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2018年12月27日 (木)

育成後期における蹄管理

No.22 (2010年12月1日号)

始めに
 蹄壁が薄い若馬の蹄は、体型、肢勢、歩様、運動、地質、日常の蹄管理など様々な要因により、蹄質は硬化あるいは軟化し、場合によっては蹄が脆弱化するなど、成馬の蹄に比べ環境による影響が反映されやすいとされています。一方、このことは、この時期の変形蹄であれば的確な矯正を行うことにより、良好な蹄形に改善できる可能性が高いとも考えられます。当歳時ほどではないものの、育成期にある若馬も細かに蹄質が変化するため、その変化に対応した削蹄修正を迅速に行い、馬体に伴った蹄の健全な成長を図り、安定した肢勢を維持することで蹄の異常な変形は予防され、結果的にその馬の価値あるいは能力は一段と向上すると言えるのではないでしょうか。

蹄管理の重要性
 1歳馬の蹄成長量は、月平均12mmで、成馬の9mmと比べても成長速度が速いことが分かっています。また、この期間は馬体の成長や調教に伴って、蹄角度はやや減少するものの、蹄下面の面積や蹄壁の長さは増加していきます(図1)。蹄成長の盛んなこの時期に、蹄への負荷が増加する調教が行われるため、定期的な蹄の検査や細かな蹄管理を怠ると、蹄壁の過剰摩滅や蹄が内向する仮性内向蹄、あるいは様々な疾病と深い関わりが示唆される変形蹄「ロングトゥアンダーランヒール」になるリスクが高くなると考えられます。

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図1 育成期における蹄鞘の変化と体重の推移

ロングトゥアンダーランヒール(以下LU)
 LUとは、外見上蹄尖壁は前方に伸びすぎ、蹄踵壁が潰れた蹄の状態(図2)の名称です。競走馬でも一般的に見られる変形蹄のひとつで、その発生原因は肢勢の欠陥、調教・競走時の蹄踵への過剰負荷、遺伝的な欠陥、蹄の過剰な水分含有など様々な要因が考えられています。そしてLUがファクターの1つとなる疾患には、挫踵(蹄踵壁と蹄支の間あたりに発生する挫跖の一種)、蹄血斑、白線裂、蹄側・蹄踵部裂蹄、ナビキュラー病(蹄内部の緩衝作用を持った軟部組織の病気)などの蹄疾患、あるいは反回ストレスの増加や球節の過剰沈下に伴う腱・靭帯組織の損傷などが挙げられます。LU蹄を良好なバランスに戻すためには、まず凹湾している蹄尖壁を十分に鑢削し、次に潰れてしまった蹄踵部を削切して、蹄踵部に健全で真直ぐな角細管(蹄壁の強靭性を保つ角質組織)の成長を促すことが重要となります。この削蹄により、蹄の負重中心軸は後方へと移動するため、負重バランスの適正化が図れます。ただし注意することとして、思い切った蹄尖壁の鑢削を行った際は、蹄角質硬化剤などを塗布して蹄の堅牢性を保つように心掛けます。

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図2 ロングトゥーアンダーランヒール(LU)


 また他の削蹄手法として、ケンタッキー州のリック・レドン獣医学博士によって普及された4ポイント・トリムも、LUに適した削蹄手法の一つです。この手法は、蹄負面の内・外側と蹄尖部分を多めに削り、削り残った内・外蹄尖部と内・外蹄踵部の4点が接地するように配慮する削蹄で、蹄反回時の支点を後方へ移行するとともに、蹄角度と繋角度を揃えることを目的とします。結果、力学的に効率の良い蹄反回が可能となり、反回時に蹄骨にかかる力学的ストレスが緩和されるとともに、蹄負面が減少した分を蹄底・蹄叉にて負重することで、蹄壁の成長を妨げる障害を取り除くことができると考えられています。

育成期における装蹄
 近年、蹄鉄を初装着するタイミングは、世界的に見ると遅くなる傾向にあり、トレーニングセールの数週間前に初めて装蹄を行うパターンが最も多いとされています。少し極端な例を挙げると、競走馬になっても蹄の状態が良ければ、前肢は跣蹄で管理する厩舎が豪州、米国、英国などで増加しているそうです。一方、日本では、ほぼ全ての競走馬が調教、レースともに蹄鉄を装着して行われています。JRA日高育成牧場の育成馬においては、平均気温の低下により蹄の成長量が減少するものの、トレーニングセールに向けた調教が強まる明け2歳時ぐらいから、過剰な蹄の摩滅予防と肢蹄の保護を目的とし、四肢に蹄鉄を装着します。しかし、例外もあります。例えば、削蹄のみではLUの矯正が期待できない場合などに、蹄鉄の装着を検討します。現在市販されている蹄鉄には、反回ポイントの後方移動を目的とした様々なアルミ製蹄鉄(図3)があるため、蹄負面の成長が悪く十分な削蹄ができない場合などは、そのような蹄鉄を装着します。また、正常な蹄であっても蹄の成長量と調教による蹄の摩滅量が吊りあわない場合や異常歩様による偏った摩滅を防止する場合(図4)、また裂蹄・蹄壁欠損などの蹄疾患を発症した蹄などにも、早期に蹄鉄を装着します。

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図3 ワールドレーシングプレート(サラブレッド社製)

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図4 蹄尖壁の過剰摩滅蹄

終わりに
 変化に富む育成期の蹄を的確に管理することは、後の蹄形成に対して非常に重要であり、その馬の生涯のキャリアを高めることに繋がると考えられます。常日頃から蹄を観察する中で、違和感や不均衡が生じた際には速やかに装蹄師に依頼し、修正あるいは補強などにより蹄が本来持つバランスを取り戻すことが、護蹄管理、肢蹄保護の観点から大切なのではないでしょうか。

(日高育成牧場 専門役 粠田洋平、業務課 大塚尚人)

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