« BTCと軽種馬育成調教場-BTC20周年によせて- | メイン | JRA育成馬の購買方法 »

2019年1月23日 (水)

子馬の発育期整形外科疾患(DOD)

No.35 (2011年7月1日号)

成長期の骨や腱などにみられる病気
 サラブレッドが最も成長する時期は、誕生してから離乳するまでの期間です。健康な子馬の誕生時の体重は50~60kgですが、離乳が行われる6ヶ月齢頃には約250kgにまで増加します。成馬になったときの体重を仮に500kgとすると、出生時には成馬の体重の10%程度でしかないのに、わずか半年間で成馬の体重の50%にまで急成長することになるのです。このような急激な成長をみせるサラブレッドの子馬の骨や腱などに、この時期に特有の疾患を引き起こすことがあり、このような疾患を総じて発育期整形外科的疾患(DOD:Developmental Orthopaedic Disease)と呼んでいます。

DODには、どんな疾患があるの?
 DODの代表的な疾患には、離断性骨軟骨症(OCD)、骨軟骨症(骨嚢胞)、骨端炎、肢軸異常、ウォブラー症候群などがあります。これらの疾病の発症要因は、まだ十分に特定されていない部分も多いが、一般的に考えられているものとして遺伝的要因、急速な成長やバランスの悪い給餌(栄養)、解剖学的な構造特性、運動の過不足、放牧地の硬さなどが挙げられます。一方、近年の研究では、遺伝との関連が強く、競走能力向上のための遺伝的選抜はDOD発症率の低下と相反するものであるため、DOD発症率は増加傾向にあるばかりでなく、撲滅することは不可能であるとさえ考えられています。したがって、飼養管理方法を適切なものとし、発症した場合は軽度のうちに適切な処置を施すことが重要と考えられています。ここでは、DODの代表的な疾患である「骨端炎」と「離断性骨軟骨症」、さらに生産者を悩ますことの多い肢軸異常の中から「クラブフット」について、その病態と発生要因、対策などについて紹介します。

骨端炎
 子馬の骨のレントゲン写真をみると、骨の両端部分には隙間が写っているのが分かります(図1)。この隙間が骨端板と呼ばれる部分で、まさに骨が成長している場所になります。この骨端板は軟骨からできているため、ストレスに弱く、過度の負荷がかかると炎症が起きてしまいます。骨端板は馬の成長に伴い、肢の下の部分から閉鎖していきますが、生後2~4ヵ月齢の子馬が最も影響を受けやすいのが管骨遠位(球節の上)の骨端板になります。この部分の骨端板に炎症が生じると、球節はスクエア(四角)状になり、歩様も硬くなり、繋が起ってきてしまいます。次第に腱の拘縮が起こると、後述するクラブフット発症の要因になるとも考えられています。有効な治療法としては抗炎症剤の投与がありますが、根本的には痛みの原因となる要因を考え、取り除くことが重要になります。また、体重増加が大きい子馬に発症しやすいことが認められているため、母馬の飼料を食べていないかどうか、あるいは放牧地の硬さや放牧時間などをもう一度、見直してみる必要があります(図2)。

1_7 図1 球節の骨端板の位置(左写真:矢印)と骨端炎発症馬のスクエア状の球節(右写真)。
レントゲンで透けて見える骨端板は骨が盛んに成長している大事な部分であり、ストレスに弱い部分でもある。

2_5 図2 母馬について走り回る子馬
活発な母馬について走り回る子馬の運動量は母馬以上になり、骨端板に炎症を起こすこともある。

離断性骨軟骨症(OCD:Osteochondrosis Dissecans)
 OCDは関節軟骨の発育過程の異常で壊死した骨軟骨片が剥離するために生じる病変です。飛節や膝関節や肩甲関節、球節はこの疾患の好発部位となります(図3)。飛節部のOCDは軟腫や跛行の原因となることもあります。しかし、臨床症状がない場合は手術の必要はなく、大きな骨片は関節鏡手術により除去することで予後は良好です。大抵の馬は、その成長過程のある時期に、一つあるいは複数のOCDを持っている可能性があり、多くの場合は競走能力には影響がないといわれています。飼養者はOCDの存在部位や大きさ、調教や競走において問題につながる可能性があるのかどうかなどの情報を予め知っておくことが重要であると思われます。

3_3 図3 飛節関節内の脛骨中間稜に認めたOCD症例

12カ月齢の定期レントゲン検査で発見したOCD病変をCTスキャン検査で3次元解析すると、小さな骨片が関節内に遊離しかけている様子が確認できる。

クラブフット
 クラブフットとは、後天的に深屈腱が拘縮することによって蹄関節が屈曲した状態で、外見上ゴルフクラブのように見えることから、このような名称で呼ばれている肢軸異常の1つです。生後3ヶ月齢ころの子馬に多く発症し、特徴的な肢軸の前方破折、蹄冠部の膨隆、蹄尖部の凹湾、蹄輪幅の増大や正常蹄との蹄角度の差などの症状により4段階にグレード分けされています(図4)。

4_2 図4 クラブフットのグレード(Dr. Reddenの分類から)
グレード1…蹄角度は、正常な対側肢よりも3~5度高い。蹄冠部の特徴的な膨隆は冠骨と蹄骨の間の部分的な脱臼に起因する。
グレード2…蹄角度は、正常な対側肢よりも5~8度高い。蹄踵部に幅の広い蹄輪幅を認める。通常の削蹄により蹄踵が接地しなくなる。
グレード3…蹄尖部の凹湾。蹄輪幅は蹄踵部で2倍。レントゲン画像上、蹄骨辺縁のリッピングが認められる。
グレード4…蹄壁は重度に凹湾し、蹄角度は80度以上となる。蹄冠の位置は踵や蹄尖と同じとなり、蹄底の膨隆を認められる。レントゲン画像上、蹄骨は石灰化の進行により円形に変形し、ローテーションも起こる。


 原因としては「疼痛」が挙げられています。子馬は骨や筋肉が未発達なため、上腕、肩部、球節あるいは蹄などに痛みがあると、これを和らげるために筋肉を緊張させます。特に球節の骨端炎や蹄内部に疼痛がある場合、負重を避けるために関節を屈曲させ、その結果、深屈腱支持靭帯が弛緩します。この状態が一定期間続くと、深屈腱支持靭帯の伸展する機能が低下し、廃用萎縮の状態となり、疼痛が消失しても深屈腱支持靭帯の拘縮が残り、クラブフットを発症すると考えられています。
 一方で、必ずしも疼痛を伴わずにクラブフットを発症することもあることから、疼痛以外の原因もいくつか考えられます。たとえば、採食姿勢もそのひとつです。子馬の四肢は首の長さに比較して長いため、放牧地で牧草を食べる時には、極端に大きく前肢を前後に開く姿勢をとる様子が頻繁に認められます(図5)。この時、後ろに引いた蹄の重心は前方に移動することから、蹄尖部は加重により蹄がつぶれ、蹄踵部は加重が軽減することにより蹄が伸びやすくなり、これが蹄壁角度の増加を助長すると考えられます。どちらの肢を前に出すかは子馬ごとに癖があることが調査の結果分かってきました。1日の大半を放牧地で過ごす子馬の採草姿勢とクラブフット発症との関連性が解明されつつあります。

5 図5 子馬の採食姿勢
子馬の四肢は首の長さに比較して長いため、前後に大きく開いて採食する。どちらの肢を前に出すかは馬によって癖があり、常に後ろに引かれている蹄の重心は前方に移動し、蹄角度が増加する一要因になると考えられる。

軽種馬生産・育成技術の向上を目指して
 現在、JRA 日高育成牧場では、軽種馬生産や育成管理技術の向上を目指して、軽種馬生産者、獣医師、装蹄師、栄養管理者が情報交換しながらDODや肢勢異常に関する調査研究に取り組んでいます。これらから得られる成績は研修会などの場で紹介していきたいと思います。


(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤文夫)

コメント

この記事へのコメントは終了しました。