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2019年6月19日 (水)

バランサー?それともコンプリート?

No.87(2013年10月1日号)

 一昔前まで、馬のエサと言えば「エンバクとフスマにカルシウムの粉末」という構成が一般的でしたが、近年は研究開発が進み、多様な馬用配合飼料が市販されています。あまりに多くの飼料が流通しているため、それぞれの違いが分からなくなってしまっていないでしょうか?細かい違いや宣伝文句に振り回されていないでしょうか?複数の飼料会社との付き合いを大切にするあまり、無意味に配合飼料を併給していませんか?今回は配合飼料の基本的なタイプとその使い方についてご紹介します。

配合飼料のコンセプト
 まず、念頭においていただきたいのが、それぞれの配合飼料には飼料会社が設計したコンセプトがあるということです。それは給与対象馬が、繁殖牝馬、子馬、競走馬という分類のみならず、放牧環境か厩舎環境か、配合飼料を多く与えたいのか、抑えたいのかといった要因も関連します。
 本日紹介するタイプとは、大きく「バランサー」と「コンプリート」の2つです。日本語に翻訳すると「バランスが良い」「完全」という言葉はいずれも耳触りの良い言葉ですので、一見すると「どういう飼料か分からない」のも無理はありません。しかしながら、これらは前述の設計コンセプトが異なるため、当然給餌の仕方が異なります(図)。この2タイプの違いは「エネルギー」「タンパク質・ミネラル」に対する給与方法の違いによるものです。エネルギーは勿論ですが、タンパク質・ミネラルも馬の飼料成分としてとても重要です。特に成長期・競走期・妊娠期の馬には不足しないよう注意が必要です。

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 コンプリート型とは、穀類にタンパク質・ミネラル分のペレットを加えて構成されているものが一般的です(写真1)。この飼料を規定量与えることで、必要なエネルギーとタンパク質・ミネラル(ビタミンを含む)を同時に満たします。基本的にはこの飼料だけ与えていれば良いということからオールインワンとも言われています。推奨される量は製品によってさまざまですが、4~6kgが一般的です。エネルギー量が多くなるため、牧草を自由採食できない厩舎飼育環境に適していると言えます。

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 一方、バランサー型とは、近年生産地で広く普及している飼料で、タンパク質・ミネラル(ビタミンを含む)含有率が高いペレットで構成されており、少量の給餌(概ね1kg)でこれらの要求量を満たせるというものです(写真2)。サプリメント型と呼ばれる飼料も同様のタイプの飼料です。しかし、これだけではエネルギー量が不足するためエンバクを追加して調整します。エネルギー量を抑えられるため、牧草から多くのエネルギーを摂取している放牧環境に適していると言えます。

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 また、これらの中間的な特性の飼料も市販されていますので、自分の牧場で扱っている飼料がどのようなものか分からない方は、今一度確認してみて下さい。

誤った給餌方法
 よくある誤った給餌例をご紹介します。「コンプリート型を与えているが、コスト削減のため推奨量の半分しか与えず、その分エンバクを足す」とタンパク質・ミネラル分が不足してしまいます。また、「バランサーを給餌しながら、以前から慣例的に与えていたミネラル添加剤も与える」のは無駄なコストをかけていることになります。

配合飼料の適切な選択
 日本人は勤勉な性格からか、飼料を複雑にしたがり、それを美徳とする傾向があるのかもしれません。しかし、飼料はシンプルな方が作業や在庫管理が楽ですし、誤りも少なく、修正も楽であることは間違いありません。
 これらの飼料はどちらが良い悪いという問題ではなく、飼養環境に応じた「選択」と「与え方」が重要になります。特に放牧飼養下では牧草の種類や草高、密度の違いに起因する成分バランスを考慮する必要があります。エネルギー量については、馬の体型(ボディコンディションスコア)をみて調整することができますが、タンパク質やミネラルに関しては一見して判断することはできません。しかしながら、このような目に見えない要素が胎子期、成長期に重要です。自牧場の牧草成分が知りたいという方は牧草成分分析事業をご活用下さい。本事業は今年から窓口がBTCからJBBAに移りましたが、事業内容はこれまでとほぼ同様です。詳細についてはお近くの窓口へお尋ね下さい。
 最後になりますが、飼料は規定量を与えていれば良いというものではありません。信頼できる栄養の専門家の意見を参考に、現場においては日々の観察から馬ごとの特徴、変化を把握し、細やかな修正ができるよう、経験・スキルを身につけることが重要です。

日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬 晴崇

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