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2019年2月11日 (月)

運動機能の発達様式(1):呼吸循環機能と有酸素運動能力の発達

No.41 (2011年10月1日号)

 サラブレッドは有酸素運動能力すなわち持久力が高い動物と考えられています。この有酸素運動能力のもっとも良い指標は最大酸素摂取量(VO2max)です。文字どおり、体内に摂取できる酸素(O2)の量つまり体内で消費できる酸素の量の最大値を示しています。通常は1分間あたり・体重1kgあたりに体内に酸素をどれだけ 取り入れることができるかで表され、数値が高いほど持久力が高いとみなされます。一般人は1分間あたり・体重1kgあたりでおよそ30ミリリットル(30ml/kg/min)であり、スタミナがあると考えられるマラソン選手は80ミリリットルくらいになります。これに対し、サラブレッドでは未調教の2歳馬でも130~140ミリリットル、よくトレーニングされた成馬では180ミリリットルを超えます。おそらく、現役の一流競走馬では200ミリリットルを超えるのではないかと考えられています。今回はサラブレッドの有酸素運動能力が育成期を通してどのように発達していくのか簡単にご紹介したいと思います。

放牧の影響
 1歳馬の放牧中の移動距離について調べた成績によると、7時間程度の昼間放牧では、移動距離は約5~7km、その内訳は常歩4~5km、速歩0.4~1km、駈歩1~2km程度でした。常歩で移動中(採食中)の心拍数は50~60 拍/分で、駈歩中には瞬間的に170~200 拍/分まで上昇します。また、17時間程度の昼夜放牧での移動距離は13~15kmで、そのうち約80%は採食しながらの移動であったことがわかっています。放牧中の移動の平均スピードは時速1km弱です。
 1歳馬の6月から9月にかけての放牧の前後で、VO2maxをトレッドミル運動負荷試験によって評価した成績によると、この時期には体重の増加、つまり成長に見合ったVO2maxの増加がおこることがわかっています。VO2maxは120~140ミリリットルであり、成長により急激に体重が増えると、見かけ上体重あたりのVO2maxが減少することもあるようです。

ブレーキングの影響
 ブレーキング期間中に行なわれる調馬索運動は速歩やスピードの遅い駈歩なので(図1)、心拍数は100拍/分~170拍/分程度で、運動強度は高いものではありません。また人が騎乗するようになっても運動自体は弱い運動といえます。ブレーキングの主目的は、あくまでも人が騎乗して運動できるようにすることですが、馬にとっては初めての強制運動、つまりトレーニングになっているのも事実です。持久力の指標であるVO2maxをブレーキングの前後で比較すると、ブレーキングによりVO2maxはブレーキング前の135から150ミリリットルにまで増加していました。VO2maxは、成馬においてもトレーニングの初期には強度の低い運動によっても増加するので、若馬の場合も最初のトレーニングとなるブレーキングは、強度は低くてもある程度のトレーニング効果を持つものと考えられます。

1 図1:円形の小馬場の中で、常歩・速歩・駈歩運動を行なう。左回り・右回りと入念に運動させる(調馬索運動)。

トレーニングの期分け
 シドニー大学のエバンスは競走馬のトレーニングを3段階に分けた考え方を提唱しました。彼は第1段階のトレーニングを耐久トレーニングと呼び、主目的を持久力の向上におきました。スピードは分速600m(ハロン20秒)以下とし、走行距離はできるだけ長距離としました。第2段階では、無酸素的なエネルギー供給を刺激するのを主目的に、有酸素的なエネルギー供給能力と無酸素的なエネルギー供給能力の調和した向上を図ることを目的においています。第3段階では、さらにトレーニングのスピードを上げ、加速も強化します。この段階は、いわば仕上げ期から競走期にあたります。育成期のトレーニングは、エバンスの期分けによると、概ね第1段階から第2段階の初期から中期にあたると考えられます。エバンスの考え方は基本的には正しいといえますが、耐久トレーニングを行なう際の走行距離や持続時間あるいはその期間については、トレーナーによっても相違があり、国や地域によっても異なっているようです。

耐久トレーニング
 育成期の初期に行なわれるトレーニングは必然的にスピードの遅い耐久トレーニングになっているのが普通です(図2)。運動強度としては、運動中の心拍数は170~180 拍/分程度で、高くても200 拍/分前後です。この程度の運動であれば、血中乳酸濃度は高くても2~3ミリモルで、少なくとも有酸素性のエネルギー供給主体のトレーニングになっています。

2 図2:JRA日高育成牧場の屋内坂路コース。以前は、屋内コースはなかったので、冬季間に強度の高いトレーニングを行なうことは難しかったが、最近では北海道には多くの屋内コースがある。

 2歳の1月下旬から4月にかけて、駈歩を含む一般的なトレーニングを行なった馬のVO2maxは150から165ミリリットルにまで増加しました。一方、同期間を速歩のみでトレーニングした馬ではVO2maxの増加は見られなかったものの、少なくとも減少することはありませんでした。また、同時期にスピードの遅い駈歩を長距離行なったグループと短距離行なったグループで比較すると、VO2maxには大きな差は認められませんでした。これらの結果から考えると、騎乗馴致中に行なわれる運動でいったん増加したVO2maxは、その後は弱い運動によっても維持されるようです。

次回続編をご紹介します。

(日高育成牧場 副場長  平賀 敦)

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