最新の繁殖体系 ―妊娠鑑定のタイミング 欧米との違い―
No.92(2013年12月15日号)
日本では5週目妊娠鑑定が一般的
サラブレッド生産では、繁殖シーズンに妊娠するまで複数回交配を実施し、最終的に85%程度の受胎を目指すことに力を注いています。しかしながら、日高地方では、最終的な不受胎の率(15%)と同じくらいの割合で、妊娠期の早期胚死滅や流産、死産が起こることが近年の調査研究で明らかとなりました。一度妊娠が確認された牝馬が分娩に至らないという状況は古くから知られており、馬の生産において妊娠鑑定は複数回実施されるのが一般的です。日高地方で最も定着した妊娠鑑定のスケジュールとしては、交配日を1日と数え、17日目に超音波検査を実施する第一回目の妊娠鑑定と、交配後30-35日目に実施する、いわゆる「5週目の妊娠鑑定」が広く取り入れられています。その後、妊娠診断書の発行を必要とする場合、9月末頃に触診で妊娠鑑定が実施されることがあります。
欧米では4週&7週目鑑定が推奨
ところが、ケンタッキーやアイルランドにおけるサラブレッド生産では、5週目の妊娠鑑定を4週目に実施し、その後6-7週に再度行うというスケジュールが一般的になっています。現行の日本での「5週目の妊娠鑑定」は、子宮の膨らみがはっきりして胚の本体と位置が触診のみでも比較的容易に検出される時期であることや、もし双子が発見された場合でも簡単な堕胎処置を実施してすぐに発情を誘起し、再交配を実施することができるという利点があり、欧米の馬生産でも5週目での妊娠鑑定を実施する場面は多々あるものです。それでは、なぜ欧米のサラブレッド生産では4週目に検査を行うのでしょうか?
馬の胚死滅は、妊娠16―25日に集中
馬の繁殖学では、一度受胎を確認したのち妊娠35日以内(40日と定義する場合あり)にそれらの胚が消失あるいは死亡が確認されるものを早期胚死滅と定義しています。早期胚死滅の多くは、妊娠16日を過ぎて、胚が子宮に固着した後の早い段階で起こることが考えられ、妊娠25日までに起こるとする報告もあります(Young YJ. J. Vet. Med. Sci. 2007) 。4週目の鑑定が欧米で定着した理由として、少しでも早く胚死滅が起こった、あるいは起こりそうな状況を見極め、再交配やホルモン治療などの時期を逃さないように1週間早く妊娠検査を実施しているものと考えられます。
超音波(エコー)検査の発達
従来のポータブルエコーの解像度では、妊娠5週でようやく胚の心拍を確認することができましたが、最近では機器が軽量化され、かつ描出精度が上がり、4週胚の心拍が確認できるようになりました。また、正常妊娠像とともに、異常妊娠時や胚死滅が起こりやすそうな状態の画像診断研究が進み、1週間早い妊娠4週での検査で遜色ない妊娠鑑定が可能となりました。
日本においても、飼養管理技術の高い生産牧場では、すでに4週での妊娠鑑定を実施していることと察します。早期胚死滅の予防や対策には、栄養管理や初回発情での交配の見送りなどに加えて、エコー検査で早期胚死滅を早く見つけて再度交配することが生産性の向上に有効であると考えられます。
(日高育成牧場 生産育成研究室 室長 南保 泰雄)
図 妊娠4週(28日)における胚のエコー像と同時期の発生過程 技術の進歩により、4週胚の心拍が確認できるまで解像度が向上している。
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