育成馬ブログ(生産④)

今シーズンの新たな試み

 

 新年あけましておめでとうございます。本年も当ブログをよろしくお願いいたします。

 JRA日高育成牧場では今年も生産現場に役立つ実践的な調査・研究をしてまいりたいと思います。今回は、今シーズンから導入した飼養管理上の新たな試みについて紹介します。

 

○ブルーライトマスクによるライトコントロール

 繁殖牝馬へのライトコントロールの効果について、今まで当ブログでも紹介してきましたが(https://blog.jra.jp/ikusei/2014/01/post-5575.html)、今シーズンは一部の牝馬にブルーライトマスク(EquilumeTM Light Mask)を装着し、効果を検証しています(写真1)。このマスクは単眼ブリンカーの内側に組み込まれた青色発光ダイオードがタイマーによって16時から23時まで点灯するように設定されているため、繁殖牝馬に装着することにより夜間に馬房に集牧しなくてもライトコントロールの効果が得られるとされています。当場では今シーズン空胎馬を従来の馬房でライトコントロールを行う群とこのマスクを装着し24時間放牧を継続した群に分け、シーズン初回排卵の時期などについて検証を行っています。

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写真1 今シーズンは一部の牝馬にブルーライトマスクを装着しています

 

○厳冬期昼夜放牧用のシェルターおよび水桶の導入

 北海道では当歳から1歳にかけての厳冬期の放牧管理も大きな課題の一つです。当場では以前、昼夜放牧を秋から継続して続ける群と昼放牧に切り替えウォーキングマシンによる運動を負荷する群に分けて比較するなど、様々な調査を行ってきました。

厳冬期の管理①(https://blog.jra.jp/ikusei/2012/12/post-2f5a.html

厳冬期の管理②(https://blog.jra.jp/ikusei/2013/01/post-8d83.html

厳冬期の管理③(https://blog.jra.jp/ikusei/2013/02/post-ae64.html

厳冬期の管理④(https://blog.jra.jp/ikusei/2013/03/post-2d55.html

 調査を始めた2010年当時から昨シーズンまで、当場では屋根のない風除けを冬期のみ一時的に設置し暴風雨を防いでいましたが、今シーズンからは屋根付きのシェルターを放牧地内に建設し使用を開始しました(写真2)。GPSを用いた過去の調査では毎日夜中の一定時間風除け付近で横臥して休息していることがわかっており、屋根が付いてさらに快適になった環境下で馬たちの行動がどのように変化するのか、観察を続けていきます。

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写真2 今シーズンから屋根付きのシェルターを使用しています

  

 また、同じく昨シーズンまで当場では概ねマイナス10℃を下回ると放牧地内の水桶が凍ってしまっていたのですが、今シーズンは電気を利用した凍結防止機能付きの水桶を導入しました(写真3)。過去の調査において、厳冬期には血清中のBUNが上昇することがわかっており、これは脱水時など腎臓の血流量が低下していることを示しており、馬の健康管理上好ましい状況ではありませんでした。この新しい水桶の導入後、馬の血液検査の数値にどのような変化が現れるのか、あわせて比較してみたいと思います。

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写真3 今シーズンから水桶に凍結防止機能が付きました

 

 以上のように、今シーズンも新たなチャレンジを続け、今後も現場に役立つ情報をたくさん発信できるようにがんばりたいと思いますので、当場の活動にご注目いただけましたら幸いです。

育成馬ブログ(日高④)

強い馬づくりのための生産育成技術講座2019

~進化するサラブレッド育成馬の調教~

 

 12月に入り、日高育成牧場では雪がちらつく日も多くなってきました。現在、育成馬たちは屋内800m周回コースおよび屋内坂路馬場での調教に加えて、週に1回、トレッドミルを用いた強調教を実施しています。また当場ではトレッドミルでの強調教後にルーチンで血液を採取し、乳酸値を測定しています。

 近年、競走馬の世界では人間のアスリートと同様に乳酸値をトレーニング負荷の指標として活用する方法が広がりつつあり、当ブログでもたびたび当場における乳酸値の活用方法を紹介しています。

https://blog.jra.jp/ikusei/2019/01/post-7abd.html
  

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(トレッドミル調教後の採血)

 

 さて今回は、11月18日と19日に浦河と門別で「強い馬づくりのための生産育成技術講座2019~進化するサラブレッド育成馬の調教~」が開催されましたので、その概要についてお伝えします。

 この講座は生産育成にたずさわる関係者への情報提供・技術普及を目的としており、今回は育成牧場関係者や馬獣医師など、浦河では約110名、門別では約170名が参加しました。

 本年度のテーマは冒頭にも紹介しました「乳酸」。特別講演として、乳酸を活かしたスポーツトレーニング・運動と疲労との関係など運動生理学の分野で第一人者である東京大学の八田秀雄教授から「乳酸をどう考え利用したらよいのか?」というテーマのお話をしていただきました。http://jp.youtube.com/watch?v=DmQUIo_A9uE
  

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(壇上で特別講演をされる八田教授)

 

 八田教授の講演では、これまで「疲労物質」というような見方をされてきた乳酸が、実はエネルギー源となる物質であること、その乳酸を利用する能力のある細胞内のミトコンドリアを高強度トレーニングで増加させることが重要であることが示されました。八田教授はこれまでJRA競走馬総合研究所と長きに亘り共同研究をされてきていることから、サラブレッドのトレーニングについても精通されており、競走馬においても人間のアスリートと同様に高強度トレーニングによってミトコンドリアを増加させることで強い馬を作り出せるのではないかという考えを示されました。

 また当場業務課長の冨成から「日高育成牧場における乳酸を指標とした育成調教」http://jp.youtube.com/watch?v=u1XQ5jRX9wk むかわ町にある育成牧場エクワインレーシングの瀬瀬代表から「科学的トレーニングへの可能性~エクワインレーシングの取り組み~」http://jp.youtube.com/watch?v=uJhcz6Fo1cY というタイトルで話題提供が行われました。どちらの牧場においても調教後乳酸値は運動負荷の指標として非常に有用であると報告され、その具体的な活用方法についても紹介されました。

 最後の総合討論では、調教後乳酸値の目標値の設定など、競走馬における乳酸値の利用に関して検討課題が多くあることなど有意義な意見交換が行われました。http://jp.youtube.com/watch?v=WIcp3BAof9c

 今回の講座を受けて、これまで乳酸値を測定していなかった育成牧場が導入したり、すでに活用していた育成牧場でも今回の発表をふまえ、さらなる活用が行われるかもしれません。当場でも引き続きデータを蓄積し、多くの育成牧場の皆様のお役に立つような研究を積み重ねて参りたいと考えています。

育成馬ブログ(生産③)

“第二の離乳”~コンパニオンホースと引き離す際の影響~

 

 前回、当ブログでは離乳時にコンパニオンホースを導入すると当歳馬の体重減少が小さくなることを報告しました。

https://blog.jra.jp/ikusei/2019/10/post-76f0.html

 その過程で海外の文献を調べていくうちに、興味深い記載を発見しました。「コンパニオンホースと当歳馬を引き離す際に、離乳時と同等のストレスがかかる。」とのことです。

https://ker.com/equinews/common-methods-weaning-horses/

 そこで、今回は“第二の離乳”とでも呼ぶべき当歳馬からコンパニオンホースを引き離す際の影響について、前回と同じく体重減少を比較することで考察していきたいと思います。

 

○コンパニオンホースと引き離す際の当歳馬の体重減少

 JRA日高日高育成牧場では2013年から離乳時のコンパニオンホースの導入を始めました。そこで2013年以降に当場で生まれた当歳馬のうち、データが残っていた31頭のコンパニオンホースを引き離す前の体重と引き離した後の体重を比較しました。その結果、平均して体重は0.35kg増加していました。前回お示ししたとおり、離乳時は体重が減少するものであり、その平均値はコンパニオンホース導入前は4.54kg、導入後は2.72kgでした。統計学的に解析しても、減少幅は有意に少ないことがわかりました。

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図1 当歳馬の体重減少の比較

 

○“第二の離乳”で体重が減少した当歳馬もいる

 平均するとプラスでしたが、中には体重が減少した当歳馬もいました。図2にその内訳を示しますが、最大で4kgも体重減少した当歳馬もいました。

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図2 “第二の離乳”での当歳馬の体重減少の内訳

 以上のことから、当歳馬からコンパニオンホースを引き離す“第二の離乳”について、多くの場合は問題ないが中には注意しなくてはならない当歳馬もいる、というのが結論になりそうです。結局のところ、当歳馬を日頃からよく観察し、離乳時には個別にケアしてあげることが大切だと考えます。

育成馬ブログ(日高③)

○2つの嬉しいお知らせ

 

この秋、JRA日高育成牧場に2つの嬉しいニュースが届きました!

 まず1つ目は、9月15日に静岡県のつま恋乗馬倶楽部で行われた「第71回全日本障害馬術大会2019 PartⅡ」の内国産障害飛越競技において,当場職員の塚本敏一選手とフリーデン・アポロ号が見事に優勝を飾ったことです。

 内国産、すなわち国内で生産された乗馬による障害飛越競技の中で、最高峰の試合で優勝した塚本職員は、相棒アポロ号の調教のみならず、当場の育成馬の調教も担当しています。

 競走馬と馬術競技馬、それぞれに対する調教方法の共通点や相違点については、多くの馬関係者から様々な見解が示されていますが、両者に活用可能なテクニックや考え方を個々の馬の個性やステージに合わせて取り入れていくことが最も合理的ではないかと考えます。当場で育成馬に騎乗する他の職員も、やはり乗馬の騎乗や調教に従事しておりますので、今後も両者に対して、それぞれがより適切な方法でアプローチしていくことで、良い結果につなげていければと思います。

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塚本敏一職員とフリーデン・アポロ号

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育成馬に騎乗する塚本職員(中央)

 

 そして2つ目のグッドニュース、10月7日に栃木県の日本装削蹄協会 装蹄教育センターで行われた「第72回全国装蹄競技大会」において、当場の装蹄師、吉川誠人職員が2連覇を飾りました。

 この競技会は、実馬の装蹄や蹄鉄を作成する技術、さらに馬を観察して装蹄方針を決定する判断力など、装蹄師に必要とされる技量を総合的に競うものです。毎年1回開催される本大会で、全国から予選を勝ち抜いた装蹄師や過去大会の優勝経験者を含む36名が腕を競い合うなか、見事2年連続で吉川職員が最優秀選手の栄誉である農林水産大臣賞を授与され、優勝旗を日高育成牧場に持ち帰ってくれました。

 彼は繁殖牝馬や子馬、育成馬および乗馬のフットケアに従事しており、当場には欠かせない存在です。生まれたばかりの子馬、時にトップスピードでの調教を強いられる育成馬、体格の大きな乗馬や繁殖牝馬まで、同じ馬でも異なる形状や性質の蹄を取り扱う装蹄師は、各馬の課題に対する最適解を見つけるという高いスキルが要求されます。

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競技中の吉川職員

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優勝旗を手渡される吉川職員

 

 二人の活躍に刺激を受けた他のスタッフも、負けじとお互い切磋琢磨しながら技術を高めていこうと、場全体で盛り上がっています。

「馬づくりは人づくり」、まさに至言ですね!

育成馬ブログ(生産②)

離乳~コンパニオンホース導入の効果~

 

 9月に入り、朝夕はめっきり涼しくなってきました。今年生まれた当歳馬たちも放牧地内で母馬から離れて行動する時間が増え、生産牧場では離乳の時期となりました。当ブログにおいても過去にも何度か離乳の方法について取り上げています。

https://blog.jra.jp/ikusei/2011/09/post-26e4.html

https://blog.jra.jp/ikusei/2013/09/post-405b.html

https://blog.jra.jp/ikusei/2016/09/

 

 JRA日高育成牧場では「間引き法」と呼ばれる当歳馬ではなく母馬を別の放牧地に移動する方法を行ってきました。これに加え「コンパニオンホース」の導入による離乳後のストレス緩和を試みてきました。今回は、離乳時の当歳馬の体重データから、コンパニオンホースの効果を検証してみたいと思います。

 

コンパニオンホースと間引き法

 現在、当場で行っている離乳の方法を簡単にご紹介します。まず、子育て経験豊富な子付きではない牝馬(コンパニオンホース)を離乳前に母子の馬群に入れます(図1)。次に、放牧地で離乳する母馬を2~3頭間引いて、別の放牧地に連れていきます(図2)。この作業を1週間に1回ずつ行っていき、最終的に当歳馬の群に母馬はいなくなり、コンパニオンホースが1頭いる状態にします(図3)。コンパニオンホースは乳汁こそ出せませんが、母馬がいなくなって不安でいななく当歳馬たちの中でどっしり構えているため、離乳後のストレス緩和を期待してこの方法を取り入れてみました。

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図1 コンパニオンホースの導入

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図2 間引き法

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図3 離乳後の当歳馬とコンパニオンホース(矢印)

 

コンパニオンホース導入の効果の検証~当歳馬の体重データから~

 当場では2013年から離乳時のコンパニオンホースの導入を始めました・2009年生まれ以降のJRAホームブレッド82頭の体重を比較したところ、コンパニオンホース導入前は体重が平均して4.5kg減少していたのが、導入後には平均して2.7kgの減少にとどまりました(図4)。これは統計学的にも有意な差であり、コンパニオンホースの導入により離乳後の当歳馬の体重減少を抑えられることがわかりました。

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図4 コンパニオンホース導入前後の離乳時の当歳の体重減少

 毎年、離乳後の当歳馬のコンディションが崩れてしまうとお悩みの際には、コンパニオンホースの導入も一つの方法としてお考えいただけましたら幸いです。

育成馬ブログ(日高②)

○馬の横見写真撮影のポイント

 日高育成牧場では、ブリーズアップセールの前に上場馬の写真撮影を実施しています(図1)。今回は、その際に気をつけている撮影の条件やポイントをいくつかご紹介します。

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図1:2019年コスモス賞優勝馬ルーチェデラヴィタ号
【父:キズナ、母:トウカイライフ】撮影は1歳7ヶ月時

 まず、撮影場所には、①整然としている(背景が雑然としていると印象が悪くなる)、②平坦で(まっすぐに駐立させるため)、③雑草や芝の丈が低い(伸びていると繋や蹄が隠れてしまう)場所を選びます。

 次に、屋外での撮影では、天候に配慮する必要があります。中でも最も重要かつ自在にコントロールできないのが光線です。馬の体型が正確に伝わるよう、明るさが十分に確保できる「晴れ」の日に撮影します。

 そして、馬体の左側面に光線が当たるよう駐立させます。「雨」や「雪」の日は論外として、「くもり」の日(特に背景が白くなる冬)や逆光の場合、馬体が暗く写ってしまいます(図2)。また、光が馬の前方や後方から当たっていると影が強く出てしまいます。

 なお、季節にもよりますが、光線の角度が低くなると馬が眩しがり、眠そうな目つきになるので、早朝や夕刻を避けるなど撮影時間にも配慮する必要があります(図3)。

 他の天候条件としては、が挙げられます。タテガミや尻尾が風に舞ってしまうことに加え、強風時には馬の落ち着きが無くなってしまうため、無風状態が理想的です。

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図2:暗い天気(背景が雪)や強風時(タテガミが乱れる)は撮影に不向き

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図3:眩しいと「眠たい」表情になる

 では、具体的な撮影方法を説明します。

①原則として、タテガミの垂れていない馬体左側を「表(おもて)」として立たせます。
②撮影者から見て四肢が重ならないように、蹄の位置を決めます。左右の蹄の間隔は、前肢が蹄0.5~1個分、後肢が蹄1~2個分が目安です(図4)。
③左前肢および右後肢の管部(第3中手ならびに中足骨)が地面に対し垂直になるように馬の重心を調整します(前方や後方に傾斜させない、図5)。
④保持者と助手が協調し、馬の頭部を適度な高さに保ち、顔を若干撮影者側に向けて額が見えるように、さらに耳が顔の正面に揃って向くように馬を動かします(図6)。
⑤保持者は、手が写りこまないように馬から距離をあけ、引き綱に余裕を持たせ少し垂らすように保持しつつ馬を御します(図6)。

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図4:横から見たときの左右の蹄の間隔

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図5:前方または後方に傾斜している駐立姿勢

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図6:頭部を上げ、頭と耳の向きを調整する方法

 

 最後にカメラの設定や撮影テクニックをご紹介します。レンズは、画像の隅の歪みが強く出てしまう広角タイプのものは不向きです。撮影者の立ち位置は、馬体の正中線に対し真横、心臓の位置を通る垂線上となるよう決定します(図7)。従って馬の位置や向きが変われば、それに合わせて撮影者も動く必要があります。また、カメラを構える高さは、心臓の高さが望ましいとされています。なお、正しく駐立できているか判別できるのは撮影者のみですので、保持者に的確な指示を出すことも良い写真を撮るコツです。

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図7:撮影者の立ち位置とカメラの焦点

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】
 JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

 アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

育成馬ブログ(生産①)

実践研修~募集中です!~

 

 JRA日高育成牧場では2015年から実践研修という牧場関係者向けの研修の受

入れを行っています。これは6名以下の少人数のグループで、希望する内容の

義・実技を自由に組み合わせて受講してもらうというスタイルの研修で、

過去4年間で延べ39牧場、270名の関係者に参加していただいております。

今回はこの実践研修についてご紹介いたします。

 

講義

 あらかじめこちらで用意したメニューから選んでもらう形にしていますが、

メニュー以外の内容でもご相談の上、講義を行うことができます。昨年行った

講義のメニューは、「スポーツ栄養」「牧草の栄養」「妊娠鑑定・直腸検査」

「妊娠馬の管理・分娩管理」「馬栄養学の基礎」「BCSの見方」「騎乗馴致」

「育成馬の疾患」と多岐にわたります。JRA日高育成牧場では生産・育成両方

を行っており、生産牧場・育成牧場どちらからでも関係者の受け入れを歓迎し

ております!

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講義の様子(妊娠鑑定・直腸検査)

 

実技

 この研修のユニークな点は、実際に馬を用いて実技を行ってもらっているこ

とです。昨年は、「繁殖牝馬のBCSの見方」「子馬のコンフォメーションの見

方」「繁殖牝馬の削蹄・装蹄判断」「直腸検査」「騎乗馴致」「トリミング」

について実技を学んでもらいました。

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実技の様子(繁殖牝馬の削蹄)

 実践研修について申し込みは窓口である日本軽種馬協会にファックスを送っ

ていただく形で行っています。この夏スキルアップしたいと考えている牧場関

係者の皆様は是非一度受講してみてください。お待ちしております!

 

 「実践研修プログラム申込書」ダウンロード

育成馬ブログ(日高①)

~姿勢?いいえ肢勢(しせい)のお話です~

 

 今回の育成馬ブログでは「馬の肢(あし)」に関して少しお話をしたいと思

います。

 皆さんも学校などで「姿勢を正して!」と言われた経験はありませんか?

人間でしたら言葉で伝えれば背筋を伸ばして姿勢を正すことも出来ますが、

馬には伝わらないものです。

 ただ、馬の場合は姿勢ではなく「肢勢(しせい)」・・そう肢(あし)の

立ち姿が重要です。

 当場では、毎年10頭近くの仔馬達が誕生していますが、生まれたばかりの

仔馬たちの中には、写真1のように安定しない肢勢の立ち方をする馬もいます。

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写真1 生後まもない子馬。まだ立ち方が安定してない。 

 

 このような肢勢はほとんどが成長とともに改善しますが、矯正が必要になる

こともあります。そこで普段から歩き方や肢勢の観察を行い(写真2)、必要

があれば蹄(ひづめ)を切って調整します(写真3)

 ただし、削蹄だけでは改善できない場合には道具などを使って肢勢の矯正を

行います、まさに「肢勢を正して!」ですね。

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写真2 歩き方や肢勢をチェック

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写真3 蹄を切って調整中

 

 一例として、写真4は軽度の内反姿勢の仔馬のものです。内反姿勢とは下肢

関節が体の中心に向かって曲がってくる肢軸異常の一つで、蹄尖が内を向く

「内向肢勢」とは区別されています。

 写真の仔馬の場合は、削蹄でのバランス調整だけでなく、蹄用のウレタン製

樹脂の充填材を使い(写真5)、蹄の外側を人工的に広くする「張出し」

(写真6)を設けることによって正常な肢軸に近づくよう矯正を行いました。

これらの矯正は早ければ早いほど効果が期待できます。

 重要なことは普段から肢勢を観察し、何か異常を感じたらみつけたら早期に

適切な処置を施すことです。これこそ早期発見、早期治療ですね!

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写真4 内反肢勢の仔馬。腕節以下が内に曲がっている

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写真5 矯正のために蹄用のウレタン製樹脂の充填材を使用して張出しを製作

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写真6 完成した張出し部分

育成馬ブログ(日高⑧)

○2019JRAブリーズアップセールを振り返る

 

 4月23日、中山競馬場において「2019JRAブリーズアップセール」が開催さ

れ、盛況のうちに終了することができました。

 ご来場ご参加いただきお客様には、この場を借りて心より厚く御礼申し上げます。

 現場スタッフとしては、上場馬が多くのお客様から高評価を受けたことに加

えて、馬体の仕上がりや騎乗供覧での動きについて、複数の方から好意的なご

意見をいただいたことは今後の育成業務の励みになると感じています。

 

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上がり2F最速23.1秒を余裕の手ごたえでマークしたNo.15 ニシノミラクルの17

(父キズナ ご購買者:杉野公彦様)

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上がり2位2F23.2秒の鋭い動きを見せたNo.20 ミラクルフラッグの17

(父エスケンデレヤ ご購買者:宮本昇様)

 

 今期の日高育成牧場の調教方針については、前回の当欄

https://blog.jra.jp/ikusei/2019/04/post-5f85.html)でご紹介したよう

に、昨年よりも強い負荷をかけた調教を主眼に置いて取り組んできました。

 具体的には、長い距離を乗り込むよりも、短い距離で強い負荷がかかる坂路

調教を中心に行い、2月以降は調教後の乳酸値が15mmol/L以上に上がるように

各馬個別にスピード設定を行いました。

 また、強調教を坂路コースだけではなくトレッドミルでも実施し、同じく乳

酸値が15mmol/L以上になるように個々の馬でメニューを設定しました。

 これらの取り組みの結果として、BUセールでの騎乗供覧の動きや走行スピー

ドに繋がったものと捉えておりますし、有酸素運動能の指標であるV200などの

客観的な数値にも表れました。売却馬については、引き続き競走成績に着目し

ながら、育成調教の効果を検証していきたいと思います。

 一方、当場からの欠場馬は上場馬58頭中9頭と、昨年(58頭中10頭)に引き

続き少ない数字ではなく、来年に向けて必要な対策を講じていく必要がありま

す。原因の多くを占める運動器疾患、特に深管骨瘤については、適切な予防・

治療方法およびリハビリメニューの構築を目指していきたいと思います。

 来年以降もセリにご参加いただく多くの皆さまに喜んでいただけるような馬

を上場できるように、引き続き強い馬づくりに励むとともに、新たな調教技術

の開発や調査研究に取り組んでいきたいと思います。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

 JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログ

に対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただき

ましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

 アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

育成馬ブログ(生産⑦)

○ブセレリンを用いた発情誘起その2~実践編~

 

 生産牧場では種付のピークを迎え忙しい時期か思います。過去に同ブログで

ブセレリンを用いた発情誘起に関する報告を紹介しました

 https://blog.jra.jp/ikusei/2018/12/post-1d33.html

 今シーズン実際にJRA日高育成牧場繋養の繁殖牝馬に使用する機会がありま

したので経過を簡単にご報告いたします。

 

ブセレリンを用いた発情誘起方法

 米国にあるハグヤード馬医療機関およびケンタッキー大学のグループの調査

によると、卵胞の発育不全が認められた牝馬に対してブセレリンを筋肉内投与

(1日2回12.5μg)すると、71%の牝馬において平均日数10.42日で卵胞が35

~40mmに発育したと報告されています。そのうち64%の牝馬が排卵し、

72%が受胎したとされています。

 

●JRA日高育成牧場での使用例

 当場において、ブセレリンを用いて発情誘起を行った例の経過をご紹介しま

す。同馬は6歳12月に競走馬を引退し、1月5日に当場に到着しました。すぐに

ライトコントロールを開始しましたが、3月下旬になっても発情がきませんでし

た。そこで、3月29日にエコー検査を行い、左右の卵巣に大きな卵胞が全く存

在しないことを確認したうえで、ブセレリンの投与を開始しました。ブセレリ

ン製剤には日本国内で製造販売されているエストマール注を用い(図1)、ハ

グヤードの報告どおりの投与量(12.5μg)になるように3mlずつ朝8時と午後

15時の1日2回筋肉内投与しました。投与開始6日後から卵胞が大きくなり始

め、10日後には排卵直前の基準となる35mm大にまで育ちました。そこで排卵

誘発剤であるhCG(ゴナトロピン3000、図2)を1アンプル静脈内投与し、翌

日種付に向かいました。翌日のエコー検査で排卵が確認され、2週間後の妊娠鑑

定で受胎していることが確認されました。

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図1 ブセレリン製剤(エストマール注)

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図2 hCG製剤(ゴナトロピン)

 

 ブセレリンは日本製の薬剤が市販されており、今回1例ではありますが海外で

の報告と同様の効果が確認できました。何らかの原因により卵胞が発育しなく

なってしまった牝馬の治療の選択肢の一つとして、ご紹介した方法がお役に立

てば光栄です。この方法を試したい場合はかかりつけの獣医師にご相談くださ

い。