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2018年12月28日 (金)

育成馬へのライトコントロール

No.23 (2010年12月15日号)

 ライトコントロールというと、皆様は何を思い浮かべるでしょうか?人では睡眠障害の治療などにも用いられている技術ですが、近年、生産地では牝馬の繁殖シーズンにおける発情誘起のための有用な管理技術として広く普及されています。そして、育成馬においても同法が応用されるようになってきており、冬の飼養管理の一部として定着しつつあるようです。今回は、育成馬へのライトコントロール法(図1)の効果や方法などについて説明したいと思います。

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図1:ライトコントロール法を行っている育成馬房

ライトコントロール法って何?
 まず、ライトコントロール法とはどのようなものでしょうか?これは馬が長日性季節繁殖動物であり、春になると卵巣機能が活発となり、発情期が回帰するようになることを利用した飼養管理技術です。春になると・・・と書きましたが、馬は何によって春が来たことを感じるのでしょう?実は、馬は“光”によって季節を感じているのです。冬から春になるにつれ、昼間の時間が長くなりますが、馬はこの日照時間が長くなることを“目”から感じて季節を判断しています。そこで考え出されたのが、この「ライトコントロール法」です。まだ日照時間の短い冬期(12月末~3月初旬)の夕方と朝に、春と同様の日照時間になるようにライトを点灯します。そうすることで、「視床下部」という神経器官からのホルモン分泌が徐々に促進され、さらに下垂体から分泌される黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進することにより、卵胞発育や排卵が起こるようになります。発情周期が回帰すると、卵巣から分泌されるホルモンによる抑制が適切に働き、約3週間の周期的な発情を繰り返すようになります。実際に、馬の卵巣機能がもっとも活発になるのは、夏至を中心とする5~7月ごろといわれますが、現在はこの方法を用いることで、早くから繁殖シーズンを迎え、効率的な繁殖雌馬の管理をすることが可能となっています。


育成馬へのライトコントロール、その効果は?
 さて、育成馬ではどのような効果があるのでしょうか?馬が発情するとき、体の中では色々なホルモン変化が起きています。雄であれば男性ホルモン(テストステロン)、雌であれば女性ホルモン(エストラジオール)濃度が上昇し、雄は雄らしく、雌は雌らしくなります(どちらのホルモンも成長を促す効果があります)。また、成長ホルモン様の作用を有するプロラクチンの濃度も上昇します。そこで我々は育成馬にライトコントロール法を行うことで、これらのホルモン濃度を早期に上昇させ、体の成熟を促すことができるのではないかと考え、JRA育成馬を用いて冬から春(12月20日:冬至~4月中旬)にかけて実験を致しました。
 実験の結果、ライトコントロールを行った馬は・・・
① 安全性:疾病や異常な行動は認められず、本法の安全性は問題ありませんでした。
② 雄群のホルモン濃度:テストステロン濃度は対照群に比べて早期に上昇しました。
③ 雌群のホルモン濃度:エストラジオール濃度が高く、初回排卵時期も対照群に比べて早期でした。
④ プロラクチン濃度:雄雌とも対照群と比較して高いホルモン濃度を示しました。
⑤ 毛艶:4 月時点で対照群の馬より明らかに毛艶が良化しました(図2)。
 このように、雌雄とも、早期に性ホルモン濃度が上昇するとともに、毛艶については明瞭な良化作用が認められました。

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図2:ライトコントロール(LC)群と対照群の毛艶の違い(4月時点)

育成馬へのライトコンロールのメリットは?
 近年、競走馬の流通形態において、騎乗供覧を行うトレーニングセールの需要が高まっています。そのような状況の中、ライトコントロール法を実施することで、発育が遅れている馬にも早期から十分な調教を実施できる可能性が有ります。また、セリにおいては馬の印象が良いことで購買意欲を高められることから、毛艶を良化させるライトコントロール法を実施することで、印象も大幅に変わり良好な売却結果につながるかもしれません。このようにライトコントロール法は馬房の天井にタイマー式の電球をセットするという簡単な方法ですが、そのメリットは大きいと思われます。皆さんも一度試してみてはいかがでしょうか?

【参考:ライトコントロールの実施方法】
 繁殖牝馬に実施するライトコントロール法と同じく12月20日(冬至付近)から3月初旬まで、昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作成します。一般的な飼養環境においては、たとえば朝5時半から7時30分頃まで馬房内で点灯し、昼間は適当な明るさが確保できるよう、扉を開けるなどして管理し、続いて夕方の収牧後夜20時まで点灯します。照明は60~100ワットの白色電球(図3)を馬房の中央天井付近、または高さ2.5-3.0m付近に設置(蛍光灯でもOKです)。点灯・消灯はタイマー(図4:接続については電化製品店と要相談)で作動させ開始終了時間を設定すると非常に管理が楽になります。実施に当たって、2点注意事項があります。①効果を得るには暗い時間帯も必要です。ライトがついていない時間はできるだけ真っ暗にするのが理想的です。②また、厳冬期に冬毛が抜けますので、馬服を着せるなどのケアが必要になります。

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図3:白色電球100W          

4_2 図4:タイマー(自動でON・OFFされます)


(日高育成牧場 業務課 土屋 武)

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