クラブフットの装蹄療法について
馬事通信「強い馬づくり最前線」第307号
はじめに
クラブフットとは、蹄と繋の外貌が「ゴルフクラブ」の形状に似ていることに由来してそう呼ばれています(写真1)。クラブフットは生後1カ月~8カ月齢、なかでも特に3カ月~6カ月齢の発育期に好発する蹄疾患であり、球節の沈下不良、慢性的な肩跛行、さらに重度の場合には蹄骨の骨折を引き起こすともいわれています。クラブフットの状態を放置して重篤化してしまうと、競走馬としての将来的な能力のみならず、その馬の価値に影響を及ぼす可能性さえあります。そのため、クラブフットの症状が認められたら、早期に対処していくことが重要となります。
クラブフットの原因とグレード
クラブフットの原因は、深屈腱の拘縮や腱と骨の成長速度のアンバランスと考えられていますが、いまだ発症機序は明らかにされておらず、予防法も確立していません。一般的には、肩や上腕、球節などに何らかの持続的な痛みが生じることにより、上腕部周辺の筋肉が緊張し、関節が屈曲することによって、深屈腱支持靭帯が収縮し、結果的に深屈腱も拘縮する状態と考えられています(拘縮とは深屈腱が縮み、伸縮性を失った状態)。深屈腱が拘縮することによって、その付着部である蹄骨が牽引されるため、結果的にクラブフットを発症します(写真2)。
クラブフットの発症には遺伝による先天性のものと、後天的のものがあります。後天性のものは生後1カ月~8カ月齢の時期に発症が多く認められます。この原因として、栄養の不足や過多、馬体の発育異常による骨格と筋肉や腱のバランスに伴う異常などが考えられています。実は、放牧地の硬さも重要な要因と考えられており、凍結などにより地面が硬くなると、子馬の肢が過剰に刺激され、疼痛や骨端症が生じて運動量が減少してしまいます。その結果、腱や筋肉の正常な伸縮が阻害され、クラブフットを発症すると考えられています。また、放牧地で草を食する際の長時間の同じ立ち姿勢もクラブフット発症の1つの要因として考えられています。
クラブフットは、4段階のグレード分類がなされており(写真3)、グレードの数字が高いものほど重度な症例となります。クラブフットは成馬になってからでは、治療することが困難ですので、発症初期の対応が非常に重要です。
クラブフットに対する装蹄療法
腱が発育途上で、成熟前の子馬の時期であれば、改善できる可能性があります。しかしながら、馬の立ち方や体重の掛け方といった馬自身に起因している場合もあるため、完治させることは困難であり、現状から悪化しないように維持するという考え方が一般的となります。
装蹄療法による対処として、軽症例においては、蹄踵を多削し、蹄の形状を整えます。しかしながら、蹄踵が地面から浮いてしまっているような重症例においては、蹄踵を多削してしまうと深屈腱の緊張が増加し、蹄骨の牽引を助長してしまうため、蹄踵が地面に接地するまでは、充填剤などを用いた「ヒールアップ」を実施し、深屈腱の緊張を緩和させることが効果的です(写真4)。
さらに、装蹄療法のみでは治療が困難である、より重度の症例においては、獣医師による深屈腱支持靱帯切除術を選択しなければならないこともあります。これによって、深屈腱の緊張が緩和され、クラブフットの進行を抑制することが可能となります。そのため、クラブフットを発症してしまったら、装蹄師のみならず獣医師にも相談し、早期に原因を取り除いていく必要があります。
おわりに
クラブフットの治療は軽症のうちに、適切な処置を施すことが何よりも重要です。そのためには、早期発見できるかがポイントとなります。普段からこまめに歩様チェックを実施し、早期に痛みを取り除くことによって、クラブフットの発症リスクを軽減することが可能となります。
クラブフットは、市場での評価も含め、馬の将来を大きく左右する重要な蹄疾患です。発育期である当歳、1歳は特に蹄を注意深く観察し、その変化を早期に発見し、素早く対応することが求められます。そのためにも、クラブフットのみならず蹄に異常を認めたら、直ちに装蹄師や獣医師に相談し、早急に対応しなければなりません。
日高育成牧場 業務課 佐々木裕
写真1.クラブフットという病名は、蹄と繋の外貌が「ゴルフクラブ」の形状に似ていることに由来している。
写真2.深屈腱が拘縮することによって、その付着部である蹄骨が牽引されるため、結果的にクラブフットが発症する(Am Frarrier J 1999 vol25を一部改変)
写真3.クラブフットの指標となる4段階のグレード(Dr. Reddenによる分類)