2024年6月 7日 (金)

国際サラブレッド生産者連盟の獣医会議

 こんにちは、微生物研究室の岸です。

 先日、国際サラブレッド生産者連盟(ITBF; International Thoroughbred Breeder’s Federation)による国際大会・獣医会議が東京で開催されたので参加してきました。ITBFとは、世界の主要なサラブレッド生産国(25か国)にある生産育成組織から構成されており、日本では日本軽種馬協会が代表として加入しています。本連盟の主題は、サラブレッド繁殖産業に関わる諸所の問題の解決に取り組むことにあります。

1itbf_3学会のエントランス・ボード

 本大会は2年ごとに開催されており、日本での開催は2006年以来18年ぶりでした。今回も、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、チリ、ドイツ、インド、アイルランド、ニュージーランド、南アフリカ共和国、イギリス、アメリカといった各国の獣医師が参加しており、非常に国際色豊かな会議になったと言えます。

 冒頭に、日本軽種馬協会の上野副会長からスピーチがあり、日本でのウマに関する研究は大部分がJRA総研で行われていると紹介され、我々の研究所が各国にアピールされたのは嬉しかったです。会議では、各国の代表から、防疫情報の紹介・共有としてウマの感染症の発生状況やワクチンなどについて伝えられました。さらに、後半には教育講演が用意されており、当研究所の辻村分子生物研究室長が馬ヘルペスウィルス感染症に関して発表しました。    

                                23_4日本軽種馬協会の上野副会長(左)JRA総研の辻村室長(右)のスピーチ

 実は、若輩者の私はこのような国際会議に初めて参加しました。主要言語が英語という会議に不慣れなものの、その全てが他国の防疫概況を知れる良い機会であったことは言うまでもありません。私自身、英語で発表できるまでに研鑽を積んで行かなくてはと、心引き締まる思いで会場を後にいたしました。

2024年5月22日 (水)

東京農工大学における大動物臨床実習

 臨床医学研究室の黒田です。

 私が非常勤講師を担当している母校の東京農工大学の実習について紹介します。実習は5年生を対象に「大動物臨床実習応用編」として、3週にわたりJRA東京競馬場にて実施いたしました。1週目は馬の取り扱い、保定法、個体識別、触診について、2週目は採血法、予防注射、3週目はエコー検査、X線検査、内視鏡検査について授業と実習を行いました。なかなか、慣れない馬の取り扱いですが、授業を含めて皆さん真摯に取り組んでいただいたかと思います。正直、あまり真面目に授業を受けてこなかった私が言える立場にはないのですが・・・、母校ながら頼もしく感じております。当時の自分に会えるなら、「しっかり授業聞いとけよ!」と言い聞かせたいです。

3_2

授業風景

2内視鏡検査

 海外と比較すると繋養頭数の少ない日本では、馬の授業や実習は限られておりますので、将来の馬医療を支える人材育成のためにもこれらの授業は重要な機会と考えております。競走馬医療は、牛などの大動物医療や小動物医療とも異なるところが多くあります。トップアスリートの診療というところの魅力を学生の皆さんにお伝えできればと思っております。最終週には東京競馬場のバックグラウンド見学も実施しました。主に獣医師が業務を行うエリアを中心に、獣医師の開催業務について理解していただきました。私も学生時代からアルバイトもしておりましたが、東京競馬場はJRAの顔ともいえる競馬場であり、見学を行ったダービーウィークの芝馬場の美しさは世界的に見ても素晴らしいと感じております。東京競馬場に最も近い獣医学科のある大学として、将来の馬医療を担う人材が出てきてくれることを願っております。

1エコー検査
                                     

Img_6367_4パドック見学

                                                          

2024年5月17日 (金)

二つ足のヒツジと一つ足のウマ

 競走馬総合研究所の桑野です。


 毎年恒例ですが、桜のシーズンが過ぎると競走馬総合研究所ではヒツジたちの毛刈りが行われます。昨年一年間で伸びた羊毛を綺麗に刈って暑い季節に備えるのです。今年も毛刈りおじさんによる定番の風景を見ることができました。図1では脇の下を刈るためしっかり足を保定していますね。今回は視点を変えて、この羊の蹄を馬とそれと比較しながら小話をしてみましょう

Photo図1. 黄色矢印丸囲みが羊の足(蹄)です。

 正確にいうと蹄とは硬い角質だけを指すのではなく、その硬い角質に囲まれた骨も軟部組織も全てを含んだ呼び名です。要するに、蹄=足です。羊や牛といった反芻動物は、足が二つに別れていることになります。よって、足裏(蹄下面という)から眺めると、足が一つしかない馬とは随分様相が異なります(図2)。

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図2. 左が羊、右が馬。どちらも蹄下面の所見

 

 足が二つと一つでは何が違うのでしょうか? これはかなり明確な差です。二つあると内側と外側にかなりの荷重差があったり、不整地で内外足の着く位置に高低差があったりしても、二つの足の間で緩衝することができます。

 羊はわざわざ崖を生活の拠点に選んだりはしませんが、凸凹した地面に割と平然と立っていられます。スイスの岩山では岩間に生える草を喰む野生の羊がいます。ところが、早く走ろうとすると二つ足は邪魔です。決して平らではない地面を素早く走ると、内外にかかる荷重バランスが一歩ごとに異なってくるでしょう。その内外の荷重の違いは二つ足の分かれ目に剪断力を生み出し、力を緩衝仕切れなくなります。素早い運動に対応するには、足は一個の方がいいです。

 猫科動物など素早く走る指が沢山ある動物でも、地面に踏着する主体的な領域は掌(てのひら)に相当する一つの肉球です。結局、素早く走る動物も足は一個で走っています。これは指が5本あっても足は一つの我々人間と同じですね。

 一方、足が一つの馬は不整地にずっと佇んだり、斜面に立ち続けるのは苦手です。足の内外バランスが不安定だと腱や靱帯を痛めることもありますし、私の経験ですが蹄負面(荷重がかかる蹄下面)の損傷も増えてきます。ところが、走るとなると踏着点が一点に集中でき、蹴る力をそのまま走力に転換することができます。馬は早くかつ長く走るのに特化した動物です。

 羊と同じ二つ足の牛は戦う動物と言われて“闘牛”という競技が成立します。一方、馬は逃げる動物と言われ、誰が一番早いかを競う“競馬”という競技が成立します。踏ん張るのに適した二つ足の動物と、早く走ることに適した一つ足の動物の違いが現れていると言えるでしょう。

2024年4月30日 (火)

博士号

こんにちは、分子生物研究室の上林です。

 手前味噌で恐縮ですが、このたび山口大学の大学院にて、ウマコロナウイルス感染症に関する研究論文(下記)が認められ、獣医学の博士号を取得しました。

Photo_2 提出した博士論文

 「博士」という響き、どこかで聞いたことはあっても「博士号って何?」という方も多いのではないでしょうか。

 そこで今回は、博士号とは何か、その取得方法とは、といった事について私の経験をもとに簡単にご紹介します。

 博士号は通称「学位」や「ドクター」とも言われ、英語だと"Ph.D. (Doctor of Philosophy)"と表記されます。医学、薬学、獣医学、工学、農学など、ある分野において研究活動と論文執筆を重ね、それらの成果を博士論文として大学院に提出し、審査の結果授与される称号です。

 その取得方法は主に2つあります。

 一つは課程博士、もう一つは論文博士です。課程博士は一般的な博士号取得方法で、大学院生として大学院に通って所定のカリキュラムを修め、指導教官のもと研究活動を行い、最終的に学位論文を提出して審査に合格すると取得できるものです。獣医系の大学院の場合、4年で修了するのがスタンダードです。

 もう一つは、大学院に籍を置かず、社会人として企業等で勤める中で研究活動を行い、その成果を学位論文として大学院に提出し、審査に合格すると取得できる論文博士です。私の博士号取得は、ここJRA競走馬総合研究所で行った研究活動の成果を、上記の大学院に提出して取得したので、後者の論文博士になります。

 競走馬総合研究所では多くの研究者が博士号を持ち、日々の研究活動に取り組んでいます。また、今はまだ取得していない者も将来的には取得を目指して研究に取り組んでいます。博士号を持っていないと研究できないといったことはありません。また、本会では取得を義務付けてはいません。しかしながら、「一定の研究能力をもつ者」の証として指標になっており、研究者として活動していくのであれば持っておきたいライセンスと表現していいかもしれません。よって「博士号取得はゴールではなく、研究者としてのスタートに過ぎない」と言われます。これは、日頃お世話になっている上司や大学の先生方から幾度もいただいた言葉です。

 一つ一つの論文が雑誌に掲載されるのは嬉しいことですが、学位記として自分の成果が認められるのもまた嬉しいものです。私の場合、今後も馬のウイルス感染症の研究者として、競馬のみでなく国内の馬産業に貢献できるように邁進していく所存です。

Photo_3 博士論文が認められるとこのような学位記が授与されます。

2024年4月23日 (火)

サラブレッドと高強度インターバルトレーニング

運動科学研究室の向井です。

 我々の研究室では、2020年から高強度インターバルトレーニングに関する研究をしています。インターバルトレーニングとは速く走ることとゆっくり走る(歩く)ことを繰り返すトレーニング手法です。ヒトの研究では、持久力(スタミナ)を向上させたい場合、通常は中強度で持続的に走ることが多いのですが、インターバルトレーニングも、骨格筋や心臓血管系に同じようなトレーニング効果、もしくはより大きな効果があると報告されています。

 競走馬においても、以前からインターバルトレーニングには興味が持たれており、ミホノブルボンやキタサンブラックは坂路を3本上がるインターバルトレーニングを実施していたと言われています。短距離血統と言われていたミホノブルボンが持続的に長い距離を乗るのではなく、坂路調教を繰り返すことによってスタミナを強化したメカニズムは興味深いところです。また、筋肉のタイプにはゆっくり収縮する遅筋と速く収縮する速筋があるのですが、サラブレッドの骨格筋、特にお尻の筋肉には速筋がとても多く、その筋肉に刺激を入れるには高強度のトレーニングが必須であることがわかっています。このようなことから、サラブレッドにも高強度インターバルトレーニングが効くのではないかと考え、実験を行いました。方法は、同じ走行距離に設定した中強度持続運動(70%VO2max強度で6分)、高強度インターバル運動(100%VO2max強度で30秒+速歩30秒を6セット)、スプリントインターバル運動(120%VO2max強度で15秒+速歩70秒を6セット)を実施し、採血や中殿筋のサンプリングを行い、さまざまな解析するというものでした。

その結果、高強度インターバル運動とスプリントインターバル運動の心拍数と血漿乳酸濃度は、中強度持続運動に比べてより高く推移し(図1)、いっぽう動脈血の酸素飽和度やpHは低く推移しました(データ未掲載)。

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図1 運動中の心拍数(A)と血漿乳酸濃度(B)の推移: 中強度持続運動(MICT, 青)、高強度インターバル運動(HIIT, 緑)、スプリントインターバル運動(SIT, 赤)

 さらに中殿筋というお尻の筋肉を調べた結果、エネルギーを作り出す小器官であるミトコンドリアを増やすシグナルであるPGC-1αという遺伝子が、高強度インターバル運動とスプリントインターバル運動を実施した4時間後に増えていました(図2)。また、酸素を筋肉のすみずみまで送り届ける毛細血管は筋肉での代謝効率を上げるために重要ですが、その毛細血管を増やすシグナルであるVEGFという遺伝子もスプリントインターバル運動を実施した4時間後に増加していることが分かりました(図2)。

4pgc1vegf

図2 運動4時間後のPGC-1α遺伝子とVEGF遺伝子の変化: 中強度持続運動(MICT, 青)、高強度インターバル運動(HIIT, 緑)、スプリントインターバル運動(SIT, 赤)

 これらの結果から、同じ走行距離にも関わらず、高強度インターバル運動やスプリントインターバル運動は、乳酸がより多く出、より低酸素血症になることが分かりました。さらに、高強度インターバル運動やスプリントインターバル運動は、骨格筋のミトコンドリアや毛細血管を増やすことが分かりました。我々はこのようなインターバル運動を長期的に繰り返すこと(長期的トレーニング)によって、サラブレッドの運動能力をより強化することができると考えています。

 詳細については2023年11月にFrontiers in Veterinary Scienceで公表されたこちらの論文をご覧ください(外部リンク)。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1241266/full

2024年4月16日 (火)

Animal welfare

臨床医学研究室の太田です。 

 以前の総研は宇都宮市(運動科学研究室・臨床医学研究室)と下野市(微生物研究室・分子生物研究室)の2ヶ所に分かれて研究活動を行っていました。ですが,研究活動の効率化を図るため,2016年に現在の下野市に4研究室が集約されました。

7d5e7970d5024475903c7916804a8dd3_2 宇都宮時代の総研

 本日,その宇都宮の総研跡地に,新たに「一般財団法人 Thoroughbred Aftercare and Welfare」が設立されることがJRAから発表されました。新団体の設立目的は,引退競走馬に関する取り組み(Aftercare)を着実に推し進めるとともに,併せて,馬のウェルフェア(Welfare)に関する理解促進などに取り組むことです。 

 後半部分の“Animal welfare“,しばしば日本語では「動物の福祉」と訳されています。みなさん,なんとなく聞いたことはあるけど,その定義を正しく理解できている方は少ないのではないでしょうか? “Animal welfare“とは,「動物を快適な環境下で飼育することにより,動物のストレスや疾病を減らすこと」を目標に,世界動物保健機関(WOAH)により,以下の『5つの自由』が提唱されています。

  • 空腹と渇きからの自由
  • 不快からの自由
  • 痛み・損傷・疾病からの自由
  • 恐怖と苦悩からの自由
  • 正常行動発現の自由

 これまで長年にわたり総研が取り組んできた研究テーマ(暑熱対策・医療技術の向上・事故防止対策・ワクチン開発など)は,まさに「競走馬の福祉の向上」に直結する内容です。今後もこれらの研究を継続するとともに,新団体TAWとも連携して「馬のウェルフェア」に対して正しい理解を広めていくことが総研の使命だと考えています。

7b5e9acfbb854a15b0fb96132ecb4339_1凍えながらお酒を飲んだ宇都宮での最後のお花見

2024年3月27日 (水)

菌の名前のはなし

微生物研究室の丹羽です。


 今回は、身近にいるのに目に見えない細菌について小話をします。
細菌には、動物に対して害を及ぼす病原菌だけでなく、乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌のように生体に有益だったり人の生活に役立ったりする細菌もいます。また、人間が立ち入ることができない海底火山の噴出孔では、超高温という極限の環境でも生息できる特殊な細菌もいます。実に様々な種類の菌がそれぞれの能力を生かして生存していますが、人類には知られていない未知の細菌も数多く存在しています。
  知られている細菌には、2つのラテン語による単語の組み合わせで学名が付けられています。言ってみれば、人の苗字と名前のようなものです。すなわち、前半が分類上の「属」を、後半が「種」を表します。現在「種」として知られている細菌種だけでも15,000種以上に達します。そして、これらの名前には由来があります。

 例えば炭疽菌;Bacillus anthracisのBacillusはラテン語で“小さな杖”という意味でその形状から、またanthracisは炭疽と言う病名であるanthraxからそれぞれ付けられた名前です。稀に、細菌学に貢献した人物にちなんで名付けられていることもあります。例えば、大腸菌;Escherichia coliのEscherichiaは、大腸菌を初めて分離したTheodor Escherich氏にちなんで名付けられました。赤痢菌のShigellaは、赤痢菌を発見した志賀博士の名字を由来としています。お恥ずかしながら筆者の名前もNocardia niwaeなる細菌に反映されています。

(外部リンク: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20348315/

 これは、私のアメリカの友人が記念に私の名前をつけてくれたものでした。また、動物の名前に由来する学名もあります。馬に病気を起こす細菌の一部には、ラテン語で馬を意味する“equi”が入っているものがあります。子馬の肺炎の原因となるRhodococcus equiや、腺疫の原因菌であるStreptococcus equi、馬に不妊を引き起こすTaylorella equigenitalisなどがそれにあたります(図1)。菌の名前は、原則その菌を発見した研究者が自由につけることができます。
  馬には上記のequiが付く細菌以外によっても様々な病気がみられます。当研究室では日常的に細菌検査を行う中で、ごくまれに知られているものとは異なる特徴を持つ細菌に遭遇します。岐阜大学の林博士の研究の結果、それらの中から新菌種となる可能性がある細菌が報告されました(第53回嫌気性菌感染症研究会)。最終的に新たな菌種として登録されるためには国際原核生物分類命名委員会で承認されることが必要ですが、いったいどんな名前になるのか、今から大変楽しみです。

120243図1. 馬を由来とする名前がつけられている細菌たち。                                      同じ由来の名前であっても、その性質には大きな違いがあります。

2024年3月14日 (木)

バイオフィルムは手強い

臨床医学研究室の三田です。

今回の記事では私が研究している「バイオフィルムの抗菌薬抵抗性」について紹介します。

バイオフィルムってご存知ですか?

バイオフィルムは微生物が固形物や生物に付着した集合体で、「台所のヌメリ」や「口の中のヌメヌメ」など身近ないろんな場所に存在しています。

バイオフィルムは多糖類や細菌DNAなど様々な物質が細菌表面を覆ったもので、細菌が外部環境から保護される構造になっています。

医療現場でも骨折治療に使用するインプラントや血管内に留置したカテーテルの感染に関与しており、近年非常に注目度が高いです。

バイオフィルムを形成した細菌は外部環境から自らを守る盾を獲得した状態のため、治療で使う抗菌薬にも抵抗性になることが知られています。つまり、バイオフィルムを形成した感染部位では通常の抗菌薬の投与では治癒しないことがあるのです。

抗菌薬への抵抗性を調べることは治療方針検討の手助けとなるため、今回はその測定方法についてご紹介します。

~①器材紹介~

下の写真のようなプラスチックプレートを使います。下皿と剣山がついた蓋で構成されています。

1_3

~手順①~

下の図はプレートの断面の模式図ですが、下皿に培地と細菌を加えてそこに剣山を浸します。

一晩くらい培養すると剣山に細菌が付着して、表面に紫色で示したバイオフィルムがつくられます。

2_2

~手順②~

バイオフィルムがついた剣山を抗菌薬が入った新たな培地に加えて再度培養します。

抗菌薬は濃いものから薄いものまで何種類か用意しておきます。

高い抗菌薬濃度では殺菌されてしまい培地は透明になりますが、

低いものだと細菌が生き残って培地が濁ります。

Photo


~結果~

下の写真が実際に実験した結果の例です。

各行(横方向)には1種類の細菌が入っており、抗菌薬濃度が左から右にかけて薄くなっています。一番右の列(縦方向)は抗菌薬が入っていないので細菌が生きることができます。

一番上の「細菌A」ではある程度低い濃度(9列目)でも培地が透明で細菌が繁殖していないことがわかります(赤線は殺菌されている列と増殖している列の境界です)。

その一方で、下の行の「細菌E」では左端の一番高い抗菌薬濃度でも殺菌できておらず、抵抗性がかなり高い細菌であることがわかります。

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このように、バイオフィルムの抗菌薬感受性は細菌ごとに異なっています。

原因菌の特徴をつかむことで適切な感染コントロールに貢献できるように、これからも研究していきたいと思います。

2024年3月 4日 (月)

私を助けてくれる機器

 初めまして、分子生物研究室の川西です。
総研に着任してからもうすぐ一年を迎えます。

 総研では、種々の機器が整い、そして清潔な実験環境が維持されています。総研に着任したての頃、スムースに仕事のできる素晴らしい環境に感動と驚きをもって職務につけたことを覚えています。大学院生時代は、手作業が多く時間のかかる環境で実験していましたから。そんな今の私をささえる職場の設備や消耗品について一部紹介したいと思います。

Photo写真1:自動核酸抽出機

 名前の通りの機械で、自動で核酸(DNAやRNA)を抽出するものです。ウイルス遺伝子の量や配列を調べるために、ウイルス感染細胞、鼻汁や血液などのサンプルから核酸を抽出する必要があり、このような機器を用います。本機器は、人手の操作が省略されるので、操作する人やその他雑多な異なる核酸の混入リスクを減らすことができます。

Photo_2写真2:自動分注機          

Photo_3写真3:自動洗浄装置

 感染馬の血清から感染の度合いや免疫の状況を知るためにELISA;エライザ(酵素結合免疫吸着検定法)という診断技術を使うことがあります。このエライザを行う際に、上記の機器が必要となります。プレート(写真4)への薬品の自動注入やプレートを自動で洗浄する装置です。学生時代は、手動の分注装置(通称マイクロピペット;写真4)で注入していました。マイクロピペットですと操作は短時間で頻回となり、とくに親指での細かな操作は手の腱を痛めやすく、多検体を処理すると腱鞘炎になることも。機械を用いることで、実験者の人為的ミスや誤差を減らすだけでなく、肉体的損耗を減らすこともできます。

Photo_4写真4:マイクロピペットでプレートに薬品を注入する作業

 大いに助けてくれるこれらの機械に囲まれて作業を繰り返していますが、年数が経つにつれこの環境が当たり前になってしまうかもしれません。ですが、漫然と作業するのではなく、手探りで苦労していた時代に培った探求心を忘れないようこれからも仕事に励み、競走馬を病気にしてしまうウイルスとの闘いに挑みたいと思います。

2024年2月28日 (水)

野外でのデータ測定

運動科学研究室の胡田です。

 当研究室では、トレッドミルというルームランナー上で、人が乗らずに馬を走らせてトレーニング適応やバイオメカニクスなどに関するデータを取得しています。いっぽう、これとは異なり、実際に人が乗って走る野外でのデータも重要です。より競馬に近い馬の運動データが得られると考えられるからです。しかし、これがなかなか難しく、施設や人の確保、安定的な走法の維持、データを取得する装置の馬体への装着など種々の問題をクリアーしなくてはいけません。

 我々は、そういった難題を克服する目的で、今回、調教施設として充実しているJRA宮崎育成牧場に協力してもらい、野外での騎乗時の馬の駈歩中の筋活動データおよび動画をとってきました。

 ここでJRA宮崎育成牧場について少し説明します。本育成牧場はかつて宮崎競馬場として実際に競馬が行われていた施設です。現在は育成場に転用し、温暖な気候を活かして1歳から2歳にかけて競走馬の育成を行っています。育成調教に用いるコースは、500メートルおよび1600メートルのダートコースです。これらの調教用コースを使わせていただきました。

 馬の足元が見えるように撮影しなくてはいけないことから、まずコース縁に積まれている雨水対策用の土嚢を人力で移動させるところからがスタートです。さらに、広い走路のあちこちに装置を取り付けなくてはならない上に、走り抜ける姿を実際に画像として捉えられるかの確認のため、34歳と決して若くない筆者は走路を馬並みに走り通して準備するという重労働に堪えました(図1)。そんな苦労を経て、最適化した当該コースでいよいよデータ採取という当日、なんと雨模様! “日頃の行いが悪いのかも”とちょっとブルーになりかけましたが、それでも無事にデータを採ることができました(図2)。データの解析には時間がかかりますので、その話はまたいつか。

Fig2

図1 測定準備のために20メートルをダッシュする筆者(34歳)

Fig1_2図2 測定風景

 このように、競走馬が安全に、そしてもっている能力を余すところなく発揮できるように運動を解析して、調教技術の改善に役立てようと日夜努力している研究者がいることを覚えていてくださると嬉しいです。