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2018年11月15日 (木)

繁殖牝馬の分娩前の栄養管理

No.2 (2010年2月1日号) 

はじめに
 新年を迎え、そろそろ生産牧場関係者にとって、気をもむ季節がやってきたのではないでしょうか?「欠点が無く、すばらしい」子馬が誕生することを誰もが夢見つつ、一方では不安を抱えながら、繋養馬の管理をされていることと思います。ちょうど繁殖牝馬の多くが妊娠後期(分娩予定日までの3ヶ月間)を迎えている頃でもありますので、今回は繁殖牝馬の妊娠後期の栄養管理上注意すべきことについて紹介したいと思います。

適正なボディコンディション維持
 ボディコンディションスコア(BCS)は馬のコンディション(脂肪のつき具合)を指数化したもので、9段階のスコアがあります。近年の報告からBCSと繁殖機能(あるいは成績)とは密接な関係があることが明らかとなっています。すなわち、良好なBCSにある繁殖牝馬は、性ホルモンのサイクルも良好で受胎率も良いが、BCSが低い繁殖牝馬では芳しくない繁殖成績しか得ることはできません。授乳前期(分娩後3ヶ月間)にBCSが5.0(普通)以下となってしまった場合、適正なBCSに上昇させるのは、なかなか困難です。分娩後は、分娩前と比べてBCSは0.5程度低下するので、妊娠後期の時期から繁殖牝馬のBCSは最低でも5.5以上、理想的には6.0(少し肉付きが良い)程度になるよう馬体をコントロールすることが望まれます。

エネルギー摂取
 胎子は妊娠後期3カ月で急激に成長します。このため、時を同じくして、繁殖牝馬の栄養要求量は増えることになります。このとき可消化エネルギー(DE)の要求量は25Mcal(体重640kgの繁殖牝馬の場合)となり、この時期の1歳馬のDE要求量より40~50%増加します。DE要求量の増大から、濃厚飼料給与割合が高くなりがちですが、消化器疾患(疝痛や胃潰瘍等)発症リスク軽減のためには、少なくとも粗飼料給与量は総飼料給与量の半分以上となることを心がける必要があります。また、近年の研究から、易消化性炭水化物を多く含む穀類(エンバク等)の多給による弊害(インスリン感受性の低下等)が指摘されているため、エネルギー源としてその他の飼料原料(植物油やビートパルプ)を併用したり、繊維質が高い配合飼料を効果的に使用したりすることが推奨されます。加えて、植物油や繊維質(粗飼料やビートパルプ等)主体の飼料を給与した場合、穀類主体と比較し、乳中のリノール酸が高まることが報告されています。リノール酸は子馬の胃潰瘍発症リスクの低減や受動免疫を高めると考えられています。

ミネラルの補給
 妊娠後期はエネルギー給与ばかりに意識を捉われるのではなく、胎子の正常な骨格形成を主眼とした繁殖牝馬の飼養管理を心がける必要があります。この時期は骨を形成するカルシウムばかりでなく、銅、亜鉛、マンガンなど軟骨・骨代謝に関わる微量元素の重要性が高まります。銅の摂取不足は高齢馬の分娩時子宮動脈破裂の一因になりうるとの報告もあります。また、セレンはビタミンEとともに、筋肉の正常性維持や免疫に関わる微量元素であり、子馬の白筋症予防のためにも補給は必要です。さらに、近年の研究からセレンの摂取不足は、初乳中免疫グロブリン量や胎盤機能の低下を引き起こすことが明らかとなりました。すなわち、妊娠後期の繁殖牝馬のセレン不足は、結果として、虚弱な体質の子馬の誕生につながるといえます。一般的な飼料原料(エンバク、粗飼料等)だけではミネラルは不足してしまいますので、ミネラルが強化された配合飼料あるいはサプリメントの給与が必要です。

日高育成牧場における実践例
 日高育成牧場では毎週の体重ならびにBCS測定をして、ボディコンディションのチェックを行ったうえ、個体に合わせた飼料給与表をもとに栄養管理を行っています(群管理ではなく個体管理)。良質な粗飼料給与を主体として、ミネラル・ビタミンが適正に調整されている配合飼料を用いながら、シンプルな飼料給与設計をしています。分娩前は胎子が大きくなるにつれて、腸管が圧迫され、飼料摂取量が低下することがあります。この場合、植物油をうまく使いながら、トータルのDE摂取量は維持しつつ、穀類給与量を減らすことで対応しています。また、適正なBCSの維持、運動不足解消のために、ウォーキングマシーンを使ってストレスとならない程度の保護運動(時速4km、20分間)を実施しています。

(文責 井上喜信)

Bcs6図1)繁殖牝馬の理想的なBCS(=6.0)

Fig2_4 図2)胎子は分娩前3か月で急速に成長する

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