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2019年2月13日 (水)

運動機能の発達様式(2):呼吸循環機能と有酸素運動能力の発達

No.42 (2011年10月15日号)

 前回の記事で、育成期のサラブレッドの持久力の変化について、最大酸素摂取量(VO2max)を物差しにして紹介しました。トレーニングすることで持久力がつくのは当然ですが、この時期はサラブレッドの成長期にもあたるため、成長それ自体の影響も無視できません。JRA日高育成牧場では、この時期の成長の影響を調べる実験をしてみました。

成長による酸素運搬系機能の変化
 1歳秋のブレーキングの後、普通のトレーニングを翌年の2歳4月まで行なった馬たち(トレーニング群)と、同期間を放牧のみで過ごしたトレーニングなしの馬たち(非トレーニング群)を比較してみました。すると、トレーニングを続けた馬たちの体重は、ブレーキング前の平均441kgから446kgにわずかに増加したのみでしたが、非トレーニング群の馬では同期間で454kgから491kgまで大きく増加しました。同期間のVO2maxの変化をみてみると、当然のことながら、トレーニングの状況を反映したものとなっています。ブレーキング前のVO2maxはおよそ130ミリリットル(ml/kg/min)でした。そして、その後2歳の春頃までトレーニングすると、VO2maxは160ミリリットル以上にまで増加していました。また、この期間を放牧のみで過ごした馬達でも、VO2maxの値はトレーニング群にはおよばないまでも140~150ミリリットルにまで増加していました。詳しいメカニズムはわかっていませんが、冬季間の放牧は(図1)、VO2max に何らかの影響をおよぼすものと考えられています。
 VO2maxは酸素運搬系機能の総合的な能力を示すものなので、VO2maxが増加するということは、酸素運搬系を構成する肺・心臓・骨格筋それぞれの段階でなんらかの変化がおこっていることを示しています。なかでも、実際に推進力の源となっている骨格筋におこる変化は重要と考えられています。

1_2 図1:1歳から2歳にかけての冬季間の放牧は、呼吸循環機能に対して何らかの影響を及ぼすようである。

北海道における育成期トレーニングの変化
 北海道においては、育成期に当たる冬季間は馬場の凍結により強度の高いトレーニングを負荷することは困難でした。しかし、近年では民間のトレーニング施設にも多くの屋内コースが整備されたため、以前に比べるとトレーニングの質・量ともに充実したものとなっています。さらに、2歳春のトレーニングセールの普及に伴い、2歳の早い時期からハロン13秒程度で2ハロンほど走ることが求められるようになったため、トレーニングの進展度合いは以前と比較すると格段に進んでいるのが現状です。北海道の冬季期間における育成期のトレーニングは、前回紹介したエバンスの期分けでいうと既に第2段階(有酸素的なエネルギー供給能力と無酸素的なエネルギー供給能力の調和した向上を図ることを目的とした段階)に達しているといってよいでしょう。特に屋内坂路コースが導入されてからは、無酸素性のエネルギー供給を刺激できる強度の強いトレーニングも比較的容易にできるようになりました。

坂路の利用と反復トレーニング
 JRA育成馬が調教するBTC(軽種馬育成調教センター)の施設には、さまざまなコースがあり、屋内坂路コースもそのひとつです。コースの全長は1000mで主要な走路部分の傾斜は2~4%、途中3ハロンのタイムを自動計測できるようになっています。おおまかにいって、傾斜が1%増えると、同じスピードで走っているときの心拍数は4~5拍程度増えます。傾斜2~4%の坂路コースであれば、平地よりもハロンタイムで2~4秒ほど遅いスピードで同じ負荷をかけることができます。
 図2のグラフは、屋内坂路コースを反復間隔約10分で2本反復したときの心拍数変化を示します。1本目の3ハロンの平均タイムはハロン19秒で、そのときの心拍数は約200拍/分です。約10分の間隔をおいて同じように2本目もハロン19秒で走っています。心拍数は1本目とほぼ同じです。運動直後の血中乳酸濃度は約6ミリモルでした。この調教は、速いスピードを負荷することなく、十分な強度のトレーニングとなっています。

2_2図2:屋内坂路コースにおける反復トレーニング時の心拍数変化。反復の間隔は約10分で、心拍数はいずれも200拍/分程度。血中乳酸濃度は6ミリモルで、無酸素性のエネルギー供給を刺激する内容となっている。


 坂路コースを使った運動は1本の走行距離が決まっているため、過剰な負荷を避けることができるという利点があります。反復運動では、それぞれの走行の強度を変えたり、反復間隔を変えたりすることで、トレーニングに多様性を与えることができます。先の例で言えば、2本目を16秒くらいにすると、血中乳酸濃度は10ミリモルを超え、無酸素性のエネルギー供給を効率よく刺激することができます。現在のようなトレーニングメニューでトレーニングされた馬では、VO2maxは楽に160ミリリットルを越えるようになっています。 

(日高育成牧場 副場長  平賀 敦)

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