哺乳期子馬への栄養補給
No.8 (2010年5月1日号)
子馬はどのくらい母乳を飲んでいるか
雪も消え、放牧地の緑も少しずつ濃さを増し、春先に生まれた子馬たちが元気に放牧地を駆け回る姿を目にするようになりました。子馬は、母馬から母乳を飲み、気持ちよさそうに放牧地に横たわったかと思うと、また起きて他の子馬と遊び、思い出したかのように母乳を飲みます。そこで、気になるのが、「果たして子馬に必要な栄養素は母乳だけで満たされているのだろうか?」という疑問です。子馬は、1週齢ころまでは1日あたり平均で19kgもの母乳を飲みますが、10週齢では13kg、17週齢では11kgと週齢を重ねるにしたがい、その摂取量はなだらかに減少していきます(図)。ちなみに、母乳を摂取する1日あたりの回数は、1週齢ころでは90回近くにもなりますが、10週齢、17週齢では約40回程度にまで低下します。
この間、子馬は約100kg近くも体重が増加し、それにともなってあらゆる栄養素の要求量は増加しますが、母乳摂取量の低下に加え、母乳に含まれる栄養素の濃度は低下していくため、発育が進むにつれて養分要求量と摂取量との差は開いていくのです。
子馬には子馬用の飼料を給与する
子馬は、発育するにつれて放牧草の摂取量も増えてきますが、乾物(水分を差し引いた固形物)で1kgに達するのは、生後2ヵ月を過ぎたころからです。したがって、哺乳期の子馬にとって放牧草は、栄養源にはなるが依存度はさほど大きくはない、といえます。これは、子馬の消化管がまだ多量の繊維質を消化できる能力を備えていないことによるものです。では、母乳だけでは不足する養分を子馬はどのように摂取しようとするのでしょうか?母馬の飼槽に頭を突っ込んでいる子馬をよく見かけますが、あの行動こそ、母乳とわずかしか食べられない牧草だけでは不足する養分を補おうとしている生命維持本能ともいえる姿なのです。そこで、「あとは母馬の飼料を子馬の分だけ増やせばよし、これで万事解決!」ではないのです。母馬が分娩後に必要とする栄養素は、エネルギーや産乳に必要なタンパク質、カルシウムなどで、子馬にもそれらの栄養素は必要なのですが、そのバランスは大きく異なります。子馬が母馬の飼料を好きなだけ食べると、アンバランスな栄養摂取になってしまうのです。とくに、丈夫な骨づくりに重要な役割りを果たすミネラルに不足が生じます。
どんな飼料をどのくらい与えるか
子馬の正常な骨発育に重要なミネラルとして、骨を形成するカルシウムとリンに加え、軟骨形成やさまざまな重要な酵素の原料となる銅と亜鉛があります。銅や亜鉛などの微量元素は、生れ落ちたばかりの子馬の肝臓に蓄えられていますが、通常は生後2ヵ月もするとそれらは消費され尽くしてしまいます(新生子馬の肝臓にできるだけ多くのミネラルを蓄えるため、妊娠末期の母馬の飼料内容も重要となります)。したがって、子馬への栄養補給も生後2ヵ月を目処に開始する必要があります。この時期の子馬が食べられる量はあまり多くありません。1日あたり、2ヵ月齢で0-1kg、3ヵ月齢で0.5-1.5kg、4ヵ月齢で1-2kg、5ヵ月齢で1.5-2.5kg、離乳前後で2-3kg程度です。ミネラルやタンパク質の含有率が高い子馬専用の飼料(サプリメント型、バランサー型)をエンバクと併用するのであれば、これを少量から与え始め、離乳までに1日あたり500gから1kgとなるよう少しずつ増加させ、一方エンバクは、3-4ヵ月齢ころからエネルギー補給のために少量ずつ子馬専用飼料に追加していきます。サプリメント型に比べ、タンパク質やミネラル含有率が若干低い飼料(コンプリート型、オールインワン型)であれば、それのみを規定量給与し、エンバクの併給は必要ありません。
どのようにして与えるか
原則は、「子馬には母馬の飼料を食べさせない」「母馬には子馬の飼料を食べさせない」すなわち、「子馬には子馬の飼料をきちんと食べさせる」ことです。これを達成することは意外に工夫が必要です。各牧場の厩舎構造が異なるので、定まった方法はありませんが、母馬の飼い槽を高く吊るす、子馬が落ち着いて食べられるように子馬が食べているときは母馬を繋いでおく、子馬だけが廊下や隣の空き馬房に出られるようにしてそこで食べさせる(クリープフィーディング)、などです。放牧地内にも、子馬だけが出入りできるスペースを作れば昼夜放牧の際にも利用できます。「強い馬づくり」のために、皆さんも工夫してみてはいかがですか。
(日高育成牧場 場長 朝井 洋)
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