子馬の蹄管理と異常肢勢
No.144 (2016年4月1日号)
はじめに
出産シーズンが始まるとどんな可愛い子馬と出会えるのかとワクワクします。しかし、いざ出産が始まると肢軸異常の子馬など、私たち装蹄師を悩ませる問題児たちが出てきます。子馬の頃から健全な蹄や肢の発育を維持することは、『強い馬づくり』にとって非常に重要で、肢軸異常がある場合には、十分な運動を実施できず競走成績にも影響します。そこで今回の強い馬づくり最前線は子馬の蹄管理と子馬に多い肢勢の異常について紹介したいと思います。
子馬の蹄管理
子馬の蹄は柔らかく成長が早いため、異常摩滅などにより、蹄形が変形してしまうと歩様、肢勢、蹄形は大きな影響を受けます。そのため、定期的な装削蹄が不可欠です。子馬は、3~4 週間隔で装削蹄を実施しますが、状態によっては時期を早める場合もあります。また、削蹄などの蹄管理は、馬が生きていく限り継続されるものであるため、子馬に恐怖心を与えないよう慎重に実施します。
子馬の異常肢勢
子馬の肢勢は発育、負重、歩様など、様々な要因によって変化します。異常肢勢は成長とともに治癒する場合もありますが、重度の異常肢勢を矯正することなく放置した場合は、運動器疾患の発症要因になることもあります。このため、日頃から蹄を注意深く観察し、異常肢勢や蹄形異常を早期発見することが重要です。また、異常が認められた場合は、早めに対処することが必要です。
【X脚】
X脚は、左右の腕節の間隔が肩幅より狭く、それ以下が広いもの(図1)で、軽度の場合は自然に治ることもありますが、重度な場合は症状が長期化し、成馬になっても異常肢勢が残存することがあります。対処としては、削蹄による矯正ですが、削蹄のみによる矯正が困難な場合は、充填剤などを使用して蹄の内側に張り出しを付けるなど、腕節に均等に力がかかるようにサポートします。 図1 X脚
【弯膝】
生後間もない子馬の多くは弯膝(図2)で、後天性の場合は筋肉痛や疲労が原因といわれています。軽度な場合は、通常の放牧管理による筋力強化によっても改善されます。また、弯膝の特徴として蹄の前半部への体重負担が大きくなるため、蹄が不均等に生長するということもあります。そのため蹄のバランスを頻繁に整えることも大切です。 図2 弯膝
【クラブフット】
クラブフットの原因は、深屈腱の拘縮や腱と骨の成長速度のアンバランスと言われていますが、いまだ発症機序は明らかにされておらず、予防法も確立されていません。発症時期は生後3~6ヶ月の間が最も多く、その進行はきわめて速いのが特徴です。矯正削蹄や充填剤を使用(図3)して、深屈腱の緊張を緩和する事により、ある程度の進行は抑制できますが、処置が遅れ重度なクラブフットになると、成馬になってからでは蹄形の完全治癒は望めません。そのため、異常を早期に発見し重度になる前に処置を実施する事が重要です。 図3 クラブフットの充填剤使用
さいごに
肢勢異常の中には子馬が成長するにつれて自然に良化する場合があり、矯正を行う必要性を判断するのは非常に難しい事です。この判断を行うのは生産者と獣医師、装蹄師です。この3者の協力で肢軸、蹄の異常を早めに対処することにより、競走馬としての明るい未来を護る事ができます。
(日高育成牧場 業務課 山口 智史)
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