« 2025年12月 | メイン | 2026年2月 »

2026年1月

2026年1月22日 (木)

当歳馬におけるローソニア感染症の予防について

7月も終わりに近づき、日高地方でも暑い日が続いています。もちろん、本州以南よりも過ごしやすい気候なのですが、夏は暑さに加えてアブが増え、放牧中の馬達を悩ませています。アブを追い払うために尻尾を振りつづけて汗だくになり、体重を減らしてしまう馬もいます。このように、夏季の子馬たちのストレスを軽減することは生産牧場の課題だと感じています。ストレスがかかる生活が続くと、馬の体内でコルチゾールというホルモンの分泌が亢進し、免疫力が低下するため、様々な感染症にかかりやすくなります。本稿では、生産地で問題となる感染症の内の一つ、ローソニア感染症についてご紹介します。

ローソニア感染症は、Lawsonia Intracellularisという細菌が原因となる感染症です。当歳馬で多く発症し、1歳馬でも発症することがあります。特に寒さが増す冬や離乳直後など、子馬にストレスがかかりやすい季節に発症が多いと言われています。この細菌は小腸の細胞に寄生し、異常な細胞増殖を引き起こし、腸粘膜を肥厚させることでタンパク質などの栄養吸収が阻害されます。その結果として現れる主な症状は、下痢、元気消失、体重減少、低タンパク血症などがあり、重篤な症例では死んでしまうこともあります。

この感染症を予防するためには、できるだけストレスをかけない管理をすることはもちろんなのですが、ワクチン接種も行われています。豚用に認可されている生ワクチンが市販されており(写真①)、これを馬にも利用されています。現在、同ワクチンについては製薬会社と関係機関の協力のもと、馬用としての認可を取得できるよう調整が進められているところです。

投与方法は、豚では経口投与が推奨されていますが、馬では経直腸投与の方が効果が得られるようです。日高育成牧場の1歳馬を用いて過去に行った実験によると、経口投与群では10頭中1頭しかワクチンの効果を示す抗体価の上昇が見られなかったのに対し、経直腸投与群では10頭中8頭で明らかな抗体価の上昇が認められました。

写真②のように肛門からチューブを挿入し、一頭あたり30mlのワクチンを注入します。これを1か月間隔で2回行います。日高育成牧場では、例年8月下旬から9月上旬頃に離乳を行うので、その時期に抗体価を高く維持するため、7月上旬と8月上旬の2回投与を行っています。このワクチンを使用し始める以前は、日高育成牧場でも当歳馬や1歳馬での発症が認められましたが、使用以降は1例も発症しておらず、効果を実感しています。

疾病から身を守る免疫力が未熟な子馬にとって、感染すると重篤な症状を呈すことがあるローソニア感染症は、生産地で最も警戒するべき子馬の感染症の一つです。離乳や暑熱・寒冷ストレスなどにさらされざるを得ない子馬たちですが、立派な競走馬になるために逞しく育つよう、ワクチン接種をはじめとした疾病対策を万全にして管理していきましょう。

日高育成牧場 業務課 竹部直矢

Photo 写真①:市販されているローソニア生ワクチンであるベーリンガー・インゼルハイム社製「エンテリゾール®イリアイティス」

Photo_2 写真②:日高育成牧場では例年当歳の7月と8月にこのワクチンの経直腸接種を行います。

2026年1月15日 (木)

JRA育成馬における隊列調教の実践

JRA日高育成牧場では、毎年7~9月にかけて購買した1歳馬および日高育成牧場で生産したJRAホームブレッドに対して、早い群では9月上旬から騎乗馴致を行い、10月上旬から騎乗調教を始めています。獣医師や騎乗スタッフは、各馬の性格や能力を的確に把握し調教メニューを決めていきますが、人馬ともに楽なペースや位置取りで漫然と走るのではなく、足元の負担にも注意しつつ各馬が競走馬として活躍できるように最善の調教方法を考えています。

そのような調教方法の1つに、隊列調教があります。競馬では、馬が一団となって走る場面がほとんどです。馬群の中で落ち着いて走ること、騎乗者の指示に従順であることが競走馬には求められます。レースの場面を想定して日々調教を行っていきますが、その中で位置取りが自由自在であることが必要不可欠であり、それを教えるために隊列での調教が重要となってきます。最終的には個々の馬によって、先行逃げ、追い込み等様々なタイプの競走馬として成長していくことになるのです。今回は、この「隊列調教」に注目して、当場で実践している内容をご紹介します。

隊列調教では、まず集団・一群での運動から始め、次に一列に並んで走行する縦列調教を行っていきます。ここでは前の馬に付いていくことで、まっすぐに走ることや行きたがる馬に我慢することを教え、キックバックによる砂をかぶることにも慣れさせます。また先頭となった馬は、最初は物見をすることがほとんどですが、次第に慣れ自信をもって走行できるようになります。

次に、スピードが求められる段階になってきたら、2列縦隊・併走での調教を実施していきます。左右に馬がいることでお互いの前進気勢を促し、その中で折り合いやハミ受けを覚えさせます。最終的には隣の馬と鐙が当たる程に距離を詰めていきます。

さらに、競馬のレースを意識した実践的なトレーニングとして3列縦隊での調教も行っています。前後左右に馬が密集しているので隊列を崩さず走行することは難しく、育成牧場スタッフの高い騎乗レベルによって行うことができています。GⅠレースでジョッキーカメラの映像をご覧になった方も多いと思いますが、3列縦隊での調教時にヘルメットに装着したGoProで撮影された動画は、まさにレースさながらの臨場感です。

これら隊列調教のポイントとしては、馬の位置取りを変えていくことです。常に同じ馬が先頭や最後尾を走るのではなく、毎日走る位置を入れ替えることで、様々な状況や場面に対応できる能力を養っていきます。

毎年4月に開催されるJRAブリーズアップセールでは単走での走行ですが、いざ競馬に出走した際にはこのような隊列調教で培った精神力を武器に各馬が活躍してくれることを期待しています。

日高育成牧場 業務課 水上寛健

2 写真① 2列縦隊での調教

3写真② 3列縦隊での調教

Gopro 写真③ 3列縦隊での調教(ヘルメットに装着したGoProから)

Gopro_qr_2 写真④ 3列縦隊調教のGoPro動画