« 発酵牧草の給与について | メイン | IFHA(国際競馬統括機関連盟)馬の生産の福祉に関するミニマムスタンダード »

2022年8月 5日 (金)

ファームコンサルタント養成研修(栄養管理技術指導者養成研修)より

 JBBAは「競走馬生産振興事業」における「軽種馬経営高度化指導研修事業」のひとつとして、2年間に及ぶ研修を通して栄養管理技術者としての能力を身につけることを目的とする「ファームコンサルタント養成研修事業」を2015年から開催しています。これまでに第1期生9名および第2期生2名を生産地に送り出しています。なお、第2期からは牧場に勤務する者を対象とした「担い手飼養管理研修」も同時に実施しており、現在実施中の第3期はファームコンサルタント養成研修生3名、担い手飼養管理研修生15名の18名が受講しています。研修は通常「講義」、「実習」、「課題発表」の3部構成で行っていますが、3月に開催された研修会はコロナ禍ということを考慮し、ウェブを利用しての「講義」および「課題発表」のみとなりました。本稿ではこの「課題発表」の内容を紹介いたします。

 

1.今回の課題は「繁殖牝馬の栄養管理」

 今回の課題となった文献の一つはThe Horse(Web版)に掲載されたケンタッキー大学Lawrence博士による「Broodmare Nutrition: Preparing for Fall and Winter」でした。要約は以下のとおりです。 

〇ボディコンディションスコア(BCS

 定期的なBCSの測定は繁殖牝馬を管理するうえで非常に重要であり、BCSが5未満であれば分娩後の受胎率は低下し、前年の不受胎馬や未供用馬では良好なBCSを維持することによって、早期に正常な発情周期の確立が可能となり受胎率も向上する。一方、BCSが7を超えた場合には、繁殖成績に悪影響は認められないが、蹄葉炎を含む蹄疾患や下肢部疾患のリスクが高くなる点に注意すべきである。また、特に離乳後の母馬や未供用馬では初秋にBCSが5 未満になる場合も少なくなく、この場合には秋にBCSを上昇させておく必要がある。

〇牧草と乾草

 ケンタッキー州では晩秋に牧草の質および量が低下するため、放牧地で乾草を給与する場合がある。これはBCSを維持する目的以外に、過放牧による来春の牧草の活力低下に伴う雑草の侵入を防止する目的もある。放牧地で乾草を給与しても馬が乾草を食さない場合には、放牧草のみによってエネルギー要求量は満たされていることが示唆される。一方、乾草を完食する場合には、放牧草の質が明らかに低下していることが示唆される。また、米国南東部におけるトールフェスクは妊娠後期の牝馬に悪影響を及ぼすエンドファイト(植物内に共生する微生物)に汚染している可能性があることから、給与する際には注意が必要である。

 ルーサンやクローバーなどのマメ科乾草の多くは、チモシーやオーチャードなどのイネ科乾草よりも栄養素が豊富であり、妊娠中期および後期の妊娠馬は良質のルーサンを十分に摂取することによってタンパク質要求量を満たすことが可能である。さらに良質のルーサンを給与する場合には、チモシー乾草を給与する場合よりも濃厚飼料の給餌量を減じることが可能である。一方、チモシー乾草のみを給与された妊娠馬は、妊娠後期にタンパク質要求量を満たすことは困難であった。

 英国の研究では、体重 100 ポンド(45kg)ごとに約 2〜2.25 ポンド(0.9〜1.0kg)の乾草を摂取する必要があり、一般的なサラブレッドの牝馬(1,250 ポンド:562kg)の場合には、1日あたり約 25〜28 ポンド(11.25〜12.6kg)の乾草の摂取が必要である。(参考までにこの研究では少量の濃厚飼料しか給与されておらず、より多くの濃厚飼料を与えられた牝馬は乾草の摂取量を減じることが可能であると言及している。)

〇濃厚飼料とサプリメント

 通常、繁殖牝馬は放牧草および乾草の補助飼料として濃厚飼料あるいはサプリメントを給与される。一般的に粗飼料の給与によって十分なカロリーを得られない場合に濃厚飼料を給与するが、ほとんどのサラブレッド妊娠馬に対しては、妊娠後期に5〜10 ポンド(2.25〜4.5kg)の濃厚飼料を摂取させる必要がある。サプリメントはビタミン、ミネラル、さらにはタンパク質の補完的な飼料であり、放牧草または乾草のみによってエネルギー要求量が満たされ、BCS 6を維持できる場合でさえも、少量(1 日あたり 1〜2 ポンド:0.45〜1kg)のサプリメントの給与は必要である。一方、市販の妊娠馬用濃厚飼料を少なくとも 4 ポンド(2kg)摂取している妊娠馬に対しては、サプリメントは不要である。市販のオールインワン飼料を給与せずにえん麦などの穀物のみでエネルギー要求量を調整している場合には、サプリメントは非常に有効な飼料である。

2.質疑応答

これらの文献の内容に関して行われた講師陣との質疑応答は以下のとおりでした。

(クリックすると拡大されます)

284

 質疑応答では飼料の価格高騰という現在の切迫する問題を踏まえた対応策やカビに関しても教科書的には全て廃棄すべきと結論付けることに対しても率直に意見交換が行われ、少人数制のメリットを存分に生かした研修となりました。研修に参加した方々が研修終了後もこのように意見交換ができる関係を維持することは、「強い馬づくり」に役立つものと実感いたしました。今後も本研修において有益な議論が行われた際には、この誌面で報告させていただきたいと思います。

The_horse_hp

Broodmarenutrition

写真1.今回の課題となったThe Horse(Web版)に掲載された文献(QRコードでHPにアクセスできます)

 

日高育成牧場 頃末憲治

コメント

この記事へのコメントは終了しました。