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2022年9月30日 (金)

牧草分析について

自家牧草の成分分析

 暑さが和らぎ、「天高く馬肥ゆる秋」の季節がやってきました。夏から秋に収穫した乾草は放牧地が雪に覆われる厳冬期に給与する大切な粗飼料となるため、良質な乾草の収穫が望まれます。乾草の見た目によってその質をある程度は判断できますが、正確な評価をするためには牧草分析を行うことが推奨されます。

 表1はアメリカ産輸入乾草および日胆産乾草の主な栄養価を示しています。これらの値が乾草の質を判断するひとつの目安になります。今回は日高育成牧場のデータを参考に、成分分析値の読み方をご紹介いたします。

 2018~2020年に日高育成牧場で収穫した乾草(33サンプル)のタンパク質含有率の平均値は11.9(±3.3)%であり、一般的な目標値である9.0%を超えていました。表1に示したように日胆産乾草のタンパク質含有率は9.6%であることから、この地域における平均以上の質の乾草であり、同じくアメリカ産チモシー乾草は1番草が10.3%、2番草が12.8%であることから、輸入乾草と比較しても同程度の質の乾草を収穫できているといえます。

Photo_12表1

繊維(NDFADF)の評価

 草食動物である馬にとって繊維は非常に重要です。これまでの評価では粗繊維含有率として繊維全体の値が使われてきましたが、近年ではNDFやADF含有率が用いられています。NDFは中性デタージェント繊維の略で、細胞壁を構成する物質のうち、ヘミセルロース、セルロース、リグニンが含まれます。ADFは酸性デタージェント繊維の略で、NDFからヘミセルロースの値を引いたものです(図1)。リグニンは不消化成分ですが、ヘミセルロースは50%程度、セルロースは40%程度が馬の大腸の微生物によって分解後、消化吸収されてエネルギーとして使用されます。

Photo_7 図1

 一般的にNDF含有率は40~50%で良質とされ、65%以上となると嗜好性や採食量が低下するといわれています。ADF含有率は30~35%であれば良質と判断され、消化や栄養素利用率が良好とされています。ADF含有率が45%以上となると、総合的に栄養価が低いといわれますが、このような値になる乾草はほとんどありません。このように、NDFやADF含有率は乾草の品質評価に使用できます。

 図2は2018~2022年に日高育成牧場で収穫した乾草のNDFおよびADF含有率を散布図で示したものです。良質とされるNDF含有率:40~50%、ADF含有率:30~35%の基準を両方とも満たした乾草はありませんでしたが、ADF含有率が30~35%となる乾草は10サンプル(全体の30.1%)あり、日高育成牧場で収穫した乾草の中ではこれらのものが良質であると考えられました。

 

Photo_9 図2

 NDF含有率に注目すると、65%以上となる乾草は16サンプル(全体の48.5%)ありました。一般的にNDFやADF含有率が高くなる原因は、収穫時期が遅れた結果と考えられます。表2は2020年に収穫された乾草のNDFおよびADF含有率と収穫日の関係を示しています。この結果から天候などの理由により収穫が遅れた乾草のNDFおよびADF含有率が高くなっていることがお分かりいただけると思います。一方、2番草であっても適切な時期に収穫を行えば、ある程度の質の乾草が得られることも分かります。

1番草と2番草

 一般的に1番草は2番草よりも栄養価が高いとされており、1番草の方が高値で販売されています。そのため、生産者のみなさんの間でも1番草を選択される方が多いかと思います。しかしながら、近年、乗馬の世界では葉が多く柔らかい2番草の方が好まれる傾向があります。昨年開催された東京五輪の馬術競技においても、乾草3種(チモシー1番草・2番草、ルーサン)の中でチモシー2番草の受注が最も多く、1番草の2倍の受注量だったそうです。

 実際、1番草と2番草でどのような違いがあるのか、2020年に日高育成牧場内4箇所の採草地で収穫した乾草の成分比較を実施しました(表3)。その結果、2番草はタンパク質含有率が高く、先述したNDFおよびADF含有率が低い結果となり、2番草の方が良質な乾草といえることが明らかとなりました。なお、このときの1番草は天候などの理由から収穫が遅れ、出穂後に収穫したことが質の低下の要因のひとつと考えられたことから、これまで多くの文献でも指摘されてきたとおり、できる限り出穂前に収穫することが重要だと考えられます。

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終わりに

 適切な飼養管理を行うためには、今回ご紹介したように牧草分析を行って、科学的に乾草の質を評価することが推奨されます。その結果を元にして、より良い牧草を収穫するための対策を考える必要があります。例えば、採草地に明らかに雑草が増え、牧草分析の結果からも質が低下していることが示唆される場合には、草地更新を検討する必要があるかもしれません。また、牧草分析と一緒に土壌分析も行い、土壌の状態を正確に把握して適切な施肥管理を行うことが牧草の質の改善にも繋がります。牧草分析の結果を活用し、適切な飼養管理に繋げていただければ幸いです。

参考資料(QRコード参照)

サラブレッドのための草地管理ガイドブック(公益社団法人 日本軽種馬協会)

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愛馬のカイバあれこれ(JRAファシリティーズ株式会社)※一部を下記サイトで確認できます

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JRA日高育成牧場 生産育成研究室 根岸菜都子

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