米国の1歳セリ
今回から間隔を空けながら3回の予定で、米国のサラブレッドセリ市場について日本と比較しながらご紹介します。
まず国土の広い米国で馬を購買する手段については、購買者が牧場まで直接赴いて馬を購買する“庭先取引”が地理的に困難という理由から、人と馬が一堂に会するセリ、“市場取引”の方が一般的です。そのため、セリの上場頭数は膨大な頭数となります。昨年の数字では、米国最大の1歳セリであるキーンランド・セプテンバーセールのカタログ掲載頭数はなんと4,538頭、日本の生産頭数の3分の2にあたる頭数がたった1度のセリで取引されています。このように日本とはスケールが違う米国のセリですが、大きく分けると騎乗馴致前の1歳馬を扱う1歳セリ(Yearling Sale)、繁殖牝馬と離乳後の当歳馬を中心に扱う混合セリ(Mix Sale)、そして調教供覧を行う2歳トレーニングセール(2YO in Training Sale)に分類できます。第1回の今回は、まず1歳セリについてご紹介します。
米国の1歳セリは、日本で開催されているセレクトセール(1歳)、セレクションセール、サマーセールなどに相当します。米国では前述のセプテンバーセールのほか、かつて吉田照哉氏がノーザンテーストを購買したファシグティプトン・サラトガセールなどが有名です(表)。いくつか開催される1歳セリの中でも大規模なセリでは複数に分割して開催する必要があるため、セリ開設者による血統や馬体の評価に沿って評価の高い馬から順にBook1からBook6までといった具合に分割されています。このような状況もあり、米国ではセプテンバーセールのBook1およびサラトガセールが1歳セリの2大頂点として浸透しています。
まず大きく日本と異なる点は、米国では購買者の利便性を考慮してナイターセリが開催されていることです。表に示した主なセリの中ではサラトガセールがこれに該当し、夜7時から10時頃までかけてセリが開催されます。サラトガは米国有数の高級避暑地として知られていますが、日本に置き換えると軽井沢にサラブレッドのセリが開設されているイメージであり、随所で購買者目線の工夫が目に付きます。さらにこのセリのユニークなところは、セリに先立つ下見期間中に隣接するサラトガ競馬場で競馬開催が行われていることです。したがって、購買者は競馬とセリを同時に楽しむこともできます。
上場する馬たちはセリの2~3日前に輸送され、セリまでの間、購買者は下見をすることができます。下見の際、日本のように公式な比較展示は行われないため、購買者自らが会場内の厩舎地区を回って各コンサイナーに下見を申し込む必要があります。申し込みを受けたコンサイナーは依頼のあった馬を馬房から引き出してくれるため、購買者は希望の馬の立ち姿と歩様の確認ができます(図1)。上場頭数の多い大規模なセリでは、Book1のセリと同じ日に次に開催されるBook2の下見期間が設定されていることがあり、購買者はセリの合間に計画的に下見を行う必要があります。
図1.厩舎地区での下見の様子(セプテンバーセール)
レポジトリーについいては概ね日本と同様ですが、上部気道内視鏡動画、いわゆるノドの動画についてはレポジトリーとして公開されていません。ノドの状態については、購買者が直接各コンサイナーに尋ねるか(コンサイナーは上場馬のノドの状態の検査結果を持っています)、獣医師に依頼して追加で内視鏡検査を行わなくてはなりません。しかしこの場合でも、米国の内視鏡検査装置はファイバースコープと呼ばれる、検査者本人しか映像を確認できないタイプが主流であるため、購買者が直接ノドの映像を見ることはできません。
セリは日本同様にステージ上で競られますが(図2)、落札後の流れについては日本と若干異なります。米国では、セリで落札した時点から管理責任が購買者(落札者)に移行するため、購買者はセリ翌日までに輸送業者を手配して馬を運び出す算段をつけなくてはなりません。
図2.ステージ(サラトガセール)
次回は混合セリについてご紹介したいと思います(11月掲載予定)。
JRA日高育成牧場 専門役 遠藤祥郎
コメント