中期育成 Feed

2019年6月 5日 (水)

サラブレッドのための草地管理

No.81 (2013年7月1日号)

 1年で最も忙しい出産および交配のシーズンを終え、休む間もなく1番牧草の収穫の季節を迎えています。草食動物である馬を管理するうえで、冬期に不可欠な牧草の収穫のみならず、春から秋にかけて利用する放牧草の重要性は誰もが認識するところです。特に、当歳から1歳にかけての適切な発育と基礎体力養成のための放牧は、「強い馬づくり」には不可欠です。しかし、その基礎となる放牧地の適切な管理の実践は、労力と経費がかかる割には効果の確認が困難であるため、おろそかになりがちです。今回は適切な草地管理に関する話題に触れてみたいと思います。

良質な放牧地は良質な競走馬を生産する」

 競走馬にとっての「良質な放牧地」とは、その特殊性から、馬以外の家畜での放牧地とは異なっています。その理由は、馬を除くほとんどの家畜の場合には、最も効率良く増体させることが飼育の目的となりますが、競走馬の場合には、「アスリート」を育てることが飼育の目的であるからです(写真①)。そのため、競走馬用放牧地には以下の要件を満たす必要があります。

1 写真①:競走馬の放牧の目的は「アスリート」を育てること

栄養のバランスが良いこと

 放牧されている馬は、放牧草から摂取する栄養が大きな割合を占めるために、牧草の栄養価を可能な限り良好に保つための管理が重要となります。放牧草の栄養価は、イネ科の種類(チモシー、ペレニアルライグラス、ケンタッキーブルーグラスなど)、イネ科とマメ科の割合(マメ科率)、土壌の養分バランス(pH、リン酸、カリ、苦土など)、利用する季節、あるいは採食可能な草の高さ(草高)に影響を受けます。

嗜好性が高いこと

 馬は草食動物のなかでも、草の選り好みが激しく、特定の草を選んで食べる傾向が強い動物です。生産性の高い草は数多くありますが、嗜好性の優れたものを選択する必要があります。

生産量が確保できていること

 放牧頭数に対して、良質な牧草を十分な量供給できる生産量が放牧地には必要です。放牧頭数が過剰である場合には、草の生産性が低下し、ボディコンディションスコア(BCS)の低下、あるいは繁殖成績の低下を誘発する恐れがあります。

安全性が高いこと

 競走馬は個体の経済的価値が高いために、放牧地における不慮の事故や有毒雑草の摂取による被害を避けなければなりません。良質な放牧地は、安全な運動場所でなければならず、不慮の事故を防ぐための細心の注意が必要です。

 

草種構成が変化するのは自然の流れ?

 前述の要件を満たすように心掛けても、「草地が荒れる」、「植生が悪くなる」ことは珍しいことではありません(写真②)。草種構成が変化することは自然の流れであります。つまり、植物の側から見ると、その放牧地の環境に適応する草種が優占していくのが当然の姿であると考えるのが妥当です。しかし、軽種馬生産を考えた場合には、草種構成は変化しないことが望ましく、草地管理の目的は草種構成を安定させることにあるともいえます。

2写真②:不食過繁地の形成が草種構成の変化ともなる

 この草種構成を安定させるためには、放牧草の利用、つまり「馬の採食」および「掃除刈り」と放牧草の再生とをバランスよく繰り返すことが最も重要です。つまり、放牧と休牧を年に数回から十数回繰り返えす「輪換放牧」が推奨されます。休牧期間は生育の旺盛な春から夏にかけては2週間程度、生育が緩慢になる晩夏~秋は3~4週間程度が望ましいとされています。しかし、軽種馬の放牧では、休牧期間がない連続した放牧が一般的に行われているため、再生期間が確保されていない分を、日々の再生量(生産量)と採食量のバランスを適切に保つことにより「輪換放牧」と同様の効果が得られるよう、草の量をなるべく一定に保つように心掛ける必要があります。この再生量と採食量のバランスの維持が困難になると、牧草の密度が低くなり、雑草などの侵入が進みます。このためにも放牧地1haあたり2頭を超える過放牧は避けなければなりません。

安定的に生育することが重要

 軽種馬の放牧地では、チモシーを主体にしている例が大半ですが、近年、ペレニアルライグラス、メドウフェスク、ケンタッキーブルーグラスなどを混播する例がみられるようになりました。これらは、季節による生産量の変動が小さく、再生力も強く放牧に向いている草種とされています。このように多草種を混播にしているのは、各々の草種の特性を活かすことで、ひとつの草種の単播より、草種構成・生産量の安定化を図りやすくするためです(写真③)。

3 写真③: ケンタッキーブルーグラス、ペレニアルライグラス、チモシーの混播により、植生・生産量の安定化が促される

 「馬の飼料として望ましい草種は何か」がよく問われますが、最も重要なことは、その地域で「安定的に生育できるか」ということです。安定的な生育は、草種構成を維持することにもつながり、安定的に生産できることになります。春に旺盛に生育する草種(オーチャードグラス、チモシー)、秋にも生育が旺盛な草種(ペレニアルライグラス、メドウフェスク)、寒さに強い草種(チモシー)、密度が高く維持できる草種(ケンタッキーブルーグラス)等様々な特徴ある草種を組み合わせておくことで、草種構成の安定を図ることができます。

軽種馬用草地土壌調査事業

 「軽種馬用草地土壌調査事業」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、これは昨年まで軽種馬育成調教センター(BTC)で実施していた事業のひとつです。この事業では、軽種馬の飼養管理の改善と良質牧草生産の促進のために、草地の牧草や土壌の成分を分析し、土壌診断に基づいた施肥設計や飼養管理に関する情報を提供しています。その他にも、草地管理に関する研修会や、前述した内容を含む「草地管理に関するガイドブック」(写真④)の発刊を行うなど「強い馬づくり」に貢献しています。なお、この事業は本年から日本軽種馬協会(JBBA)に事業主体が変更されました。軽種馬用の牧草および牧草地の土壌分析の詳細につきましては、日本軽種馬協会生産対策部【電話03(5473)7091】までお問い合わせ下さい。

4 写真④:「軽種馬用草地土壌調査事業」により発刊された草地管理に関するガイドブック

(日高育成牧場 専門役 頃末憲治)

2019年4月15日 (月)

運動器疾患に対する装削蹄方針について

No.66 (2012年11月1日号)

はじめに
 蹄は、肢勢や歩様などの異常を変形することで表す受動的な器官であると同時に、その形態の善し悪しが様々な運動器疾患を引き起こす一要因にもなる器官とされています。そこで今回は、競走馬に見られる運動器疾患の中でも、比較的蹄管理との関係が深いとされているいくつかの疾患について紹介したいと思います。

屈腱炎
 多くの名馬たちが引退へと追い込まれた運動器疾患「屈腱炎」は、蹄の形態と強い関連性があると考えられています。特に、異常蹄形である「ロングトゥ・アンダーランヒール(図1)」は、屈腱炎発症肢に多い蹄形との報告があるように 屈腱炎発症の一要因として考えられています。過剰に長い蹄尖壁(ロングトゥ)は、蹄の反回時に生じる屈腱への負荷を増大させます。また前方へ移動した蹄踵(アンダーランヒール)は、蹄尖を浮き上がらせるような力を増大させると考えられます。そこで、前方へ張り出した蹄尖壁を定期的に削り取ることで反回負荷の軽減を図ったり、前方へ伸び過ぎた蹄踵を除去したりします。それでも直しきれない場合は、蹄角度を起こす厚尾蹄鉄(先端から末端にかけて厚みが増す蹄鉄)や、蹄尖が浮き上がる力を抑制するエッグバー蹄鉄(末端部が繋がったタマゴ状の蹄鉄)を装着し、蹄角度の改善や力学的ストレスの緩和を図ります(図2)。ただし、どちらの蹄鉄も蹄踵部にかかる負荷が増大することにより蹄踵壁が潰れてしまうため、長期間の使用は極力避けた方が良いでしょう。

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図1 ロングトゥ・アンダーランヒール

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図2 厚尾状エッグバー蹄鉄

球節炎
 球節部に腫脹、帯熱、屈曲痛などが生じる球節炎と蹄の形態にも関連性があると考えられています。不同蹄(左右の蹄の大きさや角度が異なる蹄)に発症する各運動器疾患について調査したところ、蹄が大きい肢において球節炎が多く発症することが分かりました。蹄が大きいということは蹄の横幅(横径)が長いため、横幅が短い小さな蹄に比べて地面の凹凸をより多く拾うことになります(図3)。球関節はその構造上、可動範囲が前後2方向に限られているため、凹凸を踏んだ際に生じる蹄が傾くような横方向の動きは、球関節へのイレギュラーなストレスになるでしょう。そのことは、球節炎のみならず球節軟腫や繋靭帯の捻挫(過伸展)などを引き起こす要因になってしまうかもしれません。蹄側壁が凹湾し、横幅が長くなっているような蹄は、しっかりと鑢削して適度な横幅を維持しましょう。もし跣蹄において横幅が長い場合は、4ポイントトリム(内外側の蹄尖・蹄踵負面4点のみに負重を促す削蹄技法)を行うことにより横幅の短縮が図れます。

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図3 横幅が長いと凹凸を拾いやすい

内側管骨瘤
 第2中手骨と第3中手骨の間に異常な骨増生が起こる運動器疾患で、成長期にある競走馬や若馬に多く見られます。軽度なものであれば骨増生がある程度納まった時点で跛行は消失しますが、腕関節に近い部位にできる骨瘤は靭帯や腱を傷つける恐れもあります。発症の原因としては、骨格が不成熟な時期に行う強い調教、交突(蹄が対側の肢蹄に衝突すること)や硬い地表による衝撃、蹄の変形による内外バランスの欠如、極端な外向肢勢や広踏肢勢、またオフセットニー(図4)などの異常肢勢が挙げられます。装蹄視点からの対処法としては、蹄鉄と蹄の間に空隙を設けたりパッドを挿入したりすることで、衝撃の緩和を図るといった装蹄療法がありますが、蹄に直接伝わる衝撃は緩和出来ても、関節や骨に加わる負重は変化しませんので、ほとんど効果は期待できません。肢軸の状態を十分に考慮した上で、蹄内外バランスの調整を定期的に行うことのほうが大切と言えるでしょう。

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図4 オフセットニー

おわりに
 ここまで紹介した運動器疾患の発症すべてに共通する要因として「蹄の変形」が挙げられます。蹄の形態は、遺伝、肢勢、飼料、運動、敷料、年齢、気候など様々な影響により日々変化することから、日常の蹄管理を怠った状態で蹄のバランスを保つことは不可能と言えるでしょう。特に、骨や靭帯あるいは腱などが柔軟で、蹄角質の成長が活発な若馬は、わずかな期間で蹄が変形してしまいます。しかし、成馬に比べればバランスの矯正も比較的容易に行え、各部位の骨端板(骨細胞の増殖により骨が伸びる軟骨部)が閉じる前では、ある程度の肢勢矯正も期待できることから、蹄が変形しやすい異常肢勢にならないよう早い時期から対処し、将来的な運動器疾患の予防へと繋げていきましょう。

(日高育成牧場業務課 工藤有馬・大塚尚人)

2019年2月13日 (水)

運動機能の発達様式(2):呼吸循環機能と有酸素運動能力の発達

No.42 (2011年10月15日号)

 前回の記事で、育成期のサラブレッドの持久力の変化について、最大酸素摂取量(VO2max)を物差しにして紹介しました。トレーニングすることで持久力がつくのは当然ですが、この時期はサラブレッドの成長期にもあたるため、成長それ自体の影響も無視できません。JRA日高育成牧場では、この時期の成長の影響を調べる実験をしてみました。

成長による酸素運搬系機能の変化
 1歳秋のブレーキングの後、普通のトレーニングを翌年の2歳4月まで行なった馬たち(トレーニング群)と、同期間を放牧のみで過ごしたトレーニングなしの馬たち(非トレーニング群)を比較してみました。すると、トレーニングを続けた馬たちの体重は、ブレーキング前の平均441kgから446kgにわずかに増加したのみでしたが、非トレーニング群の馬では同期間で454kgから491kgまで大きく増加しました。同期間のVO2maxの変化をみてみると、当然のことながら、トレーニングの状況を反映したものとなっています。ブレーキング前のVO2maxはおよそ130ミリリットル(ml/kg/min)でした。そして、その後2歳の春頃までトレーニングすると、VO2maxは160ミリリットル以上にまで増加していました。また、この期間を放牧のみで過ごした馬達でも、VO2maxの値はトレーニング群にはおよばないまでも140~150ミリリットルにまで増加していました。詳しいメカニズムはわかっていませんが、冬季間の放牧は(図1)、VO2max に何らかの影響をおよぼすものと考えられています。
 VO2maxは酸素運搬系機能の総合的な能力を示すものなので、VO2maxが増加するということは、酸素運搬系を構成する肺・心臓・骨格筋それぞれの段階でなんらかの変化がおこっていることを示しています。なかでも、実際に推進力の源となっている骨格筋におこる変化は重要と考えられています。

1_2 図1:1歳から2歳にかけての冬季間の放牧は、呼吸循環機能に対して何らかの影響を及ぼすようである。

北海道における育成期トレーニングの変化
 北海道においては、育成期に当たる冬季間は馬場の凍結により強度の高いトレーニングを負荷することは困難でした。しかし、近年では民間のトレーニング施設にも多くの屋内コースが整備されたため、以前に比べるとトレーニングの質・量ともに充実したものとなっています。さらに、2歳春のトレーニングセールの普及に伴い、2歳の早い時期からハロン13秒程度で2ハロンほど走ることが求められるようになったため、トレーニングの進展度合いは以前と比較すると格段に進んでいるのが現状です。北海道の冬季期間における育成期のトレーニングは、前回紹介したエバンスの期分けでいうと既に第2段階(有酸素的なエネルギー供給能力と無酸素的なエネルギー供給能力の調和した向上を図ることを目的とした段階)に達しているといってよいでしょう。特に屋内坂路コースが導入されてからは、無酸素性のエネルギー供給を刺激できる強度の強いトレーニングも比較的容易にできるようになりました。

坂路の利用と反復トレーニング
 JRA育成馬が調教するBTC(軽種馬育成調教センター)の施設には、さまざまなコースがあり、屋内坂路コースもそのひとつです。コースの全長は1000mで主要な走路部分の傾斜は2~4%、途中3ハロンのタイムを自動計測できるようになっています。おおまかにいって、傾斜が1%増えると、同じスピードで走っているときの心拍数は4~5拍程度増えます。傾斜2~4%の坂路コースであれば、平地よりもハロンタイムで2~4秒ほど遅いスピードで同じ負荷をかけることができます。
 図2のグラフは、屋内坂路コースを反復間隔約10分で2本反復したときの心拍数変化を示します。1本目の3ハロンの平均タイムはハロン19秒で、そのときの心拍数は約200拍/分です。約10分の間隔をおいて同じように2本目もハロン19秒で走っています。心拍数は1本目とほぼ同じです。運動直後の血中乳酸濃度は約6ミリモルでした。この調教は、速いスピードを負荷することなく、十分な強度のトレーニングとなっています。

2_2図2:屋内坂路コースにおける反復トレーニング時の心拍数変化。反復の間隔は約10分で、心拍数はいずれも200拍/分程度。血中乳酸濃度は6ミリモルで、無酸素性のエネルギー供給を刺激する内容となっている。


 坂路コースを使った運動は1本の走行距離が決まっているため、過剰な負荷を避けることができるという利点があります。反復運動では、それぞれの走行の強度を変えたり、反復間隔を変えたりすることで、トレーニングに多様性を与えることができます。先の例で言えば、2本目を16秒くらいにすると、血中乳酸濃度は10ミリモルを超え、無酸素性のエネルギー供給を効率よく刺激することができます。現在のようなトレーニングメニューでトレーニングされた馬では、VO2maxは楽に160ミリリットルを越えるようになっています。 

(日高育成牧場 副場長  平賀 敦)

2019年2月11日 (月)

運動機能の発達様式(1):呼吸循環機能と有酸素運動能力の発達

No.41 (2011年10月1日号)

 サラブレッドは有酸素運動能力すなわち持久力が高い動物と考えられています。この有酸素運動能力のもっとも良い指標は最大酸素摂取量(VO2max)です。文字どおり、体内に摂取できる酸素(O2)の量つまり体内で消費できる酸素の量の最大値を示しています。通常は1分間あたり・体重1kgあたりに体内に酸素をどれだけ 取り入れることができるかで表され、数値が高いほど持久力が高いとみなされます。一般人は1分間あたり・体重1kgあたりでおよそ30ミリリットル(30ml/kg/min)であり、スタミナがあると考えられるマラソン選手は80ミリリットルくらいになります。これに対し、サラブレッドでは未調教の2歳馬でも130~140ミリリットル、よくトレーニングされた成馬では180ミリリットルを超えます。おそらく、現役の一流競走馬では200ミリリットルを超えるのではないかと考えられています。今回はサラブレッドの有酸素運動能力が育成期を通してどのように発達していくのか簡単にご紹介したいと思います。

放牧の影響
 1歳馬の放牧中の移動距離について調べた成績によると、7時間程度の昼間放牧では、移動距離は約5~7km、その内訳は常歩4~5km、速歩0.4~1km、駈歩1~2km程度でした。常歩で移動中(採食中)の心拍数は50~60 拍/分で、駈歩中には瞬間的に170~200 拍/分まで上昇します。また、17時間程度の昼夜放牧での移動距離は13~15kmで、そのうち約80%は採食しながらの移動であったことがわかっています。放牧中の移動の平均スピードは時速1km弱です。
 1歳馬の6月から9月にかけての放牧の前後で、VO2maxをトレッドミル運動負荷試験によって評価した成績によると、この時期には体重の増加、つまり成長に見合ったVO2maxの増加がおこることがわかっています。VO2maxは120~140ミリリットルであり、成長により急激に体重が増えると、見かけ上体重あたりのVO2maxが減少することもあるようです。

ブレーキングの影響
 ブレーキング期間中に行なわれる調馬索運動は速歩やスピードの遅い駈歩なので(図1)、心拍数は100拍/分~170拍/分程度で、運動強度は高いものではありません。また人が騎乗するようになっても運動自体は弱い運動といえます。ブレーキングの主目的は、あくまでも人が騎乗して運動できるようにすることですが、馬にとっては初めての強制運動、つまりトレーニングになっているのも事実です。持久力の指標であるVO2maxをブレーキングの前後で比較すると、ブレーキングによりVO2maxはブレーキング前の135から150ミリリットルにまで増加していました。VO2maxは、成馬においてもトレーニングの初期には強度の低い運動によっても増加するので、若馬の場合も最初のトレーニングとなるブレーキングは、強度は低くてもある程度のトレーニング効果を持つものと考えられます。

1 図1:円形の小馬場の中で、常歩・速歩・駈歩運動を行なう。左回り・右回りと入念に運動させる(調馬索運動)。

トレーニングの期分け
 シドニー大学のエバンスは競走馬のトレーニングを3段階に分けた考え方を提唱しました。彼は第1段階のトレーニングを耐久トレーニングと呼び、主目的を持久力の向上におきました。スピードは分速600m(ハロン20秒)以下とし、走行距離はできるだけ長距離としました。第2段階では、無酸素的なエネルギー供給を刺激するのを主目的に、有酸素的なエネルギー供給能力と無酸素的なエネルギー供給能力の調和した向上を図ることを目的においています。第3段階では、さらにトレーニングのスピードを上げ、加速も強化します。この段階は、いわば仕上げ期から競走期にあたります。育成期のトレーニングは、エバンスの期分けによると、概ね第1段階から第2段階の初期から中期にあたると考えられます。エバンスの考え方は基本的には正しいといえますが、耐久トレーニングを行なう際の走行距離や持続時間あるいはその期間については、トレーナーによっても相違があり、国や地域によっても異なっているようです。

耐久トレーニング
 育成期の初期に行なわれるトレーニングは必然的にスピードの遅い耐久トレーニングになっているのが普通です(図2)。運動強度としては、運動中の心拍数は170~180 拍/分程度で、高くても200 拍/分前後です。この程度の運動であれば、血中乳酸濃度は高くても2~3ミリモルで、少なくとも有酸素性のエネルギー供給主体のトレーニングになっています。

2 図2:JRA日高育成牧場の屋内坂路コース。以前は、屋内コースはなかったので、冬季間に強度の高いトレーニングを行なうことは難しかったが、最近では北海道には多くの屋内コースがある。

 2歳の1月下旬から4月にかけて、駈歩を含む一般的なトレーニングを行なった馬のVO2maxは150から165ミリリットルにまで増加しました。一方、同期間を速歩のみでトレーニングした馬ではVO2maxの増加は見られなかったものの、少なくとも減少することはありませんでした。また、同時期にスピードの遅い駈歩を長距離行なったグループと短距離行なったグループで比較すると、VO2maxには大きな差は認められませんでした。これらの結果から考えると、騎乗馴致中に行なわれる運動でいったん増加したVO2maxは、その後は弱い運動によっても維持されるようです。

次回続編をご紹介します。

(日高育成牧場 副場長  平賀 敦)

2019年1月28日 (月)

JRA育成馬の購買方法

No.36 (2011年7月15日号)

 JRAでは「強い馬づくり」すなわち、内国産馬の資質向上や生産・育成牧場の飼養管理技術向上に貢献することを目的に、育成研究業務を行っています。ここで得られた成果は、ブリーズアップセールで売却後の競走パフォーマンスにおいて検証された後、広く競馬サークルに普及・啓発することとしています。今回は、育成研究業務のアウトラインとJRA育成馬の購買について紹介いたします。

JRAの育成研究
1)初期・中期育成
 生産から初期、中期育成期においては、いまだに多くの課題が残され、国際競争力を持つ資質の高い馬づくりのためには、さらなる生産育成技術の向上が求められています。例えば、「繁殖牝馬の不受胎」や「受胎後の胚死滅」および「流死産等の予防」による生産率の向上、「競走成績に影響を及ぼすDOD(発育期整形外科疾患)の予防」、「寒冷地における効果的な冬季の放牧管理やウォーキングマシンを含めた運動方法の確立」等です。これらの課題に取組むため、10頭の繁殖牝馬とJRAホームブレッド(生産馬)を活用しています。

1 冬季に昼夜放牧を行う1歳馬。わが国の気候に適した初期育成管理方法の開発が求められている。

2)後期育成
 JRAはこれまで、各種講習会の開催、『JRA育成牧場管理指針』の配布、BTCおよびJBBAの人材養成をはじめとした各種外部研修生の受け入れ等の活動によって、「昼夜放牧の普及」、「安全なブレーキング技術の導入」、「市場上場馬の展示方法の改善」、「若馬に対する坂路調教の応用」等、生産育成技術の向上に努めてきました。その結果、わが国の後期育成技術は飛躍的に向上し、レベルアップした競走馬の血統的資質や能力を十分に引き出すことができるようになっています。
 最近は、繁殖牝馬の受胎率向上に関する研究を応用した「若馬に対するライトコントロール法の応用」や効率的な栄養摂取を目的とした「オールインワン飼料の開発」さらには、1歳市場で購買した馬の「四肢X線所見や内視鏡検査と競走成績との関連」に関して抽せん馬時代から積み重ねてきた研究をとりまとめ、購買者がセリでレポジトリー情報を活用するための参考となる研究にも取組んでいます。後期育成に関する研究は1歳市場で購買した80頭程度の育成馬と生産した10頭以内のJRAホームブレッドを活用しています。

育成馬購買にいたるまで
 JRAが1歳市場で購買する馬は、育成研究、技術開発や人材養成を行ううえで、育成期間に順調に調教を行うことができることが必要です。購買に際しては、発育の状態が良好で、大きな損徴や疾病がなく、アスリートとして適切な動きをする馬を選別するようにしています。

1) 購買検査
 JRA育成馬の購買は複数名のチームで実施しています。チームには、競走馬の臨床経験が豊富な獣医・装蹄職員が含まれており、お互いに意見交換を行いながら候補馬を選定します。購買検査では、まず外貌を観察します。その際、蹄の状態を観察することができるよう、砂や芝生の上ではなく、平坦な場所で実施します。その後、馬の動きを観察するため、前望や後望から常歩で歩様を確認します。

2 せり会場での歩様検査

 一般的なセリに上場される1歳馬は、約2ヶ月間、十分な常歩運動を行うことで体を作ります。人手をかけずに体力をつけるためには、ウォーキングマシンでの運動は効果的です。しかし、セリで馬をよく見せるためには、引き馬での運動が不可欠です。つまり、行儀よく躾けられており、また、人の指示によってキビキビと歩く馬は、購買者から好感を持たれるとともに、購買後も騎乗馴致へとスムーズに移行することができます。「セリ馴致」と呼ばれるこのようなコンサイニング技術は、年々向上しています。
 HBAサマーセールは5日間で1200頭以上が上場されます。一日あたり250頭程度上場されるので、セリ当日は検査をする時間が十分ありません。したがって、JRAでは、事前に5頭以上繋養しているコンサイナーに預けられた馬を事前に牧場で検査しています。半分以上にあたる約600~700頭の事前検査を行っているので、セリ当日はコンサイナーで見ていない馬を中心に、十分に時間をかけて検査しています。

2) レポジトリー検査結果の確認
 セリ会場においてすべての馬を検査した後、候補馬のレポジトリーを確認し最終的な合格馬を選定します。ここでは、JRAで行っているレポジトリーのチェックポイントについてご説明します。
X線所見は、球節、腕節、飛節などの関節内に骨片やOCDによる軟骨片が遊離していないか、また、骨膜炎などの像がないか、を確認します。これまでの調査では約10%の馬にこのような所見が見られますが、これらは新しい所見ではなく、また、ほとんどが競走能力に影響を及ぼしません。しかし、このような所見がレポジトリーで見られた場合、再度、実馬を確認し、関節の腫脹、発熱、疼痛および跛行など、症状の有無を確認します。もし、このような臨床症状が見られる場合、慎重に購買を判断する必要があります。
 前肢の近位種子骨の状態も観察します。JRAでは、線状陰影の本数やその幅、形状によって種子骨をグレード分けして判定しています。種子骨の状態と競走能力との関連はありませんが、グレードの高い馬は靭帯炎を発症するリスクが高いことも分かっているので、このような馬を購買した場合、飼養管理や調教で注意をする必要があります。

3 種子骨のグレード評価とその保有率を示す。

 安静時の上気道(ノド)内視鏡所見では、若馬は喉頭蓋が薄く小さな形状をしているのが普通です。中には、調教中、ゴロゴロという呼吸音が特徴的なDDSPを発症する馬も見られますが、ほとんどが成長に伴い良化します。もっとも注意が必要なのは、ヒーヒーという吸気時に音を発する喘鳴症と関連がある喉頭片麻痺(LH:披裂軟骨が下垂)の所見です。JRAの調査によると、健康な1歳馬のうち16%の馬がG(グレード)1以上の所見を有することがわかっており、G2までは競走成績との関連はありません。披裂軟骨がまったく動かないG3では手術が必要です。なお、G0やG1でも喘鳴症の症状を呈する馬がまれにみられますが、咽頭虚脱など特別な疾病でなければ競走能力に影響はありません。

4 左が正常な内視鏡像。右は喉頭片麻痺(LH)G1以上の所見。

5 左がG1、右がG2の所見およびその保有率を示す。吸気時に左披裂軟骨がどの程度動くかによってグレード分けを行うが、いずれも競走能力に影響はない。

6 手術が必要なG3の症例、保有率は1%未満

 完璧な体型の馬はいないのと同様、レポジトリー所見をみるとなんらかの異常がみられるものです。現在、JRAでは生まれてから成馬になるまでの経時的な種子骨やノドの発育過程を観察することにより、より詳細な調査を行っているところです。これらの成績についてはまとまり次第、さまざまな場面を活用して紹介いたします。

  (日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

2019年1月23日 (水)

子馬の発育期整形外科疾患(DOD)

No.35 (2011年7月1日号)

成長期の骨や腱などにみられる病気
 サラブレッドが最も成長する時期は、誕生してから離乳するまでの期間です。健康な子馬の誕生時の体重は50~60kgですが、離乳が行われる6ヶ月齢頃には約250kgにまで増加します。成馬になったときの体重を仮に500kgとすると、出生時には成馬の体重の10%程度でしかないのに、わずか半年間で成馬の体重の50%にまで急成長することになるのです。このような急激な成長をみせるサラブレッドの子馬の骨や腱などに、この時期に特有の疾患を引き起こすことがあり、このような疾患を総じて発育期整形外科的疾患(DOD:Developmental Orthopaedic Disease)と呼んでいます。

DODには、どんな疾患があるの?
 DODの代表的な疾患には、離断性骨軟骨症(OCD)、骨軟骨症(骨嚢胞)、骨端炎、肢軸異常、ウォブラー症候群などがあります。これらの疾病の発症要因は、まだ十分に特定されていない部分も多いが、一般的に考えられているものとして遺伝的要因、急速な成長やバランスの悪い給餌(栄養)、解剖学的な構造特性、運動の過不足、放牧地の硬さなどが挙げられます。一方、近年の研究では、遺伝との関連が強く、競走能力向上のための遺伝的選抜はDOD発症率の低下と相反するものであるため、DOD発症率は増加傾向にあるばかりでなく、撲滅することは不可能であるとさえ考えられています。したがって、飼養管理方法を適切なものとし、発症した場合は軽度のうちに適切な処置を施すことが重要と考えられています。ここでは、DODの代表的な疾患である「骨端炎」と「離断性骨軟骨症」、さらに生産者を悩ますことの多い肢軸異常の中から「クラブフット」について、その病態と発生要因、対策などについて紹介します。

骨端炎
 子馬の骨のレントゲン写真をみると、骨の両端部分には隙間が写っているのが分かります(図1)。この隙間が骨端板と呼ばれる部分で、まさに骨が成長している場所になります。この骨端板は軟骨からできているため、ストレスに弱く、過度の負荷がかかると炎症が起きてしまいます。骨端板は馬の成長に伴い、肢の下の部分から閉鎖していきますが、生後2~4ヵ月齢の子馬が最も影響を受けやすいのが管骨遠位(球節の上)の骨端板になります。この部分の骨端板に炎症が生じると、球節はスクエア(四角)状になり、歩様も硬くなり、繋が起ってきてしまいます。次第に腱の拘縮が起こると、後述するクラブフット発症の要因になるとも考えられています。有効な治療法としては抗炎症剤の投与がありますが、根本的には痛みの原因となる要因を考え、取り除くことが重要になります。また、体重増加が大きい子馬に発症しやすいことが認められているため、母馬の飼料を食べていないかどうか、あるいは放牧地の硬さや放牧時間などをもう一度、見直してみる必要があります(図2)。

1_7 図1 球節の骨端板の位置(左写真:矢印)と骨端炎発症馬のスクエア状の球節(右写真)。
レントゲンで透けて見える骨端板は骨が盛んに成長している大事な部分であり、ストレスに弱い部分でもある。

2_5 図2 母馬について走り回る子馬
活発な母馬について走り回る子馬の運動量は母馬以上になり、骨端板に炎症を起こすこともある。

離断性骨軟骨症(OCD:Osteochondrosis Dissecans)
 OCDは関節軟骨の発育過程の異常で壊死した骨軟骨片が剥離するために生じる病変です。飛節や膝関節や肩甲関節、球節はこの疾患の好発部位となります(図3)。飛節部のOCDは軟腫や跛行の原因となることもあります。しかし、臨床症状がない場合は手術の必要はなく、大きな骨片は関節鏡手術により除去することで予後は良好です。大抵の馬は、その成長過程のある時期に、一つあるいは複数のOCDを持っている可能性があり、多くの場合は競走能力には影響がないといわれています。飼養者はOCDの存在部位や大きさ、調教や競走において問題につながる可能性があるのかどうかなどの情報を予め知っておくことが重要であると思われます。

3_3 図3 飛節関節内の脛骨中間稜に認めたOCD症例

12カ月齢の定期レントゲン検査で発見したOCD病変をCTスキャン検査で3次元解析すると、小さな骨片が関節内に遊離しかけている様子が確認できる。

クラブフット
 クラブフットとは、後天的に深屈腱が拘縮することによって蹄関節が屈曲した状態で、外見上ゴルフクラブのように見えることから、このような名称で呼ばれている肢軸異常の1つです。生後3ヶ月齢ころの子馬に多く発症し、特徴的な肢軸の前方破折、蹄冠部の膨隆、蹄尖部の凹湾、蹄輪幅の増大や正常蹄との蹄角度の差などの症状により4段階にグレード分けされています(図4)。

4_2 図4 クラブフットのグレード(Dr. Reddenの分類から)
グレード1…蹄角度は、正常な対側肢よりも3~5度高い。蹄冠部の特徴的な膨隆は冠骨と蹄骨の間の部分的な脱臼に起因する。
グレード2…蹄角度は、正常な対側肢よりも5~8度高い。蹄踵部に幅の広い蹄輪幅を認める。通常の削蹄により蹄踵が接地しなくなる。
グレード3…蹄尖部の凹湾。蹄輪幅は蹄踵部で2倍。レントゲン画像上、蹄骨辺縁のリッピングが認められる。
グレード4…蹄壁は重度に凹湾し、蹄角度は80度以上となる。蹄冠の位置は踵や蹄尖と同じとなり、蹄底の膨隆を認められる。レントゲン画像上、蹄骨は石灰化の進行により円形に変形し、ローテーションも起こる。


 原因としては「疼痛」が挙げられています。子馬は骨や筋肉が未発達なため、上腕、肩部、球節あるいは蹄などに痛みがあると、これを和らげるために筋肉を緊張させます。特に球節の骨端炎や蹄内部に疼痛がある場合、負重を避けるために関節を屈曲させ、その結果、深屈腱支持靭帯が弛緩します。この状態が一定期間続くと、深屈腱支持靭帯の伸展する機能が低下し、廃用萎縮の状態となり、疼痛が消失しても深屈腱支持靭帯の拘縮が残り、クラブフットを発症すると考えられています。
 一方で、必ずしも疼痛を伴わずにクラブフットを発症することもあることから、疼痛以外の原因もいくつか考えられます。たとえば、採食姿勢もそのひとつです。子馬の四肢は首の長さに比較して長いため、放牧地で牧草を食べる時には、極端に大きく前肢を前後に開く姿勢をとる様子が頻繁に認められます(図5)。この時、後ろに引いた蹄の重心は前方に移動することから、蹄尖部は加重により蹄がつぶれ、蹄踵部は加重が軽減することにより蹄が伸びやすくなり、これが蹄壁角度の増加を助長すると考えられます。どちらの肢を前に出すかは子馬ごとに癖があることが調査の結果分かってきました。1日の大半を放牧地で過ごす子馬の採草姿勢とクラブフット発症との関連性が解明されつつあります。

5 図5 子馬の採食姿勢
子馬の四肢は首の長さに比較して長いため、前後に大きく開いて採食する。どちらの肢を前に出すかは馬によって癖があり、常に後ろに引かれている蹄の重心は前方に移動し、蹄角度が増加する一要因になると考えられる。

軽種馬生産・育成技術の向上を目指して
 現在、JRA 日高育成牧場では、軽種馬生産や育成管理技術の向上を目指して、軽種馬生産者、獣医師、装蹄師、栄養管理者が情報交換しながらDODや肢勢異常に関する調査研究に取り組んでいます。これらから得られる成績は研修会などの場で紹介していきたいと思います。


(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤文夫)

2018年12月26日 (水)

当歳馬の冬期の管理について

No.21 (2010年11月15日号)

 厳しい冬が目前にやってきました。冬は、放牧草の消失と放牧地での運動量低下による飼養管理方法の変更が余儀なくされます。特に、成長期にある当歳にとって、この変化は大きな意味を持ちます。今回は、当歳馬の冬期の飼養管理の課題とその対策について紹介します。


冬期には維持エネルギー要求量が増大
 馬は、気温の低下に対しては、ある程度の適応力を有しているといわれています。家畜化された馬が屋外で快適に過ごせる限界温度は、‐1から‐9℃まで幅広い範囲の報告があり、また、北海道の気候に似たカナダで実施された研究では、‐15℃までは馬服やシェルターがなくても、夜間も屋外で問題なく過ごすことができると報告されています。
 馬は、氷点下を下回るような冬期の寒冷に対しては、耐寒のための維持エネルギー要求量が増加します。この増加分を乾草の採食量を増加させることによって、補うことが推奨されています。これは、乾草などに多く含まれる繊維は、微生物によって盲腸と結腸で分解され、この分解時に熱が発生し体内を温める効果があるからです。気温が0℃から5℃ずつ低下するごとに、1kgの乾草の増給が必要であるとされています。
 帯広畜産大学で実施された研究では、気温の低下に対して、北海道和種や半血種では安静時の代謝量を増加させずに、皮下脂肪を蓄えることによって適応するのに対して、サラブレッド種は皮下脂肪が少なく、安静時の代謝量を増加させることによって適応すると報告されています。つまり、耐寒のための維持エネルギー要求量の増加を補うために、OCDなどの発症を誘発する恐れのある濃厚飼料を過剰給与するのではなく、良質な乾草などの粗飼料を給与することが非常に重要になると考えられます。

冬期の当歳馬の成長
 日高地方の当歳~1歳馬の12月~2月までの増体量は、その前後と比較して、停滞することが分かっています(図1)。日高育成牧場と宮崎育成牧場における1歳~2歳にかけての冬期の発育の比較において、日高では当歳馬と同様に発育の停滞が認められますが、温暖な宮崎では認められません。しかし、競走馬になってからの体重に差異は認められないことから、日高地方における厳冬期の一時的な発育の停滞は、長期的には問題となることはないと考えられます。すなわち、冬期における発育の停滞は、生理的なものであり、むしろ、この冬期の停滞を改善しようとする濃厚飼料の過剰なエネルギー給与は、OCDなどの発症を誘発する可能性があるので注意が必要といえます。また、冬期の発育の停滞以上に、青草が生え始める春期になってからの、成長のリバウンド(代償的成長)が大きくなりすぎないような注意も必要です。

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図1.生まれ月別の子馬の増体曲線


冬期の当歳馬への乾草の給与
 前述のとおり、冬期の当歳馬への給餌は、穀類主体の濃厚飼料よりも牧草のような繊維質が豊富な粗飼料の給餌が非常に重要です。当然、良質な乾草の給与は不可欠であり、さらにミネラルバランスを考慮すると、チモシーなどのイネ科の乾草に加え、マメ科のルーサンも給与することが推奨されます。一方、冬期には、低水分ラップサイレージの給餌も可能となります。冬期の昼夜放牧時に、ラップサイレージとロール乾草とを2つ並べて設置し、どちらを好んで食するかを試したところ、圧倒的にラップサイレージを好んで食べました(写真1)。また、ラップサイレージとロール乾草を交代で、どちらかを1ロールずつ設置したところ、ラップサイレージでは1ロールが5日間で食べ尽されたのに対して、ロール乾草は食べ尽されるのに7日間を要し、ラップサイレージを給餌することによって、採食量は約1.5倍に増加しました。しかしながら、ラップサイレージは、ヒートダメージ(発酵過程で空気と接触することにより好気発酵、品温上昇がすすみ、その結果、品質が低下する現象)や、下痢や呼吸器症状を引き起こす可能性もあるので、注意が必要です。

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写真1 同時期に設置したラップサイレージ(左)とロール乾草(右)。
圧倒的にラップサイレージが好まれる。

ビートパルプの給餌
 ビートパルプは、甜菜から砂糖を抽出したあとに残る副産物です。非常に消化の良い、高繊維質、低炭水化物飼料であり、さらに単位重量あたりで比較すると、エンバクと同程度の可消化エネルギーを含有するため「スーパー繊維飼料」と呼ばれています。また、馬の嗜好性は良く、カルシウムやマグネシウム含量は比較的高くタンパク含量も乾草と同程度であるが、リンやビタミン類は低くなっています。そのために、耐寒のための維持エネルギー量要求量の増加を補うための飼料として強く推奨されます。ただし、乾燥したままで摂取させると胃内で膨張するため、安全を考慮し半日前から水分を含ませておいて給与しなければなりません。


冬期の運動について
 日高地方では、冬期には、放牧地の地面が雪で覆われさらに凍結するために、十分な運動ができなくなります。そのために、この冬期間に、どのようにして運動をさせるか、という点が課題となっています。
 厳冬期に昼夜放牧を実施した時の放牧地での移動距離は、日中が2.5km、夜間が4.5km、合計7kmであり、夏~秋期と比較して半分程度に減少しました。しかし、自発的な運動を促すために、放牧地の隅にルーサン乾草を1日に2回置くことによって、移動距離は10 kmにまで増えることが観察されました(写真2)。
 一方、ウォーキングマシンの使用も、冬期に運動を課するには、非常に有効な方法であり、6km/hで1時間実施することによって、6kmもの常歩運動を課することができます。しかし、半日かけて移動する距離を1時間で強制的に運動させるべきなのか、また、成長過程にある当歳馬にとって、ウォーキングマシンでの強制運動は問題がないのか、などの課題も残っています。

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写真2 放牧地の隅にルーサン乾草を置くと、馬はルーサンを探して放牧地を歩き回ります。

最後に
 今後も、「強い馬づくり」に役立つように、これらの日高地方における冬期の管理の課題について、さらに調査・研究を行っていきたいと思っています。

(日高育成牧場 専門役 頃末 憲治)

2018年11月17日 (土)

JRAブリーズアップセールの取組み

No.7 (2010年4月15日号)

 来たる4月26日(月)、中山競馬場で2010 JRAブリーズアップセールを開催いたします。本年も多くの皆さまのご来場をお待ち申し上げております。今回は、JRAが実施する育成業務の役割とJRAブリーズアップセールの取組みについて紹介したいと思います。

JRA育成業務の役割
 JRAでは、各地で開催されるサラブレッド市場で購買した1歳馬を、日高・宮崎の両育成牧場で育成・調教したのち、2歳の春に売却しています。その目的は、「強い馬づくり」に資するため、これらのJRA育成馬を用い、1歳夏から2歳春の後期育成期の調査研究や技術開発を実施し、競走裡で検証して成果を普及することです。これまでの成果として、“昼夜放牧の普及”、“海外からの人馬に安全なブレーキング(騎乗馴致)技術の導入”および“若馬に対する早期からのトレーニング方法”などがあげられます。
 

 また、生産育成研究室では平成10年秋から生産に関する研究を実施していますが、生産から中期育成期には“早期胚死滅”や“DOD(発育期整形外科疾患)”など、多くの課題が残されていることから、昨年誕生した産駒からはJRA育成馬として、 “胎子期~1歳夏までの期間の適切な飼養管理”に関する研究を進めているところです。彼らは、離乳後は厳寒期を通して昼夜放牧で管理されており、今後、秋には騎乗馴致を行い、来年のブリーズアップセール上場を目指しています。

 さらに、BTC(軽種馬育成調教センター)生徒やJRA競馬学校騎手課程生徒に対する人材養成にもJRA育成馬を活用しています。この実践研修の一環として、騎手課程生徒は、多くの馬主や調教師の見守る中、JRAブリーズアップセールの調教供覧で騎乗することになっています。

JRAブリーズアップセールの取組み
 JRAでは、ブリーズアップセールを育成研究に用いたJRA育成馬の売却の場としてだけでなく、新規に免許を取得された馬主を始めとして、セリでの購買に慣れていない馬主の方が、本セールをきっかけに、他の多くの市場へ興味を拡げていただけるような“入門編のセール”と位置づけて、以下のような取り組みを実施しています。

① セリ情報の早期発信
 最近はどの市場でも普通に行われるようになりましたが、“インターネット上での馬体写真カタログ”、“調教VTR”や“個体情報”などのセリ情報をいち早く発信しています。また、ブリーズアップセールや他の市場で馬を購買した方が、預託調教師を選択する際の参考として役立つよう、「調教師プロフィール」を改定し、中央競馬全馬主の皆さまに送付いたしました。

② 徹底した情報開示
 近年、海外のみならず国内の一部市場においてもレポジトリールーム(医療情報開示室)で、四肢のX線写真や上気道(ノド)の内視鏡動画といった医療情報を見ることができるようになりました。JRAブリーズアップセールでは、わが国で最初に医療情報を開示するとともに、これまで10年以上にわたって、JRA育成馬における4肢X線写真や内視鏡所見と競走成績との関連について積み重ねてきた研究をもとに、JRAの考えるレポジトリーの見方についてまとめました。今後はせり主催者、販売者および購買者がレポジトリーの共通認識を持てるように、育成馬展示会やブリーズアップセール等を通じて、普及活動を実施していきたいと考えています。

 JRAブリーズアップセールでは、レポジトリー情報に加えて、個体別の調教履歴、馬体重の推移、疾病歴等の情報も公表しています。これは、馬主の皆さまが、公表事項を納得、安心して購買いただくとともに、預託を受けた調教師がトレセン入厩後に調教や管理の引継ぎをスムーズに行えることを目的としています。

 今後、OCD(離断性骨軟骨症)の発症や治療歴および育成期の屈腱の形状と競走成績の関連等の課題についても、JRA育成馬を用いて引き続き調査研究を行っていく予定です。

③ リーズナブルな価格設定と台付けの事前公表
 最終的な落札価格は、馬の資質と市場の雰囲気によって決定されるものですが、多くの皆さまにセリに参加していただき、気に入った馬に一声でも声をおかけいただきたいと願っています。JRAブリーズアップセールではそのような観点から、来場された購買者の皆さまが一声をかけやすいようリーズナブルな台付け価格を設定しています。また、ご予算に応じた購買馬の選定が容易となるように、事前(当日朝)に台付け価格を公表しています。


 このようにブリーズアップセールは、来場された皆さまがセリを楽しんでいただけるよう、皆さまの信頼を失わないようセリ運営に取組んでおります。また、5月から行われる民間の2歳トレーニングセールや夏の1歳市場の主催者ブースを設ける予定です。JRAはブリーズアップセールの来場をきっかけとして、一人でも多くのお客さまが“セリで馬を買おう”という雰囲気になっていただけることを願っています。

(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

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