春季繁殖移行期について
No.93(2014年1月1・15日合併号)
春季繁殖移行期とは?
春先の交配で、このような牝馬に悩むことはありませんか?「大きい卵胞はあるが、なかなか排卵しない」「発情が長期間持続する、もしくは、発情が不規則」。これらは「春季繁殖移行期」に認められる現象です。この耳慣れない言葉「春季繁殖移行期」とは何でしょうか?
4つの繁殖ステージ
サラブレッドを含む馬は、1年間をとおした4つの繁殖ステージ、すなわち『年間繁殖リズム』を有しています(図1)。
図1 馬の年間繁殖リズム
4月から9月の『繁殖期』では、メス馬は発情徴候を示し、排卵が認められます。このため、野生環境におかれた馬は、通常この時期に交配を行います。
そして、9月を過ぎて日が短くなると、『秋季繁殖移行期』に入ります。この時期、発情徴候や排卵は徐々に認められなくなります。冬になり、さらに日が短くなると、『非繁殖期』に入ります。この時期、発情と卵胞発育は全く認められず、繁殖機能が完全に停止します。
そして、年が明けて、日が長くなると、『春季繁殖移行期』に入ります。この時期、停止していた繁殖機能が徐々に回復していきますが、完全ではありません。発情徴候は認められますが、不規則なことが多く、また、卵胞はある程度まで大きく成長するものの、排卵が認められません。このため、通常であれば、この時期に交配・受胎することは極めて困難です。
サラブレッド産業における交配時期は、北半球においてはどこの国においても、概ね2月中旬から6月までが一般的ですが、4月から9月にかけての『繁殖期』とのギャップ、すなわち、2月から4月にかけての『春季繁殖移行期』における交配が生産者を悩ましています(図2)。この時期においては、前述した不規則な発情以外に、「早期胚死滅」に陥るケースが増えるとも言われています。
春季繁殖移行期に良好な交配をするために
それでは、この『春季繁殖移行期』にあたる2月から4月に交配を行い、良好な結果を得るためには、どうすればよいのでしょうか?
非繁殖期から春季繁殖移行期、そして繁殖期にいたる過程においては、『日長時間の延長』『気温の上昇』『栄養摂取量の増加』『オス馬の存在』が、メス馬の脳に刺激を与えることにより、ホルモン分泌が盛んになり、正常な発情周期に至ります(図3)。わが国を含めた世界中のサラブレッド生産現場においては、『早期発情誘起』とよばれるいくつかの手法を用いて、繁殖期の開始を早めることで、2月からの交配を可能にしています。
一般的に実施されている早期発情誘起の方法は『ライトコントロール』『馬体の保温』『飼料の増量』『試情(あて馬)』『ホルモン療法』などです。このうち、ライトコントロールは多くの方が実践されていることと思いますが、より効果的に実施するためには、それ以外の方法、例えば、馬服の着用や、フラッシングとよばれる飼料増量、あて馬との継続的な接触なども取り入れる必要があります(図4)。北海道という寒冷地においてサラブレッドに早期発情誘起を行うためには、ライトコントロール以外の要素も軽視できない可能性があります。日高育成牧場では、これらの効果的な方法について、今後も調査研究を継続していく予定です。
図4 アイルランドでは、継続的な「あて馬」による早期発情誘起が実施されている。
(日高育成牧場 専門役 冨成 雅尚)
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