来年のブリーズアップセールに向けて動き始めます。各地の1歳市場における育成馬の購買です。

 6月22日に開催された「九州1歳市場」を皮切りに、「八戸市場」(7月6日)、「セレクトセール」(7月12日)および「セレクションセール」(7月27日)に参加し、これまでのところ17頭の1歳馬を購買することができました。

 引き続きコロナ禍での開催となるため、盛り上がりに欠けるのではという心配をよそに、いざ開幕するとセリ会場はどこも多くの人で賑わい、いずれのセールにおいて総売上額や売却率において軒並み過去最高を記録する活況となりました。オンラインビッドとのハイブリッド方式が広く浸透したことや、新たな購買層の活発な市場活動などがこの盛況の要因として挙げられますが、この盛り上がりが今後の1歳市場だけでなく、来年のブリーズアップセールにおいても継続できるよう、育成業務に取り組んでいきたいと思います。

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写真1)九州1歳市場で購買したテラノイロハ2020(父マクフィ)。売却額600万(税別)は同市場最高額であった。生産者は宮崎育成馬であるヨカヨカ号と同じ本田土寿氏。

 

〇宮崎育成牧場への道のり

 現在までに宮崎育成牧場に入厩している育成馬は、九州1歳市場で購買した1頭、八戸1歳市場で購買した4頭および日高育成牧場で生産したJRAホームブレッド2頭の計7頭です。このうち九州産の1頭を除いた6頭は、遠く北海道あるいは青森県から馬運車に乗って宮崎までやってきました。ここではその道のりを簡単にご紹介したいと思います。

【1日目】夕刻、日高育成牧場でホームブレッド2頭を積んで出発。道内の牧場で八戸市場購買馬2頭を収容し、深夜に苫小牧港からフェリーに搭乗。

【2日目】早朝に青森港に上陸。八戸市内の牧場で残る2頭を収容。東北自動車道を南下、福島県内から磐越自動車道にて潟方面へ。夕方、新潟競馬場に到着。

【3日目】昼前に新潟競馬場を出発。日本海側から関西地方を抜け山陽自動車道を西へ。

【4日目】日付が変わるころには九州上陸間近。九州縦貫自動車道、宮崎自動車道を経て宮崎育成牧場に到着。

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写真2)日高育成牧場から宮崎育成牧場までの長い道のりと、道中の馬運車内の様子。

 

 出発から到着まで約90時間、総移動距離は2,700㎞におよぶ行程となりました。人と馬の休養のため新潟競馬場に滞在した時間を除いても、70時間以上馬運車に乗っていた計算になります。どの馬にとっても、これほどの輸送は初めての体験です。特にホームブレッドの2頭は馬運車に乗ること自体が初めてのようなものでしたので、最初のうちは興奮して落ち着かない様子を見せていましたが、徐々に順応して、この長旅を乗り切ってくれました。宮崎に到着後、放牧地に放たれた育成馬たちが元気に駆け出す姿を見て、我々もようやく胸を撫でおろしました。

 育成馬を輸送した馬運車には輸送会社のドライバーさん2名と我々JRA職員2名が同乗しました。概ね3~4時間毎にサービスエリアなどで休憩をとり、ドライバーを交代しながら、一人は仮眠をとるという形で運行されていましたが、常に馬の様子をモニターでチェックしながら(我々が寝ている間も)、スケジュールに狂いが生じないようにスピードを調整するさまは、まさにプロフェッショナルの仕事だと感心しました。今後の育成馬輸送も同様に、無事に完了することを願っております。

育成馬ブログ(宮崎④)


地元のお客様に応援されるJRA育成馬

○ 馬と電車
宮崎育成牧場はJR日豊本線宮崎神宮駅の近くに位置していることもあり、牧場の隣には高架の線路があります。育成馬の調教エリアからも近く、電車の音もはっきり聞こえるため、馬が驚くのではないかと心配になりますが、全く気にする様子はありません。1歳の夏から線路の近くに暮らしているためなのでしょうが、改めて馬が環境に慣れる動物であることを認識させられます。

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(写真1)電車の見えるパドックでリラックス中の育成馬


駅近の牧場で飼育されている育成馬たちですが、昨年10月には一般の方々を対象に開催した「育成馬見学会」を開催いたしました。
このイベントは、地元の方や近くに競馬場がない南九州の方々にサラブレッドの姿をご覧いただくことで、競馬を身近に感じてもらうイベントです。今回の参加者のなかには、「いつも電車から厩舎や馬を見ていたが、近くで見ることができてよかった」という方もおられ、地域の皆様に見守られながら馬が育っていることを実感しております。今年も、恒例の来場者の皆様による育成馬の人気投票をしていただきましたので、その結果をお知らせします。
最も票を集めたのは、可愛らしい名前の「ポポチャン2019」と新種牡馬産駒の「スイートカルタゴ2019」の2頭でした。来場者の皆様の馬を見る目も肥えてきているのでしょうか、どちらも育成担当者の期待も高い馬でしたので、納得の投票結果といえます。きっと人気を裏切らない活躍をしてくれることでしょう。

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(写真2)スイートカルタゴ2019(父 シルバーステート) (2月撮影)

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(写真3)ポポチャン2019(父 アドマイヤムーン) (2月撮影)


これらの2頭以外にも多くの馬に投票をいただきましたが、本年の育成馬は例年になく順調に調教ができています。これから徐々にトレーニング強度を上げていく予定ですので、3月に開催予定の「育成馬見学会(一般向け)」や4月に開催予定の「育成馬展示会(関係者向け)」ではさらに逞しくなった22頭の育成馬を披露できると思います。


〇育成馬の調教状況について
現在では1600m馬場でハロン15秒を切るスピードでの調教を開始しているところです。12月までは、夜間放牧を行いながら有酸素運動能力と操縦性に主眼を置いた調教をメインに調整していましたが、最近では走行スピードと心拍数を上げることで無酸素性のエネルギー供給を刺激するような調教を実施しています。
昨年に引き続き、トレッドミルを用いたトレーニングも並行して実施しており、当初は幼さを残した体つきも筋肉質の馬体に変わってきました。週2回程度の高強度の負荷をかけたトレーニングを行いながら、4月のブリーズアップセール、さらには新馬戦に向けた調整を行っているところです。
トレーニング強度が高まるにつれ、精神的にイライラするような馬も出てきてはいますが、馬たちが少しでもリラックスできるよう放牧や自家製の生草の給与を行っています。写真のように温暖な宮崎育成牧場では1月でもイタリアンライグラスが青々と生育していますので、オンとオフを切り替えながら暖地のメリットを生かした調整を行っているところです。

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(写真4)馬も草も順調に育っています

育成馬ブログ(2020年 宮崎②)

〇 ウインズのある宮崎育成牧場

 世界的にも新型コロナウイルス対応に追われた夏でしたが、宮崎育成牧場でも毎年夏の恒例の馬事イベント「馬に親しむ日」は中止とさせていただきました。毎年楽しみにされていた方も多いことから非常に残念ですが、来年は開催できる状況になっていることを願っています。

 また、当場の行事ではありませんが宮崎地方のもう一つの大きな行事「綾競馬」も中止が決定してしまいました。例年11月初旬に宮崎県綾町で行われる迫力満点の草競馬で、地元の方にとって最も身近な「競馬」であるだけに非常に残念な思いです。

 そのような中ではありますが、宮崎育成牧場内にあるウインズ宮崎は全国のウインズに先駆けて7月11日より営業を再開しております。ソーシャルディスタンスを保つなど感染予防策を講じたうえでの限定的な営業時間内での再開ではありますが、公園地区を含め当場を訪れるお客様も増えているようで、少しずつ賑わいを取り戻しつつある状況です。

 このウインズには当牧場で育成した活躍馬の写真も掲示されていて、育成牧場のなかにあるウインズならではのものとなっています。館内には本年活躍しているヨカヨカ号(宮崎育成牧場出身)の写真も展示してありますので、是非ご注目いただければと思います。なお、ヨカヨカ号は熊本産馬ということで、ウインズ八代(熊本県)にも写真を飾ってもらいました。     

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【写真1】ウインズ八代にもヨカヨカ号の写真を展示しています

 また、ウインズ宮崎は育成牧場内にあることから、全国で唯一馬の調教の様子を見ることができるウインズでもあります。まだ躾の行き届いていない幼稚園生のような馬たちですので、馬の近くでご覧いただくわけにはいきませんが、タイミングが良ければダートコースを走る姿も見ることができます。

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【写真2】ウインズ宮崎の屋外からは調教の様子も見ることができます

 

〇 育成馬の入厩完了

 さて、先日のセプテンバーセール(北海道)で本年の育成馬の購買が終了し、本年のラインアップが揃いました。今年も全国の1歳セリで購買した馬とJRA日高育成牧場で生産した馬を併せた22頭の育成馬が宮崎に入厩しました。育成馬の日高と宮崎の各育成牧場への振り分けについては、施設面や牡牝のバランス、血統、購買価格など様々な要素を検討したうえで決定しました。
今年も各セリでの購買馬が決定するたびごとに振り分けを行い、宮崎行の馬20頭を3回に分けて輸送しました。特に3回目の輸送では台風12号が接近している中での輸送でしたので、輸送計画の変更を余儀なくされましたがなんとか無事に終えることができました。今年も育成馬の輸送の様子はグリーンチャンネルの番組「馬産地通信」で紹介されており、毎年楽しみにされている方もいらっしゃるようです。今年の放映は既に終了しているようですので、もし来年の視聴機会があればチェックしてみてください。

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【写真3】長距離輸送時は馬運車内で給餌します

 全馬の入厩が完了した後、馬たちの健やかな成長とこれから本格的に始まる育成業務の安全を祈願して入厩神事を執り行いました。同時に各所のお祓いもしていただきましたので、人馬のけがなく育成馬を送り出していけるようにしたいと思います。

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【写真4】馬場のお祓いをしていただきました。落馬しませんように!

育成馬ブログ(2020年 宮崎①)

1歳セリと放牧地管理について

 

○ 初めてのオンラインビッド

 梅雨明けして本格的な夏が始まりましたが、今年の梅雨は例年にない豪雨に見舞われ、熊本県を中心とした九州各地で大きな被害がありました。宮崎育成牧場では大きな被害はありませんでしたが、梅雨期の総雨量が1,000㎜と平年の1.5倍を超え、馬道の砂が流れるなど少なからず影響がでており、温暖化や雨の影響について考えさせられた季節でした。

 雨ばかりの6~7月でしたが、1歳馬のセリが始まる季節でもあります。本年のJRA育成馬の購買も6月23日に開催された「九州1歳市場」を皮切りにスタートしており、7月7日の「八戸市場」、7月13日の「セレクトセール」まで無事に終えることができました。

 いずれのセリも新型コロナウイルス対策として入場者を限定するなど様々な対策を講じており、例年とは違った雰囲気の開催となりました。なかでも九州市場では1歳セリでは初めてとなるオンラインビッドが活用され、我々も初めてのオンラインでの入札に緊張しながら参加し、その使用感を体験しながら2頭を購買することができました。

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写真1) 九州市場のオンラインビッド画面。2頭とも落札!

 

 これまでの3つのセールでJRAは7頭の1歳馬を購買しました。そのうちの6頭と日高育成牧場で生産したJRAホームブレッドのうち2頭の合計8頭が宮崎育成牧場に入厩しています。この育成馬たちは現在、16時から8時までの夜間に放牧しており、間もなく開始するトレーニングに向けて馬体や精神的な成長を促しているところです。

 

○放牧地の草種について

 この時期の育成馬は放牧地で1日のほとんどを過ごしていますが、サラブレッドの放牧地には「飼料としての牧草」と「自発的な運動場所」の2つを両立することが重要とされています。

 宮崎育成牧場では、本年から馬の放牧地の管理方法を変え、草種をこれまでのイタリアンライグラスからバヒアグラスに変更しました。一般的に国内の牧場では、チモシーやイタリアンライグラス、ケンタッキーブルーグラスなど比較的寒い地域に適した種類の牧草が多く利用されています。今回変更したバヒアグラスは、暖地型牧草に分類される多年草で、夏季の再生力が旺盛な点が特徴です。

 当場の放牧地は夏季~秋季の夜間放牧での利用が中心で、運動場所としての放牧を重視しています。そのような背景もあり、年間平均気温が17℃を超える九州の夏には暖地型牧草が適していると考え、今回の草地更新を行いました。

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写真2) 常に採食可能となるよう掃除刈りで草丈を一定に保ちます

 

 バヒアグラスは道路脇にも雑草として生えているような身近な草ですが、馬の嗜好性はやや劣るとされています。そこで、茎が硬くなりすぎないよう小まめに掃除刈りを実施したり、放牧地のボロ取りをこまめに行うなど丁寧な管理を心がけています。

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 写真3) 集団で草をはむ育成馬

 

 草地管理スタッフの努力の甲斐あって、当初懸念していた嗜好性も問題なく、写真のように放牧初日からおいしそうに食べてくれて一安心といったところです。今後は栄養面についても各種分析を行いつつ、定期的に馬体重やボディコンディショニングスコアなども確認していく予定です。

育成馬ブログ(宮崎⑤)

○育成馬調教見学会を開催しました


暖冬の影響で雪不足に悩まされているスキー場も多いとのニュースもありましたが、育成馬を調教する者としてはできるだけ暖かいほうが助かります。今シーズンの宮崎の冬(12~2月)も全国と同じく暖冬で、最低気温も氷点下となる日は1日もなく、最高気温も10℃を下回る日は3日間のみと非常に過ごしやすい冬となりました。調教時間帯には汗ばむような日も何日かあり、早くも半袖で騎乗する姿も見られました。

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写真)調教後にゲートを通過

 この時期の育成馬たちは、ブリーズアップセールに向けて運動負荷を次第に高めているところです。スピード調教時には、写真のように集団での調教や2列や1列といった様々な隊列を組んで調教していますが、週1~2回はハロン15秒程度のスピードで、騎乗者の指示に従うよう心がけて調整を重ねています。抑えきれないくらいの手ごたえの馬も増えてきていて、トレーニングによって力がついてきているのを実感しています。

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写真)隊列(2列)を組んだ調教

また、2月15日には、一般市民の方々や宮崎育成牧場の育成馬を応援していただいている方を対象に「育成馬調教見学会」を開催しました。今回の見学会は、改築した育成馬厩舎地区に見学者を迎え入れる初めての機会ということもあり、我々も馬の調教風景をご覧いただこうと楽しみに準備をしておりました。しかし、当日は前日からの雨により馬場状態が悪化したため、当初の予定よりスピードを抑えた調教の見学とさせていただきました。その代わりではありませんが、馬がトレッドミルで走っている姿を見ていただいたところ、見学者からは「間近に育成馬が疾走する姿を見ることができて楽しかった」との感想もいただくことができました。
これからも、競走馬の育成やJRA育成馬を身近に感じていただける内容のイベントにしていきますので、今後のJRA育成馬の活躍にも注目いただければと思います。

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写真) 調教見学会ではトレッドミル調教も公開