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2021年8月30日 (月)

ブリーズアップセールを振り返って

 昨年のJRAブリーズアップセール(BUセール)は、コロナの影響によるメール入札方式というイレギュラーな開催方式であったうえ、様々な制限で購買者が直接馬を見る機会が限られていたセールでしたが、本年のBUセールは、購買関係者が馬を見る機会を確保したうえで、セリ会場でのせり上げとオンラインビッドを組み合わせた「ハイブリッド方式」で開催しました。本年度最初に開催される国内セールということで、後続のセールに及ぼす影響もあることから「購買関係者に直接馬をご覧いただき、セリ会場でセリを行いたい」という強い思いで各種の感染症対策を行いながら運営にあたりました。売却成績や注目馬については、これまでの馬事通信内でも紹介されていますので割愛いたしますが、今回のセールについてセール運営者の立場からキーワードとともにご紹介いたします。

オンラインビッド

 BUセールではコロナ感染症対策や購買者の利便性を考慮して、初めてオンラインビッドを併用しました。民間の競走馬オークションサイトで行われているような複数頭を同時進行でせり上げるインターネットオークションとは異なり、鑑定人が会場とオンライン双方のビッドを捌きながら進行するハイブリッド方式で行いました。「遠隔地からでもリアルタイムでセリに参加できる」ことが大きな特長です。遠隔地からのオンラインビッド導入は今回のBUセールが国内で初めてでしたが、事前の準備やテストを行っていたこともあり大きな混乱もなく、セリ総参加者の半分近い方々に利用していただきました。オンラインによる落札頭数も全体の3割を超える数字となりました。

 今後のインターネットオークションやオンラインビッドの活用は、コロナ対策としてはもとより、様々な理由でセリ会場に足を運べない購買者にとって利便性向上につながるのではないかと期待されます。

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2021年ブリーズアップセールの成績(ビッド方式別)

跛行(深管骨瘤)による欠場

 ブリーズアップセールは「徹底した情報開示」と「わかりやすいセール運営」を目指しています。「現時点で今後の調教や競走に耐えうると判断された馬」という上場基準のもと、育成牧場の獣医職員だけでなく本部やトレセンの獣医職員など複数の眼で上場の可否の判断や調教進度遅れ(スピードを抑えた騎乗供覧を行い上場する馬)の判断をおこなっています。本年も上場候補馬84頭のうち11頭に欠場、8頭に調教進度遅れの判断を行いました。

 本年に限らず毎年欠場の理由として多いものは「跛行」で、その原因の半分近くが「深管骨瘤(シンカン)」によるものです。膝ウラの繋靭帯の近位付着部に生じる炎症で、発症時期によってはセールを欠場せざるを得ず、育成馬にとっては一生を左右しかねない悩ましい疾病の一つです。適切な休養を行うことで回復しますが、トレーニングセール上場を目指す民間の育成牧場の方々も同じような悩みを抱えているようです。若馬にいかに故障をおこさずに効果的なトレーニングを課していくのかということは、育成に携わる者として解決すべき課題だと認識しています。

コンソレーションセール

 本年の新しい取り組みとして、BUセールの約1か月後に「コンソレーションセール」を開催しました。昨年は北海道トレーニングセールが中止となったことなどもあり、昨年のBUセール未売却馬は状態が回復し調教が積めるようになってもセールに上場されることがありませんでした。そこで、生産者の思いも背負っている馬たちを1頭でも競走馬にしたいという強い気持ちからこのプライベートセールを立ち上げました。このセールは、調教・常歩動画、四肢X線・内視鏡画像、病歴等の個体情報をインターネットサイト上に情報公開した点はBUセールと同様ですが、「落札者の決定方法がインターネットオークション限定」という点で異なります。初めてのセールということに加え、馬を広く直接見ていただく機会がなかったことから、どのような結果になるか不安でしたが、上場した6頭全ての馬が競走馬になれるチャンスを得たことに感謝しています。

最後に

 この数年で社会のいろいろな場所で急速に進んだリモート化は、競走馬市場の情報公開の面だけでなく、売買にも活用され注目が高まっています。しかしながら、高額な競走馬のセリに関しては従来通り「購買関係者が直接馬を見て、会場でセリに参加する」スタイルのほうが望ましいと感じている方のほうが多かったように感じます。私も同感で、インターネットを活用しながらも、上場馬の周りに多くの関係者が集い賑わう競走馬セールが一日も早く戻ることを願っております。

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(ブリーズアップセールのオンライン参加者のパソコン画面)

日高育成牧場 業務課長  立野大樹

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