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2018年11月

2018年11月15日 (木)

日高育成牧場「強い馬づくり」情報

No.1 (2010年1月1・15日合併号)

日高育成牧場「強い馬づくり」情報

 今回より、本紙面をお借りして、日高育成牧場から「強い馬づくり」情報を連載させていただくことになりました。生産から育成に関するさまざまな「強い馬づくり」のための技術や話題を、時節に合わせて紹介していきたいと思っていますので、よろしくお付合い願います。今回は初回ということもあり、日高育成牧場における「強い馬づくり」の過去と未来について紹介したいと思います。
日高で抽選馬の育成が開始されたのは昭和27年で、当時は農林省日高種畜牧場に業務委託して行なわれていました。その後、昭和32年に札幌競馬場日高分場として育成業務を引き継ぎ、日高育成牧場として札幌競馬場から独立した事業所となったのは昭和40年でした。当初、日高育成牧場における育成業務は競走馬の資源確保を最大の目的として行なってきましたが、競走馬の生産から育成にいたる過程の変化と民間育成場の増加に伴い、現在の日高育成牧場の業務目的は「強い馬づくり」のための技術開発とその普及にシフトしてきました。


 今でこそ当たり前に聞かれるこの「強い馬づくり」というスローガンは、わが国の競走馬の資質を世界水準に高めるための方策を検討するため、昭和54年に設置された「馬事振興研究会」の答申の中で始めて使われました。海外の育成技術を習得するために海外競馬先進国へ研修生を2年単位で送り込み、ヨーロッパやアメリカ、オセアニアにおける育成技術を抽選馬の育成に応用、検証、普及する研修制度が始まったのもその頃からです。当時はまだ未熟だった育成馬の初期馴致や日常の飼養管理方法の改良、進化に大きな影響を与えてきたことは言うまでもありません。また、競走馬総合研究所においても、昭和54年から「競走馬の育成技術の向上に関する調査研究」なるプロジェクト研究が、日高、宮崎の両育成牧場との共同で始まりました。その後も数期にわたってこのプロジェクト研究は続きますが、若馬の体力に及ぼす昼夜放牧と追い運動の違いや発育段階に応じた化骨標準像、スピード調教の開始時期や若馬への坂路調教の効果などさまざまな研究が行なわれ、これまで経験と勘に頼られてきた育成管理に科学的指標を導入することの重要性を浸透させました。


 生産地疾病等調査研究が開始されたのも昭和50年代後半からでした。この調査研究では感染症の疫学調査、土壌と牧草の成分調査、子馬の呼吸器や運動器疾患と飼養環境に関する実態調査などが生産地の獣医師と共同で行なわれ、現在は早期流産予防に関する調査研究が精力的に実施されています。これらの成果は、生産地の防疫と飼養環境と技術の改善に大きな役割りを果たし、今後も期待されるところです。


 この間、こうした調査研究をより効率的に実施し、その成果を効果的に普及すべく日高育成牧場に生産育成研究室が新設(平成10年)され、生産育成に関する実践的な調査研究を行なう体制が整備されました。さらに、初期から後期にいたる一貫した育成のなかで、わが国に適した「世界に通用する強い馬づくり」の技術開発と検証、普及を実践するため、日高育成牧場自らが競走馬を生産することを昨年より開始しました。


 こうしたさまざまな調査研究活動の中で得られた成果は、各種の研修会講習会、ホームページで紹介するとともに、冊子やパンフレットにまとめ配付しています。最近の生産育成を取り巻く環境のせいか、このような技術普及の機会への参加者数は増加し、また参加者の方々の真剣さが以前より増しているような印象を受けます。このような反応は、私たちの活動を激励し、さらに役立つ情報をスピード感を持って伝えなければならないと叱咤するものであるように感じます。


 一方、平成17年度から始まり本年3月で区切りを向える競走馬生産振興事業においても、さまざまな側面から支援をしてまいりました。幸い、競走馬生産振興事業はさらに3年間の延長が見込まれており、その中では指導研修事業のさらなる充実が計画されているようです。こうした事業で得られる成果を活用し、本事業において日本軽種馬協会静内種馬場内に設置された軽種馬生産技術総合研修センターが益々機能を発揮できるよう、今後も鋭意努力していきたいと考えています。近い将来、研修センター機能についても、この紙面で紹介できる日を楽しみにしています。

それでは、次回からの「強い馬づくり」情報にご期待ください。

(文責:朝井 洋)

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写真1) 降雪後も昼夜放牧を継続している当歳馬たち

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写真2) JRA育成牧場で実践している育成方法を紹介する「管理指針」