2019年1月23日 (水)

育成馬検査

 繋養中の育成馬の個体検査が行われました。

 1頭づつ展示・歩様を検査し、馬体の成長、疾患発生の有無、調教進度を確認します。また、血統による馬体の特徴の確認やトリミング・ハンドラーの技術審査も行われました。

 セリのレポジトリーで認めれていた軟骨下骨嚢胞(SBC)が重症化してしまった馬や、深管骨瘤が発生し跛行した馬もいます。しかし、今年度からトレッドミル2台体制でそうした馬も徐々に立ち上げ直すなどの工夫が功を奏しているようで、調教が滞った馬もブリーズアップセールに向かうことができるようになりました。こうして得られるデータや経験は有用な知見として生産育成者に公開されることになります。

 まだこれから調教は強度を増していきます。全ての馬が競走馬に成れる訳ではない厳しい競走馬の世界ですが、人馬ともに無事にブリーズアップセールを迎えられることを願うところです。

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2019年1月18日 (金)

妊娠後期の馬に対するエンロフロキサシンの投与

 昨年の強い馬づくり講習会でも紹介しましたが、近年米国で抗菌薬エンロフロキサシンを妊娠後期の馬に投与しても安全であることが報告され、胎盤炎の治療への応用が期待されています。Journal of Equine Veterinary Scienceという雑誌に詳細が記載されていましたので、その内容をご紹介いたします。

エンロフロキサシン製剤(バイトリル®)
 エンロフロキサシンは動物専用に開発されたフルオロキノロン系の抗菌薬で、「バイトリル®」という注射薬および経口薬が主に牛や豚の肺炎や下痢症の治療用として市販されています。

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エンロフロキサシン製剤(バイトリル®)

妊娠後期の馬に対するエンロフロキサシンの安全性
 米国イリノイ大学のグループが行った調査について紹介します。流産を引き起こす胎盤炎の原因の多くはE. coliやP. aeruginosaなどのグラム陰性菌であることが知られており、グラム陰性菌に良く効くエンロフロキサシンを治療に使うことができれば胎盤炎の治療の成功率も上がることが期待されます。しかし、エンロフロキサシンは子馬に高濃度で投与すると、関節軟骨や腱組織に障害を起こすことがあると報告されています。すでに生まれてきた子馬と、母馬の子宮の中にいる胎子では状態が異なるため、妊娠後期の馬にエンロフロキサシンを投与し、胎子への影響を調べました。

静脈内投与における試験
 まず、妊娠280日までの牝馬16頭を用いて静脈内投与による調査を行いました。何も投与されないコントロール群(4頭)、エンロフロキサシンを5mg/kgの濃度で24時間毎に10日間静脈内投与された通常投与群(6頭)、同じく10mg/kgの濃度で投与された倍量投与群(6頭)の3群に分けられました。その結果、エンロフロキサシンの母馬の血漿中の濃度、胎盤中の濃度、胎子の血漿中の濃度はいずれも高く、胎盤炎の原因菌に効果的に作用する可能性が示されました。また、投与量5mg/kgと10mg/kgで上記の値に有意差は認められず、5mg/kgで十分な効果があることが示されました。さらに、胎子の関節軟骨および腱組織に悪影響は認められず、安全性が示されました。

経口投与における試験
 さらに、実際の臨床現場における胎盤炎症例に対する抗菌薬投与は長期に渡るため、静脈内投与ではなく経口投与が行われることが一般的です。そこで、妊娠中の牝馬17頭を用いて、何も投与されないコントロール群(5頭)、エンロフロキサシンを7.5mg/kgの濃度で24時間毎に14日間経口投与された通常投与群(6頭)、同じく15mg/kgの濃度で経口投与された倍量投与群(6頭)の3群に分けて調査が行われました。その結果も静脈内投与の場合と同じであり、胎盤炎の治療に有効および安全であると考えられました。また、投与量は7.5mg/kgで十分であることが示されました。
詳しく知りたい方は、2018年のJournal of Equine Veterinary Science 66号p.232をご覧ください(英文)。

 現在のところ、胎盤炎と診断された妊娠馬には抗菌薬として主にサルファ剤が用いられていますが、サルファ剤の効果が認められない場合などの治療の選択肢の一つとして今回ご紹介した方法がお役に立てば光栄です。これらの方法を試したい場合はかかりつけの獣医師にご相談ください。

2019年1月 2日 (水)

2019騎馬参拝

新年、明けましておめでとうございます。

 今日は西舎神社への騎馬参拝が行われました。騎馬参拝は、明治43年から続けられている伝統行事ということで、JRA日高育成牧場も全面的にバックアップを行っています。

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 以前は浦河神社の急な石段を馬で上り下りするとても見ごたえのある行事だったそうです。今は餅まき、毎年盛り上がります!

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 浦河郷土資料館の展示物もありました。

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 本年も宜しくお願い申し上げます。

2018年12月27日 (木)

Steward Clogsによる蹄葉炎の装蹄療法

 流産後に蹄葉炎を発症してしまった繁殖牝馬。すでに2か月弱が経過しているが、ローテーションが進行してきたので、深屈腱切断術を実施したとのこと。

 レントゲン検査では、蹄壁と蹄骨の角度の開離(ローテーション)により反回ポイントが後ろに下がっていることが分かる(黄矢印)。蹄骨伸筋突起も沈下しているため(赤矢印)蹄冠部は指が入るほど陥凹していました。

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 歩く際には疼痛も認められるため、Clogを使用した装蹄療法を試みるとのことで見学させてもらいました。

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 Clogとは木靴の意味。これを装蹄することで反回を容易にし、反回ポイントも後ろに下げられます。蹄底の膨隆部が当たらないように窪みもあるが、さらに加工を施しました。


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 蹄又の部分には軟らかいタイプのACSを施し、ネジで挟み込むように固定しました。


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 コブラソックスを細断してエクイロックスに混ぜたもので固着して完成。


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 反回が良くなることで蹄の葉状層への負担も減る。Clog装着後の歩様はとても楽になりました。


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 今後の経過も追っていきたいと思います。

2018年12月26日 (水)

着地検査

 本日、キーンランド(Keeneland)のノベンバーセール(November breeding stock sale)で購買した繁殖牝馬2頭が輸入検疫を終えて日高育成牧場に到着いたしました。

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 着地検査とは、輸入検疫解放後に各都道府県が主導で行う検査のことです。これから3か月間、臨床検査および各種感染症(馬インフルエンザ、馬伝染性貧血、馬パラチフス、馬ウイルス性動脈炎、馬鼻肺炎)検査が家畜防疫員(日高育成牧場の獣医師を登録)により行われます。

 検疫場所は、他の馬と隔離され、作業は専用の長靴とタイベックを着用して行われます。


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 着地1ヶ月後の各種検査結果が陰性、併せて伝染性子宮炎検査結果も陰性であれば、着地検査中でも種付けは可能です。馬房にはライトコントロールも設置し、来春の交配に備えています。

2018年12月17日 (月)

第70回 朝日杯フューチュリティステークス

2018年12月16日(日) 5回阪神6日11R 「第70回 朝日杯フューチュリティステークス」に日高育成牧場の生産馬であるイッツクール号が出走するため、我々も競馬場に駆け付けました。

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この日は、6Rの「メイクデビュー阪神」にも生産馬のジュンヴァルボンヌ号が出走するということで、とても楽しみな日になりました。

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同世代の生産馬は僅か5頭で、イッツクール号もジュンヴァルボンヌ号も初子でした。特にイッツクール号は生まれた翌日にもまだ哺乳が上手く出来ず、治療を施すなど手のかかる子でしたが、逞しく成長した姿をパドックで見ると、親バカかもしれませんが期待せずにはいられませんでした。

結果は2頭とも9着でしたが、とてもエキサイティングな競馬でした。

競走馬の生産業は、とてもリスクが大きい業種といっても過言ではありません。交配から妊娠・分娩・育成を経てようやく競馬場でデビューするだけでも大変な苦労の賜物です。ともすれば辛いことばかりが慮れる競走馬の生産です。しかし今回、G1競走という晴れの舞台に立ち会うことができ、生産に携わった者として多くの関係者と喜びを共有することも競走馬生産の一部なのだと実感しました。

2018年12月11日 (火)

馬のレスキューシステム(Loops Equine Rescue System)

先日のMadigan先生の講演会では、馬のレスキューについても少し披露していただき、講演会終了後に先生から写真のレスキューキットを1つ託されました。

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キットは、輪状のファイバー織物ロープ4本とカラビナ数個からなり、使い方はこちらのPDFの通りです。倒れた馬を反転させたり、引っ張ったり、起こしたりする時に使用します。

loops_equine_rescue_system.pdfをダウンロード (2M)

このロープは中に綿のようなものが入っていて意外と当たりは柔らかくできていますが、1本の耐荷重は5,300LBS(2,400Kg)と強力です。

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値段は1セット75ポンドと仰っていたので1万円程度でしょうか。もしもの時に備えて普段から道具もテクニックも準備しておきたいところです。

2018年12月 7日 (金)

初雪

暖かいと思っていましたが、ようやく浦河にも雪が積もりました。

冬至まで昼夜放牧を続ける予定の妊娠馬たちは、まだ積もったばかりの雪をかき分けかき分け牧草を食べています。しかし、急激な食べ物の変化は注意が必要です。少しづつ乾草飼料へと移行する必要がありますが、馬たちは青草の方が好きですよね!

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一方、牧草は雪に覆われることで霜焼けせずに、雪解けとともに芽を吹き返すことができます。これから雪の下で、じっと春を待つことになるのです。

2018年11月28日 (水)

新生子に対する牧場でのチェックポイントと管理

今日はカリフォルニア大学デービス校のDr.Madigan教授による講演会がありました。

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 Madigan先生は新生子不適応症候群(NMS:Neonatal Maladjustment Syndrome)に対する治療として胸部圧迫療法(Rope squeeze)で有名な先生です。

https://www.youtube.com/watch?v=uZ9KpOSN6iU

 ほとんど感染症への抵抗性を持たずに生まれてくる子馬は、12時間以内に初乳を摂取することで腸管から抗体を取り込むことがとても重要です。しかし、この抗体が取り込める機能を有する期間の腸管は感染の原因となる細菌も入り易い状態なのです。

 そのため子馬が生まれる馬房環境や最初に触れる繁殖牝馬の体は、清潔にしておかなくてはなりません。講義に中では、子馬が立ち上がる前に初乳を人工的に投与することが有効とも仰っていました。

 また、多くのNMS症例馬も紹介していただき、改めて新生子馬に対する取り扱いを再認識できる講演でした。

2018年11月24日 (土)

「強い馬づくり講座」 in門別

11月20日(火)の夜は、門別総合町民センターで講演会を行いました。

前日の浦河より100以上多くの方にご参加いただきました。また、開催に向けて準備をお手伝いいただいた青年部の皆様にも、この場を借りて御礼申し上げます。有難うございました。

生産育成研究室では、これからも皆様に役立つ情報を発信していくつもりです。宜しくお願いいたします。

講演会の様子はJBBA馬産地ニュースに掲載されました!

https://www.jbis.or.jp/topics/news/20181122T013000.html