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2018年11月18日 (日)

子馬のクラブフット発症状況

No.9 (2010年5月15日号)

クラブフットとは?
 まず、クラブフットについておさらいをしておきましょう。子馬の球節や肩に何らかの持続的な痛みが発生すると、周辺の筋肉が緊張することにより深屈腱支持靭帯が収縮し、やがては深屈腱が拘縮すると考えられています(図1)。これにより、二次的な症状として独特の蹄形異常(クラブフット)となり、生後1.5~8ヵ月齢の子馬に発症します。クラブフットは、軽度から重度の症例まで4段階に分類され(図2)、軽度の状態で早期発見、適度な処置が施されない場合にはさらに進行し、市場価値を低め、運動能力を減退させます。

 数年前に実施した日高地区で生産された当歳馬1000頭以上の実態調査結果によると、クラブフット発症率は16%であり、そのうちの69%がグレード2以上のクラブフットを発症していました。この結果は、グレード1のような軽度の段階で見逃されていたケースが非常に多いことも示しています。また、18%の牧場で、牧場内発症率が30%を超えており、飼養環境や飼養管理方法にも発症率との関連性がうかがわれました。そこで、どのような子馬にクラブフットが発症しているのか、についてあらためて詳細な調査を行ないました。

Fig1

Fig2

生まれ月との関係
 2008、2009年に生まれた当歳馬を出生直後から離乳ころまで調査したところ、クラブフット発症率は、1・2月生まれに多く、次いで3月生まれ、4・5月生まれの順に発症率は低下していました(図3)。なお、ここでの調査で認められたクラブフットのほとんどはグレード1であり、症状を認めた段階で適切な装蹄療法が施されたため、重度なクラブフットに進行する症例はありませんでした。
さて、なぜ早生まれの子馬に発症率が高かったのでしょう?冬の凍結した硬い放牧地が子馬の前肢に異常な刺激を与えた、凍結した放牧地が運動を妨げ腱の正常な伸縮が阻害された、あるいは、冬に抑制された発育が春以降に急速になるなど体重や体高のアンバランス(骨の縦方向の発育と腱の発達のアンバランスも含む)な成長となる、などが要因として考えられます。

Fig3_2 図3)生れ月による軽度クラブフットの発症率(%)

発育の要因
 急速な発育は、クラブフットをはじめ、さまざまな運動器疾患の発症要因として指摘されています。かつて、日高地区の牧場で実施した骨端症の実態調査では、飼料中の銅や亜鉛の不足に加え、体重の重い子馬や急速な体重増加を示す子馬に発症しやすい、という結果が得られました。日高育成牧場で生産した子馬のうち、軽度のクラブフット(グレード1)を発症した子馬は、体高の増加速度が発症しなかった子馬に比べ、速かったという成績が得られています。例数が少ないので、今後の検討課題となりますが、何らかの原因で体高(長骨の伸び)が腱の発達速度を上回り、腱の緊張を強めるという仮説を裏付けるものと考えられます。したがってクラブフットの場合、必ずしも肉付きのいい子馬が発症しやすい、とは限らないようです。むしろ、繋ぎが起ち気味の子馬に対し体重負荷を大きめにかけることによって腱を適度に伸張させる効果があるかもしれません。

放牧地の硬さ
 先に述べたように、放牧地の硬さも重要な要因と考えられます。特殊な道具を使って、放牧地の表層部とその15cm下の部分の硬度を測定すると、クラブフット発症率が高かった牧場の放牧地では、表層より15cm下の部分の硬度が高い傾向があったという成績を得ました。硬い放牧地は、子馬の前肢に過度の刺激を与え、脚部の疼痛や骨端症から腱拘縮に発展させるのかもしれません。放牧地の硬度を矯正することは簡単なことではありませんが、エアレーターなどで土壌の通気性を改善したり、堆肥などの有機質を投入して表土と撹拌するなどにより効果が期待されます。また、放牧地の裸地をなくし放牧草の密度を高く維持することによって、放牧地のクッション性を高めることも重要と考えられます。

重度のクラブフット発症を避けるために
 述べてきたように、クラブフットは遺伝を含めさまざまな要因が複雑に関連しあって発症するため、軽度のクラブフットまで根絶することは、ほぼ不可能と思われます。また、軽度のものであれば運動機能を妨げるものではないと考えられます。しかし、軽視するあまり、適切な処置を施さずに放置することにより症状を進行させてしまうことは避けなければなりません。早期発見に努め、装蹄師や獣医師に相談した上で、適切な装削蹄療法や薬物療法、運動制限などによって症状を改善させることが何より重要です。

(日高育成牧場 生産育成研究室  室長: 蘆原 永敏
日本軽種馬協会 静内種馬場:田中 弘祐
日高育成牧場 場長:朝井 洋)

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