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2021年6月 9日 (水)

馬の正常な胎盤付属物 ~胎餅と卵黄嚢遺残について~

 軽種馬の生産において、分娩後の後産のチェックは重要です。胎盤は残らず全て排出されているか、絨毛膜面の脱落や色が悪い部分はないか確認した後には、破水が起こり胎児が娩出されたために破れている子宮頚管部から中の尿膜面を引っ張りだして反転させると、尿羊膜と臍帯を確認することができます。普段から胎盤のチェックを実施して、正常と異常を見極める経験と知識を得ることが重要です。そのような中で、今回は馬の正常な胎盤付属物として知られる、「胎餅」と「卵黄嚢遺残」についてご紹介したいと思います。

胎餅(Hippomanes

 分娩の際、いつの間にか寝藁の上に落ちていことの多い、茶色く表面滑らかで柔らかいお餅の様な物体は、本来、馬の尿膜腔内に入っていた胎餅です(図1)。大きさは15㎝以上にもなります。胎餅の構成成分は尿膜液中の尿結晶物、脂質、尿膜細胞の残渣などで、言い換えれば胎児の臍帯を通した排泄物の塊です。胎餅の発生起源は、胎齢85日には認められないものの、胎齢100日以降には小さな白い楕円塊が認められ、次第に大きく成長し、その色も茶色く変化するとの報告があります。一方で、千切れた尿絨毛膜小嚢(Chorioallantic pouch)がその発生起源との説もあります。尿絨毛膜小嚢とは、受精卵が着床する際に形成される子宮内膜杯(Endometrium cup)に相当する部位の絨毛尿膜内側に形成される構造物です(図2)。尿絨毛膜小嚢の中には壊死した子宮内膜杯組織が包含されいて、尿膜から尿絨毛膜小嚢が剥がれ落ちることで胎餅が形成される核となるとされています。胎餅は、ほぼ全ての胎児の尿膜腔内に認められる正常な胎盤付属物になります。尿膜腔内に存在するするため、決して胎児が口にくわえて羊水を飲み込まない様にしているわけではありません!

1_2 (図1)胎餅

2(図2)尿絨毛膜小嚢(Chorioallantic pouch)(Equine Reproduction, 2nd edより)

卵黄嚢遺残(Remnant of yolk sac

 卵黄嚢遺残は、馬の後産に稀に認められる良性の胎盤付属物となります(図3)。なかなか出会う機会が少ないことから、偶然発見した際には、双子の残留物(無心体)や奇形腫などと間違えて心配してしまうことがあるかも知れません。卵黄嚢遺残の特徴は、娩出された後産の臍帯に有茎状に尿膜と細い動静脈で繋がった球状の骨化殻体であることです。内部に脊椎や臓器の遺残、臍帯や胎盤を独自に有するものではないことを確認してください。一般的に、卵黄嚢は胎齢50日までにその役目を終えて、臍帯に吸収されてしまいます(図4)。しかし、卵黄嚢が完全に退縮せずに遺残してしまうと、卵黄嚢を構成する組織から骨・造血組織が発生し、球状の骨化殻体に血様漿液を含有した物体を形成してしまいます。臍帯の羊膜-尿膜間の部位をX線検査で調べた海外の調査報告では、47頭2頭で臍帯の化骨が認められ、卵黄嚢の遺残は骨化を引き起こすことが明らかになっています。卵黄嚢遺残の大きさは様々で、筆者は正常な分娩後の後産にピンポン玉からソフトボール大の卵黄嚢遺残を見かけたことがあります。教科書的には、茎状の卵黄嚢遺残が胎児の臍帯に絡まると流産の原因になるとされていますが、本邦の生産地ではまだそのような症例の発生は無い様です。卵黄嚢遺残は珍しい症例です。見かけた際は、ご一報いただければ幸いです。

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(図3)卵黄嚢遺残 左:臍帯に有茎状に付着(矢印)、右:骨化殻体の外貌 (10×8×5 cm)

(提供:NOSAIみなみ 小笠原 慶 先生)

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(図4)胎齢50日の胎児の様子

左:卵黄嚢(黄色)、尿膜腔内(グレー)、羊膜腔(ブルー)

右:卵黄嚢(Yolk sac)は次第に退縮し臍帯に吸収される

(O. J. Ginther, AAEP proceedings 1998)

日高育成牧場 生産育成研究室 室長 佐藤文夫

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