装蹄道具とその手順について
今回は装蹄に使われる道具と手順について、簡単にご紹介させていただきます。
・装蹄とは・・・
馬もヒトと同様に爪(馬では蹄と呼ばれます)が伸びますが、通常は伸びた分だけ地面との摩擦で削られてバランスよく一定の長さに保たれています。しかし地面との摩擦が少ない場合、蹄の伸びる量が削られる量より多くなり、蹄は伸び続けてしまうため、定期的に蹄を切る必要があります。一方、蹄の伸びる量より削られる量が多くなる場合、つまり運動量が多い馬や人を乗せる使役馬などでは、蹄がどんどん短くなってしまいます。このような場合は、ヒトの靴に相当する蹄鉄を装着し、蹄を過剰な磨耗から保護しなければなりません。このように蹄を短く切り揃え、蹄鉄を装着する作業のことを装蹄と呼び、これを生業とする人は装蹄師と呼ばれます。
装蹄師は全国でも約600名しかおらず、JRAにはそのうち35名が在籍しています。これら装蹄師になるためには、栃木県宇都宮市の「装蹄教育センター」という全寮制の学校で1年間のカリキュラムを修了し、装蹄師免許を取得しなければなりません。
・道具
特殊な作業に使う道具は、普段の生活では見慣れないものばかりです。今回は、代表的な道具をいくつかご紹介します。
左から、装蹄鎚(そうていづち)、釘節刀(ちょうせっとう)、剪鉗(せんかん)、鎌型蹄刀(かまがたていとう)、削蹄剪鉗(さくていせんかん)、蹄鑢(ていろ)、手鎚(てづち)、火鉗(ひばし)、釘切剪鉗(くぎきりせんかん)、クリンチャーという道具です。装蹄槌は釘を打つハンマー、釘節刀は曲がった釘を起こす道具、剪鉗は蹄鉄を外す道具、鎌型蹄刀は蹄を切る道具、削蹄剪鉗は人でいう爪きり、蹄鑢はヤスリ、手鎚は蹄鉄を叩くハンマー、火鉗は熱く熱した蹄鉄を掴む道具、釘切剪鉗は釘を切る道具、クリンチャーは釘を折り曲げて締める道具です。
・装蹄作業
最初に蹄の保護のために蹄鉄を装着するとご説明しましたが、蹄鉄を装着すると蹄の代わりに蹄鉄が地面との摩擦で削られてしまうため、定期的に伸びた蹄を削って蹄鉄を新しく交換する作業が必要となります。
古い蹄鉄を外すことを除鉄といいますが、この作業には装蹄鎚、釘節刀、剪鉗を使用します。まず、釘節刀を曲がっている釘節に引っ掛け、装蹄鎚で釘節刀を叩いてやることで曲がっている釘節を叩き起こします。釘節が真っ直ぐ伸びたら、蹄鉄を剪鉗で挟んで除鉄できるようになります。
次に鎌型蹄刀、削蹄剪鉗、蹄鑢を使用して、伸びた蹄を切る作業(削蹄)に移ります。まず削蹄剪鉗(爪切りに相当します)で蹄の伸びた部分を大雑把に削切し、鎌型蹄刀で細かい部分を切り揃えた後に、蹄鑢(爪ヤスリに相当します)を使用し、平らに仕上げます。
削蹄が終わると、新しい蹄鉄をその馬の蹄の形に合わせる作業に移ります。火鉗で蹄鉄をしっかりと固定し、手鎚で叩いて蹄鉄の形を修正していきます。使用する蹄鉄は予め馬蹄形に整形されていますが、馬の蹄形は全て同じではないため、装蹄の際には必ずこの修正作業が必要です。馬の前肢は走行中に進行方向を変える役割を担っているため、方向転換しやすいように丸い形状をしていますが、推進力を担う後肢は地面をグリップするためにひし形の形状をしています。このような前後の形状の違いだけでなく、1頭1頭に微妙な形状の違いがあるため、装蹄師にはこの微妙な形状の違いを読み取り、それぞれの蹄形に蹄鉄の形状をぴったり合わせる技術が要求されます。さらに、乗馬では修正した蹄鉄を熱して蹄に押し付ける焼付けという作業も行います。焼付けは、蹄鉄と蹄の密着性をより高めるために行いますが、殺菌作用が得られるメリットもあります(馬の蹄は熱を伝えにくいので、火傷することはありません)。一方、競走馬の蹄鉄はアルミウムが材料のため、焼付けは行わずに形状修正した蹄鉄をそのまま蹄に装着します。
蹄に合わせた蹄鉄が準備できたら、ようやく新しい蹄鉄を蹄に打ち付ける作業に移ります。ここで使用するのは、装蹄鎚、釘切剪鉗、クリンチャー、蹄鑢などです。蹄鉄を蹄に打ち付ける際には、蹄釘(ていちょう)を用いますが、1蹄につき4本~6本の蹄釘を使って打ち付けるのが一般的です。蹄鉄を蹄に打ち付けると蹄壁から蹄釘の先端が飛び出した状態になりますが、この状態は人馬にとって危険なため、すぐに釘切剪鉗で飛び出した余分な部分を切り落とします。さらに切り落とした蹄釘の下に溝を彫り、クリンチャーを使って断端を溝の中に折り曲げて埋め込みます。この作業によって蹄釘が蹄壁にしっかり引っかかるようになり、蹄に打ちつけた蹄釘が簡単に抜けないようになります。最後は、仕上げに蹄鑢で蹄釘の断端を滑らかにし終了です。
・最後に
装蹄作業は伸びた蹄を切り蹄鉄を馬の形状に合わせ、蹄釘で装着するだけでなく、個々の馬のバランス、肢全体の向きや角度も考慮し、時には疾病があればその疾病に合わせた装蹄をしなければなりません。そのため、知識や技術だけでなく経験も装蹄師にとって必要な、とても大事な要素といえるでしょう。
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