繁殖 Feed

2020年2月15日 (土)

2020・2・14 暖冬

昨日は2.14、バレンタインデーでした。

2月14日は、サラブレッドの生産地にとって「愛の告白日」ならぬ「種付けの解禁日」となります。交配から分娩までの平均期間が340日にも及ぶサラブレッドの妊娠期間ですが、前後30日程度の誤差もあります。そのため、年明け早々の分娩を計画する上で、種付け開始はバレンタインデーを目安とするのが良いのです。しかし、例年2月上旬の日高地方は雪に覆われる真冬日です。この時期に種付けを行うためには、ライトコントロールを行い、馬服を着せ寒冷の保護、BCSを保つ栄養管理などの様々な飼養管理の工夫が必要になるのです。

しかし、今年の冬は暖冬でした。雪が降るのも少なく、積雪は全くない状況でした。放牧地には茶色い牧草があり、放牧中の馬たちは茶色くなった牧草をタラフク食べていました。

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雪が無いとは言っても、放牧地は硬く凍てついた地面となります。そのため体重の重い繁殖牝馬や柔らかい1歳馬の蹄はボロボロになりました。蹄壁と蹄底の境目となる白線の部分が乖離して泥や砂が入ってしまうのです。

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その様な場合、白線が乖離した部分がそれ以上広がらないように、括削してしまう必要があります。

私も日高に来て10年が経ちましたが、このような暖冬、積雪の無い冬は初めての経験です。年々温暖化してきている地球環境ですが、北海道もいづれは雪の降らない地域なってしまうのかも知れませんね。

このような環境の変化が、繁殖牝馬や生まれてきた子馬にどのような影響を及ぼすのか、生産育成研究室では自ら軽種馬の生産を行うことで調査を継続していきたいと思います。

2019年12月 5日 (木)

Equilume ライトマスク

12月4日、空胎繁殖牝馬4頭に、Equilume ライトマスクを装着しました。

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ライトマスクは、右側片方のブリンカーに設置された青色LEDにより昼夜放牧中の繁殖牝馬でも放牧地でライトコントロール(光線長日処理)が行える装置です。

http://www.equilume.net/index.html

すでに日高地方の日の入りは16時、日の出は6時半過ぎとなっています。暗くて寒い時期ですが、来春の繁殖シーズンに向けて準備が始まっているのです。

2019年6月15日 (土)

子宮内膜杯

 今年度の繁殖シーズンは、10頭の繁殖牝馬が受胎しました。

 しかし、その内の1頭は、6週目の受胎確認で妊娠維持が確認されていたものの、8週目の検査で胚が無くなっていました。8週目と云えば、エコー検査で雌雄鑑別が可能となる時期ですが、残念ながら流産してしまいました。

 馬の受精卵は、受精後1週間程度で卵管から子宮に侵入します。その後、3週までに子宮に固着し、5週以降にようやく着床することになります。その頃、子宮内膜の絨毛膜と接している一部分は、輪帯細胞へと変化し子宮内膜杯(endometrial cup)が形成されます。この子宮内膜杯からは、妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)が分泌され、黄体の維持と副黄体の形成が促され、妊娠が維持されることtなります。

 今回、この繁殖牝馬の子宮の中を内視鏡で検査すると、子宮内膜杯の跡が確認できました。反対側の子宮角には、死滅したと思われる胎胞も認められました。

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白く膨隆した部分が子宮内膜杯(子宮粘膜に赤い出血斑も認められる)

2 白い膿様のものは死滅した胚と思われる

2019年6月 6日 (木)

立位腹腔鏡手術による馬顆粒層細胞腫の摘出

 顆粒膜細胞腫 Granulosa Cell Tumor(GCT)とは、卵胞を裏打ちする顆粒層細胞が増殖する卵巣の腫瘍です。増殖した顆粒層細胞からは、インヒビンが過剰分泌されるため下垂体からのFSH分泌が抑制され、反対側の卵巣は静止し萎縮してしまいます。GCT は良性腫瘍に分類されていますが、内分泌学的な異常により無発情や持続性発情となり、交配することができなくなるため繁殖分野で問題となる病気です。有効な内科療法はなく、外科的な卵巣摘出が必要となります。

 今回、当場繋養の繁殖牝馬に発症したGCTを立位腹腔鏡下で摘出手術したので、その様子を紹介します。

 症例は12歳の繁殖牝馬。一昨年分娩後より左卵巣の肥大を認め、エコー検査では蜂巣状の小卵胞が多数確認されていました。顆粒膜細胞腫の診断マーカーである抗ミューラー管ホルモン(AMH)の値は、20.38pg/mLと高値でした(正常馬の場合は1.0以下)。

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手術は、帯広畜産大学の動物医療センターに搬入して実施しました。

2 術野を決めるためにエコーで血管走行を確認

3 腹腔鏡、鉗子、超音波凝固切開器(リガシュア)を挿入し、卵巣を間膜から切り離す

5 切り離した卵巣を取り出すために術野を広げポーチを挿入

6 腹腔鏡を見ながらポーチに切り離した卵巣を収納

7 取り出せる大きさになるように卵胞を切り刻み、容積を減らす

9 直径約8cmに肥大した卵巣を摘出

8 切開部位は最大9cm

 手術時間は約2時間でしたが、鎮静および鎮痛剤による処置のみなので、終了とともに馬運車に乗り込むことが可能でした。

 立位腹腔鏡下における顆粒膜細胞腫の摘出手術は、装置と熟練した手技が必要ではありますが、馬にとって侵襲が少ない手術です。

 学生さん達にとっても非常に良い経験になったのでは無いでしょうか?

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2019年4月 2日 (火)

あて馬による繁殖牝馬の試情検査

  日高育成牧場では繁殖牝馬の交配適期を見極めるために「あて馬」による試情検査を実施しています。

 先ずは、検査の様子をご覧ください。

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YouTube: あて馬

 ここで見られる繁殖牝馬の発情行動とは...

1 尾の挙上

2 陰唇の開口による膣粘膜および陰核の露出(ライトニング)

3 尿あるいは粘液の排出

4 排尿姿勢

5 あて馬を許容し、攻撃的な行動(蹴る、威嚇)を示さない

 といったものになります。

 これらの行動を表す指標として試情スコアというものがあります。

試情スコア(点数が高いほど、良い発情徴候を表す)

0:当て馬を受け入れるしぐさを見せない。あて馬に対して、蹴る、いななく、などの攻撃的な行動をとる。

1:あて馬に対して、攻撃的な行動は見せない。

2:あて馬に対して、興味を示す。近づき、尾の挙上や陰唇の開閉を見せる。

3:あて馬に対して、強い興味を示し、尾の挙上、陰唇の開閉、排尿姿勢、排尿を見せる。

4:あて馬に対して、さらに強い興味を示し、腰を向けて受け入れる(その場から離れようとしない)。

 このスコアの推移を観察することで、発情徴候を客観的に把握することができる様になります。あて馬は、獣医師が居なくてもできる検査になりますが、最終的には、獣医師による直腸検査やエコー検査、膣検査により総合的に交配適期が判断されることになります。

2019年2月24日 (日)

ホームブレッド第1号の誕生

今年の第1号ホームブレッド(JRA生産馬)が誕生しました!

Img_9858_2 アイハヴァジョイの19(♂)父マクフィー似の鹿毛でした。

その日は、15:30に集牧してウォーキングマシン運動を行い(4㎞/h*30min)、馬房に入れて乳汁を測定したらpH6.4, Brix31.2!

「まだ乳ヤニも付いていないけど産まれるんじゃね?!」ということで、汗モニターを腰に付けて分娩に備え、監視モニターを眺めたら「もう破水してんじゃん!」ということで、17:30に無事安産でした。破水後、胎位を確認した後は自然分娩。娩出後も10分以上も臍帯が切れることなく、胎児の胎盤中の血液はすべて回収されました。後産は分娩後30分で出てしまいました。3産目の母馬は授乳も上手で安心して見守ることが出来ました。

Img_9869まだ少し後肢の繋が硬いけど、経過観察しながら様子を見ていきたいと思います。

翌日、元気に母馬に付いて歩きます。

今年から新生子不適応症候群(NMS:Neonatal Maladjustment Syndrome)に関する調査の一環として、生後直後・1日後・3日後・7日後にプロジェステロン(P)値を免疫発光測定装置(パスファースト) により測定し、正常馬およびMNS馬の推移についてデータを蓄積しています。パスファーストは、血漿サンプルを用いて僅か17分で測定結果の出る装置です。この馬に関しては、分娩後40ng/mL以上あったP値は、翌日には4.9ng/mlまで低下していました(NMSでは上昇することが知られています)。

生産育成研究室では、これからも現場での応用し易い技術の検討も実施していく予定です。

2018年12月26日 (水)

着地検査

 本日、キーンランド(Keeneland)のノベンバーセール(November breeding stock sale)で購買した繁殖牝馬2頭が輸入検疫を終えて日高育成牧場に到着いたしました。

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 着地検査とは、輸入検疫解放後に各都道府県が主導で行う検査のことです。これから3か月間、臨床検査および各種感染症(馬インフルエンザ、馬伝染性貧血、馬パラチフス、馬ウイルス性動脈炎、馬鼻肺炎)検査が家畜防疫員(日高育成牧場の獣医師を登録)により行われます。

 検疫場所は、他の馬と隔離され、作業は専用の長靴とタイベックを着用して行われます。


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 着地1ヶ月後の各種検査結果が陰性、併せて伝染性子宮炎検査結果も陰性であれば、着地検査中でも種付けは可能です。馬房にはライトコントロールも設置し、来春の交配に備えています。

2018年11月20日 (火)

「強い馬づくり講座」in浦河

昨日は、浦河文化ホールで「強い馬づくりのための生産育成技術講座2018」を開催しました。

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今年の講演内容は、以下の2つでした。

『交配から妊娠早期における繁殖管理』 宮越大輔(みなみ北海道NOSAI)
『疾患のある繁殖牝馬の管理』 遠藤祥郎(JRA日高育成牧場)

繁殖牝馬の管理は、軽種馬生産の根幹となるとても重要なポイントです。交配に向けた排卵時期の的確な判断、一年を通した体重管理など、とても為になる講義だったと思います。

お忙しい中、多くの方々のご来場、活発な質疑、本当に有難うございました。

ハンドアウト Lecture1.pdfをダウンロード0.69M)

YouTube動画 https://www.youtube.com/watch?v=JDsQRzOfNb4&t=171s

ハンドアウト Lecture2.pdfをダウンロード (1.19M)

YouTube動画 https://www.youtube.com/watch?v=dRGMB75itEk