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2019年9月

2019年9月30日 (月)

下肢部のコンフォメーション

No.107(2014年8月15日号)

はじめに

 8月25日から4日間にわたり、上場頭数では国内最大規模のサマーセールが開催されます。今回は、セリで馬を検査する際に注目される下肢部のコンフォメーションについて紹介いたします。

 コンフォメーションとは、馬の外貌から判別することができる骨格構造、身体パーツの長さ、大きさ、形状やバランスのことをいいます。コンフォメーションがよい、すなわち力学的に無駄がない骨格構造をしている馬は、効率よくスムーズに走ることが可能です。したがって、強い運動時における関節等への負担や筋肉疲労も少ないものと考えられます。

 前肢

 馬は体重の約65%を前肢で負重するとされることから、前肢のコンフォメーションはとりわけ重要です。

 筋肉が発達し十分な長さがある前腕と、比較的短い管は、大きなストライドを得るうえで大切です。腕節や球節は十分な巾と大きさが必要で、また、腱や靭帯が外貌から明瞭に見える管は丈夫で健康です。

 凹膝(おうしつ)と呼ばれる反った腕節は、屈腱や腕節に対する負担が大きく、屈腱炎や剥離骨折を発症しやすいといわれます。腕節が前方に屈曲した弯膝(わんしつ)は繋靭帯や屈腱に負担がかかりますが、軽度の弯膝は凹膝ほど問題になりません。腕節の直下がしぼれて狭くなっているものは、窄膝(さくしつ)と呼ばれ、腱の発育が不良で好まれません。

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 標準的な繋の角度は概ね45~50度とされています。繋が標準よりも長くて緩い臥繋(ねつなぎ)は腱に対する負担が大きく、逆に、短く立った起繋(たちつなぎ)は骨に対する衝撃が大きくなります。また、側面から見た蹄の角度(背側および掌側)は繋の角度と平行であることが標準です。

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 正面から見て、肩端、腕節、球節および蹄が直線状にあることが標準です。両方の腕節が内側に寄ったX脚は、腕節の内側に負担がかかるとともに外側の靭帯にも負荷がかかります。また、前腕と管骨のラインがずれたオフセットニーは内管骨瘤や腕節の剥離骨折などの問題を起こしやすいといわれています。

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 繋と蹄が外に向くものを外向、内に向くものを内向とよびます。外向は腕節や球節の内側に負荷がかかり、球節の剥離骨折などを発症しやすいといわれています。通常、外向は外弧歩様(がいこほよう)になりますので、交突にも注意が必要です。一方、内向は内弧歩様(ないこほよう)となり、内向は腕節や球節の外側に負荷がかかります。内弧歩様は動きに無駄が多く、疲労しやすくなります。

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後肢

 後肢からの力強い推進を得るためには、良好なコンフォメーションが必要です。側望では、臀端から地面におろした垂線が管の後面に接するのが標準とされます。また、繋の角度は前肢よりも大きく、50~55度が標準です。

 飛節は十分な幅と大きさが必要です。十分な幅のない飛節や、飛節から管に移る部位が急にしぼれて細くなっている窄飛(さくひ)は弱いので好ましくありません。標準とされるものよりも飛節の角度が小さい曲飛(きょくひ)は、飛節後面に負荷がかかり飛節後腫を発症しやすいといわれています。また、脛骨が長く、臀端から下ろした垂線よりも後踏み肢勢をとる折れの深い飛節は曲飛ほど弱くありませんが、動きに無駄が多いので疲労しやすいといわれています。直飛は飛節の角度の大きいもので、飛節構成骨に負荷がかかりやすく、膝蓋骨の上方固定を発症しやすいといわれています。

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 側望からみた後肢の肢軸は、臀端から地面にまっすぐ垂線をおろして評価をします。垂線が飛端から管の後面を通過するものを標準肢勢としています。後肢のX状肢勢は、飛節の内側に負荷がかかり、外向肢勢を伴うことが多いので交突にも注意が必要です。一方、O状肢勢は飛節の外側に負荷がかかるとともに疲れやすく、狭踏肢勢をともなうと十分に踏み込むことができません。両者ともに飛節内腫、軟腫および後腫等の発症に注意が必要です。 

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歩様

歩様は、肢勢と立ち方に規定されます。

胸が狭く肢を広く踏む広踏または外向蹄では外弧歩様、胸が広く肢を狭く踏む狭踏または内向蹄では内弧歩様を示します。立ち馬では肢軸を評価しづらい場合もありますが、実際に歩かせてみると肢軸のコンフォメーションは比較的容易に判別できます。 

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最後に

コンフォメーションは馬の個性の一つと考えるとよいと思います。これからの馬体成長を見込んで評価することも大切です。また、欠点よりも長所を探すことを忘れてはなりません。

 (日高育成牧場 副場長 石丸 睦樹)

2019年9月29日 (日)

セリに向けた馴致

No.106(2014年8月1日号)

 8月5日に八戸市場、8月25日にサマーセールを控え、コンサイナーをはじめ生産牧場の皆様は忙しい日々を過ごしていることと思います。今回は、セリに向けた馴致に関する話題をいくつか紹介いたします。

1歳馬品評会
 まず、三石・平取両地区で実施された1歳馬品評会の取組みを紹介します。
 三石地区(6月11日実施)では「ベストターンドアウト賞」が新設されました。審査基準として「最も美しく管理・手入れされていると同時に、人馬の信頼関係が感じ取れ、躾が行き届いている馬を総合的に判断する」とし、事前に審査のポイント(本誌7月1日号参照)が各牧場に周知されました。
平取地区(6月20日実施)では、品評会の3週間前に当場職員が講師として「セリ馬の手入れの仕方と飼養管理について」というテーマで講義と実習を行いました。実習は同地区会員の牧場の1歳馬3頭を用いて、参加者が積極的に手入れやたてがみ等のトリミングを行いました。
 これらの取組みの結果、両品評会においては、これまで以上に各牧場の1歳馬の飼養管理技術の向上を感じました。また、上場馬自身が多くの方に見られる経験をしたことによって精神的にも成長し、セリ会場においても堂々とした展示を見せてくれることでしょう。また、このことが販売成績にも結びつくと期待されます。

セリ馴致
 こうしたセリ馴致の実態は年々変化しているものと考えられます。そこで、JRAでは購買した育成馬に対し、毎年「セリに向けた飼養管理」についてアンケート調査を実施しています。ここでは、2012年に購買した74頭(内訳は、コンサイナー預託48頭(65%)、コンサイナー以外26頭(35%))から得られた回答のうち、セリ馴致に関する項目について紹介します。


1. 引き運動
セリ馴致で最も重要と考えられるのが『引き運動』です。多くの牧場が引き運動を実施していましたが、その実施期間は、「30日以上~60日未満」が最も多く、74牧場中32牧場(43.2%、平均36.8日)でした(図1)。また、その時間は「30分以上45分未満」が最も多く、35牧場(47.3%、平均27.7分)でした(図2)。

1図1

2 図2

2. ウォーキングマシン
 効率的に馬の運動量を確保するうえで『ウォーキングマシン』は有効です。ウォーキングマシンを活用しているのは、52牧場(70.3%)でした。その実施期間は、「30日以上~60日未満」が最も多く、27牧場(36.5%、平均36.7日)でした(図3)。また、その時間は「30分以上45分未満」が最も多く、29牧場(39.2%、平均38.6分)でした(図4)。

3 図3

4 図4


3. ランジング(調馬索運動)
馬体の太い馬をフィットさせる目的で『ランジング』を行うこともあります。ランジングを実施していたのは31牧場(41.9%)でした(図5)。また、その平均時間は14.7分でした。

5 図5


4. 放牧時間の変更
 セリ前の放牧管理については、悩まれている牧場も多いと思います。最も多いのが「放牧時間を短縮しパドックに変更」で、37牧場(50%)でした(図6)。また、パドック放牧時間の平均は4.1時間でした。一方、「昼夜放牧を継続」も6牧場(8.1%)ありました。

6 図6


5. 飼料内容や量の変更
 最も多かったのが「変更しない」で、32牧場(43.2%)でした(図7)。一方で、コンサイナーに預託し、セリ馴致開始とともに飼料内容や量を変更する牧場も多いと考えられます。なお、燕麦やスイートフィード等の濃厚飼料の日量については、20牧場(27%)が「6kg以上給与」していました(平均5.1kg)(図8)。

7 図7

8 図8

 上記結果から、セリ馴致の大まかな実態が把握できたものと思います。セリにむけて馬を仕上げるためには2ヶ月以上かかるという意見もあることから、全体的に、やや馴致期間が短いようにも感じられます。また、6kg以上の濃厚飼料を給与する牧場も散見されることから、全体としてセリに向けて急仕上げ(飼料給与量増加によるボディコンディションスコアの調整)の馬が多いのかもしれません。1歳春から夏にかけての気候のいい時期に昼夜放牧ができないことも、馬の将来を考えると、改善の余地があるかもしれません。そのように考えると、セリ馴致は、三石・平取の品評会の例のように適切な放牧管理を行いながら生産牧場でも取組める可能性があります。

札幌競馬グランドオープン
 最後に札幌競馬場の話題です。札幌競馬場がリニューアルされて7月26日(土)にグランドオープンしました。競馬の盛り上がりに期待したいと思います。さて、この札幌競馬場のもうひとつの特色は、スタンド内にセリを開催できる施設を新設したことです(図9)。セリを成功させるためには、良質の馬を集め、多数の購買者を集めることが不可欠です。札幌の地の利を活かし、今後の市場としての活用も期待したいところです。

9 図9

(日高育成牧場 副場長 石丸睦樹)

2019年9月18日 (水)

日高と馬の関わり:サラブレッド生産に至るまで

No.105(2014年7月15日号)

 今回は、科学に関する話題から離れて日高のサラブレッド生産の歴史について紹介したいと思います。「箸休め」としてお読みいただければ幸いです。

 明治以前の「日高と馬」

 日高地方に住んでいる方にとって「日高と馬の関わり」ということであるならば、多くの方は様似等澍院(写真1)の住職「馬追い上人」を思い浮かべられるのではないでしょうか。この住職、滋真が牧場創始の建白をしたのは安政4年(1857年)であり、翌年の幕府による調査の結果、「浦川牧」(元浦河地区、即ち現在の荻伏に存在:当時は浦川牧と称した)が開設されました。これ以前にも、有珠・虻田などの地区にも1800年代初頭から牧場があり、馬市も開かれていたようです。浦河に縁の深い「赤心社」の報告(明治16年)には「古来日高は名馬の産地で馬持ちが多い」と記されています。「浦川牧」には一時500頭あまりの馬が飼養されていたようですが、明治元年に廃止され一部の馬は近隣に払い下げられたとのことです。これらの馬が日高地区での馬産の基礎になったと考えられます。

 1_4 写真1 現在の様似等澍院

明治前期の「馬匹改良」

 明治政府は、農業近代化政策のひとつとして北海道に開拓使を置くとともに、明治5年には道産馬改良のために新冠御料牧場の前身である「新冠牧馬場」を開設します。さらに、農畜産技術指導者であり獣医師でもあったエドウィン・ダンの提案を受け入れ、明治10年、北海道の馬産の拠点を新冠に集約し、西洋式牧場として整備しました。これにより優秀な種牡馬と進んだ管理技術が日高に導入され、北海道の馬産の基礎が築かれたといえます。最盛期には千数百頭もの馬が飼育され、すでに始まっていた横浜根岸での洋式競馬にも勝ち馬を送っていたとのことです。日高管内各町村史によれば、明治20年前後からは経営規模の大きな牧場が管内に現れてきたと記載されています。また、明治40年には日高種馬牧場(旧日高種畜牧場)が設立されました。両牧場ともサラブレッド種牡馬を繋養し、北海道における本格的なサラ系馬の生産が始まりました。

 サラブレッド牝馬のまとまった数の輸入は、まず日本レース・クラブが明治30年代に豪州産馬を輸入しています。これらの多くは競走後に繁殖に供されました。例えば有名なミラは新冠御料牧場に繋養され、その血はワカタカ、ヒカルイマイ、ランドプリンス等々に引き継がれていきました。これに続く動きとしては、日露戦争のため豪州から多頭数(一万頭など諸説あり)の馬が輸入されました。日清戦争あるいは北清事変においては、日本産馬の軍馬としての資質の低さが問題でしたが、日露戦争では長期化に伴う資源不足が憂慮され、当時同盟国であった英国の仲介により輸入されたとのことです。この血統的内訳は不明ですがサラブレッドも多く含まれていたことが想像できます。この中の牝馬約3,500頭を民間に貸し付け、このうち397頭が北海道に分配されました。この豪州牝馬を基礎とする馬種の改良は大きな成果があったと「日本馬政史」に記されています。軍馬補充目的で輸入されたのですが、その後のサラブレッド生産にも大きな影響を及ぼしたと考えられます。

 明治後期の「サラブレッド生産」

「日高種畜牧場50年の歩み」には、明治41年にサラブレッド種牡馬ブレイアモーア(写真2)を含む種牡馬7頭を民間馬114頭に交配したとあります。これに呼応する記述として、浦河の「鎌田家」の歴史を記した「大地とともに」では明治40年、鎌田九平氏がサラブレッド繁殖牝馬数頭を持って牧場を始めたとされており、「西舎開村記念誌:拓地百年」には、この牝馬に国有種馬牧場の同種の馬を配したと記されています(写真3)。そして購買者には、競馬関係書によく名前の出てくるアイザックス氏も出ています。この時期から日高地区の民間におけるサラブレッド生産が加速されたと考えられます。以降、馬券禁止後一時下火になったものの、大正12年に馬券が復活するとサラブレッド生産が著しく高まったと「日高支庁100年記念誌」に記載されています。このころに活躍した日高種馬牧場のサラブレッド種牡馬には、帝室御賞典競走勝馬を始め優秀な産駒を多数輩出し1924(大正13年)~1929年(昭和4年)のリーディングサイアーとなったイボア(写真4)が有名です。

2_3 写真2 日高種馬牧場開設当初にイギリスから導入されたブレイアモーア(写真には、ブレアーモアーと表記されている 浦河町立郷土博物館所蔵)

3_3写真3 「大地とともに」(右:日東牧場(浦河町)所蔵)と「西舎開村記念誌:拓地百年」(左:日高育成牧場所蔵)

4_2 写真4 イギリスから導入されたイボア(1905年生まれ)
イボアは1910年(明治43年)十勝に導入され、産駒成績が優秀であったためその後1917年(大正6年)に日高種馬牧場に移管された。写真は、旧日高種畜牧場メモリアルホール(日高育成牧場内)に展示されている。

 本来洋種馬の輸入目的は、畜耕および輸送手段である在来馬の大型化であったので、国費によるサラブレッド種牡馬の購入もそのためでなければ名分が立たなかったと思われます。「日本馬政史」にも「民間にサラブレッド純粋種を繁殖させる主旨ではない」と言い訳がましく書かれています。一方、後段では明治40年頃の競馬興隆時には、時代の要求によりその供用が急伸したとも書かれています。昭和12年に発行された「日高種馬牧場要覧」にも競馬隆昌時に日高地方は有力なサラブレッド生産地であったことが示唆されています。

 (軽種馬育成調教センター 日高事業所長 高松勝憲)

2019年9月16日 (月)

立ち馬展示の基本

No.104(2014年7月1日号)

 セリで馬を購買する場合、購買者はセリ名簿をみて購買馬を絞り込んだあと「立ち馬展示」で立ち姿を確認します。立ち馬展示では馬の気品や性格、体型やコンフォメーションの問題点などが確認されたあと、常歩での歩様検査が行われます。血統的に魅力がある馬でも、「立ち馬展示」で駐立ができないと印象が悪くなるばかりではなく、十分な検査ができないために購買を諦められてしまうこともあります。今回は立ち馬展示の基本についてご紹介します。

 展示に向けた準備

 たち馬展示に限った話ではありませんが、馬を人に「魅せる」前に必ず実施するべき準備の1つにトリミングがあります。トリミングとは自然の状態で伸びている毛を抜いたりカットしたりして身だしなみを整えることで、トリミングの有無で馬の印象、特に素軽さが大きく変わります。まず、タテガミは必ず右側に寝かせて適切な長さに揃えます。これは頚のラインが馬の第一印象に大きな影響を与えるため、馬をみるときに「表」となる左側をタテガミが隠さないようにするためです。続いて展示用頭絡の項革が通る部分(ブライドルパース)のタテガミや耳の毛、距毛(四肢球節部の毛)、アゴヒゲなどをカットします。きちんとした手入れができていることは、馬の第一印象をよくするための基本です。すっきり素軽く見せることで馬の印象は改善できます。

 外見を美しく「魅せる」準備に続いて、馬を展示するためのしつけ(馴致)を行います。立ち馬展示の馴致では、①人馬の信頼関係を確立すること、②人が馬のリーダーになること、③人の指示で駐立でき、また大人しく引き馬を行えること、の3点が大きな目標となります。何か事が起こった際に人の指示が尊重される人馬の関係が大切です。リーダー(人)の指示で落ち着いて行動できるように、プレッシャーのオン・オフを用いて馬にわかりやすい指示を与えます。立ち馬展示では10分以上の駐立を求められることが多いので、馬が人の指示を受け入れて飽きずに我慢できるようにじっくりと練習する必要があります。

展示で使用する馬具

 立ち馬展示では展示頭絡や無口頭絡にチフニービットを装着するのが一般的です。引き手(リード)は革製の引き手1本を使用します。セリにおいて馬は大切な「高額商品」ですから、展示者もスタイリッシュで動きやすい服装を心がけるべきです。だらしのない服装や長靴を履いての立ち馬展示では、折角の馬の評価に悪影響を及ぼしかねません。

 立ち馬展示の方法

 馬を展示するときには、購買者に馬の左側を向けた左表(ひだりおもて)で、左側の肢が広踏で右側の肢が狭踏になるようにして四肢が重ならないように立たせます。このときに注意するのは馬の姿勢です。展示者は後肢が休んだり(蹄が浮いてしまう立ち方)、馬体が伸びきったり(左前肢と左後肢の間隔が広すぎる)、逆に集合姿勢になったり(四肢の間隔が詰まりすぎる)していないか常に注意を払い、必要に応じて馬の立ち方を直します。立たせる場所はなるべく水平かつ逆光にならない場所を選び、展示者は購買者が効率よく見られるように以下のとおり動きます。

①購買者が馬の左側を見ている場合

 展示者は馬と向き合うように立ち、引き手は左手にもちます。

②購買者が馬の正面を見る場合

 馬の前望を遮らないよう正面から少しずれ、馬の両前肢を揃えて立たせます。

③購買者が馬の右側を見ている場合

 馬を右表(みぎおもて)に立たせ、引き手は右手にもちかえます

④購買者が後方を見る場合

 馬の両後肢が揃うように立たせ、引き手は左手にもちかえます。

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2_2 常に購買者の「見やすさ」に配慮し、安全なポジションで検査ができるように立たせることが大切です。

 歩様検査の方法

 購買時の歩様検査では跛行の有無のみならず、きびきびとした闊達な動きができるか、人の指示に従って歩くことができるかも判断されます。引き馬は一見簡単そうに見えますが、前向きな歩きを魅せようと慌てて練習しても付け焼刃では成功しません。闊達に歩く練習を毎日行うことで馬はハミ受けを覚え、後肢の踏み込みが改善し、全身の筋肉も発達しますので、普段から馬の歩き方を意識した管理を行うことが大切です。

 歩様検査では購買者から直線的に遠ざかり、その後右回りにUターンして真っ直ぐに購買者のところに戻ります。購買者は馬が遠ざかるときに後望を、戻ってくるときに前望を検査しますので、引く人は常に馬の左に立ち購買者の視界を邪魔しないように注意します。また、引き手は少し長めに余裕を持って持つのが美しく魅せるコツです。

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さいごに

 セリで購買者は馬の血統や体型、価格等を総合的に判断して購買馬を決定しますので、立ち馬展示は購買馬決定の大きなカギを握っています。綺麗にトリミングされた馬がきびきびと歩く姿は、多くの人の目に留まるに違いありません。立ち馬展示の基本を理解し、購買者の目線に立って馬を作ることこそが、今後のセリ上場者に求められる「役割」だと思います。

   (日高育成牧場 業務課長  秋山健太郎)

2019年9月12日 (木)

離乳までの子馬の栄養管理

No.103(2014年6月15日号)

 「母乳の出が悪く、子馬に人工乳を与えたいが、どのくらいの量を与えればよいのだろうか?」「子馬に母馬と同じエサを食べさせてもよいのだろうか?」生後間もない子馬を育てるなかで、このような疑問をお持ちになる方は少なくないのではないでしょうか?出生後の子馬を元気で健康に育てるための「適切」な栄養管理は欠かせませんが、持って生まれた馬体に加え、栄養摂取能、血統的資質、そして母乳の産生量などの様々な要因が成長に関与するため、「適切」を見極めることは容易ではありません。そこで、今回は出生直後から離乳までの子馬の栄養管理についての基礎的な話題について紹介しますので、子馬を健康に育てるための参考にしていただければ幸いです。

2ヶ月齢までの栄養
 生後2ヶ月齢までは、基本的には母乳からの栄養が中心となります。出産直後の子馬が必要とする母乳の量は体重の約10%(50kgの子馬であればおよそ5リットル)ですが、生後10日には体重の25~30%(70kgの子馬であればおよそ17~21リットル)にまで達します。そして、5週間を過ぎると体重の17~20%になります(100kgの子馬であればおよそ17~20リットル)。
 子馬が十分量の母乳を摂取しているかどうか確認することは、適切な成長のために重要です。このため、子馬の哺乳行動や乳房の腫脹(図1)の確認はもちろんのこと、定期的に計測する体重および体高の値は極めて有用な指標になります(図2)。この時期の子馬が十分量の母乳を摂取している場合、1日あたりの体重増は1~2kg、体高の伸びは0.3~0.4cmになります。
 母馬の死亡や母乳不足など、何らかの理由で人工乳を与えなくてはならない場合、上記の摂取量や増体量が参考になります。この時期の子馬の哺乳回数は、1時間あたり約3回であり、比較的頻繁ですが、人間が与える場合は、生後1週間であれば1~2時間に1回、2週齢以降は4~6時間に1回で良いと思われます。なお、バケツからの摂取が可能になったら、馬房にミルク用の飼桶を設置して自由摂取させることもできます(図3)。また、体重の増加量など子馬の状態に応じて、早めに少量のクリープフィードを与えても良いでしょう。

1_2 図1.哺乳されないため、腫脹した乳房

2 図2.体重や体高の測定は、適切な成長を見極める重要な指標となる

3 図3.ミルクの摂取は、馬房に設置した飼桶からも可能

2ヶ月齢以降の栄養「クリープフィード」
 2ヶ月齢以降になると、泌乳量は徐々に減少していき、子馬の栄養要求量を満たすことができなくなります(図4)。このため、不足する栄養を補うための固形飼料、すなわちクリープフィードの給餌を開始します。クリープフィードに必要な栄養成分としては、タンパク質含量が少なくとも16%以上で、必要なアミノ酸やカルシウム、リン、銅、亜鉛およびマンガンなどのミネラルがバランス良く含まれている飼料が理想的といえます。
 クリープフィードを与えることにより、「当歳に食べさせることを覚えさせる」ことは、極めて重要です。特に北海道においては、秋の離乳時に増体が停滞した場合には、つづく冬季にも成長が期待できないため、翌春まで成長不良の状態が継続することになります。このため、初夏に開催される1歳市場への上場を視野に入れている場合には、厳冬期の成長停滞を可能な限り抑制するためにも、十分量のクリープフィードを与えることは重要といえます。

母馬の飼料摂取の是非
 母馬の飼料を子馬に与えることの是非が問題になることがあります。もちろん、上記の栄養成分を満たすような飼料であれば、子馬に与えても問題ありません。しかし、与える量については、考慮する必要があります。一般的には、体重の0.5~0.75%、もしくは月齢×0.5kgなどと言われていますが、個々の子馬の馬体や栄養摂取能、さらには哺乳量や放牧地の草の状態など様々な要因があるため、馬体重や月齢により一律の給餌量を決めることは現実的ではありません。このため、やはり定期的な体重測定や馬体観察に基づいた、増体日量やボディコンディションスコア(BCS)を参考とした給餌量の決定が推奨されます。増体日量は生後3ヶ月までは1.1~1.3kg、その後は月齢とともに減少していき、離乳期の6ヶ月齢ではおよそ0.8kgが標準値と考えられています。また、BCSは9段階の5、すなわち「背中央が平らで、肋骨は見分けられないが触れるとわかる。尾根周囲の脂肪はスポンジ状。き甲は丸みを帯びるように見える。肩はなめらかに馬体へ移行する」が目安になります。
 成長期の子馬に濃厚飼料を過剰に与えることのリスクは小さくありません。子馬に対する濃厚飼料、特にエンバクなどのデンプンの多給が、骨端炎やOCDに代表される成長期外科疾患や胃潰瘍の発症に影響を及ぼす可能性があるからです。このため、たとえ母馬に与えている飼料が適切な栄養成分を含んでいる場合であっても、摂取量のコントロールを考慮した場合、やはり母馬と子馬に与える飼料は、それぞれ個別に用意した方が良いと思われます。
J RA日高育成牧場では、生後2ヶ月を目安にクリープフィードを子馬用のホースフィーダーで与えており、盗食できないように母親の飼い桶にフェンスを設置しています(図5)。クリープフィードは、離乳前にはしっかり食べられるように時間をかけてゆっくり増やしていきます。

4 図4.子馬のエネルギー要求量の推移

5 図5.子馬用のクリープフィーダーと母馬の飼料を食べさせないためのフェンス

さいごに
 子馬の成長度合いや疾患発生は、放牧環境や血統を含めた個体差などによる影響も無視できないため、子馬に適切な栄養を与えた場合であっても、リスクをゼロにすることはできません。一方で、デンプンの過剰給餌をした場合であっても、健康に育つ子馬がいることもまた事実です。馬づくりにおいては、絶対的な正解は存在しませんが、可能なかぎり最適な飼養管理法を選択するとともに、繋養馬に対する詳細かつ継続的な観察を行うことで、つねにベストの方法を模索していきたいと思います。

(日高育成牧場 専門役 冨成雅尚)