BUセールに向けての日高育成牧場における取り組み
2020JRAブリーズアップセールは、新型コロナウイルス感染症の拡大を防止する観点から例年行ってきた中山競馬場でのセリ開催や騎乗供覧等を取りやめ、メール入札方式に変更しての開催となりました。異例の開催となってしまいましたが、日高育成牧場におけるJRA育成馬への調教は例年の質の高さを維持しつつ、運動負荷については例年以上の強度で行ってきました。
本年売却した育成馬に対しては、例年よりやや早めの12月頃より調教のギアを上げ始め、年明け以降も坂路およびトレッドミルを用いて昨年より高強度の調教を実施してきました。グラフ①は、昨年2019年(△)と本年2020年(●)の1月20日前後の屋内坂路ウッドチップコース(1000m)でのスピード(上がり3ハロン平均値)と乳酸値のデータを示します。昨年と比較して本年は坂路でのスピードが速く、調教後の乳酸値が高い、すなわち運動強度が高い調教を課してきたことが分かります。
グラフ①.昨年と本年の1月20日前後の屋内坂路コースでのスピードと乳酸値
約1ヶ月後にあたる2月中旬の同じデータをグラフ②に示します。昨年と比較すると本年は全体的にスピードが速い馬が多い一方で、乳酸値が低い傾向にあることが分かります。すなわち、2月時点では本年の育成馬の方が昨年に比較してより体力がある、すなわちグラフ①で示したような高強度の調教を継続した効果が表れたものと推定することができます。
さらに、走行中の心拍数とスピードから算出されるV200(1分間の心拍数が200に達した際の走行スピードで示され、持久力の指標とされる。値が高い方が持久力に優れている)については、日高育成牧場では例年2月と4月に測定していますが、いずれの月も過去2年に比較して高値を示しており、特に本年4月の703.5m/minという値は過去最高を記録しました(グラフ③)。このように、乳酸値のみならず、心拍数データからも本年の育成馬の体力の高さを伺い知ることができます。
グラフ②.昨年と本年の2月中旬の屋内坂路コースでのスピードと乳酸値
グラフ③.過去3年の2月および4月の800ダートコースにおけるV200
もちろん若馬に対する強運動負荷は、体力向上が期待できる半面、馬体や精神面への悪影響も懸念されます。本年の調教についてはその点を考慮し、強調教の翌日にはハッキングもしくはウォーキングマシンでの常歩調教を行うなど、ダメージ回復に努めました。本年の育成馬の運動器疾患の発症頭数(一定期間の休養を要したもの)が例年と同程度であったことから、本年の強調教による馬体への悪影響は、例年より多かったわけではないと感じています。ただし、牝馬においては例年より食欲の減退が多く認められたことから、調教メニューを組み立てる際にはフィジカル面のみならずメンタル面をも含めた十分なケアと、必要な運動の負荷とを両立させるよう留意することが今後の課題と捉えています。
日高育成牧場 業務課 冨成雅尚
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