馬づくりは人づくりから
私たち日高育成牧場にとって、午年は単なる暦の巡り合わせ以上の意味を持ちます。それは、私たちの使命である「強い馬づくり」への決意を新たにする好機だからです。そして、その強い馬をつくるために不可欠なのが、確かな技術と情熱を持った「人」の存在に他なりません。
確かな生産育成技術を駆使し、世界に通用する馬づくりを実践するためには、技術を正しく理解し応用できる人材が欠かせません。しかし近年、馬業界への新規参入者は減少し、騎乗技術者や牧場就労者、獣医師などの不足が深刻な課題となっています。
こうした状況を打破するため、日高育成牧場では、プロフェッショナルから初心者、そして子どもたちまで、幅広い層を対象とした人材育成プログラムを展開しています。
プロフェッショナルへの道:次世代のホースマン育成
将来の馬産業を支える若者たちに対し、実践的な研修の場を提供しています。
- BTC(軽種馬育成調教センター)研修生への技術指導
BTCの育成調教技術者養成研修生に対し、JRA育成馬を活用した実践的な研修を行っています。基礎的な騎乗技術を習得した研修生は、9月から翌年4月にかけて、実際の育成馬のブレーキング(鞍付け)やドライビング、騎乗調教に参加し、現場で通用する技術を身につけます。近年では異業種からの転職組も多く、誰もが高い志を持って研修に励んでいます。
- JBBA(日本軽種馬協会)研修生への生産技術教育
JBBAの生産技術者養成研修生に対し、馬の生産育成における重要な節目(分娩、離乳、馴致・調教など)に合わせた実習を行っています。主なカリキュラムは、繁殖牝馬・生産馬の管理実習(5~6月)、離乳実習(8月)、育成馬の馴致・調教実習(12月)、分娩実習(翌3月)などで、年間を通じて体系的に学びます。また、子馬の発育や飼養管理法、繁殖学や装蹄学など、専門的な講義も実施しています。
未来の獣医師・専門家を育てる:学生への教育支援
日本の大学において、産業動物の臨床実習環境は必ずしも十分とは言えない現状があります。そこで当場では、全国の獣医畜産系の学生に対し、馬に特化した教育プログラムを提供しています。
- JRA日高スプリングキャンプ・サマーキャンプ
夏休みと春休みを利用し、全国の獣医学生を対象としたインターンシッププログラムを開催しています。内容は、馬の手入れや収放牧といった基礎から、繁殖学、栄養学、画像診断技術などの専門的な検査・調査への立ち会いまで多岐にわたります。参加学生からは「乗馬体験が馬を理解する大きな収穫になった」との声もあり、馬の世界へ飛び込むための登竜門となりつつあります。
- 研究フィールドの提供
獣医畜産系大学との共同研究として、繁殖牝馬の細菌叢(さいきんそう)変化や寄生虫検査など、学生が実際のフィールドで研究できる環境を提供し、直接指導を行っています。
地域に根ざす「馬文化」:子どもたちへの普及活動
サラブレッド生産の約80%を占める日高地域において、子どもたちが馬に親しみ、地域の誇りとして「馬文化」を感じられるような活動を行っています。
- 学校教育との連携
「馬文化出前教室」や「巡回乗馬教室」を通じて、地元の小中学生に馬とのふれあいの場を提供しています。また、静内農業高校の生徒に対する実地授業や、浦河高校馬術部への活動支援も継続して実施しています。
- イベントでの交流
「ジョッキーベイビーズ北海道地区予選」の実施や、新ひだか町主催の「うまカルフェス」への職員派遣などを通じ、馬に携わる仕事の魅力を広く発信しています。
子供たちへの普及活動(馬文化出前教室、ジョッキーベイビーズ北海道地区予選)
知識の還元と技術の普及:業界全体のレベルアップ
研究機関としての役割も担う当場では、得られた知見を広く業界に普及させています。
- 専門家向け研修
生産地の獣医師や装蹄師を対象とした講習会(育成調教技術、感染症、歯科、装蹄など)の開催や講師派遣を行い、最新技術の共有を図っています。
- 情報のオープン化
「JRA育成牧場管理指針」の公開や、グリーンチャンネル「馬学講座ホースアカデミー」などを通じ、生産育成技術を広く発信しています。
- 一般の方々へ
「日高育成牧場バスツアー」では、施設見学に加え、子馬とのふれあいや調教見学を実施しています。参加者からは「馬への理解が深まった」「これから競馬をより楽しみたい」といった声が寄せられ、ファン層の拡大にも寄与しています。
生産育成者や獣医師等を対象とした講習会(強い馬づくり講習会)
さいごに
午年である本年も、日高育成牧場は「人づくり」を通じて、日本の競馬および馬産地の基盤強化に貢献してまいります。
馬に携わるすべての方々、そしてこれから馬の世界を目指す方々と共に、力強く駆け抜ける一年となることを願っております。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
日高育成牧場 副場長 佐藤文夫




