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2019年8月 2日 (金)

ホルモン検査によるサラブレッドの流産・早産兆候の診断

No.94(2014年2月1日号)

はじめに
 日高地方の繁殖牝馬は、妊娠5週以降分娩までに8.7%で流産、早産が起こることが大規模調査で判明しています。流産の中には、細菌感染による胎盤の炎症や、胎盤の機能不全あるいは奇形などの理由により胎子のストレスが徐々に増した結果、流産に至るケースも少なくありません。このような場合、生産者や獣医師は、外陰部に悪露が付着する、あるいは分娩1ヶ月以上前から乳房が腫脹すること(図1)により異常に気が付きますが、外部に兆候が現れた頃には手遅れになっていることも少なくありません。妊娠後期における胎子の健康や胎盤状態は、海外では超音波検査が広く実施されています。本稿では、母体血中プロジェステロンおよびエストラジオール濃度の測定を実施することによって流産が起こりやい状態を見極める新しい診断の有用性について紹介いたします。

1_2 図1:流産早産前の典型的な兆候として、外陰部の悪露付着(左)や分娩1ヶ月以上前からの乳房腫脹、漏乳(右)が知られている。

早期の診断が鍵
 分娩予定日よりも2週間以上前に分娩した母馬は、翌年以降も同様の経過をたどることがあり、健康で丈夫な子馬の生産を願うオーナーにとって非常に大きな不安材料となります。このような馬は、胎盤の感染や形成不全を伴うことが多く、できるだけ早期に異常を発見して流産予防のための投薬を実施する必要がありますが、これまでの生産管理では、妊娠経過をモニターして万全を図るというヒト医療のような十分な経過観察体制にないのが現状です。その理由のひとつに有効な検査方法が確立されていなかったことが挙げられます。

血液でわかる流産早産前の状態 
 平成22-24年にJRAと日高家畜衛生防疫推進協議会が協力して「繁殖牝馬の胎子診断および流産予知に関する研究」が実施されました。これまで日本のサラブレッド生産に導入されていなかった超音波検査やホルモン検査について検討し、妊娠異常の診断や流産の予知判定への有用性を明らかにして参りました。とくにホルモン検査は、世界に先駆けて研究されたオリジナリティの高い研究となり、ニュージーランドで行われる国際ウマ繁殖シンポジウムでの口頭発表演題として認められました。その研究の結果から、図2に示すように、流産、早産、虚弱などの理由により子馬が得られなかった損耗群では、妊娠後期(240日~)の血中のプロジェステロンおよびエストラジオール濃度が、正常(生存群)と比較してそれぞれ有意に高い値、低い値となることが明らかとなりました。このような値の違いは、外部の流産兆候よりも早く出現することから、早期治療が可能となります。

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図2:妊娠後期における生存群と損耗群の母体血中プロジェステロン値(左)とエストラジオール値(右)の動態(※は統計的な有意差を示すp<0.001)

 これら調査研究の成果の詳細は、第41回生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウム講演抄録http://keibokyo.com/wp-content/themes/keibokyo/images/learning/rally/symposium41.pdfをご覧下さい。

まずは獣医師に相談を!
 理想的には、大切な繁殖牝馬は妊娠240日以降1ヶ月に1度、流産早産の履歴のある馬は2週間に1度、血液検査を受けることをお薦めします。血中プロジェステロンおよびエストラジオール値による流産早産の予知に関する研究成果は、これまで流産により日の目を見なかった子馬たちの損耗を減少させ、生産性を向上させる有用なツールとなります。この成果を受けて、ホルモン検査は日高育成牧場生産育成研究室での調査研究から競走馬理化学研究所での検査業務に移行しました。競走馬理化学研究所ホームページ内の妊娠馬ホルモン検査http://www.lrc.or.jp/hormone1.phpから検査依頼様式をダウンロードして検体とともに送付すると到着後5日以内に測定結果が得られます(有料)ので、ぜひ掛かり付けの獣医さんにご相談ください。大切な愛馬が無事に分娩を迎えることができるよう、妊娠馬の血液ホルモン検査が推奨されます。

(日高育成牧場 生産育成研究室 室長 南保泰雄)

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