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2021年1月22日 (金)

日高育成牧場が取り組んでいる馬獣医学支援について

加計学園問題が国会でも取りざたされておりご存知の方も多いと思いますが、全国的に獣医師が不足している状況です。それは皆さんの身近にいる競走馬の獣医さんも例外ではなく、われわれ馬獣医師が頭を悩ましている問題の一つとなっています。JRAでは、現役の獣医学生たちが馬の臨床獣医師に興味を持ってもらえるように、様々な取り組みを行っています。今回は、日高育成牧場が取り組んでいる馬獣医学支援について紹介します。

日高育成牧場スプリングキャンプ&サマーセミナー
日高育成牧場が参加学生を募集して実施している研修が、スプリングキャンプとサマーセミナーです。どちらも、日高育成牧場に1週間ほど滞在して様々な経験をしてもらう研修スタイルを取っています。まず春休みに実施しているスプリングキャンプですが、春は競走馬の生産育成にとってはオンシーズン。育成ではJRA育成馬の調教から心拍数・乳酸値を使った体力測定などを見学し、生産では繁殖牝馬のエコー検査を体験したり、JBBAで種付けの様子を見学してもらったりします(写真1)。またタイミングが合えば、ホームブレッド誕生の瞬間に立ち会うこともできます。そのため、スプリングキャンプは北海道で馬獣医師が関わる生産育成の仕事の多くを体験することができる研修です。

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写真1:繁殖牝馬のエコー検査を体験する獣医学生たち


次に夏休みに実施しているサマーセミナーですが、夏は競走馬の生産育成にとってはどちらかと言えばオフシーズン。そのため、スプリングキャンプとは趣向を変えて獣医学的研修に主眼を置き、馬の採血やエコー検査、レントゲン撮影などを体験してもらいます。また、他の時期には経験できないサマーセール(1歳馬のせり)や札幌競馬場におけるJRA獣医師の業務見学も行っています。スプリング・サマーともに座学(授業)と厩舎作業がセットになっており、馬に関する獣医学的知識や技術だけではなく、馬の取り扱いまで幅広く学べる研修を目指しています。近年JRAで働く獣医師の中でスプリングキャンプやサマーセミナーに参加した者は少なくなく、少し手前味噌になるかもしれませんが競走馬の獣医師を目指す学生にとっては良い研修ではないかと考えています(写真2)。

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写真2:2011年にサマースクールに参加した水上獣医師(中央の赤い帽子)。現在は、日高育成牧場の臨床獣医師として活躍しています。

獣医学生見学研修
スプリングキャンプとサマーセミナー以外に、日高育成牧場では大学からの依頼を受けて獣医学生向けの見学研修を実施しています。いずれも半日から1日単位の研修で、内容は大学の希望に応じて決めています。今年9月に行った帯広畜産大4年生の研修では、日高育成牧場で育成調教(馴致)を見学した後、BTCで施設・調教・競走馬診療所を見学し、昼休みにサラブレッドの育成に関するランチョンセミナーを行って、最後に今年生まれたホームブレッド当歳馬と触れ合いながら馬の生産について説明しました(写真3)。また、時期によっては妊娠馬を用いた胎子のエコー検査や離乳(親子別れの儀式)を見学してもらうこともあります。いずれにしても、個人単位ではなく学校・学年単位で申し込んでいただくことになります。ご興味のある教職員の方は、ぜひ日高育成牧場にお問い合わせください。

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写真3:当歳馬と触れ合いながら馬の生産について説明を受ける学生たち

獣医大学での特別講義
私の学生時代とは違い、近年は各獣医大学とも馬獣医学教育に積極的に取り組んでいます。しかし、欧米とは違い日本の大学内で馬獣医学を教えられる教員の数は少なく、日本全国からJRAに特別講義の講師依頼が届きます。日高育成牧場にも年数件の講師派遣依頼があり、獣医師が大学に赴いて馬の繁殖学や生産・育成に関する特別講義を行っています。

おわりに
研修に参加した獣医学生にはしばしばお話しするのですが、獣医師にとって学生時代は将来の人生(仕事)を選択する大事な時期になります。したがって、大学に在籍している時にさまざまな研修に参加して獣医師が行う仕事を多く体験することは重要で、将来の選択肢が増え自分に合った仕事を見つけやすくなると思います。少しでも馬獣医師に興味がある方は積極的にスプリングキャンプやサマーセミナーなどの研修に参加し、最終的に将来の仕事として馬獣医師を目指してもらえるようになれば幸いです。いつの日か競走馬の臨床現場でお会いできることを楽しみにしています。

日高育成牧場生産育成研究室 室長 羽田哲朗

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