未来の馬を守る獣医師を育てる - JRA日高育成牧場スプリングキャンプ -
読者の皆さまもご存じのことと思いますが、近年、人口減による人材不足について世間で叫ばれるようになっており、馬産業においても深刻な問題となっています。今回は馬産業の未来を守るべく、馬獣医師を志す若者を増やすため、先日JRA日高育成牧場で実施しました「スプリングキャンプ」を紹介します。
スプリングキャンプは獣医学生を対象とした研修プログラムで2014年から始まりました。2018年からは、家畜衛生や産業動物臨床分野における先導的かつ実践的な教育プログラムを構築し獣医学教育の高度化や国際水準化を推進するために始まった事業(VPcamp)の一つとして実施しております。
サラブレッドの出産シーズンに併せて日高育成牧場で開催することで、研修参加者はサラブレッドの生産現場に身を置き、繁殖牝馬や子馬などに触れ、一般的な診療技術や健康管理、繁殖学について学びます。採血、直腸検査、レントゲン検査やエコー検査などの実践的な体験を通して、臨床獣医師としての業務を体験します。さらに、検査・治療だけでなく、引き馬や馬房掃除など実際に馬を飼養するために必要な作業についても経験してもらい、馬をより深く知ってもらう機会を提供しています。
また、若手からベテランまで様々な年代の獣医師との交流を通じて、現場のリアルな声を聞くことができ、参加者は馬獣医師としての自身の将来を考える上で貴重な情報を得られます。
過去のスプリングキャンプ参加者から、多くの馬獣医師が誕生しており、馬産業の将来を支える重要な役割を果たしていると言えます。
本年のスプリングキャンプでは添付のカリキュラムを実施しました。多くの学生にとって初めての経験となるカリキュラムもたくさんありましたが、今回の研修での講義やこれまで大学で学んできた知識を活かしながら、実習に積極的に取り組んでいました。
また、幸運にも当場の繁殖牝馬の分娩が重なり、サラブレッドの誕生に立ち会うことができました。生まれたばかりの子馬が起立しようとする賢明な姿や子馬に寄り添う母馬の姿を見ることができ、その現場に寄り添う喜びを感じてくれたのではないかと思います(写真2:出産への立会い)。本年の参加者がこのような体験を通して馬獣医師への道を歩んでくれることを願っております。
スプリングキャンプの実施に際し、業務見学などご協力をいただいたHBA、JBBA、BTCの皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。
JRA日高育成牧場では、毎年、春と夏に獣医学生を対象とした研修を実施しております。興味のある方はVPcampHP(図1:VPcampの二次元コード)をご確認ください。
日高育成牧場 調査役 大塚健史
写真1.出産への立会い
図1.VPcampの二次元コード