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2018年12月18日 (火)

1歳馬の騎乗馴致 -その②-

No.19 (2010年10月15日号)

 前回に引き続き、1歳馬の騎乗馴致についての続編を紹介します。

基本装具

 騎乗馴致においては、まず、ブレーキングビット(写真1)とよばれるハミとキャブソン(写真2)を装着します。ブレーキングビットは、初めてハミを装着する馬が、口の中の正しい位置(舌の上)で受けることを覚えやすいよう、ハミの中央部にキーがついています。また、ハミは、まっすぐ走ることを教えるため枝のついたものを使用します。キャブソンは鼻革部分にリングがついており、最初はここからランジングレーン(調馬索)をとることで、馬の敏感な口を傷つけずに、ラウンドペン(丸馬場)で周回することを教えます。

1写真1 ブレーキングビット       

2 写真2 ブレーキングビットとキャブソン

馴致の流れ

1)1本レーンでのランジング(調馬索)

 最初はラウンドペンで馬を左手前で2-3周引き馬を行い、環境に慣らすとともに壁に沿って運動することを教えます。多くの馬は左手前が得意であり、右手前は苦手です。このため最初は得意な左手前を中心に実施します。時間をかけて苦手な右手前の運動時間を徐々に増加することにより、両手前をスムーズに実施できるようにします。

 ランジングは、壁に沿って運動させることが重要です。「人から離れて前に進め」という人のプレッシャー、「これ以上は外にいけない」という壁のプレッシャーのバランスにより、馬は自然に壁に沿って運動します。この最初のステップでは音声コマンドによって、「常歩」、「速歩」、「停止」を両方の手前でできるよう、馬とのコミュニケーションの確立を行います。馬に停止を要求する場合、必ず壁沿いの蹄跡で馬が動かないよう音声コマンドで停止させた後、人が馬に優しい声をかけてあげながら近づき、初めてプレッシャーを解除します。そのようにすることで、馬が人の合図を待たずに内に入って自ら運動を中断することを防止します。

2)ローラー装着

 馬がラウンドペン内で落ち着いてランジングができるようになったら、ローラー(腹帯:写真3)を装着します。まず、馬を左手前蹄跡上に駐立させた後、胸ガイを先に装着しローラーのベルトを締めます。このとき、馬を保持する者、追いムチで推進する者の役割分担を二人で行うことが重要です。馬がローラーの圧迫を嫌って、背を丸めてかぶったり、立ち上がろうとしたりする場合、瞬時に追いムチや声を用いて馬を推進し前に出します。馬は前方に動くことにより、やがてローラーの圧迫に慣れ、落ち着いたランジングが可能になります。装着したローラーは、すぐにはずさず、慣らすため30分~1時間程度装着を継続します。なお、ローラー装着に対する拒否反応が強い馬は半日~1日程度装着を継続することもあります。

 馬がローラーを受け入れ、1本の調馬索で落ち着いてランジングができるようになったら、サイドレーン(写真4)を装着します。最初はキャブソンからサイドレーンをとり、馬が慣れたらハミからとります。また、サイドレーンはき甲部でクロスして使用します。この方法は、ドライビング時に頭を下げて草を食べるなどいたずらを防止するとともに、必要以上に頭を下垂させず、騎乗時の安定した頭頚を教える上で極めて有用です。
   

3 写真3 ローラーを装着してのランジング                 

4 写真4 サイドレーンの装着方法(キャブソン)

3)ドライビング

 ダブルレーンによるランジング(写真5)は、1本目の調馬索をハミの内側からとり内方の手(左手前では左手)で保持し、2本目の調馬索はハミの外側からとり馬の外側を回して飛節の上部に位置し外側の手(左手前では右手)で保持します。馬がレーンによって飛節に触れられることに慣れ、ランジングがスムーズにできるようになったら、御者が徐々に馬の後方に回り込んでドライビング(写真6)の体制を教えます。最初は、ラウンドペンの中で2本の調馬索を保持し、馬の後方から前進気勢を与えることに慣らすとともに、ドライビングによる方向転換を教えます。ドライビングは騎乗する前に基本的なハミ受けを教えることといえ、バイクに例えるならば、ハンドル、ブレーキおよびアクセルなどの制動装置をセットするようなものです。
  

5 写真5 装鞍してのダブルレーンによるランジング      

6 写真6 走路でのドライビング

4)騎乗

 御者の指示によって、自由自在にドライビングが行えるようになれば、騎乗のステージへと進みます。ここでは、馬に人の体重負荷を慣らすとともに、馬にとって死角に当たる真後ろの位置で人が動くことに慣らします。最初の騎乗は馬房の中で実施します。これは、広さの限られた狭い馬房の中であれば、馬が驚いて暴れても、助手が確実に馬の動きを制御することができるからです。最初は横乗り(写真7)の状態で助手が馬を保持して馬房の中を大きく回転します。次に実際にまたがって助手が保持した状態で馬房の中で動かします。馬が落ち着いていればアブミをはいて脚による前進扶助を徐々に教えます。次に、ラウンドペンの中で騎乗することができれば(写真8)、やがて馬場で騎乗することができます。ここまで概ね約3週間をかけて実施します。

7 写真7 馬房内での横乗り

8 写真8 ラウンドペンでの騎乗

最後に

 実際の騎乗馴致では、怖がりで逃避反応が速かったり、我が強くなかなか要求したとおりに行動してくれなかったりと、馬によっては非常に難しいこともあります。しかし、どのような馬に対しても人が気長に構え、馬の行動をよく観察することによって難しくしている原因を見出し、求めたい方向へと導いてあげなければなりません。すなわち、私たちは、①馬に対してその将来を期待すること、②馬に求める目標を明瞭かつ具体的にイメージすること、③その時々の馬の状態・能力を確実に把握・理解すること、および④段階を踏みながら安全かつ無事に目標に導くこと、という4つのビジョンをもって馬の馴致を行うことが大切であると考えています。

 今回記載した騎乗馴致については、2009年12月に発刊した「JRA育成牧場管理指針」-日常管理と馴致(第3版)-に記載されています。この冊子の必要な方はJRA馬事部生産育成対策室までお問い合わせください(JRAホームページの「JRA育成馬サイト」(http://homepage.jra.go.jp/training/index.html)でもご覧になれます。
  

(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

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