当歳馬の冬期の管理について
No.21 (2010年11月15日号)
厳しい冬が目前にやってきました。冬は、放牧草の消失と放牧地での運動量低下による飼養管理方法の変更が余儀なくされます。特に、成長期にある当歳にとって、この変化は大きな意味を持ちます。今回は、当歳馬の冬期の飼養管理の課題とその対策について紹介します。
冬期には維持エネルギー要求量が増大
馬は、気温の低下に対しては、ある程度の適応力を有しているといわれています。家畜化された馬が屋外で快適に過ごせる限界温度は、‐1から‐9℃まで幅広い範囲の報告があり、また、北海道の気候に似たカナダで実施された研究では、‐15℃までは馬服やシェルターがなくても、夜間も屋外で問題なく過ごすことができると報告されています。
馬は、氷点下を下回るような冬期の寒冷に対しては、耐寒のための維持エネルギー要求量が増加します。この増加分を乾草の採食量を増加させることによって、補うことが推奨されています。これは、乾草などに多く含まれる繊維は、微生物によって盲腸と結腸で分解され、この分解時に熱が発生し体内を温める効果があるからです。気温が0℃から5℃ずつ低下するごとに、1kgの乾草の増給が必要であるとされています。
帯広畜産大学で実施された研究では、気温の低下に対して、北海道和種や半血種では安静時の代謝量を増加させずに、皮下脂肪を蓄えることによって適応するのに対して、サラブレッド種は皮下脂肪が少なく、安静時の代謝量を増加させることによって適応すると報告されています。つまり、耐寒のための維持エネルギー要求量の増加を補うために、OCDなどの発症を誘発する恐れのある濃厚飼料を過剰給与するのではなく、良質な乾草などの粗飼料を給与することが非常に重要になると考えられます。
冬期の当歳馬の成長
日高地方の当歳~1歳馬の12月~2月までの増体量は、その前後と比較して、停滞することが分かっています(図1)。日高育成牧場と宮崎育成牧場における1歳~2歳にかけての冬期の発育の比較において、日高では当歳馬と同様に発育の停滞が認められますが、温暖な宮崎では認められません。しかし、競走馬になってからの体重に差異は認められないことから、日高地方における厳冬期の一時的な発育の停滞は、長期的には問題となることはないと考えられます。すなわち、冬期における発育の停滞は、生理的なものであり、むしろ、この冬期の停滞を改善しようとする濃厚飼料の過剰なエネルギー給与は、OCDなどの発症を誘発する可能性があるので注意が必要といえます。また、冬期の発育の停滞以上に、青草が生え始める春期になってからの、成長のリバウンド(代償的成長)が大きくなりすぎないような注意も必要です。
冬期の当歳馬への乾草の給与
前述のとおり、冬期の当歳馬への給餌は、穀類主体の濃厚飼料よりも牧草のような繊維質が豊富な粗飼料の給餌が非常に重要です。当然、良質な乾草の給与は不可欠であり、さらにミネラルバランスを考慮すると、チモシーなどのイネ科の乾草に加え、マメ科のルーサンも給与することが推奨されます。一方、冬期には、低水分ラップサイレージの給餌も可能となります。冬期の昼夜放牧時に、ラップサイレージとロール乾草とを2つ並べて設置し、どちらを好んで食するかを試したところ、圧倒的にラップサイレージを好んで食べました(写真1)。また、ラップサイレージとロール乾草を交代で、どちらかを1ロールずつ設置したところ、ラップサイレージでは1ロールが5日間で食べ尽されたのに対して、ロール乾草は食べ尽されるのに7日間を要し、ラップサイレージを給餌することによって、採食量は約1.5倍に増加しました。しかしながら、ラップサイレージは、ヒートダメージ(発酵過程で空気と接触することにより好気発酵、品温上昇がすすみ、その結果、品質が低下する現象)や、下痢や呼吸器症状を引き起こす可能性もあるので、注意が必要です。
写真1 同時期に設置したラップサイレージ(左)とロール乾草(右)。
圧倒的にラップサイレージが好まれる。
ビートパルプの給餌
ビートパルプは、甜菜から砂糖を抽出したあとに残る副産物です。非常に消化の良い、高繊維質、低炭水化物飼料であり、さらに単位重量あたりで比較すると、エンバクと同程度の可消化エネルギーを含有するため「スーパー繊維飼料」と呼ばれています。また、馬の嗜好性は良く、カルシウムやマグネシウム含量は比較的高くタンパク含量も乾草と同程度であるが、リンやビタミン類は低くなっています。そのために、耐寒のための維持エネルギー量要求量の増加を補うための飼料として強く推奨されます。ただし、乾燥したままで摂取させると胃内で膨張するため、安全を考慮し半日前から水分を含ませておいて給与しなければなりません。
冬期の運動について
日高地方では、冬期には、放牧地の地面が雪で覆われさらに凍結するために、十分な運動ができなくなります。そのために、この冬期間に、どのようにして運動をさせるか、という点が課題となっています。
厳冬期に昼夜放牧を実施した時の放牧地での移動距離は、日中が2.5km、夜間が4.5km、合計7kmであり、夏~秋期と比較して半分程度に減少しました。しかし、自発的な運動を促すために、放牧地の隅にルーサン乾草を1日に2回置くことによって、移動距離は10 kmにまで増えることが観察されました(写真2)。
一方、ウォーキングマシンの使用も、冬期に運動を課するには、非常に有効な方法であり、6km/hで1時間実施することによって、6kmもの常歩運動を課することができます。しかし、半日かけて移動する距離を1時間で強制的に運動させるべきなのか、また、成長過程にある当歳馬にとって、ウォーキングマシンでの強制運動は問題がないのか、などの課題も残っています。
写真2 放牧地の隅にルーサン乾草を置くと、馬はルーサンを探して放牧地を歩き回ります。
最後に
今後も、「強い馬づくり」に役立つように、これらの日高地方における冬期の管理の課題について、さらに調査・研究を行っていきたいと思っています。
(日高育成牧場 専門役 頃末 憲治)
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