馬づくりは人づくりから
No.20 (2010年11月1日号)
確かな生産育成技術を駆使し、世界に通用する馬づくりを実践していくためには、その技術を理解しさまざまな馬に応用できる人材が必要となることはいうまでもありません。すなわち、「強い馬づくりは人づくりから」といえます。
しかし、残念ながら、馬の世界に飛び込む新規参入者は近年減少しているのが現状です。とくに、馬産地日高における騎乗技術者や牧場就労者、獣医師や飼養管理者の不足は深刻な問題です。こうした問題解決を支援するため、日高育成牧場では、馬に関心がある人から馬に触れたこともない馬初心者にいたる幅広い人々に対し、馬に関する基礎から専門的な知識や技術を学んだり、馬に親しんでもらう機会を設けるなど、さまざまな面から人材育成に関する取り組みを行っています。
育成馬の騎乗者養成
㈶軽種馬育成調教センター(BTC)が実施している育成調教技術者養成研修(現在、第28期生)では、「軽種馬の生産・育成に関する体系的な実用技術および知識の習得を目的」に1年間の研修を行っています。前半の6カ月で基礎的な騎乗技術を身に付けた研修生は、日高育成牧場で育成馬のブレーキングが始まる9月から参加し、その後も4月まで実践的な育成場の騎乗技術を身につけていきます。ここ数年の傾向としては、一度他の業界に就職しながらも、馬と接する職業に魅力を覚え転職ののち、高い志と情熱を持って受講する研修生が多いようです。
写真1 育成馬のブレーキングから高度な騎乗技術まで習得するBTC研修生
生産牧場就労者養成
㈳日本軽種馬協会(JBBA)が実施する生産育成技術者研修(現在、第32期生)は「軽種馬生産、育成関連の仕事に就業するための知識、技術を1年間で習得することを目的」とする研修制度で、静内種馬場内にある研修所で馬学全般、騎乗訓練や馴致調教などの研修を行っています。日高育成牧場には、分娩や離乳など、馬を生産育成する上で重要な節目に合わせて来場し、実習体験するとともに、子馬の発育やその時々の飼養管理法について専門的な講義も用意して受講してもらいっています。また、同じくJBBAが実施する軽種馬後継者研修にも講師派遣などにより協力しています。
写真2 分娩後の後産(あとざん)の確認法について学ぶJBBA研修生
獣医畜産系学生への教育支援
日本の大学は、欧米に比べて産業動物の臨床実習をするための環境や施設が整っていないのが現状です。しかしながら、全国の学生の中には、馬に関する実践的な教育を受講したいと考えている人や、実習などを通じて馬と触れ合ってみたいという学生は大勢いるものです。日高育成牧場ではこのような獣医畜産系の大学生を対象に、個別に夏休みの実習を受け入れてきましたが、一昨年前から「日高サマースクール」と称して、10日間程度の研修期間を4クール設けています。今年も全国から24名の学生が当場に来場しました。実習では、馬の手入れや引くことはもとより、さまざまな検査や調査に立ち会うことにより、馬の繁殖学、栄養学、画像診断技術などのカリキュラムをこなしました。また、乗馬体験は馬をさらによく知るうえで大きな収穫となったようです。彼らの中から未来のホースマンや優秀な技術者が誕生することを期待しています。
写真3 サマースクールでは手入れや収放牧、放牧地での雑草抜きなども体験する。
小中学生への馬事振興
サラブレッド生産が全国の80%を占める日高地域において、地域特有の馬文化をより地域に根ざしたもの、誇れるものとして子どもたちに定着させるために、日高振興局や浦河町が主催している「馬文化 出前教室」や「巡回乗馬教室」、「中学校道徳授業」などに講師や馬を派遣し協力しています。子どもたちの馬に対する興味は大きいようで、毎回盛況を博しています。地元の子どもたちには国内のどこの子どもたちよりも馬のことを良く知ってもらいたいものです。
写真4 浦河町内小学校での「馬文化出前教室」では、授業後に激しい質問攻めに会う。
一般の方々を対象としたツアー
日高育成牧場では、7~10月に一般の方々を対象とした場内の施設見学に加え、子馬とのふれ合いや乗馬体験、初期馴致見学などを行う「日高育成牧場バスツアー」を企画しています。参加者は道外からの旅行者が多く、親子での参加される方も多く、馬をはじめて触って感動したことや、普段見ることのできない調教の様子を見学することにより馬に対する理解が深まったとの感想が多く寄せられています。なかには、これからは競馬を楽しもうと思う、との感想をいただいた方もいます。
写真5 日高育成牧場バスツアーでは、初めて馬に触れる人も多い。
このような人材養成活動が、将来馬に関わる人にとって最初の一歩になってもらえれば幸いです。
(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤 文夫)
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